お久しぶりです。そうでない人は初めまして。
以前このBBSで、以下のSSを投稿させてもらった者です。
【SS】ハッピーシュガーライフ×きららファンタジア
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=775&ukey=0&log=past
【SS】小鳥と不死鳥と(機動戦士ガンダムNT×アニマエール)
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=1471&ukey=0&log=past
最初に投稿したSSを基に、ハピシュガの人というコテハンを使いたいと思います。
今回は、昨年アニメが放送され、現在アプリゲームが配信中のアサルトリリィときらファンのクロスSSを書きました。
今回は10万3千字ほどの文章を、何回かに分けて投稿したいと思います。
全15章分、お付き合いのほどよろしくお願いします。
今回はさっそく、第1章と2章を投稿します。
第1章 サクラソウ(憧れ)
文芳社女子まんが家寮。
草木も眠るこの時間、かおすこと萌田薫子はテレビの前に鎮座していた。
その後ろには、まんが家仲間こと、小夢、琉姫、翼が座っている。
かおす「ああ、放送までの時間が長い・・・」
小夢「分かるよ〜。楽しみな事って、そこまでの時間が凄く長く感じるよね」
琉姫「今日は確か、ずっと楽しみにしていたアニメが放送されるんだっけ?」
かおす「はい!おかげで昨日から寝不足です!!」
翼「遠足に行く前の小学生みたいだな・・・」
今日はかおすが楽しみにしていたアニメの放送日である。
このアニメ・・・、もといコンテンツを、かおすは今日この日まで追い続けていたのだ。
その手には一体の可愛らしいドールが握られている。
小夢「“その娘”が、かおすちゃんのお気に入りなんだっけ?」
その問いかけに、彼女はこくりと頷く。
かおす「なけなしのお金を集めて、“この娘”のドールだけは手に入れたんです。本当は全員揃えられると良かったんですが・・・」
翼「桜色の髪が可愛いよね、そのドール」
琉姫「ねぇ、前から思っていたんだけど、その娘どことなく・・・」
かおす「にょわああああ!!!」
翼「かおす、声抑えて!」
琉姫「深夜!深夜よ!」
かおす「あ、す、すみません・・・」
小夢「あはは、ほら気を取り直して見よう?」
かおす「・・・はい!」
画面の中で少女がうずくまっている。それは紛れもなく、かおすが手にしたドールの娘だ。
少女の眼前には、無機質さを帯びた怪物が迫っていた。
冒頭から緊迫感溢れる映像が流れ、四人は固唾を呑んでその様子を見守る。
そして、怪物と戦うまた別の少女がそこにはいた。
黒い髪をたなびかせた彼女は、手にしたその武器で怪物を切り刻んでいく。その強さに、その動きに、そして何よりも、その麗しさに、逃げていた少女の、そして四人の目が釘付けになる。
やがて場面が切り替わり、アップテンポのOPが流れ始め、タイトルロゴが表示された。
『アサルトリリィ BOUQUET』と・・・。
放送が終わると、そこには惚けた表情の4人がいた。
琉姫「・・・思った以上に凄かったわね」
翼「戦闘シーンが尋常じゃないレベルで動いていた。今度描く漫画の参考にしたいな」
小夢「女の子同士の憧れ、そして恋、か・・・」
かおす「・・・」
翼「おーい、かおす。戻ってこーい」
かおす「・・・はっ!?感激のあまり意識が向こうに飛んでいました・・・」
小夢「でも実際すごかったよね〜」
かおす「はいそれはもう!冒頭の甲州撤退戦から始まり、梨璃さんと夢結様の出会いを映像として綿密に描くことで、梨璃さんがリリィとして戦う動機を視聴者にも分かりやすく伝えると共に、夢結様の悲しい変化を匂わせるという見事な構成で、そしてその後のヌーベルさんに関しても舞台や小説とあれ?性格が違う?と思わせてからの・・・」
琉姫「ストップストップ。それでそのドールの娘が、主人公の一柳 梨璃(ひとつやなぎ りり)ちゃんなのよね?」
かおす「・・・はい。一途で頑張り屋で、どんなことがあっても前に進もうとする、私の憧れの方なんです」
かおすは、そのドールを胸にギュッと抱きしめて答えた。
かおす「私はいつも臆病で、つまずきそうになって・・・。だから困難や悲しい出来事を前に挫けそうになっても、それでも立ち上がる梨璃さんのようになりたいなって、そう思うんです」
アサルトリリィ。
元はドールの企画から始まった、一連のメディアミックスプロジェクトの総称である。
かいつまんで言うのならば、巨大な怪物に対し、特別な力を持った少女達が立ち向かう・・・、という物語群であり、そういう意味では、どこかで聞いたことのあるような話である。
だが、独特の雰囲気をもっていたそれは、やがては小説、舞台、漫画、そしてアニメと展開を広げていった。アニメ放映後にはソーシャルゲームも配信予定である。
実際、ドールとして売り出すことを前提とした登場人物たちは皆愛らしく、手にした武器とのギャップがまたそれを後押ししている。そして、そんな彼女たちが友情を越えて親密な関係を結ぶとなれば、一定数のファンを獲得するのにそう時間はかからないであろう。
ここにいる萌田薫子もまた、そんな人間の一人であった。
琉姫「でもね、かおす。私言いかけていたことがあったんだけど」
かおす「はい、なんでしょうか?」
琉姫「梨璃ちゃんって、どことなくかおすちゃんに似てない?」
一瞬の沈黙の後、かおすがそれを全力で否定しにかかる。
かおす「そそそそんなこと絶対ありませんよ!!だってこんなヘッポコの私と梨璃さんとでは月とすっぽん、猫に小判で・・・」
翼「つきとすっぽんはともかく、猫に小判はこの場合違うような」
小夢「うーん、でも分かるような気もするなあ」
かおす「ほぇ!?」
小夢「だって、かおすちゃんも何だかんだですごく頑張り屋じゃん!」
琉姫「それに何となく見た目も似ている気がするの」
翼「あー、声もどことなく似ているような」
かおす「えええええ!?!?」
翼「あ、でもオタク気質なのはあの二水って娘に似てるかも」
かおす「そんな!私がリリィの皆さんと似ているだなんて畏れ多くてとても・・・!」
4人のそんな会話は、起きてきた寮母さんに釘を刺されるまで続いた。
かおす「・・・ということがあったんです」
ランプ「ほえ〜。皆さまの世界における物語・・・、すなわち聖典の話はいつ聞いても興味深いです」
ところ変わって、ここはエトワリア。
週刊エトワリアの編集者としてかおすの元にやってきたランプ、そしてそれに付き添ってきたきららが、他愛もない会話の中で、その話を聞いていた。
きらら「そうだね。数多くの世界があるって事は、その世界の聖典に当たるものは更に沢山あるって事だしね」
ランプ「くう〜、私もその物語を見てみたいです!」
かおす「アサルトリリィに興味を持ってもらえたなら、それだけでも嬉しいです〜」
きらら「でも、ふと思ったんだけどね」
きららが一呼吸置いてから言葉を紡ぐ。
きらら「私たちにとっての聖典がそうであるみたいに、もしかするとアサルトリリィの世界も本当はどこかにあって、それをかおすさん達が物語として見ているのかもしれないよ」
かおす「ええ!?」
ランプ「ん〜、でもあながちあり得ない話じゃありませんよ。だってクリエメイトの皆さまが知っているサンリオ?でしたっけ、その世界の方々はこのエトワリアに来ていたようですし」
実際、ランプの言うとおり、サンリオのキャラクター達は時空の垣根を越えて、エトワリアに訪れたことがある。そして大抵のクリエメイトは、そんなサンリオのことを物語として認知していたのだ。
かおす「・・・もしそれが本当なら、私も本物の皆さんに会ってみたいなあ」
ランプ「分かりますよ〜、その気持ち」
かおす「そしてもし許されるのなら、リリィの皆さんとあんな事やそんな事を、ふへ、ふへへへ・・・」
ランプ「はっ!かおす先生がまた妄想の世界に!」
きらら「私たち、連載の打ち合わせに来たんだよね・・・?」
ランプ「う〜ん」
エトワリアでの日々がこうしてまた過ぎていく。
きらら「そういえば、ランプは“あの噂”を聞いた?」
ランプ「ああ、“あれ”ですか・・・?」
きらら「うん、港町へ向かう山から龍のうなり声が聞こえるって」
ランプ「急に霧が出たと思ったら、得体の知れない化け物がいた、なんて話もありますよね」
きらら「まだ被害は出ていないみたいだけど、ちょっと不安だね・・・」
それが、クリエメイトやサンリオの皆のように、友好的な存在であれば良いだろう。
だが、幾多にも広がる物語の世界、すなわち平行世界には、きらら達の想像も及ばないようなモノがありふれている。
外から来た者と、いつも友達になれるとは限らない。
第2章 クロタネソウ(困惑、当惑、不屈の精神)
その世界は、争乱の最中にあった。
近未来、HUGE(ヒュージ)と呼ばれる怪物が突如出現し、人類の駆逐を始めた世界。
マギ、すなわち体内に魔力を帯びたヒュージに対し通常兵器は効果が薄く、人類は破滅の危機へと追いやられた。
その最中、人類はマギに適応する武器、CHARM (チャーム)の開発に成功する。だが、チャームのマギに強い反応を示し、その力を引き出せるのは十代の少女に限られた。
ヒュージを駆逐できる存在として、まだ年端もいかない少女達が矢面で戦う世界。
そしてその力を巡り、未だ水面下では人類同士の争いも続く世界。
それが『アサルトリリィ』の世界である。
それでも彼女たちは戦うのだ。世界のため、仲間のため、そして大切なもののために。
梅(まい)「くそっ!なんだって硬いなコイツ!」
雨嘉(ユージア)「こっちの攻撃が通っている気がしない・・・!」
関東某所、東京都近郊。
今ここでは、一柳隊がギガント級ヒュージと対峙している。
敵はカエルかワニのような姿をしている。おそらくは両生類か爬虫類がヒュージ細胞に侵されたものであろう。
数十メートルはあろうかという巨躯を前にしても、リリィたちは臆せず挑んでいた。
ミリアム「ったく、面倒なヒュージじゃなおい!」
夢結(ゆゆ)「ぼやいていても仕方ないわ。コイツを倒すために、私たちが招集されたのだから」
梨璃(りり)「ここで食い止めないと、居住区にも被害が出ます。だから全力を出さなくちゃ!」
ミリアム「そりゃわかっとるわい。じゃがのう、GEHENA(ゲヘナ)のアンポンタンのせいでこうなっては・・・」
楓(かえで)「ぼやきたくもなりますわよね!ああもう腹立たしい!」
夢結「ヘルヴォルとグラン・エプレは、避難所付近の敵を掃討しているわ。彼女たちが戻るまで何としても持ちこたえるのよ!」
一同「はい!」
今、彼女らは同盟を結んだレギオンと共に外征へ赴いている
非人道的な研究を繰り返すGEHENA(ゲヘナ)が飼育・調査していたヒュージが研究所を壊滅させ、都心方向へ向かったとの知らせが入ったのだ。
このため、東京都のレギオンとも交流のある一柳隊に応援の要請が入ったのである。
このヒュージは、ゲヘナの手によって改良が加えられた特型であった。おそらく軍事転用を見越しての研究だったのだろう。
報告によると、ケイブ、すなわちワームホールを経由して、偶然発見された未知の鉱物を組み込んだとのことである。事実、その体表にはビスマスのような結晶が立ち並んでいた。
人災としか言いようのない状況で、後ろ盾も乏しく、一柳隊は未知の力を持つヒュージと戦っているのだ。
二水(ふみ)「皆さん、敵の様子が変です!あれはまさか・・・?」
神琳(シェンリン)「兵隊を産んでいる・・・とでもいうの?」
ギガント級の背中に孔が空き、そこから球状の小型ヒュージが産み出されていく。
小型ヒュージはそれぞれ緑、赤、青、茶の色をしていた。茶色のヒュージの中には、独特の金属光沢を持つものまでいる。
加えて、その中には今まで見たこともないような形態のヒュージまでいた。
昆虫型、四足歩行の獣型、キノコのような菌糸類型・・・。
彼らは独特の鳴き声と共に、一柳隊に迫る。
未知のヒュージ?「ウツツ、ウツウツウツウツ・・・」
鶴紗(たづさ)「なんだあの薄気味悪いの」
雨嘉「こっちも硬い・・・。でも親玉よりは攻撃が通っている!」
神琳「何色だろうと倒すことには変わりありません。行きましょう」
小型の群れに対しても、リリィ達は勇敢に立ち向かっていく。
感触の違いこそあれど、このような雑兵では彼女らの足は止められない。
その様子をみたギガント級は攻撃の方法を変えていく。
梅「うお!?こいつ口から火を吐いたゾ」
夢結「さながら怪獣映画ね・・・」
敵は更に品を変えていく。
梨璃「わわ!?今度は水の固まりです!」
楓「あんな量を吐き出しますの?」
二水「あんなの当たったらペチャンコですぅ!」
敵は口だけでなく、背中の孔からも攻撃を仕掛ける。
ミリアム「なんじゃ背中から植物の種が・・・、にょわあ爆発したぁ!?」
鶴紗「種だけじゃない。泥団子も打ち出している」
雨嘉「団子が弾けて・・・、なにあれ金属片!?」
神琳「危ないわね本当!!」
高熱の炎、水の弾丸、種と泥の爆弾・・・
兵隊を巻き込むことも厭わずに、親玉は攻撃を続ける。
梨璃「無茶苦茶ですこんなの!」
夢結「でもこんなもの、長続きはしないはずよ」
ミリアム「ああ、これだけ派手にやればマギの消耗も激しいはずじゃ!」
梅「焦らずに攻撃のチャンスを待つんだ!」
果たして予想通り、ギガント級の動きが段々と鈍っていく。
エネルギーたるマギを使い果たそうとしているのだ。
不利を悟ったギガント級が空に響くほどの声で吠える。すると空にワームホールが形成されていった。
二水「あのヒュージ、逃げるつもりです!」
鶴紗「させるか・・・!」
楓「梨璃さん、今こそノインヴェルトを!」
梨璃「もちろん!行こうみんな!!」
梨璃の号令に応じ、皆が配置につく。
ノインヴェルト戦術。マギを増幅する特殊な弾丸を用いた、必殺の戦法である。
全員で弾丸をマギごとパス回しし、最後の一人が敵に打ち込んでいく。
その絶大なエネルギーによって、敵を殲滅たらしめるのが、ノインヴェルトの骨子であった。
今、一柳隊には専用の弾丸が二つ支給されている。一つ一つが大変貴重で高価なものだが、未知の敵を相手にする以上、それだけの装備を回されるのは当然であった。
皆が責任と緊張感を感じながらも、順調にパスを回していく。そしていよいよ最後の一人にパスが回された。
神琳「最後は雨嘉さん・・・!頼みましたよ!」
雨嘉「・・・分かった!」
リリィは各々がレアスキルという特殊な力を持つ。
雨嘉のそれは“天の秤目”といい、自分と対象の距離をセンチ単位で正確に把握できるというものである。この特性を活かした狙撃こそが、彼女の真骨頂であった。
雨嘉「これなら・・・届く!」
雨嘉がノインヴェルトの弾丸を敵に向かって放つ。
それは見事に命中し、大爆発を起こした。
だが、狙撃に成功したはずの雨嘉の顔が浮かない。
結夢「雨嘉さん!何があったの!?」
雨嘉「確かに当てたのに・・・、手応えがおかしい!」
確かに彼女の攻撃は命中していた。それは他の皆も確認済である。
だが、爆煙が晴れると、そこには未だ健在のターゲットがいた。
鶴紗「・・・っ!あれのせいだ!!」
二水「あれは、マギリフレクター!?」
マギリフレクター、すなわちバリアを張ることで、敵は攻撃を凌いだのだ。
バリアは四枚の板状に形成されており、それぞれがやはり緑、赤、青、茶の色をしている。
だが、それでもノインヴェルトの威力は絶大である。
攻撃を耐えたといっても、敵の体は焼けただれ、深い傷があちこちに刻み込まれていた。
梅「みんな落ち着け!!リフレクター込みでも、敵は相当弱っている。これならいけるゾ!!」
結夢「あともう一踏ん張りよ!!」
だがここで、敵が更にいっそうの声で吠えた。
皆が思わず耳を塞ぐ中、ワームホールは更に大きくなり、あらゆるものを吸い込んでいく。
その中に逃げ去るように、敵も姿を消していった。
それを追おうと一柳隊も動くが、あまりの力に皆も吸い込まれてしまう。
梨璃「お姉様!!」
結夢「梨璃!この手を離さないで!!」
楓「梨璃さんは私がお守りしますわ!!」
梅「二水!鶴紗!こっちだ!!」
鶴紗「くっ・・・前がよく見えない!」
二水「ふぇええええ!?!?」
ミリアム「どこ飛ばされるんじゃ〜!?!?」
神琳「雨嘉さん!」
雨嘉「神琳!」
やがてワームホールが閉じると、そこには先ほどの戦闘が嘘のように、閑散たる光景が広がっていた。
これは、儚くも美しく戦う、少女たちの物語。
ちなみに今作を書くに辺り、以下のサイト様を参考にしました。
アサルトリリィwiki
https://w.atwiki.jp/assault_lily/pages/23.html
二川二水@アサルトリリィ原作公式
https://twitter.com/assault_lily
第3章 イエローゼラニウム(予期せぬ出会い)
霧が立ちこめた森の中を、まんが家の四人と、手負いのカルダモンが走っている。
敵が二体、そこまで迫っているのだ。
今まで見たこともないような、強大かつ、凶悪な敵。
少なくともエトワリアにあのようなものはいなかった。あそこまで殺意を剥き出しにして襲ってくるものなどいなかったのだ。
“まるで世界観にそぐわないような”恐ろしい存在である。
五人はがむしゃらに走る。だが、気がつけば開けた場所に出てしまった。気がつかないうちに追い込まれていたのだ。
遂に敵が眼前に現れ、カルダモンが叫ぶ。
カルダモン「君らは私を置いて逃げろ!!勝てる相手じゃない!!」
小夢「そんな!仲間を置いていくなんてできないよ!!」
カルダモン「そんなこと言っている場合じゃないんだ!!本当に死ぬぞ!!」
琉姫「・・・ごめんなさい、どっちにしても、もう逃げられそうにないわ」
翼「もう一体出てきた・・・」
カルダモン「・・・なっ!?あれは確か、報告にあったウツカイってやつなのか?」
未知の怪物がもう一体、霧の中から出てきたのだ。
更に悪いことに、三体の怪物は大量のウツカイを引き連れている。
その中で、かおすは全身を震わせ恐怖していた。
ウツカイ「ウツツ・・・、ウツウツウツ・・・」
かおす「なんで・・・」
翼「かおす!しっかりするんだ!!戦わないと死ぬぞ!!」
かおす「なんで・・・」
未知の怪物「・・・!」
かおす「・・・なんでヒュージがここに」
話は半日前に遡る。
アルシーヴ「・・・というわけだ。港町へ向かう山へは立ち入らないでほしい」
ライネ「まさかここまで騒ぎが大きくなるだなんて・・・」
かねてより龍の声がする、不自然な霧が立ちこめる、化け物がでるといった噂のあった山だが、ついに神殿の調査が入ることになった。
これは、山に起こる異変が噂のレベルを通り越し、実害が出始めたためである。
セサミ「あの山だけ、急に植物が枯れ、鉱物資源の量がごっそりと減っているんです」
フェンネル「それに山からは大量の魔物が逃げ出してきたわ。まるで何かに怯えているように」
ソルト「ケガを負った魔物も大勢見かけました」
マッチ「このままだと、人に危害が及ぶのも時間の問題だね」
アルシーヴ「そういうことだ。カルダモンが調査を志望したこともあり、安全が確認されるまで一帯を封鎖することに決めた。今日はその事を里に知らせに来たんだ」
カンナ「音楽祭も近いってのに、のっぴきならない話だな」
近々、里ではクリエメイトたちによる音楽祭が開催される予定だ。
だが、状況が状況であれば、延期や中止もあり得るかもしれない。
ポルカ「前みたいに、古代の鋼鉄巨人がいたりするのか?」
セサミ「カルダモンが戻ってこないと、何ともいえませんね。あの人ほど手練れなら無事に帰ってくるとは思いますが・・・」
アルシーヴ「同感だ。だが、今回の件に“新たな敵”が絡んでいた場合、一筋縄ではいかないだろう」
きらら「だから、私たちが呼び戻されたんですね」
アルシーヴ「・・・すまないな。旅の途中だったというのに」
マッチ「いいや、もしウツカイ絡みだったら、僕らにしか対処できないからね」
ランプ「それにその場合、うつつさんの故郷のヒントになりますし」
うつつ「・・・みんなのことを引っかき回して、どうせ私はお邪魔虫よお・・・」
ランプ「誰もそこまでいってないじゃないですかぁー!」
ウツカイ、そしてリアリスト。
異常事態において、彼女らの関与を疑うのは自然なことだろう。
そのために神殿はきらら達を呼び戻していたのだった。
ランプ「はっ!?」
アルシーヴ「どうしたランプ?」
ランプ「・・・美姫先生から聞いた話なのですが、二日ほど前に、かおす先生たちが取材旅行のため港町に向かったんだそうです。もちろん噂は皆さまも知っているでしょうし、行きは別の山を越えて港町に行かれたようですが・・・」
アルシーヴ「つまり、かおす達が帰る際に、誤って例の山に入ってしまうかもしれない・・・。そう言いたいわけだな?」
ランプ「・・・はい。帰りを待つ美姫先生も、非常に不安そうでした」
セサミ「もちろん港町側からも一帯には入れないよう封鎖措置は施しましたが、かおすさん達が帰りに迷い込んでしまう可能性はありますね」
フェンネル「霧も立ちこめるという噂だものね。方向を間違わなければ良いのだけど」
アルシーヴ「用心に越したことはないだろう。誰か迎えをつけるべきだろうな」
きらら「それなら私に任せてくれませんか?」
ランプ「わ、私もコミックエトワリアの編集長として、先生たちを迎えに行きたいです!」
マッチ「それじゃあ僕らもだ」
うつつ「最初から頭数に入れないでよ・・・。まあ、どうせ行かなくちゃいけないんだけどさ・・・」
アルシーヴ「・・・すまない。頼まれてくれるか?」
きらら「はい、まかせてください!」
うつつ「・・・お人好しの陽キャ」
マッチ「まあまあ、もしかしたらうつつの記憶に繋がるかもしれないんだしさ」
うつつ「うるさい変な生き物」
マッチ「辛辣!」
ランプ「何かあれば、通信を入れますね」
アルシーヴ「分かった。こちらも何かあれば連絡を入れよう」
ソルト「皆さんのご武運を祈ります」
アルシーヴの用意した転移魔法で、四人は港町へ直接向かう事にした。
魔方陣の中に入り、光に包まれる一同。
こうしてきららとランプ、マッチ、そしてうつつは、かおす達を迎えに出発した。
その頃、当のかおす達は予定を引き上げ、里へ帰るために別の山を通っていた。
噂を聞き、滞在を切り上げたのだが、奇しくもきらら達とは入れ違いになってしまった。
だがそれでも、例の山とは隣の山を歩き、安全に帰っている・・・はずだった。
琉姫「・・・ねえ、様子がおかしくない?」
小夢「確かにさっきから霧が出てきたような・・・」
翼「おかしい、霧が出るのは隣山のはずだ」
かおす「あばば、隣山が封鎖されていたから、こちらを登ってきたのに・・・」
四人は確かに隣山を通っていた。
だが間の悪いことに、霧の勢いが増し、隣山まで包み込んでいたのだ。
しかし、この霧の広がり方は明らかにおかしかった。かおす達が山に入り始めたときは、青空すら見えていたのに、それが三十分も歩かない内に、視認できるほどの霧が立ちこめたのだ。
小夢「・・・寒いね」
翼「・・・一度、港町に戻ろう」
琉姫「そうね、ここからならまだ近いはずよ」
かおす「霧がこれ以上酷くならないうちに行きましょう・・・」
実際、その判断は間違っていなかった。
そこに留まっていても、空が晴れるとは限らない上、霧のせいで体を冷やすおそれがあった。
ならば、来た道を戻って港町に戻るという判断を下しても、誰もそれを攻められないだろう。
例えそれが、後の恐怖に繋がっていたのだとしても。
かおす「・・・こんなに遠かったんでしたっけ」
琉姫「変よ・・・、さっきから知らない道を歩いている」
小夢「き、気のせいですよ。だって私たちは来た道をまっすぐ戻っていたんですよ」
翼「・・・」
港町から四人がいた位置までは、まっすぐな一本道であり、子供ですら迷う方がおかしいような道だった。だから彼女たちは来た道をそのまま戻ったのである。
だが周囲の霧は更に深くなり、前に進むことすら困難なレベルに達していた。
有り体に言うと、彼女たちは遭難したのだ。
それでも出口はないかと、無意識のうちに足を進めてしまう四人。
気がつけば、どこともしれない場所に出ていた。
かおす達は気がついていなかったが、そこは例の山の圏内である。歩き続ける内に方向感覚を失い、迷い込んでしまったのだ。
翼「本当に申し訳ない!私があんな提案をしたせいで、こんな・・・」
かおす「自分を責めないでください。あの場だったら、四人とも同じ考えをしたと思います」
小夢「それに、私が寒がっていたのを、気づかってくれたんですよね」
琉姫「二人の言うとおりよ、こうなったら下手に動かず、霧が晴れるまでここで待ちましょう」
荷物から上着などを取り出し、それを着込む四人。
だが、この霧が晴れるまでに夜を迎えてしまえば、その時点で帰れる算段はなくなる。
更に悪いことに、現在彼女たちのいる山は封鎖がされており、誰かが偶然、麓から来るという流れにも期待ができない。
強い不安が四人を包む中、突如その人物は現れた。
小夢「ねえ、向こうから何か物音がしない?」
琉姫「そうね、ガサガサってなにかこう、近づいてくるような・・・」
かおす「あばばばばっ!?!?まさか魔物が!?」
翼「みんな!武器を構えて」
警戒を強める四人の前に、人影が姿を見せる。
日に焼けた肌、紅い髪、すらっと伸びた姿・・・。
それは彼女らにも見覚えのある人物だった。
かおす「あばーっ!!!お化けぇぇ!!!」
小夢「違うよかおすちゃん!あれカルダモンさんだよ!」
琉姫「でも良かった・・・。人と会えて」
翼「ああ、それに神殿の人ともなれば、安心感が強いな」
四人は一息ついて、武器を納める。
だが、よく見るとカルダモンの様子がおかしい。
息を切らし、髪は乱れ、服には植物の種が張り付いている。
まるで何かから全力で逃げてきたようだ。
そして、その腕を見ると・・・。
小夢「カルダモンさん怪我してるの!?」
カルダモン「・・・逃げろ」
かおす「へ?」
カルダモン「逃げろ!!みんな死ぬぞ!!」
翼「落ち着いてください!一体何があったんですか!?」
カルダモン「敵だ。見たこともない、強くて、残忍なやつが・・・!」
カルダモンがそう言い終わらない内に、強い地響きが五人を襲う。
森の上をジャンプしてきたのであろう。無機質な趣のある、球体のような何かが上空から降りてきたのだ。
二体とも青色をしており、目と思わしき部分を通じ、五人の様子を伺っている。
琉姫「なにあれ・・・?」
カルダモン「・・・走れ!!私に付いてくるんだ!!」
カルダモンがそう叫んだ瞬間、怪物は硬質めいた触手を五人に伸ばす。
彼女らが間一髪で避けると、そこにはスッパリと切断された樹木、そして見事に砕かれた岩が転がっていた。
まんが家の四人は、一瞬何が起こったか分からなかったが、すぐに恐怖の叫びを上げると、カルダモンの後を全力で駆け始めた。
それを後ろから追いかけてくる二体。あちこちに触手を伸ばし、無軌道な破壊を繰り返す。それは五人のことを弄んでいるようにも見えた。
小夢「なんなんですかあれえ!!」
カルダモン「分からない。でも私でも勝てなかったんだ」
かおす「・・・」
琉姫「かおすちゃん!しっかり!!」
翼「顔を上げて走るんだ!!」
かおすは下を向いていた。
それは恐怖したことも大きかったが、彼女の中に一つの疑念が湧いていたためでもある。
自分はアレをどこかで見たことがある。
それにアレから逃げている状況、そして立ちこめる白い霧。
これではまるで・・・。
そして五人は開けた場所に出てしまい、新たに加わった怪物と、ウツカイに囲まれて今に至る。
新しく現れたソレは、緑色をしていた。
皆は何とか応戦するが、未知の相手と物量を前に、ジリ貧の状況に追い詰められる。
翼「カルダモンさん。ウツカイの方はともかく、あの怪物に攻撃が通っている様子が・・・」
カルダモン「そうなんだ、私の攻撃もまるで通じなかった」
小夢「あの新しく現れた方には、私と琉姫ちゃんの攻撃が少し通じているみたいだけど・・・」
琉姫「でも、どちらかというと怒らせているだけのような・・・」
五人は薄々と感づいてはいた。
エトワリアの魔物がそうであるように、おそらく怪物の色は属性に対応しているのだろう。
だから水色の怪物には、土の属性が通るのだ。
しかし、それにしては不可解な点もあった。
緑色をした怪物は、おそらくは風の力を有していると思われる。それに関わらず、カルダモンの炎による攻撃がほとんど通じていないのだ。
だが相性に関係なく、怪物が凄まじくタフである以上、倒しきるのは困難だろう。
アルケミスト、ナイト、まほうつかい、そうりょ、せんし・・・。
複数の職業を持つ者は、それを適宜変えながら何とか戦っていくが、有効打を与えられない以上、それも小手先に過ぎない。
加えて、大量のウツカイもまた、彼女たちをジリジリと追い詰める。
平穏な日常にはない、敵を討ち滅ぼすための圧倒的な力。それが今の彼女たちに必要なものだった。
ナイトとなり前線を支えていた琉姫とかおすだが、ついにその盾を弾き飛ばされてしまう。
眼前に迫る怪物と、伸ばされていく触手。
恐怖を前に、足腰の立たない二人。
叫ぶ仲間たち。
ああ、もうおしまいなんだ。
二人がそう考えた瞬間に、その触手は振り下ろされ・・・。
何かがそれを弾き飛ばした。
琉姫「え・・・?」
眼前にいたのは、二人の見慣れぬ・・・否、どこかで見たことのある少女だった。
一人は長く艶やかな黒髪を持つ、毅然とした佇まいの少女。
もう一人はどこかあどけなさが残りつつも、凜とした表情をした、桜色の髪の少女。
さらに向こうを見やると、気品高く振る舞う少女が、ウェーブのかかった茶髪をなびかせながら、敵の群れをなぎ倒していた。
その手には、身の丈ほどもありそうな、それでいて力強い武器を手にして・・・。
夢結「あなた達は下がりなさい!その装備でヒュージの相手は無理よ!!」
琉姫「は、はい!」
楓「まったく、見知らぬ土地に飛ばされたと思えば、まあ特型がこんなにもウジャウジャと!でも、わたくしの敵ではありませんわね!」
梨璃「大丈夫?立てますか?」
そう手を伸ばす少女に対し、かおすは言葉を詰まらせる。
かおす「え、あ、う、うそ・・・」
梨璃「?」
読んでみました。きららキャラたちが敵に対抗できる力をてに入れることができるのか気になります。それからこみが以外のキャラも出るのか気になります。
>>103
作者です。コメントありがとうございます
だいぶ後ですが敵には対抗できるような流れにはなる予定です
こみが勢以外ももちろん出ますよ
コメント書くとスレが汚れちゃう気がしたので我慢してましたが先客が来たのでコメントしますw
アサルトリリィはアニメからで、ゲームも一応初期勢ながらあまりやる時間もなくユーザーランクもまだ68という初心者ですがかなり気に入ってます
今やってるゲームはきらファンとラスバレのみ
その二つがコラボしたSS、めっちゃ気になります!!
この先も楽しみに待たせていただきます
>>105
作者です
コメントありがとうございます。感想などあれば気にせずどんどん送ってください。励みになります
・アサルトリリィとは
ドール製造・販売を行うアゾンインターナショナルが、2005年より展開する作品群の総称です。15年以上展開されていることもあり、かなり世界観が練られているのも特徴
本業のドールだけでなく、小説、舞台、コミカライズ、アニメ、ゲームと、メディアミックスの幅広さも特色です。
なお、舞台とアニメは多くのキャストが同一という、いわゆる2.5次元方式が採られています
・リリィ
人類の敵、ヒュージに立ち向かう少女たちの総称。
彼女らは戦士である一方で、学院にも通う学生である。という体裁を取っています。リリィが通う学院のことをガーデンと呼びます。
・ヒュージ
アサルトリリィの世界における、人類の敵。
目的、正体など一切が不明ですが、人類を強烈に敵視し、殲滅にかかる点はハッキリとしています。
ヒュージ細胞と呼ばれるものが他生物に寄生・増殖・成長を繰り返すことで誕生します。
その大きさや強さに比例して、スモール、ミディアム、ラージ、ギガント、アルトラといった等級で分類されます。
体内にマギ(魔力)を宿しているため、通常兵器は効果がかなり薄いのが特徴。具体的にはリリィなら複数人で倒せるラージ級に対して、リりィ抜きでは戦車を動員しなければならない、というレベル
・チャーム
対ヒュージ用決戦兵器の総称。
武器そのものにマギを宿すことでヒュージ殲滅を可能とします。
銃と剣に変形するのも特徴であります。
チャーム単体であれば男性にも扱えはしますが、10代女子のそれと比べマギを扱える量が圧倒的に少ないため、ヒュージが強力になるにつれて男性のチャーム使いは消失しました。
・シュッツエンゲル制度
主人公の一柳梨璃らが通う「百合ヶ丘女学院」独自の制度。
下級生(シルト)が上級生を守護天使(シュッツエンゲル)に見立て、姉妹の義を結ぶのが特徴です。
シルトとシュッツエンゲルは血の繋がりに関係なく、互いを慈しみ、深い関係を結ぶのが特徴となっています。
梨璃と夢結というシュッツエンゲルを中心に、アサルトリリィの物語は展開されます。
第4章 ツクシ(驚き)
きらら「皆さん、大丈夫ですか!」
ランプ「良かった・・・。無事に皆さまと合流できました」
うつつ「死ぬ〜。これ以上走ったらゲロ吐く・・・」
小夢「きららちゃん!それにランプちゃんも!」
カルダモン「そっちの娘は確か、うつつだっけ?」
翼「でも、どうして皆が?」
マッチ「噂を聞いて心配になってね、迎えに来たのさ」
うつつ「まあ、すれ違いになった挙げ句、探しに行ったらバケモノから歓迎を受けたんだけどさあ・・・」
港町にたどり着いたきらら達だったが、程なくして四人とすれ違ったことを知った。
そこでかおす達の帰路と同じルートを辿ったのだが、霧に巻き込まれ遭難していたのだ。
ランプ「・・・遭難した私たちを、ウツカイや見たこともない怪物が襲ってきたんです」
マッチ「ウツカイはともかく、あの化け物には攻撃が通じなくてね。生きた心地がしなかったよ」
うつつ「ああ本当に死ぬんだなって思ったわよ、うん」
マッチ「死にたくないーって叫んでいたのはうつつじゃないか」
うつつ「うるさい毛玉」
マッチ「毛玉!?」
翼「でも、よく無事でいられたよ」
きらら「それは・・・」
きららが謎の少女たちの方を見やる。
きらら「あの人たちに・・・、“リリィ”の皆さんに助けてもらったんです」
カルダモン「“リリィ”?」
きらら「はい。あの怪物・・・、ヒュージを追ってやってきたんだそうです」
マッチ「みんな凄まじい力の持ち主だよ。ウツカイをなぎ倒すどころか、ヒュージもバッタバッタと切り捨てていくんだから」
ランプ「そして多分、あの方たちは・・・」
小夢「かおすちゃんの見てたアニメの登場人物、だよね?」
きらら「やっぱり!」
翼「私たちもかおすと一緒にアニメは見ていたから、見覚えはあったんだけど、本当にそうなのか・・・」
小夢「しかもかおすちゃんの前にいるのって、憧れの梨璃ちゃんだよね?」
一同はかおすの方を見やる。
文字通り、物語から飛び出してきたその人を前に、かおすは良くも悪くも錯乱していた。
かおす「ひょえ〜!?!?梨璃さん?梨璃さんなんで!?あ、そ、そうかこれはきっと夢なんです。だってそうじゃなきゃアニメの登場人物が目の前に出てくるなんて・・・」
梨璃「あ、あの、大丈夫なのかな・・・?」
そう言ってかおすの手を取る梨璃。
その温もりに、その香りに、その声に、何よりもその眼差しに、かおすの精神はいよいよパンクした。
かおす「・・・ほ」
梨璃「ほ?」
かおす「本物ですぅぅぅぅぅぅ!!!!」
梨璃「ふぇええええ!?!?」
かおす「萌田薫子、思えばこの十五年間、様々な出来事がありました・・・。でも今なら死んでも構わないですぅ〜!!!」
梨璃「し、死んじゃ駄目だよう!!」
互いにわけが分からずにあばあばとする二人、だが、梨璃の方は表情を一瞬で変える。
痺れを切らしたウツカイの攻撃を、一瞬で弾き返したのだ。
梨璃「薫子ちゃん、だっけ」
かおす「は、はい!皆からはかおすと呼ばれています!!」
梨璃「そっか。良い名前だね」
そう笑顔に答える彼女に、かおすの頬が染まる。
梨璃「・・・ここは危ないから、お友達を連れて、きららちゃんのところまで走れる?」
かおす「そ、それはもう!!」
梨璃「良かった・・・。なら、ここは任せて!」
梨璃の声を聞き、琉姫の手を引っ張って走るかおす。
その様子を見た結夢は、梨璃にそっと声をかけた。
結夢「ありがとう梨璃、私だとどうしてもぶっきらぼうになってしまうから・・・」
梨璃「当然のことをしただけです。お姉様」
夢結「あなたのそのまっすぐな眼差しに、私は、いいえ、皆はいつも救われているのよ。あの娘もきっとそう」
梨璃「お姉様・・・」
そんなやり取りを見て、楓が声を上げる。
楓「梨璃さん!結夢様!戦場でイチャイチャしないでくださいまし!!いくら雑兵とはいえ、これだけ多いとちょっとしんどいんですの・・・よっと!!」
結夢「あら、さっきは確か自分の敵ではないと言っていたけれども?」
楓「もう!意地が悪いですわね結夢様は!」
結梨「手伝うよ、楓さん!」
楓「ああ!梨璃さんにそう言ってもらえるだけでこれまでの疲れが、いいえ、元気百倍増しですわ〜!!」
そんな軽口を叩き合いながら敵陣に突っ込む三人。
襲い来るウツカイが次々と細切れにされ、ハチの巣が開けられていく。
琉姫「・・・下がっていろって言われたけど、本当にここで見ているだけで良いのかしら?」
うつつ「いやあの中にどうやって割り込むのよ」
マッチ「さっきから見てて思うけど、みんな凄まじい戦い方してるよね・・・」
楓は華麗にステップを踏み、相手の力を受け流しながら戦っている。その様子はワルツを踊っているようでもある。
結夢は先陣を切り、敵を踏台にして跳び、急所を的確に、そして無慈悲に切り裂いていく。見た目の麗しさが戦い方とのギャップを更に駆り立てている。
梨璃は二人と比べれば動きは控えめだが、的確にそのサポートをこなしている。むしろ、楓と結夢の方が彼女を中心に戦っているようにも見えた。
カルダモン「あの動きは、訓練された上で戦い慣れていないとできないよ」
翼「彼女たちにとって、戦いは本当に日常なんだ・・・」
ランプ「そんな・・・」
敵に臆することなく向かうリリィたち。
それは裏を返すと、そんな命のやり取りが彼女たちの日常であることの証左だ。
何よりそれは、アニメを見てきた翼たちには、更にいえば舞台や小説も追いかけていたかおすにとっては、痛いほどに伝わることだった。
かおす「・・・行きましょう」
うつつ「うええ!?正気なのあんた!?」
小夢「私はかおすちゃんに賛成だな」
きらら「ええ、ヒュージはともかく、ウツカイなら私たちでもどうにかなります!」
カルダモン「借りを作りっぱなしなのは釈然としないからね」
琉姫「サポートぐらいならできるはずよ」
翼「でも無理はしなくて良い。付いていきたい人だけ付いてきて」
うつつ「・・・ああもう!はいはいこの流れにも慣れましたよ!この陽キャ集団!」
ランプ「うつつさん・・・!」
マッチ「よし、みんな準備を整えよう!」
かおすときらら、七夕衣装のランプが、そうりょの力で皆の傷を癒やす。
万全とは行かないが、応急処置にはなるはずだ。
きらら「行くよ!みんな!」
きららの号令に応じ、皆がウツカイの群れに突っ込む。
ヒュージはリリィに任せ、少しでも多くのウツカイを倒す流れだ。
梨結「皆さん!」
夢結「あなた達、下がりなさいと言ったはずよ!」
きらら「でも、皆さん疲れてきているじゃないですか!」
楓「それはまあ、正直そうですわね」
流石のリリィといえど、ここまで戦いづめだったのだ。
呼吸こそ整えているが、流れる汗やその顔色には、確実に疲労が浮かんでいた。
すかさずそうりょ組が三人に回復を施す。
夢結「暖かい・・・」
楓「この感覚、マギが満たされていく・・・」
梨璃「それに擦り傷や切り傷まで・・・」
リリィは各人ごとに一つのレアスキルを持つが、味方を回復させるレアスキルは、種類がそう多くはない。
その内の一つが、梨璃が持つとされる“カリスマ”であるが、これもマギは回復できるものの、肉体の治癒までは難しい。
だからこそ三人にとって、疲労だけでなく体まで癒やすこの力は、クリエメイトたちが考える以上に、特別なものに思えた。
それはまるで、自分たちの世界が失ってしまった平穏と、変わらない日常そのもののようで・・・。
彼女たちの優しい力に、心も体も解きほぐされる。
見れば、クリエメイトたちが必死に敵へ立ち向かっている。
きっと彼女たちも、思いは同じなのだ。
仲間のため、誰かのため、心鋼鉄に変えて・・・。
梨璃「・・・お姉様、楓さん」
夢結「何も言わなくて良いわ。梨璃」
楓「あの方々のこと、どこか見くびっていたのかもしれませんわね」
梨璃がクリエメイトたちの方へ向き直る。
梨璃「皆さん、絶対に無茶はしないでください!」
かおす「梨璃さん!」
夢結「私たちが切り込む、だから援護をお願い!」
楓「ヒュージはわたくし達が必ず討ちます。皆さまはその気味の悪い連中に集中してくださいまし!」
カルダモン「ああ!そっちは専門家に任せるよ!」
小夢「心強い仲間ができて嬉しいよ〜!」
夢結「仲間・・・、悪くない響きね」
“保護対象”が“戦友”に変わった瞬間だった。
きらら「みんなに、もっと力を・・・!」
かおす「私もお手伝いします!」
きららとかおすを中心に、皆に戦うための力を分け与える。
確かな感触が、皆の中に伝わっていく。
翼「斬り込む!」
カルダモン「腕の傷も治ってきてる。これなら!」
小夢「よ〜し、じゃんじゃか打ち込むよ〜!」
その力は、リリィにも勿論及んでいた。
楓「力が溢れていきますわ・・・!」
夢結「まるでレアスキルね」
梨璃「これならいけます!」
可愛らしくも雄叫びをあげ、梨璃が1体のヒュージに突っ込む。
敵は体を変形させ、梨璃を飲み込もうとするが、それに嵌まるような彼女ではなかった。
梨璃「弱い部分ががら空きです!」
マギを込めた弾丸が、その口内へと放たれる。
流石のヒュージも、体内を攻撃されてはひとたまりも無い。
青い体液をまき散らしながら、爆散するのみであった。
琉姫「やった!まずは一体ね!」
ランプ「琉姫先生、こちらも行きましょう!」
琉姫「ええ。倒せないとしても、これならどう!?」
元の衣装に戻ったランプと、白衣姿の琉姫がヒュージにフラスコを投げつける。
勿論、敵とで愚かではない。そのフラスコを触手で叩き割った。
だが・・・。
ヒュージ「!?!?」
琉姫「どう、体に力が入らないでしょ?」
ランプ「かなしばりはサービスですよ!」
仕方のない話だが、フラスコ内のものを浴びればどうなるか、ヒュージは知らなかった。
叩き割るのではなく、避けるべきだったのだ。
夢結「ナイスアシストよ、二人とも!」
そう言って夢結はヒュージに飛び乗ると、その頭頂を深々と突き刺す。
敵もそれを振り払おうとするが、力が抜けた上に全身が痺れ、上手くいかない。
その隙に夢結は、先ほどの傷口に鉛玉を叩き込む。
一瞬の硬直の後、二体目のヒュージも爆散していった。
うつつ「うわあ、えげつな・・・」
楓「流石、夢結様ですわね。対人関係もあれくらい思い切りが良いといいんですけど!」
そう言いながら楓も敵に突貫していく。
敵の攻撃をかわし、時には受け止めながら激しい攻防を繰り広げる。
相手もそれに負けじと、彼女の姿を追いかける。
だが急に、楓の姿が見えなくなった。ヒュージも敵はどこかと辺りを見回す。
刹那、ヒュージは足下に、より正確に言えば、下腹部辺りに違和感を覚えた。
楓「adieu(永遠に、さよならね)」
敵の死角となる足下に、彼女は一瞬で潜り込んでいた。
その上を、弧を描くように深々と切りつける。
素早く離脱した彼女の目には、足下から体液を流し、動かなくなったヒュージが見えた。
三体のヒュージが全て倒され、不利を悟ったウツカイ達は一目散に逃げ始める。
きらら「皆さん!あの虫のような姿をしたウツカイだけは、なんとしても打ち落としてください!」
マッチ「きっと指令書を持っているはずだ!」
その声を聞いた皆が、一斉に上空へと攻撃を放つ。
他のウツカイの抵抗も虚しく、弾幕の前に虫型の敵はあっさり墜ちた。
きららが指令書を手早く回収した頃には、ウツカイの姿は消えていた。
楓「どうにかなりましたわね」
小夢「あ、あの!」
カルダモン「本当に、ありがとう」
ランプ「皆さまがいなかったら、今ごろ私たちは・・・」
梨璃「お礼なんていいですよ。リリィとして当然のことをしただけですから」
夢結「感謝を伝えなければならないのはこちらの方よ。一緒に戦ってくれて、ありがとう」
夢結「・・・あの娘はなぜ物陰にいるのかしら?」
楓「しかも先ほどから、瞬きもせずにこちらを見つめていますわ」
かおす「ひょぇ!?わ、わたくしほどの者がリリィの皆さまの輪に混じるなど畏れ多くて・・・。あ、でもその麗しい姿をこの目に焼き付けたくて・・・」
夢結「何となくだけど、様子は見ていたわ。あなたの言葉が切っ掛けで、皆が加勢してくれたのでしょう?」
かおす「あああのあのあれはですね」
梨璃「そんなところにいないで、私たちとお話ししよう?」
そういってかおすの近くに寄り、その手を差し伸べる二人。
その光景に、かおすは真っ白に燃え尽きた。
かおす「私の人生に、悔いはありませんでした・・・」
梨璃「わわ!?戻ってきて〜!!」
楓「かおすさん、でしたっけ?先ほどからわたくし達のことを知っているような様子でしたが・・・」
夢結「でも、ここはあまりにも特異よ。一部の者を除き、ヒュージやリリィの存在自体が認知されていないようね」
梨璃「そんなこと、まずあり得ないですよね」
夢結「ええ、“私たちの世界”なら、まず考えられないわ」
梨夢「お姉様、その言い方はまるで・・・」
夢結「でも、そうとしか考えられないのよ」
五十年も前から、ヒュージによる大規模な侵攻が世界中で起こり、それに対抗するリリィがいる。
それは自分たちが元いた場所なら、公然の事実だ。水や空気のようにありふれたそれを知らないこと自体が、既に異常といえる。
なら、今自分たちがいる“この場所”は・・・。
夢結「きららさん・・・」
きらら「は、はい!」
夢結「初めて会った時は、互いに余裕がなくて流れたけれど、皆で改めて状況確認をしたいの」
カルダモン「そうだね、こちらとしても色々と聞きたい」
翼「私たちも確認したいことがあるんだ」
夢結「ありがとう。ならまず、教えてほしいことがあるわ」
きらら「ここがどこか、ですよね?」
楓「あら、察しが良いんですのね」
きらら「リリィのこと、そして皆さんのことは、かおすさんから少しだけ聞いたことがあるんです。だからこそ、はっきりと言いますね」
一呼吸置いて、きららは言葉を紡ぐ。
きらら「・・・ここは皆さんのいた世界じゃないんです」
ランプ「ここはエトワリア・・・。女神ソラ様の統べる、クリエの地です」
梨璃「聞いたことのない単語ばかり・・・」
夢結「我々も知りうる限りの情報を全て伝えます。だから・・・」
きらら「ええ、こちらも話せるだけ話しますね」
少女たちは、互いに伝えられることの全てを伝えた。
ヒュージ、そしてリリィのことを。
エトワリア、聖典、クリエメイト、そしてウツカイを率いる敵のことを。
そして、リリィの活躍が、物語として語り継がれる世界のあることを。
夢結「私たちが特型ヒュージと思っていたのは、ウツカイのことだったのね」
マッチ「ああ。強さじゃヒュージの方が上かもしれないけれど、聖典を汚染して、多くの世界を蝕むという意味では、同じぐらいに厄介な存在だよ」
梨夢「人類の敵・・・」
うつつ「まあ、現状そっちの世界の方がよっぽどヤバげだけども・・・」
ランプ「うつつさん、言い方、言い方!」
夢結「良いのよ、全て事実なのだから」
カルダモン「目を見れば分かるよ。あなた達がどんな思いでここまで戦ってきたのか・・・」
それにしても、と楓が話題を切り替える。
楓「わたくし達のあれそれが、物語として伝わっているとは驚きですわね」
翼「まあ、クリエメイトも似たようなものだし」
かおす「そうなんですよ!!だからもう興奮していても立ってもいられなくて!!」
梨璃「あ、復活した」
かおす「今後皆さんとお付き合いするために、いくつか聞いておきたいことがあるんです!」
梨璃「な、なにかな・・・」
かおす「鶴紗さんはネコ好きですか!?」
梨璃「なんだ、そんなことかあ。うん!鶴紗ちゃんはネコが大好きだよ!」
かおす「夢結さんは梨璃さんのために甲州までラムネを買いに行きましたか!?ついでに聞くと、学校のかなり近くにラムネの自販機があってうなだれたことは!?」
夢結「そ、そんなことまで知っているのね・・・」
かおす「最後にお伺いします。楓さんは今まで何回梨璃さんのお尻を触りましたか・・・?」
梨璃「へぇええ!?何でそんなこと聞くのぉ!?」
楓「あなた、中々殊勝なことを聞きますわね。ええそりゃあもう触りたいに決まっていますわ!なんなら揉みしだきたいですわぁ〜!!」
梨璃「楓さんも何を言っているの!?!?」
楓「で・す・が!夢結様が目を四六時中光らせておりますので、中々触れませんの!!もう本当に嫌になりますわぁ〜!」
夢結「当たり前でしょうそんなことさせないわ」
かおすは質問の答えを頭の中で反芻する。
そして大きく頷くと、翼たちに向かって大声であることを伝えた。
かおす「皆さん!多分ここにいらっしゃる皆さまは、アニメの世界線の皆さまです!!」
琉姫「かおすちゃん。そんなすっごく良い笑顔でサムズアップしなくても・・・」
小夢「ど〜ゆこと〜?」
翼「私も聞きかじった程度だけど、何でもアニメと舞台、小説とでは描写や展開が違うらしく・・・」
本当は、聞けばどの世界線か一発で分かる質問事項はあった。
だが、かおすは敢えてそれは聞かなかった。
かおす『だってもしそうなら、それを聞くのは悲しすぎます・・・』
一瞬悲痛なを浮かべるが、それを振り払い、かおすが笑顔でリリィに向き合う。
かおす「あ、あの、ふつつかものですが、リリィの皆さまどうぞよろしくお願いします!」
梨璃「こちらこそ、よろしくお願いしますね。そして・・・」
梨璃もまた、クリエメイトの方を向く。
梨璃「私たちの世界の災いを持ち込んで、本当にごめんなさい・・・」
カルダモン「そんな、何も君たちのせいではないだろうに」
夢結「いいえ、ヒュージを仕留めきれず、皆さんを巻き込んでしまった時点で、私たちにも非があるわ」
楓「この山の噂ですが、怪物はヒュージやウツカイのことでしょう。それに、わたくし達は目くらましのガスを放つヒュージとも交戦したことがあります」
梨璃「この霧は、小型ヒュージ、そして親玉のギガント級によるものだと思います」
夢結「龍のうなり声というのも、この山に潜んでいたギガント級のものでしょうね」
きらら「ギガント級・・・。それを追って、皆さんはここまで飛ばされたんですよね?」
ランプ「でもそれなら、その敵をみんなで討てば良いんですよ!ほら、先ほどだって力を合わせて困難を乗り越えたじゃないですか!」
小夢「・・・そこまで簡単な話じゃないかも」
翼「アニメで見たけど、ギガント級は途轍もなく強いんだ。それこそ、今戦った小型のヒュージなんて比べものにならないほど・・・」
マッチ「嘘だろ・・・。あれだって僕たちだけでは敵わなかったのに」
楓「一体で戦略級の強さを持つ、それがギガント級ですわ」
梨璃「それに早く見つけないと、大変なことになるかもしれません」
夢結「・・・ヒュージは細胞を他の生物に寄生させることで、増殖を際限なく繰り広げるわ。発見が遅れて、あのギガント級が更に上のアルトラ級にでもなれば・・・」
琉姫「エトワリアが、ヒュージの巣窟になる・・・?」
梨璃「そうなれば、私たちの世界と同じ事になります」
楓「・・・であればこそ、ヒュージという災厄を押さえ込めず、他の世界を巻き込んだ時点で、我々の責任は重いんですの」
夢結「だからこそ、私たちは全力で皆さんのサポートをします。例えこの身が朽ち果てようと、それがリリィの使命であり、責任ですから」
使命、責任。
自分たちと同じ年頃の少女が、真剣な眼差しでそんな言葉を使う光景に、一同は軽くめまいを覚える。
やはり、彼女らと自分たちとでは、生きる世界が違うのだ。
だが、それでも・・・。
かおす「・・・そんな顔、しないでください」
夢結「え・・・」
かおす「皆さん、凄く悲しい顔してます・・・」
かおすはポツポツと、けれども、確実に言葉を紡いでいく。
かおす「皆さんの言うことは、とても良く分かります。だって、私も皆さんの活躍を見てたから・・・。その姿にずっと憧れていたから・・・」
梨璃「あはは、そのアニメ?だと情けないところ見せちゃったんじゃないかな」
夢結「色々と恥ずかしい姿も、見せてしまったでしょう?」
かおす「そんなことありません!だって、皆さんはどんな悲しいことも辛いことも、いつだって乗り越えて不可能を可能にしてきたじゃないですか!!」
かおすの目から、涙が零れる。
かおす「私は恥も外聞も無く、皆さんのことを見てただけで、だからこんなことを言う資格はないかもしれません。でも!皆さんが情けなく見えたり、恥ずかしく見えるようなことがあっても、それは真剣に悩んで、足掻いた証だから・・・!!」
ランプ「かおす先生・・・」
かおす「私はいつでも挫けそうになって、殻に閉じこもりそうになって・・・、だから皆さんの姿がとても眩しく見えるんです。だけどその分、皆さんには微笑んで、笑っていてほしいなあとも思うんです。だって、泣いたり怒ったりしてるときの皆さんは本当に辛そうだから・・・。今さっきもそんな顔をしてたから・・・」
楓「・・・」
かおす「この身が朽ち果てても、なんてこと言わないでください。私も悲しいですし、何よりリリィの皆さんが辛そうです。ギガント級を倒すのが簡単じゃないことは分かります。それでも、私は、いいえ、私たちは皆さんの力になりたいんです!」
そんなかおすに、うつつが言い添える。
うつつ「投げ出さないだけ、梨瑠たちは偉いじゃん。私だったらガン逃げしてるよ。だから謝る必要なんて無いんじゃない?それにさ、さっき力を合わせて何とかなったんだし、それだけ真剣なら今度も上手くいくでしょ。ここにいる連中なんてあんた達よりポワポワしてるけど、成り行きでなんとかなってるし」
かおす「だから、だから・・・!」
楓がその言をすっと遮る。
楓「かおすさん、それにうつつさんでしたっけ?おどおどしているように見えて、言うことはきちんと言えるじゃありませんか。そういうの、わたくしは好きですわ」
まあ、梨璃さんほどじゃありませんけどね!と付け加えた上で、彼女はかおすの元に歩み寄る。
楓「だから涙を拭いなさい。可愛らしい顔が台無しですわよ?」
その白くすらりとした指で、かおすの涙を払う楓。
唐突かつ大胆な行動に、かおすの頭は沸騰する。
かおす「は、はえ、あえ、そ、そ、その・・・」
楓「ふふ、からかいがいがあるじゃありませんか」
そういってクスクスと笑う楓、それにつられて、梨璃と夢結もクスリと笑う。
梨璃「もう、楓さんったら」
夢結「なんだか、悩んでいたのが馬鹿らしくなったわ」
うつつ「・・・そんな口から砂糖吐くようなこと、よくまあ堂々と出来るね」
楓「あら?気に入ったものを正しく評価し、行動することは人として当然のことではなくて?」
うつつ「そういうとこだよ・・・」
場に和やかな空気が流れ、きらら達が改まってリリィに言葉をかける。
きらら「皆さんの使命の重さ、確かに受け取りました。でも、みんなで支え合えば、少しは軽くなると思うんです」
カルダモン「だからそこまで自分を追い詰めないで。ここはその意思さえあれば、誰とでも結び、繋がれる世界だから・・・」
ランプ「皆さんとなら、どこまでだって行きますよ!」
小夢「責任とかじゃなくてさ、友達が困っていたら助けてあげたいじゃん!」
夢結「友達・・・?」
うつつ「諦めた方が良いよ。誰でもすぐ友達扱いする輩しかいないから、ここ」
楓「ほ〜ら、あなたも梨璃さんが憧れの君なのでしょう?なら握手ぐらいはしておくべきですわ。まあ、最後に梨璃さんを振り向かせるのはわたくしですけども!」
かおす「ふぇ!?楓さん背中を押さないで〜!!」
梨璃「・・・ふふ、ここの皆さんと、それに楓さんには敵わないですね」
夢結「梨璃、あなたも・・・」
梨璃「はい、行ってきますね、お姉様!」
改めて向かい合う二人の少女。
霧の晴れてきた山中で、二人の髪を風が撫でる。
かおす「・・・梨璃さん」
梨璃「うん、かおすちゃん。これからよろしくね」
そういって、手を取り合う二人。
周囲から拍手が巻き起こる。
だが、かおすの精神はもはや限界であった。
かおす「ほげぇ・・・」
梨璃「あばばば!?顔が茹だってるよ〜!?」
翼「いかん!もう限界をとっくに超えてたんだ!」
ランプ「分かりますよ〜その気持ち」
琉姫「早く寝かせてあげて!」
だが、そんな空気を、地面の揺れが切り裂いていく。
小夢「きゃあああ!!」
夢結「みんな、地面に伏せて!頭をガードするのよ!!」
やがて揺れは収まり、辺りを静寂が包んだ。
きらら「地震・・・、だったんでしょうか?」
カルダモン「だとしても変だ。それなら敵も動揺して動くはずなのに、むしろさっきから何の気配もしなくなってる」
梨璃「もしかすると、山に潜んでいたギガント級が動き出したのかも」
夢結「それで兵隊も一緒に移動したのかもしれないわね」
琉姫「だとしたら、どこに・・・?」
そこにきららが、これまで感じていた疑問を挟む。
きらら「ウツカイは本来、オーダーで呼び出されたクリエメイトが絶望しないと生まれないんです」
ランプ「そうですね。真実の手・・・、敵がリアライフという禁呪を使わないと発生しないんです」
楓「でも、ギガント級はウツカイをちゃかぽこ産んでましたわよ?」
マッチ「それがおかしいんだ。絶望する感情とオーダーで無理やり喚んだクリエメイト・・・。この二つが揃ってウツカイが初めて出るんだから」
梨璃「つまり、皆さんの敵が今回の事態に関わっている可能性が・・・?」
きららは深く頷くと、先ほどのウツカイから回収した指令書を取り出す。
きらら「奇妙なことに、いつもは一枚ずつの指令書が、今回は二枚もあるんです」
うつつ「一枚で二枚でも読めるのは私しかいないんだから関係ないでしょ。あーめんどい・・・」
そうぼやきながらも、うつつは指令書を読み進める。
だが、その顔がどんどんと青ざめていった。
うつつ「何よ、何よこれ・・・」
小夢「どうしたの!?」
うつつ「一枚目はともかく、二枚目はこんなの・・・!」
楓「何が書いてあるんですの!?」
うつつ「一枚目には『クリエを、そして女神を食らえ』って書いてあるわ・・・」
琉姫「あの、二枚目は?」
うつつ「・・・」
ランプ「うつつさん・・・?」
うつつ「・・・『壊せ』『殺せ』ってびっしり書いてある」
かおす「ひっ・・・」
夢結「それでは作戦というよりも、まるで・・・」
そこに、騒々しい音が鳴り響く。アルシーヴに持たされた通信機の発信音だ。
さっそくランプが通信に出る。
ランプ「先生!どうされたんですか!?」
アルシーヴ『ランプか!かおす達は無事に見つかったか!?』
ランプ「はい!リリィの皆さまの協力もあり・・・」
アルシーヴ『なに!?リリィがそちらにも!?』
ランプ「ええ!?先生もリリィのことをご存じなんですか!?」
その通信を聞いた夢結が、手早くランプの通信機を取り上げる。
夢結「そちらにもリリィが、我々の仲間がいるのですか!?」
アルシーヴ『・・・そうか、あなたもリリィなのか。ああ、あなたの仲間はこちらにいる』
夢結「そう、良かった・・・」
アルシーヴ『・・・あなたがリリィと見込んで頼みがある。我々を援護してほしい!このままでは神殿が落ちるのも時間の問題だ・・・!』
ランプ「神殿が!?一体何があったんです!?」
アルシーヴ『事情はこちらで話す!まずはそちらに転移魔方陣を送るからそれで・・・』
アルシーヴがそう言い終わらない内に、爆発音が通信機越しに聞こえてくる。
フェンネル『アルシーヴ様!クリエメイトも何とか持ちこたえていますが、これ以上は限界が・・・!!』
アルシーヴ『くっ・・・、急いでくれ!!』
アルシーヴからの通信が切れると共に、通信機から魔方陣が送られてきた。
夢結「遅かった・・・!」
楓「おそらくギガント級は既にあちらへ・・・!」
きらら「今は嘆いていても仕方ありません!行きましょう!」
梨璃「はい!きっと私たちの仲間も、向こうで戦っているだろうから・・・!」
全員が魔方陣の上に乗る。
やがて全員の姿がそこから消えた。
戦いの狼煙が上がったのだ。
作者です。
休日中は一日に2章ずつ(幕間もあればそれ含めて)時間をおいて投稿できればと考えています。
もし投稿ペースに関して何かあれば、意見をください。
投稿の前に、リリィ達の紹介を軽くしたいなと思います。
今回は梨璃、夢結、楓の三人です。
・一柳梨璃(声・演:赤尾ひかるさん)
アサルトリリィシリーズの主人公で、一年生ながらも隊(レギオン)のリーダーを任された、努力家の少女。
自然と人を引きつけ、まとめ上げる才能があります。
憧れの人の壮絶な過去に触れ、自身も(まるで妹のようだった)親友を亡くすなどの経験を経て、大きく成長していきました。
・白井夢結(声・演:夏吉ゆうこさん)
梨璃のシュッツエンゲルの少女。百合ヶ丘女学院きっての、戦闘力に優れた人物でもあります。
過去のトラウマから人を避けていましたが、梨璃との出会いを経て、その心も解きほぐされていきました。
ちなみに担当声優の夏吉さんは『魔王学院の不適合者』のアニメにて、きらら役の楠木さんと双子の姉妹役で共演していました。
楓・J・ヌーベル(声・演:井澤美香子さん)
日仏ハーフの、チャームメーカのご令嬢。
卑怯なことを嫌う堂々とした性格で、その容姿も相まって慕う者が少なくありません。
もっとも本人は梨璃を好いており、熱烈なアタックを仕掛けているのですが。
演じる井澤さんは、アニマエールの宇希役も務めていました。
投稿を再開します。
今回は幕間1と、第5章を投稿し、深夜帯に第6章を投稿する予定です。
お付き合いのほどお願いいたします。
幕間1 ホタルカズラ(企て)
ハイプリス「・・・ヒナゲシ、ヒナゲシはいるかい?」
ヒナゲシ「は、はい、ハイプリス様!ヒナゲシならここに!」
ハイプリス「そんなにかしこまらなくて良いよ。進捗の方はどうだい?」
ヒナゲシ「はい、現在ヒュージは山を掘り抜け、里の目前に現れた模様です」
ハイプリス「ふふ、誘導ご苦労。リリィ、といったかな?彼女たちの力を持ってしても、アレを食い止めるのは困難だと聞く」
サンストーン「ましてやクリエメイトなど、ものの数ではあるまい」
ヒナゲシ「ヒュージからは絶望のクリエに近いものを感じます。全てを壊し、命を奪い尽くしたがっているような・・・」
ハイプリス「ああ、だからこそウツカイも産み落とせるのだろうね」
サンストーン「その怪物に、言の葉の樹を、ひいては女神を喰わせる・・・」
ハイプリス「クリエを司る女神が絶望のクリエに呑まれれば、エトワリアの汚染は即座に完了する。そうなれば聖典を通じ、クリエメイトたちの世界にも滅びが訪れるだろう」
サンストーン「全ての聖典とエトワリアは繋がっているのだからな」
聖典、ひいては各々の世界から汚染を進めるのではなく、最初から本丸を狙い、爆発的に汚染を拡大させる。それが今回の企てであった。
ヒナゲシ「・・・どのような滅びが訪れるのでしょう?」
ハイプリス「言い換えれば、ヒュージという存在で聖典を塗りつぶすのが今回の作戦だ。エトワリアが、そしてクリエメイトの世界が、あの怪物で溢れかえるだろうね」
ヒナゲシの顔から、純粋な、けれども、どこか空虚な笑みが零れる。
ヒナゲシ「・・・うふふ、あはは。いい気味なの。いつも誰かに愛されて、どんなに辛いときでも誰かが側にいてくる奴らなんか、みんな血濡れになっちゃえば良いんだ」
エトワリアが、少女たちの学び舎が、災厄から立ち直りつつある世界が、キャンプをし、星空を見上げるような自然が、夢を追い求める者たちの住む場所が、多様な者の共存する世界が、ヒュージによって侵される・・・。
少女はその光景に、胸をときめかせていた。
それは明らかに、誤った願いなのだろう。だが、彼女にはもう、それしかなかったのだ。
奮起したヒナゲシは、ハイプリスの顔を改めて見上げる。
ヒナゲシ「ハイプリス様・・・!」
ハイプリス「何も言わなくて良いよ、行っておいで。そうそう、これは餞別だ。いざというときに使いなさい」
ヒナゲシ「はい!」
そういって少女は黒い矢を三本受け取り、勢いよくその場を後にした。
サンストーン「・・・彼女に任せて、良いのですか?」
ハイプリス「構わないよ。元より、あんなものが来ること自体、想定になかったからね。利用できれば御の字、といった程度さ。だから失敗したならそれはそれで、というところだね」
サンストーン「なるほど、以前の失態を取り戻そうと、ヒナゲシが此度の作戦を提案した時は、どうしたものかと思いましたが」
ハイプリス「あのような怪物を制御しようなどと思えば、破滅するのはこちらさ。彼女もそれは分かっていて、利用するに留めたんだろう」
サンストーン「しかし驚きました。まさか異界の怪物が、全身からエトワリウムを生やし、属性による攻撃を行うなど」
ハイプリス「このエトワリアはふざけた世界だからね。ごく稀に聖典と何ら関わりの無い世界とも繋がってしまうのさ。そこからエトワリウムの欠片でも落ちて、ヒュージと混じったんだろう」
サンストーン「マギとクリエ・・・、似て非なるものが引かれあったのでしょうか?」
ハイプリス「そこまでは分からないね。ただ、あのヒュージはより大きな力を欲して、エトワリアにある意味帰ってきたんだ。人々を癒やすとうそぶく力が、今度は全てを焼き尽くすために戻る・・・。こんなに愉快なことはないだろう?」
サンストーン「はい。クリエメイトも女神も、思い知ればいい・・・」
ハイプリス「それにあのヒュージ、面白い性質を持っているようだね。今回は失敗しても良いと考えて、純粋に成り行きを楽しもうじゃないか」
笑みを隠せないハイプリス。サンストーンも心なしか楽しそうだ。
ハイプリス「ところでサンストーン、彼女たちの・・・リリィの世界をどう思う?」
サンストーン「無垢な少女があたら若い命を差し出し、犠牲となる世界・・・。汚い大人も彼女たちの力を欲し、策謀を張り巡らす・・・。ありきたりですが、希望が見えない分、聖典の世界よりはマシかと」
ハイプリス「ふふ。どれだけの絶望がない交ぜになっているのだろうね。一度見て見たくもあるよ」
そうニタリと、彼女は嗤った。
第5章 クレオメ(秘密のひととき)
数時間前。
まだきららがかおす達を捜索していた頃。
まだこの平原が戦場と化す前の平和なひととき。
フルーツタルトの面々は、音楽祭の会場となるここでリハーサルを行っていた。
そこにチノとココアが昼食のデリバリーに来ていたのだが・・・。
神琳「・・・」
ココア「ええと、どちら様?」
ミリアム「いやそれ聞きたいのはこっちじゃ」
チノ「新しいクリエメイトの方でしょうか?」
ロコ「でもそんな話聞いてないぞ?」
衣乃「武器を持ってる・・・、不審者!?」
はゆ「いやはゆ達も武器持ってるよね?」
雨嘉「あの、その・・・」
突如空に穴が開いたと思ったら、見知らぬ少女が三人、そこに降り立っていたのだ。
似たデザインの制服に、共通性の見られる武器・・・。どうやら彼女たちは同一の世界から来たらしい、ということは一目で分かったが、それ以上は誰も何一つ知らなかった。
一方で、リリィの方も状況を飲み込めていなかった。
ワームホールに巻き込まれたと思ったら、そこには青空と大地が広がっていたのだ。
ヒュージが帰る場所なのだから、どれだけ恐ろしい所に飛ばされるのだろうと思えば、見た限りは平和な場所に飛ばされ、気持ちの整理が追いつかなかった。
そして目の前には言葉の通じる相手までいる。だが、誰一人としてリリィの存在を知らないらしい。
それに加え、どうしても気になることがあり、三人は後方でひっそりと話を始める。
ミリアム「なんか凄まじく破廉恥な格好をした輩がいるんじゃが・・・」
雨嘉「あんなに肌を出す服、初めて見たかも・・・」
ミリアム「特にあのピンクとオレンジの娘よ。どんな構造した服じゃあれ!?」
神琳「あの四人はマイクを持っていますね。ヒラヒラとした衣装も合わせて、もしかするとアイドルなのかもしれませんよ?」
雨嘉「そういえば野外ステージらしきものもある」
ミリアム「大方、プロデューサーがあくどい奴なのじゃろう。良識ある大人ならあんな衣装で表舞台に立たせんわ」
困惑する三人に、声をかけるクリエメイトがいた。衣乃と仁菜だ。
衣乃「あの・・・、大丈夫ですか?」
仁菜「何か困っているようだけど・・・」
ミリアム「ああすまんすまん、身内で盛り上がってしまったわい・・・。うぇぇぇ!?」
ミリアムは絶句した。だが、それも仕方ないだろう。
眼前にいた少女は獲物を狙う目つきで手をわなわなと震わせながら、口からよだれを垂らし、息をハアハアと切らしていたのだから。
リリィに興奮して鼻血を出してしまう仲間や、特定の人物に対する愛情をまるで隠さない仲間ならミリアムも知っているが、彼女らは最低限の礼節とお淑やかさは常に保っている。
だが目の前の少女たちはどうだろう。品性すら投げ捨てて、邪な欲望を包み隠さず迫ってくるではないか。
そんな同年代の人物を初めて彼女は見たのだ。
衣乃「お嬢ちゃん可愛いねぇぇぇ!!!」
仁菜「あっちでお姉ちゃん達とイイことしない・・・?相談にも手取り足取り乗るよぉ!」
ミリアム「来るな下郎!!それに勘違いしているようじゃが、多分お主らとわしはそんなに歳が離れておらんぞ!?」
衣乃「それはそれでギャップ萌えですぅ!!」
仁菜「へへ、へへへ・・・、嗅いだことのない女の子のニオイ・・・」
はゆ「そんな、はゆという者がありながら・・・」
ロコ「こらぁ!!仁菜の浮気者ぉ!!」
神琳「あらあら、早速仲良くなって羨ましい限りですわ」
ミリアム「これは仲良しとは言わん!はよ助けんかい!!」
そんな様子を見守る神琳に、天然の入った二人が話しかける。
ココア「ねえねえ、あなたの名前は?」
神琳「これは申し遅れました。わたくしは郭神琳(クォ シェンリン)と申します。以後お見知りおきを」
はゆ「すごい、立ち振る舞いからしてお嬢様だ・・・」
ロコ「いやはゆもお嬢様だろ一応?」
そんなロコの突っ込みも無視し、はゆはあることを神琳に尋ねる。
はゆ「ねぇ、なんで中華鍋を持ってんの?」
神琳「・・・はい?」
はゆ「だってその腕につけてるの中華鍋だよね、ね!?」
神琳のチャームこと媽祖聖札(マソレリック)。
それは白と赤を組み合わせた円形の盾に、大型の刃が取り付けられた形状をしている。
確かにそのフォルムは、見ようによっては中華鍋のようにも見える。
だが、チャームとは文字通りリリィの分身である。自らの血を分け与えて起動させ、生死を共にする相棒・・・。ましてや媽祖聖札は特注品である。
それを中華鍋だの何だのと言われることに、神琳は内心ざわついていた。
ココア「はゆちゃん、きっとあれだよ。旅する武芸中華料理人なんだよ!」
はゆ「おお〜そっか!ココアちゃんあったま良い!!」
神琳「ふふ、もりあがっているところ申し訳ございませんが、この媽祖聖札は中華鍋ではありませんよ」
ココア「え〜でも中華鍋にしか見えないよ?」
はゆ「分かった!こういう形のスノーボードなんだ!」
神琳「スノーボードでもありませんよ〜?」
ロコ「二人ともその辺にしとけ、その人立ち振る舞いは静かだけど、心が多分笑ってない」
チノ「すみません、うちのココアさんが失礼なことを・・・」
そんなやり取りをしている傍らで、雨嘉がロコとチノのことを見つめていた。
どこか恥じらいを持って、もじもじとした様子だ。
チノ「どうかされましたか?」
雨嘉「え、あの、ええと・・・」
ロコ「何だハッキリとしないなあ」
雨嘉「ええと、その・・・」
神琳「ふふ、雨嘉さん。言葉は紡がなければ届きませんよ」
雨嘉「分かった・・・」
一度深呼吸をする雨嘉。そしてゆっくりと、だがハッキリと言葉を紡いだ。
雨嘉「・・・二人とも、可愛い」
チノ「えぇ!?」
ロコ「い、いきなり何を言い出すんだ!?」
雨嘉「ごめんなさい・・・。でも、一目見たときから仕草が愛らしいなって、そう思ったの」
神琳「ふふ、その調子ですよ雨嘉さん」
王雨嘉(ワン ユージア)。
本人は謙遜するが、至って優秀なリリィである。
内向的で口下手な彼女にも、小動物的な愛らしいものが好きという性分があった。
そして一度決心すると、まっすぐそこに突き進むのも彼女の特徴である。
雨嘉「手、握って良い?」
ロコ「そりゃまあ」
チノ「構いませんが・・・」
そう言ってしゃがみ、二人の手を取る雨嘉。その顔はほころんでいた。
雨嘉「ありがとう。どことも分からない場所だけど、少し落ち着くことが出来た・・・」
その直後、彼女はバランスを崩して倒れ込んでしまう。
ちょうど、チノとロコを押し倒す形だ。
雨嘉「ご、ごめんなさい!怪我していない?」
チノ「は、はい」
ロコ「何ともないから心配しないでくれ」
雨嘉「良かった・・・」
互いの息を感じるほどに、顔が近い体勢。
三人とも頬を赤らめ、何とも言えない空気が流れる。
雨嘉「・・・ごめん!」
そういうと雨嘉は、二人をぎゅっと抱きしめた。
神琳「あら大胆」
チノ「!?!?」
ロコ「お、おおい唐突に何してるんだ!?」
雨嘉「ごめんなさい。でも二人とも本当に可愛くて、気持ちが抑えられなくなって・・・」
そう儚げにつぶやく彼女に、二人もドキッとさせられてしまう。
雨嘉『楓が梨璃に抱く気持ちが分かる気がするなあ・・・』
チノ『何でしょう。今まで関わったことのないタイプの方です。でも、悪い気はしません・・・』
ロコ『ビックリして気づかなかったけど、この娘けっこう胸大きいな・・・。それにスラーっとしてて綺麗で、良い香りもして・・・。何だか落ち着く』
ティッピー「ふーむ」
ティッピーがもう一方を見やる。
ミリアム「やめろぉ!やめるんじゃあ!!」
衣乃「良いではないか〜、良いではないか〜」
二菜「ちょっとだけ、ちょっとだけならセーフだから、ね?」
ミリアム「それは犯罪者の理屈じゃ痴れ者!」
ティッピー「・・・何がこの差を生むんじゃろうなあ」
ココア「ヴェアアアアアアアアチノちゃん取られるぅぅぅ!!!」
神琳「もう、妬けちゃいますよ雨嘉さん。・・・後で二人きりに、ね?」
雨嘉「・・・ありがとう、神琳」
一方その頃、神殿内でも騒ぎが起こっていた。
二水「ふえええ〜、何で私たち捕まってるんですかあ〜!?」
ジンジャー「何か言ったらどうなんだ、ええ?」
鶴紗「だからさっきから事情は話してるだろ。そっちが信じないだけだ」
アルシーヴ「神殿に戻ってきた途端にこれか・・・」
ソラ「困ったわね・・・。嘘を言っているとも思えないんだけど・・・」
梅「・・・あはは」
梅たちもまた、無事にエトワリア辿り着いていた。
だが運の悪いことに、降り立った場所は女神の間だった。
エトワリアの最重要箇所に突如侵入してしまった三人は、驚く女神をよそに、ジンジャーらに捕縛されてしまったのである。
リリィの身体能力を駆使すればこの場を逃げ出すことも可能だろう。
だが、自分たちはヒュージを追ってきたのであって、混乱を招きに来たわけでは無い。
その意識が、彼女たちを敢えてここに残らせていた。
だが一方で、いつまでも捕まっているわけにはいかない。そこで事情を説明したのだが・・・。
ジンジャー「いや信じてやりたいのは山々だけどよ、そんなクリエメイトの話聞いたことないんだよ」
鶴紗「だから何だよクリエメイトって。こっちもあなた達が何を言っているかさっぱり分からないんだけども」
二水「鶴紗さん、そんなケンカ腰になっちゃダメですぅ〜!」
ジンジャー「さっきから説明はしてるだろ。それ以前に、武器持った見知らぬ奴らがいきなりソラ様の所に侵入したんだ。こっちとしては縛らざるを得ないんだよ」
梅「うーん、筋が通っているのはあちらさんだよな・・・」
にらみ合う両者。
互いに生きる世界の前提が異なるため仕方ないのだが、まるで話が噛み合わない。
アルシーヴ「平行線だな」
ソラ「でもあの娘たちがクリエメイトでないのは本当よ。リリィにヒュージ・・・、そんなものが登場する聖典はどこにもないの」
アルシーヴ「公務をサボって聖典の最新刊を読まれるソラ様のことだ。本当のことなのだろうな・・・」
ソラ「ちょっとアルシーヴ!」
聖典と一口にいっても、その中には多種多様な世界が含まれる。
解釈の分かれるところではあるが、中には魔法少女が運命に抗う世界や、巨大ロボットの登場する世界まであるのだ。
だが、目の前の少女たちは、そのいずれにも該当しなかった。
アルシーヴ「何にせよ、こちらは未知の怪物騒ぎがある上に、新たな敵まで確認されている・・・。貴様らを解放するわけにはいかん」
二水「未知の怪物!?まさかそれって・・・!」
鶴紗「それがヒュージだったら、ここでこんな事をしている場合じゃない・・・!」
梅「梅たちが限りなく怪しいことは分かる・・・。でも全部本当のことなんだ。このままだとこの世界も手遅れになる!頼む、梅たちは奴らと戦うために来たんだ!」
鶴紗「先輩・・・」
ソラ「・・・」
緊張が張り詰める中、騒ぎを聞きつけある人物が駆けつけた。
シュガー「話は聞いたよ〜。そこにいるのがあやしい奴ら?」
鶴紗「・・・!!」
鶴紗は見てしまった。
彼女の揺れ動く、ふさふさとした三角形の耳を。
それもつけ耳などではない。本物だ。
鶴紗「ああ、ああ・・・」
下をうつむき、必死に震えを止めようとする鶴紗に、二水が声をかける。
二水「ああああ鶴紗さん、こらえてください!!」
梅「そうだゾ!ここでそれを解き放ったら余計ややこしいことに!!」
鶴紗「分かってる・・・、分かってるけど・・・!」
強い衝動に駆られる鶴紗。
明らかに挙動不審なその様子に、一同が警戒を強める。
クロモンたち「くー!くー!」
ジンジャー「一体何をするつもりだ!」
シュガー「ふぇ!?なになにどうしたの?」
アルシーヴ「ソラ様!ここはお下がりください!」
ソラ「え、ええ!」
やがて鶴紗がぼそりと呟く。
鶴紗「ごめん先輩、二水、もう限界」
そう告げると、彼女は縄を強引に引きちぎる。
そしてふらりと、だが素早い動きでシュガーに近づいた。
シュガー「え、ええ!?」
アルシーヴ「しまった、狙いはシュガーか!」
ジンジャー「逃げろシュガー!」
だがシュガーが逃げ出す暇もなく、鶴紗はその頭を鷲づかみにする。
あまりの気迫に誰も動けないでいた。
鶴紗「わしゃわしゃわしゃわしゃ!!よーしよしよしジッとしてて良い子でちゅね〜。わーしゃわしゃわしゃ!!」
シュガー「や、やめれ〜!」
ソラ「・・・はい?」
鶴紗「こんなネコ耳少女、愛でないわけにはいかないにゃあ〜!」
シュガー「だぁ〜!シュガーのこれはキツネ耳だよ!」
鶴紗「そうなのかにゃ?でも可愛いからモウマンタイだにゃあ〜!!」
シュガー「うわあああ〜!」
梅「止められなかったか・・・」
二水「ああもうおしまいですぅ!!私たちここで処刑されて一生を終えるんだあ〜!!」
ソラ「・・・何これ」
安藤鶴紗は無愛想な少女である。
だが、そんな彼女も猫や猫耳を前にすると、人が変わったように弾けるという特徴があった。
満面の笑みでシュガーの頭を撫でる鶴紗。
それを嘆くリリィたち。
突然の出来事に硬直する神殿の面々。
混沌とした空気が、場を包んでいた。
鶴紗「お腹すいてないかにゃあ?何なら猫缶あるけどどうかにゃあ?」
シュガー「それ人間の食べ物じゃないでしょう!シュガーは甘いお菓子が好きなの!!」
鶴紗「う〜ん、それじゃあ・・・」
鶴紗は懐から何かを取り出す。
鶴紗「携帯食のチョコバーだにゃ。でもカロリー消費の激しいリリィ用だから凄く甘いけど大丈夫かにゃ?」
シュガー「甘いものならドーンとこいだよ!それじゃ遠慮無くいただきま〜す!」
ジンジャー「だあ待てシュガー、ワケわからんものをホイホイ食べるんじゃない!」
そんなジンジャーの忠告を無視してチョコバーを頬張るシュガー。
やがて彼女に変化が訪れる。顔を真っ赤にして頭から湯気が出始めたのだ。
ジンジャー「くそっ!やっぱり毒か!」
シュガー「違うよ!これは・・・!」
やがてシュガーの頭から湯気がボン!と弾ける。
シュガー「これ凄いよ!なんだか力がみなぎってくるみたい!!」
二水「百由様特性のブレンドですからね。カロリーも疲労回復効果も凄いんです」
梅「でもそれをバクバクいけるこの娘も凄いなあ」
鶴紗「まあ細かいことは省いても、気に入ってもらえたみたいで良かったにゃあ」
シュガー「うん!ありがとう!ほうびに頭をわしゃわしゃする権利をあたえよう〜」
鶴紗「感謝感激雨あられだにゃあ〜」
そんな様子を見ていたジンジャーが、思わず笑い出す。
ジンジャー「ぷくく、うわあはっはははは!!!」
アルシーヴ「ジンジャー?」
ジンジャー「いやすまんすまん。でも、何だかコイツらが悪い奴らとは思えなくてさ」
ソラ「アルシーヴ、私からも良いかしら」
アルシーヴ「なんでしょう、ソラ様?」
ソラ「彼女たちはクリエメイトではないし、クリエの力も感じない・・・。でも、それに限りなく近い、暖かな力を感じるの」
アルシーヴ「根底にあるものは、クリエメイトと同じであると?」
ソラは静かに頷く。
ソラ「私たちには荒唐無稽に思えるけど、きっと本当のことを言っているのよ」
アルシーヴ「ソラ様・・・」
ジンジャー「なあ、アルシーヴ・・・」
アルシーヴ「・・・己の信じたとおりにするんだ、ジンジャー」
ジンジャー「ありがとな!」
そういうとジンジャーは、自ら梅と二水の縄をほどきに行く。
ジンジャー「・・・さっきまですまなかったな。マイにフミだっけ?改めて話を聞かせてくれないか?」
二水「・・・信じてくれるんですか?」
ジンジャー「正直、今でもおまえ達の話はピンとこない。でも、目の前でシュガーを愛でてるあいつや、その仲間が嘘をつくとも思えないからな」
梅「あはは、怪我の功名ってやつかな」
梅たちは自分たちがここまで来た経緯、そして置かれた状況を改めて話し始める。
それをアルシーヴ達は静かに聞いていた。
アルシーヴ「すると山の噂も、そのヒュージとやらが関係していると?」
二水「確証は持てません。でも、ワームホールを通る際にギガント級と私たちとで時間のズレが生じた可能性はあります」
梅「先にエトワリアに着いたギガント級が、その山を寝ぐらにしているのかもな」
ジンジャー「そのヒュージっていうのはそんなに強いのか?」
二水「通常兵器による攻撃はまず効果が見込めません。クリエの力がどこまで通じるかは未知数ですが、過度な期待はしない方が良いと思います」
梅「おまけに人間を見たら真っ先に殺しに来る。他の何を差し置いてでも」
アルシーヴ「・・・我々は選択を誤ったのかもしれない」
梅「どういうことだ?」
ジンジャー「山の調査に仲間を一人で行かせちまったんだ。加えて、山向こうの奴らを迎えに数名を別に送り込んじまった・・・」
アルシーヴ「皆手練れである故、そう簡単にやられはしないと思うが・・・」
鶴紗「心配だな。私たちも今すぐ追いかけたいけど・・・」
二水「あ、元に戻ってる」
そんな会話をしていると、誰かがまた、息を切らしてアルシーヴの元へ駆けてきた。
フルーツタルトの元にいたはずのチノとココアだ。
ソラ「どうしたの!?そんなに息を切らして!?」
チノ「たたたた大変です!!」
ココア「見たこともない魔物が平原にわんさかと出てきたんだよ〜!!」
アルシーヴ「!!」
ティッピー「ロボットみたいな見た目をしとるが、ありや間違いなく生き物じゃ」
チノ「音楽祭の会場を滅茶苦茶にした挙げ句、私たちに襲いかかってきたんです!!」
ココア「でも、見たこともない娘たちがちょうどそこにいて、みんなを助けてくれたの」
二水「その方たちって、どんな姿をしていたんですか!?」
梅「もしかすると、梅たちの仲間かもしれない!」
そんなリリィの姿を見て、ココアが叫ぶ。
ココア「そう!こういう格好をした不思議な三人が助けてくれたんだよ!!」
チノ「一人はオッドアイのお淑やかな方で、もう一人は白い格好の儚げな方・・・。後はツインテールで、古風な話し方をする・・・」
鶴紗「神琳に雨嘉、ミリアムだな」
ティッピー「やはり仲間なんじゃな」
梅「頼む、梅たちをそこに連れて行ってくれ!きっと三人だけで必死に戦っているんだ!!」
アルシーヴ「・・・分かった。ただし、私とジンジャーも同行する。それは絶対条件だ」
二水「分かりました。お二人ともよろしくお願いします!」
ジンジャー「おまえ達の武器だ。持って行け」
鶴紗「・・・感謝する」
アルシーヴ「チノ、そしてココア。ここに来たばかりで申し訳ないが、里に戻ってクリエメイトたちにこの事を伝えるんだ。おそらく総力を平原に結集させる必要がある!」
チノ「分かりました!」
ココア「もう一踏ん張りだよ!」
ソラ「私も水晶のテレビを通じて、呼びかけてみるわ!」
アルシーヴ「頼みます!」
そう言ってアルシーヴは転移のための魔法を用意する。
その中に入った一同は、やがて姿を消し、気がつけば平原へと辿り着いていた。
鶴紗「便利だなこれ」
アルシーヴ「まだ限定的な距離でしか運用できないがな」
そんな話をしていると、眼前に驚くべき光景が飛び込んできた。
ヒュージとウツカイの大群が里の方向へ迫っていたのだ。
二水「何ですかあの数!?!?」
梅「それに、例の特型までいるゾ!」
ジンジャー「あれはヒュージじゃねえ、ウツカイっていうこっちの世界のバケモンだ!でも何でそれがヒュージと!?」
鶴紗「詮索は後、あんな数が居住区に入れば大惨事になる!」
シュガー「少しでもここでやっつけないと!」
すると一同の元に、リリィ達にとっては見慣れた顔が飛び込んできた。
雨嘉「梅様!それに二水と鶴紗も!」
神琳「皆さん良くご無事で!」
梅「雨嘉、神琳、それにミリアムも!」
二水「あの、梨璃さん達は・・・?」
ミリアム「すまん、こちらには・・・」
二水「そんな・・・」
鶴紗「隊長たちなら大丈夫。きっと私たちの所に戻ってくる」
梅「ああ、あの三人がそう簡単に倒れるわけがない!」
そういうと梅はアルシーヴの方に向き直る。
梅「今から梅たちはフォーメーションを組む!だからクリエメイトのみんなには、そのサポートをしてほしいんだ!」
アルシーヴ「しかし、おまえ達だけを矢面に立たせるのは!」
雨嘉「数は多いけれど、この規模と戦うのは初めてじゃない」
神琳「皆さんとは共に戦う仲間として、互いに背中を預け合いたいんです」
鶴紗「差し出がましいけれど、決断は早くしたほうが良い。もうあなた達の仲間が持ちそうにない・・・!」
見ると、音楽祭の準備をしていたクリエメイトたちが、懸命に応戦しているが、相手の規模と強大さの前に、全く戦闘になっていなかった。
ロコ「おいなんだよこれ!まるで攻撃が効いてないぞ!?」
はゆ「こ、こんなの無理だよお・・・」
ヒュージ「!!」
衣乃「はゆちゃん危ない!」
そういって攻撃を防ぐ衣乃。だが盾が弾き飛ばされてしまう。
更に悪いことに、ヒュージがその盾を文字通り飲み込んでしまった。
衣乃「嘘ぉ!?」
仁菜「これなら・・・、えい!」
仁菜がフラスコを投げつける。
溶液を浴びたヒュージから力が抜けていく。だがそれも長くは持たないだろう。
ロコ「今のうちに逃げるぞ!」
衣乃「は、はい!」
他にも、現地に居合わせたよさこい部や軽音部、チア部らが迎撃を試みたが、どれも似たような結果に終わった。
アルシーヴ「ぐっ・・・!」
二水「私は主に後方支援が担当ですが・・・、それでも、敵の眼前に立つことは初めてじゃありません!」
ミリアム「わしらはリリィじゃ!初めて見る顔じゃろうが、どうかここは信じてくれ!」
アルシーヴ「・・・分かった。こちらも最大限にサポートを行う!」
神琳「感謝いたします」
そこに折良く、里からクリエメイトと七賢者たちが集まってくる。
皆、ココアやチノ、それにソラの話を聞いて駆けつけたのだ。
フェンネル「アルシーヴ様!」
アルシーヴ「フェンネルか!ここに陣と救護所を築く。突破されないよう、ここにいるリリィ達を全力で支援するんだ!」
フェンネル「了解です!」
アルシーヴ「腕に覚えのあるものは前に出て、ウツカイを中心に討伐してくれ!あの怪物・・・、ヒュージには可能な限り手出しするな!」
アルシーヴの号令の元、皆が動き始める。
ようやく配置が済み、きらら達とも連絡が取れた頃に、更なる厄災が舞い込んだ。
地面が突如大きく揺れたかと思えば、遠くで大地が裂け始めたのだ。
フェンネル「アルシーヴ様!あれを!」
アルシーヴ「あれは・・・本当に龍だとでも言うのか?」
大地の裂け目から何かが姿を現す。
それは間違いなく、一柳隊が追っていたギガント級そのものだった。
耳をつんざくような咆哮を立てた後、敵はその背中から何かを射出する。
リリィ達にもお見舞いした、種と泥の爆弾だ。手下を巻き込むことも厭わず、あちこちで派手な爆発が巻き起こる。その一部は後方の救護所にまで届いた。
辛うじて魔方陣を送り、通信を切るアルシーヴ。
その心中には、隠せない焦りが見え始めていた。
第6章 ヤマデブリ(覚悟)
里の手前の平原。今ここでは、敵を里に、ひいては神殿に通すまいと防衛線が張られている。
だが、突然のことに対し動揺しているのと、見ず知らずの敵に対し、クリエメイトたちは押され気味だ。
そんな前線を実質的に支えていたのは、たった六人の少女だった。
あれから爆発に巻き込まれ、フルーツタルトの面々は逃げ遅れてしまった。
衣乃「きゃああああ!!!!」
はゆ「死ぬー!!はゆたちこのままだと死んじゃうー!!」
仁菜「ふぇぇぇ、縁起でも無いこと言わないでぇぇぇ!!」
ロコ「外来生物の駆除とか、アイドルはアイドルでも私らの分野じゃないだろー!!」
刹那、そこに弾けた金属片が降り注ぐ、まともに当たれば全身がズタズタになるだろう。
仁菜「嫌あああああ!!!!」
雨嘉「任せて!」
神琳「はああああ!!」
そこにすかさず、雨嘉と神琳が飛び出す。雨嘉は銃撃で、神琳は自らのチャーム、媽祖聖札(マソレリック)で金属片を弾き飛ばし、四人を守ったのだ。
衣乃「あ゛、あ゛り゛がどぉぉぉぉ〜!!」
はゆ「もうその武器を中華鍋みたいなんて言わない〜!!」
泣きじゃくるアイドルらに微笑み返し、二人が指示を飛ばす。
神琳「ここは私たちが死守します!」
雨嘉「みんなは後方で怪我人の手当を!」
ロコ「わ、分かった!」
陣の後方、ここにはアルシーヴらが待機し、簡単な司令所および救護所を作っていた。
だが、救護の方はともかく、ここにおいて戦闘司令を飛ばしているのは、彼女ではなかった。
二水「10時の方向、敵ヒュージおよび特型・・・じゃなかった、ウツカイが計20!こちらに進行中のため、近くのミリアムさんは迎撃をお願いします!加えて、12時方向のギガント級が炎を吐き出しています。鶴紗さん、今は近づかないようにしてください!」
ミリアム「合点承知じゃ!」
鶴紗「了解。熱くて敵わないなこれ」
二水「・・・」
鶴紗「心配してるの、二水?」
二水「だって鶴紗さん、すっかり傷だらけで・・・」
鶴紗「これは私が自分で志願したこと、だから二水はそっちに集中して。大丈夫、私は必ず戻るよ」
二水「・・・はい!」
紅く目を光らせ、通信を飛ばす二水。
彼女のレアスキルは“鷹の目”。戦場全体を将棋の盤面やゲームのマップのように俯瞰して見渡し、そこにある情報を混乱せず正確に処理できるという能力である。信頼できる味方との連携があって、初めて活きる力と言えるだろう。
救護所の防衛、および戦場の司令塔という大役を、彼女は担っていた。
勿論、そのような大役を果たせるかという緊張が二水にはあった。だが、現状としてこのように自らの任務をしっかりとこなしている。その様子に、アルシーヴは感嘆していた。
アルシーヴ「・・・あの歳で、よくあそこまで」
フェンネル「先ほどの爆発で、怪我を負ったクリエメイトが十数名運ばれてきています。アルシーヴ様、やはりもう・・・」
アルシーヴ「すまないな・・・。だが、先ほど連絡を入れたきららとリリィ達がここに来るまで、そう時間はかからないはずだ。その間に私が前に出る。フェンネル、救護の指揮は任せたぞ」
フェンネル「そんな!アルシーヴ様にもしものことがあれば、それこそ一大事です!ここはわたくしめが!」
アルシーヴ「・・・敵の力が未知数な以上、最も力を持った者が前に出た方が時間は稼げる。頼むフェンネル、分かってくれ・・・」
ぐっと唇を噛みしめるフェンネル。悔しさのあまり、その端から血が流れ出る。
フェンネル「・・・承知しました。でも、必ず戻ってきてください!」
アルシーヴ「分かっているさ。ここで死ぬつもりはない」
そう言うと彼女は、戦線へ駆けていく。
その戦線では、腕に覚えのあるクリエメイトらが粘っている。
だが、ウツカイはともかくヒュージに対しては何ら有効打を見いだせていなかった。
メリー「何なのよコイツら!?殴ったこっちの方が痛くなる・・・!」
ジンジャー「ちくしょう!このままだとバットの方が折れちまう!」
エンギ「泣き言を言うな!ここで我々が倒れたら、里は、神殿はどうなる!?」
シュガー「そうは言ってもげんどってものがあるよ〜」
胡桃「くそっ、“あいつら”みたいにシャベルで一撃とはいかねえか」
やすな「あ、熱!熱い!あちこち燃え残ってる!!」
ソーニャ「なんでお前はこっちにいるんだよ!!無駄に硬いのが取り柄なんだから後方で守り固めてろ!!」
やすな「いや、その腕に覚えがあって・・・」
ソーニャ「言ってろ!!」
そんな中、一陣の風が戦場に吹きすさぶ。
何かがとてつもない速さで駆け回っているのだ。
梅「あはは!ほらほら、そんなモタモタしてると刀のサビだゾ!!」
レアスキル、“縮地”。
文字通り、距離そのものを縮めるかのような高速移動を可能とする、攻防一体のスキルである。
梅ほどの使い手ともなれば、それは瞬間移動しているのとそう違いは無い。
そのスピードを乗せた刃は、並み居る敵をスッパリ切り裂いていく。それは伝承に伝わるかまいたちそのものであった。
エンギ「ヒュージをいとも容易く・・・」
ソーニャ「凄いなアイツ・・・。どんな訓練してきたんだ?」
ソーニャもクリエメイトの中では相当素早い方である。
だが目の前のそれは、そういったレベルを超えているように見えた。
辺りのヒュージを殲滅すると、梅はその場に立ち止まり、ギガント級のいる方向を見やる。
その目は何かを強く心配しているようだった。
ソーニャ「・・・何か心配なのか?」
梅「い、いや、なんでもないゾ!」
ジンジャー「隠さなくても良い。あっちにいる仲間が・・・、鶴紗のことが心配なんだろう?」
梅「・・・鶴紗のことだから、絶対無茶してるに決まっているんだ。可愛い後輩のことを私は放っておけない」
シュガー「だったら行ってあげなよ!鶴紗おねーちゃんの力になってあげて!」
胡桃「こっちはあんたのおかげでヒュージがほとんどいなくなった。ウツカイならアタシらでもやれる!」
梅「・・・感謝するゾ!!」
そう言うと彼女は、縮地で皆の前から姿を消した。
メリー「夢路が好きそうね。ああいうノリ」
やすな「ようし!あとひと踏ん張りだよ!」
ソーニャ「お前が言うと何かムカつく」
やすな「なぜ!?why!?」
ロコ「どうしてアイツらは、見ず知らずの私たちのために、あそこまで戦えるんだ・・・」
衣乃「きっと、クリエメイトの皆さんと同じなんですよ・・・。困っている誰かを放っておけないんだと思います・・・」
はゆ「でも、あの娘たちのはちょっと度を越していないかな・・・」
仁菜「あんな怖い敵、逃げ出したっておかしくないのに・・・。少なくとも私は責めたりしないよ・・・」
ロコ「それでも笑顔だったんだ、アイツらは」
一同「・・・」
アルシーヴ「まだあどけない少女たちに全てを託して・・・、お前はそれでも大人か!アルシーヴ!!」
胡桃「きっとアイツらも、戦わなきゃ生きていけなかったんだ」
エンギ「あの目を見れば分かる。あれは哀しみを知りつつも、それでも前を向こうとする者の目だ」
ジンジャー「そりゃあよ、クリエメイトの世界だって平和な世界ばかりじゃないのは分かる。でもさ、それとはまた違う外様の世界がどんなものかを、こう間近に体験しちまうと、な」
敵の薄い方面、およびウツカイが多い方面をくぐり抜けながら、アルシーヴはようやく最前線に辿り着く。
そこにはあの龍が、否、ギガント級が待ち受けていた。
全身から生やした大量のエトワリウム、無機質な体、黒い肉と触手が蠢く口内、爛々と光る眼、醜く開いた背中の孔。
何より、絶望のクリエを周囲に垂れ流し、それを隠そうともしない素振り・・・。
それはまさしく、許されざる命であった。
ギガント級「!!!!!」
アルシーヴ「くっ、なんて咆哮だ!」
絶望のクリエに頭痛を覚えながら、彼女は岩陰に移動する。
そこであるものを発見した。
アルシーヴ「おい、しっかりするんだ!目を開けろ!!」
鶴紗「・・・ああ、少し意識が飛んでたのか」
そこにいたのは、気を失い倒れていた鶴紗だった。
火傷、打撲、擦り傷に深い切り傷・・・。
一人でギガント級を食い止めていた代償は、大きなものだった。
鶴紗「・・・行かなくちゃ」
アルシーヴ「何を言っているんだ!その出血で動いたら死ぬぞ!」
鶴紗「大丈夫、私は“普通じゃない”から」
アルシーヴ「それはどういう・・・」
そう言い終わらない内に、鶴紗の体に変化が訪れる。
全身の傷が、まるで時を巻き戻すかのように治癒していく。しばらくすると、そこには傷一つ無い彼女が立っていた。
アルシーヴ「・・・その体、何をされたんだ」
鶴紗「察しが良いんだね」
アルシーヴ「腐っても魔術を極めようとする人間だ。それが生まれつきのものじゃないことぐらい、私にも分かる」
鶴紗「今の仲間、一柳隊のみんなに出会う前・・・。汚い大人たちに全身弄くり回されてこうなった」
アルシーヴ「っ・・・!」
鶴紗「最初は・・・、いや、今でもこの体のことは呪いだと思ってる。一生消えない咎、戦犯の娘の証・・・」
それでも、と彼女は続ける。
鶴紗「こんな私のために、泣いてくれた奴が、体を張ってくれた奴らがいたんだ。私は私だって、誰でもない、一柳隊の仲間なんだって」
アルシーヴ「・・・」
鶴紗「誰に強制されたんでもない。ここには私の意思で来たんだ。これが今私に出来る精一杯のこと。もう嫌なんだ、こんな奴らのために誰かが涙を流すのは!」
そう言って彼女は、頭上のそれを睨み付ける。
鶴紗「だから止めないでくれ」
アルシーヴ「・・・そんな足取りで、一人で行こうとしてるのか」
鶴紗「・・・」
いくら傷が治るといっても、心までは、精神までは治らない。
憔悴した彼女の足取りは、誰が見てもふらついていた。
アルシーヴ「お前の仲間がそうであったように、私もお前を一人になどさせない!」
鶴紗「でも、あなたが倒れたらこの世界の一大事でしょ?偉い人だってことぐらい、私にも分かるよ」
その言葉に、アルシーヴは思わず岩壁に彼女を押しつける。
アルシーヴ「あまり私を舐めてもらっては困る!!貴様と昔関わった大人が、どんな下衆だったかは推し量れないものがある・・・。だがな、ここにいる私は、少なくとも子供一人を見殺しにするような利口さは持ち合わせていない!!」
鶴紗「あなた・・・」
アルシーヴ「お前が戦犯の娘だというなら、私は咎人そのものだ!かつて大切な方を救おうとするあまり、かけがえのないものを壊そうとしたんだ・・・」
鶴紗「・・・」
やがてアルシーヴは自嘲する。
アルシーヴ「そういう意味では、私も汚い大人だ。お前が最も嫌う人間だ。だがな、それでも私はお前の援護をする。後ろから撃たれようとも、決して辞めたりしないからな!!」
そんな彼女の言葉に、鶴紗はそっと微笑む。
鶴紗「本当に汚い大人は、自分の罪を振り返ったりしない」
アルシーヴ「・・・」
鶴紗「私たちの世界の大人が、みんな百合ヶ丘の人や、あなたみたいだったら良かったのにね」
そこにまた、ギガント級のうなり声が響く。
ついに岩陰が発見されてしまったのだ。
鶴紗「後悔しない?」
アルシーヴ「二度も同じことを言わせるな」
鶴紗「・・・分かった!」
敵と対峙する二人。
そこに銃撃が起こり、何かが素早く舞い込んでくる。
梅「遅れてすまない!ここに来るまで、周囲の敵はあらかた蹴散らしてきたんだが・・・」
そう言いかけながら、梅は二人の様子を見た。
梅「ふふ、なんか良さげな雰囲気じゃないか。先輩嬉しいゾ」
鶴紗「茶化さないでください」
アルシーヴ「成すべき事を成そうとしているだけだ。私も鶴紗も。梅、お前もそうなのだろう?」
梅「もちろん。だから今は・・・」
そういって三人は、眼前の敵を見上げる。
梅「コイツを食い止めるんだ!」
鶴紗「梨璃たちももうすぐ来る。それまで絶対倒れるもんか・・・!」
梅「お、レアスキルか?」
鶴紗のレアスキルはファンタズムといい、ごく近くに起こる未来を垣間見ることが出来るものだ。だが、彼女は静かに首を横に振る。
鶴紗「そんなことしなくても分かりますよ」
梅「・・・ああ、そうだな!」
アルシーヴ「来るぞ、覚悟を決めろ!」
吉村・Thi・梅(声・演:岩田陽葵)
日本人とベトナム人のハーフ。
明るい性格で気遣いも出来る、隊のムードメーカー。
元はベトナムのガーデンで学んでいましたが、ヒュージの襲撃を受け、大切な弟と生き別れてしまった、という過去を持ちます。
演じる岩田さんは高校生の頃から舞台に立つ、生粋の役者さんでもあります。
安藤鶴紗(声・演:紡木吏佐)
無愛想だけれども、根は優しいネコ好きの少女。
アニメ(ゲーム)とそれ以外とで、かなり設定の違うキャラクターでもあります。
父親は軍人でしたが、無謀な戦いを仕掛けて静岡陥落の原因を作ったとして、戦犯の娘という扱いを受けるに至ります(本当は一か八か戦うしかない状況だった)
家族全員と死に別れた彼女は、半ば売り飛ばされるような形でゲヘナに徴収され、そこで身体強化手術を受けさせられた・・・。という流れになっています。
二川二水(声:演 西本りみ)
リリィのことになると興奮し、口が早くなるオタク女子。
学院の新聞部から許可をもらい、校内新聞を独自に発行しています。
各リリィの特製把握、戦術眼などに優れ、レアスキルと合わせて縁の下でこそ力を発揮するタイプ。
演じる西本さんはバンドリでPoppin'Partyのベースも担当されています
投稿を再開します。
この時間帯は7章を投稿し、深夜帯に8章を投稿したいと考えています。
全15章の折り返し地点ですが、お付き合いお願いいたします。
第7章 タンジー(戦いを宣言する、抵抗)
救護所付近もまた戦場となっていた。
戦線から漏れ出た敵を倒すため、二水とミリアム、そして用心棒として待機していたクリエメイトらが応戦していた。
二水「たあああ!!」
ミカン「へえ、あなたやるじゃない!」
二水「そういうミカンさんと桃さんこそ凄いです!特に桃さん、拳でヒュージに応戦するなんて・・・」
桃「こういうわけの分からない敵は、拳に魔力を込めて殴るに限る。とはいえ効き目は薄いけど」
ミリアム「いやいや通じているだけで凄いことじゃ。しかし異世界で本物の魔法少女に会えるとはのう」
リリス「正義の魔法少女が続々と・・・。余は化け物よりこっちの方が恐ろしいかもしれん」
二水「リリィと魔法少女は違うと思いますけど・・・」
シャミ子「いえ、悪いまぞく的なものをぶちころがす点では同じかと・・・」
ミリアム「ならお主みたいな良いまぞくなら問題ないじゃろ」
桃「私もそう思う」
シャミ子「何でしょう、褒められているのにこの敗北感」
そこに魔方陣が展開されていく。ついにきらら達が戻ってきたのだ。
琉姫「転移に随分と時間がかかったわね・・・」
カルダモン「ヒュージから発せられる魔力のせいで、術式が安定しなかったからね」
きらら「遅れた分を早く取り戻さないと!」
梨璃「二水ちゃん!それにミリアムちゃんも!!」
二水「梨璃さん!それに夢結様に楓さん!」
楓「無事でしたのね、ちびっこコンビ!」
ミリアム「ちびっこいうな!」
夢結「良かった・・・。二川さん、他のみんなは?」
二水「神琳さんと雨嘉さんなら、おそらくこちらにもうすぐ・・・」
神琳「皆さん!ご無事だったんですね!」
雨嘉「また会えるって、信じてた・・・」
二水「神琳さんと雨嘉さんは見ての通りです。鶴紗さんと梅様はギガント級の足止めに・・・」
夢結「梨璃」
梨璃「はい!体勢を整えて、すぐにでも向かいましょう!」
そんなやり取りを、恍惚の眼差しで見つめる者と、更にそれを見つめる者がいた。
かおす「あばぁ〜。一柳隊の皆さんが続々と〜」
雨嘉「ネコ耳フード、可愛い・・・」
楓「ほらお二人とも、惚けている場合じゃありませんわよ!」
ミリアム「なんじゃあいつ、わしらのこと知っとるのか?」
夢結「込み入った話だから後にするわね」
ところで、とランプが尋ねる。
ランプ「アルシーヴ先生はどこに?」
カルダモン「そういえば姿が見えないね」
そこにフェンネルが駆けてくる。遠くからでも、その切羽詰まった表情が分かる。
フェンネル「カルダモン!あなた無事だったのね!」
カルダモン「おかげさまで、と言いたいけれど、リリィの皆がいなかったらどうなっていたことか」
フェンネル「・・・そう、そちらも大きな借りを作ってしまったのね」
そう言ってフェンネルは呼吸を整える。
フェンネル「・・・アルシーヴ様は、化け物の親玉を食い止めに行かれたの」
カルダモン「何だって!」
二水「こちらからも観測できます。三人とも持ちこたえてはいますが、急いだ方が良いかと!」
ミリアム「しかし、あのギガント級をどう食い止める?」
神琳「ノインヴェルト・・・、とはいかないでしょうね」
雨嘉「敵はだいぶ掃討したけど、この数だと間違いなく妨害される」
楓「インチキバリアも健在なのでしょう?弾は残り一発である以上、慎重に向かうべきですわ」
二水「それに、鶴紗さんは気力も体力も限界です。まともにノインヴェルトに参加できる状態じゃありません」
梨璃「怪我人も多い・・・。今私たちが散開して、ここが襲われでもしたら・・・」
頼みのノインヴェルトが使えない以上、他の方法を模索しなければならない。
そこで夢結が、一計を案じる。
夢結「考えがあるの」
彼女の案を聞く一柳隊。そこに楓が率直な意見をぶつける。
楓「夢結様、やれますの?」
夢結「鶴紗さんに梅、それにこの世界の皆が粘っているの。私だけ無様を晒したりなんてしないわ」
それでも、と彼女が付け加える。
夢結「梨璃、もしもの時は頼める?」
梨璃「もちろんです。だからお姉様は思いっきり戦ってください!」
夢結「ありがとう梨璃・・・。ミリアムさん、この作戦の要はあなたです。必ず成功させて!」
ミリアム「ああ、大船に乗ったつもりでまかせんかい!」
話がまとまった一柳隊が、クリエメイトに打診する。
夢結「これからミリアムさん、楓さん、雨嘉さん、神琳さん、そして梨璃とで、ギガント級にアタックを仕掛けます。二川さんは後方待機!私は敵残存勢力を一掃します!」
桃「待って、一人でやる気?」
きらら「あの時、共に戦う仲間だって確かめ合ったじゃないですか!」
梨璃「みなさん、本当にお優しいんですね・・・。でも、今はお姉様に従ってほしいんです。お願いします!」
そんな二人の話を聞いて、何をするのか察したクリエメイトが皆に呼びかける。
翼「ここは二人の言うとおりにして」
ミカン「でも!」
かおす「そうじゃないんです!その、私たち自身のためにも、指示に従った方が・・・」
小夢「多分、“あれ”を使うんだよね?」
琉姫「お願いみんな!伊達や酔狂でああ言っているわけじゃないの!」
まんが家の必死の説得に、後方へ下がるクリエメイトたち。
それを見た夢結と梨璃が微笑む。
夢結「ありがとう、みんな」
梨璃「ではみなさん、行ってきます。一柳隊、散開!」
そういって駆け出すアタックチームの面々たち。
それを見送った夢結は、一つ深呼吸をする。
夢結「忌々しいこの力・・・、それでも、皆を救えるのなら!」
そして彼女は叫んだ。
夢結「ルナティックトランサー!!」
直後、彼女の周りに瘴気が走る。
リリス「うおお何じゃあ、この禍々しい魔力は!?」
シャミ子「ごせんぞ、あれ!」
見ると、彼女の髪は白に染まり、目は血のような紅に輝き始めている。
負のマギをこれでもかと周囲に放つその姿は、恐ろしくもどこか神秘的だった。
ミカン「あれって・・・」
桃「闇堕ち・・・」
カルダモン「かおす達の言っている意味がようやく分かった・・・」
フェンネル「あれは抜き身の刃そのものね・・・」
やがて獣のような、喉を潰さんとするばかりの咆哮を上げ、夢結は戦場へ跳ぶ。
直後、各所で爆発が巻き起こり、敵がまとめて弾け飛んでいった。
うつつ「え、なにあれこわい」
二水「夢結様のレアスキル、ルナティクトランサーです・・・」
かおす「体内に、ヒュージのそれと同じ負のマギを宿して戦うんです」
マッチ「おい!それって絶望のクリエを宿して戦うようなものじゃないのか!?」
小夢「見ての通り、凄まじい力と引き換えに、理性が弾け飛んじゃうの・・・」
ランプ「暴走・・・」
琉姫「彼女、いつもあの力に苦しんでいたわ。それで精神も不安定になったりして・・・」
きらら「それでも、皆を巻き込むまいとしてくれたんですね・・・」
保護する対象だからではなく、戦う仲間だからこそ、敢えて皆を遠ざける。
その不器用な優しさを、一同はひしひしと感じていた。
シャミ子「でも、何か力になってあげられないんですか?」
リリス「あんなもの、そう長くは持たんぞ」
かおす「・・・梨璃さんを信じてください」
リリス「梨璃とは先ほどののちみっ子か?何だか頼りなく見えるが・・・」
二水「梨璃さんは頼りなくなんかありません!」
そう真っ先に反論したのは、共に生死を分かつ仲間であった。
二水「梨璃さんの行動力とひたむきさに、これまで夢結様は、いいえ、一柳隊は救われてきました。いつだって梨璃さんの周りに人が集まって、どんな困難も成し遂げてきたんです!」
その後に続くように、まんが家たちが言葉を添える。
翼「物語として見てきたから分かる。彼女を迎えに行けるのは梨璃だけなんだ」
琉姫「あの二人は心から強く結ばれているの」
小夢「とらわれのお姫様が待っているのは、いつだって心に決めた王子様だよ!」
リリス「王子と姫が逆の気もするが・・・」
小夢「いやいや、王子様は梨璃ちゃんだよ!」
二水「そこまでハッキリされると、こちらが恥ずかしくなってきます・・・。でも、間違っていない気もします」
かおす「はい!そんな梨璃さんだからこそ憧れるんです!」
それを聞いたリリスがふぅとため息をつく。
リリス「おまえ達がそこまで言うなら、信じて待つかの」
うつつ「・・・よくそこまで、離れた仲間を信じられるね」
二水「ふふ、まだ会って間もないですけど、皆さんもそうなんじゃないですか?」
きらら「はい!だから今もこうして戦えるんです!」
そこにまた、敵の一群が押し寄せてくる。
夢結の攻撃を辛うじて逃れたものが集まってきたのだ。
だが、状況に反して二水は笑顔だった
二水「私が・・・、いいえ、私たちが任されたのは救護所の防衛です!皆さん、改めて力を貸してください!」
フェンネル「言われなくても!」
桃「邪魔する敵は拳一つで・・・、とは行かないけどダウンさせるよ」
ミカン「魔法少女のすることは、どの世界だって変わらないわ!」
シャミ子「まぞくも力を貸します!」
かおす「まんが家もです!」
きらら「援護は任せてください!」
二水「・・・皆さん、ありがとうございます!!」
二水を中心に敵へ立ち向かう一同。
戦闘の終わりも近い。
その頃、梅たちはギガント級を相手に粘っていた。
だが二人はともかく、鶴紗は既に限界を超えていた。
鶴紗「はあ、はあ・・・」
梅「くそっ!やっぱりバリアは健在か!」
以前の傷がまだ癒えていないのだろう。敵のバリアは以前よりも弱まっているようだ。
それでも、決定打に欠ける状況は変わらない。
アルシーヴ「私が持ちうる力を全てヤツにぶつける。だがその間は動けない、すまないが・・・」
梅「分かっているさ、とことん引きつけてやる!」
鶴紗「攻撃を防ぐぐらいなら、まだ出来る・・・!」
梅が縮地を用い、敵の視界を釘付けにする。
敵の攻撃は苛烈さを増すが、それを彼女は紙一重でかわしていく。
アルシーヴへ逸れてきた瓦礫や破片は、鶴紗が防いでいった。
アルシーヴ「・・・今だ!!」
アルシーヴの背後に、巨大な魔方陣が展開される。
火、土、風、水・・・。それら四元素を、月と太陽の力でまとめ上げる。
そうして出来上がった魔法球は、まるで惑星とその周囲を回る衛星のようにも見えた。
アルシーヴ「これで・・・沈めぇぇ!!!」
巨大な魔法球を放つアルシーヴ。直後に彼女は膝をついた。
これを脅威だと判断したのだろう。敵はすかさずバリアを展開する。
やはりそれは緑、赤、青、茶からなる、四枚の板で構成されていた。
やがて力と力がぶつかり合い、辺り一面を閃光が包む。
梅「くぅ・・・!」
鶴紗「眩しい・・・」
やがて光が収まると、そこにはギガント級が佇んでいた。
アルシーヴ「これでも届かないのか・・・!」
鶴紗「いや、よく見て」
見ると、四枚のうち赤と青のバリアが完全に破壊されている。残る緑と茶に関しても、破壊こそされていないがヒビが入っていた。
すなわち、壊れたバリアを縫って、アルシーヴの一撃は敵に届いていたのだ。
マギではなくクリエによるものとはいえ、それは敵を悶えさせるには十分だった。
梅「ノインヴェルトでも届かなかった一撃を・・・」
鶴紗「決めたんだよ、あなたが」
アルシーヴ「そうか・・・。そうなのだな」
やがて残ったバリアも明滅し、消えていく。
それを保てるだけのマギは、もうギガント級には残されていなかった。
苦し紛れに、三人へ突貫するギガント級。だがそこに一斉射撃が加わる。
梨璃「鶴紗ちゃん!梅様!」
梅「梨璃!それにみんなも!」
鶴紗「夢結様は・・・?」
楓「夢結様なら今ごろレアスキルで大暴れしてますわ。まったく、あちらももこちらも無茶する方ばかりなんですから」
神琳「あなたがアルシーヴさんですね?」
雨嘉「二人とも、肩を貸すよ」
肩につかまり、後方へ運ばれる鶴紗とアルシーヴ。
その目には、ある種の安堵が浮かんでいた。
やがて、残ったメンバーが敵の方へ向き直る。
ミリアム「よおし、それではさっそく・・・わわ!?」
そこに突如、弓矢の雨が降り注ぐ。
見ると、そこには幼げな少女が佇んでいた。
ヒナゲシ「まさか、あんなにいたヒュージとウツカイをほとんど倒すなんて・・・!」
楓「その口ぶり、ご自分が黒幕だと言っているようなものですわ」
ヒナゲシ「見くびってた。まさかリリィがここまでの強さだなんて、そんなこと知らなかったの。もう少しでみんな踏みにじって、消すことができたのに!!」
梨璃「あなた、自分が何を言っているのか分かっているんですか」
梅「故郷を踏みにじられ、大切な誰かと離ればなれにされる・・・」
神琳「そんなことをしようなどと、よくもまあ私たちの前で言えましたわね」
誰も目が笑っていなかった。
大切な誰かと生き別れた者。
故郷を奪われた者。
目の前で親しい人間を喪った者。
時代の裏で翻弄され、尊厳を踏みにじられた者。
リリィとは大なり小なり、そうした者たちの集まりである。
ヒナゲシはそうした者たちの前で、言葉にしてはいけないことを口にし、してはいけないことをしたのだ。
アルシーヴ「貴様が真実の手か・・・!」
雨嘉「許さない・・・!」
ミリアム「とっ捕まえて洗いざらい吐かせてやるわい!」
鶴紗「お前みたいなやつ、反吐が出る・・・!」
ヒナゲシ「何よ、自分たちばかり不幸ぶって!!私だって、あの方たちに・・・、お姉様に見捨てられないためにはこうするしかないの!私の希望は絶対に消させない!!」
楓「はん!こんな化け物があなたの希望ですって?ちゃんちゃらおかしいですわ!!」
その時である、余力を僅かばかり取り戻したギガント級が動き出したのだ。
ミリアム「いかん!このままだと逃げられるぞ!」
神琳「させません!」
ヒナゲシ「それはこっちの台詞なの!!」
再び、弓矢の雨が降り注ぐ。
防ぐだけならどうと言うことはないが、動けない二人を庇いつつ、ギガント級を追うとなると話は別だった。
楓「ええい忌々しい!!」
雨嘉「このままじゃ・・・!」
ヒナゲシ「あはは、いい気味なの・・・、ふぇ?」
その時、ヒナゲシは悪寒を感じた。
何かが背後に迫っている。
振り向くとそこには、白い髪と紅い瞳をした少女が、武器を引きずり佇んでいた。
どれだけの敵を屠ってきたのだろう。全身が、チャームが敵の体液で染まっていた。
ヒナゲシ「ひ・・・!」
本能的に駆けだした彼女を、夢結はうなり声を上げながら追う。
苦し紛れにウツカイを呼び寄せるが、時間稼ぎができるかも怪しい。
ミリアム「状況は好転したが、このままだとあやつ殺されかねんぞ!?」
梅「色々聞き出したいことがある。それは駄目だ!」
梨璃「それに、お姉様を人殺しになんてさせません!」
雨嘉「なら、速やかに作戦を・・・!」
楓「ええ、元よりそのつもりでしてよ!」
神琳「では、手筈どおりわたくしが・・・。テスタメント、参ります!」
神琳のレアスキル、テスタメント。
これは任意の術式やレアスキルの効果範囲を拡大させる力を持つ。
彼女が指定した先にいたのは・・・。
神琳「梨璃さん、お願いします!」
梨璃「神琳さん、ありがとう!みんな、いくよ!」
梨璃の周囲を暖かな光と空気が包む。
ヒュージの放った負のマギを正のものへ転換し、味方へ分け与えているのだ。
仲間に力がみなぎる一方で、正のマギに当てられたギガント級が苦しみ出す。
ミリアム「来たわい来たわい!」
アルシーヴ「これは、あれほど濃かった瘴気が晴れて・・・。頭痛も治まったようだ」
楓「梨璃さんのレアスキル、“カリスマ”の力ですわ!」
雨嘉「邪悪なマギを浄化して、みんなに分け与えるの」
梅「今回はテスタメントで範囲を広げたのか。これなら夢結にも届く!」
鶴紗「この暖かさ、梨璃そのものだな」
仲間に力を分けたところで、梨璃が一同の方を見やる。
梨璃「皆さん・・・!」
梅「何も言わなくていい、迎えに行ってやれ!」
雨嘉「梨璃は立派に役目を果たした」
楓「後はお任せあれ!」
梨璃「ありがとう!」
そう言うと彼女は、夢結のいる方へ跳んでいった。
その傍ら、必死に逃げようとするギガント級を、梅と雨嘉が食い止める。
梅「逃がすもんか!」
雨嘉「これが私の役割!」
高速の一撃と正確無比な射撃に、敵が釘付けになる。
楓「受け止めなさい、ちびっこ!!」
ミリアム「ええいちびっこいうな!・・・こい、楓・J・ヌーベル!!」
互いにチャームをぶつけ合う二人。
楓のレアスキルは“レジスタ”といい、味方のマギ純度を上げ、その身体能力とチャーム、すなわち武器のスペックを向上させる力を持つ。
カリスマとレジスタを重ね、それをミリアムが束ねる。そして必殺の一撃を放つのが今回の作戦である。
ミリアム「いけるぞ、フェイズトランセンデンス!!」
そう叫んだ彼女のチャームに、巨大な光刃が形成されていく。
それをミリアムは軽々と持ち上げ、敵の遥か上空まで跳んだ。
ミリアム「食らうがいい!!」
巨大な光の斧が、敵の喉元に深々と食い込む。
あらん限りの悲鳴を上げ、体液をまき散らすギガント級。
背中から種の爆弾を滅茶苦茶に放ち、全身からもうもうと霧を噴出させる。
爆発と霧が収まると敵の姿はなく、代わりに巨大な穴が開いていた。
雨嘉「逃げられた!」
楓「ですが、あれだけの深手を負ったんです。当分の間は安静が必要でしょうね」
ミリアム「何もかもが唐突じゃったしのう、一度腰を落ち着けて布陣を整え・・・」
そう言ってその場に倒れ込むミリアム。
それを梅が支えた。
梅「カッコよかったゾ、ミリりん」
ミリアム「わしゃあミリアム・ヒルデガルド・V・グロピウスじゃ、変なあだ名で呼ぶでない・・・。はあ、もう口を動かすのも面倒だわい」
ミリアムのレアスキル、フェイズトランセンデンス。
一時的に膨大な力を得る反面、時間が過ぎると枯渇を起こし、身動きがとれなくなるハイリスク・ハイリターンな能力である。応用の幅は広いが、活かすには仲間との連携が必須だ。
神琳「素直には喜べませんが、一段落は着いたようですね」
見れば、あれだけ大量にいた敵も、その全てが片付いていた。
あちこちに残骸が散らばり、砂埃が舞っている。
アルシーヴ「我々だけではこうはいかなかっただろう。なんと礼をすれば・・・」
楓「はいはい!そういう湿っぽいのはナシですわよ!」
鶴紗「共に戦った仲間なんだ。何も気にする必要は無いよ」
アルシーヴ「そうか・・・、そうだな」
梅「梨璃と夢結、早く戻ってこないかなあ」
雨嘉「疲れた・・・」
その頃、夢結はヒナゲシを地面に叩きつけ、チャームを構えていた。
ヒナゲシ「ああ・・・、ああ・・・」
夢結「・・・」
しかし、夢結は僅かに残った理性で、その刃を振り下ろさずにいた。
その刃は人を救うためのものであって、殺すためのものではないのだから。
梨璃のカリスマの光は、確かに夢結にも届いていた。そのおかげで理性を留めることが出来たのだ。
だが、このままではいつ理性が弾け飛ぶかも分からない、ギリギリの状態でもあった。
そんな彼女の耳に、少女の声が届く。
自分より他人の心配ばかりする、危なげで、だからこそ愛おしい者の声が・・・。
梨璃「お姉様、そこまでです!」
夢結「り・・・り・・・」
ふらりと梨璃の下へ向かう夢結。
そして二人はそれが当然のように、互いのチャームをぶつけ合う。
やがて淡い光が夢結を包むと、そこにはいつもの彼女がいた。
夢結「見苦しい姿は晒さないと言ったのに、結局このザマね・・・」
梨璃「いいえ、お姉様が戦ってくれたからこそ、みんな無事でいられたんです。その覚悟を、誰が無様だなんて言うんですか」
夢結「・・・ありがとう」
互いを抱きしめ合う二人。
その隙間を縫って、ヒナゲシは這いつくばるように逃げ出す。
だがそれを一発の銃声が妨げた。
夢結「・・・私と梨璃がこうしているのと、あなたの処遇は別問題よ」
梨璃「全てを話してもらいます!」
ヒナゲシ「あ、う・・・、あぁ・・・」
言葉を失い、今にも泣きだしそうな彼女の元に、虫型のウツカイが大急ぎで飛んでくる。
ヒナゲシを回収したウツカイは、迅速に飛び去っていった。
夢結「待ちなさい!」
ヒナゲシ「・・・許さない、絶対に許さない!!この屈辱は晴らしてやるの!!女神は必ず飲み込んでやる・・・。みんな消えちゃえば良いんだ!」
そう捨て台詞を残し、彼女の姿は消えた。
夢結「雨嘉さんならともかく、私たちでは弾が届かないわね・・・」
梨璃「戻りましょうお姉様、みんなが待っています」
夢結「そうね」
茜色の空はすっかり暗くなり、星が輝き始めていた。
今回の投稿はここまでです。
深夜帯に第8章を投稿したいと思います。
8章に連なる内容のため、その際にもしかすると幕間2も投稿するかもしれません。
とっても面白いです!!
リリスさん、確か150無い(シャミ子と同じくらい)なのに梨璃ちゃんをちみっ子って……彼女156cmできららキャラなら標準サイズなのにw
自分がちみっちゃいことは無視してますね(とてもリリスさんらしい)
>>441
作者です。リリスさんもだいぶちっさいですが、年齢的に梨璃ぐらいならちみっこ(ひよっこ)扱いしそうだなあと
王雨嘉(声・演:遠野ひかるさん)
中華系スイスランド人。
控え目な性格で、可愛いものやネコのグッズ、テラリウムが好きな少女。
姉や妹があまりにも優秀なリリィのため、本人は自分は駄目だと自嘲しがちですが、雨嘉自身も相当優秀なリリィです(例えるなら、姉は模試全国一位で、妹は関東圏一位だけど、自分は都内一位だから駄目なんだ・・・、と言っているようなもの)
ちなみに、ゲーム公式の一柳隊人気投票で、輝かしい一位を獲得しています。
郭神琳(声・演 星守紗凪さん)
台湾の台北出身のリリィ。
自身は日本で長く育っていますが、生まれ故郷の台北をヒュージに侵略されており、その奪還を一つの悲願としています。
お淑やかさと、間違ったことや気に入らないことには毅然と立ち向かう激情を合わせ持つ人物であり、それは正義感や、好意を向けた相手への情熱として表れます。
ミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウス(声・演 高橋花林さん)
ドイツの貴族の血統を引く少女。
古風な話し方は、祖父の話しぶりを引き継いだもの。
アニメ(ゲーム)とそれ以外の媒体とで、かなりキャラ造形が異なっており、アニメ(ゲーム)では幼い印象と裏腹に、知的な言動や面倒見の良さが目立つキャラクターとなっていました。
工廠科に属し、チャームの修理はお手の物。自分が持つチャームも自作のものです。
第8章 ユウガオ(夜)
二水「あれからマギ残滓を調べましたが、これといった反応は見られませんでした」
梅「あの平原の生物がヒュージに変化する、といったことは無いはずだ」
神琳「ギガント級ですが、あそこまで深手を負えば、少なくとも五日は出てこられないかと」
アルシーヴ「そうか、礼を言う」
ソラ「あなた達の帰還に関しては、こちらで何とかなると思うわ」
アルシーヴ「ソラ様の力があれば、おまえ達を元の世界へ帰すことも出来る」
梨璃「本当ですか!?良かった・・・」
夢結「ええ、でもその前に・・・」
梨璃「はい、ギガント級を打倒しましょう!」
きらら「ヒナゲシの野望も暴かないといけませんね」
戦い終わり、皆は里の広場へ引き返していた。
安否の確認、今後の方針の相談、そして戦った者たちへのねぎらいのため、ライネを中心に炊き出しが行われている。
万が一のため里や神殿に待機していた者もまた、この場を訪れていた。
美姫「お姉ちゃん!!」
琉姫「美姫!ごめんね、心配かけて・・・」
美姫「ううん、いいの。お姉ちゃんたちが無事で本当に良かった・・・」
梅「・・・ああいうの、ホッとするよな」
鶴紗「梅様?」
梅「ああいや、やっぱりさ、兄弟姉妹が離ればなれになるだなんて、そんなことはあっちゃいけないんだ」
鶴紗「・・・そっか、そうですね」
梅「ほーら!鶴紗は寝てなきゃダメだろ。あれだけ無茶してたんだから」
鶴紗「それじゃあ、お言葉に甘えて、少し休んできます」
見れば、色川姉妹が梅たちの方を向き、深く礼をしている。
二人はそれに微笑んで、手をそっと振り替えした。
その様子を、また別の方向から見る者達がいる。
セサミ「あの方たちがリリィ・・・」
ジンジャー「どいつもこいつも腕の立つ戦士だ」
ポルカ「あの武器、どんな構造してるんだ?銃にも剣にもなるなんてよ」
興味を示すポルカの下を、ミリアムが訪れる。
ミリアム「お主が武器職人かの?」
ポルカ「ああ、ポルカってんだ。ええとそっちは・・・」
ミリアム「ミリアム・ヒルデガルド・V・グロピウス。長いから皆好き好きに呼んどる」
ポルカ「じゃあミリアムで良いか?」
ミリアム「勿論じゃ。早速ですまんが相談があってな」
ポルカ「武器のメンテナンスか?」
ミリアム「それもある。頑丈なチャームとて細かな調整は必要じゃし、鉛玉を撃つ以上、その補充も必要でな」
ポルカ「そりゃあ異世界の武器を触れんなら願ってもないことだし、弾丸もうみこに頼まれてよく作っているから、何とかなるとは思うぞ。でもそれだけじゃなさそうだな」
ミリアム「これから皆が、打倒ギガント級のための作戦を打ち立てる。じゃがのう、イレギュラーというものは常に発生しうる。わしらがここに来たのもそうじゃしな」
ポルカ「・・・つまり、ミリアムとおれで保険を作っておくんだな?」
ミリアム「話が早くて助かるわい。互いの世界の技術を組み合わせて、怪物殺しの弾丸を作りたくての。贅沢は言わん、一発で十分じゃ」
それを聞いたポルカは、満面の笑みで承諾した。
ポルカ「面白そうじゃねえか!互いに未知の技術に触れながら、秘密兵器を作るんだろ?こんなにワクワクすることねえよ!!」
ミリアム「じゃろう?お主とは同じ技術屋として、似た匂いを感じたんでのう」
ポルカ「でも、おれたちだけじゃきっと無理だ。だから助っ人を呼んでも良いか?」
ミリアム「モチのロンじゃ。良いものを作るため、互いに出し惜しみ無しで行こうぞい」
ポルカ「ああ!」
そういうとポルカはカンナとメリー、エンギを呼び寄せる。
メリー「ねえ、カンナはともかくアタシと茄子女は畑違いじゃない?」
エンギ「申し訳ないが、私も同感だ」
ポルカ「ああいや、二人には言伝を頼みたいヤツがいてな」
メリー「・・・分かったわ!そういうことね!」
最高の武器を作るための打ち合わせが、今始まった。
梅「ミリアムも始めたみたいだな」
夢結「梅、鶴紗の様子は?」
梅「酷く疲れていること以外は、なんともなさそうだ。今はライネさんの所で休ませてる」
夢結「そう、では私たちも今後の方針を固めましょう」
きらら「あの、さっそく良いでしょうか?」
火を囲みながら、まずきららが話を切り出す。
それは自らが感じた疑問について、確認を行うためであった。
きらら「私たちは以前、あのヒナゲシと戦ったことがあるんです」
楓「ウツカイを使ってテロ行為を働いたのでしょう?まったく、ロクでもない輩ですわね」
マッチ「テ、テロかあ・・・。確かにそう言えばそうなんだけど」
ランプ「まさかそんな物騒な単語を聞くとは思いませんでした・・・」
きらら「その際、ヒナゲシは綿密に作戦を立てていました。ウツカイに何枚も指令書を持たせていたんです」
うつつ「あれ・・・?でも今回は二枚しか指令書が・・・」
きらら「そこなんです。何だかそれが不自然に思えて・・・」
きらら達は戦いの最中、そして一段落ついた後に、新たな指令書がないかを注意深く探していた。
だが結局、最初に見つけた二枚を除き、指令書を発見することは出来なかったのである。
アルシーヴ「確か内容は・・・」
うつつ「一枚目は『クリエを、そして女神を食らえ』で、二枚目は『壊せ』『殺せ』ってしか書いてなかったわよお・・・」
マッチ「改めて見ると、えらく大雑把じゃないか?」
きらら「そうなんですよ。以前はもっと具体的に、何をどうしろと書いてあったんです。それが今回に限ってこんな・・・」
夢結「・・・あの時言いかけたことを、今話しても大丈夫かしら?」
夢結は最初に指令書を見たとき、その内容に既視感を覚えていた。
だがそれを話そうとした矢先、アルシーヴからの通信が入り、なし崩し的に戦闘に入っていたのだ。
きらら「そういえば、何かおっしゃろうとしてましたね」
夢結「恐らくそれは作戦ではなく、ギガント級の意思なのではないかと」
雨嘉「ヒュージの意思・・・?」
夢結「私のレアスキルは、ヒュージと同じ力を宿す物。発動すれば、何もかも壊して、殺したくなってしまう・・・。つまりヒュージとは、常にそういう意思を持つ存在だと考えられます」
梨璃「・・・」
神琳「すなわち、ギガント級の意思がウツカイを通じ、指令書の形になったと?」
夢結「突拍子もない話なのは分かります。それでも、私にはそうとしか思えなかったの」
アルシーヴ「それが本当ならば、真実の手にとっても今回の事態はイレギュラーなのだろう。恐らく便乗して、状況を利用しているに過ぎん」
ソラ「この世界は聖典と呼ばれる数多くの世界と繋がっているの。でも稀に、そうでない世界にも繋がってしまうことがある・・・」
二水「それが今回は私たちの世界と繋がって、偶然にもエトワリウム・・・でしたっけ?その鉱石が落ちてしまったと?」
梅「ヒュージに関しては未だ分からないことだらけだ。ヒュージが利用するケイブ・・・、ワームホールについても同じことが言える」
楓「まるで混線したラジオみたいですわね」
アルシーヴ「だが、この仮定が最も状況を説明しやすくはある」
ふうと息を吐いて、アルシーヴが話を続ける。
アルシーヴ「本来エトワリウムとは、強い癒やしの力・・・、クリエを含む鉱石のことだ。だが、敵から生えていたそれは強い負の力、すなわち絶望のクリエを感じた」
神琳「クリエとマギ・・・、似て非なるものではありますが、どちらも正負が存在することは確かです」
二水「ヒュージは負のマギの固まりみたいなものです。それにゲヘナがエトワリウムを組み込んだ結果・・・」
夢結「クリエが汚染されて、絶望のクリエになった・・・」
きらら「絶望のクリエが体内に溢れているから、ウツカイを自分で生み出せるんですね」
アルシーヴ「ぞっとしない話だな」
マッチ「で、ヒュージは取りあえず誘導して好き勝手にさせて、ウツカイは何だかんだ言うことは聞くから、これ見よがしに利用すると・・・」
梨璃「火事場泥棒みたいですね・・・」
梅「みたいじゃなくて、そう言うんだゾ」
夢結「最初に私たちと戦った際、ギガント級は大量のマギ、およびクリエを消費したようでした。エトワリアにはその補充をしに来たとしか考えられません」
アルシーヴ「だとすれば、ソラ様を狙うのも道理か」
きらら「全てのクリエを司る存在ですからね。それを食べることで、今までにない力を得ようと・・・」
ソラ「・・・」
二水「ヒュージは基本的に物を食べませんが、攻撃とマギの補給のために口腔を使用することはあります」
ランプ「衣乃様、盾を食べられたとおっしゃってました・・・」
楓「エトワリウム製の特注品だったのでしょう?向こうからすれば、マギ補給のおやつといったところでしょうね」
雨嘉「ヒュージの体内は負のマギで満ちている。飲み込まれたらまず助からない・・・」
きらら「そうして、ソラ様を負のマギ、もとい絶望のクリエで侵して、聖典をそこから汚染する・・・」
アルシーヴ「敵の目的が見えてきたな」
ソラ「・・・もしそうなれば、全ての聖典が、あの怪物に侵されてしまうわ」
きらら「そんな!」
うつつ「はぁ!?あれが関係ない世界にもぞろぞろ出るの!?無理ゲーじゃん!!」
梅「・・・梅たちの世界が、ヒュージとまともに戦えるようになるまで、半世紀はかかったんだ」
神琳「それでも、あの半世紀で支払った代償はあまりにも大きいものでした」
夢結「世界のあり方も、倫理観も、全てが大きく変わってしまった」
雨嘉「何より、多くの人命と故郷が奪われた・・・」
一同「・・・」
ランプは想像してしまった。
ひだまり荘が、桜が丘高校が、木組みの街が、蹂躙され、炎に包まれる様子を。
リンたちがキャンプをし、みらたちが星を見上げるような自然に、怪物が跋扈する様を。
“かれら”の厄災から立ち直りつつある由紀たちの世界が、新たな脅威にすり潰される様子を。
テレビに映し出されるのが、フルーツタルトの活躍ではなく、ヒュージの侵攻を伝える報道である様を。
多魔市で傷ついてもなお、ヒュージに立ち向かうであろう桃やミカンの姿を。
クリエメイトたちの通う学び舎が、リリィの最前線基地たるガーデンに作り替えられる様子を・・・。
ランプ「う゛ぇぇぇん!!!!!」
雨嘉「ご、ごめんなさい!泣かせるつもりはなかったの・・・」
梨璃「大丈夫、大丈夫だからね。私たちが絶対そんなことはさせないから・・・!」
思わずランプを抱きしめる梨璃。
梨璃「ごめんね、辛いこと想像させちゃったね」
ランプ「うぅ・・・、ぐす・・・」
二水「ランプさん、私ずっと考えていたんです。もしこの世界に来た意味があるとすれば、それは何なんだろうって。結局、何度考えても答えは変わらなくて・・・」
ランプ「・・・」
二水「ありきたりですが、きっと私は、いいえ、私たちはそれを止めるためにエトワリアへ来たんです」
神琳「言うなれば、これは半世紀前のリベンジです」
夢結「エトワリアが、聖典の世界が、私たちの世界と同じ運命を辿るかどうかの分水嶺・・・」
雨嘉「半世紀前とは違う。ここにはみんながいて、敵が何者か分かっていて、何をすれば良いのか分かりきっている」
梅「だったら止められるさ。だってそうだろ?ゼロからのスタートじゃないんだから!」
楓「わたくしたちを誰だと思っていますの?最高のリーダーが率いる一柳隊でしてよ!」
梨璃「は、恥ずかしいよ楓さん・・・」
ランプ「すみません、取り乱しました・・・」
夢結「良いのよ、それはあなたが世界を愛している証拠なのだから」
ランプ「・・・私、もう泣きません。愛する世界や皆さんのため、やれることを全力でやります」
アルシーヴ「それで良い。ランプ、お前たちはそうして世界を一度救ったじゃないか」
ソラ「その想いが、純粋さがあなたの強さよ」
きらら「だから、また今度も・・・!」
ランプ「はい!」
うつつ「・・・未だにさ、ああいうノリはついて行けないけど、まあ悪い気はしないよね」
マッチ「素直じゃないなあ」
うつつ「・・・謎饅頭に言われたくない」
マッチ「思うんだけどさ、なんか前より辛辣になってない?」
うつつ「うるさい」
コホン、と楓が咳を入れる。
楓「決意が固まったところ申し訳ございませんが、わたくしたちにはまず対策すべきことがあります」
アルシーヴ「あのバリアだな」
マッチ「緑、赤、青、茶なんだろ、なら風、火、水、土の属性じゃないのかい?」
アルシーヴ「それにしては妙だ。全ての属性を込めた攻撃で、赤と青は完全に破壊できたが、緑と茶に関しては健在だった。それに・・・」
雨嘉「それに・・・?」
アルシーヴ「あの四枚の奥に、更なる力場を感じた。おそらく隠れて見えないバリアがあるのだろう」
梨璃「ええ!?つまり最低でもバリアが五枚?」
二水「あうう、ますます分からなくなってきました・・・」
夢結「ヒュージも属性を持つことがありますが、それは風、水、火と、こちらの世界よりも単純な物です」
梅「相性もまあお察しの通り、簡単な三すくみだ。それに火が風に有効なのは同じだから、緑も壊れなきゃおかしいんだが・・・」
ランプ「つまり、エトワリアの属性とも、皆さんの世界の属性とも違っている・・・?」
きらら「うーん・・・」
皆が困惑する中、一人何かを考え込んでいる者がいた。
神琳「・・・」
雨嘉「どうしたの、神琳?」
神琳「・・・前提からして異なっているのかもしれません」
マッチ「と、言うと?」
神琳「ギガント級のバリアや攻撃、そして産み出すヒュージは、体内に宿した属性に依拠しているはずです。ですが、エトワリアの属性だと噛み合わないものがありませんか?」
アルシーヴ「そうか、緑か!」
神琳「ええ、緑が風を司るのであれば、それにまつわる攻撃をするはずです。ですが、あのギガント級は違いました」
梨璃「赤が炎、青が水の弾、茶が泥と金属の爆弾なら・・・」
うつつ「緑は種の爆弾・・・、あれ、風じゃない!?」
きらら「そういえば、火属性の皆さんが違和感を覚えていました。緑なのに火が効かないって・・・」
ソラ「剣で切った方がまだ効いた。とも言っていたわ」
夢結「この場合、緑が差す物は・・・」
神琳「ええ、植物・・・、有り体に言えば木だと思います」
神琳は更に話を続ける。
神琳「アルシーヴさん、伺いたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
アルシーヴ「ああ、何でも聞いてくれ」
神琳「今度は茶・・・、つまり土についてなのですが、エトワリアのそれも、土の攻撃に金属が混じるものなのですか?」
アルシーヴ「いいや、岩が混じることなら珍しくないが、金属はまず混じらないな」
ランプ「そういえば、茶色のヒュージに関しても報告が相次いでました。間違いなく土なのに、風属性が通らないと・・・」
神琳「ありがとうございます。続いて楓さんに伺います」
楓「ええ、良くってよ」
神琳「ギガント級を産み出した研究所について、何かご存じでしょうか?」
楓「・・・お父様から伺った話では、ゲヘナの中でも特に中華資本が注がれた研究所とのことでした。勿論、研究員も中華系の方が大半を占めていましたの」
神琳「研究員については?」
楓「その所長が、優秀ではあるものの、独自の思想と倫理観を持つ・・・、有り体に言えばマッドサイエンティストですわね。何でも愛国心に溢れ、風水に入れ込んでいたとか。まあ、今回の騒ぎで落命したようですが」
それを聞いて、神琳がはにかむ。
神琳「ふふ、属性の謎が解けたかもしれません」
皆が彼女の話に耳を傾ける。
長い夜は、もうしばらく続きそうだ。
幕間2 ヘリコニア(注目・風変わりな人)
ライネの店の奥、鶴紗はそこに寝かされていた。
柔らかなベッドの感触、ふにふにとした何か別の柔らかなもの・・・。
鶴紗「・・・はい?」
その感触に違和感を覚え、目を覚ました鶴紗。
先の戦闘で大量のマギを消費していたため、かなり空腹であった。
腹の虫を鳴らしながら、ぼぉっとする頭で周囲を見渡す。
鶴紗「何だこれ・・・」
両隣を見れば、それぞれ別の少女が眠っている。
かなり大きなベッドだなあなどと、どうでも良いことを考えつつ、鶴紗はその顔を覗き込んだ。
一人はシュガーだ。きっと様子を見に来てくれたのだろう。そんな彼女の頭を、鶴紗はそっと撫でた。
もう一人は・・・、彼女が全く知らない少女だ。
鶴紗「いや本当に誰だこれ・・・」
小学生ぐらいだろうか。白くふわふわとした髪に、あどけない顔立ち。頭にはリボンを結んでいる。
両脇には白猫と黒猫を抱えている。良く懐いているのだろう。すやすやと眠っている。
鶴紗「可愛い・・・」
だが、寝起きで混乱気味の彼女に、それを激しく愛でる気力はなかった。
もう一眠りしようにも、空腹がそれを許さない。
鶴紗「どうしろと・・・」
そこに助け船が入る。また別の少女たちが部屋に入ってきたのだ。
栄依子「あら、起こしちゃった?」
ハッカ「客人、起床」
鶴紗「あなた達は・・・」
栄依子「十倉栄依子、そこに猫抱えて寝てる冠・・・、千石冠の友達」
鶴紗「友達にしては、だいぶ歳が離れているようだけど・・・」
栄依子「ふふ、冠は私と同い年の高校生よ?」
鶴紗「はあ!?」
栄依子「ビックリしたでしょー」
一柳隊にも背が低い仲間はいるし、他レギオンにも幼い印象を与える人物はいた。
更に言えば、鶴紗自身もそこまで背が高いわけではない。
だが、隣で眠っている少女はそれ以上に幼く見えた。栄依子から話を聞かされても、鶴紗はそれを信じられずにいる。
ハッカ「見た目は幼いなれど、冠は高校に通う学びの徒。これ、真実なり」
鶴紗「ええと、そっちは・・・」
ハッカ「七賢者が一人、ハッカ。冠たちとは懇意にさせてもらっている」
鶴紗「七賢者・・・、ああ、シュガーの同僚か」
ハッカ「左様」
少女たちの正体が分かったところで、隣の二人と二匹が起き出す。
シュガー「ふわああ・・・。あ、鶴紗おねーちゃん起きたんだ!大丈夫?体どこも痛くない?」
鶴紗「おかげさまでこの通り、ピンピンしてるよ」
シュガー「そっか、良かったあ・・・」
冠「ううん・・・」
栄依子「おはよう、冠」
冠「ん、おはようございました」
鶴紗「なんだそりゃ」
冠「鶴紗・・・だっけ?おはよう」
鶴紗「ああ、おはよう」
冠「ほい、なごみちゃんとすごみちゃん」
そう言うと彼女は、鶴紗の元になごみとすごみを預ける。
二匹は腕を上げて、どこか嬉しそうだ。
鶴紗「これって・・・」
シュガー「鶴紗おねーちゃん、猫が好きなんでしょ?」
ハッカ「なれば、同好の士を連れてきた」
栄依子「冠も、里を守ってくれたお礼がしたいって同意してくれたの。本当は人見知りなのに、勇気出してここまで来たんだから」
冠「猫好きに悪い人はいない、これ常識」
鶴紗「そうだったのか・・・」
鶴紗の胸に、温かいものがじんわりとこみ上げる。
アルシーヴの件も合わせて、このエトワリアがどのような世界なのかを、彼女は実感しつつあった。
鶴紗「ところでこの二匹、やたらテンション高くないか?」
栄依子「うーん、里を守ってくれた英雄の腕に抱かれるなんて栄光っス!感激の嵐っス!って言ってるんじゃない?」
鶴紗「いや何だよその口調」
冠「ん、ネコ耳人間になったときそんな口調だったから間違いない」
鶴紗「ネコ耳人間!?それはそれで見たかったな・・・」
ハッカ「このエトワリアもまた、理の支配する世界。なれど、その範疇であれば何が起きても不思議にあたわず」
先にベッドから抜けていたシュガーが、皆の元に舞い戻る。
シュガー「鶴紗おねーちゃん!ご飯の準備が出来たってライネお・・・ねえさんが言ってるよ!」
鶴紗「あれ、その人って炊き出しやってたんじゃ」
栄依子「一段落したから戻ってきてくれたみたい。私たちもご相伴にあずかりましょうか」
ハッカ「食後の菓子も多く用意したとのこと」
冠「最近の女子高生は食後にケーキを五個食べるからよゆー」
鶴紗「そうなのか?」
冠「・・・冗談」
一同は食堂の方へ向かっていった。
一方、きらら達も一通り話し合いを終え、互いに歓談をしていた。
ミリアム「おお、そちらも終わったようじゃの」
梨璃「ミリアムちゃん!」
ミリアム「鶴紗はきちんと休んどるか?」
アルシーヴ「私の部下とクリエメイトが付き添っている。あちらから報告がない以上、問題なく休んでいるのだろう」
ミリアム「そうかそうか、そりゃあ良かったわい」
残された日々で何を準備し、どう戦うか。
大まかな方針を共有し、ミリアムも腰を落ち着ける。
梅「鶴紗にも後で教えないとだな」
きらら「はい!」
そんな最中、ソラがこほんと咳を入れる。
ソラ「さーて、会議も一段落したところで・・・」
雨嘉「ところで・・・?」
ソラ「ここからは、ガールズトークと行きましょう!!」
夢結「・・・はい?」
ソラ「だって、クリエメイトじゃない女の子と出会えるなんて、そうそう無い機会じゃない!!」
ランプ「私も興味があります!!」
神琳「・・・あれが素なのですか?」
アルシーヴ「すまないな。あれがソラ様本来の姿だ」
楓「国どころか世界を統べる方と伺いましたが・・・」
二水「だいぶフランクな方なんですね」
ミリアム「それではさっそく聞きたいことがあるんじゃが」
ランプ「はい!ミリアム様どうぞ!!」
ミリアム「うーむ、急にテンション変わってついてくの難しいぞい」
ミリアムが質問したのは、なぜ一部のクリエメイトが自分たちのことを知っているか、という点だった。
事情を知るきらら、そして梨璃たちが改めて皆に説明をする。
神琳「夢物語に聞こえますが、現実がそうである以上、信じざるを得ませんね」
雨嘉「私たちのあれそれが物語として筒抜け・・・、恥ずかしい・・・」
マッチ「まあ、クリエメイトのみんなに関してはいつもそんな感じだからもう慣れちゃったみたいだけど」
楓「なーにをおっしゃいますの雨嘉さん、わたくしと梨璃さんのあれそれに隠すようなことも、恥ずべきこともあるわけないじゃないですか!」
二水「ぶれませんねホント」
ミリアム「平行世界論、マルチバース理論・・・、言い方は色々あるじゃろうが、それを物語として観測できるというのは興味深いの」
夢結「気になるのだけど、私たちの物語は、どこまで観測されているのかしら?」
ランプ「ええと、かおす先生によると、皆さんが他のレギオンと同盟を組んだところまでは話を追っている、とのことです」
梅「ヘルヴォルに、グラン・エプレのみんなだな」
きらら「レギオンってどれくらいあるんですか?」
夢結「難しい質問ね。百合ヶ丘だけでも十は超えるし、ガーデンごとにそれこそ多くのレギオンが存在するわ」
アルシーヴ「ガーデンというのが、前線基地たる学び舎なのだな?」
二水「はい、ガーデンは世界中に存在し、多くのリリィが戦っています。日本だけでも幾多のガーデンがあるんですよ」
そんな中、うつつがモジモジとしながら言葉を紡ぐ。
うつつ「あ、あのさ・・・」
二水「はい、なんでしょうか?」
うつつ「ええと・・・。聞いて良いことなのか分かんないけどさ」
梨璃「私たちは仲間なんですから、遠慮はなしですよ」
うつつ「じゃあ・・・」
うつつは決心を固め、疑問をぶつける。
うつつ「その、あんたたちの世界では、女の子同士がイチャコラするのは普通のことなの?」
梨璃「え・・・?」
うつつ「だってそのあんた・・・、お姉様とやらとフツーに手繋いだり、抱きしめ合ったりしながら砂糖吐きそうな台詞をさあ」
場に何とも言えない空気が流れる。
それをすぐ察したうつつは、自己嫌悪に陥っていた。
うつつ「ああああやっぱりド陰キャが人のプライバシーなんかに踏み込むんじゃなかった・・・!そうだ、今すぐあの焚き火に飛び込んで死のう・・・」
ランプ「わー死んじゃダメですよお!!」
だが、一柳隊の面々からの返答は、意外なものだった。
梅「・・・疑問に思うようなことだったのか、それ?」
うつつ「・・・へ?」
二水「皆さんは、そうじゃないんですか?」
神琳「そもそも、ガーデンってほぼ女の子しかいませんものね」
雨嘉「だったら、好きな子とは一緒にいて良いんじゃないかな」
楓「同性同士でお付き合いすることに違和感は無いのか、という疑問であれば、そんな前時代的なこと誰も考えていない、というのが答えですわ」
ミリアム「まあ、百合ヶ丘に関してはシュッツエンゲル制度もあるからの」
きらら「シュッツエンゲル・・・?」
ミリアム「下級生が上級生を守護天使に見立て、血の繋がりに関係なく姉妹関係を結ぶ制度のことじゃ。梨璃と夢結様がそうじゃし、わしも百由様と契りを結んでおる」
梨璃「はい!だから私はお姉様のシルト・・・妹なんです」
夢結「まだ至らないところの多いシルトだけど・・・、それでも私にはかけがえのない存在なの」
梨璃「お姉様・・・」
夢結「ふふ、梨璃・・・」
楓「そこ!言ったそばからイチャイチャしない!」
ランプ「つまりあれですね。以前クリエメイトの皆さまから教えて頂いた“トーエンの誓い”みたいなものですね!」
ミリアム「桃園の誓いのことかの。いや間違ってはおらんが何か違う気も・・・」
それを見たうつつがぼやく。
うつつ「世界観そのものが違った・・・」
マッチ「あはは、何かみんな堂々としてるよね」
ソラ「でも、素敵だと思うわ」
アルシーヴ「その世界における愛のカタチ、か」
皆が盛り上がる中、今度は梅が質問をする。
梅「なあなあ、聞きたいことがあるんだけど」
きらら「はい!何でも聞いてください」
梅「ホントか!じゃあ遠慮無く!」
この時、エトワリアの皆は誰も予想していなかった。
まさかあのような爆弾が投下されようとは。
梅「みんなやたら露出多いけど、こっちだと普通のことなのか?」
笑顔でそう尋ねる梅。
その一方で、エトワリアの皆は凍り付いていた。
梅「ありゃ・・・、聞いちゃいけないことだったかな」
アルシーヴ「い、いや、そうではないんだ。ただ・・・」
神琳「ただ・・・?」
きらら「ええと、感覚が麻痺していたというか、その・・・」
普通に考えれば、皆の格好はエトワリアにおいても大胆なもの、という認識のはずだった。
だが、クリエメイトが増えるに連れて、そうした感覚も薄れていったのである。
雨嘉「ここにいるみんなは普通の格好だけど・・・」
二水「クリエメイトの皆さん、へそ出しどころか腹出しファッションの方がいますよね」
楓「胸元を大胆にはだけている方も多いですわね。正直驚きました」
ミリアム「フルーツタルト?じゃったかのう。あれ一体どんな服なんじゃ?下とか上が大変なことになっとったぞ。あれでアイドルして大丈夫か?」
梨璃「七賢者のセサミさん、凄い格好してました・・・。でもその姿で堂々と歩いていたことの方がもっと驚いたというか・・・」
アルシーヴ「あれは秘書の正装なんだ。大目に見てほしい・・・」
梨璃「ええ!?」
神琳「水着で往来を歩いてらっしゃる方もいましたね。しかもそれが普通のことのようでした」
梅「見間違いじゃなければ、ビキニアーマーをマント一枚で隠していた人もいたような」
夢結「私たちはあそこまで肌を晒すことがないので、見ていてドキリとしましたし、あの姿で戦って問題はないのかとも・・・」
リリィ全体を見た場合、大胆な服装をした者も確かにいる。
だが、一柳隊および彼女らと交流のあるリリィに関しては、露骨に肌を晒す者は見受けられない。
元より、リリィには品行方正であることが求められる。制服の改造こそ、かなり自由に認められているが、それにも限度はある。
だからこそ、クリエメイトの姿を見た一柳隊は、ある種のカルチャーギャップを覚えたのだ。
そんなリリィたちにこの世界の長たるソラが声をかける。
ソラ「う〜ん、みんな可愛いから問題ないわ!」
ランプ「全く以て同意ですぅ!!」
二水「ええ・・・」
楓「本当にこの女神様で大丈夫ですか・・・?」
アルシーヴ「一度、このことについて話し合った方が良いのかもしれん・・・」
きらら「あはは・・・」
そこに鶴紗たちが戻ってきた。わちゃわちゃとした一同の様子を見て、どこか呆れ気味に、だがどこか楽しげに呟く。
鶴紗「本当に賑やかだね。この世界は」
冠「ん、毎日楽しい」
栄依子「お祭りみたいよね」
シュガー「お〜いソラ様〜、アルシーヴ様〜」
アルシーヴ「む、シュガーか」
二水「鶴紗さん!お体は大丈夫なんですか?」
鶴紗「おかげさまで」
梨璃「良かった・・・」
こうして夜も更けていった。
うつつちゃんに言いたいこと。クリエメイトも皆さんもこれほどではないがなかなかイチャコラしてると思うよ。(桜trickとかあっちより過激)
それは置いといてアサルトリリィとのクロスオーバー楽しく読んでます!梅様の過去話マジで知らなかった…全15章完走まで頑張って!支援
>>552
作者です。梅様周りの設定はこんな感じになってるんですよね
https://mobile.twitter.com/assault_lily/status/1251158508231258113
今後アニメやゲームでどう拾われるか気になるところでもあります
うつつちゃんに関しては、エトワリアに来て日が浅いのでこんな反応もありかなあと思いながら書いてみました
第9章 ピンクグラジオラス(たゆまぬ努力、たゆまぬ愛)
アルシーヴ「では、ここを使ってくれ」
ソラ「こちらにいる間は、自由に行動してもらって構わないわ」
夢結「寛大な処置に感謝します」
アルシーヴ「何を言う。皆には感謝してもしきれないんだ」
一柳隊の皆は、アルシーヴらに宿泊所を案内されていた。
ちょうど使っていない建物があったため、そちらを用意されたのだ。
アルシーヴ「本来は研修用の施設なのだが、あまり使うことがなくてな」
梅「全員分の部屋があるのか、これは凄いな」
神琳「掃除も行き届いている・・・。きちんと管理されているのですね」
鶴紗「電気に水道、仕組みは違うけどガスまであるのか」
ミリアム「儂らの世界とは異なる技術体系・・・、隅々まで見て見たいのう」
梨璃「でも、一番びっくりしたのは・・・」
かおす「ひょえ〜!一柳隊の皆さまがまさかこんな近くに寝泊まりされるだなんて!!」
小夢「ほんとびっくりだよねえ」
美姫「まさかうちの近くの研修所に・・・」
琉姫「あの研修所、時々掃除のお手伝いはしてたけど、誰か使うのは初めて見たかも」
翼「画材置き場として間借りはさせてもらってたけどね」
偶然にも、研修所はまんがか寮の目と鼻の先にあった。
そのような状況において、かおすの興奮は最高潮に達していた。
かおす「ああ、皆さまが一堂に会している・・・。これは夢なのでしょうか・・・」
梅「夢じゃないゾ」
かおす「あばば!?梅様!?!?」
ミリアム「お主かの、わしらの活躍を追いかけているまんが家というのは?」
かおす「ミ、ミリアム・ヒルデガルド・V・グロピウスさん!?」
ミリアム「お、わしの名前を噛まずに言えるのか!こりゃ嬉しいのう」
二水「皆さんのことがお好きなんですよね?何だか親近感を感じます」
かおす「そ、そんな。二水さんだってこんなに可愛らしいじゃないですか!」
二水「ふぇ!?そんな風に言われたの初めてです・・・」
雨嘉「ちっちゃくて可愛い・・・」
鶴紗「ネコ耳帽子、子猫みたいな雰囲気・・・」
神琳「こ〜ら、二人とも。お持ち帰りしてはダメですよ?」
かおす「雨嘉さん、神琳さん、鶴紗さん・・・。皆さんにならお持ち帰りされても本望ですぅ。えへへ、へへ・・・」
翼「始まってしまったか」
小夢「こうなると、しばらく止まらないよね」
その傍らでは、美姫が梨璃たちにお礼の言葉を述べていた。
美姫「お姉ちゃんたちを助けてくれて、本当にありがとうございました!本当に、心配でたまらなくて、胸が張り裂けそうになって・・・」
楓「良いんですのよ。大切な誰かと誰かが健やかに生きる日常・・・。それを守るのがリリィの勤めなのですから」
琉姫「私からもお礼を言わせて。あの時、二人が攻撃を防いでくれていなかったら、私はもう・・・」
梨璃「あの時、本当に間に合って良かった・・・」
夢結「これからも姉妹、仲麗しくね」
美姫・琉姫「はい!」
そこに突然、何かがヌラリと駆け込んでくる。
それは梨璃の背後に回り・・・。
怖浦「あなたが梨璃ちゃん・・・?純朴そうで脅かしが・・・、愛でがいがありそうねぇぇぇ!!!!」
梨璃「ひょええええ、お化けぇぇぇ!?!?」
琉姫「ええ!?いきなりどこから!?」
かおす「ぎゃー!!怖浦先輩だあああああ!!!!」
夢結「梨璃!後ろに下がって!!」
楓「魑魅魍魎であろうと、梨璃さんに手出しはさせませんわ!」
怖浦「あら綺麗な黒髪・・・。こっちの娘はフランス人形みたい・・・。ねぇ、触っても良いぃい!?!?」
夢結「え・・・!?」
楓「な、なんですこの方!?」
二水「た、大変です!皆さんが悪霊に!!」
小夢「ごめんね、あれうちの先輩なの・・・」
翼「ホラーまんが家なんだ。あ、ちゃんと生きてるし足もついてるから大丈夫だよ」
梅「ふーむ、あの夢結と楓が推され気味なのはレアかもな」
鶴紗「混沌極まってるな」
そこにコホン、とアルシーヴが咳を入れる。
アルシーヴ「夜も遅い。今日はここで解散にしよう」
ソラ「みんな、早く寝ないとダメよ?」
神琳「そうですね。夜更かしは肌にも悪いですし」
翼「それじゃあ先輩を連れ戻してきますね」
怖浦「みんな待って〜」
梨璃「きゃあああ!!」
夢結「あ、悪霊退散!!」
楓「どなたか十字架を〜!」
アルシーヴ「・・・頼む」
翼と琉姫が怖浦を連れ戻し、その場は解散となる。
一人、ミリアムだけは外せない用事があると言い、ポルカの下へ向かった。
名残惜しそうなかおすに、一柳隊はまた明日も会えるから、と諭したのであった。
かおす「え!皆さんと明日も会えるんですか!?」
夢結「それはそうよ。詳しくは明日話すけれど、クリエメイトの皆さんには一緒に特訓をしてもらうのだから」
かおす「・・・はい?」
雨嘉「みんなの攻撃が、ヒュージに通るかもしれないの」
琉姫「本当!?」
神琳「ですが、それには綿密な連携が必須です」
夢結「であればこそ、皆さんには真摯に特訓を受けてもらいます。遅刻は無論だけれど、理由無くサボタージュした場合は、連行してでも参加させるのでそのつもりでいるように!!」
そうかおすにチャームを向けて言い放つ夢結。
世界の命運がかかっているため、その表情は真剣そのものだ。
かおすは思わず、両手を挙げながら返事をした。
かおす「は、はいぃ!!」
梨璃「かおすちゃん、一緒に頑張ろうね!」
かおす「・・・これは身が持たないかもしれません」
夢結「そこ!小言を挟まない!!」
かおす「はい!!」
話を終え、かおすはうなだれるようにその場を後にする。
かおす「戦いの前に死んでしまうかもしれません・・・」
翼「それはないでしょ、多分」
小夢「私も自信ないけどがんばろー?」
そんな話をしていると、かおすは首筋にチクリとするものを感じた。
思わず声を漏らし、首に手をやる彼女。
それを仲間は心配した。
怖浦「大丈夫?」
かおす「へ、平気です。虫に刺されただけですし・・・」
美姫「でも、痕になったら大変です」
琉姫「戻ったら薬を塗ってあげるわ」
かおす「面目ないです」
あまりの小ささかつ、暗闇で一瞬のことだったので、誰も分からなかったのだ。
その虫が、緑と黒の二色模様だったなどと。
その夜、かおすは息苦しさで目を覚ました。
あれから自分はどうしたのだろう。確か寮に戻って薬を塗ってもらい、それからすぐ就寝したはず。
上手く回らない頭でそんなことを考えつつ、周囲を見る。
かおす「・・・!!」
辺りは燃えさかり、分厚い煙で覆われている。
あまりの熱に、呼吸をするのさえ苦しい。
そこには傷ついた仲間と、一柳隊の皆が倒れている。
自分を除き、誰もピクリとも動かなかった。
かおす「あ、ああ・・・」
思わず彼女は、倒れていた小夢に手をやる。
その手を見れば、自分のものでない血がべったりとくっついていた。
これは夢だ。それもとびきりの悪夢だ。
頭ではそう理解していても、あまりにも生々しい感触に、彼女は叫びだし、その場を駆け出す。
その後ろでは、怪物の咆哮が木霊していた。
直後、彼女はベッドから飛び起きていた。
寝汗が酷いが、それも無理はないだろう。先ほどまであのような悪夢を・・・。
かおす「あれ・・・?」
自分が何を見ていたのか、彼女は全く覚えていなかった。
それどころか、夢を見たという感覚すら彼女の中には残っていなかった。
かおす「何でこんなに汗かいてるんだろ・・・」
そう言うと彼女はシャワーを浴びに向かった。
夢を見たという感覚さえあれば、その手の者に相談し、解決が出来ただろう。
この世界には夢の専門家が何人もいるのだから。
だが、彼女はその機会を封じられてしまったのだ。
その後、皆で朝食を取っていると、水晶玉のテレビを通じ、アルシーヴと梨璃の姿が映し出される。
迫る危機をエトワリア中に知らしめ、ギガント級捜索への協力を要請すると共に、クリエメイトたちに本日から訓練を始める旨を伝えたのだ。
息を呑む一同。
朝食を終えると早々に荷物をまとめ、指定された場所へ向かうのであった。
正午、日も最高潮に登る頃。
普段はビーチバレー部が使う砂浜に、死屍累々の光景が広がっていた。
かおす「・・・」
葉山 照「・・・」
シャミ子「かおすさん、葉山さん、大丈夫ですか生きてますか?」
かおす「おえっふ・・・」
葉山 照「・・・頭おかしいでしょこの訓練」
千夜「わ、私たちに妥協と敗北は許されないわ・・・、がくっ」
チノ「ち、千夜さ〜ん!!」
青葉「ふだん体を動かしていなかったツケが・・・」
椎奈「だ、誰かエナドリを・・・」
ミリアム「ほれ、缶ではなく紙パックのじゃが良いかの?」
ポルカ「タオルの差し入れもあるぜ!」
椎奈「ありがとうございます・・・」
かおす「ふぇえ!?お二人ともクマが酷いですけど、ちゃんと寝られましたか!?」
ポルカ「いや〜、練習用の模擬弾含め、弾づくりしてたら朝になっててな〜」
ミリアム「皆のチャームも整備してての〜。そりゃあもうエナドリが進む進む!」
青葉「ええ!?つまり一睡もしてないんですか?」
ミリアム「結構楽しくなってテンション上がってしまってのう〜」
ポルカ「いや〜二人で作業していると話が止まらないんだこれが!」
椎奈「典型的な深夜テンションですねこれは」
かおす「あばば、早く寝てくださ〜い!!」
ポルカ「いやいや、これから作った弾の様子を確かめに・・・」
ミリアム「そうじゃそうじゃ、リリィとしての訓練も・・・」
そう言うと二人は砂浜に倒れ込んでしまう。
顔を覗き込んだところ、見事な白目を向いて眠っていた。
チノ「ひええ!」
葉山 照「ここまで来るとただのお馬鹿さんね・・・」
そこにまた、別の二人が通りかかる。
椎名「うわあ、大丈夫なのかなこれ」
椎奈「あ、リョウさんところの椎名さん」
椎名「これはどうも、SNS部の椎奈さん」
二水「一文字違いで同じ“しいな”さんなんですね」
かおす「お二人も休憩ですか?」
椎名「うん、中々にハードだからねこれは」
シャミ子「このままだと死者がでるかも・・・」
椎名「それは無いんじゃないかな。キツくはあるけど、きちんと個々人の体力や能力に合わせてメニューが作られてるよ?」
二水「えへへ、一晩で考えたかいがありました」
青葉「え、二水ちゃんが一人でメニュー作ったの?」
二水「流石にアルシーヴさんやきららさんと相談はしました。でも、あの時の戦いで皆さんの様子は見ていましたし、私、こういうのは新聞づくりで慣れているんです」
かおす「・・・編集さんになりませんか」
椎奈「いえ、ぜひウチのスケジュール管理を」
青葉「あの、良ければイーグルジャンプに・・・」
千夜「いいえ、ここは甘兎庵の新メニューづくりにその力を!」
チノ「あ、千夜さん起きました」
二水「あわわ、皆さん待ってくださ〜い」
夢結「良いわ千代田さん!そのまま全力でぶつかってきて!!」
桃「ふふ、特訓でここまで張り合えるのは久しぶりかも」
梅「ほらほら、そう簡単には追いつかせないゾ?」
カルダモン「へえ、縮地抜きでも軽やかな身のこなしだね」
ソーニャ「意地でも追いついてみせるさ!」
ねね「ぎゃあ!またペイント弾撃たれた・・・」
うみこ「この距離で、ここまで正確に当ててきますか・・・」
ユタカ「なら狙撃手を狙えば良いんです!ってうわあ!」
雨嘉「・・・」
ユタカ「そんな、一瞬で武器を弾かれました・・・」
エンギ「状況に応じ、射撃と斬撃を一瞬で切り替えるか。油断したなユタカ」
神琳「ふふ、狙撃が得意だからと言って、近接が苦手とは言っていませんよ」
エンギ「楽しそうだな、神琳」
神琳「ええ、雨嘉さんの活躍も見られますし、何より、こうやって技を高め合うのもやぶさかではありません」
エンギ「・・・そうか、では行くぞ!」
神琳「ええ、どこからでも!」
ねね「お淑やかに見えて結構アグレッシヴ・・・?」
うみこ「思った以上に、熱が入りやすいのかもしれませんね、彼女」
胡桃「これで、どうだあ!」
楓「凄まじい力ですわね、でも!」
胡桃「う、受け流した・・・!?ってわあ!」
楓「ご自分でそこまでの技を身につけたのでしょう?とても素晴らしいことです。ですが、我流故に攻撃一辺倒になりやすい・・・。違いまして?」
胡桃「はは、これまで一撃で相手を倒すことばかり考えてたから、防御とか攻撃した後のこととか、あんまり考えてなかったや」
楓「なら、みっちりと叩きこんで差し上げますわ!」
胡桃「おう!どんと来い!!」
鶴紗「全く性格が違うのに、抜群のコンビネーションだ・・・」
シュガー「へへーん、ダテに双子やってないよ〜」
ソルト「もう、シュガーは前に出すぎです。相手の様子を伺いつつ、慎重に行動してください」
シュガー「ソルトが後ろに下がりすぎなんだよ〜!もっとこうバーンといかなくちゃ!」
鶴紗「・・・多分、あんな感じだから、逆にバランスがとれているんだね」
梨璃「強い・・・。さすが世界を救った英雄だね」
きらら「私がもし強いのだとしたら、それは支えてくれた皆さんのおかげなんです。だから皆のためにも、私はもっと強くならなくちゃ!」
梨璃「その気持ち、分かります。私も色んな人に支えてもらったから、ここまで来られたんです」
きらら「案外似ているのかもしれませんね、私たち」
梨璃「だとしたら、もっと心を通じ合わせれば・・・」
きらら「ええ、きっと大きな力が生まれるはずです!」
梨璃「そうだよね。だからこそ、今は手合わせお願いします!」
きらら「はい!どんどんいきましょう!」
各々に激しく打ち合うリリィとクリエメイト。
その様子を見て、興奮する者たちがいた。
二水「ああ〜。皆さんの戦う姿はやっぱり美しいです!」
かおす「リリィとクリエメイト・・・、異なる世界の少女たちが切磋琢磨する姿・・・。忘れないうちにスケッチしなきゃ!」
ランプ「はう〜。全くもって同意ですぅ!!」
青葉「ランプちゃんいつの間に!?」
二水「・・・何だかお二人とは他人の気がしません!」
ランプ「憧れの対象が違えど、私たちは仲間ですよ二水様!」
かおす「なら、私がお二人の架け橋になります!」
二水「ランプさん、かおすさん・・・!」
そういって手を取り合う三人をよそに、他の皆はどこか冷めた反応をしている。
シャミ子「ゆくゆくはあれに混じらなきゃいけないんでしょうか・・・」
椎奈「無理無理無理!!訓練であんなことしたら本当に死んでしまいます!!」
千夜「リリィっていつもあんな訓練してるの・・・?」
二水「訓練は常日頃からしていますが、今回は特に気合いが入っている感じですね。私も俄然やる気が出てきました!」
葉山 照「あれ見てそう言えるのは流石ね・・・」
椎名「はは、二水たちの世界にいたとして、私はリリィになれそうにないや」
そんな中、鐘の音が辺りに鳴り響く。
料理自慢のクリエメイトたちが昼食の合図を送ったのだ。
ライネ「みんな〜お昼休みよ〜」
リョウ「腕をふるってたくさんお弁当を用意してきました!」
ヒロ「スープや飲み物の用意もあるわ」
志温「ちゃんと全員分あるから、きちんと並んでね〜」
鶴紗「猫はいいぞ猫は」
恵那「う〜ん、でも私は犬の方が好きかなあ」
リン「私もどっちかと言えば犬派だな」
葉山 照「私は動物そのものが好きだけど、猫は特に好きかなあ」
梨璃「お姉様は凄いんです!いくつもの武功を立ててきたんですよ」
チノ「う、うちのココアさんは少し抜けていますけど、でも毎日一緒にいると飽きないんです」
夢結「梨璃、恥ずかしいわ・・・」
ココア「チノちゃん!もっと褒めて褒めて!」
梅「ここは自然がたくさんあって良いよな」
みら「梅さんたちの世界には自然が少ないの?」
神琳「自然そのものは残されていますが、居住区やガーデン近くの小動物は駆除されてしまうんです」
雨嘉「ヒュージになったら大変・・・」
あお「・・・深刻なんだね」
神琳「だからこそ、エトワリアを・・・、いいえ、皆さんの世界をヒュージに奪わせるわけにはいかないんです」
みら「私、特訓頑張るよ!」
あお「私も、みらと一緒ならどこまでも・・・!」
梅「ああ、その意気だ!」
そんな中、少しだけ空気の違う一団があった。
ミリアム「お主のその格好、いわゆるチアってやつかの?」
こはね「そうだよ!皆に元気を届けて、自分も元気になれる。それがチアなの!」
優「チア部のチアは凄いんだよ!」
二水「そこまで推されると、私も見てみたくなります!」
宇希「こはねが他の娘とすぐ仲良くなるなんていつものこと、いつものことじゃないか・・・」
春香「優ちゃんが他の女の子と仲良くしてる・・・!」
親友のことが気になる者たちが、影からそんなことを呟いていると、颯爽と現れる影があった。
楓「あらあらまあ!嫉妬の香りがしますわあ!」
宇希「うわあビックリしたあ!」
春香「ええと、確か・・・」
楓「楓・J・ヌーベルですわ。以後お見知りおきを。と、そんなことはさておき、何故もっとグイッと行きませんの?」
春香「それは、グイッと行きたいのは山々だけど・・・」
宇希「人目もあるし、恥ずかしいというかその・・・」
楓「人が人を愛するという気持ちの、どこに恥ずかしさがありまして?好きなものを好きと言えないなら、そんな世界の方がおかしいと思いません?」
宇希「いやいやいや、そんな割り切れたらここまで悩んでいないって!ねえ春香さん・・・って、ええ!?」
春香「・・・」
宇希「な、泣いてる・・・?」
春香「楓さん・・・」
楓「はいなんでしょう?」
春香「私、今もの凄く感動しました!そうですよね、この気持ちは間違ってなんかいませんよね!!」
楓「モチのロンですわ!同性だからどうとか、そんなことは愛の前に比べれば塵芥と同じですもの。さあ、共に意中の方の元へアタックを仕掛けましょう!!」
春香「はい!!」
そう言って意中の相手へとダッシュをかける二人。
それをただ、宇希は呆然と見送っていた。
昼食を終え、一同が訓練に戻る中、かおすに梨璃が話しかける。
梨璃「かーおすちゃん!調子はどう?」
かおす「あばぁ!梨璃さん!」
梨璃「昨日、不安そうにしていたから様子を見にきたの」
かおす「・・・正直、体がついていくか心配です」
梨璃「あはは、お姉様のしごきは凄いからね」
かおす「・・・でも」
梨璃「・・・?」
かおす「こうすることで、ちょっとずつでも、昨日の自分より強くなれるなら、それは素敵なことだなって思うんです」
それを聞いた梨璃の顔に、笑顔の花が咲く。
梨璃「そう言ってもらえて良かったあ。無理強いさせていたら嫌だなあって、つい考えちゃって」
かおす「無理強いだなんてそんな!それに梨璃さん、向こうを見てください」
そこには、体力の有無に関係なく、真摯に訓練を受けるクリエメイトの姿があった。
自分のペースでも、確かな一歩を歩もうと真剣なのだ。
かおす「言葉では素直になれませんけど、きっと皆さんも思いは同じなんです」
梨璃「・・・そっか、うん、そうだよね!」
梨璃が改めて、かおすに向き直る。
梨璃「ありがとう、かおすちゃん」
かおす「ふぇ?お礼を言われるようなことはしていませんよ?」
梨璃「ううん、お姉様に憧れてリリィになったあの時の気持ち、そして大切な誰かをもう喪いたくないって気持ちを、改めて思い出せたの」
かおす「梨璃さん・・・」
梨璃「行こう、みんな待っているよ!」
かおす「はい!」
それから夕方まで訓練に励んだかおす達、だが、その反動は確実に返ってきた。
かおす「ぜんしんぎんにぐづうですう・・・」
小夢「うごけない・・・」
翼「もう少し体を動かしておけば良かった・・・」
琉姫「筋肉痛で動けない少女に邪な魔の手が・・・、って私は何を考えているのよぉ!」
かおす「あばば、琉姫さんの理性が疲労のあまり吹き飛んでます・・・」
梨璃「みんなお疲れ様!明日も頑張ろうね!」
かおす「・・・あの時少し弱音を吐いた方が良かったかもしれません」
辛うじて動くことの出来たそうりょ組が皆に回復をかけ、一同は何とか帰路についたのであった。
その頃、ヒナゲシは洞窟に潜伏していた。例のギガント級も一緒だ。
洞窟の直上は海底となっている。そう簡単に発見されることはないだろう。
息も絶え絶えなギガント級に対し、少女は一本の矢を放つ。
ハイプリスが肝心なときに使えと指示した、あの黒い矢だ。
矢はギガント級に吸い込まれるように消えていく。
するとどうだろう、ミリアムに傷つけられた傷が、たちまちに塞がっていく。
怪物はそのまま深い眠りについた。
ヒナゲシ「ふふ、薬は飲むより注射に限るの」
だが、ギガント級が体力を取り戻し、再び侵攻を開始するには、まだ日時がかかるだろう。短くて五日、長くて一週間といったところか。それまで怪物は眠り続けるのだ。
ヒナゲシ「・・・作戦の変更が必要なの」
ヒナゲシがギガント級の体表に触れる。そしてそれを愛おしそうに撫で始めた。
ヒナゲシ「本当は神殿の真下にでもケイブを作って攻め込んでほしいけど、あなたはそうじゃないよね」
ギガント級を通じ、絶望のクリエが、そして負のマギが彼女に流れ込む。
ヒナゲシ「・・・そうだよね。どうせならアイツらに散々痛めつけられた場所でリベンジを果たしたいよね」
そっと手を離し、ヒナゲシは微笑む。
ヒナゲシ「安心して。例えあなたが朽ち滅んでも、その願いは絶対に叶えてあげるから。だって、あなたの願いは私の願いだもの」
彼女の手のひらに、かおすを刺した、極小のウツカイが舞い戻る。
ヒナゲシ「そのための余興も、ちゃんと仕込んであるから・・・」
夢を思いのままにするまぞくに、かつて手酷くやられたからこそ思いついた作戦。
それを思いだし、彼女はクスクスと嗤う。
地上とは正反対の、暗く、冷たく、息も詰まるような場所で、少女は確かな幸福感を覚えていた。
>>635
作者です。
そうですね、こみが勢を中心に、でも満遍なく皆のことを出したいなと思いながらSSを書いていました。
この後の展開でやりたかったことにも繋がってくるので・・・。
第10章 ブラックサレナ(復讐、呪い、あなたへの愛を忘れない)
あれからも訓練は続き、かおすはへとへとになりながらも、体力が身につくのを実感していた。
だがそれと同時に、彼女はどこか違和感を抱いていた。
何か他のことを考えていると忘れてしまうが、確かに胸の中にあるささくれ。
いつか戦う敵のことが不安なのだろうと、かおすはそれを深く追及しなかった。
もっとも、その考えは当たらずも遠からず、といったところだったのだが。
訓練を終え、寮に戻り、入浴と夕食を済ませ、一息つく。
疲れていたこともあり、程なくして眠りに入る彼女。
恐怖を思い出したのはそれからだった。
かおす「あ、ああ・・・、そうだ、なんで忘れていたんだろう・・・!」
辺りは燃えさかり、分厚い煙で空が覆われている。
あまりの熱に、呼吸をするのさえ苦しい。
そこには傷ついた仲間と、一柳隊の皆が倒れている。
自分を除き、誰もピクリとも動かない。
あれから彼女は、毎晩同じ悪夢を見ていた。
逃げ出して、叫んでも目が覚める様子がない。
おそらく現実の自分は、少し寝苦しそうにしているだけなのだろう。誰かに起こされるといった様子もないのだ。
夢の感触は日ごとにリアルになっていった。
最初は煙で包まれ分からなかったが、ここがあの平原であることを今ではハッキリと実感できる。
煙と陽炎の境目、煙の黒さ、目と喉に染みる痛さ・・・。
どれもただの夢とは思えなかった。
彼女の脳裏に一つの考えが浮かぶが、それを振り払って、彼女は駆け出す。
かおす「誰か!誰か返事をしてください!小夢ちゃん、翼さん、琉姫さん、梨璃さん、誰でも良いから返事をしてください・・・!」
必死に走る彼女だが、勢い余って何かにつまずいてしまう。
石にしては柔らかい感触。それに嫌な予感を覚えながら、かおすは足下を見やる。
その背中には、冷たい汗をかいていた。
かおす「ああ、やだ、こんなのやだ・・」
目が合ってしまった。
焼き焦げ、血を流し、虚ろな目をした小夢、そして梨璃と。
血の気が引いて白い肌をしたそれは、どこか人形のようにも見えた。
かおす「嫌だ・・・、こんなの嫌だぁ!!」
方向感覚も分からないまま、がむしゃらに駆けるかおす。
その間に、先ほどのような光景を何度見たのだろう。
翼が、琉姫が、美姫が、怖浦が、きららが、ランプが、一柳隊の面々が・・・。
皆、ガラス玉のように生気の無い瞳をしていた。
泣き叫ぶ気力すら失い、へたり込むかおす。
眼前を見れば、怪物が全身を震わせ、雄叫びを上げている。
見れば、その体表は白と黒に染まり、激しく明滅をしている。シルエットも変わっているようだ。
いつの間にか、かおすの手には自分の杖が握られていた。
その先端を見ると、禍々しい光を放つ何かが取り付いている。
それは目の前の敵が放つそれと、同じに見えた。
????「あの怪物は絶望のクリエをめいいっぱい取り込んでいるの。これ以上水を入れたら破裂する風船みたいに」
かおす「じゃあ、これは…」
????「本当は分かっているんでしょう?その杖に光っているのも絶望のクリエ。それをぶつければ…」
かおす「ギガント級を倒せる…?」
????「そう。ボーンって破裂するの」
だが、肝心のかおすには、その光を相手に飛ばす術がない。
だとすれば、採れる方法は一つしかなかった。
????「ねえ、こんな話知ってる?昔の人は、銛に爆弾をつけて、そのまま敵の船に突撃しようとしてたんだって」
かおす「だって、だってそんな…」
????「…かおすちゃんだけ生き残って、申し訳ないと思わないの?」
かおす「…!!」
これが夢であることは、最早かおすにとって意味を成していなかった。
今あるのは、自分が死ねば、敵を倒し、エトワリアを、その先に広がる皆の世界を救えるということだけだった。
彼女の息が荒くなり、足も震える。
????「何の取柄もない、愚図な自分が嫌なんでしょう?」
かおす「それは…」
????「でもね、ここで勇気を出せば、あなたは何者でもない、ただ唯一の存在になれるの」
かおす「私でも、誰かの役に立てる…」
????「大丈夫、みんなだって向こうで待っててくれるの。もう友達のいない世界なんて、いても意味がないでしょ?」
かおす「あああああああ!!!!!」
そう叫び、彼女は敵へ突貫した。
その姿こそ見えないが、声の主がここにいたならば、口元を嫌らしく歪めていただろう。
????「これで良いの。これは夢で終わりだけど、こうやって刷り込んでおけば、現実でもきっと…」
‐ダメ!‐
どこからか、また別の声が聞こえる。
その声の持ち主は、かおすの下へ駆け寄ると、杖を一瞬で弾き飛ばす。
その手には、梨璃が持っているのと、よく似たチャームが握られていた。
????「…っ!誰なのあなた!!」
‐あなたこそ誰なの?夢でだって、こんなことさせちゃいけないんだ!‐
そう言うと少女はチャームを構え、虚空を切り裂く。
すると、あたりの景色が壁紙を切ったかのように、バラリとめくれ、やがては消えていった。
かおす「わ、私いったい何をして…」
‐大丈夫、これはただの夢。現実じゃないし、こんなことは起こらない‐
かおす「…ぅ、うわああああ!!怖かった、怖かったよお!!」
‐よしよし、もう大丈夫だからな‐
緊張の糸がほぐれ、かおすは少女の胸で泣いた。
‐自分を犠牲にしたって、誰も喜んでなんかくれない。みんな泣いちゃうよ?‐
かおす「うん!うん!」
‐あなたの友達に、悲しい匂いはつけさせないで‐
虚空から、かおすを惑わした声の主が現れる。
ヒナゲシ「リリィって何なの!?みんな寄ってたかって私の邪魔をして!!」
‐この娘の夢から消えて!‐
ヒナゲシ「まあ良いの。これだけ刷り込んでおけば、肝心な時に動いてはくれるはず」
そう言ってヒナゲシは、二人の前から姿を消した。
かおす「あの、ありがとう・・・!!あなた、もしかして・・・?」
かおすを助けた少女の姿はおぼろげで、輪郭もあやふやである。
だが、彼女にはそれが誰なのか、はっきりと分かっていた。
‐言ったでしょ?これはただの夢。起きて覚めたら、みんな幻になるの‐
かおす「そんな!」
‐ほら、もう朝だよ‐
かおす「待って!待ってください!!」
‐梨璃によろしくな!‐
かおすがベッドから飛び起きる。
窓から陽光が刺し、それを吸ったかのように、杖も淡い桜色に輝いていた。
かおす「…なんで私、泣いてるんだろ」
何か恐ろしくて、暖かで、それでいて悲しい夢を見ていたようで。
それからしばらく、かおすの目からは涙が溢れて止まらなかった。
そう言えば紹介してなかったので、唐突にですがアニメ版こと「アサルトリリィ Bouquet」のOP「Sacred world」の公式動画を貼り付けておきます。
担当されているのは(ブシロード繋がりで)バンドリのRAISE A SUILEN。打ち込みサウンドとラップが印象に残る曲ですが、ラップを担当されているのは鶴紗の中の人(紡木吏佐さん)だったりします。
https://www.youtube.com/watch?v=-jJzyrbReXU
投稿を再開します。
今回は第11章です。昨日と打って変わり長めの章ですがお付き合いよろしくお願いします。
第11章 カランコエ(幸福を告げる、たくさんの小さな思い出、あなたを守る)
訓練を初めてから、五日が経過した。
胸のモヤモヤも解消したかおすは、よりいっそうの鍛錬に励んでいた。
小夢「そういえばかおすちゃんの杖、バージョンアップしたの?」
かおす「バージョンアップ?」
小夢「何だか輝いているからさ〜」
翼「うん、ほんのりとした桜色」
琉姫「優しい光・・・」
かおす「・・・何か、夢を見た気がするんです」
翼「夢?」
かおす「怖くて、逃げ出したくなって。でもとびきり暖かくて、悲しい夢・・・。それからなんです、杖が光るようになったのは」
ミリアム「ふ〜む、興味深いのう」
琉姫「わ!?突然出てきた」
驚く琉姫をよそに、ミリアムは話を続ける。
ミリアム「お主らの専用武器はエトワリウムで出来ておる。その杖も同じだの」
エトワリウム。
この世界でも貴重かつ加工の難しい、まだ謎の多い鉱物。
ただ確実に分かっているのは、持ち手の感情や精神に呼応して、強い癒やしの力をもたらす、という点である。
ミリアム「その杖、クリエというよりもマギに近い反応を感じる」
かおす「え?」
ミリアム「ほれ、現にわしのニョルニールが強く反応しておる」
見れば、ミリアムのチャームに埋め込まれた宝玉が、かおすの杖に呼応して光と音を放っていた。
小夢「本当だ・・・」
翼「でも、どうして?」
ミリアム「クリエもマギも、その人間の精神性と深く結びついておる。そして夢もまた、精神の発露といえる」
かおす「つまり・・・?」
ミリアム「つまり、お主が見た夢に呼応して、マギを有する“何か”がこの杖に混じった可能性がある、ということじゃな」
琉姫「随分ふわっとした物言いね」
ミリアム「技術者として結論がハッキリしないものを断定などできんよ。ただ言えるのは、その杖には外部から何らかのマギが混じった、ということだけじゃ」
梨璃「みんな、ここにいたんだ!」
かおす「梨璃さん、どうしたんですか?」
梨璃「アルシーヴさんが大切な話があるから、みんなを呼んでほしいって」
ミリアム「おっと、わしもその場に立たなきゃならんかった」
梨璃「もう、ミリアムちゃんはうっかりさんだなあ・・・。あれ?チャームが・・・」
かおす「つ、杖ももの凄く光って・・・!」
梨璃のチャームとかおすの杖が共鳴し、眩い光と音を放つ。
それは先ほどのニョルニールのものより、強い反応だった。
やがて光が収まると、静寂が辺りを包む。
翼「まるで、梨璃を呼んでたみたいだ」
琉姫「ねえ、この光といい、さっきのといい、もしかしてこの杖に宿っているのって・・・?」
ミリアム「・・・そうか、わしらのことを追いかけていたなら、あのことも知っておるか」
小夢「で、でも、そんなことってあるのかな・・・?」
ミリアム「・・・じゃな。一度失われたものは、そう戻ってきたりしない」
そんな四人を傍らに、梨璃とかおすはその場に立ち尽くす。
特に梨璃には、何か思うところがあったようだ。
梨璃「今の感覚、まさか・・・」
しばらく皆が呆然としていると、ポルカがその場にやってくる。
ポルカ「お〜い、もうみんな集まってるぞ?」
ミリアム「は!いかんいかん!詮索はまたの機会に!」
梨璃「わわ!迎えに来たのに遅刻したら話にならないよ〜!」
翼「私たちも急ごう!」
琉姫「さあ走って!」
小夢「ふえええ、そんなあ」
かおす「待ってくださあい・・・」
一同はその場を後にした。
アルシーヴから全員に知らされたのは、ギガント級の足取りを掴んだという情報だった。
あの放送の後、エトワリア全域での捜索が始まったのだが、海をテリトリーとする海賊、そしてリュウグウパレスから、海洋生物の様子がおかしいとの情報が入ったのだ。
曰く、一部海域の生物たちが、酷く何かに怯えていたらしい。
アルシーヴ「そこで彼女らと協力し、ここ数日で海中を捜索したのだが・・・」
セサミ「かなり奥深くに、洞窟への入り口があったのです」
アルシーヴ「そこから異様な絶望のクリエを感じてな。中に入ったところ、一部が空洞・・・、つまり陸上と同じように呼吸できる場所があったのだ」
セサミ「残念ながら既にもぬけの殻でしたが、数々の痕跡、および残留したクリエから考えるに、ギガント級がそこに潜んでいたのは間違いないかと」
アルシーヴ「平原から掘り進んできたのだろう。もっとも、その際に使用した穴は丁寧に埋められていたが」
夢結「足取りを掴ませまいとしたのね」
楓「それで、敵は何処に?」
アルシーヴ「それ以上掘り進んだ痕跡が見当たらない代わりに、異様に壁が削れた箇所があったのだ。まるで空間ごと穴を空けたような・・・」
ミリアム「ケイブを作って逃げんたんじゃな」
セサミ「はい、今はそこに潜伏しているものと考えられます」
それを聞いた一柳隊の面々は、困惑の色を隠せなかった。
神琳「・・・厄介ですね」
雨嘉「うん、これじゃどこから出てくるか分からない・・・」
鶴紗「なんなら、神殿の真横にケイブを張られる可能性もある」
梅「そうしたら防ぎようがないな・・・」
アルシーヴ「ところが、そうでもないのだ」
二水「と、言いますと?」
アルシーヴはソルトを呼び寄せる。
彼女の口から、ギガント級の行方について説明が行われた。
ソルト「まず結論から述べますと、敵は平原に再び出る可能性が高いです」
楓「根拠を挙げて頂けますか?」
ソルト「はい。捜索が始まったタイミングに合わせて、絶望のクリエの観測を私たちは行っていました。あれだけのものを撒き散らす存在です。何か動きがあればすぐに分かります」
アルシーヴ「それまでは海底に潜んでいたため、反応が見当たらなかったのだが・・・」
ソルト「アルシーヴ様が海底調査を行った前後に、平原付近で濃い絶望のクリエが観測され始めたんです。それも日増しに強くなっています」
アルシーヴ「空間も不安定になってきている。ここに再び出るぞと、我々を挑発しているかのようだ」
梨璃「もしかすると、ケイブの向こうで準備を整えているのかもしれません」
ソルト「その可能性は高いでしょうね」
そこに梅が口を挟む。
梅「しかし敵さん、なんでそんな回りくどいことを?」
きらら「・・・リベンジ、なのかもしれません」
夢結「それはどういう?」
きらら「以前、ヒナゲシと私たちが戦った話はしましたよね?」
マッチ「彼女、一柳隊にコテンパンにされたこと込みで、僕らを強く恨んでいるんじゃないかなあ」
うつつ「・・・逆恨み」
ランプ「だからこそ、敗北の地で今度は勝利し、自尊心を満たそうとしているのかと・・・」
神琳「しかし、それは彼女の意思であってギガント級の意思ではないのでは?」
ミリアム「・・・クリエとマギは似ているようで違い、違っているようで似ておる」
翼「案外、心を通わせたのかもしれない」
二水「ええ!?ヒュージとコミュニケーションを!?」
楓「それはいくら何でも飛躍のし過ぎでは?」
ミリアム「じゃがのう、現にリリィと交流の多かったかおすの杖からは、明らかにマギが検出されとる」
梨璃「さっき、私のチャームとかおすちゃんの杖が激しく共鳴したの」
かおす「・・・」
ミリアム「この世界については分からないことだらけじゃ。似たようなことが敵の間で起こったとしても、仮定としてはアリだと思うぞい?」
雨嘉「世界が憎いもの同士が、意気投合したってこと?」
楓「それが本当なら迷惑千万ですわね」
アルシーヴが話を切り替える。
アルシーヴ「平原の反応を見るに、Xデーは明後日の早朝だと思われる」
ソルト「日の出と共にケイブ・・・、すなわちワームホールが開かれて、敵がなだれ込んでくる可能性が高いかと」
小夢「明後日・・・」
琉姫「明日じゃないだけマシね」
夢結「ええ、敵が日数分強くなるのだとしても、私たちも同様に強くなれるわ」
かおす「・・・やりましょう」
翼「かおす・・・」
かおす「この杖に宿った何かが、“頑張れ”って呼びかけてくれている気がするんです。だったら、それに応えてあげたいなって」
ランプ「・・・なんだか、かおす先生が少し強くなられた気がします」
小夢「憧れの梨璃ちゃんの影響かな?」
梨璃「そうなの?」
かおす「あばば!否定はしませんが恥ずかしいです・・・」
場に暖かな笑いが巻き起こる。
かおすはどこかばつが悪そうで、それでいてどこか嬉しそうだった。
ポルカ「さて、一段落したとこで今度はおれたちの番だな」
ミリアム「ああ、わしらの成果を見せてやろうぞい。・・・といっても、“あれ”はもう少し調整が必要じゃがな」
それから、二人のプレゼンが行われたのだった。
話し合いとその日の訓練を終え、一同が帰っていく。
勿論、一柳隊とまんが家も例外ではない。
だが、その日は様子が違っていた。
楓「こ、これが梨璃さんのドール・・・!!」
かおす「えへへ、本物そっくりですよね」
梨璃「何だか恥ずかしいよお・・・」
楓「かおすさん。言い値で買い取らせて頂けませんか?」
かおす「ええ!?か、楓さんのお願いでもそれは駄目ですぅ!」
楓「・・・と、言いたいところですが、梨璃さんを愛する気持ちは痛いほど分かります。ここは手を引きましょう」
かおす「楓さん・・・」
楓「そのドール、大切にするんですのよ」
鶴紗「と言いつつ、手が震えてるぞ」
楓「そこ、お黙りなさい!」
最初は梨璃の一言がきっかけだった。
決戦を迎える前に、互いに親睦を深めたいと。
それがあれよあれよと膨らんで、一柳隊が全員で寮に訪ねることになったのである。
ミリアム「おお!魔法少女ものの漫画ではないか。わしこういうの好きでのう」
美姫「そうなの?なら嬉しいな。それ描いてるの私なの」
ミリアム「なんと!いやこれは素晴らしいぞ。お主がどれだけ魔法少女を愛しているのかが、読めば読むほど伝わってくる」
美姫「でも、皆さんは魔法・・・というより魔力を使って戦う本物の魔法少女ですよね?何だか気が引けちゃうなあ」
ミリアム「なーに言っちょる。魔法少女はもっとこうヒラヒラ〜としてて、可愛い使い魔を連れて、キラキラしたエフェクトに囲まれているもんじゃ。ゴツい武器持って、硝煙と汗にまみれて、お子様が見たら刺激が強い戦いしてるわしらが魔法少女なら、それは外道の類だわい」
美姫「そこまで言わなくても・・・」
ミリアム「いやのう、麻冬という姉さまに面と向かってわし言われたんじゃよ、『申し訳ないけれど、あなた達は何か違うわね』と・・・」
美姫「ああ麻冬さん、魔法少女大好きだからなあ・・・」
ミリアム「つまりはそういうことじゃ」
怖浦「クッキーあるけど良ければどお?」
二水「う゛ええ!?なんですかこれえ!?」
怖浦「自信作なのお〜!」
二水「クッキー見てグロテスクって感想抱いたの初めてです・・・」
梅「見た目はアレだけど、中々イケるゾこれ」
二水「そしてそれをボリボリいってる梅様にも驚きです・・・」
怖浦「・・・」
翼「あ、先輩が案外驚いた顔してる」
琉姫「あんなに物怖じしない人、初めて見たのかもね」
梅「ふーらだっけ?前髪伸ばしたままだと目に悪いゾ?ほら、結んであげるから」
怖浦「あ、いやその・・・」
梅「結構可愛い顔してるじゃないか。隠すだなんてもったいないゾ」
怖浦「ああ、そんなことされたら私成仏して・・・」
梅「ん〜?ちゃんと足ついてるから大丈夫だろ」
怖浦「翼ちゃ〜ん、琉姫ちゃ〜ん、助けて〜!!」
翼「おーこれは中々見られない光景」
琉姫「ふふ、頼りがいがあるわね」
神琳「少年漫画とは、こんなに心躍るものなのですね」
雨嘉「この恋愛ものも良い・・・」
小夢「そう言ってもらえると作家冥利に尽きるよ〜」
翼「私もみんなの戦いを見て、インスピレーションが湧いて来そうなんだ。だから感想があればドンドン言って」
夢結「こちらの漫画は何かしら?」
琉姫「ああそれは駄目ぇ!!!」
夢結「〜〜〜〜っ!?!?!?」
神琳「あらあらこれは・・・」
雨嘉「そんな。大事なところがはだけて・・・」
琉姫「嫌ぁぁぁぁぁ!!!!」
小夢「ありゃー遅かったね」
翼「琉姫はその、ティーンズラブ担当なんだ」
梨璃「お姉様、どうされたんですか?あ、私も一緒に読みたいです!」
夢結「駄目よ梨璃!!梨璃はどうか清らかなままでいて!!」
琉姫「私は不健全・・・、存在そのものが不健全・・・」
梨璃「・・・どうされたんですか皆さん?」
神琳「梨璃さんにはまだ早い世界がある。ということですよ」
梨璃「うーん・・・」
思い思いの時間を過ごす少女たち。
だが、楽しい時間ほど早く過ぎるのは世の道理である。
明日が最後の訓練になると、それぞれの住処に戻る一同。
名残惜しさを感じるかおすに、梨璃が声をかける。
梨璃「ちょっとだけ、付き合ってもらえるかな?」
かおす「・・・もちろんです!」
そうして二人だけ、寮の近くで話をすることになった。
草むらの上に座り込む少女たち。
かおすが先に口を開く。
かおす「良かったんですか?戻らなくて」
梨璃「うん、お姉様にはきちんと話してあるから」
かおす「そっか」
今度は梨璃から話題を振る。
梨璃「その杖のことなんだけど・・・」
かおす「結梨さん・・・ですか?」
梨璃「やっぱり知っていたんだね」
一柳結梨。
天真爛漫で、梨璃の妹や子のようでもあった存在。
梨璃を守るため現実に立ち向かい、帰ることのなかった少女・・・。
かおす「私、内容は朧気なのですが、ここ数日怖い夢を見ていた気がするんです」
梨璃「・・・」
かおす「もう駄目だって、そう思ったときに誰かに助けてもらったような。それはとても暖かくて、良い香りがして、でも悲しくてたまらなくて・・・」
梨璃「・・・結梨ちゃんのことだって、確信に変わったのは?」
かおす「梨璃さんのチャームと杖が反応したとき、私思ったんです。まるで姉妹や親子が呼びあってるみたいだなって」
梨璃「姉妹、か・・・」
かおす「私の杖に、どうして結梨さんのマギが宿ったのかは分かりません。でもきっとそれは、強い意味を持っていると思うんです」
一瞬の沈黙の後、梨璃が口を開く。
梨璃「私はね、あの娘に何もしてあげられなかったの」
かおす「・・・」
梨璃「結梨ちゃんに、世界の美しさや素晴らしさをもっと教えてあげたかった。この星空を見せてあげたかった」
梨璃はさらに言葉を紡いでいく。そこには、言いようのない憂いが含まれていた。
梨璃「そんな私なのに、結梨ちゃんは夢で私を励ましてくれたの。だから悲しんでいる暇なんてないんだって、私はもっと強くならなきゃいけないんだって」
でもね、と彼女は続ける。
梨璃「やっぱり涙があふれて止まらないんだ。今もこうしてかおすちゃんを通じて、あの娘に見守ってもらっているんだと思うと、自分が本当に情けなくて、近くにいるのに言葉を交わせないのがもどかしくて」
泣きじゃくる彼女に、かおすが声をかける。
かおす「今の話を聞いて、少しだけ夢の続きを思い出したんです」
梨璃「続き・・・?」
かおす「やっぱりあれは結梨さんでした。そして太陽みたいな笑顔で私に言ったんです。“梨璃によろしく”って」
梨璃「はは、やっぱり見守ってもらってばかりだ」
かおす「それは違います!」
かおすが語気を荒げて梨璃に迫る。
いつもは大人しい彼女が、そうした姿を見せたことに、梨璃は驚いていた。
かおす「あれは、本当にその人が大好きだって笑顔です。結梨さんは確かに梨璃さんを見守っているんだと思います。でもそれは心配で仕方ないとかじゃなくて、心はいつでも一緒だよって、そう伝えたいだけなんです」
梨璃「心はいつでも一緒・・・」
かおす「だから、そんなに自分を責めないでください。その方がよっぽど結梨さんは悲しみます・・・」
梨璃はかおすの杖を見やる。
相変わらずそれは、薄く紫がかった桜色に光っている。
その光に、彼女の心も少しだけほぐれた。
梨璃「・・・そうだね。昼間にあんなことがあったから、心がざわついていた。ごめんねかおすちゃん、情けないところ見せちゃったね」
かおす「私にとって梨璃さんは憧れです。梨璃さんはヒーローで、ヒロインで、私の目標なんです。その気持ちは近くで姿を見るほどに、どんどん強まっていきました」
梨璃「やだな、恥ずかしいよ・・・」
かおす「だから、できる限り笑っていてください。きっと気持ちは結梨さんも同じです。どうか、私や結梨さんの憧れの人を貶さないでください・・・」
それを聞いた梨璃は涙を拭って、そっと立ち上がる。
梨璃「分かったよかおすちゃん。もう泣かない・・・、とまでは言えないけど、できる限り、笑顔でいられるように頑張ってみるよ」
かおす「えへへ、やっぱり梨璃さんには笑顔が似合います」
梨璃「聖典の世界を、そしてみんなのことを・・・」
かおす「守りましょう。私たちで」
夢結「・・・妬けちゃうわね」
楓「足が震えてましてよ、夢結様」
梅「楓もだゾ」
小夢「物語の憧れの人と一緒に居続けるなんて、どうなるのかなって一時期は思ったけど・・・」
翼「中々どうして、良い方向に転がったじゃないか」
琉姫「私たちも頑張りましょう。全てを守るために」
次の日も、彼女たちは特訓に明け暮れた。
真摯に参加する者、愚痴をこぼしつつも、その手は休めない者。皆を縁の下から支える者。
そこには、これまで以上に笑顔が溢れていた。
そして、一同は運命の日を迎える。
その日は、まるで戦いを案じるかのように、朝日が空を紅に染めていた。
平原近くで、皆が待機をしている。
ポルカ「すまねえな、こいつの調整が終わったらすぐ届けに行く!」
カンナ「それまで、よろしく頼む」
ポルカの手に握られている一つの弾丸。
それは、エトワリウムで出来たノインヴェルト戦術用の弾丸だ。
この日のために、リシュカや発明家の老人の手も借りたとっておきの代物。
だがマギとクリエという、異なる力のすり合わせに難航し、今に至る。
ミリアム「心配するでない、あくまでそれは保険じゃ」
鶴紗「それを使う前に、カタをつければ良い」
きらら「そのために皆さん、作戦を練って、ここまで努力をされてきたんですから」
そう声をかける一同の元に、二水の声が響く。
二水「ケイブ、来ます!!」
それは、予想どおりあの平原へと展開されていく。
ワームホールが開くと、そこからギガント級と、大量のヒュージ並びにウツカイが雪崩れ込んできた。
カルダモン「あの時より多い・・・!」
ランプ「見たことないヒュージもいます!」
二水「落ち着いてください。確かに形態は違いますが、私たちの世界でも普通に確認されるヒュージばかりです!」
アルシーヴ「少しタネを変えたところで、我々のやることは変わらない!」
フェンネル「クロモンから伝令・・・。神殿への結界構築、およびソラ様の避難完了しました!」
その報告を聞き、梨璃ときららが号令をかける。
梨璃「一柳隊、出撃!!」
きらら「クリエメイトの皆さん、これが最後の戦いです!リリィに続いてください!!」
駆けだしていく一同。
今、ここで全てが決まる。
今回の投稿はここまでです。
明日は第12章を投稿します。
物語も佳境ですが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
第12章 アジサイ(冷淡、移り気、冷酷、無情、高慢、辛抱強さ)
犬とトカゲを組み合わせたようなもの、両腕をナタのように振り回すもの、高速で飛び回り熱線を撃つもの、壁のように立ち塞がるもの・・・。
以前はいなかったヒュージがウツカイと共に、荒れ果てた平原へ跋扈する。
だが、皆はそれに怯むことなく応戦していた。
リゼ「押せー!!ナイトが中心になってガップリ組み合うんだ!!」
衣乃「盾も新調してもらったんです!みんなのためにやりますよ!」
やすな「ダテにナイトやってないとこ、見せちゃうよー!」
千矢「お山や自然を荒らすなら許さないんだから!」
守りに特化したナイトが大勢いる。
これはリリィにはないアドバンテージだった。
そこでナイトが中心となって前線を支え、後方に攻撃役と支援役を控えさせる、という戦いの基本を突き詰めたのである。
ナイトが守りを固める隙間から、攻撃に長けたクリエメイトたちが進撃を始める。
胡桃「この野郎、食らいやがれ!!」
宮子「ズバーンといっちゃうよ!!」
カレン「みんなカタナのサビデース!」
ジンジャー「あの時のリベンジだ!」
せんしが斬りかかるのは緑色をしたヒュージだ。
相性込みでもタフなヒュージに対し、一人ではなく複数で斬りかかるのも作戦の内である。
敵は触手を伸ばして応戦するが、それを皆が切り裂いていく。
ヒュージ「!?!?」
胡桃「でやあ!!」
カルダモン「これでトドメ!」
カレン「セイヤー!!」
相手が怯んだ隙に、三人が全力で斬りかかる。
敵は深い傷を負い、そのまま動かなくなった。
ジンジャー「いよっしゃあ!!」
胡桃「しかし、緑色してるのにあたしの攻撃通じるのは変な感覚だな・・・」
カルダモン「まあね、でも以前、同じ色のヒュージに炎で攻撃したら効き目がなかったんだ」
カレン「つまりカタナそのものが効いてるんデース!」
宮子「神琳の読みどおりだねー」
別の箇所では茶色をし、金属光沢をもつヒュージの討伐が行われている。
だが、それは風属性の仕事ではない。
悠里「燃え尽きなさい!」
なでしこ「調理してやるんだから覚悟しなよー!」
こはね「フレフレみんな!っと私も戦わなきゃね」
茶色をしたヒュージに立ち向かうのは、火属性のまほうつかい達だ。
複数の大火力を浴びせられた敵は、溶けるように燃えていく。
かなた「効いてる・・・!」
乃々「あんな地獄の特訓したんだから、これで効かなかったら訴訟ものですよ」
千夜「まあまあ、結果オーライじゃない。クリスマス衣装になったかいがあったわ〜」
コウ「ねえあたし水着なんだけど・・・」
りん「大丈夫よ、怪我を負っても私が回復させてあげるから」
コウ「・・・なんでりんはそうりょなのに攻撃部隊混じってるの」
五行思想。
古代中国から伝わる自然哲学の思想であり、この世界は木、火、土、金属、水から成り立っている、と捉えるのが特徴である。
勿論、五行にも得意不得意が存在する。だがそれはエトワリアのそれや、ヒュージが元来持つものとは異なっていた。
神琳「木は金属、つまり斧や剣で切り倒される。金属は火に溶かされ、火は水に消し止められる。水は土にせき止められ、土は木から養分を吸われる・・・」
ミリアム「件のマッドサイエンティスト、そんな改造を施してたんじゃな」
アルシーヴ「今回の場合、土は金属と統合されているのだな」
神琳「皆さんの話を統合すると、この可能性しか考えられなかったんです」
この場合、木は炎を燃やす燃料とはなるが、それは互いの相性の良さとし、得手不得手とはしないのが五行である。
また、五行において木属性は存在するが、風属性は存在しない。
なまじ土は水に、水は炎に効くことは共通していたので、無用な混乱が生じていたのだ。
神琳「ですが、タネが割れてしまえばどうと言うことはありません。それに従ってフォーメーションを組み直すだけです」
アルシーヴ「するとバリアの残り一枚はやはり・・・」
神琳「ええ、金属でしょうね。戦いを見て予想が確信に変わりました」
今日までの特訓は、これまでに無い相性の敵と戦うためのものだ。
実際それは功を奏し、クリエメイトでもヒュージ相手に戦えるようになっていた。
だがマギではなくクリエによる攻撃な以上、複数人が一斉に攻撃しないと効果は出ない。
実際、あちこちで討ち漏らしが生じると共に、ラージ級といった巨大な体躯をもつ敵には、まるで攻撃が効いていなかった。
ソーニャ「手強い・・・!」
ココア「でも、作戦どおりだよ!」
梅「その通り!」
梨璃「そのための私たちです!!」
残った敵や、巨大な敵をリリィが討っていく。
こうすることで互いの負担を減らし、ギガント級にアタックを仕掛ける下地を作るのだ。
琉姫「攻撃は効かなくたって・・・!」
仁菜「サポートなら出来るんだから!」
冠「ん、食らっとくと良い」
雨嘉「みんなのことは守ってみせる・・・!」
エンギ「ああ、それが私たちの使命だ!」
小夢「私も水着ならナイトだからね!」
リリィや一部のナイトが付き添いながら、アルケミストによる攻撃も行われていた。
属性に寄らない弱体化は、ヒュージに対しても有効である。
夢結「感謝します!」
鶴紗「いつもより戦いやすい!」
普段は討伐に手を焼くラージ級も、こうすることで比較的楽に倒せるのだ。
だが敵とて愚かではない。ナイトが守る後方めがけて、ギガント級が爆弾を放ち、一部のヒュージが熱線を放つ。
それらはたちまち火の雨となって襲いかかる。
二水「上空、二時の方向からです!」
花名「させない!」
きらら「みんなに、守りの力を!!」
由紀「元気のおすそ分けだよ!」
花名が炎から守りを固める術を使い、きららがそれをサポートする。
そこに由紀が癒やしの術を施すことで、被害を最小限に食い止める。
こうした対応が出来るのも、二水のおかげだ。
それでも流れてきた弾は、そうりょの中でも別格の者たちが対応に当たる。
なる「そうりょだからって、戦えないわけじゃない!」
榎並「払いのけてやるさ!」
かおす「みなさんに戦う力を!」
シャミ子「行きますよー!!」
戦闘力が高いそうりょに、他の者が支援を行う。
力を得た二人は、迅速に流れ弾を撃ち落とし、薙ぎ払っていく
きらら「これならいけます!」
ゆの「私たちは、前で戦うみんなに元気を分けなくちゃ!」
春香「優ちゃんだって頑張っているんだもん。私も・・・!」
こうして皆は、戦いを上手く回していた。
神琳「アルシーヴさん、わたくし達も前に出ます!」
アルシーヴ「ああ、準備は任せておけ!」
ミリアム「では行ってくる!ポルカ達がきたらよろしくの!」
そういって前へ跳ぶ二人。着地地点では楓たちが戦っていた。
楓「お二人とも、遅いですわよ!」
神琳「そうは言いつつ、余裕はありそうですね」
桃「みんなが力を合わせてるおかげ」
翼「この調子で、どんどん数を減らそう!」
ミリアム「ああ!!」
それから数時間。
皆の奮闘により、雑兵はかなりの数を減らすことが出来た。
現在リリィは、後方にいた二水を含め全員でギガント級を釘付けにしている。
邪魔立ての入らない今をおいて、作戦の決行タイミングはない。
だが、一部の者は懸念を抱いていた。
ランプ「きららさん、先生、ヒナゲシの姿を見たという者がいません」
きらら「普段から隠れるタイプとはいえ、少し不自然かもしれないね」
うつつ「でもさあ、今を逃したら作戦は決行できないんじゃないの?」
マッチ「ギガント級が兵隊を産み出したらまた逆戻り・・・。いいや、状況は悪化するだろうね」
アルシーヴ「・・・」
クリエメイトたちが優勢に戦っているとはいえ、体力や魔力には限界がある。
もう一度兵を整えられれば、前線は一気に崩壊するだろう。
また、余力に限りがあるのはリリィも同じだ。過度に消耗し、作戦の決行が出来なくなれば本末転倒である。
元から背水の陣である。余裕のある内に本丸を叩けなければゲームオーバーだ。
アルシーヴ「・・・作戦を決行しよう。どちらにせよ、今を逃せばチャンスは二度と無いからな。不服があれば、正直に申立ててくれ」
ランプ「・・・いえ、不安でないと言えば嘘ですが、同意見です」
きらら「私もランプと同じ気持ちです」
アルシーヴ「・・・感謝する。周囲の警戒は最大限に行ってほしい」
ランプ「はい!」
不確定要素に注意は払いつつも、今目の前にある確かなチャンスを見据える。
それがアルシーヴの決断だった。
皆が呼びかけを行い、後方で準備が行われる。
アルシーヴが用意したのは、エトワリウム製のカプセルだ。中には言の葉の樹から採れた若枝、葉、実、樹液を煮詰めたものが、ギッシリと詰まっている。
このカプセルが五行における金属と木の役割を果たすのだ。
バレーボール大のそれを、アルシーヴは上空に浮かべ、あの時のように属性のエネルギーをまとわせていく。
そんな彼女に対し、そうりょ達が力を分け与えていった。
やがて上空には、日、月、炎、風、土、水の他に、金属と木の属性を帯びた球体が出来上がった。仲間のサポートもあり、以前のものと比べても巨大だ。
この球体によって五属性のバリアを破壊し、丸裸になった敵に対して、残り一発のノインヴェルトを仕掛ける。これが作戦の全貌だ。
アルシーヴ「みんな、離れろ!!」
そう叫んでアルシーヴは掲げたそれを打ち出す。
だいぶ力を使ったのだろう、彼女はがくりと膝をついた。
球体は地面を抉り、雑兵を消し飛ばしながら進んでいく。
やがてそれはギガント級の目前まで迫った。
敵の親玉から離れるリリィたち。
直後、球体はギガント級へ直撃する。
敵はバリアを張り応戦するが、音を立ててそれらは割れていった。
表の四枚が消失し、最後の一枚が顔を現す。
やはりそれは金属光沢を持つ、とっておきの一枚だった。
だがそのバリアも、全力の攻撃の前にあっさりと割られていく。
属性の奔流を全身に浴びたギガント級は、文字通り大火傷を負ったのだった。
ギガント級「!!!!」
ギガント級が悲鳴を上げる。今が最後のチャンスだ。
残り一発の特殊弾頭を、梨璃が打ち上げる。
梨璃「二水ちゃん、お願い!」
二水「はい!」
ノインヴェルトによるマギスフィアが、順調にパス回しされていく。
最後にそれを受け取ったのは夢結だった。
楓「夢結様、あとは頼みました!」
夢結「ええ!これで決める!!」
マギスフィアが彼女の元から離れ、敵に打ち出されていく。
防ぐ術が相手にない以上、勝敗は確実なものだ。
だが、現実とはいつも移り気で無情なものだ。
鶴紗のレアスキルが直感と共に、ごく近くの未来を見せる。
ギガント級が口を開く。
その中にいたのは、間違いなくヒナゲシだ。
彼女は正面から飛来するマギスフィアめがけ、黒い矢を放つ。
梅が縮地を用い阻止に向かうが、紙一重の差で矢はマギスフィアへ命中する。
刹那、マギスフィアは漆黒に染まり、その余波で梅は吹き飛ばされてしまった。
黒く、絶望のクリエに染まったマギスフィアが命中する。
それは敵を討つどころか、多大なエネルギーを与える結果になった。
ギガント級の身体に変化が起こる。
全身が白黒に明滅し、体表のエトワリウムは漆黒に染まって肥大化した。
背中から触手が生え、それらが翼のように寄り集まる。
手足と首、尾がスラリと伸び、全体的なフォルムが大きく変化する。
それはまさしく、西洋に伝わる邪龍そのものだ。
ギガント級「!!!!!」
ギガント級が触手を地面に突き刺す。
瞬間、地を混ぜるほどの大地震が発生し、陣形が大きく崩され、前方と後方が入り乱れてしまう。
やがて敵は触手を翼状に戻し、それを大きく広げる。そこからはバチバチと耳障りな音が響いていった。
龍は、余剰となったエネルギーを雷として一面に降らす。
地を砕き割り、全てを切り裂き、燃やし尽くす一撃だ。
辛うじて対応できたナイト達がとっておきを用い、防御を全体に敷く。
一部のそうりょたちも支援を行っているが、とても間に合わない。
やがて力の奔流は弾け、全員を襲った。
しばらくして、かおすはむくりと目を覚ます。
だいぶ遠くに吹き飛ばされたようで、全身がズキズキと痛むが、何とか生きているらしい。
だが、眼前の光景を見て、かおすはあの光景を思い出してしまった。
否、思い出したという表現は正しくないだろう。そこに広がっていたのは、あの悪夢さながらの光景だったのだったから。
かおす「そんな、あれが正夢に・・・」
焦燥感に駆られた彼女は、辺りを見回す。
すると遠くに、見知った顔を見つけることが出来た。
小夢「うう・・・」
梨璃「はあ、はあ・・・」
かおす「・・・!!二人とも大丈夫ですか!?」
かおすは少し安堵した。あの夢と違い、まだ皆が生きている。
だが、予断を許さない状況に変わりはない。加えて、動けるのは自分しかいないらしい。その認識が彼女を再び強い不安へ駆り立てた。
ヒナゲシ「良いのかおすちゃん?このままだと夢と同じになるよ?」
かおす「・・・!」
龍の口元から、ヒナゲシが降り立つ。
それはまさに、あの夢の声の主だった。
第13章 エーデルリリィ(イノチ感じるほどに)
二水「まさか、ヒュージの体内に隠れていたなんて・・・!」
ヒナゲシ「木を隠すなら森の中・・・。あなたの目でも中までは見えないでしょ?」
神琳「ですが、それではあなたも無事で済むはずが・・・!」
ヒナゲシ「分からないの?あの子が私に力をくれたんだよ」
見れば、ヒナゲシから不気味なオーラが立ちこめている。
それは絶望のクリエだけでなく、負のマギもない交ぜになったものだった。
夢結「本当にヒュージと心を通わせた、とでも言うの?」
ヒナゲシ「うふふ、だからこーんなことも出来ちゃうよ?」
ヒナゲシが虚空から大量の矢を取り出す。
それを空に向かって放つと、たちまちウツカイへと変化した。
ヒナゲシ「あいつを押さえて」
ウツカイ「ウツツ!」
鶴紗「ぐっ・・・!」
梅「鶴紗!」
ヒナゲシ「傷が癒えても、動けないなら意味ないよね?」
逼迫する状況。そこにエンジン音が響いていく。
ポルカとカンナがバイクで駆けつけたのだ。
ポルカ「おい!どうなってるんだよこれは!?」
カンナ「向かっている途中、凄まじい音がしたと思えばこれか・・・!」
ヒナゲシ「・・・例のものを奪って」
再び矢を放ちながら、そう呟くヒナゲシ。
彼女の願いに応え、虫型に姿を変えたそれは、二人に大群で襲いかかった。
カンナ「ポルカ!飛び降りろ!!」
ポルカ「お、おう!」
二人がバイクから飛び降りた直後、ウツカイがそこに群がる。
バイクは瞬く間に爆破炎上した。
だが、それで済ますほど敵は甘くない。
まるで鳥葬のように二人に覆い被さり、目当ての品を探し始める。
カンナ「ぐっ・・・、どけ、どくんだ!!」
ポルカ「やめろ!それを持って行くんじゃねえ!!」
二人の抵抗も虚しく、最後の希望たる特殊弾頭も奪われてしまう。
怪物はそれを丁寧に掴むと、主の元へ届けた。
ヒナゲシ「良い子だね」
ウツカイの頭を撫でながら彼女はそう言い、懐から最後の黒い矢を取り出す。
きらら「あれは・・・」
アルシーヴ「遠目でも分かる・・・。なんて禍々しい気だ!」
ミリアム「それをどうする気じゃ!」
ヒナゲシ「うん?こうするんだよ」
そう微笑むと、彼女は矢と弾頭をコツンとぶつけ合わせる。
するとどうだろうか、矢が霧のように霧散し、弾頭へと吸い込まれていく。
彼女の手元には、黒い球体が出来上がっていた。
楓「あれは、マギスフィア?」
雨嘉「でも、あんなの見たことない・・・!」
ヒナゲシ「それはそうなの。これは特製なんだから」
ボウリングほどのそれを手に、彼女はかおすの下へ歩み寄る。
そしてマギスフィアを強引に、彼女の杖へとねじ込んだ。
たちまち杖も黒く染まっていく。
ヒナゲシ「どうすれば良いかは、分かっているよね?」
かおす「・・・」
ヒナゲシ「ほら、あれを見て?」
ヒナゲシが指さす方向には、あのギガント級がいる。
敵はゆっくりと、だが確実に、翼へと再びエネルギーを貯めていた。
ヒナゲシ「このままだと、みんな死んじゃうよ?夢の通りになっちゃうの」
かおす「・・・」
ヒナゲシ「でもね、あの子の体はもう限界なの。無理もないよね、傷ついた体に無理やりエネルギーを入れたんだから」
かおす「・・・」
ヒナゲシ「だからさ、それ持ってぶつかれば倒せるよ・・・?」
ミリアム「いかん!そんなことをすれば確実に死ぬぞ!!」
神琳「それに、あなたが自ら希望を砕くような真似をするとは思えません!」
翼「どう考えても罠だ!」
ヒナゲシ「でも仮に罠だとして、これ以外に状況を切り抜ける手段がある?」
琉姫「それは・・・」
先ほどの一撃を受けて、かおす以外は体を動かすことさえままならない。
動ける可能性のある鶴紗、カンナ、ポルカも拘束を受けている。
楓「全てあなたの仕組んだことでしょうに・・・!」
ヒナゲシ「何とでも言えば良いの。それにあなたとはお話ししてない」
そういうと彼女は、他の面々にもウツカイを取り付かせる。
強い拘束を受けて、皆が苦しそうに呻き声を上げる。
ヒナゲシは満足げな顔をすると、再びかおすに声をかける。
ヒナゲシ「夢では助けが来てくれたけど、現実はいつも無情で、残酷で、冷酷なの」
かおす「・・・結梨ちゃん」
ヒナゲシ「うん、だからその結梨ちゃんも来ないんだよ」
彼女は一方的に話を続ける。
ヒナゲシ「愚図でのろまで、何の取り柄もない自分が嫌いなんだよね?だから物語に憧れるんだよ。でも、所詮そんなものは自分を助けてくれない。」
かおす「・・・そうですね。私はずーっと自分のことをそう考えて、いいえ、今でもそう考えてしまいます」
小夢「かおす、ちゃん・・・!」
ヒナゲシ「最後に勝利して、みんな笑顔なんて幻想なんだよ。これは戦争なの。何かを犠牲にしなければ戦いは終わらない」
夢結「どの口が言うの・・・!」
ヒナゲシ「ふふ、でもあなた達の世界だって同じでしょ?あの子も人間同士がいざこざを起こした結果生まれたんだから。私はそれに乗っかっただけなの」
ヒナゲシ「だからさ、最低限の犠牲でことを成し遂げたら、何者でも無い自分に・・・、ヒーローになれると思わない?」
かおす「・・・ええ、犠牲は最低限に。私も同じ考えです」
雨嘉「駄目だよ、そんなの詭弁だよ!」
皆の言葉に対し、かおすは押し黙ったままだ。
そこに、少女はトドメの言葉を投げかけた。
ヒナゲシ「だからさ、“いって”」
その言葉を受け、かおすが走り出す。
皆の叫び声も尻目に、彼女は速度を上げていく。
それを見て、ヒナゲシは勝利を確信した。
ヒナゲシ『うふふ、倒せるって言葉に嘘はないの。でもその後のことは知らないよ・・・?』
夢で洗脳の下地を作り、攻撃から敢えて彼女を外すことで、同様の状況を作り出す。
そしてかおすが龍にぶつかれば、彼女ごとその体は四散するだろう。
だがそれは、負のマギに汚染されたヒュージ細胞が、広範囲に撒き散らされるのと同義である。
やがて細胞は、寄生、増殖、分裂を繰り返し、ヒュージとしてネズミ算的に増殖する。そうなればもはや対処は不可能だ。
あとはじんわりとエトワリアを汚染し、女神を喰らわせ、聖典の世界も汚染すれば良い。それが彼女の企てであった。
だがそれだけなら、弾頭を奪い汚染した時点で、彼女自身がそれを投げつければ良かったのである。
かおすを利用したのは完全な余興であり、リリィやクリエメイトに対する意趣返しでしかない。
ヒナゲシ『大切な仲間が、憧れを持ってくれた人が、命と引き換えに最悪の事態を引き起こすのを、ゆっくりと眺めると良いの。それがあなた達への復讐なんだから・・・!』
かおすは転びそうになりながらも、必死に走る。
そうして段々と龍に近づき、そして・・・。
ヒナゲシ「は・・・?」
ヒナゲシは何が起こっているのか、一瞬把握できなかった。
かおすは自分の思い通りに動くはずだったのだ。
だが、その目に映る彼女は・・・。
かおす「梨璃さん!しっかり!!」
梨璃「かおすちゃん・・・」
かおすは龍ではなく、梨璃の下へ駆け寄っていた。
黒く染まった杖を、マギスフィアごと梨璃のチャームに重ねている。
そして必死に回復の術を唱え、憧れの人へとかけていた。
梨璃「ありがとう、かおすちゃん。少しだけ元気が出てきたよ」
かおす「梨璃さん!」
梨璃「うん、分かってる!」
そういって彼女はカリスマを発動する。
杖がふれ合った先から、段々と桜色に戻っていく。
二人が武器を掲げると、そこには黒く肥大化したマギスフィアが乗っていた。
ヒナゲシが思わず叫ぶ。
ヒナゲシ「なんであなたはそんなことをしているの!萌田薫子!!」
かおす「確かに私は愚図でのろまです。だから一柳隊の皆さんに憧れました。自分に持っていないものを皆さんは持っているように思えたから・・・」
ヒナゲシ「なら!」
かおす「でも、触れ合って改めて知ったんです。皆さんも私たちと同じで、感性豊かな女の子なんです。何度も挫けて迷って、それでも前に進もうとしてるだけなんです!」
ヒナゲシ「それが何だというの!?そんな力でマギスフィアを浄化できるわけない!」
かおす「出来るどうかじゃありません!犠牲は誰も出さない!私たちと変わらないリリィがヒーローでヒロインなら、私だって今のままでヒーローにもヒロインにもなれる!それを証明するためにも、私たちはやってみせます!!」
梨璃「残念だったね。かおすちゃんはあなたが思っているよりもずっと優しくて、そして強い娘なんだから!!」
ヒナゲシ「ああ、そう」
ヒナゲシ「やっちゃえ」
直後、二人は大量のウツカイに囲まれる。
龍もボロボロの体でとはいえ、チャージを続けている以上、有利不利は変わっていない。
ヒナゲシ「あはは。お馬鹿さんにはお似合いの末路なの」
だが、そんな彼女に一種の不快感が押し寄せる。
何か暖かで、強い波動が戦場を包んでいく。
ウツカイが苦しみだし、動きを鈍らせていった。
ヒナゲシ「今度は何!?」
彼女は遠くを見やる。
するとそこには、驚くべき人物が立っていた。
アルシーヴ「ソラ様!?何故ここに!?」
セサミ「申し訳ございません!強大かつ邪悪な力を感じ取り、外へ飛び出されてしまったのです・・・」
フェンネル「驚きました。私たちより速く走っていくんですもの・・・」
ハッカ「しかし皆、満更でもない」
シュガー「うん!けーごよりこっちの方がシュガーにはあってる!」
ソルト「ふふ、今日は珍しく意見が合いますね」
ソラが優しく、だが強くアルシーヴに語りかける。
ソラ「ごめんなさい。お説教なら後でいくらでも聞くから!」
アルシーヴ「全く何を考えているのですか!皆あなたを守るために戦っているのですよ!それが前線に出てくるだなんてそんなことあり得ますか!?」
ソラ「もう!!だって守られてばかりなんて嫌なんだもの!!」
アルシーヴ「・・・でも」
アルシーヴもまた、優しく呟く。
アルシーヴ「そのお顔を見られて、正直ホッとしました」
ソラ「うんうん、それで良し!」
ソラが皆に勅命を下す。
ソラ「女神ソラが命じます。みんな、立ち上がって!!」
ヒナゲシ「させないの!!」
そういって矢を雨のように放つヒナゲシ。
だがそれら全てを弾かれてしまう。
セサミ「それはこちらの台詞です」
フェンネル「ふん、こんなものアルシーヴ様の技に比べれば!」
ハッカ「ここには皆がいる。このようなもの、そよ風と同じ」
シュガー「おりゃおりゃー!!」
ソルト「皆さん!立ち上がってください!!」
アルシーヴ「そして滅ぼしてくれ、歪んだ未来を!!」
カルダモン「ソラ様・・・」
ジンジャー「やるぜ!ここから逆転サヨナラ満塁ホームランだ!!」
きらら「行こう三人とも!」
ランプ「ええ!負ける気がしません」
マッチ「ああ!僕らの力、見せてやろう!」
うつつ「いやあんた具体的に何してたのよ」
翼「かおす・・・」
琉姫「見ないうちに立派になって・・・」
小夢「何だか泣けてくるよ〜」
鶴紗「未来を視るまでもないさ。今の私たちなら・・・!」
梅「ああ!どんな奴にだって負けない!」
夢結「この世界の暖かさ、絶対に奪わせはしない!!」
二水「全くもって同意です!!」
ミリアム「紆余曲折あったが、あの弾頭も活かせそうで何よりじゃわい!!」
雨嘉「神琳!楓!」
神琳「ええ、参りましょう。テスタメント!!」
楓「逃げも隠れもしませんわ。何故ならあとは勝利をつかみ取るだけですもの!レジスタ!!」
神琳と楓がレアスキルを発動し、戦場全域の仲間に力を与える。
梨璃のカリスマも効果が跳ね上がり、マギスフィアも瞬く間に浄化されていく。
更にその余波を受け、龍も苦しみ出す。チャージも完全に止まってしまった。
夢結「梨璃!萌田さん!」
かおす「はい!」
梨璃「お姉様に、届けぇぇ!!」
マギスフィアを夢結へパスする二人。
その重さを、彼女は確かに感じ取っていた。
梅「夢結!今度はこっちだ!」
夢結「ええ!!二人が繋いでくれた希望・・・。今度は私たちが!」
夢結から梅へ、そして今度は二水へパスが回される。
梅「頼むぞふーみん!!」
二水「せ、責任重大ですぅ!!」
そう口では言いながらも、彼女は確かにそれをキャッチする。
しかし、敵もそれを見逃すほど甘くはない。
ヒナゲシ「させないって言っているの!!」
僅かに残ったヒュージやウツカイが二水めがけて襲いかかる。
ヒナゲシも矢をまとめて束ね、巨大なウツカイを次々に創り出していた。
二水も懸命にかわしていくが、遂にマギスフィアを取りこぼしてしまう。
二水「そんな・・・!」
梅「ふーみん!!」
夢結「待って、今そっちにいく・・・」
だが、それを拾ったのはリリィでも、ましてや敵でもなかった。
カルダモン「ここは・・・!」
ジンジャー「任せろお!!」
二人がすんでの所でマギスフィアを拾う。
だがチャームと違い、クリエメイトの武器はマギを扱うようには出来ていない。
かおすの杖はともかく、強大なマギを前に武器は砕けるしかないのだ。
カルダモン「ヒビが・・・!」
ジンジャー「ええい!ボールなことに変わりはねえ!!」
そう言うとジンジャーはバットでマギスフィアを空高く打ち出す。
ジンジャー「野球は得意だろ!なあ、おまえら!!」
粉々になったバットを振り下ろしながら、ジンジャーはそう叫ぶ。
マギスフィアが飛んだ先にいたのは・・・。
珠姫「くぅぅぅ!!!」
詠深「ナイスキャッチだよ、タマちゃん!」
珠姫「気をつけてヨミちゃん!とんでもない暴れ馬だよ!!」
詠深「逆に燃えるね、それ!」
珠姫「・・・ほんとに手を燃やさないようにね?」
詠深「うん!!」
その一球は、焼けるように熱い。
だが彼女は正確なコントロールで、それをある方向に投げた。
詠深「球技は野球だけじゃない・・・。そうでしょ、みんな!!」
遥「もちろん!」
かなた「受け止めて弾くなら、私たちの得意分野だから!」
詠深から受け取ったそれを、ビーチバレーを志す者たちが繋げていく。
エミリ「今度はリリィのみんなに!」
クレア「うん、アタシたちの全部を託そう!」
成美「まさか、あなた達と共闘だなんてね」
彩紗「でも悪くないね、こういうのも!」
あかり「かなたさん!そちらにパス飛びました!」
かなた「分かった!最後は遥・・・お願い!」
遥「任せて!!」
そう言って、彼女は高くトスを打ち上げる。
それを鶴紗が空中で受け取った。
鶴紗「みんなの全力、無駄にはしない!!」
落下しながら、次のパス目標を探す鶴紗。
一方で、龍も動きに感づき、攻撃の手を強める。
背中からは爆弾を放ち、口からは火炎、尾の先からは水をカッターのように噴出している。加えて、触手も滅茶苦茶に展開し、彼女を捉えようとした。
鶴紗「こんな所で、引き下がるわけにはいかないんだ!!」
冠「メロディ、力を貸して・・・!えーい!!」
冠がその姿を変える。
それはかつて心通わせた、サンリオの仲間のものだった。
彼女がステッキを振るうと、そこに虹の橋が出来上がる。
その上に降り立つ鶴紗。そこに見知った顔が駆けつけ、攻撃を払っていく。
栄依子「仲間を信じ助けろ、ってね!」
シュガー「シュガー様の参上だよ!ここまで全力で走ってきたんだから!」
鶴紗「みんな・・・」
ハッカ「我々の力、譲渡」
そうハッカが言うと、四人のクリエが集まって、マギスフィアへと吸収されていく。
やがて冠と、その友人も集う。
冠「ここは任せて」
花名「そう、ゆっくりでも少しずつ、確実に・・・」
たまて「みんなの心が一つになってきてますよ!!」
鶴紗「・・・そうだね、本当にその通りだ!」
少し涙をにじませながら、鶴紗は集まった希望を打ち出す。
鶴紗「ミリアム!頼んだ!!」
ミリアム「任せんかい!!わしの全力も重ねてやる!フェイズトランセンデンス!!」
己の全てを注ぎ込むミリアム。当然の帰結として枯渇を起こし、その場に倒れ込んでしまう。
だが、彼女は一人では無い。
ミリアムへと飛んだ攻撃を、ある一団が防ぐ。
衣乃「ミリアムちゃんは・・・」
仁菜「私たちが守る!!」
はゆ「おちこぼれにだって、やれることはあるもん!!」
ロコ「リリィにばっか良いカッコさせるか!!」
ミリアム「お主ら・・・」
そっとマギスフィアを受け取る衣乃。
衣乃「後は任せてください」
ミリアム「・・・ああ!」
ロコ「大丈夫か衣乃?緊張してトイレ近づいてないか?」
衣乃「そ、そんなことありませんよ!ちょっとだけですもん!!」
はゆ「ちょっとは・・・」
仁菜「あるんだ・・・」
衣乃「とりあえず行きますよ!誰か受け取ってくださーい!!」
ミリアム「あ、誤魔化した」
その盾を再び砕きながら、衣乃はマギスフィアを繋いでいく。
それを受け取ったメリー達に、変化が訪れる。
薗部「おや・・・」
メリー「この姿は・・・」
優「きっと、さっきの冠ちゃんに反応してるんだ!」
はなこ「わーい!クロミちゃんも力を貸してくれるんだね!!」
アリス「そうだよね、ずっとみんなで笑い合える世界にしたい・・・、気持ちは同じなんだ!」
メリー「なら行きましょうか、キティ!!」
薗部「そちらに投げるので受け取ってくださいまし、葉子様」
音符やリンゴ、菓子の形をしたエネルギーがマギスフィアと同化していく。
例え遠く離れていようと、思いは一つだ。
葉子「確かに受け取ったわ、薗部!」
ゆの「暖かな陽だまりを・・・!」
ゆずこ「ゆるっとした日常を!」
青葉「夢を!」
こはね「誰かを応援する気持ちを!」
平沢 唯「音楽を!」
なる「踊りを!」
苺香「誰かが大好きって気持ちを!」
千矢「つなごう、みんなで!・・・なでしこ!!」
なでしこ「受け取ったよ、千矢ちゃん!」
リン「そうだ、キャンプをしたり・・・」
みら「星空を見上げる・・・」
クロ「そんな風景が、私たちには必要なんだ」
キサラギ「それを滅茶苦茶にだなんて・・・」
ココア「絶対にさせない!」
トオル「みんなの願い受け取って、やすな!!」
直線上にいたやすなへ向かい、トオルがマギスフィアを打ち出す。
敵の猛攻からそれを死守し、力を分け与えていくクリエメイトたち。
いつしか球体は、太陽のごとき光と熱を持つようになった。
やすな「うっわおっも!あっつ!!」
ソーニャ「落としたらぶち殺すからな!!」
ユキ「何というか・・・」
香樹「いつもどおりだね・・・」
はるみ「でもさ、そんな日常がうちらには必要なんだよ。そう、カレーとおんなじぐらい大切」
ソーニャ「良く分からん・・・」
はるみ「というわけで、学園生活部のとこにいってこーい」
由紀「キャーッチ!!ありがとうはるみちゃん!!」
胡桃「ヒナゲシ、お前は知らないのかもな」
リョウ「みんなで食卓を囲んで・・・」
つみき「他愛のない話して・・・」
珠輝「時には挫折して・・・」
まゆ「でも、友達が元気をくれるような」
こはる「そんな何気ない日々が・・・」
シャミ子「一番の宝物だと言うことを!」
きらら「それを守り、繋いでいくのが私たちの願いです!翼さん、お願いします!!」
翼「託された!!」
美姫「うう・・・」
怖浦「この光・・・、本当に成仏しちゃうかも!?」
小夢「頑張って!もう一踏ん張りだよ!!」
琉姫「リリィのみんな!後は頼んだわ!!」
楓「ええ!」
神琳「しっかりと受け止めましたよ、琉姫さん!」
雨嘉「最後は・・・、二人ともお願い!!」
雨嘉が正確な狙撃で、マギスフィアを打ち出す。
その先にいたのは梨璃とかおすだ。
梨璃「受け取ったよ、雨嘉さん!」
かおす「く、うううう・・・!!」
互いを労り、慈しみ、励まし合う。
そうやって繋いだマギスフィア。
だがそれは多くの力を吸ったことで、非常に大きく、そして不安定なものになっていた。
梨璃「体が、燃えるみたいに熱い・・・!」
夢結「梨璃!」
小夢「かおすちゃん!」
楓「いけません、あれでは!!」
ヒナゲシ「ふふ、結局無駄なあがき。そこで灰になればいいの」
うつつ「あんたは黙って!!」
ミリアム「せめてあと二人、いや、一人分のマギがあれば安定するんじゃが・・・!」
-まかせて!-
かおす「・・・え」
梨璃「この声・・・」
二水「そ、そんなまさか!」
ミリアム「嘘じゃろ、そんなことがあり得るのか!?」
かおすの杖から桜色が抜け、一つの形を成していく。
それは、一柳隊とまんが家たちには忘れることの出来ない少女だった。
夢結「結梨・・・なの?」
翼「かおすの杖に宿ったマギって・・・」
小夢「やっぱりそうだったんだ・・・!」
少女は、皆に微笑むと、梨璃とかおすの手元を支える。
-ほら、泣いたら可愛い顔が台無しだぞ?-
梨璃「だって、だって・・・!」
かおす「うう、ううう・・・!!」
梨璃「私たちがやるべきことは・・・!」
かおす「みんなと一緒に、未来へ歩き出すことです!」
梨璃「そのために、力を貸して!結梨ちゃん!!」
-もちろん。だからこの手を-
結梨「繋いだこの手を、話さないで!!」
梨璃「感じるよ、かおすちゃんの、結梨ちゃんの、みんなのイノチを!!」
かおす「行きましょう!絆を信じて・・・!!」
三人が杖とチャームを重ね、前へと向ける。
コールに使うのと酷似した魔方陣が幾重に浮かび、その周囲を十種類のルーン文字が取り巻く。
それはまるで、咲き誇る花のようにも見えた。
結梨・夢璃・かおす「「「いっけえええええ!!!!!」」」
光の奔流となって、マギスフィアが、イノチを燻らせた一撃が弾ける。
その余波を受け、戦場にいた全てのヒュージとウツカイが塵芥と化す。
龍は咄嗟に雷をだし、ヒナゲシは弓矢を出鱈目に撃って相殺を図る。
だがどちらに勢いがあるかは、一目瞭然だ。
ヒナゲシ「嘘・・・」
正の奔流に飲み込まれる少女と邪龍。
為す術もなく、龍はその身を削られていく。
最後に上げた弱々しい声が、怪物の断末魔だった。
ちなみに、これまで各章タイトルは花言葉縛りだったのですが、第13章タイトルにもなった「エーデルリリィ」という花は存在しません。
ただし、これをドイツ語から日本語訳すると「高貴な百合の花々」という意味になります。
何よりこれは、アニメのEDかつ、アサルトリリィ全体のテーマ曲でもある「Edel Lilie」の曲名そのものなのです。
https://www.youtube.com/watch?v=C2R9otmYyiE
投稿を再開します。
残りは14章と15章ですが、スレが残り100ほどに対し、あと11000字ほどあるので、2スレッド目に突入する可能性も皆無ではないです。
何とかこのスレッド内で完結できるよう、様子を見つつ投稿してみます。
第14章 シオン(君の手を離さない)
梨璃「やった・・・」
かおす「やりましたよ梨璃さん!それに皆さん!!」
夢結「良くやったわ、二人とも!!」
翼「何だか泣けてくるなあ、こういうの」
琉姫「やめてよ翼、グッとこらえてたのに・・・」
小夢「いいじゃん、今ぐらい泣いちゃおうよ!」
歓喜に沸き立つ戦場。
見れば、荒れた土地には草花が生い茂り、分断された地形も元に戻っている。上空には虫や鳥が舞い戻っていた。
平原は、かつての平穏を取り戻したのだ。
ソラ「これは・・・」
アルシーヴ「クリエとマギの余波・・・なのか?」
そんな中、空を見上げ、その姿が朧気になっていく少女がいた。
一柳結梨その人だ。
梨璃「結梨ちゃん・・・」
かおす「また、会えますよね?」
結梨「私は夢の中の存在。だから二人が覚えている限り、いつだって一緒だ」
かおす「忘れるわけないじゃないですか!」
梨璃「体が滅んだって、魂はいつまでも一緒だよ!!」
それを聞いた結梨はニカっと笑う。
結梨「またな、二人とも!!」
かおす「はい!!」
梨璃「またいつか、広大な夢の海で・・・」
やがて、少女の姿は見えなくなった。
かおすの杖も、すっかり元通りの色だ。
その様子を見送った二人は、互いの手をしっかりと結ぶ。
梨璃「かおすちゃん・・・」
かおす「・・・全部終わったんです。感情を吐き出したって、誰も責めません」
その言葉を聞いた少女が、その言葉を紡いだ少女が、その場に泣き崩れる。
梨璃「ありがとう、ありがとう結梨ちゃん・・・」
かおす「今回のことが、淡い夢の魔法だったんだとしても・・・」
梨璃「私たちはずっと覚えてるよ、絶対に・・・!」
その様子を見て、事情を察し、もらい泣きをする者も多くいた。
由紀「・・・良かったね、二人とも」
千矢「遠くにいたって、大切な人は大切な人だもん」
シャミ子「体は滅んでも、魂は一緒か・・・」
そんな中、ミリアムが泣きじゃくりながら疑問を口にする。
ミリアム「しかし、どういうことなんじゃ?亡くなった人間が姿を現すとは・・・」
鶴紗「あれは間違いなく、本物の結梨だった」
二水「それが何故、遠く離れたエトワリアに・・・?」
そこに、ハッカとアルシーヴが歩み寄る。
ハッカ「・・・エトワリアもまた、夢の世界」
ミリアム「と、言うと?」
アルシーヴ「このエトワリアは、クリエメイトにとっては夢と同じなのだ。夜見る夢に、こちらが手招きすることで来てもらうような・・・」
ハッカ「故に、ここは夢や願望が具現化しやすい」
二水「じゃあ、梨璃さんの守護霊として、夢に潜んでいた結梨さんが・・・」
鶴紗「梨璃と深く結びついたかおすの夢に介入して、そこから姿を現したってこと?」
アルシーヴ「・・・全て想像でしかないがな。だが」
ハッカ「エトワリアにはエトワリアの理がある。故に、その範疇であれば何が起ころうと不可思議に非ず」
顔を見合わせる三人。だが、どこか嬉しそうでもある。
ミリアム「・・・当たり前じゃが、世界には分からんことがまだ沢山あるのう」
鶴紗「今はただ、この奇跡を噛みしめれば良いんじゃないかな」
二水「そうですね。再会の時まで、私たちも歩み続けましょう」
心機一転する者がいる一方で、過去に囚われ、それにすがり続ける者もいる。
ヒナゲシ「いたい、いたいよぉ・・・」
あのノインヴェルトを受けてなお、ヒナゲシは五体満足で生きていた。
いや、死ねなかったという方が正しいだろう。
正のマギとクリエを束ねた攻撃で死ねないということは、彼女が完全に邪悪な存在ではないことの証左なのだが、それを伝えたところで何の救いにもならないだろう。
五体満足とはいえ、ズタボロになった体で地面を這い、彼女は一点を目指していく。
そこにあったのは、龍の鱗一枚。あの中で辛うじて焼け残ったものだ。
それを強く抱きしめ、彼女は慟哭する。
ヒナゲシ「お願い、私を置いていかないで!また立ち上がってよ!!私の絶望を全部あげるから、だから、だから・・・!!」
彼女が弱々しい声で叫ぶ。
ヒナゲシ「・・・一人は嫌だよう、寂しいよう」
そんな彼女の願いも届かず、鱗は崩れ去った。
呆然とする彼女に、追い打ちがかかる。
自分が姉と慕う、リコリスからの通信が入ったのだ。上空にその顔が映し出される。
リコリス「はん!やっぱりグズはグズね!!」
ヒナゲシ「そんな、良いところまで行ったんですお姉様、だからどうか私を・・・」
リコリス「途中まで面白くなってたのにさ、それをお釈迦にしたのはあんたが余計なこと考えたせいでしょ。全てあんたの責任、分かる!?」
ヒナゲシ「ああ、ああ・・・」
リコリス「ハイプリス様はどうお考えか知らないけど、当分アタシの前に顔出すんじゃないわよ。本当にがっかりしたんだから・・・!!」
一方的に通信を切るリコリス。
リコリスとしては、ヒナゲシに大きな期待を寄せていたのかもしれない。やはり彼女だけでなく、自分も一緒について行けば良かったと考えている可能性もある。顔を出すなと言ったのも“二度と”ではなく“当分の間”だ。
だが、今のヒナゲシにそこまで考える余裕など無かった。
ヒナゲシ「嫌あああああ!!!!お姉様、置いていかないでぇ!!!!」
錯乱し、地面をかきむしるヒナゲシ。
それを呆然と見つめる者たちがいた。
楓「それがあなたの“シュッツエンゲル”ですか」
梅「・・・」
気がつけば、ヒナゲシはリリィやクリエメイトに囲まれていた。
勿論、これまでの一部始終も見られている。
ヒナゲシ「・・・何よ。やるならひと思いにやるの!」
そう吠える彼女を、皆が哀れむような目で見る。
特にリリィ達の視線は、ヒナゲシを刺すように襲った。
ヒナゲシ「やだ、やめてよ、そんな目をしないで・・・」
神琳「・・・」
雨嘉「・・・」
ヒナゲシ「やめてって言ってるでしょ!」
夢結「・・・」
リコリスが本当は何を思っていたのかは分からない。
だが、一柳隊はその姿を一方的に見ただけである。
リリィとしてはかなりショッキングな場面だったのだ。例え血が繋がっていなくとも、姉妹の契りを結んだ者は互いを慈しむのが当然である。実際、彼女らの周囲にいるシュッツエンゲルは皆そうだ。時にはぶつかったとしても、それは互いをあまりにも思う故のことである。
だからこそ、いくら敵とはいえ、任務に失敗した妹を一方的に責め立てる姉という構図が、あまりにも手酷く思えたのだ。
梅「そりゃ、ここは百合ヶ丘じゃないけどさ・・・」
夢結「投げかけるにも、他の言葉があるんじゃないの。あなたの“お姉様”とやらは?」
ヒナゲシ「黙って!あなた達にお姉様の何が分かるって言うの!?」
楓「ええ分かりますとも。何を考えているのかは存じあげませんが、いちいち不器用で、人を傷つける態度しかとれないスットコドッコイだというのは、イヤというほど伝わりました!」
ヒナゲシ「あああああ!!!」
喉を潰すような声を上げて、彼女は自前の弓矢を放つ。
だが、一瞬にして弾かれてしまった。
雨嘉「あなたがやるべきことは一つ!」
神琳「全てを話し、償いを受けてもらいます!!」
ヒナゲシ「うわああああ!!」
進退窮まったヒナゲシを、謎の光が包む。
光が収まると、彼女の姿はそこになかった。
うつつ「逃げられた!」
マッチ「きっと仲間が呼び戻したんだ」
夢結「追跡は不可能なようね・・・」
楓「ああもう凄くモヤモヤしますわ!」
梅「まあさ、全てが解決したわけじゃないけど・・・」
雨嘉「考えても仕方のないことって、確かにあるよ」
ランプ「ですね。だからこそ今は・・・」
神琳「これからのことを考えましょう、皆さん?」
これからのこと。
まずは身仕度を整え、皆に礼を伝え、それから女神に頼み帰還する。
一柳隊の面々は、全員帰還の手順を思い浮かべていた。
だが、クリエメイトの考える“これから”は、彼女らとは異なっていた。
ポルカ「うっひょー!こりゃすげえ、あの龍からエトワリウムだけ残骸として残ったんだ!!」
ジンジャー「宝の山だなこりゃ」
セサミ「邪な力も感じません・・・。全て浄化されたのでしょうね」
ポルカ「こんだけありゃあ、みんなの武器を直してもお釣りが来るぜ!そうだ!ついでにチャームも見てやるよ。なあミリアム!」
ミリアム「え、いやわしらはその」
一方カンナは、広い平原を見渡している。
カンナ「うんうん、なるほどな」
きらら「どうです?」
カンナ「決まってるだろ、余裕だよ余裕」
ソラ「やったー!」
アルシーヴ「ふふ、ここは私も素直に喜んでおきます」
夢結「あの、先ほどからどういったお話を・・・?」
ソラに話をつけようとやって来た夢結が、疑問を口にする。
きらら「ああ夢結さん、ここでまた音楽祭が出来るって話をしていたんですよ!」
律「そうなのか!?」
ロコ「うう、良かったなあみんな!!」
ひづめ「なら、また練習に励まないと!」
多美「そうだね。本当に嬉しい・・・!」
夢結「待ってください、施設は全て破壊されたのでは!?」
カンナ「いや敵もいなくなったし建て直せば良いだけだろ?」
夢結「そんな簡単に・・・」
きらら「うん?何かおかしかったですか?」
カンナ「アタシなら一日で全て建て直せるぞ?」
夢結「・・・今、何と?」
カンナ「いやだから、アタシなら一日で全部建て直せるって、そう言ったんだよ」
夢結「・・・異世界とはいえ、常識が壊れそう」
きらら「ああ夢結さん大丈夫ですか!?」
カンナ「でも、人手がいた方が効率はいいな。そうだおまえ達も手伝え!礼は弾むぞ!?」
きらら「何なら、音楽祭も見ていってください。私たちからのお礼です!」
夢結「しかし、私たちはここに留まるわけには・・・」
困惑する夢結に、神官と女神が話しかける。
アルシーヴ「その使命の重さは分かる。我々もそれに救われたのだから」
ソラ「でもここは一つ、誘いを受けてくれないかしら」
アルシーヴ「ソラ様の力があれば、望む地点と日時にいつでも帰ることが出来る。それこそ、エトワリアにどれだけいたとしてもだ」
ソラ「だから、みんなの元の世界・・・それも、ここに飛ばされた直後の時間軸に帰ることが出来るの。ウラシマタロウだっけ?そんなことにはならないから安心して」
アルシーヴ「もちろん無理にとは言わん。ただ、皆礼がしたいのだ」
夢結「・・・」
夢結は悩んでいた。
帰還時に元の世界とのズレがないと聞かされれば、かなり安心できる。
加えて、共に戦った仲間の好意を無下にしたくはなかった。
一方で、自分たちはすぐにでも帰還して、新たな戦いに備えるべきではないかという思いも残っている。
この世界からヒュージの脅威は消えたが、自分たちの世界はそうではない。
あまりこちらに留まると、その感覚が薄れてしまうのではないか・・・。
そんな懸念を彼女は抱いていた。
梨璃「そこまで難しく考えなくても良いと思いますよ、お姉様」
振り向けば、そこには一柳隊の仲間たちがいた。
梅「訓練して戦って帰るだけ、なんて味気ないと思わないか?」
ミリアム「あそこまで輝いた目をされたら、断るなんてとても出来んわい」
雨嘉「私、もう少しこの世界を見てみたい・・・」
神琳「たまには羽を伸ばしても、罰は当たらないと思いますよ」
楓「音楽祭が終わり次第、帰還する流れでよろしいのではなくて?」
鶴紗「それに、こっちでもあの訓練なら出来ると思いますよ?」
二水「ああ、“あれ”の訓練ですね!音楽祭ならぴったりです!」
夢結「みんな・・・」
夢結の下に、梨璃が歩み寄る。
梨璃「お姉様、帰ったらまた一生懸命に訓練して、そして戦います。だから今だけは、我儘を聞いてくれますか・・・?」
そう言って優しく抱きついた彼女の頭を、夢結はそっと撫でる。
夢結「・・・全く、私のシルトはいつから甘えん坊になったのかしら」
梨璃「最初からですよ、お姉様」
夢結「そうね。あなたはいつも頑張り屋で、でも甘えるときは思い切り甘える・・・、そんな娘だったわ」
彼女が言葉を紡ぐ。
夢結「よくってよ」
梨璃「ありがとうございます、お姉様!」
夢結「ただし、決してたるんだりしないこと。良いわね?」
梨璃「はい!」
夢結「みんなも“あれ”の訓練をするというのであれば、気を抜いては駄目よ?」
楓「当然ですわ!」
梅「梅たちの晴れ姿、見せつけてやろうじゃないか!」
全員が力強く頷く。
その様子を、クリエメイトたちもまた見ていた。
かおす「良かったあ・・・」
きらら「もう少しだけ、皆さんといられるんですね」
カンナ「そうと決まれば、張り切って直さないとな」
ソラ「よーし、私もみんなの練習に付き合うわよ〜!!」
アルシーヴ「・・・いいえ、ソラ様には今回の事後処理その他諸々をして頂きます。それにお説教もまだ残っていますよ?」
ソラ「そんな!そのおかげで勝てたんだから見逃して〜!」
アルシーヴ「それとこれとは別問題です!危険を冒したことには違いありません!飛び出すにしてもせめて護衛はつけてください、ソラ様にはもう少し女神としての自覚を持っていただかないと!!」
ソラ「いや〜助けて〜!!」
きらら「・・・ソラ様には悪いけれど、何だかホッとする光景だなあ」
それからの日々は、あっという間に過ぎていった。
つまりは、それだけ充実した日々が過ぎていった、ということでもある。
その中で、様々な思い出が流れていく。
ミリアム「ふい〜、やっと終わったぞい」
ポルカ「あはは、みんなの武器を治して、それでチャームも修理して・・・」
ミリアム「全く疲れたわい」
ポルカ「でも、楽しかったろ?」
ミリアム「勿論じゃ」
コルク「二人とも、お疲れ様」
ライネ「飲み物とタオルの差し入れよ〜」
ポルカ「サンキュな!」
ミリアム「しかし、カンナ殿の建築技術を見たが、あれは凄いもんじゃのう」
ライネ「私たちとしては、あれが当たり前みたいになってたけど・・・」
コルク「考えてみれば、一日で建築をするのは凄いこと」
ミリアム「あの技術、もっと見てみたいもんじゃ」
冠「ん、なごみちゃんにすごみちゃん」
かおす「こっちはにゃおす先生です!」
シュガー「シュガーもいるよ〜!」
鶴紗「幸せだにゃあ〜、ここは天国かにゃあ〜?」
梅「あはは、凄くいい笑顔してる」
鶴紗「・・・恥ずかしいです先輩」
宮子「でも分かるよ。猫可愛いもんね〜」
葉山 照「お猫様はこの世の至宝よ〜」
シュガー「まあシュガーはキツネ耳なんだけどね」
ランプ「二水様の編集技術、とても素晴らしいです!まさかこんなすぐに新聞が出来上がるなんて!」
二水「ありがとうございます。でもランプさんの記憶力と熱意も相当のものですよ。おかげでいつもより早く紙面が出来上がりましたもん!」
ランプ「それじゃあさっそく・・・」
二水「配りに行きましょう。この“号外リリィ&クリエメイト新聞”を!」
マッチ「・・・何か凄いゴシップめいてるけど、あとで怒られないのかなこれ」
うつつ「プライバシーの侵害で訴えられたら、まず勝てないわねこれ・・・」
楓「未知の魔物が出たと聞いて・・・」
夢結「ヒュージかと思い来てみれば・・・」
梨璃「なんでしょうかこれ」
闇をもたらす魔物「グルルル・・・!」
闇をもたらす魔物「ケケー!!」
夢結「しかも地味に攻撃が効かないわ、こいつら!」
楓「なんでしょう、とても面倒に思えてきました・・・」
ニナ「まあこれって!」
椎名「大変、あの魔物だ!」
ふみ「と言うことは・・・」
ミッチ「やあ!」
ムッチ「みんな!」
メッチ「また力を!」
モッチ「貸してくれ!」
梨璃「ええ!?マッチがいっぱい!?」
ニナ「大丈夫よ、だからここは任せてもらえないかしら」
ふみ「まー何とかなるでしょ、多分」
椎名「断言するけど、みんなが思うほど深刻なことにはならないよ」
夢結「何がとは言わないけど、緩いわね・・・」
梨璃「あはは・・・」
ノダミキ「うーん、ちょっち表情が硬いかな?」
雨嘉「デッサンモデルだなんて、やっぱり緊張する・・・」
トモカネ「ほら、もうちょっと気持ち楽にして良いんだぜ?俺なんてまず緊張したことないし!」
ナミコ「あんたは頭からっぽなだけでしょうが!」
キサラギ「あはは、騒がしくてごめんなさい」
ゆの「でも雨嘉ちゃん綺麗だから、やっぱり画になるよ」
神琳「そうですよ。いつも言っているじゃないですか。あなたはもっと自分に自信を持って良いんです」
雨嘉「神琳・・・」
キョージュ「お、良い表情だ」
ノダミキ「二人が寄り添うと、もっと画になる〜」
トモカネ「うぉまぶし!」
ナミコ「綺麗と綺麗の二乗だなこりゃ」
雨嘉「いつもありがとう、神琳」
神琳「雨嘉さんの魅力を引き出すためなら、私は何も惜しみませんよ」
雨嘉「・・・うん」
そして、音楽祭の当日。
皆が華々しく歌や踊りを繰り広げる中、一柳隊は舞台裏で待機していた。
鶴紗「いよいよ私たちの出番か」
雨嘉「聖白百合祭でのお披露目・・・」
神琳「今回は、いわばその前哨戦ですね」
二水「ああ緊張してきましたあ!!」
小夢「大丈夫だよ!だってみんなあんなに特訓してたもん!」
翼「血反吐吐きそうな勢いだったな・・・」
夢結「当然よ。人様に見せるのだから妥協は許されないわ」
梅「もう夢結は固いなあ」
楓「こういうものは、楽しむことが肝心ですわ!」
ミリアム「そうじゃそうじゃ、見せつけるぐらいの気持ちでいれば良い」
琉姫「そうね。緊張していたら良いパフォーマンスも出来ないわ」
梨璃「それじゃあかおすちゃん・・・」
かおす「はい!皆さまの活躍を見守っていますね!!」
梨璃「うん!行ってくるね!」
百合ヶ丘女学院の文化祭こと“聖白百合祭”。
そこで見せる歌と踊りを、音楽祭の場を借りて披露することが今回の目的である。
単なる前哨戦の枠を越え、この世界に対する礼も多く含まれていた。
舞台に立つリリィたち。
クリエメイトはともかく、その姿を初めて見る者、初めてではないが、テレビで見ただけの者も多い。
男性「あれは・・・」
女性「あの時、水晶のテレビに映っていた娘?」
少女「もしかして、この世界を守ってくれたリリィってお姉ちゃんたち?」
母親「クリエメイトならともかく、あんな若い娘たちが・・・」
梨璃の合図に合わせ、皆が耳元のマイクをオンにする。
梨璃「皆さま、ごきげんよう」
夢結「私たちは・・・」
梨瑠「一柳隊のリリィです!あ、リリィっていうのは私たちの世界で戦う女の子たちのことで、私自身は一柳梨璃って言います。リリィの梨璃って覚えてくださいね」
場を少し和ませたところで、皆が言葉を繋げていく。
雨嘉「エトワリアに来たときは、右も左も分からなくて・・・」
二水「ちょっとしたすれ違いもありました」
楓「ですが、この世界の方々は、我々を暖かく受け入れてくださいました」
鶴紗「だから、今回はこの場を借りて・・・」
ミリアム「ちょっとした催しをしたくての」
神琳「これで恩を返しきれるとは思いませんが・・・」
梅「でも、見てほしいんだ。梅たちの舞台を!」
梨璃「だから、聞いてください・・・」
すぅと息を吸い、少女が曲の名を伝える。
梨璃「一柳隊で『繋がり』」
『繋がり』『GROWING*』『君の手を離さない』『Edel Lilie』『大切を数えよう』・・・
計五曲を披露し、息の上がる一同。
静まりかえる会場から、一つ、また一つ拍手が重なる。
それはやがて、大きなうねりとなってステージにも伝わった。
梨璃「みんな、やったよ!」
夢結「ええ、良くやったわ」
かおす「うう、良かったですう〜」
小夢「も〜、かおすちゃんまた泣いてる〜」
かおす「だって、一柳隊の生舞台をこの目で見られたんですよ!もう一生この目を洗いません!」
翼「いやゴミが入ったら流石に洗おう。危ないから」
琉姫「プールに入った後もね」
会場もまた、熱気に沸き立っていた。
兎和「まさに可憐な花ですね」
梓「凄く透き通った声でした」
ハナ「踊りもばっちりデス!」
衣乃「うぅ・・・ぐす・・・」
なる「わ、どうしたんですか!?」
衣乃「だってえ・・・」
はゆ「強くてカッコよくて・・・」
仁菜「可愛くて、凜々しくて・・・」
ロコ「気品に溢れてて、しかも踊りも歌も上手いだなんて・・・」
衣乃「私たちみたいなヨゴレに存在価値はあるのかと・・・」
ヤヤ「ええと・・・」
多美「無理に比べなくても良いんじゃないかな・・・」
衣乃「・・・そうですよね。私たちには私たちの意地と誇りがあります!」
ロコ「そうだ!こっちだって借金という敵と戦っているんだ!」
はゆ「完済目指して頑張るぞー!!」
仁菜「おー!!」
こはね「おー燃えてるね!」
虎徹「いやそれで良いの?」
楽しい時ほど早く過ぎる、というのは一種の真理だ。
後片付け、打ち上げ、他愛もないが、一つ一つが煌めく会話・・・。
そして遂に、別れの時が訪れる。
皆が見守る中、ソラが光の通り道を作っていく。
誰もが光陰を惜しみ、しんみりとはしているが、悲しいのとはまた違う空気が流れる。
ミリアム「しかしのう、帰ったら何と報告すれば良いのやら」
二水「こっちでのこと、信じてもらえますかね」
ソラ「それなら心配ないわ」
アルシーヴ「世界には、辻褄を合わせようとする力が働いている。皆が帰った先では“それらしい”事実が出来上がっているはずだ」
梅「ふーん、そういうもんなのか」
雨嘉「それはそれで寂しいな・・・」
そこに、クリエメイトが言葉を挟む。
かおす「大丈夫です!そうならないように・・・」
きらら「皆さんに、とっておきのお土産を持たせたんですから!」
神琳「ふふ、そうでしたね」
夢結「向こうで開けるのを楽しみにするわ」
楓「皆さーん!」
鶴紗「そろそろ良いってさ」
梨璃「それじゃあ・・・」
そう言って、梨璃はかおすの手を取る。
梨璃「見ててねかおすちゃん。私たちはきっと、平和な世界を取り戻してみせるから!」
かおす「はい、私も皆さんの活躍を見届けます!コツコツと漫画も描き続けます!」
梨璃「じゃあ、約束の指切り」
かおす「ゆーびーきーりげんまーん」
梨璃「うそついたら・・・」
そこまで言いかけて、二人がクスクスと笑い出す。
梨璃「ここまでしておいてなんだけど・・・」
かおす「互いに嘘をつくとは思えませんからね」
梨璃「どんなに挫けて、つまずいても・・・」
かおす「前に進むことを、誓います」
梨璃「例え遠く離れたって」
かおす「繋いだ手は・・・心の手は離しません」
梨璃が仲間の下に駆け寄る。
いよいよ、その時が来た。
かおす「私、いいえ、私たちは絶対に忘れません!!」
アルシーヴ「気高く咲き誇る、百合の花の乙女達よ・・・」
きらら「皆さんと過ごした、美しい日々のことを!」
一柳隊の皆が微笑む。
その口は、ごきげんよう。の形を作った。
第14章はここまでです。
次は最終章こと第15章ですが、おそらくこのスレッド内で完結できるとは思います。
最後までお付き合いお願いします。
第15章 エーデルワイス(大切を数えよう)
梨璃「ううん・・・」
夢結「ここは・・・」
潮の音と香りで、リリィ達は目覚めた。
先ほどまでの光景と打って変わり、どこまでも静寂が広がっている。
二水「私たち・・・」
楓「戻ってきたんですのよね?」
ミリアム「確認できた。最初にギガント級と戦った場所から、ここはそう離れておらん。間違いなくわしらの世界じゃ」
雨嘉「じゃあ・・・」
神琳「無事帰還できた、ということですかね」
一同は、あの戦場からそう離れてはいない海岸に飛ばされていた。
通信機で日付を確認すると、あの時から一時間しか経っていなかった。
鶴紗「私たち、優に三週間はあっちにいたよね?」
梅「さながら、逆浦島太郎だな」
そこに、けたたましい音声が鳴り響く。
ミリアム「なんじゃあ!?わしの通信機か!?」
ミリアムが応答すると、そこから馴染みのある声が響く。
ミリアムのシュッツエンゲルこと、真島百由(ましま もゆ)からのものだ。
百由『やっと繋がった!ちょっとぐろっぴ!それにみんな、無事なの!?』
ミリアム「だああ、やかましいわい!わしらは無事じゃ!ピンピンしとる」
百由『はぁ〜良かったわあ〜。連絡がないわ、そもそも繋がらないわで生きた心地しなかったのよ?』
そこに駆け寄る二つの影。
ヘルヴォルのリーダー、相澤一葉(あいざわ かずは)と、グラン・エプレのリーダー、今叶星(こん かなほ)。
同盟を結ぶレギオンが、皆を捜し回っていたのだ。
一葉「皆さん無事ですか!?お怪我などはありませんか!?」
梨璃「一葉さん!それに叶星様!」
叶星「良かった。それだけ大きな声を出せるなら問題ないわね」
夢結「心配をかけたわね」
百由『心配なんてもんじゃないわよ』
一葉「皆さんがノインヴェルトでギガント級を撃破した際、特大のケイヴが発生したんです」
叶星「敵の残骸と共に、一柳隊全員が吸い込まれて・・・」
百由『反応がロスト、ってわけよ』
一葉「避難所周辺の敵を一掃した後、私たちは百由様と協力して捜索に当たりました」
百由『けれど、どこを探しても梨のつぶてで・・・』
叶星「それがふと、近くの海岸で見つかるんですもの。不思議なこともあるものね」
楓「・・・」
梅「・・・」
百由『どうしたのみんな?』
叶星「やっぱり怪我をして・・・?」
二水「いえ、違うんです」
鶴紗「ただ、不思議なこともあるものだなと」
一葉「それはどういう・・・?」
どうやら、一柳隊はあの時点でギガント級を撃破したことになっているらしい。
勿論、その後異世界などには飛ばされず、ケイブを経由して海岸へ。というのが道筋のようだ。
百由『あっ、みんなの無事を理事長代行に報告しないと!いったん通信切るわね』
一葉「そうでした、私たちも行かなければ!」
叶星「みんなまだ必死に捜索してるだろうから」
夢結「ご迷惑をおかけします」
叶星「迷惑でも何でもないよ」
一葉「皆さんはここで待っていてください」
場には再び、一柳隊の面々だけが残った。
ぼそりと梅が呟く。
梅「・・・まさか、みんな夢だったなんてことはないよな」
梨璃「当然です!あそこで皆さんと過ごした日々は、夢でも何でもありません」
雨嘉「でも、ここまで辻褄が合わせられると、ちょっと不安」
押し黙る一同。
すると梨璃が、何かを発見する。
梨璃「・・・あの袋、もしかして!」
少し離れた所に、大きめの袋が落ちていた。
駆け寄って、中身を確認する少女たち。
その顔が、段々とほころんでいった。
鶴紗「猫じゃらしに鈴・・・、それにこれ、あの娘が食べてた缶クッキーじゃないか」
二水「あ!あの時作った号外新聞です!」
梅「これは・・・、ワサビ味とカレー味のラムネか?誰が入れたか分かりやすいな」
夢結「この香り・・・、向こうで飲んだ茶葉のセットね」
神琳「これは、あの肖像画ですね」
雨嘉「こんなに綺麗に描いてもらえて、嬉しいな」
ミリアム「工具セットか!ありがたいのう」
楓「アンティーク雑貨もありますわ」
思い出深いもの。個々人の好むもの。
袋に入っていたのは、あの世界で過ごした日々の象徴だ。
世界は辻褄の合うように改変されたかもしれない。
だが、記憶までは欺けないのだ。
梨璃「あ、これ!」
彼女が見つけたのは、漫画本のセットだった。
自分たちの世界では発行されていない、とっておきの作品。
その中に一枚の紙が挟まれている。
それを開く少女たち。
そこには、何とも丸っこく可愛らしい絵柄で、リリィとクリエメイトたちが描かれていた。
センターにいるのは、梨璃とネコ耳フードの少女だ。
梨璃「ふふ、かおすちゃんったら」
楓「ちゃっかりしてますわね」
夢結「良いんじゃないかしら。素直なのはあの娘の長所よ」
和気藹々とする一同の下に、一葉と叶星の声が聞こえる。
仲間を連れて戻ってきたのだ。
一柳隊の皆は、宝物をそっと袋に入れ、皆がいる方向へ向かう。
叶星「あれ、その袋は・・・?」
梨璃「・・・これは、大切な宝物なんです」
一葉「宝物・・・?」
夢結「話したとして、どこまで信じてもらえるかは分からないけれど・・・」
梨璃「皆さんには聞いてもらいたいんです。私たちの夢の話を」
そう言って、彼女は微笑んだ。
ところ変わってエトワリア。
ここでは今、まんが家たちがランプから苦言を呈されていた。
ランプ「皆さまの気持ちはよーく分かります。しかしですね・・・」
かおす「・・・」
小夢「・・・」
翼「・・・」
琉姫「・・・」
美姫「・・・」
怖浦「・・・」
ランプ「ここまであからさまにモチーフが被っているのは、編集者としては見逃せないわけでして・・・」
かおす「いやあ」
小夢「だって、ねえ?」
お嬢様学校を舞台にした萌え四コマ作品。
どこかで見たような造形のキャラクターがいる、少女漫画やTL漫画。
見たことのある武器を振り回す女戦士や魔法少女の活躍する漫画。
怖がらせようと近づいたら、逆に自分が祟られてしまった少女の話。
どれも強く既視感のあるものばかりだ。
美姫「あんなもの見せられたら・・・」
翼「筆が進んでしまうのがまんが家のサガなわけで・・・」
琉姫「というか怖浦先輩のこれ、どう見ても怨霊のモチーフが梅さんじゃないですか!」
怖浦「だってえ、本当に怖かったのよお?」
ランプ「と・も・か・く!モチーフにするなとは言いませんが、全体として被らないようにプロットを練り直してください!」
小夢「そんなあ〜」
かおす「ヒュージより締め切りの方が怖いですう」
まんが家もリリィも、前途は多難だ。
だが、大切を数えながら、今日も前へ進んでいく。
Fin.
無事完結いたしました。
ここまで読んでくださった皆さま。そしてこの場を貸してくださったBBS管理人さんに感謝を述べたいと思います。
本当にありがとうございました。
少しスレが余ったので、リリィの解説を挟みたいなと思います。
今回は結梨、百由、一葉、叶星の4人です。
一柳結梨(声:伊藤美来さん)
梨璃、一柳隊、そしてアニメ視聴者にとって忘れることの出来ない少女。
アニメ(ゲーム)オリジナルキャラクターであり、舞台や小説には登場しません。
真島百由(声:水瀬いのりさん)
ミリアムのシュッツエンゲルであり、工廠科に属する少女。
百合ヶ丘女学院の頭脳とも呼べる存在であり、面倒見も良く、研究者とは思えないほどにアクティブに動く人物でもあります。
一方で、とにかく研究と実験が大好きなため、度々トラブルの種となることも。
相澤一葉(声・演:藤井彩加さん)
一年生ながらも、エレンスゲ女学園序列1位かつ、当学園のトップレギオンである「ヘルヴォル」のリーダーも務める優秀なりリィ。
生真面目で努力を怠らない委員長気質の少女ですが、うっかりミスが多いのも特徴。
リリィの命も省みないような、学園の体制を打破するのが目的です。
今叶星(声・演:前田佳織里さん)
神庭女子藝術高校に所属し、当高校トップレギオンの「グラン・エプレ」のリーダーを務める少女。
心優しく、身体能力、決断力に優れた人物ではありますが、本来は臆病で心配性なところがあります。
しかし彼女は姉妹同然の幼馴染や、賑やかな後輩達に恵まれており、そんな彼女らと支え合って戦ってきました。
中の人こと前田さんは、球詠の詠深や、きらファンのうつつ役でもあります。
歴史に残る超大作を本当にありがとうございました。見てて飽きない上、きららのキャラも一柳隊も幅広く活躍していて素晴らしかったです。
>>978
作者です。
そこまで言ってもらえるのは恐縮ですが、最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。楽しんでもらえたならそれが一番です
元々このSSですが
・こみがもアサリリも赤尾さんが主役
・かおす先生はアサリリ好きそう
・それ以前に、このSS書いた自分がアサリリのアニメを見て、いたく感銘を受けてしまった(2020年の個人的なベストアニメかつ、円盤購入も即決した)
という背景があり、それらが合わさった結果、出来上がったものでもあります
素晴らしいSSを有難う御座います。
欲を言えば日常パートがもっと欲しかったです。
自分もウイルス騒動が終息したらサイコロの旅のSSを書いてみようと思います。
>>981
>>982
作者です。感想ありがとうございます
日常パートもっと詳細に書きたかったんですが、そうするともう一つぐらいは軽くSS出来てしまいそうで…
自分が日常ではなく、一つの事件の発生と解決を軸に物語を書くタイプなのでアドバイスもらえて良かったです
それにしてもまた表の記事で取り上げてもらえたんですね。嬉しいです
元きらファンのライターがラスバレ書いてる状況でファンがコラボさせてるのは面白いね
>>984
作者です
最後に投稿してから日にちが経つにも関わらず、こうして感想を頂けるのは嬉しいです
いつかそうした縁できらファンとラスバレがコラボしたら良いなあと、そんなことも考えました
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