お久しぶりです。そうでない人は初めまして。
以前このBBSで、以下のSSを投稿させてもらった者です。
【SS】ハッピーシュガーライフ×きららファンタジア
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=775&ukey=0&log=past
【SS】小鳥と不死鳥と(機動戦士ガンダムNT×アニマエール)
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=1471&ukey=0&log=past
最初に投稿したSSを基に、ハピシュガの人というコテハンを使いたいと思います。
今回は、昨年アニメが放送され、現在アプリゲームが配信中のアサルトリリィときらファンのクロスSSを書きました。
今回は10万3千字ほどの文章を、何回かに分けて投稿したいと思います。
全15章分、お付き合いのほどよろしくお願いします。
今回はさっそく、第1章と2章を投稿します。
第1章 サクラソウ(憧れ)
文芳社女子まんが家寮。
草木も眠るこの時間、かおすこと萌田薫子はテレビの前に鎮座していた。
その後ろには、まんが家仲間こと、小夢、琉姫、翼が座っている。
かおす「ああ、放送までの時間が長い・・・」
小夢「分かるよ〜。楽しみな事って、そこまでの時間が凄く長く感じるよね」
琉姫「今日は確か、ずっと楽しみにしていたアニメが放送されるんだっけ?」
かおす「はい!おかげで昨日から寝不足です!!」
翼「遠足に行く前の小学生みたいだな・・・」
今日はかおすが楽しみにしていたアニメの放送日である。
このアニメ・・・、もといコンテンツを、かおすは今日この日まで追い続けていたのだ。
その手には一体の可愛らしいドールが握られている。
小夢「“その娘”が、かおすちゃんのお気に入りなんだっけ?」
その問いかけに、彼女はこくりと頷く。
かおす「なけなしのお金を集めて、“この娘”のドールだけは手に入れたんです。本当は全員揃えられると良かったんですが・・・」
翼「桜色の髪が可愛いよね、そのドール」
琉姫「ねぇ、前から思っていたんだけど、その娘どことなく・・・」
かおす「にょわああああ!!!」
翼「かおす、声抑えて!」
琉姫「深夜!深夜よ!」
かおす「あ、す、すみません・・・」
小夢「あはは、ほら気を取り直して見よう?」
かおす「・・・はい!」
画面の中で少女がうずくまっている。それは紛れもなく、かおすが手にしたドールの娘だ。
少女の眼前には、無機質さを帯びた怪物が迫っていた。
冒頭から緊迫感溢れる映像が流れ、四人は固唾を呑んでその様子を見守る。
そして、怪物と戦うまた別の少女がそこにはいた。
黒い髪をたなびかせた彼女は、手にしたその武器で怪物を切り刻んでいく。その強さに、その動きに、そして何よりも、その麗しさに、逃げていた少女の、そして四人の目が釘付けになる。
やがて場面が切り替わり、アップテンポのOPが流れ始め、タイトルロゴが表示された。
『アサルトリリィ BOUQUET』と・・・。
放送が終わると、そこには惚けた表情の4人がいた。
琉姫「・・・思った以上に凄かったわね」
翼「戦闘シーンが尋常じゃないレベルで動いていた。今度描く漫画の参考にしたいな」
小夢「女の子同士の憧れ、そして恋、か・・・」
かおす「・・・」
翼「おーい、かおす。戻ってこーい」
かおす「・・・はっ!?感激のあまり意識が向こうに飛んでいました・・・」
小夢「でも実際すごかったよね〜」
かおす「はいそれはもう!冒頭の甲州撤退戦から始まり、梨璃さんと夢結様の出会いを映像として綿密に描くことで、梨璃さんがリリィとして戦う動機を視聴者にも分かりやすく伝えると共に、夢結様の悲しい変化を匂わせるという見事な構成で、そしてその後のヌーベルさんに関しても舞台や小説とあれ?性格が違う?と思わせてからの・・・」
琉姫「ストップストップ。それでそのドールの娘が、主人公の一柳 梨璃(ひとつやなぎ りり)ちゃんなのよね?」
かおす「・・・はい。一途で頑張り屋で、どんなことがあっても前に進もうとする、私の憧れの方なんです」
かおすは、そのドールを胸にギュッと抱きしめて答えた。
かおす「私はいつも臆病で、つまずきそうになって・・・。だから困難や悲しい出来事を前に挫けそうになっても、それでも立ち上がる梨璃さんのようになりたいなって、そう思うんです」
アサルトリリィ。
元はドールの企画から始まった、一連のメディアミックスプロジェクトの総称である。
かいつまんで言うのならば、巨大な怪物に対し、特別な力を持った少女達が立ち向かう・・・、という物語群であり、そういう意味では、どこかで聞いたことのあるような話である。
だが、独特の雰囲気をもっていたそれは、やがては小説、舞台、漫画、そしてアニメと展開を広げていった。アニメ放映後にはソーシャルゲームも配信予定である。
実際、ドールとして売り出すことを前提とした登場人物たちは皆愛らしく、手にした武器とのギャップがまたそれを後押ししている。そして、そんな彼女たちが友情を越えて親密な関係を結ぶとなれば、一定数のファンを獲得するのにそう時間はかからないであろう。
ここにいる萌田薫子もまた、そんな人間の一人であった。
琉姫「でもね、かおす。私言いかけていたことがあったんだけど」
かおす「はい、なんでしょうか?」
琉姫「梨璃ちゃんって、どことなくかおすちゃんに似てない?」
一瞬の沈黙の後、かおすがそれを全力で否定しにかかる。
かおす「そそそそんなこと絶対ありませんよ!!だってこんなヘッポコの私と梨璃さんとでは月とすっぽん、猫に小判で・・・」
翼「つきとすっぽんはともかく、猫に小判はこの場合違うような」
小夢「うーん、でも分かるような気もするなあ」
かおす「ほぇ!?」
小夢「だって、かおすちゃんも何だかんだですごく頑張り屋じゃん!」
琉姫「それに何となく見た目も似ている気がするの」
翼「あー、声もどことなく似ているような」
かおす「えええええ!?!?」
翼「あ、でもオタク気質なのはあの二水って娘に似てるかも」
かおす「そんな!私がリリィの皆さんと似ているだなんて畏れ多くてとても・・・!」
4人のそんな会話は、起きてきた寮母さんに釘を刺されるまで続いた。
かおす「・・・ということがあったんです」
ランプ「ほえ〜。皆さまの世界における物語・・・、すなわち聖典の話はいつ聞いても興味深いです」
ところ変わって、ここはエトワリア。
週刊エトワリアの編集者としてかおすの元にやってきたランプ、そしてそれに付き添ってきたきららが、他愛もない会話の中で、その話を聞いていた。
きらら「そうだね。数多くの世界があるって事は、その世界の聖典に当たるものは更に沢山あるって事だしね」
ランプ「くう〜、私もその物語を見てみたいです!」
かおす「アサルトリリィに興味を持ってもらえたなら、それだけでも嬉しいです〜」
きらら「でも、ふと思ったんだけどね」
きららが一呼吸置いてから言葉を紡ぐ。
きらら「私たちにとっての聖典がそうであるみたいに、もしかするとアサルトリリィの世界も本当はどこかにあって、それをかおすさん達が物語として見ているのかもしれないよ」
かおす「ええ!?」
ランプ「ん〜、でもあながちあり得ない話じゃありませんよ。だってクリエメイトの皆さまが知っているサンリオ?でしたっけ、その世界の方々はこのエトワリアに来ていたようですし」
実際、ランプの言うとおり、サンリオのキャラクター達は時空の垣根を越えて、エトワリアに訪れたことがある。そして大抵のクリエメイトは、そんなサンリオのことを物語として認知していたのだ。
かおす「・・・もしそれが本当なら、私も本物の皆さんに会ってみたいなあ」
ランプ「分かりますよ〜、その気持ち」
かおす「そしてもし許されるのなら、リリィの皆さんとあんな事やそんな事を、ふへ、ふへへへ・・・」
ランプ「はっ!かおす先生がまた妄想の世界に!」
きらら「私たち、連載の打ち合わせに来たんだよね・・・?」
ランプ「う〜ん」
エトワリアでの日々がこうしてまた過ぎていく。
きらら「そういえば、ランプは“あの噂”を聞いた?」
ランプ「ああ、“あれ”ですか・・・?」
きらら「うん、港町へ向かう山から龍のうなり声が聞こえるって」
ランプ「急に霧が出たと思ったら、得体の知れない化け物がいた、なんて話もありますよね」
きらら「まだ被害は出ていないみたいだけど、ちょっと不安だね・・・」
それが、クリエメイトやサンリオの皆のように、友好的な存在であれば良いだろう。
だが、幾多にも広がる物語の世界、すなわち平行世界には、きらら達の想像も及ばないようなモノがありふれている。
外から来た者と、いつも友達になれるとは限らない。
第2章 クロタネソウ(困惑、当惑、不屈の精神)
その世界は、争乱の最中にあった。
近未来、HUGE(ヒュージ)と呼ばれる怪物が突如出現し、人類の駆逐を始めた世界。
マギ、すなわち体内に魔力を帯びたヒュージに対し通常兵器は効果が薄く、人類は破滅の危機へと追いやられた。
その最中、人類はマギに適応する武器、CHARM (チャーム)の開発に成功する。だが、チャームのマギに強い反応を示し、その力を引き出せるのは十代の少女に限られた。
ヒュージを駆逐できる存在として、まだ年端もいかない少女達が矢面で戦う世界。
そしてその力を巡り、未だ水面下では人類同士の争いも続く世界。
それが『アサルトリリィ』の世界である。
それでも彼女たちは戦うのだ。世界のため、仲間のため、そして大切なもののために。
梅(まい)「くそっ!なんだって硬いなコイツ!」
雨嘉(ユージア)「こっちの攻撃が通っている気がしない・・・!」
関東某所、東京都近郊。
今ここでは、一柳隊がギガント級ヒュージと対峙している。
敵はカエルかワニのような姿をしている。おそらくは両生類か爬虫類がヒュージ細胞に侵されたものであろう。
数十メートルはあろうかという巨躯を前にしても、リリィたちは臆せず挑んでいた。
ミリアム「ったく、面倒なヒュージじゃなおい!」
夢結(ゆゆ)「ぼやいていても仕方ないわ。コイツを倒すために、私たちが招集されたのだから」
梨璃(りり)「ここで食い止めないと、居住区にも被害が出ます。だから全力を出さなくちゃ!」
ミリアム「そりゃわかっとるわい。じゃがのう、GEHENA(ゲヘナ)のアンポンタンのせいでこうなっては・・・」
楓(かえで)「ぼやきたくもなりますわよね!ああもう腹立たしい!」
夢結「ヘルヴォルとグラン・エプレは、避難所付近の敵を掃討しているわ。彼女たちが戻るまで何としても持ちこたえるのよ!」
一同「はい!」
今、彼女らは同盟を結んだレギオンと共に外征へ赴いている
非人道的な研究を繰り返すGEHENA(ゲヘナ)が飼育・調査していたヒュージが研究所を壊滅させ、都心方向へ向かったとの知らせが入ったのだ。
このため、東京都のレギオンとも交流のある一柳隊に応援の要請が入ったのである。
このヒュージは、ゲヘナの手によって改良が加えられた特型であった。おそらく軍事転用を見越しての研究だったのだろう。
報告によると、ケイブ、すなわちワームホールを経由して、偶然発見された未知の鉱物を組み込んだとのことである。事実、その体表にはビスマスのような結晶が立ち並んでいた。
人災としか言いようのない状況で、後ろ盾も乏しく、一柳隊は未知の力を持つヒュージと戦っているのだ。
二水(ふみ)「皆さん、敵の様子が変です!あれはまさか・・・?」
神琳(シェンリン)「兵隊を産んでいる・・・とでもいうの?」
ギガント級の背中に孔が空き、そこから球状の小型ヒュージが産み出されていく。
小型ヒュージはそれぞれ緑、赤、青、茶の色をしていた。茶色のヒュージの中には、独特の金属光沢を持つものまでいる。
加えて、その中には今まで見たこともないような形態のヒュージまでいた。
昆虫型、四足歩行の獣型、キノコのような菌糸類型・・・。
彼らは独特の鳴き声と共に、一柳隊に迫る。
未知のヒュージ?「ウツツ、ウツウツウツウツ・・・」
鶴紗(たづさ)「なんだあの薄気味悪いの」
雨嘉「こっちも硬い・・・。でも親玉よりは攻撃が通っている!」
神琳「何色だろうと倒すことには変わりありません。行きましょう」
小型の群れに対しても、リリィ達は勇敢に立ち向かっていく。
感触の違いこそあれど、このような雑兵では彼女らの足は止められない。
その様子をみたギガント級は攻撃の方法を変えていく。
梅「うお!?こいつ口から火を吐いたゾ」
夢結「さながら怪獣映画ね・・・」
敵は更に品を変えていく。
梨璃「わわ!?今度は水の固まりです!」
楓「あんな量を吐き出しますの?」
二水「あんなの当たったらペチャンコですぅ!」
敵は口だけでなく、背中の孔からも攻撃を仕掛ける。
ミリアム「なんじゃ背中から植物の種が・・・、にょわあ爆発したぁ!?」
鶴紗「種だけじゃない。泥団子も打ち出している」
雨嘉「団子が弾けて・・・、なにあれ金属片!?」
神琳「危ないわね本当!!」
高熱の炎、水の弾丸、種と泥の爆弾・・・
兵隊を巻き込むことも厭わずに、親玉は攻撃を続ける。
梨璃「無茶苦茶ですこんなの!」
夢結「でもこんなもの、長続きはしないはずよ」
ミリアム「ああ、これだけ派手にやればマギの消耗も激しいはずじゃ!」
梅「焦らずに攻撃のチャンスを待つんだ!」
果たして予想通り、ギガント級の動きが段々と鈍っていく。
エネルギーたるマギを使い果たそうとしているのだ。
不利を悟ったギガント級が空に響くほどの声で吠える。すると空にワームホールが形成されていった。
二水「あのヒュージ、逃げるつもりです!」
鶴紗「させるか・・・!」
楓「梨璃さん、今こそノインヴェルトを!」
梨璃「もちろん!行こうみんな!!」
梨璃の号令に応じ、皆が配置につく。
ノインヴェルト戦術。マギを増幅する特殊な弾丸を用いた、必殺の戦法である。
全員で弾丸をマギごとパス回しし、最後の一人が敵に打ち込んでいく。
その絶大なエネルギーによって、敵を殲滅たらしめるのが、ノインヴェルトの骨子であった。
今、一柳隊には専用の弾丸が二つ支給されている。一つ一つが大変貴重で高価なものだが、未知の敵を相手にする以上、それだけの装備を回されるのは当然であった。
皆が責任と緊張感を感じながらも、順調にパスを回していく。そしていよいよ最後の一人にパスが回された。
神琳「最後は雨嘉さん・・・!頼みましたよ!」
雨嘉「・・・分かった!」
リリィは各々がレアスキルという特殊な力を持つ。
雨嘉のそれは“天の秤目”といい、自分と対象の距離をセンチ単位で正確に把握できるというものである。この特性を活かした狙撃こそが、彼女の真骨頂であった。
雨嘉「これなら・・・届く!」
雨嘉がノインヴェルトの弾丸を敵に向かって放つ。
それは見事に命中し、大爆発を起こした。
だが、狙撃に成功したはずの雨嘉の顔が浮かない。
結夢「雨嘉さん!何があったの!?」
雨嘉「確かに当てたのに・・・、手応えがおかしい!」
確かに彼女の攻撃は命中していた。それは他の皆も確認済である。
だが、爆煙が晴れると、そこには未だ健在のターゲットがいた。
鶴紗「・・・っ!あれのせいだ!!」
二水「あれは、マギリフレクター!?」
マギリフレクター、すなわちバリアを張ることで、敵は攻撃を凌いだのだ。
バリアは四枚の板状に形成されており、それぞれがやはり緑、赤、青、茶の色をしている。
だが、それでもノインヴェルトの威力は絶大である。
攻撃を耐えたといっても、敵の体は焼けただれ、深い傷があちこちに刻み込まれていた。
梅「みんな落ち着け!!リフレクター込みでも、敵は相当弱っている。これならいけるゾ!!」
結夢「あともう一踏ん張りよ!!」
だがここで、敵が更にいっそうの声で吠えた。
皆が思わず耳を塞ぐ中、ワームホールは更に大きくなり、あらゆるものを吸い込んでいく。
その中に逃げ去るように、敵も姿を消していった。
それを追おうと一柳隊も動くが、あまりの力に皆も吸い込まれてしまう。
梨璃「お姉様!!」
結夢「梨璃!この手を離さないで!!」
楓「梨璃さんは私がお守りしますわ!!」
梅「二水!鶴紗!こっちだ!!」
鶴紗「くっ・・・前がよく見えない!」
二水「ふぇええええ!?!?」
ミリアム「どこ飛ばされるんじゃ〜!?!?」
神琳「雨嘉さん!」
雨嘉「神琳!」
やがてワームホールが閉じると、そこには先ほどの戦闘が嘘のように、閑散たる光景が広がっていた。
これは、儚くも美しく戦う、少女たちの物語。
ちなみに今作を書くに辺り、以下のサイト様を参考にしました。
アサルトリリィwiki
https://w.atwiki.jp/assault_lily/pages/23.html
二川二水@アサルトリリィ原作公式
https://twitter.com/assault_lily
第3章 イエローゼラニウム(予期せぬ出会い)
霧が立ちこめた森の中を、まんが家の四人と、手負いのカルダモンが走っている。
敵が二体、そこまで迫っているのだ。
今まで見たこともないような、強大かつ、凶悪な敵。
少なくともエトワリアにあのようなものはいなかった。あそこまで殺意を剥き出しにして襲ってくるものなどいなかったのだ。
“まるで世界観にそぐわないような”恐ろしい存在である。
五人はがむしゃらに走る。だが、気がつけば開けた場所に出てしまった。気がつかないうちに追い込まれていたのだ。
遂に敵が眼前に現れ、カルダモンが叫ぶ。
カルダモン「君らは私を置いて逃げろ!!勝てる相手じゃない!!」
小夢「そんな!仲間を置いていくなんてできないよ!!」
カルダモン「そんなこと言っている場合じゃないんだ!!本当に死ぬぞ!!」
琉姫「・・・ごめんなさい、どっちにしても、もう逃げられそうにないわ」
翼「もう一体出てきた・・・」
カルダモン「・・・なっ!?あれは確か、報告にあったウツカイってやつなのか?」
未知の怪物がもう一体、霧の中から出てきたのだ。
更に悪いことに、三体の怪物は大量のウツカイを引き連れている。
その中で、かおすは全身を震わせ恐怖していた。
ウツカイ「ウツツ・・・、ウツウツウツ・・・」
かおす「なんで・・・」
翼「かおす!しっかりするんだ!!戦わないと死ぬぞ!!」
かおす「なんで・・・」
未知の怪物「・・・!」
かおす「・・・なんでヒュージがここに」
話は半日前に遡る。
アルシーヴ「・・・というわけだ。港町へ向かう山へは立ち入らないでほしい」
ライネ「まさかここまで騒ぎが大きくなるだなんて・・・」
かねてより龍の声がする、不自然な霧が立ちこめる、化け物がでるといった噂のあった山だが、ついに神殿の調査が入ることになった。
これは、山に起こる異変が噂のレベルを通り越し、実害が出始めたためである。
セサミ「あの山だけ、急に植物が枯れ、鉱物資源の量がごっそりと減っているんです」
フェンネル「それに山からは大量の魔物が逃げ出してきたわ。まるで何かに怯えているように」
ソルト「ケガを負った魔物も大勢見かけました」
マッチ「このままだと、人に危害が及ぶのも時間の問題だね」
アルシーヴ「そういうことだ。カルダモンが調査を志望したこともあり、安全が確認されるまで一帯を封鎖することに決めた。今日はその事を里に知らせに来たんだ」
カンナ「音楽祭も近いってのに、のっぴきならない話だな」
近々、里ではクリエメイトたちによる音楽祭が開催される予定だ。
だが、状況が状況であれば、延期や中止もあり得るかもしれない。
ポルカ「前みたいに、古代の鋼鉄巨人がいたりするのか?」
セサミ「カルダモンが戻ってこないと、何ともいえませんね。あの人ほど手練れなら無事に帰ってくるとは思いますが・・・」
アルシーヴ「同感だ。だが、今回の件に“新たな敵”が絡んでいた場合、一筋縄ではいかないだろう」
きらら「だから、私たちが呼び戻されたんですね」
アルシーヴ「・・・すまないな。旅の途中だったというのに」
マッチ「いいや、もしウツカイ絡みだったら、僕らにしか対処できないからね」
ランプ「それにその場合、うつつさんの故郷のヒントになりますし」
うつつ「・・・みんなのことを引っかき回して、どうせ私はお邪魔虫よお・・・」
ランプ「誰もそこまでいってないじゃないですかぁー!」
ウツカイ、そしてリアリスト。
異常事態において、彼女らの関与を疑うのは自然なことだろう。
そのために神殿はきらら達を呼び戻していたのだった。
ランプ「はっ!?」
アルシーヴ「どうしたランプ?」
ランプ「・・・美姫先生から聞いた話なのですが、二日ほど前に、かおす先生たちが取材旅行のため港町に向かったんだそうです。もちろん噂は皆さまも知っているでしょうし、行きは別の山を越えて港町に行かれたようですが・・・」
アルシーヴ「つまり、かおす達が帰る際に、誤って例の山に入ってしまうかもしれない・・・。そう言いたいわけだな?」
ランプ「・・・はい。帰りを待つ美姫先生も、非常に不安そうでした」
セサミ「もちろん港町側からも一帯には入れないよう封鎖措置は施しましたが、かおすさん達が帰りに迷い込んでしまう可能性はありますね」
フェンネル「霧も立ちこめるという噂だものね。方向を間違わなければ良いのだけど」
アルシーヴ「用心に越したことはないだろう。誰か迎えをつけるべきだろうな」
きらら「それなら私に任せてくれませんか?」
ランプ「わ、私もコミックエトワリアの編集長として、先生たちを迎えに行きたいです!」
マッチ「それじゃあ僕らもだ」
うつつ「最初から頭数に入れないでよ・・・。まあ、どうせ行かなくちゃいけないんだけどさ・・・」
アルシーヴ「・・・すまない。頼まれてくれるか?」
きらら「はい、まかせてください!」
うつつ「・・・お人好しの陽キャ」
マッチ「まあまあ、もしかしたらうつつの記憶に繋がるかもしれないんだしさ」
うつつ「うるさい変な生き物」
マッチ「辛辣!」
ランプ「何かあれば、通信を入れますね」
アルシーヴ「分かった。こちらも何かあれば連絡を入れよう」
ソルト「皆さんのご武運を祈ります」
アルシーヴの用意した転移魔法で、四人は港町へ直接向かう事にした。
魔方陣の中に入り、光に包まれる一同。
こうしてきららとランプ、マッチ、そしてうつつは、かおす達を迎えに出発した。
その頃、当のかおす達は予定を引き上げ、里へ帰るために別の山を通っていた。
噂を聞き、滞在を切り上げたのだが、奇しくもきらら達とは入れ違いになってしまった。
だがそれでも、例の山とは隣の山を歩き、安全に帰っている・・・はずだった。
琉姫「・・・ねえ、様子がおかしくない?」
小夢「確かにさっきから霧が出てきたような・・・」
翼「おかしい、霧が出るのは隣山のはずだ」
かおす「あばば、隣山が封鎖されていたから、こちらを登ってきたのに・・・」
四人は確かに隣山を通っていた。
だが間の悪いことに、霧の勢いが増し、隣山まで包み込んでいたのだ。
しかし、この霧の広がり方は明らかにおかしかった。かおす達が山に入り始めたときは、青空すら見えていたのに、それが三十分も歩かない内に、視認できるほどの霧が立ちこめたのだ。
小夢「・・・寒いね」
翼「・・・一度、港町に戻ろう」
琉姫「そうね、ここからならまだ近いはずよ」
かおす「霧がこれ以上酷くならないうちに行きましょう・・・」
実際、その判断は間違っていなかった。
そこに留まっていても、空が晴れるとは限らない上、霧のせいで体を冷やすおそれがあった。
ならば、来た道を戻って港町に戻るという判断を下しても、誰もそれを攻められないだろう。
例えそれが、後の恐怖に繋がっていたのだとしても。
かおす「・・・こんなに遠かったんでしたっけ」
琉姫「変よ・・・、さっきから知らない道を歩いている」
小夢「き、気のせいですよ。だって私たちは来た道をまっすぐ戻っていたんですよ」
翼「・・・」
港町から四人がいた位置までは、まっすぐな一本道であり、子供ですら迷う方がおかしいような道だった。だから彼女たちは来た道をそのまま戻ったのである。
だが周囲の霧は更に深くなり、前に進むことすら困難なレベルに達していた。
有り体に言うと、彼女たちは遭難したのだ。
それでも出口はないかと、無意識のうちに足を進めてしまう四人。
気がつけば、どこともしれない場所に出ていた。
かおす達は気がついていなかったが、そこは例の山の圏内である。歩き続ける内に方向感覚を失い、迷い込んでしまったのだ。
翼「本当に申し訳ない!私があんな提案をしたせいで、こんな・・・」
かおす「自分を責めないでください。あの場だったら、四人とも同じ考えをしたと思います」
小夢「それに、私が寒がっていたのを、気づかってくれたんですよね」
琉姫「二人の言うとおりよ、こうなったら下手に動かず、霧が晴れるまでここで待ちましょう」
荷物から上着などを取り出し、それを着込む四人。
だが、この霧が晴れるまでに夜を迎えてしまえば、その時点で帰れる算段はなくなる。
更に悪いことに、現在彼女たちのいる山は封鎖がされており、誰かが偶然、麓から来るという流れにも期待ができない。
強い不安が四人を包む中、突如その人物は現れた。
小夢「ねえ、向こうから何か物音がしない?」
琉姫「そうね、ガサガサってなにかこう、近づいてくるような・・・」
かおす「あばばばばっ!?!?まさか魔物が!?」
翼「みんな!武器を構えて」
警戒を強める四人の前に、人影が姿を見せる。
日に焼けた肌、紅い髪、すらっと伸びた姿・・・。
それは彼女らにも見覚えのある人物だった。
かおす「あばーっ!!!お化けぇぇ!!!」
小夢「違うよかおすちゃん!あれカルダモンさんだよ!」
琉姫「でも良かった・・・。人と会えて」
翼「ああ、それに神殿の人ともなれば、安心感が強いな」
四人は一息ついて、武器を納める。
だが、よく見るとカルダモンの様子がおかしい。
息を切らし、髪は乱れ、服には植物の種が張り付いている。
まるで何かから全力で逃げてきたようだ。
そして、その腕を見ると・・・。
小夢「カルダモンさん怪我してるの!?」
カルダモン「・・・逃げろ」
かおす「へ?」
カルダモン「逃げろ!!みんな死ぬぞ!!」
翼「落ち着いてください!一体何があったんですか!?」
カルダモン「敵だ。見たこともない、強くて、残忍なやつが・・・!」
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