お久しぶりです。そうでない人は初めまして。
以前このBBSで、以下のSSを投稿させてもらった者です。
【SS】ハッピーシュガーライフ×きららファンタジア
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=775&ukey=0&log=past
【SS】小鳥と不死鳥と(機動戦士ガンダムNT×アニマエール)
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=1471&ukey=0&log=past
最初に投稿したSSを基に、ハピシュガの人というコテハンを使いたいと思います。
今回は、昨年アニメが放送され、現在アプリゲームが配信中のアサルトリリィときらファンのクロスSSを書きました。
今回は10万3千字ほどの文章を、何回かに分けて投稿したいと思います。
全15章分、お付き合いのほどよろしくお願いします。
今回はさっそく、第1章と2章を投稿します。
梨璃「もう、楓さんったら」
夢結「なんだか、悩んでいたのが馬鹿らしくなったわ」
うつつ「・・・そんな口から砂糖吐くようなこと、よくまあ堂々と出来るね」
楓「あら?気に入ったものを正しく評価し、行動することは人として当然のことではなくて?」
うつつ「そういうとこだよ・・・」
場に和やかな空気が流れ、きらら達が改まってリリィに言葉をかける。
きらら「皆さんの使命の重さ、確かに受け取りました。でも、みんなで支え合えば、少しは軽くなると思うんです」
カルダモン「だからそこまで自分を追い詰めないで。ここはその意思さえあれば、誰とでも結び、繋がれる世界だから・・・」
ランプ「皆さんとなら、どこまでだって行きますよ!」
小夢「責任とかじゃなくてさ、友達が困っていたら助けてあげたいじゃん!」
夢結「友達・・・?」
うつつ「諦めた方が良いよ。誰でもすぐ友達扱いする輩しかいないから、ここ」
楓「ほ〜ら、あなたも梨璃さんが憧れの君なのでしょう?なら握手ぐらいはしておくべきですわ。まあ、最後に梨璃さんを振り向かせるのはわたくしですけども!」
かおす「ふぇ!?楓さん背中を押さないで〜!!」
梨璃「・・・ふふ、ここの皆さんと、それに楓さんには敵わないですね」
夢結「梨璃、あなたも・・・」
梨璃「はい、行ってきますね、お姉様!」
改めて向かい合う二人の少女。
霧の晴れてきた山中で、二人の髪を風が撫でる。
かおす「・・・梨璃さん」
梨璃「うん、かおすちゃん。これからよろしくね」
そういって、手を取り合う二人。
周囲から拍手が巻き起こる。
だが、かおすの精神はもはや限界であった。
かおす「ほげぇ・・・」
梨璃「あばばば!?顔が茹だってるよ〜!?」
翼「いかん!もう限界をとっくに超えてたんだ!」
ランプ「分かりますよ〜その気持ち」
琉姫「早く寝かせてあげて!」
だが、そんな空気を、地面の揺れが切り裂いていく。
小夢「きゃあああ!!」
夢結「みんな、地面に伏せて!頭をガードするのよ!!」
やがて揺れは収まり、辺りを静寂が包んだ。
きらら「地震・・・、だったんでしょうか?」
カルダモン「だとしても変だ。それなら敵も動揺して動くはずなのに、むしろさっきから何の気配もしなくなってる」
梨璃「もしかすると、山に潜んでいたギガント級が動き出したのかも」
夢結「それで兵隊も一緒に移動したのかもしれないわね」
琉姫「だとしたら、どこに・・・?」
そこにきららが、これまで感じていた疑問を挟む。
きらら「ウツカイは本来、オーダーで呼び出されたクリエメイトが絶望しないと生まれないんです」
ランプ「そうですね。真実の手・・・、敵がリアライフという禁呪を使わないと発生しないんです」
楓「でも、ギガント級はウツカイをちゃかぽこ産んでましたわよ?」
マッチ「それがおかしいんだ。絶望する感情とオーダーで無理やり喚んだクリエメイト・・・。この二つが揃ってウツカイが初めて出るんだから」
梨璃「つまり、皆さんの敵が今回の事態に関わっている可能性が・・・?」
きららは深く頷くと、先ほどのウツカイから回収した指令書を取り出す。
きらら「奇妙なことに、いつもは一枚ずつの指令書が、今回は二枚もあるんです」
うつつ「一枚で二枚でも読めるのは私しかいないんだから関係ないでしょ。あーめんどい・・・」
そうぼやきながらも、うつつは指令書を読み進める。
だが、その顔がどんどんと青ざめていった。
うつつ「何よ、何よこれ・・・」
小夢「どうしたの!?」
うつつ「一枚目はともかく、二枚目はこんなの・・・!」
楓「何が書いてあるんですの!?」
うつつ「一枚目には『クリエを、そして女神を食らえ』って書いてあるわ・・・」
琉姫「あの、二枚目は?」
うつつ「・・・」
ランプ「うつつさん・・・?」
うつつ「・・・『壊せ』『殺せ』ってびっしり書いてある」
かおす「ひっ・・・」
夢結「それでは作戦というよりも、まるで・・・」
そこに、騒々しい音が鳴り響く。アルシーヴに持たされた通信機の発信音だ。
さっそくランプが通信に出る。
ランプ「先生!どうされたんですか!?」
アルシーヴ『ランプか!かおす達は無事に見つかったか!?』
ランプ「はい!リリィの皆さまの協力もあり・・・」
アルシーヴ『なに!?リリィがそちらにも!?』
ランプ「ええ!?先生もリリィのことをご存じなんですか!?」
その通信を聞いた夢結が、手早くランプの通信機を取り上げる。
夢結「そちらにもリリィが、我々の仲間がいるのですか!?」
アルシーヴ『・・・そうか、あなたもリリィなのか。ああ、あなたの仲間はこちらにいる』
夢結「そう、良かった・・・」
アルシーヴ『・・・あなたがリリィと見込んで頼みがある。我々を援護してほしい!このままでは神殿が落ちるのも時間の問題だ・・・!』
ランプ「神殿が!?一体何があったんです!?」
アルシーヴ『事情はこちらで話す!まずはそちらに転移魔方陣を送るからそれで・・・』
アルシーヴがそう言い終わらない内に、爆発音が通信機越しに聞こえてくる。
フェンネル『アルシーヴ様!クリエメイトも何とか持ちこたえていますが、これ以上は限界が・・・!!』
アルシーヴ『くっ・・・、急いでくれ!!』
アルシーヴからの通信が切れると共に、通信機から魔方陣が送られてきた。
夢結「遅かった・・・!」
楓「おそらくギガント級は既にあちらへ・・・!」
きらら「今は嘆いていても仕方ありません!行きましょう!」
梨璃「はい!きっと私たちの仲間も、向こうで戦っているだろうから・・・!」
全員が魔方陣の上に乗る。
やがて全員の姿がそこから消えた。
戦いの狼煙が上がったのだ。
作者です。
休日中は一日に2章ずつ(幕間もあればそれ含めて)時間をおいて投稿できればと考えています。
もし投稿ペースに関して何かあれば、意見をください。
投稿の前に、リリィ達の紹介を軽くしたいなと思います。
今回は梨璃、夢結、楓の三人です。
・一柳梨璃(声・演:赤尾ひかるさん)
アサルトリリィシリーズの主人公で、一年生ながらも隊(レギオン)のリーダーを任された、努力家の少女。
自然と人を引きつけ、まとめ上げる才能があります。
憧れの人の壮絶な過去に触れ、自身も(まるで妹のようだった)親友を亡くすなどの経験を経て、大きく成長していきました。
・白井夢結(声・演:夏吉ゆうこさん)
梨璃のシュッツエンゲルの少女。百合ヶ丘女学院きっての、戦闘力に優れた人物でもあります。
過去のトラウマから人を避けていましたが、梨璃との出会いを経て、その心も解きほぐされていきました。
ちなみに担当声優の夏吉さんは『魔王学院の不適合者』のアニメにて、きらら役の楠木さんと双子の姉妹役で共演していました。
楓・J・ヌーベル(声・演:井澤美香子さん)
日仏ハーフの、チャームメーカのご令嬢。
卑怯なことを嫌う堂々とした性格で、その容姿も相まって慕う者が少なくありません。
もっとも本人は梨璃を好いており、熱烈なアタックを仕掛けているのですが。
演じる井澤さんは、アニマエールの宇希役も務めていました。
投稿を再開します。
今回は幕間1と、第5章を投稿し、深夜帯に第6章を投稿する予定です。
お付き合いのほどお願いいたします。
幕間1 ホタルカズラ(企て)
ハイプリス「・・・ヒナゲシ、ヒナゲシはいるかい?」
ヒナゲシ「は、はい、ハイプリス様!ヒナゲシならここに!」
ハイプリス「そんなにかしこまらなくて良いよ。進捗の方はどうだい?」
ヒナゲシ「はい、現在ヒュージは山を掘り抜け、里の目前に現れた模様です」
ハイプリス「ふふ、誘導ご苦労。リリィ、といったかな?彼女たちの力を持ってしても、アレを食い止めるのは困難だと聞く」
サンストーン「ましてやクリエメイトなど、ものの数ではあるまい」
ヒナゲシ「ヒュージからは絶望のクリエに近いものを感じます。全てを壊し、命を奪い尽くしたがっているような・・・」
ハイプリス「ああ、だからこそウツカイも産み落とせるのだろうね」
サンストーン「その怪物に、言の葉の樹を、ひいては女神を喰わせる・・・」
ハイプリス「クリエを司る女神が絶望のクリエに呑まれれば、エトワリアの汚染は即座に完了する。そうなれば聖典を通じ、クリエメイトたちの世界にも滅びが訪れるだろう」
サンストーン「全ての聖典とエトワリアは繋がっているのだからな」
聖典、ひいては各々の世界から汚染を進めるのではなく、最初から本丸を狙い、爆発的に汚染を拡大させる。それが今回の企てであった。
ヒナゲシ「・・・どのような滅びが訪れるのでしょう?」
ハイプリス「言い換えれば、ヒュージという存在で聖典を塗りつぶすのが今回の作戦だ。エトワリアが、そしてクリエメイトの世界が、あの怪物で溢れかえるだろうね」
ヒナゲシの顔から、純粋な、けれども、どこか空虚な笑みが零れる。
ヒナゲシ「・・・うふふ、あはは。いい気味なの。いつも誰かに愛されて、どんなに辛いときでも誰かが側にいてくる奴らなんか、みんな血濡れになっちゃえば良いんだ」
エトワリアが、少女たちの学び舎が、災厄から立ち直りつつある世界が、キャンプをし、星空を見上げるような自然が、夢を追い求める者たちの住む場所が、多様な者の共存する世界が、ヒュージによって侵される・・・。
少女はその光景に、胸をときめかせていた。
それは明らかに、誤った願いなのだろう。だが、彼女にはもう、それしかなかったのだ。
奮起したヒナゲシは、ハイプリスの顔を改めて見上げる。
ヒナゲシ「ハイプリス様・・・!」
ハイプリス「何も言わなくて良いよ、行っておいで。そうそう、これは餞別だ。いざというときに使いなさい」
ヒナゲシ「はい!」
そういって少女は黒い矢を三本受け取り、勢いよくその場を後にした。
サンストーン「・・・彼女に任せて、良いのですか?」
ハイプリス「構わないよ。元より、あんなものが来ること自体、想定になかったからね。利用できれば御の字、といった程度さ。だから失敗したならそれはそれで、というところだね」
サンストーン「なるほど、以前の失態を取り戻そうと、ヒナゲシが此度の作戦を提案した時は、どうしたものかと思いましたが」
ハイプリス「あのような怪物を制御しようなどと思えば、破滅するのはこちらさ。彼女もそれは分かっていて、利用するに留めたんだろう」
サンストーン「しかし驚きました。まさか異界の怪物が、全身からエトワリウムを生やし、属性による攻撃を行うなど」
ハイプリス「このエトワリアはふざけた世界だからね。ごく稀に聖典と何ら関わりの無い世界とも繋がってしまうのさ。そこからエトワリウムの欠片でも落ちて、ヒュージと混じったんだろう」
サンストーン「マギとクリエ・・・、似て非なるものが引かれあったのでしょうか?」
ハイプリス「そこまでは分からないね。ただ、あのヒュージはより大きな力を欲して、エトワリアにある意味帰ってきたんだ。人々を癒やすとうそぶく力が、今度は全てを焼き尽くすために戻る・・・。こんなに愉快なことはないだろう?」
サンストーン「はい。クリエメイトも女神も、思い知ればいい・・・」
ハイプリス「それにあのヒュージ、面白い性質を持っているようだね。今回は失敗しても良いと考えて、純粋に成り行きを楽しもうじゃないか」
笑みを隠せないハイプリス。サンストーンも心なしか楽しそうだ。
ハイプリス「ところでサンストーン、彼女たちの・・・リリィの世界をどう思う?」
サンストーン「無垢な少女があたら若い命を差し出し、犠牲となる世界・・・。汚い大人も彼女たちの力を欲し、策謀を張り巡らす・・・。ありきたりですが、希望が見えない分、聖典の世界よりはマシかと」
ハイプリス「ふふ。どれだけの絶望がない交ぜになっているのだろうね。一度見て見たくもあるよ」
そうニタリと、彼女は嗤った。
第5章 クレオメ(秘密のひととき)
数時間前。
まだきららがかおす達を捜索していた頃。
まだこの平原が戦場と化す前の平和なひととき。
フルーツタルトの面々は、音楽祭の会場となるここでリハーサルを行っていた。
そこにチノとココアが昼食のデリバリーに来ていたのだが・・・。
神琳「・・・」
ココア「ええと、どちら様?」
ミリアム「いやそれ聞きたいのはこっちじゃ」
チノ「新しいクリエメイトの方でしょうか?」
ロコ「でもそんな話聞いてないぞ?」
衣乃「武器を持ってる・・・、不審者!?」
はゆ「いやはゆ達も武器持ってるよね?」
雨嘉「あの、その・・・」
突如空に穴が開いたと思ったら、見知らぬ少女が三人、そこに降り立っていたのだ。
似たデザインの制服に、共通性の見られる武器・・・。どうやら彼女たちは同一の世界から来たらしい、ということは一目で分かったが、それ以上は誰も何一つ知らなかった。
一方で、リリィの方も状況を飲み込めていなかった。
ワームホールに巻き込まれたと思ったら、そこには青空と大地が広がっていたのだ。
ヒュージが帰る場所なのだから、どれだけ恐ろしい所に飛ばされるのだろうと思えば、見た限りは平和な場所に飛ばされ、気持ちの整理が追いつかなかった。
そして目の前には言葉の通じる相手までいる。だが、誰一人としてリリィの存在を知らないらしい。
それに加え、どうしても気になることがあり、三人は後方でひっそりと話を始める。
ミリアム「なんか凄まじく破廉恥な格好をした輩がいるんじゃが・・・」
雨嘉「あんなに肌を出す服、初めて見たかも・・・」
ミリアム「特にあのピンクとオレンジの娘よ。どんな構造した服じゃあれ!?」
神琳「あの四人はマイクを持っていますね。ヒラヒラとした衣装も合わせて、もしかするとアイドルなのかもしれませんよ?」
雨嘉「そういえば野外ステージらしきものもある」
ミリアム「大方、プロデューサーがあくどい奴なのじゃろう。良識ある大人ならあんな衣装で表舞台に立たせんわ」
困惑する三人に、声をかけるクリエメイトがいた。衣乃と仁菜だ。
衣乃「あの・・・、大丈夫ですか?」
仁菜「何か困っているようだけど・・・」
ミリアム「ああすまんすまん、身内で盛り上がってしまったわい・・・。うぇぇぇ!?」
ミリアムは絶句した。だが、それも仕方ないだろう。
眼前にいた少女は獲物を狙う目つきで手をわなわなと震わせながら、口からよだれを垂らし、息をハアハアと切らしていたのだから。
リリィに興奮して鼻血を出してしまう仲間や、特定の人物に対する愛情をまるで隠さない仲間ならミリアムも知っているが、彼女らは最低限の礼節とお淑やかさは常に保っている。
だが目の前の少女たちはどうだろう。品性すら投げ捨てて、邪な欲望を包み隠さず迫ってくるではないか。
そんな同年代の人物を初めて彼女は見たのだ。
衣乃「お嬢ちゃん可愛いねぇぇぇ!!!」
仁菜「あっちでお姉ちゃん達とイイことしない・・・?相談にも手取り足取り乗るよぉ!」
ミリアム「来るな下郎!!それに勘違いしているようじゃが、多分お主らとわしはそんなに歳が離れておらんぞ!?」
衣乃「それはそれでギャップ萌えですぅ!!」
仁菜「へへ、へへへ・・・、嗅いだことのない女の子のニオイ・・・」
はゆ「そんな、はゆという者がありながら・・・」
ロコ「こらぁ!!仁菜の浮気者ぉ!!」
神琳「あらあら、早速仲良くなって羨ましい限りですわ」
ミリアム「これは仲良しとは言わん!はよ助けんかい!!」
そんな様子を見守る神琳に、天然の入った二人が話しかける。
ココア「ねえねえ、あなたの名前は?」
神琳「これは申し遅れました。わたくしは郭神琳(クォ シェンリン)と申します。以後お見知りおきを」
はゆ「すごい、立ち振る舞いからしてお嬢様だ・・・」
ロコ「いやはゆもお嬢様だろ一応?」
そんなロコの突っ込みも無視し、はゆはあることを神琳に尋ねる。
はゆ「ねぇ、なんで中華鍋を持ってんの?」
神琳「・・・はい?」
はゆ「だってその腕につけてるの中華鍋だよね、ね!?」
神琳のチャームこと媽祖聖札(マソレリック)。
それは白と赤を組み合わせた円形の盾に、大型の刃が取り付けられた形状をしている。
確かにそのフォルムは、見ようによっては中華鍋のようにも見える。
だが、チャームとは文字通りリリィの分身である。自らの血を分け与えて起動させ、生死を共にする相棒・・・。ましてや媽祖聖札は特注品である。
それを中華鍋だの何だのと言われることに、神琳は内心ざわついていた。
ココア「はゆちゃん、きっとあれだよ。旅する武芸中華料理人なんだよ!」
はゆ「おお〜そっか!ココアちゃんあったま良い!!」
神琳「ふふ、もりあがっているところ申し訳ございませんが、この媽祖聖札は中華鍋ではありませんよ」
ココア「え〜でも中華鍋にしか見えないよ?」
はゆ「分かった!こういう形のスノーボードなんだ!」
神琳「スノーボードでもありませんよ〜?」
ロコ「二人ともその辺にしとけ、その人立ち振る舞いは静かだけど、心が多分笑ってない」
チノ「すみません、うちのココアさんが失礼なことを・・・」
そんなやり取りをしている傍らで、雨嘉がロコとチノのことを見つめていた。
どこか恥じらいを持って、もじもじとした様子だ。
チノ「どうかされましたか?」
雨嘉「え、あの、ええと・・・」
ロコ「何だハッキリとしないなあ」
雨嘉「ええと、その・・・」
神琳「ふふ、雨嘉さん。言葉は紡がなければ届きませんよ」
雨嘉「分かった・・・」
一度深呼吸をする雨嘉。そしてゆっくりと、だがハッキリと言葉を紡いだ。
雨嘉「・・・二人とも、可愛い」
チノ「えぇ!?」
ロコ「い、いきなり何を言い出すんだ!?」
雨嘉「ごめんなさい・・・。でも、一目見たときから仕草が愛らしいなって、そう思ったの」
神琳「ふふ、その調子ですよ雨嘉さん」
王雨嘉(ワン ユージア)。
本人は謙遜するが、至って優秀なリリィである。
内向的で口下手な彼女にも、小動物的な愛らしいものが好きという性分があった。
そして一度決心すると、まっすぐそこに突き進むのも彼女の特徴である。
雨嘉「手、握って良い?」
ロコ「そりゃまあ」
チノ「構いませんが・・・」
そう言ってしゃがみ、二人の手を取る雨嘉。その顔はほころんでいた。
雨嘉「ありがとう。どことも分からない場所だけど、少し落ち着くことが出来た・・・」
その直後、彼女はバランスを崩して倒れ込んでしまう。
ちょうど、チノとロコを押し倒す形だ。
雨嘉「ご、ごめんなさい!怪我していない?」
チノ「は、はい」
ロコ「何ともないから心配しないでくれ」
雨嘉「良かった・・・」
互いの息を感じるほどに、顔が近い体勢。
三人とも頬を赤らめ、何とも言えない空気が流れる。
雨嘉「・・・ごめん!」
そういうと雨嘉は、二人をぎゅっと抱きしめた。
神琳「あら大胆」
チノ「!?!?」
ロコ「お、おおい唐突に何してるんだ!?」
雨嘉「ごめんなさい。でも二人とも本当に可愛くて、気持ちが抑えられなくなって・・・」
そう儚げにつぶやく彼女に、二人もドキッとさせられてしまう。
雨嘉『楓が梨璃に抱く気持ちが分かる気がするなあ・・・』
チノ『何でしょう。今まで関わったことのないタイプの方です。でも、悪い気はしません・・・』
ロコ『ビックリして気づかなかったけど、この娘けっこう胸大きいな・・・。それにスラーっとしてて綺麗で、良い香りもして・・・。何だか落ち着く』
ティッピー「ふーむ」
ティッピーがもう一方を見やる。
ミリアム「やめろぉ!やめるんじゃあ!!」
衣乃「良いではないか〜、良いではないか〜」
二菜「ちょっとだけ、ちょっとだけならセーフだから、ね?」
ミリアム「それは犯罪者の理屈じゃ痴れ者!」
ティッピー「・・・何がこの差を生むんじゃろうなあ」
ココア「ヴェアアアアアアアアチノちゃん取られるぅぅぅ!!!」
神琳「もう、妬けちゃいますよ雨嘉さん。・・・後で二人きりに、ね?」
雨嘉「・・・ありがとう、神琳」
一方その頃、神殿内でも騒ぎが起こっていた。
二水「ふえええ〜、何で私たち捕まってるんですかあ〜!?」
ジンジャー「何か言ったらどうなんだ、ええ?」
鶴紗「だからさっきから事情は話してるだろ。そっちが信じないだけだ」
アルシーヴ「神殿に戻ってきた途端にこれか・・・」
ソラ「困ったわね・・・。嘘を言っているとも思えないんだけど・・・」
梅「・・・あはは」
梅たちもまた、無事にエトワリア辿り着いていた。
だが運の悪いことに、降り立った場所は女神の間だった。
エトワリアの最重要箇所に突如侵入してしまった三人は、驚く女神をよそに、ジンジャーらに捕縛されてしまったのである。
リリィの身体能力を駆使すればこの場を逃げ出すことも可能だろう。
だが、自分たちはヒュージを追ってきたのであって、混乱を招きに来たわけでは無い。
その意識が、彼女たちを敢えてここに残らせていた。
だが一方で、いつまでも捕まっているわけにはいかない。そこで事情を説明したのだが・・・。
ジンジャー「いや信じてやりたいのは山々だけどよ、そんなクリエメイトの話聞いたことないんだよ」
鶴紗「だから何だよクリエメイトって。こっちもあなた達が何を言っているかさっぱり分からないんだけども」
二水「鶴紗さん、そんなケンカ腰になっちゃダメですぅ〜!」
ジンジャー「さっきから説明はしてるだろ。それ以前に、武器持った見知らぬ奴らがいきなりソラ様の所に侵入したんだ。こっちとしては縛らざるを得ないんだよ」
梅「うーん、筋が通っているのはあちらさんだよな・・・」
にらみ合う両者。
互いに生きる世界の前提が異なるため仕方ないのだが、まるで話が噛み合わない。
アルシーヴ「平行線だな」
ソラ「でもあの娘たちがクリエメイトでないのは本当よ。リリィにヒュージ・・・、そんなものが登場する聖典はどこにもないの」
アルシーヴ「公務をサボって聖典の最新刊を読まれるソラ様のことだ。本当のことなのだろうな・・・」
ソラ「ちょっとアルシーヴ!」
聖典と一口にいっても、その中には多種多様な世界が含まれる。
解釈の分かれるところではあるが、中には魔法少女が運命に抗う世界や、巨大ロボットの登場する世界まであるのだ。
だが、目の前の少女たちは、そのいずれにも該当しなかった。
アルシーヴ「何にせよ、こちらは未知の怪物騒ぎがある上に、新たな敵まで確認されている・・・。貴様らを解放するわけにはいかん」
二水「未知の怪物!?まさかそれって・・・!」
鶴紗「それがヒュージだったら、ここでこんな事をしている場合じゃない・・・!」
梅「梅たちが限りなく怪しいことは分かる・・・。でも全部本当のことなんだ。このままだとこの世界も手遅れになる!頼む、梅たちは奴らと戦うために来たんだ!」
鶴紗「先輩・・・」
ソラ「・・・」
緊張が張り詰める中、騒ぎを聞きつけある人物が駆けつけた。
シュガー「話は聞いたよ〜。そこにいるのがあやしい奴ら?」
鶴紗「・・・!!」
鶴紗は見てしまった。
彼女の揺れ動く、ふさふさとした三角形の耳を。
それもつけ耳などではない。本物だ。
鶴紗「ああ、ああ・・・」
下をうつむき、必死に震えを止めようとする鶴紗に、二水が声をかける。
二水「ああああ鶴紗さん、こらえてください!!」
梅「そうだゾ!ここでそれを解き放ったら余計ややこしいことに!!」
鶴紗「分かってる・・・、分かってるけど・・・!」
強い衝動に駆られる鶴紗。
明らかに挙動不審なその様子に、一同が警戒を強める。
クロモンたち「くー!くー!」
ジンジャー「一体何をするつもりだ!」
シュガー「ふぇ!?なになにどうしたの?」
アルシーヴ「ソラ様!ここはお下がりください!」
ソラ「え、ええ!」
やがて鶴紗がぼそりと呟く。
鶴紗「ごめん先輩、二水、もう限界」
そう告げると、彼女は縄を強引に引きちぎる。
そしてふらりと、だが素早い動きでシュガーに近づいた。
シュガー「え、ええ!?」
アルシーヴ「しまった、狙いはシュガーか!」
ジンジャー「逃げろシュガー!」
だがシュガーが逃げ出す暇もなく、鶴紗はその頭を鷲づかみにする。
あまりの気迫に誰も動けないでいた。
鶴紗「わしゃわしゃわしゃわしゃ!!よーしよしよしジッとしてて良い子でちゅね〜。わーしゃわしゃわしゃ!!」
シュガー「や、やめれ〜!」
ソラ「・・・はい?」
鶴紗「こんなネコ耳少女、愛でないわけにはいかないにゃあ〜!」
シュガー「だぁ〜!シュガーのこれはキツネ耳だよ!」
鶴紗「そうなのかにゃ?でも可愛いからモウマンタイだにゃあ〜!!」
シュガー「うわあああ〜!」
梅「止められなかったか・・・」
二水「ああもうおしまいですぅ!!私たちここで処刑されて一生を終えるんだあ〜!!」
ソラ「・・・何これ」
安藤鶴紗は無愛想な少女である。
だが、そんな彼女も猫や猫耳を前にすると、人が変わったように弾けるという特徴があった。
満面の笑みでシュガーの頭を撫でる鶴紗。
それを嘆くリリィたち。
突然の出来事に硬直する神殿の面々。
混沌とした空気が、場を包んでいた。
鶴紗「お腹すいてないかにゃあ?何なら猫缶あるけどどうかにゃあ?」
シュガー「それ人間の食べ物じゃないでしょう!シュガーは甘いお菓子が好きなの!!」
鶴紗「う〜ん、それじゃあ・・・」
鶴紗は懐から何かを取り出す。
鶴紗「携帯食のチョコバーだにゃ。でもカロリー消費の激しいリリィ用だから凄く甘いけど大丈夫かにゃ?」
シュガー「甘いものならドーンとこいだよ!それじゃ遠慮無くいただきま〜す!」
ジンジャー「だあ待てシュガー、ワケわからんものをホイホイ食べるんじゃない!」
そんなジンジャーの忠告を無視してチョコバーを頬張るシュガー。
やがて彼女に変化が訪れる。顔を真っ赤にして頭から湯気が出始めたのだ。
ジンジャー「くそっ!やっぱり毒か!」
シュガー「違うよ!これは・・・!」
やがてシュガーの頭から湯気がボン!と弾ける。
シュガー「これ凄いよ!なんだか力がみなぎってくるみたい!!」
二水「百由様特性のブレンドですからね。カロリーも疲労回復効果も凄いんです」
梅「でもそれをバクバクいけるこの娘も凄いなあ」
鶴紗「まあ細かいことは省いても、気に入ってもらえたみたいで良かったにゃあ」
シュガー「うん!ありがとう!ほうびに頭をわしゃわしゃする権利をあたえよう〜」
鶴紗「感謝感激雨あられだにゃあ〜」
そんな様子を見ていたジンジャーが、思わず笑い出す。
ジンジャー「ぷくく、うわあはっはははは!!!」
アルシーヴ「ジンジャー?」
ジンジャー「いやすまんすまん。でも、何だかコイツらが悪い奴らとは思えなくてさ」
ソラ「アルシーヴ、私からも良いかしら」
アルシーヴ「なんでしょう、ソラ様?」
ソラ「彼女たちはクリエメイトではないし、クリエの力も感じない・・・。でも、それに限りなく近い、暖かな力を感じるの」
アルシーヴ「根底にあるものは、クリエメイトと同じであると?」
ソラは静かに頷く。
ソラ「私たちには荒唐無稽に思えるけど、きっと本当のことを言っているのよ」
アルシーヴ「ソラ様・・・」
ジンジャー「なあ、アルシーヴ・・・」
アルシーヴ「・・・己の信じたとおりにするんだ、ジンジャー」
ジンジャー「ありがとな!」
そういうとジンジャーは、自ら梅と二水の縄をほどきに行く。
ジンジャー「・・・さっきまですまなかったな。マイにフミだっけ?改めて話を聞かせてくれないか?」
二水「・・・信じてくれるんですか?」
ジンジャー「正直、今でもおまえ達の話はピンとこない。でも、目の前でシュガーを愛でてるあいつや、その仲間が嘘をつくとも思えないからな」
梅「あはは、怪我の功名ってやつかな」
梅たちは自分たちがここまで来た経緯、そして置かれた状況を改めて話し始める。
それをアルシーヴ達は静かに聞いていた。
アルシーヴ「すると山の噂も、そのヒュージとやらが関係していると?」
二水「確証は持てません。でも、ワームホールを通る際にギガント級と私たちとで時間のズレが生じた可能性はあります」
梅「先にエトワリアに着いたギガント級が、その山を寝ぐらにしているのかもな」
ジンジャー「そのヒュージっていうのはそんなに強いのか?」
二水「通常兵器による攻撃はまず効果が見込めません。クリエの力がどこまで通じるかは未知数ですが、過度な期待はしない方が良いと思います」
梅「おまけに人間を見たら真っ先に殺しに来る。他の何を差し置いてでも」
アルシーヴ「・・・我々は選択を誤ったのかもしれない」
梅「どういうことだ?」
ジンジャー「山の調査に仲間を一人で行かせちまったんだ。加えて、山向こうの奴らを迎えに数名を別に送り込んじまった・・・」
アルシーヴ「皆手練れである故、そう簡単にやられはしないと思うが・・・」
鶴紗「心配だな。私たちも今すぐ追いかけたいけど・・・」
二水「あ、元に戻ってる」
そんな会話をしていると、誰かがまた、息を切らしてアルシーヴの元へ駆けてきた。
フルーツタルトの元にいたはずのチノとココアだ。
ソラ「どうしたの!?そんなに息を切らして!?」
チノ「たたたた大変です!!」
ココア「見たこともない魔物が平原にわんさかと出てきたんだよ〜!!」
アルシーヴ「!!」
ティッピー「ロボットみたいな見た目をしとるが、ありや間違いなく生き物じゃ」
チノ「音楽祭の会場を滅茶苦茶にした挙げ句、私たちに襲いかかってきたんです!!」
ココア「でも、見たこともない娘たちがちょうどそこにいて、みんなを助けてくれたの」
二水「その方たちって、どんな姿をしていたんですか!?」
梅「もしかすると、梅たちの仲間かもしれない!」
そんなリリィの姿を見て、ココアが叫ぶ。
ココア「そう!こういう格好をした不思議な三人が助けてくれたんだよ!!」
チノ「一人はオッドアイのお淑やかな方で、もう一人は白い格好の儚げな方・・・。後はツインテールで、古風な話し方をする・・・」
鶴紗「神琳に雨嘉、ミリアムだな」
ティッピー「やはり仲間なんじゃな」
梅「頼む、梅たちをそこに連れて行ってくれ!きっと三人だけで必死に戦っているんだ!!」
アルシーヴ「・・・分かった。ただし、私とジンジャーも同行する。それは絶対条件だ」
二水「分かりました。お二人ともよろしくお願いします!」
ジンジャー「おまえ達の武器だ。持って行け」
鶴紗「・・・感謝する」
アルシーヴ「チノ、そしてココア。ここに来たばかりで申し訳ないが、里に戻ってクリエメイトたちにこの事を伝えるんだ。おそらく総力を平原に結集させる必要がある!」
チノ「分かりました!」
ココア「もう一踏ん張りだよ!」
ソラ「私も水晶のテレビを通じて、呼びかけてみるわ!」
アルシーヴ「頼みます!」
そう言ってアルシーヴは転移のための魔法を用意する。
その中に入った一同は、やがて姿を消し、気がつけば平原へと辿り着いていた。
鶴紗「便利だなこれ」
アルシーヴ「まだ限定的な距離でしか運用できないがな」
そんな話をしていると、眼前に驚くべき光景が飛び込んできた。
ヒュージとウツカイの大群が里の方向へ迫っていたのだ。
二水「何ですかあの数!?!?」
梅「それに、例の特型までいるゾ!」
ジンジャー「あれはヒュージじゃねえ、ウツカイっていうこっちの世界のバケモンだ!でも何でそれがヒュージと!?」
鶴紗「詮索は後、あんな数が居住区に入れば大惨事になる!」
シュガー「少しでもここでやっつけないと!」
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