【長編ss】ココア「live die repeat and repeat」
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1 名前:名無しさん[age] 投稿日:2019/12/28 22:55:10 ID:LXHxLaq/N9
長編ss(予定)です。

昨年2月にあった『エトワリア冒険譚 後編 目覚める鋼鉄の巨人』イベントにオリジナル要素を加えたリブート作品です。

ーーcaution!ーー

以下の点に不快感を感じる方はブラウザバック推奨です。

・グロ描写あり
・死亡描写あり
・ループものです
・オリジナルキャラあり(一人だけ)
・独自解釈多数
・独自設定多数
・キャラ崩壊
・終始シリアス展開

ss初投稿のため、至らないところもあるかもしれませんが、優しく見ていただけるとありがたいです。

また、誰も死なない終わりを目指します。

< 1234
241 名前:阿東[age] 投稿日:2020/03/07 23:50:29 ID:IJDfrKFDwj
>>238

熱した剣で肩の傷を塞ぐとは・・・カイエンってすごい。

242 名前:ルナ・ソレイユ◆yodjdoerBO2[age] 投稿日:2020/03/08 11:34:42 ID:D3wNYaPg4j
ソルトも劣らず、壮絶な過去が…
カイエンの力、恐るべし…

243 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/08 12:47:22 ID:QaR4EGM2mk
>>241
>>242

ありがとうございます!

カイエンは、ちょっと(かなり)イカれた感じの戦闘狂として書いていました。
なんか凄惨な過去もあるし、果たしたい目的もあるけど、それはともかく戦いが楽しくてたまらない、みたいな。
やべーやつと思っていただけたならよかったです。

ソルトの回想は完全に妄想ですね、ただ、あの幼さで国の重役を務めているので、そういう残酷な判断ができてもおかしくはないかな、と妄想して書きました。
七賢者の中でも参謀っぽい立ち位置ですし。

244 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/08 20:38:31 ID:f7qsDORy.f
これはかなりショッキングな・・・・・場合によっては、ココアがリピートする可能性もあるかも。
しかし、ますます目が話せない展開になってきました!ゆっくりで大丈夫です、続きを楽しみにしてますね!

245 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/08 21:08:25 ID:Kae2AG6Jvh
死にまくってて草、アカン、次も楽しみに待ってます。

246 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/09 09:23:40 ID:HsIp.bBiwE
>>244
>>245

ありがとうございます!

次回で、カイエンとある程度の決着がつくことになる予定です。
早めに投稿できるように、頑張ります。

247 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:15:57 ID:dmyIwjtzxO

「ーーソルト! ソルト! 目を開けてよ! 嫌だよこんなの……!」

瓦礫を退かして、ぐったりとしたソルトちゃんを抱え、シュガーちゃんが必死に声をかける。
その目には、涙が浮かんでいた。

年端もない少女が、ボロボロになった年端もない少女を抱えて悲痛に叫ぶ様は、正しく地獄そのものの光景だった。

こうさせない為に戦っていたはずなのに、私の力が足りないから、親切な人を頼って、そしてその人が死んでいく。
何度でも、脳裏に焼き付くほど見た光景。

気づけば、限界まで握りしめた掌に爪が食い込み、ポタポタと血が流れ出していた。
それほどまでの怒りが、悲しみが、悔しさが頭を満たす

「シュガー、落ち着け」
「リゼおねーちゃん……でも、ソルトが……ソルトが…!
シュガー、ソルトがいないと……!」

ソルトちゃんに寄り添ったリゼちゃんが、素早く呼吸、脈を確認する。

248 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:17:08 ID:dmyIwjtzxO

リゼちゃんはほっと息をついて、シュガーちゃんの頭をポンポンと撫でた。

「大丈夫だ、息はある、目立った出血もなし、お前のお姉ちゃんは生きてるよ」
「ほんと!? よ……よかったぁ……」

リゼちゃんの言葉を聞いて、シュガーちゃんは力が抜けたようにその場にへたりこんだ。

「っ……う……ん……シュガー、うるさい、です……」
「ソルト! 目が覚めたの!?」
「ここは……戦っていたところの近く……カイエンわぷっ!?」
「うぇーん! 生きててよかったよぉ!」

目を覚ましたソルトちゃんが起き上がり、周囲の確認をしているところにシュガーちゃんは抱きついた。

「……全く、仕方ないですね、シュガーは」

よっぽど不安だったのだろう、胸の中でわんわんと泣くシュガーちゃんを、ソルトちゃんは抱き締め返して、背中を撫でてあやす。

「……ソルト、そのままでいい、目覚めて早々悪いが、何が起きたのか教えてもらえるか?」

少し割り込みづらそうに、リゼちゃんが声をかける。

「そうですね……結論から言えば、カイエンの放った『とっておき』に、遺跡ごと消し飛ばされました」
「他のみんなは?」
「ギリギリで転移魔法を使用し、私も含めて攻撃の範囲外に飛ばしました、咄嗟の使用だったので、どこに行ったのかはわかりませんが……それに、コルクもポルカも重症でした、飛ばしたところで、もう……」
「……そうか」

リゼちゃんは、一言そう言った。

249 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:18:35 ID:dmyIwjtzxO

「鋼鉄巨人は?」
「移動を開始した、街の方角へ向かっている、可能ならば、直ぐに追撃をーー」

「ーーさせると思うか?」

唐突に、別の声が割り込む。
周囲の気温が上がる。
声の方を見る。

「……カイエンっ!」

そこには、赤い鎧に、炎の剣を携えた女、カイエンが佇んでいた。
左腕は肩口から失われている。
今は出血していないが、切られたときに血飛沫が舞ったのか、血で彩られた髪は、更にその色を濃くしていた。
その瞳は幽鬼の如く爛々と輝き、その姿に、地獄から舞い戻ったかのような暗い迫力を与えていた。

「鋼鉄巨人を止めたくば、私を先に殺して行け……!」

濃密な殺気が、チクチクと体を刺す。
常人ならばそれだけで腰が抜ける程の気合。
今まで持っていた余裕は欠片もない、確実にこちらを殺さんと、こちらを鋭い瞳で射抜いてくる。

「……シュガーちゃん、ソルトちゃん、まだ戦える?」
「シュガーは大丈夫、ソルトは……」
「ソルトも……まだ、やれます」
「それなら……鋼鉄巨人をお願い、奴の動きを止めて」

リゼちゃんの方を見る。
それだけで意を理解したのか、彼女は一つうなずく。
そして、リゼちゃんと私は、シュガーちゃん、ソルトちゃんの盾となるように、前に出た。

「私たちは……あいつと決着をつけなきゃならないから」
「あぁ、後で必ず追い付く、だから二人は行け」
「ココアおねーちゃん、リゼおねーちゃん……」
「……わかりました、多少遅れても構いませんよ、シュガーとソルトが一緒なら、正しく二騎当千ですので」
「ふふっ……頼もしいね、流石七賢者」
「時間稼ぎするのはいいけど……別に、鋼鉄巨人を倒しちゃっても大丈夫だよね?」
「勿論!」

シュガーちゃんとソルトちゃんは言って、その身を翻した。

250 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:20:44 ID:dmyIwjtzxO

……鋼鉄巨人には、未だに傷一つ与えられていない。
戦局は絶望的、勝つための糸口すら見つけられていない。
だが、二人ならもしかして、何とかしてしまうのではないか、そう思った。

カイエンの目の前で、炎が収束する。

「行かせないと言った!」

スキル『ドーラ・グスタフ』ーー

次いで、炎に向かって手が突きだされる。
同時に炎を纏った砲弾が、此方に高速で向かってくる。

「行ってくれ! 二人とも!」
「わかりました……! 二人とも、幸運を!」
「きっと、またね! シュガー信じてるから!」
「うん、きっと……!」

続けざまに連続で砲弾が放たれ、無数の炎と爆発が周囲を耕していく。
リゼちゃんと私は、それに向かい、前に出た。

「うおおおぉぉぉーーっ!!」

後ろに遠ざかる二人に危険が及ぶものだけを盾で防ぎ、或いは槍で、剣で弾き飛ばす。
嵐のような射線を見切り、距離を詰めていく。

「貴様の相手は、私達だ!」
「今度は負けない、今この場所で、貴方を倒す!」
「チーッ!」

251 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:21:23 ID:dmyIwjtzxO

スキル『デイジーカッター』ーー

舌打ちをしたカイエンは接近する私達へ向かい、大振りに剣を横薙ぎにする。
炎の柱が剣から伸び、それは降り注ぐ雨をものともせず、周囲を焼き払う。

リゼちゃんはそれを盾で防ぎ、私は周囲の瓦礫を蹴って、炎の大縄を飛び越える。

「はあああぁっ!!」

そのままの勢いで、大上段より切りつける。
甲高い剣激が響き、衝撃波が周囲に燻る炎を消し去った。

「ぐっ……!」

カイエンの顔には脂汗。
片手を失ったカイエンは、右腕のみで私の剣を受け止めている。
以前程の馬鹿力は、そこにはない。
更に、左腕を失うことは、そのまま自信の左側に死角を作ると言うことだ。

252 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:22:22 ID:dmyIwjtzxO

「その隙、もらった!」

後方に回り込んだリゼちゃんが、挟み込むように槍での刺突を放つ。

「っ!」

後退しながら私の剣を払ったカイエンは、そのまま回転、リゼちゃんの槍がカイエンの腹を裂いていくのと同時に、鋭い足刀蹴りを繰り出した。

「ぐっ……」

それを辛うじて盾で受けるも、リゼちゃんは大きく後退する。
続けて攻撃をかけようとする私に対して、近づくなとばかりに炎が舞い、次の瞬間にはカイエンは私の間合いの外にいた。
その周囲に更に炎がくべられる。

スキル『インセンディアリー・ボム』ーー

出現した炎の玉は私とリゼちゃんを取り囲むようにして破裂し、視界の全てを炎で覆う。
こちらの動きを封じ、距離をとって安全に仕留めるつもりか。
カイエンの魔法攻撃は強力無比、今までに何度も経験してきている、これをまともに受けてしまえば、幾ら数の利があろうとまとめて消し去られる。

「そうはさせないよ!」

スキル『メモリア・ストライク』ーー

回転しながら繰り出したスキルの一撃は、周囲を取り囲む炎の壁をまとめて吹き飛ばした。
それとほぼ同時に、無数の炎の鏃が飛来する。

私とリゼちゃんは即座に散開し、その攻撃をやり過ごす。

253 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:24:03 ID:dmyIwjtzxO

「リゼちゃん!」
「わかってる、 接近して一気に仕留める!」

そう、カイエンは後退、距離を取り、魔法攻撃によってこちらを仕留めようとしている。
その勢いは今まで以上、雨が降っているというのに、この周囲だけは濡れてすらいない、降り注ぐ度、瞬時に蒸発しているからだ。
周囲の崩れかけた遺跡はその攻撃によって更に破壊され、最早建造物としての面影すら奪われようとしている。

ーーしかし、裏を返せば、カイエンは接近戦を嫌がっている、とも言える。
隻腕となった今の彼女が、一対多の状況で私達とまともに切り結ぶのは明らかに不利だからだ。
故に、今の私達が勝利を得る方法は、クロスレンジからの斬殺の他にない。

ーー急げ、七賢者が二人いるとはいえ、相手は三人で傷すらつけられなかった鋼鉄巨人、以下程の抵抗ができるものか。
更に鋼鉄巨人が周辺の街に達してしまったならば、待っているのは即ち、阿鼻叫喚の地獄絵図に他ならない。
私が今までに目にしたそれより更に残酷な光景を、無辜の人々が見せつけられることになる。
そんなことを、させる訳にはいかない。

「退いたら負ける……! 攻めなきゃ!」

反転し、追いすがる無数の炎の鏃を、私は回避しながらも、一直線にカイエンの元へ駆けた。

地面をスライディングし、瓦礫の壁を走り、側転し、宙を駆ける。
リゼちゃんもその全てを避け、或いは防ぎながら、何の澱みもなく駆ける、その先にこそ、勝利があると知っているから。
後方からは無数の爆発が追いすがり、その体を喰らわんとする。
それは全てが、一発当たれば致命に至る必殺の刃。
だが、しかしーー当たらなければどうということはない。

254 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:25:05 ID:dmyIwjtzxO

「くっ……まさか、この短時間で、腕を上げたか!」
「カイエン! 今日ここで、貴方を討つ!」
「貴様の下賎な企みもここで終わりだ! 貴様に正義はない!」
「言ってくれるな、天々座理世!」

私とリゼちゃんの同時攻撃を、カイエンは後退しながらやり過ごす。

「正義とは、独善的なものだ! 私にもある、貴様らには理解できんだろうがな!」
「そのためならば虐殺すら、正当化するのか! ならば貴様のやっていることは、単なるテロルに過ぎない!」
「知っているさ! だが今さらそんな月並みな説教をしたとて、止まるものかよ!」

凄まじい気合と共に、炎と爆発が狂ったように放たれ、周囲の全てを吹き飛ばす。
私とリゼちゃんはたまらず後退して、その余波をやり過ごす。
焦熱を凌ぎながら、最早、炎そのものと化したカイエンに向かい、私は叫んだ。

「あなたは何が目的なの!」
「碑しい弱者の全てには、正道な力を持って裁定を降す! その上で、私の失った全てを作り直す……!」
「失われたものは、戻ってくることはない! 時間でも巻き戻さない限りは! 」」
「だろうな! だが、そうとでも言えば、貴様らはやる気を出すだろう!?」
「っ! ふざけたことを!」
「始めから言っている! 私を打ち倒して体に聞けとな!」

カイエンの放つ炎はその勢いを更に増し、最早それは彼女自身を焼くほどになっていた。
力を、制御できていないーーいや、するつもりもないのか。

255 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:26:19 ID:dmyIwjtzxO

だがしかしーー総身を炎に焼かれながら、カイエンはその唇を半月状に歪めていた。

「死ぬ気か! カイエンっ!」
「くっ、ははは、あははははははっ!!」
「っ!? 狂ったか!?」
「ははっ、はーっ……狂っているのは貴様らも同じだろう? この場において、そうでない人間などいないさ」
「貴様と一緒にするな!」
「大義だか正義だか何だか知らんが……戦いの場においては、そんなものはただただ、無粋! 腕を切り落とされ、総身を刻まれ、命に刃が迫っている! その事実が、私を最高に昂らせる!」

カイエンの表情は、晴れやかだった。
子供のような無邪気な表情。
本当に、この女は実力者と戦うためだけにこの騒動を起こしたのではないかーーそう思うほどに。

「来い! クリエメイトの戦士たち! 私を殺せ! 私の喉元に剣を叩きつけ、その手に勝利を掴んで見せろっ!」

狂った叫びとともに、カイエンの周囲に炎が舞い、無数の燐光が散る。
皮膚は裂け紅蓮の華が咲き、身に纏う炎は自らを焼き続ける、まるで、最後の輝きであるかのように。
その炎を内に押さえつけるように、彼女は剣を鞘に納める。

「ココア! 大技が来る、私の後ろに来い!」

盾を構えたリゼちゃんの周囲をクリエの光が覆う。

しかし、私はそれを尻目に、前へ出た。
リゼちゃんの表情に、驚愕が浮かぶ。

256 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:27:42 ID:dmyIwjtzxO

「尻込みしている時間は無いぞ! 貴様らがそうしている間に、鋼鉄巨人とゴーレムの残党どもは虐殺をする!」

スキル『ハイインパルス・サーモバリック』ーー

次の瞬間には、カイエンは動いていた。
右腕一本で素早く抜刀、一閃。
視界を光が包み、無数の燐光が一斉に起爆、猛烈な爆風と焦熱が周囲を包む。

ーーそして、それに乗って、私は上空へ跳んでいた。

この技は超広範囲に爆発を発生させる、不可避の技だ、本来であれば、リゼちゃんのように防御に徹するしかない。
事実以前は回避出来ず、カイエンに対して致命的な隙を晒した、しかし。

この燐光は空気より重い、つまり、上にはほぼ拡散しない、以前は閉鎖空間であったため回避不能だったが、今回は違う。
上空こそが、この技の死角ーー

私は爆風に乗って、一気にカイエンへと接近した。

「はああぁぁぁっ!!」

大上段より重力を乗せた一撃。
強烈な破壊力によって、甲高い剣激とともに、カイエンの立つ地面に亀裂が入る。

「たった一回で、私の攻撃を避けるとは……! これがクリエメイトの力……!」
「違う、これは想いの力、私が溢して来た、命を乗せた力!」
「訂正しよう、君たちクリエメイトは、弱者ではない! ここまで私を楽しませてくれるっ!」

カイエンの剣が激しく炎を纏い、強まった力が、私の剣を押し返す。

257 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:30:43 ID:dmyIwjtzxO

「っ!」

大きく仰け反り、再度カイエンの剣を見て、私は目を見張った。
構えられた剣にまとわりつく炎は、その火力を更に増し、青い光を放ちながら収束、安定し、一直線に伸びる炎の大剣となった。
100m近い長さを持つそれは、触れる瓦礫を一瞬で焼き溶かし硝子化させるほどの熱量。
触れれば瞬時に蒸発させられることは、間違いなかった。

「かつての戦場にも、君たちのような人がいた……その全てに打ち勝ち、殺してきたのだ……ただ、二人を除いて」

スキル『デイジーカッター・ブリーブレイド』ーー

炎剣が横薙ぎに振りかぶられ、周囲の全てを焼いていく。

そこから更に上段からの二連、左右から挟み込むような斬激。
普通に剣を振るうように、凄まじいリーチを誇る炎剣による連激が放たれる。

「ぐっ!?」

避けきれずに、左肩が焼かれる。
舞い散る火の粉が、全身に細かな火傷を作り出す。
速すぎる、異次元の速さだ。

私は一気に防戦一方となり、目前を擦過していく死をひたすらにかわしつづけた。

横薙ぎを飛び越え、降り注ぐ炎の安地を即座に読んで、踊るようにそれを避ける。

「ごほっ……!」

空気が、熱い。
肺が焼ける。
呼吸が出来ない。

足が縺れる、炎が迫るーー!

258 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:32:11 ID:dmyIwjtzxO

「ココア! 無理をするな! 」

その直前で、リゼちゃんが割って入り、盾で炎を遮る。
防いだにも関わらず、凄まじい焦熱が肺を焼く。

「リゼちゃん……!」
「まだ動けるな!? 分散して叩くぞ!」
「了解……っ!」

一呼吸ほどの間を置いて、更に迫った上段からの炎によって、私達は再び分散した。

凄まじい熱量は、ただそこにいるだけでも、ダメージを蓄積させていく。
さらにこの猛攻、並のクリエメイトであれば数秒と持たず灰塵と帰すだろう。

長く戦っていてはじり貧になることは必死、どうにか攻撃の糸口を見つけなければ……。

「突破口を開く……!」

ーー炎が迫る、上空を炎が覆う。

リゼちゃんはそれに対し、クリエの光を湛えた槍を構えた。
冷気によって、この獄炎の中においても、その周囲だけは真っ白に霜が降りていく。

スキル『メモリア・ドライブ』ーー

氷の力を纏った槍を素早く一閃。
相反するエネルギー同士は、一瞬の拮抗の後、衝撃波となって周囲を打ちのめす。

259 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:33:35 ID:dmyIwjtzxO

「はああぁぁぁっ!」

ーーそして、炎のかき消えた一瞬の隙に、リゼちゃんは爆風も構わず突っ込んでいた。

槍の間合いに入り込む。
両手で構えられた槍には、一目でそれとわかる膨大なクリエが込められている。

「これで、叩きのめしてやる!」

スキル「休日をだらだら過ごすなぁ!」ーー

叫びと共に爆発的にクリエが放出され、必死の刺突が放たれる。
その数、瞬きの間に20。
常人であれば、主要臓器の全てを一瞬で破壊され、更に四肢と首をおまけに吹き飛ばされるであろう、技巧の粋を尽くした技。

それを受けたカイエンは全身を刻まれ、花火のように血飛沫が上がる。

「グッ……!」

しかし、それを受けてもなお、カイエンは目前の、技を終えて一瞬の隙を作ったリゼちゃんへ剣を振り上げた。

全身に傷をつけたが、致命傷には至っていない。
リゼちゃんの無防備に晒された首筋に剣が振り下ろされる。

「リゼちゃん!」

私は叫んだ。
間合いが遠すぎる、助けられないーー!

ーーしかし、剣はうなじの目前で、金属音を立てて止まった。
カイエンの剣は、リゼちゃんの拳銃の銃身によって止められていた。
そしてその銃口は、カイエンの額を向いている。

直後、過たず激鉄は引かれ、魔法の弾丸はカイエンの額を撃ち抜く。

260 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:34:43 ID:dmyIwjtzxO

ーーことはなかった。

眼前に展開した青い炎が、水の弾丸の全てを受け止め、消し去っていた。

「なっ……!?」

用意した最後の不意打ちを防がれ、動揺を見せるリゼちゃん。
そこに、更に、青い炎剣が迫る。
その数を二本に増やして。

スキル『ここが私の見せ場だな!』ーー

左右から迫る必死の一撃を、咄嗟に展開した防御壁で受ける。
しかし、その威力を防ぎきることはできず、リゼちゃんは大きく吹き飛んだ。

「はぁ……はぁ……はぁ……良いぞ……!! これは、まるで……」

カイエンは息を切らしながら、呟いた。
身に纏う炎も霧散し、満身創痍の状態。
だがそれでもなお、剣を構え、無防備となったリゼちゃんに襲いかかる。

「っーー!」

戦慄した私を他所に、その突撃は、止まった。
止められた。

「げほっ……!」

カイエンの前に躍り出た、ポルカちゃんの肉体によって、それは止められた。

その腹部には、深々と剣が突き刺さっていた。

「動きが速かろうが強かろうが……目標がわかってれば、止めることはできる……!」
「くっ……!」
「逃がさねぇよ……!!」

261 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:35:24 ID:dmyIwjtzxO

ポルカちゃんは自ら剣を体に深く刺し込み、自らの腹筋と、更にカイエンの手を掴むことで、カイエンを一瞬、拘束して見せた。

ーーポルカちゃんは、そもそも重症をおして戦っていた。
死ぬ覚悟は決めていたのだろう、その上で、どう役に立って死ぬかを考えていた。
ーーその結論が、これだった。

「ーーココア!!」

その叫びが聞こえた時には、私はカイエンの後ろに回り込んでいた。

「はああぁぁぁっ!」

一閃。
カイエンの背中から血飛沫が上がる。
明らかな致命の一撃。

262 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:36:11 ID:dmyIwjtzxO

ーーだが、それでもなお、カイエンは倒れない。

「ぐっ……! ぬあああぁぁぁぁぁ!!!」

カイエンの剣より、再び青い炎の大剣が迸る。
続く薙ぎ払いは、ポルカちゃんの体を易々と消し飛ばした。

そして、そのまま剣は天に掲げられ、凄まじい熱量が、剣先に収束していく。

「何!?」

周囲の炎が収束していき、昼間のように明るかった周囲が暗くなっていき、気温が冬のそれを取り戻していく。
それにつれて、カイエンの剣先には炎ーー光が収束しする。

先ほどまでのそれとは、技の桁が違うことは、一瞬でわかった。

「まさか……ソルトちゃんの言っていた『とっておき』を使うつもり!?」

そうであるならば、遺跡を崩壊させるほどの破壊力のスキルとなる。
ソルトちゃんは転移魔法で難を逃れたが、私達には使用できない。
効果範囲外に逃れることも、同時に不可能だろう。

ーーつまり、止めるしかない。

263 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:38:14 ID:dmyIwjtzxO

「みんな、私に力を貸して……!!」

とっておき『お姉ちゃんに任せなさい!!』ーー

剣先に暴風がまとわりつく。
触れる礫を一瞬で刻み散らし砂塵化させ、それをその身に纏うことで幾億の刃と成し、災害級の破壊力を放つ、私の持てる最強の技。
それを私は、後方に『放った』。

炸裂の勢いを持って、一瞬で音の壁を突破し、私はカイエンに迫る。

とっておき『プリミティブ・ライト』ーー

それと、カイエンの剣先から、光の玉が放たれるのは、ほぼ同時だった。

光が迫る。
それに当たったのならば、私は多分死ぬだろう。

だがその直前に、カイエンの心の臓に、今度こそ、この剣を突き立てることができる。

私が死んでしまったのならば、また、リピートが発生するーー全ては、無かったことになる。
でもその事実すら、最早今の私にはどうでもよかった。

チノちゃんを、里のみんなを、私の大切な日常を、そして、私自信をーー何度も何度も何度も殺して殺して殺しまくった仇敵。

こいつを殺さなければ、きっとこのリピートが前に進むことはない。
そのためならば、命すらも、どうでもよかった。
例え、相討ちになったとしてもーー

264 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:40:11 ID:dmyIwjtzxO
「っ! やらせるかあぁぁぁぁっ!!」

とっておき『リゼの特性ラテアート』ーー

ーーその時、私の横を、巨大な水の砲弾が掠めた。
それは、カイエンの放った光の玉とぶつかり合い、壮絶な大爆発を引き起こした。

そして、私はその爆発の勢いに乗って、更に加速。
弾丸そのものの速度を持って特攻ーー

「うおおおぉぉぉぉぉーーっ!!」

ーーカイエンの心臓に、深々と、その剣を突き刺した。

その勢いのまま、カイエンと私はは壊れた遺跡の壁に叩きつけられ、私の剣は、カイエンの体をそこに縫い付ける。

「げほっ、げほっ……」

激しく咳き込みながらも、私は思った。

ーー勝った!

265 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:43:17 ID:dmyIwjtzxO

「あ……?」

ーー地面が急速に近づく。

ーー体が冷たくなっていく。

ーー目が、耳が、急速に遠くなっていく。

体が動かない。
視界はどんどんと暗転し、最早暗闇以外に見えるものはなくなった。

その中で、微かに、声が聞こえた。

「ーーるいは……君のような人がいたならば……」

喀血交じりの、小さな声。

「私をーー殺すな」

私は、急速に遠ざかっていく意識の中で、どうにかその声に耳を傾ける。

「……今、私を殺すことは『不可能』だ」

独り言のように、うわ言のように、カイエンは呟いた。

「……『呪い』によって、君も死ぬことになる……そして『刻巡り』が発動する」

何故、彼女がわざわざ、それを口にしたのかは、わからない。

「……鋼鉄巨人を……破壊しろ」

だが、それはきっと事実なのだということは、わかった。

「……その上で、鋼鉄巨人が持つクリエゲージを破壊し、帰れ……君たちの死ぬべき場所は、きっと、ここではないからーー」

意識が、暗闇と静寂に溶けていく。

266 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:43:48 ID:dmyIwjtzxO

「……そういう、ことか」

そして、また私は、目覚めた。

100週目の、朝。

267 名前:名無しさん@ただしアオイ てめーはダメだ[age] 投稿日:2020/03/22 03:39:33 ID:hz/.3v8Xln
オオオオオオオオオオオオオオオオすげえよすげえよ

268 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 12:12:03 ID:8xjm2.twan
>>267

ありがとうございます!

269 名前:阿東[age] 投稿日:2020/03/22 13:17:04 ID:bwUD/xnsch
ソルトが無事でよかったです・・・。

270 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 20:45:59 ID:8xjm2.twan
>>269
ありがとうございます!
前回の描写があれだったので、ソルトたち三人は壊滅させられたと感じられた方が多かったみたいですね、あんまり間違いじゃないんですが……

271 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/26 22:49:13 ID:tCcM7jbIAN
ついに100回目ですか、来るところまで来ましたね。
二人がかりでカイエンを乗り越えて得られたのは、『カイエンの死亡がココアのリピートのきっかけになる』という情報でしたか。つまり、今までのループの中でココアがいきなりリピートしたのは、リゼないし誰かがカイエンを倒していたってことなんでしょうか?

まだまだ謎が残っていて目が離せません!次回も楽しみにしています!

272 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/28 22:38:23 ID:aJyHbRoT1u
>>271
ありがとうございます!
仰るとおり、今までの強制リピートは全てカイエンが殺害されたことが原因です。
3日目の朝にカイエンは、洞窟内の魔方陣の破壊の為に来たコルク、ポルカ、ソルトと戦闘になります。

ここでココアが来なかった場合、3人は殺され、カイエンはゴーレムたちを率いて、里を襲撃、壊滅的なダメージを与え、多くの犠牲者を出します。
その後、ある人と戦闘になり、最終的にカイエンは討死、呪いによってココアが死亡、リピート発生、という流れですね。

矛盾点とかあるかもしれませんが、温かく見ていただけるとありがたいです……

また、次上げるのはもうちょっと先になります、すいません……

273 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:06:38 ID:4KggV5HtYa

意識を取り戻して目にしたのは、最早見慣れた、この世界で宛がわれた自室の景色。
白と桃色を基調とした、ファンタジックないつもの衣装。
そして、ベットに立て掛けられた剣。

「……また、ここからやり直しか」

戦場で生き残り、仇敵を討ち果たし、しかしまた私はここに戻ってきた。
だが前の週では、一気にかなりの情報が手に入った。
必要なのは、情報の整理だ。

ーーその最たるものはやはり、『呪い』についてか。

ーー随分前の週の記憶、実時間にして8か月ほど前。
感覚的には、10年も前の出来事のようにすら思えるある出来事を、私は思い出していた。

『ーー今のココア様には、何か、強力な呪いがかかっています、かつてソラ様がかけられたような、命を脅かす程の強力な呪いが』

ランプちゃんに言われた言葉。

『ココア様のかけられているそれは『死』の呪いです』

『わかったことは、何かがトリガーとなって、対象者に確定的な死をもたらす、そういう呪いだ、ということです』

今になって、そのトリガーがわかる。
それは、カイエンの『死』だ。

274 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:07:40 ID:4KggV5HtYa

カイエンが死ぬことがトリガーとなって、連鎖的に私が死に、そして私の死がトリガーとなって『刻巡り』が発動する。

そう考えれば、今までのいくつかの疑問にも説明がつく。

今まで、3日目の夜、日付が変わる時間になったとき、その時点で強制的に刻巡りが発動していた。
その影響で私から、チノちゃんと一緒に逃げる、という選択肢が奪われたのだ。

その理由は、その時間にカイエンが死んでいたから、とみて間違いないだろう。

誰が殺したのか?
ーー里にそんなことができる人間は、一人しかいない。

「……ライネさん、か」

ーーライネさんが、カイエンと交戦、殺害していたのだ。
私のいた場所とは別の場所で里の防衛を行っていたライネさんは、その場所の敵を殲滅し、私のいる場所へ向かった、それがおよそ、戦闘開始から50分程度の時間。
そこから戦闘が発生し、ライネさんはカイエンを打ち取り、『呪い』によってその瞬間に私も死亡、それによって『刻巡り』が発動した。

ーー改めてライネさんの恐ろしさを実感する、前の週で私達がギリギリのところで倒したカイエンを、彼女は一騎討ちで、邪魔がなければ確実に倒しているのだ。

275 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:08:28 ID:4KggV5HtYa

「なら、ライネさんを連れていけば……でも」

ライネさんを連れていけば、絶大な戦力になることは間違いないだろう。
その場合気がかりなのは、里だ。

前の週で私が洞窟で倒したゴーレムも、里を襲撃したゴーレムの数に比べればかなり少なかった、つまり、それ以外にもかなりの数がどこかしらに存在することになる、それを虱潰しに探し、始末して回る時間的余裕はない。

ーーつまり、3日後、ないし4日後に起こる里の襲撃は避けられないということ。
その際、ライネさんが相当数の敵を引き受けた上で、里のクリエメイトたちは壊滅し、あの凄惨極まる状況が引き起こされたのだ。
ライネさん抜きならどうなるのかは、想像するのもおぞましい。

しかし、リゼちゃんが言った通り『言の葉の木』の戦力もゴーレムの襲撃で動かすことは出来ない。

そして……カイエンは此方を襲ってくるが、鋼鉄巨人を破壊、そしてクリエゲージを破壊して私が帰るまで、カイエンを殺すことはできない。

276 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:09:23 ID:4KggV5HtYa

「呪いを解くことが出来れば、そうする必要はなくなるけど……」

ーーそのためには『言の葉の木』まで向かう必要がある。
以前やったように歩いて3日、鉱山の街にいるはずのソルトちゃんに頼んで転移させてもらえれば1日半、といったところか。
しかし、私の『呪い』がランプちゃんが言っていた『かつてソラ様がかけられたほどの強力な呪い』であるならば、『言の葉の木』でも解呪は不可能だろう。
聞いた話では、ランプちゃんときららちゃんの旅を記した日記が、一つの『聖典』となり、そこから生み出されたクリエによって、女神ソラの解呪は成功した。
つまりは『奇跡』だ、そんな眉唾なものは頼れない。

カイエンは言っていた、『クリエゲージを破壊して帰れ』と、その言葉を信じるなら、この呪いも異世界までは追ってこない、ということなのだろう。

つまり、『カイエンの足止めをしながら、鋼鉄巨人を破壊、及び内部のクリエゲージの破壊』
この勝利条件は決して揺らがない。

「……戦力が足りなすぎる」

前回の結果……肝心の鋼鉄巨人へは、一切の傷を与えられていない。
敵の防御が強固過ぎるのだ、更なる火力が必要なことは明白。
その上で、カイエンの相手をする者も必要だ。

どうすれば……。
里のクリエメイトを連れていく?
いや、戦闘慣れしてない子たちばかりだ、もしカイエンや鋼鉄巨人と相対したならば、抵抗すら出来ず消滅させられるだろう。

そして、きららちゃんと共に修羅場を潜り抜けた歴戦のクリエメイトたちは、現時点でカイエンに倒されてしまい、もういない。

「けど、他の人たちは……」

ーー死ぬ。
この世界の人たちは、死ぬ。

277 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:10:15 ID:4KggV5HtYa

それが怖かったから、誰かの死を許容できなかったから、誰にもこの事を話すことができなかった。

私は『何も変わらない明日が欲しい』。
誰かが死んだ時点だ、それはもう、叶わなくなってしまうから。

でも、私だけでは勿論、既に関わっている6人でも、状況の打開は難しい。

やはり、叶わない願いなのか。
思い出す。
以前、ライネさんと戦っている最中のこと。
『何も変わらない明日が欲しい』、そう言った直後に、私はこう言われた。

『あなた、戦うのをやめなさい』
『あなたに戦いは向かない』

と。
それを言うライネさんの表情は、悲しそうだった。
私より遥かに強いライネさんですら、それは難しいのだと、その願いはただ、心を磨り減らすだけだと、だからそんな愚かな願いは捨てろ、と。
絶対的な力で叩きのめしながら、彼女は言葉なく、そう私に伝えた。

「でも……それでも私は受け入れられない……何も、見捨てたくない」

もっと、私が強くなればーー
このリピートで変えられるのは、私の力だけだ。
戦力が足りないのならば、私が補うしかないのだ

278 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:10:32 ID:4KggV5HtYa

ーーそこまで考えたとき、部屋のドアがノックされた。

279 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:12:12 ID:4KggV5HtYa

朝、いつものようにココアさんを起こしに行き、部屋のドアを開けると、彼女は既に起きていた。

「え……?」

思わず、チノはそんな声を漏らした。
一瞬、そこにいたのが誰だかわからなかったからだ。

それはきっと、その瞳に、今まで一度も見たことがないような剣呑な光が宿っていたからだ。
無表情であることすら殆ど見たことのない彼女の初めて見る表情。
そこに浮かぶのは……焦燥? 悲嘆? 或いは……怒り?。

「あ……」

私が入ってくるのを見ると、彼女はそれらを隠すように、ぎこちなく笑った。
仮面を張り付けたような笑顔。
快活で朗らかな彼女は、どこにもいなかった。

「ココアさん……?」
「チノちゃん、おはよう」
「なにか、怖い夢でも見ましたか?」
「え……?」

言うと、彼女は一瞬表情を曇らせる。

「……ぱり……めなのかな……」

すぐさま、ぎこちない笑みが戻る。
でも瞳の奥には恐怖が張り付いて、泣きそうに見えた。
必死に口許を笑みの形に持っていこうとして、でも、目は全く笑っていなかった。

いつもだったら、すぐさまふやけた笑みを浮かべて飛び付いてくるのに、戸惑うように、諦めようとしているように、視線と手元だけが彷徨う。

280 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:13:00 ID:4KggV5HtYa

いつもだったら、すぐさまふやけた笑みを浮かべて飛び付いてくるのに、戸惑うように、諦めようとしているように、視線と手元だけが彷徨う。

「チノちゃん……?」

僅かな静寂に耐えかね、ココアさんが声をかけてくる。
何処か不安げな声。

ーーなぜそうしたのかは、わからなかった。
此方を見るなり、とても寂しそうな表情をしたからか。
次いで、親に悪戯がばれた子供のように怯えた表情をしたからか。
彷徨った手が恐らくは無意識的に、ベットに立て掛けられた剣を握りしめたからか。

ーーそんな、恐ろしく危なげな彼女に、わたしは飛び付いた。

「っえ……!?」

戸惑うような声。
いつもなら、こんなことがあれば目を輝かせてモフりにくるはずだ。
でも、彼女は私を抱き締めていいのかわからないように、腕を彷徨わせる。

「ココアさん、大丈夫ですよ」
「え……」
「なにがあったのかは知りませんけど……今は好きにして、大丈夫です」

彼女は戸惑うように目を白黒させて、ゆっくりと、私を抱き締め返した。
壊れやすいものを扱うように、とても弱い力で。
張り付けたような笑みは失われ、瞳に涙が貯まっていく。

281 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:14:01 ID:4KggV5HtYa

「ダメ……ダメだよ」
「ダメじゃないです、こんなココアさんを放っておくなんて、出来ません」
「でも……私は」
「お姉ちゃん、ですよね? 」
「うん……でも……チノちゃんを苦しめちゃう、そんなのは、お姉ちゃんじゃない、から」

譫言のような呟き、感情を整理できていないが故の、意味の繋がらない言葉。
だけど、ココアさんがとてつもなく苦しんでいることは、わかった。
それに、わたしが関係しているのだろう、ということも。

「話してください、とは言いません、でも、わたしはここにいますから、それは忘れないでください」
「……」

静寂。

10分か、20分か、或いは一時間かーーとても長い時間、それは続いた。

「……チノちゃんが、死ぬ夢を見たの」

282 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:15:22 ID:4KggV5HtYa

ふと、ぽつりと、彼女は呟いた。

「それだけじゃない、クリエメイトの皆、里の人たち、そして私も、皆死ぬ夢」
「……」
「それはなんども続くの、私が死ぬ度になんどもなんども繰り返して、なんどもなんどもなんども死ぬところを見せられる、みんなはそれを忘れてて、私だけが思い出す」
「……はい」
「私だけがそれを変えられるの、だからなんども繰り返した、なんども死んだの、なんども死ぬところを見たの、なんどもなんども繰り返して、私は私じゃなくなったの」

そこまで言って、彼女の瞳から涙が溢れた。
声に嗚咽が混じる。

「私は強くなって、少しだけなにかを変えられるようになった、でもその度に、私は私じゃなくなっていく、私の理想から、お姉ちゃんから、どんどん遠ざかっていくの、チノちゃんからもどんどん遠ざかっていって、もう、触れかたすらもわからない」

彼女の手に力が籠る。
でも、抱き締められることはなかった、本当に、どうして良いかわからないかのようだった。

「これは、いけないことなの、私が巻き込んだ人は、みんな死んでしまう、そんなのは嫌だから、なんどもやり直した、なにも変わらない明日が欲しくて、全てをなげうって強くなった」
「……」
「あと、もうちょっとなんだ、私がもうちょっと強くなれれば、全てを終わらせられる、なにも変わらない明日が手に入る、だから、もうちょっとだけ……」

ココアさんは笑った。
泣きながら笑った。
とてもぎこちなく、笑った。

283 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:16:06 ID:4KggV5HtYa

「……ココアさんのバカ」

この人は……バカだ。
誰かのために、私のために、ずっと戦っていたのだ。

原因はわかる、わたしも当事者だから。
『オーダー』による召還、だれかによって行われたそれの、目的を達成するための戦い、ココアさんは、それに巻き込まれたのだ、と推測できる。

そして、ココアさんの言う『何も変わらない明日』の為に、彼女はずっと戦いつづけてきたのだ。

でも。

「ココアさんがそんなに苦しんで、『何も変わらない明日』なんて、訪れるわけありません」
「え……?」
「ココアさんは、わたしにとってすごく大きな存在なんです、それがこんなに苦しんでいるのを、見過ごせる筈がないじゃないですか、そのまま過ごすなんて、できるわけないじゃないですか」
「あ……」

強く抱き締める、放っておけば、彼女はこのまま、何処かへ飛んでいってしまいそうだと感じたから。
自分の全てを犠牲にして、全てを終わらせてしまう、と感じたから。

「ココアさん……わたしはココアさんと違って、きっとすごく弱いです」
「うん、だから、チノちゃんは」
「でも、何もしないなんて出来ません」

決然としてわたしは言った。

「弱いだとかなんとか、そんなのは関係ありません、わたしは、ココアさんの力になりたい、こんな、危うげなココアさんを一人にしたくないんです」

わたしはココアさんから離れて、決然として言った。

「今日はお店、休みましょう」

284 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:16:41 ID:4KggV5HtYa

チノちゃんに連れられて、私はライネさんのお店に来ていた。

「あら? ごめんなさい、まだ準備中で……」

ドアベルの音に反応して、奥からライネさんが出てくる。
料理の仕込み中だったのか、手にはお玉。
奥からは、香しい匂いが漂ってくる。

「チノちゃん、ココアちゃん? こんな朝早くに、どうしたの?」
「ライネさん、お願いがあります」

開口一番、チノちゃん言った。
その表情からなにかを察したのか、ライネさんの表情も少し固くなる。

「適当に座って待っててくれる? 火を扱ってるから」

285 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:17:26 ID:4KggV5HtYa

「それで、お願いって? 」
「それは……その」

チノちゃんは何かを喋ろうとして、私の方を向いた。

あぁ、そうか。
チノちゃんは強引に私を連れて飛び出してきたが、何が起こるのかに関しては、全く知らないままだったのだ。

「……ココアさんを、助けて欲しいんです」
「……助ける? 何か、危険なことに?」
「ココアさん、いいですか」

チノちゃんが聞いてくる。

話してくれますか、と言うことだろう。

「……やっぱり、ダメだよ」
「ココアさん……!」
「私一人で終わらせる、だからライネさん、私に稽古をつけてもらえますか」

286 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:19:06 ID:4KggV5HtYa

私は言った。
何の犠牲も出したくない、そうするには、私がなんとかするしかない。
本当であれば、リゼちゃんたちにも関わって欲しくないのだ、だが、彼女たちは既に関わってしまっている、今さら退くことなどないだろう。

ライネさんの死ぬところを思い出す。
腹を剣で串刺しにされ、倒れたところを無数のゴーレムに袋叩きにされる。
あまりにも残酷な死に方、原型すらも残ってはいなかっただろう、人の死に方ではなかった。

「うっ……」

思わずこみ上げた吐き気をどうにか抑える。

「……ココアちゃん、それは、あなた一人でどうにか出来るものなの?」
「どうにかします、誰にも迷惑はかけません、そのために、もっと私を強くしてください」
「それは、できないって言ってるようなものじゃないかしら……」

ライネさんは、苦笑いをしながらその言葉を聞いた。

「ココアさんは意固地になっているだけです、なんで、ココアさんだけが苦しめられなきゃいけないんですか」
「これは、私にしかできないことだから」
「そんな悲しい顔で言わないでください……『オーダー』による召還が関係しているのなら、わたしだって無関係じゃありません、そんな顔したココアさん、わたしは見たくない……」

287 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:19:53 ID:4KggV5HtYa

その言葉に、ライネさんは反応した。

「『オーダー』が関係している……?」
「はい、わたしも詳しいところは聞いてませんが……」
「それなら、私も無関係とは言えないわ、『オーダー』はこの世界、そして聖典世界にも影響を及ぼす大禁呪、原因が不明で、実害がなかったからそのままにしてたけれど……水面下で何かあったってことね、ココアちゃん、教えてもらえる?」
「……それは」

口ごもる。
ライネさんを殺害した後、カイエンは私からリピートの力を奪い『セーブ』をしようとした。
きららちゃんを捕縛した後『セーブ』をしたように。

カイエンにとっても、鋼鉄巨人にとっても、勇者たるライネさんは危険極まりない存在なのだろう。
だから、殺害できた世界を、現実にしようとした。

あのまま私がリピートの力を奪われ殺されていれば、周辺に抵抗できる戦力はリゼちゃんたちのみとなる。
確実に勝てない、そしてリピートが完成し、鋼鉄巨人が単機でリピートをできるようになれば、世界は緩やかに、しかし間違いなく滅亡する。

288 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:22:48 ID:4KggV5HtYa

「……ココアさん言ってましたよね、わたしと、里の人たちと、そしてココアさん自信も……皆死ぬって」
「……」
「それを、自分一人で終わらせるなんて、誰にも話さないなんて……ココアさんが失敗したら、それが現実になるんですよね?」
「ならないよ、私が死ねば全てはなかったことになるから、もう百回やってる、何も辛いことなんてない」
「嘘です! なんでそんな嘘つくんですか!?」

チノちゃんは叫んだ。

「ココアさんはそんな顔しません! いつも笑ってて、みんな明るくさせてくれる、そんなココアさんが、怖い顔をしてるのが、嫌なんです……っ!」
「チノちゃんは、今の私は嫌い? 」
「そんなことありません! だからこそ、そんな顔をして欲しくないんです、このままだとココアさん、戻れなくなってしまいそうで、怖い……」

チノちゃんは、涙ぐんだ目でそう言った。
貯まった涙は直ぐに落ちて彼女の頬を濡らす、それは、後から後から流れ出してきた。

「あ……」

またチノちゃんを泣かせてしまった。

前もそうだ、彼女を泣かせてしまった。
私が笑えないでいたから。
私がチノちゃんを、頼ることができなかったから。
私がチノちゃんを、突き放してしまったから。

彼女は、私のために、泣いたのだ。
私がこうであることに悲しんで、泣いた。

「ーーあぁ、そっか……」

ーーやっと気づいた。
こんな簡単なことに、今までなんで気づかなかったのだろう。

289 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:24:14 ID:4KggV5HtYa

私は目の前で泣くチノちゃんを、ぎゅうっと抱き締めた。
私を想って泣いてくれる優しい妹を、強く強く、抱き締めた。

「ごめん……! ごめんね、チノちゃん、私、私……何もわかってなかったっ……!」
「ココアさん……」
「私はずっと『何も変わらない明日が欲しい』って思ってた、そのためにずっと戦い続けてた、私さえ強くなれば全てを変えられるって思ってた……その思い込みが、チノちゃんの想いを踏みにじってた!」
「ココアさん、いいんです、ココアさんはずっと苦しんでた、みんなの為に、そうしてくれてたんですよね?」
「独りよがりだった、偽善だった、何も見えてなかった。
ーー『何も変わらない明日』には、私も含まれるんだってことにも、気づいてなかった……!」

私は泣いた、声をあげて泣いた、チノちゃんも泣いた。
私はただ、ごめんね、ごめんね、と繰り返した。
チノちゃんは優しく、私を抱き締めてくれた。

290 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:25:15 ID:4KggV5HtYa

「……なるほど、話はわかったわ」

あのあと、私はライネさんへ全てを話した。
鋼鉄巨人の存在、避けられない里への襲撃、ライネさんと、私を殺そうとするカイエンという謎の人物。
私が死ねば3日前に戻ること、カイエンを殺せば私も死ぬこと、鋼鉄巨人の内部にクリエゲージがあり、それの破壊以外でこのリピートから抜け出す方法は無いこと。

「なら、カイエンの相手は私がしましょう」

ライネさんはあっさりと言った。

「……かなり危険な相手です、その上、クリエゲージを破壊するまでは、カイエンを殺すことは出来ません」
「話の通りなら、そうなるわね」
「下手をすれば数時間に及ぶ戦いになります、その間、一方的に攻撃を受け続けなければなりません、いくらライネさんでも……とても、厳しい戦いになります」
「そうね……でも、どうやら私が遠因のようでもあるから」
「遠因?」
「ちょっと、昔ね……」

ライネさんは、遠い目をした。

ーー『勇者』ライネ。

『勇者のグルメ』と言う冒険譚は、この世界で私も見た。
彼女が冒険の中で出会った、数多のグルメを書き記したものだ。
そこには彼女の輝かしい功績が、無数の料理の挿し絵とともに記載されていた。

ーーだが、当然それだけではないのだろう。
光差すところに影はついて回る、剥がれることはあり得ない。
彼女にも、そんな影の部分があるのかもしれない。

「話は終わりね、行きましょうか」

それが口をついて出そうになったとき、彼女は唐突に話を打ち切った。

「何処へ?」
「貴方の実力と、真意を図る」

彼女は立ち上がり、こちらを一瞥する。
そこには、いつものほんわかした雰囲気は微塵もなく、強い殺気が総身を撫でる。

「それに、強くなりたいんでしょう? 本気で相手をしてあげる」

291 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:27:26 ID:4KggV5HtYa

何度も何度も、何度でも繰り返し受けた剣激。
記憶の中では、常にいたぶるように飛来したそれらは今、そういった『加減』を失っていた。

短絡にして愚直、かつ苛烈に襲い来るそれらを、私は真っ向から受け止め、あまつさえ弾き返し、逆襲すらしてみせる。

練習用の木剣でなく、お互いに真剣ーー更に私の手にあるのは、エトワリウム製の専用武器。

それらが醸す戦いの有り様は、最早試合としての意義を見失い、死力を尽くした『殺し合い』と化していた。

「強い……! これほどになるまで、どれ程の修羅場を潜ったと言うの」
「100回死ねば、こうもなります! それでも届かないあなたが私は恐ろしい!」

スキル『メモリア・ストライク』ーー

飛び上がり回転しながら放たれた風の刃が、ライネさんのいた地面を両断し、巨大な一文字を書き殴る。

エトワリウム製ぶきによる、絶大なクリエ行使によるスキルの威力は常軌を逸しており、この広い修練場を持ってすら、危険を伴うほどのもの。
だがしかし、眼前の敵はそんなものどこ吹く風。
笑みを消した、だがしかし汗の一滴も滴らせぬ顔のままそれを掻い潜り、人外の速度と膂力でもって凶刃が襲い来る。

同様に人外の速度と膂力でもって剣を受ける。
それによってもたらされる火花は無数の花火の如く舞い散り、力の余波によって、周囲に設置されたあらゆるものは吹き飛び散らされ、ゴミを掃くように端っこへ吹き飛んでいった。

292 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:30:08 ID:4KggV5HtYa

「でも、まだあなたはその剣を使いこなせていないようね」

音の壁を切り裂いて刃が迫る。
それはギリギリで仰け反った私の首の皮一枚を裂いていった。

「『エトワリウム』で作られた武器は、ただの軽くてよく切れる剣じゃない、持ち主を読み取り、その持ち主の願い、想いを、程度はあれどーー事象化にする」

仰け反った勢いのままバク転して後退、同時に牽制のスキルを放つ。

スキル『お姉ちゃんは許しませんよー!』ーー
スキル『エキスパート養成講座』ーー

同時に放たれたスキルの刃がぶつかり合い、爆塵が周囲を打ちのめす。
その勢いに乗り、後退して離脱、前方を見据える。

「っ!」

その先にライネさんはいない、見失ったーー
そしてそれは、コンマ一秒にも満たない、小さな隙を作った。

293 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:31:59 ID:4KggV5HtYa

ーーそれで十分。

後方より迫る刃に気づいたのは、ライネさんの間合いの内側に入ったあとだった。

防御も回避も間に合わない。
思考だけが無限に加速して、死神の鎌が刻一刻と迫るのをなにもできないまま感じさせられる。

頭が、痛いーー

動かない、もどかしい。
もっと早く動ければ、この窮地を脱出できるのに。
そう、ランプちゃんが死んだときも、チノちゃんが死んだときも、ライネさんが死んだときも、あのときも、あのときもーー

手が、それさえ届けば間に合えば、もっと早く動ければ助けられたのに、救えたのに。

人は神にはなれない、全能にもなれない。
手の届かない場所にあるものは全て、自分すらも、運命の赴くまま。
だが、手さえ届けば、救える、助けられる。
そのためにーー!

動け、もっと早く、疾風より、稲妻より早くーー!
手が届かないならば、走り寄れーー!
世界も、時間すらも歪めてでも、全てに手を届かせる為にーー!

「あ……っ」

世界が、歪む。

294 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:33:16 ID:4KggV5HtYa

無数の鎖から解放されたように、体は勝手に動く。

ライネさんの剣が振り切られるときには、私は十数メートル離れて、ライネさんに向かい剣を構えていた。

ライネさんの顔には、笑みがあった。

「……それが貴方の願い、貴方の力ね」
「これが、私の力ーー!?」

絶対的に死ぬ状況から、物理法則も条理も何もかも無視して、ライネさんの攻撃を回避した、この力。

純粋な身体能力の強化ではない、それではこうはならない、もっと別のーーそう。
『時間を加速させたような』

体感時間を加速し、動体視力と反射能力を増強。
さらに身体時間を加速し、常軌を逸した速度で行動する。

これが、エトワリウム製ぶきの、真の力ーー!?

「まだよ、来なさいココアちゃん」

ライネさんは無造作に剣を一振り。
その剣には、無数の燐光が収束、解放されたエネルギーが目映い光とともに衝撃波となって、周囲の砂塵を吹き飛ばす。

295 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:35:05 ID:4KggV5HtYa

「そこまで至ったあなたにならできるはず、届かせてみなさい」

ゆっくりと掲げられた剣には、燐光が収束、太陽もかくやとばかりの極光が形作られる。

以前も一度見た、恐らくはライネさんの使用するなかでも最強の技。
受ければ死ぬどころではない、塵も残さず消え去ることになるだろう。

「更に、もう一段上の力ーークリエメイトの戦術における最終最大の奥義」
「そんな、ものが……?」
「文献にも僅かの情報しか残されていなかったわ、そもそもクリエメイト自体が伝説の存在ですもの、でもーー」


やらなければ、死ぬだけよーー


凍りつくような殺意を帯びた瞳を向けて、彼女は酷薄に言った。
嘘偽りはないだろう、彼女は私を殺すつもりだ。

そもそも、私が強くなった理由は、何度も何度も死に、その度に立ち上がったから。
故に私を強くする方法は、絶対的絶望によって死を予期させ、それを打ち破らせる以外にない。

私は、光に対して剣を構えた。

296 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:37:12 ID:4KggV5HtYa

彼女は言った『エトワリウム製のぶきは、持ち主の願いや想いを事象化する』と。
ならば、私の想いはひとつ。

「想像するのは、全てを守り抜き、打ち砕くーー最強のお姉ちゃん」

すべての力と想いを込めて、私は剣を構えた。

ーーきっとこれは、本来の私が使う技ではないのだろう。

もっと派手で、もっと可憐で、もっと強力な技であったかもしれない。
ーーでも、今この場において、その全ては不要だ。

必要なのは、ひとつ。
敵にこの剣を届かせること、ただそれだけ。

そのためにはーー最高威力、最高精度の剣を、敵の反撃を許さないほどの速度の連激でもって振るうこと。

やれるかーー?
いや、やるしかないーー!

細く息を吐いて、私は言った。

「ーー行きます」

スキル『クロックワーク・ラビット』ーー!

剣が輝きを放ち、光に向かって、私は立ち向かった。

297 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 18:39:16 ID:4KggV5HtYa
今回はここまでです。

滅茶苦茶遅くなってしまってすいません……

298 名前:阿東[age] 投稿日:2020/04/19 19:39:27 ID:zuFXOJU3cy
クロックワーク・ラビット。

正統派なかっこいい技名・・・。

299 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 20:11:09 ID:.lvuBqM5M/
最近の情報を組み込みやがったすげぇ

300 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/19 22:43:39 ID:4KggV5HtYa
>>298
ありがとうございます。
ココアちゃんの専用ぶき最終進化スキルの元は、エイプリルフール企画の『clockwork rabbit』です。
題材と合わせて時間操作を利用した技なので、この名前にしました。

>>299
現在進行系で書き続けてる弊害……恩恵? ですね。
一応イベクエはほぼ全て全ミッションクリアしてますので。
その代わり執筆速度が遅いです……
この一万字を書くために1ヶ月近くかかってしまいました……

301 名前:ルナ・ソレイユ◆yodjdoerBO2[age] 投稿日:2020/04/20 08:17:49 ID:QpwqJFGccW
本来使うはずではなかったスキル…
このスキルがどのように活用されるのか、期待です!

302 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/20 12:24:03 ID:m/Vb/1n12v
今回も、最高でした。行き止まりと回り道を繰り返してココアが辿り着いた、最もココアらしくない、それでいて最もココアらしい一つの到達点。手に汗握りましたし、熱い気持ちが高まりました!

そして、作者様の描くココア像が私は凄く好きなんだと改めて自覚しました。原作のココアを昇華させた、彼女の目指す『お姉ちゃん』の一つの到達点。エトワリアでしか見られないココアの姿を見せていただいた事、感謝の念に堪えません。

いよいよクライマックスが近付いてきましたが、最後まで楽しみにさせていただきます!

303 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/04/21 00:35:44 ID:jSQIf9xXvs
>>301
ありがとうございます!
遅筆ですが、どうにか完結させてみますので、今後もよろしくおねがいします。

>>302
おぉ……熱烈なメッセージをありがとうございます!
ココアさんは『お姉ちゃんでありたい』という強い使命感を持っています。
それが今回のリピートを乗り切る最大の原動力になっていました。
これを書き始めたのも、不思議とココアさんなら耐えられる、チノちゃんの笑顔の為に全てを捨てて戦い続けられる、と思ったからなんですよね。

もうちょっとで終わる予定ですので、最後までよろしくおねがいします。

304 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:05:28 ID:CjmcJBckZ2

きん、と。

乾いた音が響き、両断された剣の半身が地面に突き刺さる。

「……私の負けね」

ライネさんの手には、根本から折り取られた剣。
そして私の剣は、ライネさんの首筋に触れていた。
僅かに切れた傷からの血が、剣を伝い地面にぽたぽたと落ちる。

「ーーはぁ、はぁ、はぁ」

ーー実力による勝利ではない、武器の差だ。
私の放った最後の一撃が防がれていれば、その反撃で私は敗北していただろう。
エトワリウム製のぶきと、百周に及ぶリピート、それで漸く、この人に届いたのだ。

「あ……」
「っ!ココアちゃん」

体から力が抜け、地面に倒れこみそうになるのをライネさんに抱き止められる。

心臓が破裂しそうなほどに脈打つ。
全身の血管が、筋肉がぶちぶちと千切れていく。
耳鳴りと頭痛、視界がぐるぐると回る。

「はぁ、はぁ、はぁ……ごふっ!」

たまらず咳き込む。
抑えた手のひらには、大量の血。

それは、届き得ぬものに手を伸ばすことへの代償だ。
私に戦いの才能はない、それを補うためには、気の遠くなるほどにただただ時間をかけるか、或いは対価を支払うか、もしくはその両方が必要だ。
この力は、使う度使う度、私の体を激しく傷つける。

305 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:06:29 ID:CjmcJBckZ2

「ココアさん!」

闘いを観戦していたチノちゃんが駆け寄ってくる。

「チノちゃん……」
「大丈夫ですか?」
「ありがとう、でも大丈夫、動けないほどでもないから 」

チノちゃんに心配をかけまいと、少し無理をして一人で立つ。
耐えるしかない、戦闘中に行動不能になるわけにはいかないのだから。

「ライネさん……ありがとうございました」

私は、ライネさんに向かって深く頭を下げた。
ここまでこれたのは、ひとえに彼女のお陰だ。

「そんな畏まらなくていいわよ、ただ私は、あなたと一回、戦っただけなんだから、その力を編み出せたのは、貴方の努力の成果よ……しかし、まさかその力をこの目で見る日が来るとはね」

ライネさんはふんふんと頷いて言った。

「ココアさん、血が……」
「大丈夫、大丈夫だよ、この程度で休んでいられない」
「……わかりました、でも、せめて治癒は受けてください、そうりょの人を呼んできますので」
「チノちゃん……」

チノちゃんは私に肩を貸して、修練場の端まで連れていく。
手近なところに横たえられた私は、そのままその場を後にしようとするチノちゃんに向かって、声をかけた。

306 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:07:40 ID:CjmcJBckZ2

「ありがとう、私、チノちゃんのお姉ちゃんで本当によかった」
「……」
「多分そうじゃなかったら、何処かで諦めてた、チノちゃんがいてくれて、本当に良かった」

チノちゃんは立ち止まり、しかし振り向かず、言葉を聞いてくれた。

「……まったく、しょうがないお姉ちゃんです」

小さく呟いて、チノちゃんは走り去っていった
次いで、ライネさんがこちらに駆け寄ってくる。

「さて、これからが大変よ、色々準備と、それぞれの今後の立ち回りもきめなきゃいけないわ」
「わかりました」
「まったく、ココアちゃんが勝ったはずなのに、これじゃどっちが勝者かわからないわね……ココアちゃんが回復しだい、準備にとりかかるわよ」

307 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:08:46 ID:CjmcJBckZ2

3日目の朝。

「ーーチノちゃん、ここから先は一方通行、もうここに戻ることはない、覚悟はいい?」
「はい、大丈夫です」

私とチノちゃん、ライネさんは、私が以前見つけた里から程近いところにある洞窟に来ていた。

ーー昨日までは、ライネさんが主になって里の警戒、防衛の準備を行った。
ライネさんに頼るだけでここまで上手くいくとは、私は思っていなかった。
それだけ今までの自分に余裕が無かったのだと、自覚させられた、結局、どれ程の力を得たとしても、自分一人にできることには限界がある、ということも。

ーー目の前の洞窟の中はゴーレムだらけの修羅場だ、この洞窟を分岐点に、私たちはそれぞれの役目の為に別れて行動する。

私はリゼちゃんたちと合流し、鋼鉄巨人の破壊。
チノちゃんはソルトちゃんの転移魔法で言の葉の木に向かい、言の葉の木が襲撃されることを伝え、そして里への救援要請をする。
ライネさんはこの場所で、カイエンの足止め。

「じゃあ、行くよ」
「わかりました」
「いつでも大丈夫よ」

松明に魔法で火をつけて、私たち三人は、深い闇の中へと入っていった。

308 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:10:19 ID:CjmcJBckZ2

ーーそして洞窟へ足を踏み入れて、外の光が幾分遠くなった時。
私は剣を抜き放った。

スキル『お姉ちゃんは許しませんよー!』ーー

後方、洞窟の上部にクリエの刃を放つ。
それは硬い岩盤を易々と貫き砕く、そして、それは激しい落盤を誘発させた。
無数の岩が私たちの元来た道を一瞬で塞ぎ、外からの光を遮り尽くす、辺りには、私の持つ松明の光を除く灯りは無くなった。

ーーこれで、里へのゴーレムの襲撃は、半日遅れ、4日目の昼になる。
そして、『言の葉の木』が襲撃されるのは3日目の夜。
七賢者が常駐しているあの場所なら、鎮圧にそう時間はかからないはず、里への救援が間に合うかもしれない。
『神殿』であれば絶対安全なのもあるが、チノちゃんをそちらに向かわせるのはその為だ。

不確定要素がまだ多いが仕方ない。
これが現時点での最善だと信じるだけだ。

ーーじゃり、と。

洞窟の奥より、足音。

「っ、何か、来る……!?」
「ココアちゃん」
「数は3体、私は右から」
「わかったわ」

チノちゃんの怯えるような声を尻目に、私とライネさんは目配せをして、足音の主ーーゴーレムへと突進した。

接近に気づいたゴーレムが腕を振り上げた時には、私は既にその脇を通り抜け、すれ違いざまに首を落とす。

次の敵を見定めるーーそこには、細切れになって煙と化す2体のゴーレムの残骸だけが残されていた。
ライネさんはそれに一瞥すらくれず、洞窟の奥を見る。
奥からは、無数の足音が地響きのように響き洞窟内を揺らしていた。

309 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:11:47 ID:CjmcJBckZ2

「多いわね、こいつらを倒さないと先には進めない、か」
「私の『とっておき』で突破口を開きます、この閉所ならまとめて片付けられる」

そう言って前に出ようとした私を、ライネさんは片手で制した。

「いえ、ここは私に任せて」
「でも……」
「ココアちゃんに負けちゃって、いいとこないもの、これでも『勇者』なのに格好つかないじゃない?」

彼女はお茶目に笑って、前にーー無数のゴーレムの群れに突っ込む。

ーーその姿は、敵にとっては鬼神にでも見えたことだろう。

初激でまず、3体のゴーレムがまとめて吹き飛ぶ。
衝撃でバラバラにされたゴーレムの残骸は質量弾となって後方のゴーレムに襲いかかり、痛みを知らない兵団の進軍を、一瞬止めた。

そこに襲いかかるライネさんは、まさしく草食動物の群れに飛び込む狼であった。
その剣はあまりの膂力によって、もはや『斬る』というよりは『吹き飛ばす』という表現が近い。
ゴーレムたちは、反撃は愚か、防御は通じず、後に詰まった他のゴーレムによって回避も出来ず破壊されていく。

一薙ぎ、ゴーレムがまとめて両断される。
一薙ぎ、旋風と衝撃波によってまとめてゴーレムが消し飛ばされる。

前方から襲い来る無数のゴーレムが、ただ1人の人間によって『押し返されていた』

「すごい……」

チノちゃんは呆然とし、それに見とれて思わず呟いた。
それほど、その戦いは一方的で、かつ英雄的だった。

私が『とっておき』を使ってようやくまとめて蹴散らした敵を、正面から撃ち伏せ屈服させるその姿。

百を越す数のゴーレムを前に一歩も引かず、寧ろ押し返して尽滅せしめるその姿は、まさしく『勇者』そのもの。

私の出る幕など、あるはずもなかった。

310 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:12:49 ID:CjmcJBckZ2

洞窟内を捜索して一時間。

前と同じく、ここまでは数体の敵との小競りあいしかなかった。

「はぁ、はぁ……」

チノちゃんは息を切らしながらも、よくついて来ていた。
半日近く、見知らぬ悪路を歩き続ける、ペースもかなり早い。
チノちゃんは木組みの街から出たことすらほとんど無いのだ、これだけでも、結構な負担になっているのはまちがいなかった。

「少し、休憩しよっか」
「はい……」

チノちゃんは憔悴した様子で、その場に座り込んだ。

「チノちゃん、多分この後は洞窟の外まで全力疾走することになる」
「それって、つまり……」
「戦闘に、なる」

チノちゃんの表情が緊張に固まる。

「大丈夫よ、チノちゃん、敵は私が抑える手筈になっている、それにこの先にはコルクちゃんとポルカちゃん、それに七賢者のソルトちゃんもいるんでしょう? 逃げるだけなら大したことはないわ」
「あ……」

ライネさんの声を聞いて、チノちゃんは何かを恥じるように俯いた。

……そう、ライネさんはこれから、文字通りの修羅場を強いられる。
カイエンの足止め、それも私たちが鋼鉄巨人を破壊するまでの恐らく数時間から下手をすれば十数時間。

それがどれ程厳しい闘いであるのかは、チノちゃんにもわかるのだろう。

311 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:14:46 ID:CjmcJBckZ2

「……こんなことに巻き込んで、ごめんなさいね」
「ライネさん?」
「昨日も話したけれど……延因は私にあるのかもしれない、何も話さないのは不義理だから、今のうちにね……少し昔話を聞いてくれるかしら」

そう言って、厳かにライネさんは話を始めた。

ーーとある国があった。

砂漠の、環境の厳しい地にあり、隆盛を極めたとある国が。
過酷な環境にありながらその国が発展をできたのは、潤沢な地下水脈の存在と、豊富な鉱物資源の恩恵によるところが大きい。

主に手工業で生計を立てていたその国は小国でありながら、やがて大国を上回る強大な軍事技術を発展させ、徐々に周辺の国家を取り込み、巨大化していった。

ーー『とある国』の広大な地下水脈が、呪いによって汚染されるまでは。

前触れ無く起きたその大災害は、国土を荒廃させ、実に人民の5%を死なせた。
そして、それを遥かに上回る数の難民を産み出した。
更に国家の拡大、軍備の増強が祟り、『とある国』の財政的許容料を大きく超えた。

そこからは、よくある顛末。

周辺諸国が、難民の受け入れを拒んだのもある。
水脈汚染が、故意的に行われたものだと疑われたのもある。
『とある国』の王様が、水脈の呪いに犯され、崩御したのもある。
人心は荒廃し、それにともない、過激な極右政党が台頭したのもある。

ーー様々な理由が重なり、『とある国』は世界に対し、決死の闘いを仕掛けた。

312 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:16:09 ID:CjmcJBckZ2

「私はそれに加担した、結果として、一つの国が滅びた」
「カイエンは、もしかして……」
「『彼女は『とある国』の皇女だったの、けれど妾の子だったから政治には関わらず軍人となって、戦場にいた。
そして……最後の戦いで私が彼女を打ち負かしたことが、『とある国』の滅びを確定させた、それが元になって、多くの飢餓と、多くの差別が生まれた」

ライネさんは歯噛みして言った。
そこには何も出来なかったことへの後悔があった。

「何も解決しなかった、未だにその地は政情が安定せず、大地は荒廃したまま、周辺諸国はただひとつ残された鉱物資源というケーキをどう切り分けるか決めるための論戦を繰り返すばかり。
『調停官』ーー七賢者カルダモンが派遣され、致命的なことが起きないギリギリのところで保っているのが、現状」
「彼女の目的はなんなんですか?」
「それは……わからない、でも……」

ライネさんは一呼吸区切って、言った。

「彼女は、絶対に止めなければならない」

遠くから、微かに聞こえる剣激。
ライネさんゆっくりと立ち上がり、剣を取った。

「話は終わりよ、行きましょう」

313 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:17:28 ID:CjmcJBckZ2

洞窟を奥へ走る度、剣激の音は大きく、多くなっていく。

そして、前と同じく広間に出たときに、その音は最大の音量へ達した。

「ココアさん!?」

私はチノちゃんの手を取って走った。
もう片方には剣を抜き放ち、眼前を塞ぐゴーレムへと振りかぶる。

スキル『お姉ちゃんは許しませんよー!』ーー

クリエの力を纏った剣を一閃。
視界を塞ぐゴーレムを薙ぎ払い、一直線に進む。
視線の先には、ゴーレムが次々と沸きだす魔方陣。
そしてその手前で、無数のゴーレムを抑える三人の少女。

「コルクちゃん! ポルカちゃん! ソルトちゃん!」

その中の銀髪の少女、コルクちゃんはこちらを振り向き、目を見開いた。
その一瞬の隙に、ゴーレムの攻撃が迫る。

間に合わない?

いや、大丈夫だ、やれる!

集中ーー頭の痛みと共に、世界が鈍化する。
その鈍化した世界を一足に駆け抜け、コルクちゃんを襲うゴーレムの腕を切り落とし、回転してもう一撃、胴を両断する。

常時発動スキルーー『思考・身体加速』
思考速度と身体速度を加速する。
自分の回りにあるもの全てに手を届かせ、助けるための力。
今の私の速度と攻撃精度は、今までの比にならない。

314 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:19:03 ID:CjmcJBckZ2

「ココア、チノ! どうしてここに!?」
「コルクちゃん、私は『リゼちゃんと同じ』だよ!」
「ーー!」
「説明してる暇はない、とにかくここから逃げて!」
「……了解した、ポルカ、ソルト! 撤退する!」

コルクちゃんが叫ぶと、ポルカちゃんとソルトちゃんはすぐさま後退し、こちらに合流した。

「ポルカちゃん、私は……」
「聞こえてたよ、なら……この後何が起こるかも把握済みなんだろ?」
「どちらにせよ分が悪い、なぜ名前を知ってるのかとか、その意志疎通の仕方とか、聞きたいことはありますが……従いましょう、後で話を聞かせてくださいよ?」

ポルカちゃんとソルトちゃんは口々に言って、洞窟の出口へ走っていく。
その背中に向かい、複数の炎が飛来する。

「ココアさん! 攻撃が……!」
「くっ……」

剣にクリエを収束、『とっておき』を発動しようとした瞬間、その炎の矢は次々とかき消えた。

そこにはライネさんがいた、剣激のみで、その全てを弾き飛ばしたのだ。

「行きなさいココアちゃん、ここは私が食い止めるわ」

彼女は振り向くことなく言った、その視線の向こうには、地獄の炎の色をした鎧の騎士。

猛烈な炎熱が洞窟を満たしていき、それに伴う風がライネさんの長髪を揺らしていた。

思わず、足が止まった。
何故か、彼女が死ぬと感じたからだ。
先ほどの会話も、まるでもう話す機会がないから、話したかのような。

ーー手を掴まれる。
チノちゃんは私の手を掴んで、首を振った。

「ーーくっ!」

今、私にできることは鋼鉄巨人をできる限り早く倒すことだけだ。
遅れれば遅れるほど、ライネさんの生存確率は減る。

私は踵を返して、その場を後にした。

「ーー生きて、また会いましょう!」

叫んで、洞窟の出口へと走る。
返答はなかった。

315 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:20:24 ID:CjmcJBckZ2

「……それでいいわ、ココアちゃん」

遠ざかっていく足音を聞きながら、ライネは剣を、眼前の敵に突きつけた。

「ちぃっ!」

スキル『オーグメンター』ーー

カイエンの周囲に炎が舞い、それは前方への推進力となって、ライネの横を駆け抜けるーー

「ーーさせないわ!」

スキル『エキスパート養成講座』ーー

ーーその前に、光を纏った剣が一閃。
それは、カイエンの進行方向、その上の岩盤を打ち砕き、その進路を塞いだ。

「貴方はここにいなさい、全てが終わるまでね」
「……驚いた、かの勇者自ら、この場所に出向いてくるとはな」
「誤算だった? なら残念ね」
「確かに誤算だ、だが僥倖とも言う……生き恥を晒した甲斐が、あったというものだ」

カイエンはゆっくりと兜を取り去り、その場に投げ捨てた。
炎のように揺らめく赤髪が、風にのってゆらゆらと揺れる。

316 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:23:07 ID:CjmcJBckZ2

「もとよりこの策、貴方を打倒するためのものなのだからな、計画は前倒しになるが構いはしない、どのような戦力を注ぎ込んだとて、鋼鉄巨人は倒せんよ」
「貴方が死ねば『時巡り』が発動するから、でしょう?知っているわ、それでも、私は貴方を斬ったようね」
「何?」

カイエンは訝しげに眉を潜めた。

「その策を破るためには、クリエメイトーーココアちゃんに強くなって貰うしかない、だからそうなるまで、私は貴方を斬り、そして繰り返した、どのリピートでも最終的にはその結論に至ったのでしょう」
「……クリエメイトなど、ただの平和惚けした子供に過ぎん、そのような存在が何度繰り返したとて、絶望の果てに壊れるだけだろう」
「だけどそうはならなかった、ココアちゃんは強くなって、私にすら剣を届かせた、今のあの子なら、この閉塞された時間の牢獄すら切り開けると私は信じているわ」

カイエンはそれを聞いて、口角を小さく歪めた。

「……なるほど、確かにそうらしい、貴方が既にそれを知っているということは、私は一度、あのクリエメイトに倒されているのだろうからな……そうでなければ、私がそれを話す筈はない」
「クリエメイトを舐めすぎたようね、彼女らには強い意思がある、そうでなければ、『聖典』なんてものに書かれる筈もない」
「ふん……面白い!」

炎が舞い散り、周囲の気温が急激に上昇していく。
カイエンの放出した膨大なクリエが、洞窟内を焼いていく。
ライネは、それに向かって、剣をゆっくりと構え直した。

「ならば、貴方を倒し、その全てを打倒してみせよう。最早後ろには屍の山が築かれ、前には修羅の道しかない、立ち塞がるというのなら、悉く焼き尽くすのみ」
「私にも、守らなければならないものがある……目の前にいるのは『勇者』ライネ、私を打倒するならば、万の軍勢を相手にするのと等しいものと思いなさい」

そして誰も見ることなく、多くが知ることもなく。

「さぁ来なさい、遊んであげるわ……命が尽き果てるまで」

人知を超えた戦いの火蓋が、切られた。

317 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:23:59 ID:CjmcJBckZ2

無数のゴーレムたちに追い立てられながら洞窟を脱出した私たちは、前週と同じように鉱山の街へ向かった。

近づくたびに濃くなる血の匂い。
3日前に行われたゴーレムの襲撃、それによる虐殺を受けた街は、血の匂いが立ち込め、家々は破壊され、人々の目には光がなく、どうしようもなく途方にくれていた。

「っ……!」

その凄惨な光景に、チノちゃんは思わず言葉を失っていた。
それは、テレビやアニメなどだけで見ていた、わかりやすい絶望の光景だった。

「ココア、ここで何があったのかは……」
「……知ってる」

……3日前、だ。
私のリピートによって戻れる日の前日。
これは、確定してしまった出来事だ。
そしてーー

「きららちゃんは、連れ去られてるんだよね」
「……そう、クリエメイトたちはカイエンに打ち倒され、きららは連れ去られた……本当に、リゼと同じなんだね」
「うん、詳しい説明と、これからの説明をする、もうすぐリゼちゃんもーー」

318 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:25:39 ID:CjmcJBckZ2

ーー瞬間、光が乱舞する。
中空に輝く魔方陣が現れ、それが激しく回転する。

その場にいた全員が、一瞬で身構えた。

「これは、転移魔法ですね……ココア、誰が……ココア?」

ソルトちゃんが聞いてくる。
知る筈もない。
これは、こんなことは、以前は起こらなかった。

光が収束し、霧散する。
そこにはーー

「ーーシュガーちゃん!?」

そこには、七賢者がひとり、シュガーちゃんの姿があった。
私たちの姿を認めた彼女は、普段の快活さを一辺も見せない焦燥に満ちた表情で、ソルトちゃんに駆け寄った。

「シュガー、一体どうして……!?」
「どうしよう、ソルト、このままじゃ……!」
「シュガー、落ち着いてください、一体なにがあったのか説明を……」
「このままじゃ、街が、リゼおねーちゃんが!」

シュガーちゃんの言動は、焦りに満ちて、支離滅裂だった。
ソルトちゃんがそれを宥め、落ち着かせる。

そして、その中の一つの発言を、私は耳敏く聞き取った。

「ーー鋼鉄巨人が、この街に攻めてくるよ!」

ーー同時に、光条が空を切り裂いた。

それは、目の前にあった街を薙ぎ払い、土煙で覆い隠す。
悲鳴と、怒号が遠雷のように耳に響く。

「そんなーー!?」

光の束は、さらに2度、3度瞬き、目の前の街を焼いていった。
私の足は震えていた。
こんなことはある筈がない、鋼鉄巨人はまだ完成していないはずだ。
戦いは、こちらが鋼鉄巨人の建造されている遺跡へ赴いて始まるものの筈だ。

光条の放たれた方向を見る。
地響きが地面を揺らす。
そこには、本来いない筈の存在ーー鋼鉄巨人が、こちらへ歩を進めていた。

その時、一つの事実を私は思い出した。

「『リピート』をしているのは……私だけじゃない」

鋼鉄巨人の瞳がぎょろりと動いて、視線が交錯する。

ーー敵の真の恐ろしさを、私は漸く理解した。

319 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:25:53 ID:CjmcJBckZ2
今回は以上です。

320 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/09 19:49:01 ID:UuA2z9kV0X
まさか、間に合わなかったのでしょうか?完成してしまった?
もしもそうなった場合、今回が鋼鉄巨人側の最後の刻廻りになる筈だからココアのリピートもこれが最後で次は無くなるわけだから、ココア達はかなり絶望的な状況になるわけですね。うーん、不安要素が大きい・・・・・
新生ココアと仲間達の力で状況打破出来る事を信じて、次回を楽しみに待ってます!

321 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/10 11:57:15 ID:HagJ.dT2eU
>>320

ありがとうございます。

もしそうだった場合は絶望ですね。
対処法があるとするなら、ココアないし誰かが単騎で過去に戻り、この事件の原因を壊す、というくらいでしょうか。
一回でも鋼鉄巨人単体でのリピートが起これば、ココアたちの行動はその前の周の行動で固定されるので、チャンスはこの一回きりになります。

鋼鉄巨人もココアと同様、リピートによって過去の記憶をトレースし、先回りした行動を取れます。
以前ココアたちに完成前に攻撃をされたので、今度は完成を待たずにこちらへ攻めてきた、というのもありえますね。

できるだけ早く次回をあげられるようにしてみます、遅筆ですいません……

322 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:00:15 ID:EXqDFJXnC/

「街が……!」
「あばばばば……やばいよやばいよ、どうしようソルト」
「落ち着きなさいシュガー……ですが、この状況は些か予想外が過ぎます」
「ゴーレムの調査のためにリゼおねーちゃんと近くの遺跡に行ったら、あいつがいて……私たちを見るなり襲ってきたんだよ」
「文献で少し読みましたが、あれが……しかし、完成には猶予がまだある筈……」

完成には猶予がある……そう、前は完成していなかった、完成にはまだ2日程度の猶予があるはず。

だから前週では、私たちの攻撃は『間に合った』のだ。
そして、鋼鉄巨人からすれば、自身の完成に『間に合わなかった』。
鋼鉄巨人からすれば、私の『リピート』の力をどうにかしない限り、自らを関係させることができない状況なのだ。

そして鋼鉄巨人は、前週の記憶を持った私によって、万全の準備と対策を整えられた上で攻められることを嫌った。

故に、完成を待たずして、此方に攻撃を仕掛けてきたのだ。

「どちらにせよ、一刻の猶予もありません、覚悟はいいですねシュガー」
「うん、大丈夫、少し恐いけど……ソルトがいるなら」

ソルトちゃんにあやされたシュガーちゃんは落ち着きを取り戻し、少し固い、微笑みを浮かべた。

「しかし、無策であれとやるのは危険、ソルト、ココア、何か策はある?」

323 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:01:45 ID:EXqDFJXnC/

コルクちゃんが言う。

「……鋼鉄巨人は無敵、と文献にはありました、しかし完成してないなら、何処かに綻びがある筈ですが……」
「一応、それらしいものが、ひとつだけ」
「ココア? それは……」
「正直、弱点と言えるのかわからないけど……」

以前戦ったとき、鋼鉄巨人に傷をつけることは出来なかった。
だが、全周を囲むあのバリアを破壊することはできたのだ。
バリアは十秒足らずで復活するため、その間に本体に攻撃を仕掛け、再展開をさせないようにできれば、勝機はある。

そして、あのバリアを破壊するための条件、あの攻防の際になんとなくだが把握した。
今は、そこしか賭けられる要素がない。

「こ、ココアさん、街が……!」

チノちゃんは私の袖を掴んで言った。
その体は震えていた。

「チノちゃん、走って」
「え……」

剣を抜き放ち、私は言った。
どちらにせよ、やることは一つだ。
チノちゃんをあの修羅場につれていくことはできない。
この緊急事態、今更転移もできない、彼女には隠れていてもらうしかない。

「鋼鉄巨人とは逆方向に走って、多分そっちには何もいないから」
「でも、ココアさんは……みなさんは?」
「あれを壊しに行く、元々そのつもりだったから」

返答は聞かずに私は走った。

324 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:03:54 ID:EXqDFJXnC/

街に近づく度に、肌を焼く熱波は強くなっていく。
立ち上る炎と煙で空は赤く染まり、奥に鎮座する鋼鉄巨人は、まさに地獄からの使者にでも見える。

多くの人が死んでいた。
動かなくなった腕が、足が、頭が、そこらじゅうにあった。
視線の先に一体のゴーレム、その剣の先に一人の少女。
走る、手を伸ばす。
無慈悲に振るわれる剣、吹き出る血飛沫。
その直後に、ゴーレム私の剣によって両断され、煙となって消えた。

「……ダメか」

素早く斬られた少女に近づいたコルクちゃんが、歯噛みする。

周囲を見回す。
動くものは僅かなゴーレムと、奥に鎮座する鋼鉄巨人以外にはなかった。

「ひでぇな……まるで、人だけを狙って殺してるような気さえするぜ」
「人だけを殺す機械、ですか……人間のやることとは思えない、狂気の産物ですね」
「怖い……あれ、魔物とかそういうのと違って、目的も結果も無視して、ただわたしたちを殺そうとしてる……」

惨憺たる光景を見て、ポルカちゃんとソルトちゃん、シュガーちゃんは呟いた。
間違いではない、と思う。
ゴーレムも、鋼鉄巨人も、明らかに人間を狙って殺している……。

カイエンの言葉を思い出す。

『卑しい弱者の全てには、正道な力を持って裁定を降す』

冗談か本当かわからない、だが本当ならば……これは彼女にとっての『裁定』か。

325 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:06:39 ID:EXqDFJXnC/

「……リゼちゃん!」

更に奥に進んでいくと、瓦礫に身を預けて苦悶の表情を浮かべるリゼちゃんの姿があった。

「……っ、ココア、なぜここに……?」
「リゼ、彼女は貴方と同じく、『リピート』している人」
「リゼちゃん、私はこの戦いを始めたこと、後悔してないし、リゼちゃんに許して欲しいとも思ってない、こちらこそ、リゼちゃんをここまで苦しませて、ごめんね」
「私の、言いたいことを……そうか、お前は本当に『リピート』を……」

早口で、リゼちゃんの言いたいこと全てを先回りして遮る。
それを聞いたリゼちゃんは、一瞬悲しそうな顔をして、傍らの武器を握りしめた。

「感傷に浸っている場合じゃないな、鋼鉄巨人を、止めなければ」
「リゼちゃんは休んでて、あいつは私たちが」
「問題ない、まだ動ける……それより、信用していいんだな? お前の力を」

その時、前方の瓦礫の山より、3体のゴーレムがこちらを見据え、襲いかかってくる。

「ふっ!」

細く息を吐き、一息にその懐へ飛び込む。
両手を振り上げ、鋭い横薙ぎ。
並んだ3体のゴーレムは、一息にその上・下半身を泣き別れさせ、煙となって消える。

326 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:08:05 ID:EXqDFJXnC/

「……聞くまでもなかったか」

わかっていた、というばかりにリゼちゃんは微笑んで、私の横に並んだ。
そう、わかりきったこと。
自分と同じ経験をしている存在が、弱い筈はない。
私たちはお互いの実力を、当たり前のように知っている。

「……アレには一切のダメージを与えられていない、回りの雑魚を片付けただけだ、何か策は?」
「私はあれと一度戦ってる、やりようはあるよ」
「了解した、ココアの指示に従う」

眼前には、炎の中に佇む鋼鉄巨人。
そこから放たれる火砲は執拗なまでに街を薙ぎ払い、捕捉した人間を次々と焼いていく。
あれが移動すれば被害は計り知れない、人の生きた痕跡すら残さず破壊し尽くされるだろう。

ーー故に、ここで止めなければならない。

コルクちゃん、ポルカちゃん、ソルトちゃん、シュガーちゃん、そしてリゼちゃん。

全員が一つ頷く。

次いで、鋼鉄巨人と目があって、その目が光を放ちーー

「みんな、行くよ!」

ーー散開。
さっきまでいた場所が爆砕され、戦いの火蓋が切られた。

327 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:09:13 ID:EXqDFJXnC/

「シュガーが一番乗りー!」

スキル『カスタードスマッシュ』ーー!

開戦するやいなや、シュガーちゃんは楽しげに叫び、背に帯びた大剣を振り上げ一回転、思い切り投げつける。
激しく回転しながら向かう先は鋼鉄巨人の頭部、ゴーレムの十や二十は一刀で仕留める凶刃はしかしーー

ーー鋼鉄巨人の直前で、光の壁に阻まれ弾かれる。

「えぇっ!? そんなぁ……」

返ってきた剣を器用にキャッチしながら、落胆するシュガーちゃん。

「大丈夫、想定通りだよ!」
「えぇ……それってシュガーが弱いみたいな……」
「現実を受け止めなさいシュガー、話の通り、奴の纏うバリアはかなりの堅牢さを誇ります……ですが!」

スキル『スター・シュート』ーー!

次いで、ソルトちゃんの掲げた掌に魔方陣が展開、風が収束していく。
次の瞬間砲弾となって放たれたそれは余波だけで周囲の瓦礫を吹き飛ばす威力だったが、それすらも、鋼鉄巨人の頭部には届かず霧散する。

328 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:10:39 ID:EXqDFJXnC/

「リゼちゃん! コルクちゃん! ポルカちゃん!」

着弾と同時に、私は叫んだ。
同時に3つの影が躍り出て、鋼鉄巨人の『足』へ向けて突撃する。

ーー鋼鉄巨人の弱点……と言えるかどうか、わからないが。

一週目、私が鋼鉄巨人のバリアを破壊できた理由。

初激のとっておき3連、あれを受けたとき鋼鉄巨人は一切のダメージを受けず、衝撃で仰け反ることすらなかった。
つまり通常状態では、今用意できるどれ程の火力を注ぎ込んでも、バリアを破壊することはできないだろう。

ーーだが、シュガーちゃんが頭部を攻撃した直後に、私が足を攻撃した際、ただのスキルであったにも関わらず、鋼鉄巨人の足は『吹き飛んだ』のだ。

そして、私が鋼鉄巨人のバリアを破壊する直前、シュガーちゃんは大剣を投げつけ、頭部を攻撃していた。

つまりーー

「兵は神速を尊ぶ……!」

スキル『辻風』ーー!

コルクちゃんは強烈に地面を蹴り、弾丸のような速度を持って鋼鉄巨人に肉薄。
駆け抜け様に、二刀による強烈な斬激を見舞う。

「ぶちかますぜ! でぇりゃあああぁ!」

スキル『ぶっぱなす』ーー!

それに続いてポルカちゃんが力任せに大剣を振り上げ、大上段より炎を纏った幹竹割りを放つ。

「叩きのめしてやる!」

スキル『休日をだらだら過ごすなぁ!』ーー!

さらにもう一撃、周囲に霜が張るほどの膨大なクリエを纏った槍による、目にも止まらぬ連続突き。

隙を与えぬ連続攻撃、これを浴びたならば、並大抵の存在ならばなす術なく散ることとなるだろう。

しかし、光の壁は未だに健在のまま、その全てを受け止めきった。

329 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:16:45 ID:EXqDFJXnC/

ーーそして、最後の一撃。

「みんな、私に力を貸して!」

とっておき『お姉ちゃんに任せなさい!』

上空に陣取った私はクリエを纏い輝く剣を鋼鉄巨人に向ける。
それは直ぐ様暴風となって剣を覆い隠し、やがて激しい竜巻と化す、あらゆる全てを切り刻み散らす、今の私が出せる最高火力の技。

「うおおおおぉぉぉーーーっ!!」

裂帛の気合いと共に、砲弾そのものとなって突貫。
嵐の砲弾と光の壁がぶつかり合い、激しいスパークを放つ。


ーー私があの時、バリアを破壊できた理由。
おそらく、鋼鉄巨人は頭を攻撃された際に、頭部にエネルギーを集中させる特性がある。
故に、頭部を攻撃した直後の数秒間、他の部位の防御が薄くなる。

それは本来であれば、気にするほどのものでもない、よほどの強力な連続攻撃を受けなければ、突破されることはない。

だが、私たちの最大の力を、そこに叩き込めばーー!

「貫けえぇぇぇ!」

ーー数秒の拮抗の後、光の壁はヒビを全体に走らせ、砕け散った。

とっておきの威力を保ったまま、私の剣は鋼鉄巨人の足に突き刺さり止まる。

330 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:19:53 ID:EXqDFJXnC/

「ーーまだだよ!」

鋼鉄巨人のバリアは、破壊されても十秒足らずで復活する。
このまま、鋼鉄巨人に決定打を与えなければ、勝機はないーー!

剣を引っこ抜き、そのまま空いた穴に向かい突き込む。

「くっ!」

何度も何度も突き込む、剣を、もっと奥へ叩き込む。

「はああぁぁっ!!」

渾身の力を込めて振り下ろした剣を、とうとう鋼鉄巨人は根元まで飲み込んだ。
そしてそこに、クリエを集中ーー

とっておき『燃えるパン魂!』ーー!

そのまま放たれた『とっておき』は鋼鉄巨人の内部で、そのエネルギーを解放。

ーー大爆発を持って、その右足を内部から吹き飛ばした。

「これなら……!」

爆発の勢いに大きく吹き飛ばされる。
そのまま私は瓦礫の中に突っ込んで止まっていた。
そして、霞む視界で、鋼鉄巨人を見据える。

ーーそこにあったのは、右足が半壊し、大きくバランスを崩す鋼鉄巨人の姿。

331 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:21:30 ID:EXqDFJXnC/

「手筈通りですね、これならあとは動けなくなった頭を処理するだけです」
「おっきな癖に、案外チョロかったね!」

倒れた私の元に、みんなが駆け寄ってくる。

「まさか、ここまで考えてたとは……」
「考えたのはリゼちゃんだよ、私はそれに従っただけ」
「前の、私が言っていたのか?」
「うん、前にこの戦いを指揮してたのはリゼちゃんだったから」

リゼちゃんが言っていた、あの巨大さなら、どこかしら無理をしていない筈はない。
ならば足を破壊すれば、バランスを崩せるはず、と。
それは予想通りだったらしい。

鋼鉄巨人の右足は連鎖的な爆発を抑えられず、徐々にその巨体を傾けていく。

「ーー待って!」

コルクちゃんが叫んだ。
同時に鋼鉄巨人の頭部に光が灯る。

「っ! こいつ、まだヤる気か?」
「いや、違う、こっちを狙ってない……」

その瞳は、明後日の方向に向けられていた。
光は更に収束していき、先ほどから放たれていたビームのそれより、遥かに強力な砲撃をしようとしていることがわかる。

「……なんだ? あいつ、変なところにビームを撃とうとしてる、イカれたのか?」
「いや、そうと考えるのは早計過ぎる、ポルカはやはり脳筋……」
「そうは行ってもよ、あの方角には山しかないぜ?」
「あの、方角……」

数秒考えたのち、コルクちゃんの表情はーー蒼白に染まった。

「ーーまさか!」
「ソルト? どうしたの?」

後ろにいたソルトちゃんが叫ぶ。
彼女の顔にも戦慄が張り付いていた。

「あの方角ーー山の向こうには」

332 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:22:58 ID:EXqDFJXnC/

「ーー『言の葉の木』があります!」

ソルトちゃんは叫んだ。

「ーーバカな! ここから『言の葉の木』までどれ程の距離があると想ってるんだ! そんな距離を狙い撃てる筈が……」
「ない、と断定はできません! あれは未知の古代文明の産物、百キロ近い距離を狙撃出来たとしても不思議ではない……! それにあのエネルギー量、如何に巨大な『言の葉の木』とて、焼失させられるでしょう……!」

鋼鉄巨人の頭部にエネルギーが貯まると同時に、斑でありながらも、バリアが復活していく。

「ーー鋼鉄巨人の頭部を攻撃してください! あれほどの長距離を狙い撃つのならば、ほんのわずか砲口がズレるだけでも砲撃は外れる!」

ソルトちゃんが叫ぶと同時に風の魔法を放つ。
しかし、それは鋼鉄巨人の周囲に再度展開されたバリアによって弾かれてしまう。

他のメンバーも一斉に攻撃を放つが、その全てはバリアを抜けることは出来なかった。

ーー鋼鉄巨人のバリアは全体を球状に覆うのでなく、斑に展開したバリアが攻撃に反応して着弾箇所に動いているようだ。
今の奴には全体を防御する余裕はないのだろう。

「なら、直接攻撃で……!」

飛び道具では防がれる、であれば、接近しバリアの間を通り抜けるしかない。

そうして足を踏み出そうとした私の前に、突如無数のゴーレムが現れる。

「なっ……!?」
「転移魔法!? 奴ら、まだこれほどの戦力を!」

転移魔法で呼び寄せられたゴーレムたちは、文字通り壁となって、私たちの接近を妨げる。

「くっ……邪魔だよ!」

立ちはだかるゴーレム達を斬り伏せる。
一体一体は弱いが、その度に確実に時間は奪われる。
鋼鉄巨人の頭部に宿る光は、刻一刻とその輝きを増している。

333 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:24:07 ID:EXqDFJXnC/

「くっ……」

この状況を打開する方法ーー

私の新たな技ーー専用ぶきスキルを使用すれば、接近は可能だ。
だが、その後動けなくなる、崩れていく鋼鉄巨人からの脱出すら叶わないだろう。
それに、今となってはビームの発射そのものを止めることはできないのだ、あのエネルギー量、近くにいればその余波だけでもただではすまない。

だが、目の前に立ち塞がるゴーレム達を斬り伏せていては、確実に間に合わない。

ーーどうする?

考える、どうするべきか。
その逡巡の間に、状況は動いた。

ーーこの状況で動けたのは、彼女だけだった。

特攻に近いその行動のリスクを考え、私の動きは一瞬、止まっていた。

転移魔法を使えるソルトちゃんも同様、聡明な彼女だからこそ、その行動に一瞬の躊躇いがあった。

他の三人は、現時点で鋼鉄巨人に接近する手段を持たなかった。

そして、彼女ーーシュガーちゃんだけが、動いた。

「ソルト、ごめん」

一言だけ言い残し、彼女は鋼鉄巨人の眼前まで転移魔法で移動。
周囲に展開したバリアを潜り抜ける。

そして、手に持った大剣で鋼鉄巨人の頭部をぶっ叩きーー

チャージスキル『ジャッジメント』ーー

ーー直後、極光が放たれた。

直径にして50m近い大きさの光の束は、山間を切り裂き一瞬にして空の向こう側へ見えなくなった。

そして、こちらを振り向いて笑うシュガーちゃんが、その光に包まれて消えていくのを、見た。

334 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:25:22 ID:EXqDFJXnC/

「シュガー……?」

ソルトちゃんは小さく呟いた。
絶命の直前のような、力ない呟き。

膝が崩れる。
鋼鉄巨人の放った極光に照らされた無表情からは、静かに涙がこぼれていく。

「ーー! 鋼鉄巨人が」

鋼鉄巨人は最後の攻撃を放つと同時に、力尽きるように崩れていく。

傷ついた右足は破孔からスパークを放ち、とうとう大爆発を起こす。
その衝撃で半ばから右足がへし折れ、常にこちらを見下していた頭部が、とうとう頭を垂れた。

「終わった……?」

そう、終わった。
一人の少女の犠牲と、一人の少女に消えない傷をのこして、戦いは終わったのだ。

私は傍らの少女に駆け寄った。
周囲の敵を殲滅し、リゼちゃんたちも周囲に集っていく。

「……大丈夫、砲撃は外れる、シュガーはよくやってくれました」

ソルトちゃんは、涙を溢しながらそう呟いた。

「ソルト……」
「勇猛にして果敢な最期でした、あの子の名は英雄として後世に残るでしょう、私も姉として鼻が高いです」
「ソルト、止めろ」
「こうしてはいられません、シュガーの死を無駄にしてはいけない、早く鋼鉄巨人を探り、クリエゲージを破壊しなければ」
「ソルト!」

リゼちゃんが叫んだ。
答えはなかった。

ーー人形が、喋っている。
そう感じるほど無感情に、彼女は言って立ち上がった。
機械仕掛けの速やかさで、為すべきことを遂行しようとしていた、涙を流していることにすら気づいていないかのようだった。
私は、そんな彼女を抱き締めた。

335 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:26:47 ID:EXqDFJXnC/

「……ごめん」
「何故、貴方が謝るんですか」
「私がもっとうまくやれば、守れたかも知れなかったから」
「……ココア」

そう言う私を見るソルトちゃんの目には、何も映ってはいなかった。

「貴方はもう、帰ってください」
「え……?」
「これ以上戦う必要はありません、クリエゲージは鋼鉄巨人の頭部にあるのでしょう? それを破壊し、帰ってください」
「ソルトちゃん、どうして」
「貴方のこと、『死んでやり直す』とでも言うつもりだったのでしょう?」
「っ!」

そう、やり直しは効く。
今ここで私が死ねば、時間は三日前に巻き戻る。
そこから、シュガーちゃんが生き残るルートを模索すればいいーー

ーーそう、考えたのだ。

「でも……まだ間に合うんだよ!? 私なら全てを救える、何も変わらない日常に戻すことができる! なのに、なんでそんなことを……!」
「本来、死は不可逆の摂理です、貴方だけに全ての責任を負わせて『シュガーを助けて』なんて言えるほど、私は落ちぶれていません」
「でも……悲しくないの? 寂しくないの? 私は……死にたくなるほど悲しい」
「そうですね、ですが」


「ーーそれは、貴方には関係のないことです」

336 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:28:49 ID:EXqDFJXnC/

「……え?」
「貴方は異世界人です、誰かの私欲のため、身勝手に連れてこられた被害者です、その力を借りること自体が、おかしなことでした」
「でも、そんな」
「もう無理をする必要はありません、貴方は……貴方たちは、こんなところで戦いを続けるような人じゃない。
『オーダー』での召喚の記憶は元の世界に戻れば失われる、全て忘れて、元の生活に戻りなさい」

ソルトちゃんは、私とリゼちゃんへ笑いかけた。
無理矢理笑った、泣きたい気持ちを理性で抑え込んで、半身を失った痛みを笑顔の仮面で隠して、無理矢理笑った。

恐ろしく強い子だ、と思った。
彼女は聡明が故に、感情と行動を切り離すことができてしまう、やりたいことより、やらなければならないことを優先できてしまう。
涙をこぼしながらでも、笑うことができる。

でも、それでは彼女は救われない。

こんな、こんな現実をーー認められない。
目の前に自信の救いがあるとわかっていても、目の前の涙を拭うことすらできない現実を、認められなかった。

どうする? やり直す?

私はーー

「ソルトちゃーー」




ーーその時、私の胸が思い切り押された。

337 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:31:28 ID:EXqDFJXnC/

「ーー避けなさい!」

ソルトちゃんが叫ぶ。
同時に、鋼鉄巨人の方へ振り返る。

「ーーえ?」

そこには、頭があった。
鋼鉄巨人の。

「……なにあれ、ふざけてるの?」
「なんだよ……物理法則もへったくれもあったもんじゃないぞ」

コルクちゃんと、ポルカちゃんが言った。

鋼鉄巨人の、頭だけが浮遊していた。
翼もなければ何かの噴射もない、何故浮いているのか理解不能、だが現実は間違いなくそうだった。
光を帯びた視線が、こちらを射抜く。

そして、閃光と熱線が私とソルトちゃんのもといた場所を貫き、打ち砕いた。

「自立飛行だと……!?」

爆発に吹き飛ばされた私のそばに来たリゼちゃんが、顔を驚愕に歪めて呟く。

「まだ、終わりじゃないってこと……?」
「そうみたいだな……だが、ここまで来たのなら、奴にも後はないはずだ」
「その通りです」

涙を振り切り、ハンマーを構えたソルトちゃんが私の前に立つ。
先ほどの無表情とは違い、そこには明確な怒りの感情が見えた。

「あの史上最悪の困ったさんを叩き潰し、シュガーへの手向けとさせてもらいます」

怨嗟たっぷりに、ソルトちゃんが呟く。
呼応するように、私たちは頭上に座する鋼鉄巨人の頭部に向け、各々の武器を構えた。

そうして、最後の戦いが始まった。

338 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 02:31:54 ID:EXqDFJXnC/
今回はここまでです。

339 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 12:48:37 ID:t6Rx/Ewmi0
今回も手に汗握りました!
まさか、シュガーが・・・・・そしてそれでも終わらない戦い。ですが、いよいよ決着も近そうですね。シュガーがどうなったか、ソルトはどうなるのか、ココアの選択は・・・・・様々な選択や戦いが残されていますが、その全てをこの目で見届けたいと思います。
次回も楽しみにしてます!

340 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/05/24 21:42:53 ID:RtkPi8ZY1N
>>339

ありがとうございます!

ようやくここまで来れました、長かった……もうすぐ終わります。
シュガーちゃんが亡くなったおかげで、完全なハッピーエンドとは言えなくなってしまいました。
その上で、ココアさんが全てを忘れて元の世界に帰るのか、あるいは他の打開策を見つけるのか。
あとは鋼鉄巨人(第二形態)戦で、どれ程の被害が出るか。
その辺りが、今後の話になってくると思います。

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名前 age
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