やるデース! > きららBBS > 【長編ss】ココア「live die repeat and repeat」
【長編ss】ココア「live die repeat and repeat」
▲▲▲全部▼▼▼戻る
1 名前:名無しさん[age] 投稿日:2019/12/28 22:55:10 ID:LXHxLaq/N9
長編ss(予定)です。

昨年2月にあった『エトワリア冒険譚 後編 目覚める鋼鉄の巨人』イベントにオリジナル要素を加えたリブート作品です。

ーーcaution!ーー

以下の点に不快感を感じる方はブラウザバック推奨です。

・グロ描写あり
・死亡描写あり
・ループものです
・オリジナルキャラあり(一人だけ)
・独自解釈多数
・独自設定多数
・キャラ崩壊
・終始シリアス展開

ss初投稿のため、至らないところもあるかもしれませんが、優しく見ていただけるとありがたいです。

また、誰も死なない終わりを目指します。

< 1234>
171 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:15:18 ID:zIZIY3hSc1

「私こそごめんね、こんなに苦しんでいるリゼちゃんを、いままで助けることができなくて」
「ココア……うぅっ……」

それを聞いて、リゼちゃんは何かが決壊したように、泣いた。
その姿に、いつもの面影はなく、年上なのに、妹のようにすら思えた。

「私もリゼちゃんを守るよ、お姉ちゃんに任せなさい」
「……なんだよ、それ……」
「私以外は全員妹だからね」
「……なら、年長の私は保護者だな」
「むっ、それはなんか嫌だな……それなら、リゼちゃんもみんなのお姉ちゃんになればいいんじゃない? 私以外の」

リゼちゃんはそれを聞いて、ぽかん、とした顔をした。

「……ぷっ、ふっ、あははは! それいいなぁ、お前の妹になるのは癪だし、年的にも私が姉だがな」
「むっ、ズルい! たかが私より60日程度早く生まれただけじゃない!」
「もう両方お姉ちゃんでいいんじゃないか? 面倒くさい」
「……仕方ないね、私はお姉ちゃんなんだから、今回だけは退いてあげるよ」

リゼちゃんは涙を流しながら大笑いした。
姉同士の共同戦線だ、一人ではダメでも、私たち二人なら。

「お姉ちゃん同士、協力してみんなを助けようね」
「あぁ、お前は強いし私も強い、私たち二人なら、どんな敵だってやれる気がする」
「うん、ココリゼ隊が、どんな敵でもやっつけちゃうよ!」
「語呂悪いな」
「マヤちゃんとメグちゃんいないとね……」

リゼちゃんはそれを聞いて笑った、私も笑った。
どれくらいかぶりに、本気で。

172 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:16:23 ID:zIZIY3hSc1


「……で」

コルクちゃんは、凄惨に切り刻まれた戦いの傷痕を見て、少し冷や汗を書きながら、言った。

「……どういう状況?」

それに対し、亜麻色の髪の少女、シュガーちゃんが答える。

「はいはい! なんかね、リゼおねーちゃんがゴーレムをたくさんぶっとばしたら、ココアおねーちゃんが来て、なんか言い合いしててあばば〜ってなってたら、ものすごいバトルが始まって、いつの間にか仲直りしてた!」
「ごめん、全くわからない」
「あはは……あんまり気にしなくていいよ」
「この惨状見て気にするなと……?」

コルクちゃんは周囲を見回す。
私とリゼちゃんの戦いの余波によって、あたりはペンペン草一本たりとも残らないほどに耕し尽くされていた。
台風が通りすぎた後でもここまで破壊はされまい。

「……まぁいい、情報交換をしよう、リゼの向かった遺跡のほうにも、何かあった?」
「その言い方だと、そちらの向かった洞窟にも何かあったらしいな」
「場所を変えよう、立ち話もなし、新しいメンバーもいるし、それに……」

コルクちゃんは、私と、リゼちゃんの方を見た。

「なにより、あなたたち二人の件」

173 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:19:20 ID:zIZIY3hSc1

私たちはコルクちゃんに連れられて、町の中にあるひときわ大きな建物の、その中にある広間に来ていた。

所謂公民館のような建物であるこの場所は、比較的被害も少なく、いまいる会議室も綺麗に掃除されていた。
ゴーレムの襲撃に際し勇敢に戦ったリゼちゃんたちは町長たちも感謝しているようで、更に国の要職である七賢者が二人もいることもあり、彼らは快くこの場所を貸してくれた。

メンバーは私、リゼちゃん、コルクちゃん、ポルカちゃん、シュガーちゃん、ソルトちゃんの6人。

私たちはめいめいの場所に座って、話を始めた。

「前置きはなしだ、話を始めよう……まず、私の方から起こったことの説明をする」

リゼちゃんが一番に口を開いた。

「私とシュガーは、町の北へと探索へ向かった際、複数のゴーレムが鉄鉱石を持ち、何処かへ向かうのを見た、私たちは奴等を泳がせ追跡した、そして奴等が大きな遺跡……砦に向かうのを見た」
「町の人が言っていた、北の遺跡か」
「そうだ、私たちは内部に入り、そこで恐ろしいものを見た」
「恐ろしいもの?」

リゼちゃんの表情が強ばる、何が来ても驚かない所存ではあったが、私と同じ経験をしているであろうリゼちゃんがそんな表情をしたことに対して、私は緊張した。

「砦の内部では、ゴーレムが集めた鉄鉱石によって、巨大な兵器が製造されていた……私たちの世界にある兵器とは規模が違う、高さだけで50mはあるだろう、巨大な二足歩行の兵器……巨人だ」
「50m……!? そんなの、ただ歩行するだけで町を一つ、地均しすることができる」
「あぁ、恐らくはそのレベル、私たちの世界で言う、核を搭載したMIRVなどに類する戦略兵器だと思われる」
「まーぶ? とは?」
「個別複数目標を同時に攻撃できる大陸間弾道弾の略だ、まぁそれはいい……便座上、その兵器は『鋼鉄巨人』と呼称する、私たちは鋼鉄巨人に直接接触し、調査を試みたが、大量のソルジャーゴーレムに阻まれ、撤退を余儀なくされた、あれが起動すれば被害は計り知れないだろう、一応、ゴーレムはかなり数を減らすことができたはずだが」

174 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:21:54 ID:zIZIY3hSc1

リゼちゃんは話を終えて、椅子に体を深く沈めた。
私との戦闘については、何も触れることはなかった。

「そうか、鋼鉄巨人……それなら、私たちのほうでわかったことがある」

続けてコルクちゃんは話を始めた。

「……私とポルカは洞窟に向かう前、まずこの町での情報収集を行おうとしていた、洞窟内の地図なども必要だったから」
「そうしているとこに、ソルトがやって来たんだよな」
「はい、ソルトはシュガーの任務とは別角度……神殿にある文献などから、今回のことについて調査を進めていました。
しかし……この事件がとある古代文明に関係することはわかったのですが、それ以上の情報は掴めなかったため、こうして現地に赴きました」
「本当はシュガー一人でも大丈夫だったけど、ソルトがいるなら2倍大丈夫だね!」
「そうですね、今回の件は、かなりの荒事になりそうですから、ソルト一人では不安がありましたが、シュガーがいるならなんの問題もありません」

言ってシュガーちゃんはソルトちゃんにじゃれついた。
ソルトちゃんも満更でもない様子で、シュガーちゃんの頭を撫でている。
正直羨ましい。

彼女らはここに来る直前、6人全員が合流したさいに鉢合わせた。
最初シュガーちゃんが、一人でも任務をこなせるとすねてしまったが、そこは彼女ら姉妹の仲の良さか、直ぐに納得し、二人で協力して戦うことを決めた。
ソルトちゃんの実力は知ってのとおり、シュガーちゃんもそれに準ずる実力を持つことは言うまでもない。
単体で見ればこれ以上はないというほどに優秀な戦力だ。

「ソルトが洞窟内の地図を既に持っていたので、私たち3人はそのまま洞窟へ向かった、そして、その洞窟の内部で『魔方陣』を発見した」
「その魔方陣からは、大量のソルジャーゴーレムが生産され、洞窟内の鉱石を採掘、何処かへ持ち出していました」
「私たちは魔方陣の破壊を決行、しかし、無限に増え続けるゴーレムに対処できず、撤退しようとした」
「そこに私が鉢合わせた、ってことだね」
「そうですね、ココアの力も借りて、魔方陣を破壊する寸前に、奴が現れました」

175 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:23:19 ID:zIZIY3hSc1

『奴』、その言葉だけで、場の空気が固くなる。
その名前を、リゼちゃんは重苦しく呟く。

「……カイエンか」
「はい、ソルトとココアで迎撃を試みましたが、洞窟を崩され、ココアが気絶、ポルカが重症を負い、私たちは撤退を余儀なくされました」
「そうか……奴はそっちに行っていたか」

くっ、とリゼちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をした。
以前この町が襲撃を受けた際、彼女はカイエンに敗北している。
いや、そのまえにもずっと、辛酸を嘗めさせられているのだろう。
私と同じように。

「しかし、朗報もあります、洞窟が崩れたことで、その魔方陣は瓦礫に埋もれた、内部にいたゴーレムも同様の運命を辿ったでしょう、つまり、敵の増援はありません」
「つまり、ゴーレムの脅威はかなり薄れたと言うことか…それと、さっき言ってた……」

リゼちゃんの問いに、コルクちゃんが答える。

「鋼鉄巨人について? それなら……ソルト」
「はい、ソルトたちはあの洞窟で、石板を発見しました、そこに、鋼鉄巨人のものらしき情報が書かれていたのです」

いつの間にか拾っていたのか、ソルトちゃんは石板を机の上に置いた。
そこには、意味もわからない文字らしきものの羅列が書かれていた。

「ソルト、それ古代語?」
「そうです、シュガーも多少は読めるのでしたか」
「うーん、頭がこんがらがるからニガテなんだけど……」
「解読は既に、ソルトとコルクで終わらせています、ここには、あのゴーレムと鋼鉄巨人のことについて、書いてありました」
「なんて書いてあったんだ?」
「はい、あのゴーレムは、ソルトの調べていた通り、かつて栄華を極めていた強大な古代文明の遺産です」

ソルトちゃんは机に大きな画用紙を広げる。
そこには鋼鉄巨人についての推論が示されていた。
コルクちゃんが続ける。

176 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:24:36 ID:zIZIY3hSc1
「私たちの見た魔方陣は無限にゴーレムを増産する力を持っており、そして生産されたゴーレムには、最初から鋼鉄巨人を組み上げるためのプログラムが組み込まれている、ゴーレムはそのためにこの町を襲撃し、洞窟内の鉱石を掘り進んでいた」
「あれ? でもさっきソルトは洞窟が崩れたって言ってたよね? それじゃもう鉱石はとれないんじゃないの?」
「それなんですが、魔方陣の起動から逆算したところ、必要な資材は揃っていて、鋼鉄巨人もあと2日程度で組み上がる計算です、起動そのものは、既に可能な状態と見ていいでしょう」
「そんな……それじゃ、早く壊さなくちゃ!」

シュガーちゃんが言う。
しかし……50mの鋼鉄の巨人、明らかに人が相手にできる存在ではない。
軍隊で相手をするべき敵だ。

「それなら、言の葉の木から増援を呼ぶのは? ソルトちゃん、シュガーちゃんは七賢者だし、転移魔法も使えるから、できるはず」
「そうすべきでしょうね、今ソルトが動かせる七賢者直属の部隊と、ここにいる戦力だけではあまりにも心許ないですから」
「……ココア、残念だがそれは無理だ」

私の言葉は、リゼちゃんに遮られた。
その瞳は『もうやった』と言っていた。

「今日の夕方、言の葉の木はゴーレムたちの襲撃を受ける、残った七賢者たちは、それの対応に追われ動けない」
「なっ……!?」
「えっ!?」
「それは……予想外です」
「計画されていた、ということだ」

177 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:25:48 ID:zIZIY3hSc1

私以外に、ソルトちゃんとシュガーちゃんが狼狽する。
そういえばーー3週目、ジンジャーさんに神殿へ連れていってもらった際、神殿は殺気立つほどにあわただしい雰囲気だった、あれは、下の町が襲撃を受けていたからか。
増援を呼ぶことは出来ない、私たちだけで、鋼鉄巨人を倒さなければならないというのか。

「増援は望めない、ということですか……不味いですね、この文献によるならば、鋼鉄巨人を破壊するタイミングは今しかありません」
「どういうこと?」
「巨人は、無敵です、文献によると、一体で世界を蹂躙できる、とあります」
「そんな……」
「ですが、それは『完成していたら』の話です、まだ間に合います」

ソルトちゃんは強く言い切った。

178 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:30:25 ID:zIZIY3hSc1

「どういうこと?」
「今の鋼鉄巨人は、最も重要な機関が完成していない状態と思われます、鋼鉄巨人を無敵たらしめる為に必須となる機関が、でもそれはじきに完成します、そうなれば、世界は緩やかに、しかし確実に破滅へと向かうでしょう」
「それは一体……?」
「ココア」

私がソルトちゃんに問うと、コルクちゃんがそれを遮るように話しかけてくる。

「それは、あなたならわかるはず」

コルクちゃんは言った。
そして、その意味はすぐにわかった。

……『リピート』だ。

でも、何故コルクちゃんがそれを……?

「……ココア、話は全部リゼから聞いている、あなたがリゼと同じだってことも、なんとなく察していた」
「そう……なんだ」
「私も、ついさっきまで確証がなかったがな……だが、『リピート』の力があるならば、確かに奴は無敵だ、今、私たちがそうであるように」
「そういうこと」

リゼちゃんの小さな呟きを、コルクちゃんは肯定した。
そう、私がこうなった原因にして、目的を達成するためにもっとも確実な手段。

「鋼鉄巨人が持つ、最大にして、無敵と呼べる能力、それは『刻廻り』ーーあなたたちが『リピート』と呼んでいる力にある」
「それって……」
「鋼鉄巨人は、自らに不利な戦局を無かったことにし、過去に戻る力を持っている、と推測される」

私の頭に、一つの経験が思い出される。
里で戦っていた際、ループを重ねるたび、私に寄ってくるゴーレムの数が増えていた。
学習し、私を抑えるために的確に増援を配置していたのだ。

リピート。
リピート。
リピート。

何度でも時を戻して戦う、ならば、決して敗北はない。
何十何百何千の繰り返しの果てに、確実に目標を達成するだろう。
わたしがそうであるように。

セーブデータをロードするように不利な状況をやり直せれば、決して、負けることはないのだから。
すべてなかったことになり、都合の良い結果だけが現実となる。
悪魔の兵器だ、と私は思った。

179 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:30:46 ID:zIZIY3hSc1
今回はここまでです。

180 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:32:46 ID:jjzyExAzzU
うぽつ!

181 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:34:12 ID:jjzyExAzzU
鬼畜な兵器もあるもんだ

182 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:56:04 ID:/idfEPzsHK
リゼちゃんとココアちゃんの闘いがやばいっす(語彙力崩壊)

リピート…………タスクキル…?

183 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/16 00:16:40 ID:zIZIY3hSc1
>>180
>>181
感想ありがとうございます。
そうですね、鬼畜兵器ですね。
本編のソルトちゃんいわく、一機で世界中を侵略できる計算だったとのことなので、それらしくしてみました。

>>182
タスクキルでの戦闘リセットには私もお世話になりました……主にランプの限界チャレンジで。
敵にとっては私たちこそが、このssでの鋼鉄巨人のような存在なのかもしれませんね、あれやったら絶対に負けませんし……(勝てるとは言ってない)

184 名前:阿東[age] 投稿日:2020/02/16 06:42:45 ID:QJ2DjL.xQN
>>「その思想は、無辜の人を破滅へと導く悪魔の論理だ! お前のような優しい子が、何故わざわざ地獄に身を落とす必要がある!」

最近連載が終わったばかりのあるきらら作品の、あのキャラのことを思い出しました。(リゼに似た姿や性格と言うのが皮肉を感じる・・・)

事件に関わろうとする一般人を遠ざけようとするかっこいい刑事さんみたいですね。

185 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/16 12:47:30 ID:oGD7BHcy7q
>>184
ありがとうございます!
心情はそんな感じです、リゼちゃんって有事の際には自分が率先して皆を守らなければならない、というふうには思ってそうなので。
まぁ、台詞は趣味全開ですが……

186 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:10:55 ID:rYkz6qnl9A

「それは、どうすれば壊せるの? 『刻廻り』とやらの穴はどこにあるの? どうすれば、あいつを殺せるの?」

私は思わず立ち上がって言っていた。
漸く出てきた元凶の情報。
それを叩けば、全て終わるのだ。

「ココア、落ち着いてください……今から説明します」

ソルトちゃんはひとつ咳払いをし、説明を始めた。

「まず、前提としてですが……『時間を操る魔法』は、一部の例外を除き実現していません」
「あ……それは聞いたよ、技術的な問題って、でも、『一部の例外』って?」
「海の国の姫君とその眷属が、それに近い魔法を行使する、という報告書を読みました、個人でも限定的な使用であれば可能です、しかし、時間移動クラスの大魔法は不可能です、何故かわかりますか? 非常に簡単な理由です」
「え? それは……」

ソルトちゃんは私に聞いてきた。
時間を操る魔法そのものは、ある。
しかし時間移動などの強大な魔法は使えない。
その、簡単な理由……。

「簡単な、理由……エネルギーが足りない?」
「ご名答です」

ソルトちゃんは満足げに言った。

「時間移動は、明らかに理から外れた行為、それを現実にするのに必要なのは、まず莫大なエネルギーです、それこそ、国家の使用する数十年分の総エネルギーに匹敵する程の、そんなエネルギーを発生させる機関はこの世には存在しません……一つの例外を除いて」
「例外……? あっ……」

187 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:12:36 ID:rYkz6qnl9A

一つの例外……。
私は思い出した、以前、筆頭神官アルシーヴによって引き起こされた混乱。
女神にかけられた呪いを解くため、彼女は膨大なクリエを求めた。
クリエを内包する鉱石ーー『星彩石』など、クリエを産み出すためのあらゆる手段をかき集めたが、全く足りなかった。
そして彼女は、クリエを産み出すために、ある禁呪を使ったのだ。
それはーー

「……まさか、『オーダー』? 」
「正解です、冴えますね、ココア」
「私とソルトの推測では、鋼鉄巨人は時間移動のためのエネルギーに『オーダー』を利用していると考えられる、そして、それが『刻廻り』の唯一の未完成部分」
「どういうこと?」
「ココアとリゼは、『リピート』に巻き込まれてた、それはなんで? どうして鋼鉄巨人は単身でリピートをしなかった?」

そうだ。
それならば、私やリゼちゃんをリピートに巻き込むことにメリットはない。
自分だけが戻ればいいはずだ、そうすれば、私たちは行動の悉くに先回りされ、敗北が確約される。
そうしない理由……。

「……それが必要だったから、か? 私か、或いはココアが『リピート』に巻き込まれることが、時間移動の前提条件だから」
「そういうこと、『オーダー』は本来、呼び出したクリエメイトを『クリエゲージ』に閉じ込めることでクリエを吸収する、でも、ふたりはここにいる、鋼鉄巨人は時間移動をするにあたって、非常に煩雑な肯定を踏まなければならないらしい、でも、遠くない内に完成すると思われる、そうなったら……」

もしそうなれば、私もリピートに干渉することができない。
終わりだ。

188 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:14:25 ID:rYkz6qnl9A

「『刻廻り』を完成させないようにするには、どうすればいいの?」
「石板に書いていたところによると、鋼鉄巨人でリピートを完結させるのには、『パス』の力が必要」
「それは……きららちゃんの持っている力……まさか」

私は気づいた、頭から冷水をかぶったようだった。

きららちゃんはここにいない。
そして、コルクちゃん曰く、3日前にきららちゃんは、カイエンに敗北している。

ソルトちゃんはそんな私の表情を見て、その顔を曇らせる。

「3日前、この町での戦闘の際、きららはカイエンに連れ去られた、『刻廻り』の安定化に召還士ーー『パス』の力が必要だから、恐らくはきららをクリエゲージに閉じ込めることが、完成の条件の一つ」
「3日前……3日前、か」

まただ。
まだ、変えられない事象。
今から戻っても、きららちゃんを救うことはできない。

「ココア、その様子だと、『リピート』をしてもきららを助けることはできないみたいですね」
「でも、ココアが『リピート』を繰り返しているということは、まだ『刻廻り』は完成していないということ、今しかないとソルトが言ったのは、そういう意味、ココアがリピートを繰り返す限りは、恐らく『刻廻り』の完成はない」

そうだ、まだ間に合う。
鋼鉄巨人を倒しさえすれば。
でも……。

189 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:21:31 ID:rYkz6qnl9A

「これは私の推測だが……ココア、今何周目だ?」

考え込む私に向かって、リゼちゃんは静かに話しはじめた。

「……99周目、今日が3日目で、今夜、日付を跨ぐころまでの3日間を繰り返していた」
「私は95周目だ、6日前から3日前までの時間を繰り返していた、そして、私にはお前の行った99周の記憶がない、リピートの後の時間は『初めて』だ」
「え……!?」
「おそらく、私からは既にリピートの力が失われている」
「そんな……」

リゼちゃんは無情に告げる。
やっと、孤独に戦わずに済むと思ったのに……。

私を見て、リゼちゃんは無念そうに俯きながら、言葉を続けた。

「……そして、それが確かなら『リピート』には、主導権がある、一度に戻れるのは、鋼鉄巨人と、あと一人だけだ。
前が私で、今はココアがその主導権を持っている。
そして敵は、その主導権を他の『オーダー』で召喚された人間に移し変えることができる、更に、リピートの際に戻る時間も、変えることができる」
「そんな……」
「多分、リピートの際に戻る時間を変えるには、主導権を他の『オーダー』によって召喚されたクリエメイトに移さなければならない。
きららを誘拐した時点で敵の目標の一つは達していたから、主導権を私からココアに移し替えて、その直後に戻るようにしたんだ……ゲームの『セーブ』みたいに」
「そんな……」

また、一人か。
せっかく、同じ境遇の人と、ずっと会いたかった人と、会うことができたのに。
リピートが起これば、また無かったことになる。
私は……辛い、耐えられるだろうか。

190 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:23:18 ID:rYkz6qnl9A

「ココア……すまない、私にはお前と同じ時間を生きることはできない、私が止められなかったせいで、お前にすべてを背負わせてしまった……いっそ、怒ってくれても構わない」
「……」
「だけど……お前が何度繰り返そうと、私はお前の為に死力を尽くすことを誓う、お前は孤独じゃあない」

リゼちゃんが言う。

「私も同じ気持ち、今ここで死力を尽くさなければ、多分後悔する、微力ながら力になる」
「コルクだけじゃない、おれにも、守りたいものがたくさんある、そのために、おれの命を預けるぜ、ココア」

コルクちゃんとポルカちゃんが言う。

「シュガー、あんまり頭よくないから、みんなの言ってることよくわかんない、けど……」

シュガーちゃんは俯いて、しおらしく言った。
天真爛漫な彼女だが、流石に世界の危機とあっては緊張するのだろうか。

「……もし世界を救っちゃったりしたら、シュガーいっぱい、いーっぱい誉めて貰えるよね!?」

そんなことはなかったらしい。
顔を上げたシュガーちゃんは瞳をきらきらとさせて言った。

「……はぁ、全くシュガーは、緊張感というものがありません」
「むぅ……」
「ですが、それでこそシュガーです、シュガーとソルト二人なら、その力は2倍を遥かに越える」
「ソルト……」
「七賢者ソルト、シュガーは、貴方に力を貸しましょう、大船にのったつもりでいればいいです」

「みんな……!」

いや、きっと耐えられる。
また一人で繰り返さなくちゃならないかもしれない、でも。
回りを見る。

「ありがとう、でも、ひとつだけ」

コルクちゃん。
ポルカちゃん。
シュガーちゃん。
ソルトちゃん。
そしてリゼちゃん。

彼女らは、力になってくれる。
死力を尽くして戦ってくれる。
私は、一人ではない。

ーーでも、だからこそ。

191 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:28:44 ID:rYkz6qnl9A
「ーー死力なんて、尽くさないでほしい」

私は言った。
呟くような声、だけどその声は、強く空間に響いた。

「ココア……」
「わけのわからないことを言っているのはわかってる、多分私ひとりではカイエンには勝てない、ましてや鋼鉄巨人なんて、ありとあらゆる犠牲を払った上で、それでも勝てるかわからない……それでも」

強く言う。
それは、私の初志だ。
絶対に忘れてはならないものだ。

私が欲しいものは一つ『何も変わらない明日が欲しい』それだけだ。

しかしその願いは、この中の誰が欠けても失われるもの。
それを叶えることができるのは、口にすることができるのは、文字通りの全能の神、或いは絶対強者だけ。
私はーーあまりにも小さな存在だ。

『人は神にはなれはしない、神ですら全能にはなれない』

ライネさんの言葉の意味が、今となってはよくわかる。
これ程までの力を得ても、守りたいものすら守ることが出来ない、私の手は短くちっぽけで、掬っても救っても隙間からこぼれ落ちていく有り様だ。
だけど、だからと言ってあきらめることなど出来はしない。
目の前で大切なものを失う、心を引き裂かれるような痛みを、許容することなどできない。

だからこれは、ただの祈りだ。
自らの力を尽くした上での、祈り。

「それでも……おねがい、みんな死なないで……!」

私は誰に言うでもなく、ただ誰も死なないように、と祈った。

きっと、なんの保証もありはしないのだろうけど。
みんなは、静かに頷いてくれた。

192 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:30:41 ID:rYkz6qnl9A

そして夜。
私たちは、鋼鉄巨人があるという北の遺跡への侵入を果たした。

「先程よりも建造が進んでいる……?」
「もう完成しちゃうの?」
「そうはさせない、そのために、私たちはここにいるんだ」

リゼちゃんとシュガーちゃんが言う。

遺跡の内部は、減ったとはいえ未だに相当数のゴーレムが徘徊しており、危険だ。
そのため私達は、攻撃部隊と陽動部隊にメンバーを分けた。
私、リゼちゃん、シュガーちゃんと火力が高い組が攻撃、ソルトちゃん、コルクちゃん、ポルカちゃんが陽動部隊だ。

「もうすぐゼロアワーだ、陽動部隊がドンパチ賑やかにやったところで、私達が鋼鉄巨人を叩く、出し惜しみはするな、最初から全開で行くぞ」
「むふふ……場違いだけど、シュガーちょっとワクワクしてきちゃった」
「油断は禁物だよ、シュガーちゃん」
「わかってるよぉ、ココアお姉ちゃん、これでも七賢者なんだからね!」
「シッ、静かに……ゼロアワーまであと10秒だ」
「わかったよ」
「いえっさー!」

ついにここまで来た、そして今、始まろうとしている。
戦力差は未だに大きい、さらに敵の戦力は未知数。
しかし、やるかやれないかではなく、やるしかないのだ。
だからこそ、一人も逃げることなく、この場にいる。

「5,4,3,2,1ーー」

いま、この場所で、悲劇のすべてに幕を降ろすためにーー!

「時間だ! 攻撃開始!」
「とつげきー!」
「行くよ! 二人とも!」

時間になったと同時に、神殿を爆発の振動が襲い、陽動部隊が行動を始めたことを知らせた。

幾分手薄になった回廊を駆け、一路、鋼鉄巨人の元へ。

「っ!」

しかし、敵の数はゼロとはいかない、十体程度のゴーレムが前方を塞ぐ。
私は剣を引き抜き、その刀身にクリエの力を貯める。

193 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:33:14 ID:rYkz6qnl9A

「シュガーが一番乗りー!」

スキル『カスタードスマッシュ』ーー

その前に、シュガーちゃんが背に帯びた大剣を翻し一回転、敵襲弾に向かい思い切り投げつける。
クリエの力を纏ったそれは激しく回転しながら敵集団に迫り、防御のために構えられた剣ごとその胴体を叩き斬った。
攻撃の勢いはそれだけにとどまらず、その奥にいる敵も同様に切り裂いていく。
ブーメランのように戻ってきた剣をシュガーちゃんが器用にキャッチすると同時に、十体近くのゴーレムの胴から上がその場に滑り落ちた。

「やるね、シュガーちゃん!」
「ふふーん♪ シュガーだけど攻撃は甘くないんだよぉ」
「二人とも気をつけろ、まだ来るぞ」
「大丈夫! みーんなこのシュガー様がやっつけちゃうもんね!」

更に奥に現れたゴーレムの集団に、シュガーちゃんは突撃した。
大剣が翻り、ゴーレムたちが砕け散っていく。
まるで、暴風だ。
きゃっきゃと笑いながら繰り出される一撃は、一体どこにそんな力があるのか、恐ろしい威力を持っていた。
横に薙げば複数のゴーレムが吹き飛び、地面に振り下ろせば衝撃波でゴーレムが粉々になる。
このまま暴れれば遺跡が崩れるのではないかと錯覚するほど、シュガーちゃんの戦いぶりは凄まじかった。

「さすが七賢者……リゼちゃん、私達も負けてられないよ!」
「当然だ! 行くぞ!」

194 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:37:55 ID:rYkz6qnl9A

目の前に現れたゴーレムに、リゼちゃんは神速の突きを繰り出す。
一瞬で顔、胸、腹に風穴を開けられたゴーレムは、次の瞬間には煙になって消えた。

「退け! 人形どもっ!」

リゼちゃんの戦い方は、美しかった。
シュガーちゃんとは対照的だ、最小限の動き、最小限の攻撃で、確実に敵の急所を貫き、煙に還していく。

「よぉし! 私の華麗なる技を見ててね!」

二人に追従するように、私もゴーレムの前に躍り出た。

剣を振り下ろそうとするゴーレムを、その前に幹竹割りにする。
横薙ぎに振るわれた剣を打ち払い、その胴を袈裟斬りにする。
上下左右、敵の間を縫うように足を捌き、踊るようにゴーレムを次々と切り裂いていく。
私の通った跡には、ゴーレムの首がごろごろと転がった。

私たち三人を止められるものはなく、その全てが瞬きのうちに薙ぎ倒された。

そうこう戦いを続けていると、いつしか私たちは広間に出た。
高さだけでも数十メートル以上はありそうな、かなりの大広間。

そして、そこにそれは鎮座していた。

巨大な一対の足。
全身に排された重厚な装甲と、その継ぎ目から覗く無数の光。
そしてそれに挟まれるように配置された、巨大な目玉のような器官。
それがぎょろりと蠢いて、こちらを見据えた。

195 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:38:55 ID:rYkz6qnl9A

「これが……」

目玉の内部の瞳のような器官が大きくなり、その周囲が青い光を纏う。

「鋼鉄巨人!」

光が解き放たれる。
人一人を包み込むほどの太さの光条が、まるでホースで水を撒くように私達の視界を薙ぎ払う。

即座に散開した私達を追いたてるそれはまさしく害虫駆除の如く執拗さだった。
直撃した場所の地面は赤熱、溶融しており、石畳がそうなってしまうのであれば、人間など一溜まりもないだろうということは容易に想像できる。

そんな威力の攻撃を回避しながら、私たちはそれぞれにクリエを貯めはじめる。

「みんな、一気に行くぞ! 総攻撃をかける!」

とっておき『リゼの特性ラテアート』ーー

「私は、お姉ちゃんだから!」

とっておき『お姉ちゃんに任せなさい!』ーー

「甘いだけだと思ったら大間違いだよぉ!」

とっておき『ふぁいなるしゅがーすぺしゃる』ーー

それぞれの最大の攻撃が、一斉に鋼鉄巨人へと放たれた。

196 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:42:46 ID:rYkz6qnl9A

ーー同時刻。

「くっそぉ! 凄い数だぞ!」
「陽動をやってるのだから、当然、でもこれは……きつい」
「ソルトたちの目的は敵を引き付けることにあります、二人とも、特にポルカは命を最優先に行動してください


ソルトたち陽動組は、多数の敵の波を押し返しながら、次々と現れる敵を捌いていた。

「攻撃は最大の防御……!」

地を蹴り宙を舞って、コルクは敵のど真ん中へと降り立つ。
無数の敵が、一斉に剣を向け、その細い体を刻まんと迫る。

スキル『砂塵嵐』ーー

しかしそのすべては、短刀によって捌かれた。
自信を取り巻くように放たれた無数の斬撃は、周囲のゴーレムを瞬く間に刻み散らす。

更に、周囲の敵ーー正確にはコルクの攻撃を浴びたもの全ての動きが、がくがくと揺らぎ、止まる。

「ポルカ!」
「あいよ!」

スキル『ぶっぱなす』ーー

ポルカは宙に飛び、背に負った巨大な戦槌を地面に向かって勢いよく振り下ろす。

地面が砕けひび割れ、発生した衝撃波が動きの止まったゴーレムたちの悉くを吹き飛ばした。

「今回は出し惜しみはしません、一気に数を減らします……!」

スキル「オニオンスープ」ーー

ソルトはハンマーを横薙ぎに振るう。
するとそこから巨大な竜巻が発生し、軸線上の敵を吹き飛ばした。

197 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:46:47 ID:rYkz6qnl9A

「ソルト!」

コルクの声と共に、なにかが竜巻の中に飛んでいき、割れた。
小型の試験管ーーその中に入っていた薬剤は風に乗って広がり、固まっていた敵ゴーレム全体を毒の風が襲う。
強力な麻痺毒に犯されたゴーレムたちは、その動きを大きく鈍らせた。

「いいサポートです、コルク! やああぁぁっ!!」

ソルトがハンマーを振り下ろすと、それに追従するように巨大な風の槌が敵に叩きつけられ、動きを止めた複数の敵を押し潰した。

「今です! 攻撃開始っ!」

ソルトの号令とともに、複数の影が踊り出て、足並みの乱れたゴーレムを次々と切り裂いていく。

それらは一様に黒い毛並みを持ち、金色の瞳が爛々と輝き獲物を見据える。
ゴーレムよりも一回り以上小さな体格にも関わらず、一歩も退かず、それどころかゴーレムを押し返す怒濤の勢いを持つ、狩人の群れ。

「くー(なんて数だ)」
「くくー(だとしてもやることは変わらん)」
「くー(あぁ、潰すぞ)」

それは、複数のクロモンソルジャー達だった。
ソルトとシュガーが現在動かせる唯一の戦力。
剣の扱いを極め、一人の戦士として完成した彼らの実力は、普通のクロモンとは比べるまでもない。

その力もあり、戦いは優勢に傾き始めていた。

「いい感じだな! このまま押しきって、鋼鉄巨人のところまで行っちまおうぜ!」
「いえ、待ってください……これは、敵の攻撃が薄い……?」

198 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:51:03 ID:rYkz6qnl9A

「な、何だ!?」
「ポルカ、落ち着いて、止まって」
「これは、この感じ……」

巨大な力が近づくのを、ソルトは感じていた。
かいた冷や汗が、汗に変わる。
周囲の気温が一気に上昇していく。

「……まさか!?」

叫ぶ、次の瞬間、天井が崩落した。
どかん、となにかが落着し、土ぼこりが舞う。
直後、喉と肺を焼くほどの熱気が、周囲を包んだ。

煙が晴れていく。
そこにあったのは、地獄の炎の色をした鎧。
燃え盛るような赤髪。

「君たちか、やはり来たな」
「カイエン……!!」

炎の戦士、カイエンの姿が、そこにあった。
無造作に剣を振るう、周囲に炎と火の粉が舞う。

「七賢者に、少女よ、よくぞここまで逃げずに来たな」
「ソルトは七賢者です、この国……ひいてはこの世界が危機にあるなか、逃げるなどと言う選択肢は存在しません」
「ほう、幼いながら、その勇気には敬意を払おう、しかし、蛮勇は身を滅ぼすぞ? 君はまだ若すぎる」
「ソルトを子供扱いしないでください、シュガーと違い、私は大人のレディなのです」

ソルトは余裕を持って言い、巨大な戦槌を構える。
膨大なクリエが彼女を取り巻き、暴風が周囲の炎をかき消した。
その力は、大人子供などという括りは関係なく、尋常ではないものであった。

「それに、このソルトが、強敵に無策で挑むおバカさんだとお思いですか?」
「ほう……?」
「ココアたちの手を煩わせるまでもない、貴方にはここで死んでもらいます」

とっておき『オペレーション・オブ・ソルト』ーー

クリエが収束、光となって拡散する。
その光がなくなると、そこには無数のソルトがいた。
それらは一斉に得物を構え、臨戦態勢をとる。

「さぁ、進撃開始です!」

叫びと共に、もうひとつの戦いの火蓋は切られた。

199 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/22 23:54:54 ID:rYkz6qnl9A
今回はここまでです。

200 名前:阿東[age] 投稿日:2020/02/22 23:57:06 ID:76Y9TQIBu9
お疲れ様です!

>>197

まさかクロモンたちまで登場するとは・・・。数が多いからこその力でしょうね。

201 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/23 00:05:13 ID:rYkz6qnl9A
>>200
感想ありがとうございます!

メインクエストでも本人のとっておきでもソルトちゃんは複数のクロモンを使役してますから、直属の部隊くらいはあるのかなと思ったので、登場してもらいました。
キャラが違うのは……ただのクロモンでなくソルジャーだから……

202 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/23 08:27:03 ID:M3tFmGPUgY
お疲れ様です!今回も手に汗握りました!

いよいよ両陣営手札を出してきた感じですね。残された手札は

・捕まっているきらら
・持ち出された専用ぶき(これはリゼかな?)
・リゼの前に『リピート』していた人がいたか
・ココアの死の呪いについて

辺りでしょうか。次回も楽しみにしています!

203 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/23 20:43:02 ID:6ubKmrub94
>>202
いつもありがとうございます!
仰った伏線のいくつかは今後の展開に深く関わってくる予定です。
遅筆ですが、今後も読んでいただけると嬉しいです。

204 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 22:06:26 ID:QjvjGgBp8G

掲げられた砲口が膨大なエネルギーの奔流を放つ。
巨大な竜巻が遺跡を破壊し無数の礫を巻き込みながら迫る。
絢爛たるクリエの光を纏う大剣が流星の如く勢いで振り落とされる。

同時に放たれた3つの『とっておき』、鋼鉄巨人に対するリゼちゃんの提案した戦術。

ーー発見次第、持ち得る最大の力でもって、防御、回避、反撃、その全てを行う前に敵を消し去る電撃作戦。

破壊出来ずとも、初激で損傷を与えることができれば、確実に勝利への道は近づく。

「な……っ!?」

ーーしかし。

すべての攻撃は、巨人へ『触れることすらなかった』

リゼちゃんの放った砲撃は飛沫となって消え、シュガーちゃんの大剣は弾き返され、私の放った竜巻は霧散して空気に溶けた。

見ると、鋼鉄巨人の周囲を淡い光が覆っている。
恐らくはそれが物理的な障壁となって、私達の攻撃を防いだのだ。

205 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 22:07:46 ID:QjvjGgBp8G

「バリアだと……!?」

リゼちゃんの叫びを嘲笑うかのように、鋼鉄巨人の足が動き、ゴミを掃くように周囲を薙ぎ払っていく。
動きは鈍いが、あれだけの大質量、当たればただでは済まないだろう。

それを後退して避けて、私たちは集まった。

「リゼちゃん! どうする?」
「シュガーの必殺技が効かないなんて聞いてないよー!」
「落ち着け! 攻撃を続ける、あれだけの大質量、無理をしていないはずがない!」

続けて、中央の目からビーム砲が放たれる。
大気を焼き迫るそれを、リゼちゃんは盾で受け止める。
かろうじて弾き飛ばしたそれは、遺跡を貫いて外の雨を中に入れた。

「あのバリアを突破し、足を叩くぞ! バランスを崩すことができれば、中央の頭は後でどうとでも料理できる!」
「でも、どうやってバリアを突破するの?」
「防御壁を周囲全域に展開するのは非効率だ、どこかに防御の薄いところがあるはず! 手当たり次第にブチかませ! 」
「わかった!」

言うやいなや、シュガーちゃんは弾丸のように鋼鉄巨人に突っ込んでいく。
それに反応して、鋼鉄巨人の目が淡く輝く。
攻撃の合図、またさっきのビームが来る。

「シュガーちゃん!」

リゼちゃんのようなナイトでもなければ、あれを受けるのは不可能だ、一瞬で蒸発させられる。

206 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 22:09:19 ID:QjvjGgBp8G

ーーしかし、それが放たれる直前、シュガーちゃんは行動していた。

「やらせないよー!」

スキル『スター・シュート』ーー

シュガーちゃんの手が掲げられ、そこに一瞬で複雑怪奇な魔方陣が形成される。
次の瞬間にはそれは無数の岩の弾丸となって、狙いたがわず鋼鉄巨人の頭を撃ち抜く。

しかしそれは、再び現出した光の壁によって、何の手ごたえも与えず砕け散った。
鋼鉄巨人の頭部の砲口が光を湛える。

直後に、それは極太のビームとなって放たれた。

それは着弾した地面を爆砕、周囲の地面を溶融させるほどの威力、直撃したならば、跡形も残らないだろう。

「そーれ! よいしょ! 」

スキル『スター・ブレイク』ーー

しかし、無数に放った魔法を目眩ましに、シュガーちゃんは既に上空へ跳んでいた。
クリエの光を纏った剣が、重力を乗せて大上段より振り下ろされる。

再び光の壁が展開、シュガーちゃんの剣とぶつかり合い、激しいスパークが散る。
しかし一瞬の拮抗の後、シュガーちゃんは虚しく弾かれた。

「もー! 硬ったいよぉ!」

207 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 22:11:21 ID:QjvjGgBp8G

シュガーちゃんは空中で体制を建て直し、身軽に着地する。
しかし、そこに鋼鉄巨人の巨大な足が迫る。

「やば……!」
「ーーやらせないよ!」

それが振り落とされる前に、私は動いた。

スキル『お姉ちゃんは許しませんよー!』ーー

私は鋼鉄巨人の足へ向かい、高速の三連激を放った。
その攻撃も、例に漏れず光の壁に阻まれる。
しかし、僅かに鋼鉄巨人の足の軌道をずらすことはできた。
足がシュガーちゃんの傍らを打ち砕く、地面が爆砕し、発生した無数の礫を、シュガーちゃんは大剣を盾にしてやり過ごした。

そして、その止まった足に向かい、私は切りかかった。

先程の攻撃、ダメージは通らなかったが、鋼鉄巨人を衝撃で動かすことはできた。
なれば、その防御は完璧なものではないはずだ。
ダメージを蓄積させれば、いつかは破壊できる筈。

「はあっ!」

ばちん、と光が走り、私の剣を止める。
見た目に反して硬い、まるで鋼鉄をぶったたくように、手に痛みと痺れが走る。

「っ! まだまだ!」

負けじと切りつける。
いつもの踊るような剣技とは違い、地にしっかり足をつけての強烈な一撃。
ゴーレムならば5体程度並ばせてもまとめて切り裂く威力の一撃、それを連続で放つ。
まるで岩でも斬っているような、重い感覚だけが腕に残った。

208 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 22:12:41 ID:QjvjGgBp8G

それに苛立ったのか、鋼鉄巨人は足を動かし、サッカーのキックのように私に蹴り上げを放った。

「うおおおおぉぉぉぉーっ!!」

ーースキル『メモリア・ストライク』

それに向かい、真正面からスキルの刃を放つ。

ーーしかし、鋼鉄巨人の足はそれをものともせず弾き返し、私に迫った。
先程とうってかわって、その軌道を逸らすことすらできない。

「っ!」

直撃すれば間違いなく死ぬ。
体格差は大人とネズミほど、全身の骨を打ち砕かれ、内蔵が悉く破裂し、遺跡の壁に叩きつけられた私は面影すら無いだろう。

「ココア!!」

リゼちゃんの叫びが聞こえる、間に合わない。

「くっ……! まだ! まだ終われない!」

とっておき『燃えるパン魂』ーー!

剣先に爆炎が出現する。
私はそれを迫り来る鋼鉄巨人の足へと投げつけた。
爆発、凄まじい焦熱と爆風が周囲を襲う。

ーーその直後に、鋼鉄巨人の足が振り抜かれた。

大型車両の交通事故の如く凄まじい衝撃が私を襲い、体がゴルフボールのように大きく吹き飛ぶ。

209 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 22:14:19 ID:QjvjGgBp8G

攻撃の直前に見た、リゼちゃんとシュガーちゃんの顔には、諦めが浮かんでいた。
耐えられる筈はない、と。

私は衝撃を殺しきれず、地面に何度も何度も打ち付けられる。

ーーしかし、私は吹き飛びながら剣を地面に突き刺し、数十メートルもの地面を両断しながら、静止した。

「はぁ、はぁ……」

成功した、どうにか成功した。
咄嗟に放ったとっておきによる爆発で、衝撃を和らげたのだ。
カイエンの行っていた防御方法、かなりの荒業だが、役に立つとは思わなかった。

しかし、鋼鉄巨人の目が光り、更にビーム砲による追撃が来ようとしている。
即座に回避行動ーー

「ーーぐうっ!」

体に痛み、動きが一瞬止まる。
鋼鉄巨人の瞳が瞬き、凄まじい熱気が肌を焼く。

しかし、私を焼き払うはずの攻撃は、間に入ったリゼちゃんによって止められた。
リゼちゃんの盾によって弾かれたビームが四方八方に散り、真後ろを除いたあらゆる場所を薙ぎ払っていく。

「ココア、無茶はするな!」
「リゼちゃん……ごめん! ありがとう!」

210 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 22:16:05 ID:QjvjGgBp8G

盾に弾かれた閃光が止むと、その先には鋼鉄巨人の足裏があった。
ビームではリゼちゃんを倒せないと理解したか、今度は物理的にこちらを潰す魂胆か。

「このぉ、お姉ちゃんたちをいじめるなー!!」

スキル『カスタードスマッシュ』ーー

それを見かねたシュガーちゃんは一回転し、円盤投げの要領で手に持つ大剣を鋭く投げ飛ばす。

先程十数体のゴーレムの上、下半身を泣き別れさせた一撃、しかし鋼鉄巨人の頭部に投げられたその先には、光の壁が展開している。

大剣は光の壁に衝突、閃光をあげながら拮抗するが、数秒の後に虚しく弾かれ、その場に落下していく。

「やられるものか! はあああぁぁぁっ!」

膨大な質量が空気を引き裂いて迫り来る。

「リゼちゃん!」

リゼちゃんの構えた盾と鋼鉄巨人の足が激突し、衝撃波が周囲を薙ぐ。
リゼちゃんの足元がクモの巣上にひび割れ陥没していき、その桁違いの威力をありありと示していた。
正しく象に踏まれる蟻の光景、普通ならなす術もなく圧死している。

211 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 22:17:20 ID:QjvjGgBp8G

「ぐっ……ああああぁぁぁぁぁっ!!!」

スキル『ここは私の見せ場だな!』ーー

しかし、彼女はクリエメイトだ。
リゼちゃんは耐えていた、スキルによって展開した光の壁が、鋼鉄巨人の足をギリギリのところで抑えていた。

しかし、壁がひび割れる、限界まで張り詰めた筋肉が千切れる音が聞こえる。

破滅的な圧力に曝された盾が赤熱し、金色に輝く。

リゼちゃんの右手に構えられた拳銃が連続で火を吐き続ける、この銃を撃ち続ける限りは、自分が耐える限りは、誰かが死ぬことはない、そう願うように、ただ。

「ぐっ……! 二人とも、今だ! コイツの足を潰せ!」

リゼちゃんが叫ぶ。
敵の攻撃を一点に引き受け、他のメンバーを攻撃に集中させる。
ナイトたるリゼちゃんの真骨頂と言える。
しかし、この威力の攻撃では、流石のリゼちゃんでも長くは持たない。

「リゼちゃん……! わかった、シュガーちゃん、行くよ!」

212 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 22:20:08 ID:QjvjGgBp8G

鋼鉄巨人の足の範囲から逃れた私は素早く側面に回り込み、攻撃を放つ。
もう、誰の死ぬところも見たくはないから。

「お姉ちゃんをいじめるなって言ってるでしょー!!」

スキル『シュガーランブル』ーー

弾かれ何処かに行った剣を捨て、シュガーちゃんは身一つで鋼鉄巨人に飛び込んだ。

獣の如く鋭い動きで一気に間合いを詰めた彼女は、鋭い正拳突きを放つ。
空気を穿ち、その衝撃波ですらそこらの魔物を殺傷せしめる威力を持つであろうそれを、シュガーちゃんは続けざまに繰り出した。

「これで!」

スキル『メモリア・ストライク』ーー

同時に、私の剣閃は巨大な風の刃を発生させ、左右から挟み込むように鋼鉄巨人を襲う。

「くっ……」

しかし、私達の全力の攻撃ですら、鋼鉄巨人のバリアを貫くことはできない、剣は拳はバリアと干渉し激しい電撃を放ち、止まる。

213 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 22:27:00 ID:QjvjGgBp8G

このバリアは抜けない。
まだ足りないのか、まだ勝てないのか、やはり私達だけではーー

「ココアおねーちゃん!」
「!」

シュガーちゃんの声。
彼女を見る、その瞳、その心は折れてはいなかった。
シュガーちゃんは、更に拳を振り下ろす。

「まだソルトが戦ってるもん、シュガーは絶対に諦めない!」

スキル『カスタードパンチ』ーー

拳&#25802;がバリアを叩き、光の波紋が広がり消える。
シュガーちゃんはまだあきらめていない、まだ一度たりともまともなダメージを鋼鉄巨人に与えられていないと言うのに。

「私は……! そんなもの……!」

スキル『ホイップチョップ』ーー

続いて鋭い手刀がバリアの表面を裂く、波紋が揺らぐ。
その手には剣すらない、それでもなお自らの四肢を武器として戦い続ける。
私より一二回りも小さな子が、だ。

だと言うのに、私は何だ。
私は……私は、一体なにを考えている、なにをやっているのだ。
折れないと誓ったのではないのか。
誰の死ぬところも見たくないのではないのか。
何も変わらない明日を、取り戻すのではないのか。
そんなもの、そんなものは。

「お姉ちゃんじゃ、ない!!」

スキル『狙ったエモノは逃がさない!』ーー

剣が炎を纏う。
魂と気合と、希望とを薪として燃え盛る炎。
それは目の前の絶望を、あらゆる全てを切り裂き拓くものと、私は信じた。
火の粉の軌跡を残しながら、それを大上段から振り落とす。
僅かな手応え。
光の壁に、小さな亀裂。
亀裂に向かい剣を突き込む。

214 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 22:28:40 ID:QjvjGgBp8G

「消えろぉぉぉ!!」

雄叫びをあげながら、引き裂くように剣を一閃。
障子紙を破くように、光の壁が大きく『裂けた』。

「やった……!」

その瞬間、鋼鉄巨人は初めて、『駆除』以外の行動ーー『後退』した。
リゼちゃんを潰し殺そうとしていた足が離れ、地響きをあげながら、鋼鉄巨人が大きく距離を離していく。

その頭部が瞬き、発狂したように無数の光弾が放たれる。

その一つが、地面に膝をつき疲労困憊のリゼちゃんを狙う。

「リゼちゃん!」

叫ぶ、リゼちゃんは動かない、動けない。
鋼鉄巨人の連射する光弾は、まともに当たればいくらナイトのリゼちゃんとはいえ塵芥と化すだろう威力を持っていた。
走る、間に合わない、距離が遠い。
頭が痛い。

僅か数メートルであろう距離が、今は地球の反対側ほどに遠く感じる。
目に映る全てがスローモーションとなり、まるでリゼちゃんの死ぬところを余すところなく脳に焼き付けろと言うかのように感じた。

届かない、もっと、もっと早く動ければ、リゼちゃんを助けられるのに。
体の動きは致命的な程に遅い。
その事実は、あまりにももどかしく、あまりにも悔しかった。

私に、もっと力があればーー

頭が痛い。

215 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 22:29:20 ID:QjvjGgBp8G

「え……?」

そのとき、世界が、歪んだ。
脳震盪でも起きたのかと思った。
しかし、体も思考も普段よりむしろ早く動きーー

ーー絶対に届かないはずの距離にいたリゼちゃんを、私は横抱きにしていた。
後方で爆発、爆風が髪を激しく揺らす。

「……!?」
「コ……ココア、すまない、大丈夫だ」
「リゼちゃん……こちらこそ、守ってくれてありがとう」

疑問はあとだ。
私は鋼鉄巨人に向き直り、一気にその距離を詰める。
バリアを破壊した今なら、鋼鉄巨人に攻撃が通じるはず。

光の雨をくぐり抜け、その装甲へ向けて剣を振り下ろすーー

ーーしかしその攻撃は再度、光の壁によって阻まれた。

「な……っ!?」

216 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 22:30:21 ID:QjvjGgBp8G

硬直する私を、鋼鉄巨人の足が襲う。
後退して回避し、私たちはまた、3人で集まった。

「再生が早すぎる……! 10秒ちょっとしかないよ!?」

私は思わず叫んだ、いい加減にしろと言いたかった。
私たち三人が命をかけて全力攻撃をして、漸くバリアを破壊したと思ったら、それが即座に再生したのだ。

最早理不尽、とすら言えた。

「喚いても仕方ない、他の方法をーー」

ーーその時、どかん、と。
凄まじい轟音が響き渡り、さらにそれに伴う激しい地震が、遺跡を激しく揺らした。

「ーー何の音!?」
「ココア、危ない! シュガーもこっちへ、早く!」
「わかった!」

地震によって遺跡の一部が崩れ、大量の岩が雨のように降り注ぐ。
一ヶ所に集まった私たちは、巨大な岩の直撃だけを避け、小さいものはリゼちゃんが防ぐことで、生き埋めになることを防いだ。

30秒ほどで崩落は治まり、崩れてなくなった天井より、どしゃ降りの雨が降り込んでくる。

217 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 23:09:24 ID:QjvjGgBp8G

「一体何があったの……?」
「何かの爆発のようだったが……しかし、この崩落で、鋼鉄巨人も生き埋めに……」

その時、何か巨大なものが動き、大量の岩塊と土煙を巻き上げる。

「……なっているわけはないか」

土煙が晴れると、全身に発生させたバリアを淡く輝かせる鋼鉄巨人が、どこの損傷もなく鎮座していた。

鋼鉄巨人は、その目を威嚇するように光らせ、こちらを見る。

「くっ……」

即座に剣を構える。
奴を倒す方法は見つかっていない、なにか、糸口のようなものはあるが……。
このまま戦ってもじり貧だ、一人が倒れたとたんに総崩れになるだろう。

ーーしかし、鋼鉄巨人はこちらを一瞥だけして、明後日の方向へと足を踏み出した。

「っ、何処へ行く気!?」
「私たちを無視して、周辺への進撃をかけるつもりか!」
「追うよ! あれが市街地に向かったなら、大被害になる!」
「ま、まって、お姉ちゃんたち!」

シュガーちゃんが、私たちを制止する。
その表情には、珍しく狼狽があった。

シュガーちゃんは周辺の瓦礫に向かい、それを勢いよく掘り進んで行く。

「……やっぱり、ソルト!?」

そこには、瓦礫の下敷きになったソルトちゃんがいた。

218 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/29 23:10:09 ID:QjvjGgBp8G
今回はここまでです
書き溜めが少なくなってきた……

219 名前:阿東[age] 投稿日:2020/02/29 23:29:50 ID:G0WsG2r4W6
ソ、ソルトが・・・。すごく心配です・・・。

220 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/01 01:32:25 ID:GhRXCal4b1
たいへんだ

221 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/01 19:06:41 ID:RYq9PRreXo
>>219
>>220
ありがとうございます!

二ヶ所での戦闘は平行して書いていくので、次はソルト、ポルカ、コルクたちがどんな感じの戦いをしたか書いていこうと思ってます。

222 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:02:43 ID:pTN3QJ529b

ーーソルトの産み出した無数の幻影は、扇状に散り、カイエンを囲むように八方三百六十度より迫る。

「馬鹿の一つ覚えではないのだろうが……その数は面倒だ、間引かせてもらおう」

スキル『インセンディアリー・ボム』ーー

カイエンの周囲に複数の火球が出現する。
コルクの周囲に放たれたそれは地面に触れると同時に爆発し、辺りを一瞬にして灼熱地獄へと変える。
その炎は全く消える気配を見せず、周囲に焼けつく炎熱を振り撒き続ける。

炎に阻まれ、部隊の一部が止まる。
が、しかし、そのなかを果敢に進み、カイエンへと肉薄するソルトの姿が4つ。

その内一体が、カイエンの正面より突撃、槌を振るう。
炎の中を突進してくると言うことは、ダメージを受けていない、即ち実体がないと言うことだ。

「……いや、違うな!」

しかし、カイエンは無造作に反撃の剣を振るい、ソルトの一撃を受けた。
甲高い剣激が響く。
一瞬の拮抗の後、ソルトの槌は容易く吹き飛ばされ、二激目にて容易くその体を切り裂かれた。

ーー同時に変身が解ける、絶命したクロモンソルジャーが、ゆっくりと地面に付した。
その隙に残りの三体はカイエンの脇を駆け抜け、反転、3方向より同時に攻撃を加える。

「……ほう?」

以前ならば、これらは等しく幻影だった。
ならば、無視すれば良いだけの話だ。
しかしカイエンはその三体からの攻撃を、後退することで避けた。
振るわれた槌と剣は、空を裂き、地を割った。
それを見て、カイエンは僅かに微笑む。

「今度は実体があるということか、面白いーー!」

223 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:03:53 ID:pTN3QJ529b

後方からの三体、更に前方からも三体の計六体のソルトが、同時にカイエンへ得物を振るう。

360度全方位からの攻撃、防ぐことはできないはずーー

「ーーだが、実力が伴わなければ、私の炎を止められんぞ?」

スキル『デイジーカッター』ーー

言って、カイエンはその場で剣を振るい一回転。
追従するように炎が弧を描き、周囲全体を襲う。

ソルトーー6体のクロモンたちはその武器をカイエンに届かせる前に、まとめて焼き払われた。

ーーそして、そのときには既にコルクは、炎に紛れて飛んでいた。

「……!」

襲い来る炎を宙返りしながら飛び越え、そのまま天井を蹴り加速。
コルクは一瞬にしてカイエンの間合いを踏み越える。

スキル『辻風』ーー

弾丸のような速度を保ったまま、駆け抜けざまに両の短剣で首を狩る。
自らに出せる最高速、虚をついた一撃。

224 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:05:25 ID:pTN3QJ529b

ーーしかしそれすら、カイエンはギリギリのところで対応して見せた。
短剣がカイエンの頬を浅く切り裂き、反撃として振るわれた炎の刃が、コルクの髪を僅かに持っていった。

「おおりゃああぁぁっ!!」

更に、大剣を楯にしたポルカが炎の中を突っ切り、カイエンへと立て続けの斬激を浴びせる。

大上段からの一撃を、カイエンは後退しながら受ける。
ポルカは勢いに乗り、大剣の質量を存分に生かした力強い連激を加えていく。

「ほう、手傷を負った身でよくやる、だが……攻撃が荒い」

ポルカの攻撃が繰り出される直前、カイエンは前に出る。
そして、その初動を剣で止めた。
いくら強力な斬激とはいえ、威力が乗る前に止められては意味もなく、ポルカは動くことも出来ずに隙を晒す。

無防備になったポルカの腹に手が翳される。
カイエンの手に炎が渦巻く。

「残念だ」

瞬間、爆発がポルカの体を焼き、吹き飛ばした。
岩壁に叩きつけられーー変身が解ける。

225 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:06:45 ID:pTN3QJ529b

「っ!」

カイエンは素早く、落ちていたクロモンの剣を拾う。

ーーそして、コルクとポルカの攻撃が左右から同時にカイエンを襲った。
挟み込むようにして襲いかかる2人の攻撃を、2つの剣で同時に受け止める。

「速い……タイミングは完璧だったはずなのに……!」
「化物が、獣みたいな反射をしやがって!」

二人は口々に言う、鍔競りあった剣はギリギリと音をたて、全力が込められていることを示す。
しかし、カイエンは片手でありながら、その剣を押すことができない。
なんという反応速度、なんという馬鹿力か。

「どうやら、君たちは本物のようだな?」

カイエンは冷ややかに一瞥し、両の剣を弾いて後退する。
コルクとポルカは背中に伝う寒気を自覚しながらも、追撃を仕掛けた。

「だったらなんだよ!」
「惜しい、そう思ってな」
「余裕綽々……その顔、直ぐに歪むことになる」
「やってみせろ、やれるものならな」

226 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:07:48 ID:pTN3QJ529b

言い終わる前に、コルクは斬りかかった。
跳躍し、落下の勢いを乗せて大上段から二刀を振り抜く。

それは容易くカイエンに受け止められるが、勢いを利用して宙返り、その後方へと飛ぶ。

振り向き様に振られた反撃ーー体制を低くしてかわす、被っていた帽子が溶斬されて吹き飛ぶ。

続けて迫る唐竹割りーー横に飛ぶ。
それを追うように薙ぎ払いが迫る。
対面には壁、追い詰められたーー!

「くぅっ!」

コルクは素早く壁を蹴って駆け上がり、そのままバク転、致命の一撃を回避する。
カイエンの剣は石造りの壁を溶斬し、赤熱する一文字を描いた。

石造りの壁があぁなるのならば、人の体でも同様であることは言うまでもない。
コルクは心臓が凍る思いだった。

「チィ! 素早いな!」

227 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:09:14 ID:pTN3QJ529b

更に、左手の刃による追撃も、コルクは間一髪、飛び退いて避ける。
着地と同時に左の短剣を投げつけ、一刀のみを構えて突進。

ギリギリで首を反らしたカイエンの耳の横の壁に短剣が突き刺さる。
そして、一瞬できた隙にコルクはカイエンの剣の間合いの内側へ入り込んでいた。

遠距離では魔法で焼かれる、中、近距離ではカイエンの剣を凌ぎきれない、共に10秒と持たないだろう。
故にコルクにとれる戦法は、短剣の取り回しの良さを生かした極近距離での切り合い以外にはない。

頭への二段突きーー体捌きのみでかわされる。
反撃の横薙ぎを体を落として避け、足を刈る。
後退され避けられる。
壁に突き刺さった短剣の片割れを回収しながら、間合いを詰める為にコルクは猛然と襲いかかった。

二刀同士の切り合い、狂ったリズムで鳴り響く剣激の数は、一対一の戦いとはとても思えない程のものだ。
左右に更に上下、前後も加えて多方向より振るわれる剣舞は、カイエンの剣技をもってすら、容易に打ち破ることが出来ない。

左の幹竹割りを回転しながら避け、コルクはそのまま素早く後方に回り込む。
そして放った二刀の連激は、初激が弾かれ、二激目にはついにカイエンの腹部に僅かな傷をつけるに至った。

228 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:10:24 ID:pTN3QJ529b

「っ! 強いな、君も! ならば足元を封じる!」

スキル『インセンディアリー・ボム』ーー

カイエンの周囲に複数の火球が出現する。
コルクの周囲に放たれたそれは地面に触れると同時に爆発し、辺りを一瞬にして灼熱地獄へと変える。
その炎は全く消える気配を見せず、周囲に焼けつく炎熱を振り撒き続ける。

「しまっ……!」

逃げ場を塞がれたーー!
回避出来ない、カイエンの攻撃が迫る。

「おれを忘れてんじゃないのか!?」

スキル『グレートスラッシュ』ーー

ポルカの剣が激しい炎を纏い、振りかざされた剣先から炎の刃が飛翔しカイエンを襲う。

カイエンは剣を一振り、炎の刃が弾かれ横の壁で爆発する。
続けて来る上段からの攻撃を、二刀でもって受け止める。

「攻撃が軽いな、その体でよくやる」
「余計なお世話だよ! おれにだって、矜持ってもんがあるんでな!」
「残念だ、今の君はあまり殺したくはないが」
「虐殺者が、騎士道染みた台詞を言いやがる!」
「違うな! 強者の台詞だ!」
「野郎っ!」

229 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:11:05 ID:pTN3QJ529b

剣が払われ、左の一刀がポルカの喉元を襲う。
体を反らして回避、回転、横の薙ぎ払い。

後退して避けたカイエンを、連続で斬りつける。
唐竹、袈裟、二段突きーーカイエンは全てを体捌きだけでかわし、反撃を振るってくる。

間合いを積め、回転しながら二刀での連激。
大剣を使うポルカにとっては不得手な間合い、後退しながら剣を振るい、嵐のような攻撃をどうにか受ける。

止めとばかりに振るわれた大振りな横薙ぎを膝を落としてかわし、素早くカイエンの横に回る。

「はあぁっ!」

素早く放った反撃は、しかし背中越しに宛がわれた剣によって受け流され、後退しながら近づくなとばかりの横薙ぎ。
両者は距離をとって再び相対した。

230 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:14:04 ID:pTN3QJ529b

「くっ……この炎、消えない……!?」

取り巻くように燃え盛る炎に阻まれ、二人の戦いを見ていたコルクの傍らが光り、次の瞬間にはコルクはソルトの傍らにいた。

「何!?」
「転移魔法の応用です」

事も無げに彼女は言った。
ソルトの手には不可思議な紋様の魔方陣が輝いている。
ポルカがカイエンを押さえている間に、炎に閉じ込められたコルクを、その場を動かぬまま助け出したのだ。

……自分を移動させるのでなく、遠くのものを引き寄せるーーそれがどれ程の難易度であるのか想像がつかなかったが、やはり彼女は七賢者なのだ、とコルクは改めて思った。

「時間をかけることに意味はありません、奴が本気で攻勢に出れば、損耗は避けられませんから」

ソルトは今までの戦いの中で、カイエンの戦法をある程度理解していた。
その最大の特徴は、派手で強力な魔法攻撃ーーだけではない。
それによって孤立分断、動揺したところを、一人ずつ始末していく周到さ、さらにカイエンの剣技は、あの七賢者フェンネルですら防ぎきれるかわからないほどに激しい。

結論から言えば、一体多において、カイエンは危険極まりない実力を発揮する。
しかし、それは攻勢に回られたときの話。

「必要なのは、魔法攻撃を放たせないほどの絶え間ない連携攻撃、ソルトの戦い方は甘くはありません」

そのために、直属のクロモンの部隊まで連れてきたのだ。
既に半数近くが討死している彼らに、ソルトは一つ、こう命令した。

『ここで死んでください』と。

231 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:15:17 ID:pTN3QJ529b

彼らは一つ返事でそれを承諾した、そうすると知っていた。
そういう命令ができる、できてしまう。
彼女は幼い身空でありながら、それしかないとわかってしまう人間で、それを実行できてしまう人間だった。

「敗けるわけにはいきません、ここは人類存亡の最前線、この戦いに二の矢はないのですから」

シュガーには、こうはなってほしくない。
ソルトはそう思った。

ーー感傷を振りほどき、腕を掲げたソルトの掌に、一瞬にして魔方陣が形成される。
カイエンとポルカが切り結び、間合いを取ったその一瞬、ソルトはそれを放った。

スキル『スター・シュート』ーー

周囲に吹き荒れた風が螺旋状に収束し、爆裂の勢いをもって放たれる。

「猪口才な……!」

風の大砲と言えるそれは、一般的な自然現象のそれとは一線を画す威力を誇る。
この遺跡の壁に当たればそれを粉々に砕くであろう威力、カイエンはそれを、正面から受け止めた。

片方の剣を地面に突き刺し、大上段よりの渾身の斬激。
剣とぶつかった風の大砲は、一瞬の拮抗の末、屈服し霧散した。

232 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:16:48 ID:pTN3QJ529b

しかし、ソルトにとって、この程度は予測済みだ。
そのときには、既に次の技が放たれようとしていた。

スキル「アルアヒージョ」ーー

戦槌より放たれた魔法の超常は、先ほどのそれを更に上回る威力でもって、カイエンに襲いかかる。

「魔法の撃ち合いか? ならば受けねば、無作法というもの……!」

スキル『ドーラ・グスタフ』ーー

カイエンの両掌に炎が収束。
今にも破裂せんと不規則に燃え盛るそれは、風の大砲に相対するにふさわしい、炎の大砲ーー

次の瞬間には轟音とともに放たれたそれは、ソルトの放った魔法とぶつかり合い、炸裂、有り余るエネルギーをもって周辺を打ちのめす。

周辺を土埃が覆い、半壊した遺跡が僅かに崩れる音を除いて、周囲に静寂が広がる。

ーーしかし、その静寂は、一瞬だった。

「ブチかますぜ! でえぇりゃぁぁっ!!」

スキル『ぶっぱなす』ーー

「チィッ!」

爆発の直後、煙の中を駆け抜けていったポルカによって放たれたスキルの刃。
それをまともに受けたカイエンは、その威力で大きく距離を離す。

233 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:22:10 ID:pTN3QJ529b

「ーーソルト!」
「総員、魔法攻撃準備」

ソルトの掛け声とともに、残っていたクロモン部隊がそれぞれに武器を掲げ、複数の魔方陣がカイエンを捉える。

「撃ぇ!」
「くー!(ファイア!)」
「くー!(ファイア!)」

号令と共に無数の魔弾が空間を駆け抜ける。
色とりどりのそれらは全てカイエンの周囲で爆発、光を放って神殿を揺らがした。

「ーー次弾準備、急げ」

ソルトの言葉と共に、クロモンたちは再び魔法の構築を始める。
これで終わる筈はない、塵芥に消し飛ぶか、最低でも死体を確認するまでは……

そして、それは直ぐに現実になった。

スキル『フォックストロット』ーー

煙の中より、無数の炎の矢が飛び出し、扇状に展開。
魔法の構築で動けないクロモンを襲う。

「くっ……回避をーー」
「しなくていい!」

コルクはソルトの叫びを遮り、前に出た。

その身からは、一目見てわかるほどに、盛大なクリエの光が沸き立っている。
コルクは視界を埋める殺到する炎の矢に向かい、短剣を構えた。

「攻撃は最大の防御ーー!」

スキル『砂塵嵐』ーー

クリエを解放。
回転しながら、無数の斬激を周囲に放つ。
そのひとつひとつが、石造りの壁に深く傷跡を刻み込む威力。
嵐そのものとなって巻き上げられた無数の風の刃は、迫り来る炎の矢を一つ残らず叩き落とすに至る。

234 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:23:38 ID:pTN3QJ529b

「ーー撃ぇっ!」

掛け声と共に、魔法攻撃の次弾が放たれる。
再び、大爆発が神殿を激しく揺らした。

「くっ……! やる!」
「まだです……! 貴方は、ここで排除します」
「何!」

次弾発射と同時に跳躍、ソルトは一気にカイエンとの距離を詰める。
掲げられた戦槌には、強く輝くクリエの膨大なエネルギーが纏わりついている。
間違いなく、必殺の一撃。

スキル『ソルティードッグ』ーー

空中から叩きつけるように戦槌が振られる。
追従するようにカイエンに襲いかかった風の槌の威力は、その空間ごと圧殺せんとばかりだった。

殺人的な圧力によって地面が円形に砕け陥没し、更に周囲全体に大きなひび割れを発生させる。
その中心にいるカイエンは、常人なら血溜まりになっているであろう破壊の中で、あろうことか立っていた。

「ぐっ……がはぁっ!!!」

風の槌が霧散する。
しかし、苦悶の叫びをあげながらも、カイエンはそれを耐えきったのだ。
ソルトは驚愕していた、こんなことは初めてだったからだ。
ーーだが、予想していなかったわけでは、なかった。

235 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:26:15 ID:pTN3QJ529b

「まだまだ行くぜ! せーのぉ!」

とっておき『ブラックスミス・インパクト』ーー

更に、剣を巨大な金槌に変身させたポルカが、大上段よりそれを振り下ろす。

「くっ!」

回避することはできず、カイエンはそれを正面から受け止めた。
凄まじい質量と力に押し潰され、カイエンの足元が更に凹む。

「まだだ……ここまで来てしまった、私はもう、止まれんのだ!」

そして、それすらもカイエンは耐えていた。
初めて見せる余裕のない表情、凄まじい気合の叫びと共に、ポルカの金槌を少しずつ押し返していく。

「マジか、ごほっ……! ちっ、化け物め! 」

ポルカは小さく喀血する。
全力戦闘の反動、負った傷の痛みが、ポルカの力を一瞬、緩めた。

「ポルカ!」

236 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:29:42 ID:pTN3QJ529b

コルクの声と共に、無数の短剣が二人の周囲に突き刺さる。
それは光輝き、一瞬で魔方陣を作り上げた。

「くっ……ぬあぁ!」

同時に、カイエンがポルカを吹き飛ばす。
だが、遅い。

とっておき『疾風迅雷』ーー

魔方陣より暴風が発生し、カイエンを巻き上げ捕らえる。
こうなれば、逃げ場はないーー!
カイエンに向かい、一直線にコルクは飛んだ。

「行ってくれ、相棒……!」

スキル『鍛え上げる』ーー

落下していくポルカから、光が放たれる。
それは、クリエの刃を纏ったコルクの双刃に宿り、その力を増強させた。

「鎧袖一触、これで……決める!」

双刃はクリエの刃を纏い、翼とも見える巨大な風の刃を作り上げる。
空中に舞い上がり、隙を晒したカイエンに肉薄し、コルクは、自らの持つ最大の力を振りかざした。

「はあぁっ!」

237 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:31:48 ID:pTN3QJ529b

ーー鮮血が舞う。
カイエンの左腕が、斬り飛ばされて飛んでいく。

ーー浅い、コルクは直感した。

コルクの剣は、左手のクロモンから奪った剣を打ち砕き、更に左腕を肩口から切断するに至る。
しかし、左腕を犠牲にしたことで、その剣は致命傷には至っていない。
仕留めきれていないーー

「……ココア、ごめん」

カイエンの右手の剣が振るわれる。

「コルク!」

二度、鮮血が舞う。
一つはカイエンの、二つ目はーー肩から腰までを袈裟斬りにされた、コルクの血ーー

コルクは力なく落下し、その場に倒れ付した。

「コルク……そんな……ちくしょう……っ! げほっ、ごほっ!」
「ポルカ!? っ! 傷が……」

ポルカも剣を杖にして、ずるずると地面にへたりこんでしまう。
その腹に巻かれた応急措置の包帯は、血を吸って真っ赤に染まっていた、激しい動きの連続で、傷が開いたのだ。

ソルトはポルカを介添しながら、カイエンを見る。
そしてその行動に、ソルトは血の気が引いた。

238 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:35:49 ID:pTN3QJ529b

「おい……マジか、あいつ……ゴホッ……」

カイエンの左腕は根本からコルクに斬り飛ばされ、どくどくと血が流れ出している。
鮮血は髪に鎧にへばりつき、その姿はまさしく幽鬼か、死神のようにも見えた。
彼女はあろうことか、肩の傷口を、剣ーー焦熱を纏って超高温であろうーーに押し付けたのだ。

「く……ぐ……うっ……あぁぁぁ!」

じゅううう、という肉の焼ける音と臭いが立ち込める。
合理的であるが、同時に、治癒魔法による再生を完全に度外視した、捨て身の対応。
その痛みは、筆舌に尽くしがたいものだろう。

しかし、カイエンは程なく止血を終了し、ソルトに向かって片手で剣を構えてきた。

「たかだか腕一本、君たちを打ち倒すには、安い代償だったようだな……」

対してこちらはコルク、ポルカが戦闘不能の状態。
まさしく、肉を切らせて骨を断たれた、という状況だった。

「だが……認めよう、君たちの実力……危険な存在だ」
「くっ……」

ソルトは高速で思考を巡らせる。
コルクは生きてはいまい。
ポルカも戦闘不能、放っておけば同じ道を辿る。
クロモンは半数が死亡、闇雲に突撃させても瞬殺される。
そして、ソルト単体ではあれには勝てない、負傷しているにも関わらず、その闘気、そして身に纏う炎熱はむしろ増していた。

239 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:41:33 ID:pTN3QJ529b

「正しいのかは知らん、だが……私がいまここに立っているということは、私の行いを神とやらが認めたということなのだろう」

カイエンは剣を納め、ゆっくりと手を宙に差し出した。

「何をする気ですか!?」
「君達を殺す」

そう呟くとともに、周囲の炎が、カイエンの差し出された手のひらに収束していく。

「なっ……!」

手のひらの炎はその輝きを増し、小さな太陽であるかの如く周囲を照らす。
その光に曝されたカイエンの周囲は、焼け焦げあまつさえ溶け、赤熱し光を放ち始める。
放たれる熱波は、それだけで人を殺傷できる程のものだぅた。

ソルトはクリエによる防御壁を展開し、それを防ぐ。
ーーまずい。
あれは、明らかに今までの技とは桁が違う。
余波ですらこの威力、近づいて止めることすらできない。
自分以外の全てを、消滅させる気か。

「許しは乞わん、恨めよ」

炎の収束がピタリと止まる。
先ほどまであった焼けつく炎は鳴りを潜め、遺跡は一気に暗闇に包まれた。
寒いと感じるのは、気温の低下か、或いは恐怖か。

ーーカイエンの手のひらの上には、ほんの小さな光球が浮遊し、辺りを淡く照らしていた。

「さよならだ、強き戦士たち」

カイエンはそう言って、その光を此方に差し出した。
それは、ゆっくりと浮遊し、此方に近づく。

とっておき『プリミティブ・ライト』ーー

そしてーー

ーー光と熱線、そして猛烈な爆豪が、その場の全てを消し去った。

240 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/07 23:42:25 ID:pTN3QJ529b
今日はここまでです。
書き溜めがほぼなくなってしまったので、更新が更に遅くなるかもしれないです……

241 名前:阿東[age] 投稿日:2020/03/07 23:50:29 ID:IJDfrKFDwj
>>238

熱した剣で肩の傷を塞ぐとは・・・カイエンってすごい。

242 名前:ルナ・ソレイユ◆yodjdoerBO2[age] 投稿日:2020/03/08 11:34:42 ID:D3wNYaPg4j
ソルトも劣らず、壮絶な過去が…
カイエンの力、恐るべし…

243 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/08 12:47:22 ID:QaR4EGM2mk
>>241
>>242

ありがとうございます!

カイエンは、ちょっと(かなり)イカれた感じの戦闘狂として書いていました。
なんか凄惨な過去もあるし、果たしたい目的もあるけど、それはともかく戦いが楽しくてたまらない、みたいな。
やべーやつと思っていただけたならよかったです。

ソルトの回想は完全に妄想ですね、ただ、あの幼さで国の重役を務めているので、そういう残酷な判断ができてもおかしくはないかな、と妄想して書きました。
七賢者の中でも参謀っぽい立ち位置ですし。

244 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/08 20:38:31 ID:f7qsDORy.f
これはかなりショッキングな・・・・・場合によっては、ココアがリピートする可能性もあるかも。
しかし、ますます目が話せない展開になってきました!ゆっくりで大丈夫です、続きを楽しみにしてますね!

245 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/08 21:08:25 ID:Kae2AG6Jvh
死にまくってて草、アカン、次も楽しみに待ってます。

246 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/09 09:23:40 ID:HsIp.bBiwE
>>244
>>245

ありがとうございます!

次回で、カイエンとある程度の決着がつくことになる予定です。
早めに投稿できるように、頑張ります。

247 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:15:57 ID:dmyIwjtzxO

「ーーソルト! ソルト! 目を開けてよ! 嫌だよこんなの……!」

瓦礫を退かして、ぐったりとしたソルトちゃんを抱え、シュガーちゃんが必死に声をかける。
その目には、涙が浮かんでいた。

年端もない少女が、ボロボロになった年端もない少女を抱えて悲痛に叫ぶ様は、正しく地獄そのものの光景だった。

こうさせない為に戦っていたはずなのに、私の力が足りないから、親切な人を頼って、そしてその人が死んでいく。
何度でも、脳裏に焼き付くほど見た光景。

気づけば、限界まで握りしめた掌に爪が食い込み、ポタポタと血が流れ出していた。
それほどまでの怒りが、悲しみが、悔しさが頭を満たす

「シュガー、落ち着け」
「リゼおねーちゃん……でも、ソルトが……ソルトが…!
シュガー、ソルトがいないと……!」

ソルトちゃんに寄り添ったリゼちゃんが、素早く呼吸、脈を確認する。

248 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:17:08 ID:dmyIwjtzxO

リゼちゃんはほっと息をついて、シュガーちゃんの頭をポンポンと撫でた。

「大丈夫だ、息はある、目立った出血もなし、お前のお姉ちゃんは生きてるよ」
「ほんと!? よ……よかったぁ……」

リゼちゃんの言葉を聞いて、シュガーちゃんは力が抜けたようにその場にへたりこんだ。

「っ……う……ん……シュガー、うるさい、です……」
「ソルト! 目が覚めたの!?」
「ここは……戦っていたところの近く……カイエンわぷっ!?」
「うぇーん! 生きててよかったよぉ!」

目を覚ましたソルトちゃんが起き上がり、周囲の確認をしているところにシュガーちゃんは抱きついた。

「……全く、仕方ないですね、シュガーは」

よっぽど不安だったのだろう、胸の中でわんわんと泣くシュガーちゃんを、ソルトちゃんは抱き締め返して、背中を撫でてあやす。

「……ソルト、そのままでいい、目覚めて早々悪いが、何が起きたのか教えてもらえるか?」

少し割り込みづらそうに、リゼちゃんが声をかける。

「そうですね……結論から言えば、カイエンの放った『とっておき』に、遺跡ごと消し飛ばされました」
「他のみんなは?」
「ギリギリで転移魔法を使用し、私も含めて攻撃の範囲外に飛ばしました、咄嗟の使用だったので、どこに行ったのかはわかりませんが……それに、コルクもポルカも重症でした、飛ばしたところで、もう……」
「……そうか」

リゼちゃんは、一言そう言った。

249 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:18:35 ID:dmyIwjtzxO

「鋼鉄巨人は?」
「移動を開始した、街の方角へ向かっている、可能ならば、直ぐに追撃をーー」

「ーーさせると思うか?」

唐突に、別の声が割り込む。
周囲の気温が上がる。
声の方を見る。

「……カイエンっ!」

そこには、赤い鎧に、炎の剣を携えた女、カイエンが佇んでいた。
左腕は肩口から失われている。
今は出血していないが、切られたときに血飛沫が舞ったのか、血で彩られた髪は、更にその色を濃くしていた。
その瞳は幽鬼の如く爛々と輝き、その姿に、地獄から舞い戻ったかのような暗い迫力を与えていた。

「鋼鉄巨人を止めたくば、私を先に殺して行け……!」

濃密な殺気が、チクチクと体を刺す。
常人ならばそれだけで腰が抜ける程の気合。
今まで持っていた余裕は欠片もない、確実にこちらを殺さんと、こちらを鋭い瞳で射抜いてくる。

「……シュガーちゃん、ソルトちゃん、まだ戦える?」
「シュガーは大丈夫、ソルトは……」
「ソルトも……まだ、やれます」
「それなら……鋼鉄巨人をお願い、奴の動きを止めて」

リゼちゃんの方を見る。
それだけで意を理解したのか、彼女は一つうなずく。
そして、リゼちゃんと私は、シュガーちゃん、ソルトちゃんの盾となるように、前に出た。

「私たちは……あいつと決着をつけなきゃならないから」
「あぁ、後で必ず追い付く、だから二人は行け」
「ココアおねーちゃん、リゼおねーちゃん……」
「……わかりました、多少遅れても構いませんよ、シュガーとソルトが一緒なら、正しく二騎当千ですので」
「ふふっ……頼もしいね、流石七賢者」
「時間稼ぎするのはいいけど……別に、鋼鉄巨人を倒しちゃっても大丈夫だよね?」
「勿論!」

シュガーちゃんとソルトちゃんは言って、その身を翻した。

250 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:20:44 ID:dmyIwjtzxO

……鋼鉄巨人には、未だに傷一つ与えられていない。
戦局は絶望的、勝つための糸口すら見つけられていない。
だが、二人ならもしかして、何とかしてしまうのではないか、そう思った。

カイエンの目の前で、炎が収束する。

「行かせないと言った!」

スキル『ドーラ・グスタフ』ーー

次いで、炎に向かって手が突きだされる。
同時に炎を纏った砲弾が、此方に高速で向かってくる。

「行ってくれ! 二人とも!」
「わかりました……! 二人とも、幸運を!」
「きっと、またね! シュガー信じてるから!」
「うん、きっと……!」

続けざまに連続で砲弾が放たれ、無数の炎と爆発が周囲を耕していく。
リゼちゃんと私は、それに向かい、前に出た。

「うおおおぉぉぉーーっ!!」

後ろに遠ざかる二人に危険が及ぶものだけを盾で防ぎ、或いは槍で、剣で弾き飛ばす。
嵐のような射線を見切り、距離を詰めていく。

「貴様の相手は、私達だ!」
「今度は負けない、今この場所で、貴方を倒す!」
「チーッ!」

251 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:21:23 ID:dmyIwjtzxO

スキル『デイジーカッター』ーー

舌打ちをしたカイエンは接近する私達へ向かい、大振りに剣を横薙ぎにする。
炎の柱が剣から伸び、それは降り注ぐ雨をものともせず、周囲を焼き払う。

リゼちゃんはそれを盾で防ぎ、私は周囲の瓦礫を蹴って、炎の大縄を飛び越える。

「はあああぁっ!!」

そのままの勢いで、大上段より切りつける。
甲高い剣激が響き、衝撃波が周囲に燻る炎を消し去った。

「ぐっ……!」

カイエンの顔には脂汗。
片手を失ったカイエンは、右腕のみで私の剣を受け止めている。
以前程の馬鹿力は、そこにはない。
更に、左腕を失うことは、そのまま自信の左側に死角を作ると言うことだ。

252 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:22:22 ID:dmyIwjtzxO

「その隙、もらった!」

後方に回り込んだリゼちゃんが、挟み込むように槍での刺突を放つ。

「っ!」

後退しながら私の剣を払ったカイエンは、そのまま回転、リゼちゃんの槍がカイエンの腹を裂いていくのと同時に、鋭い足刀蹴りを繰り出した。

「ぐっ……」

それを辛うじて盾で受けるも、リゼちゃんは大きく後退する。
続けて攻撃をかけようとする私に対して、近づくなとばかりに炎が舞い、次の瞬間にはカイエンは私の間合いの外にいた。
その周囲に更に炎がくべられる。

スキル『インセンディアリー・ボム』ーー

出現した炎の玉は私とリゼちゃんを取り囲むようにして破裂し、視界の全てを炎で覆う。
こちらの動きを封じ、距離をとって安全に仕留めるつもりか。
カイエンの魔法攻撃は強力無比、今までに何度も経験してきている、これをまともに受けてしまえば、幾ら数の利があろうとまとめて消し去られる。

「そうはさせないよ!」

スキル『メモリア・ストライク』ーー

回転しながら繰り出したスキルの一撃は、周囲を取り囲む炎の壁をまとめて吹き飛ばした。
それとほぼ同時に、無数の炎の鏃が飛来する。

私とリゼちゃんは即座に散開し、その攻撃をやり過ごす。

253 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:24:03 ID:dmyIwjtzxO

「リゼちゃん!」
「わかってる、 接近して一気に仕留める!」

そう、カイエンは後退、距離を取り、魔法攻撃によってこちらを仕留めようとしている。
その勢いは今まで以上、雨が降っているというのに、この周囲だけは濡れてすらいない、降り注ぐ度、瞬時に蒸発しているからだ。
周囲の崩れかけた遺跡はその攻撃によって更に破壊され、最早建造物としての面影すら奪われようとしている。

ーーしかし、裏を返せば、カイエンは接近戦を嫌がっている、とも言える。
隻腕となった今の彼女が、一対多の状況で私達とまともに切り結ぶのは明らかに不利だからだ。
故に、今の私達が勝利を得る方法は、クロスレンジからの斬殺の他にない。

ーー急げ、七賢者が二人いるとはいえ、相手は三人で傷すらつけられなかった鋼鉄巨人、以下程の抵抗ができるものか。
更に鋼鉄巨人が周辺の街に達してしまったならば、待っているのは即ち、阿鼻叫喚の地獄絵図に他ならない。
私が今までに目にしたそれより更に残酷な光景を、無辜の人々が見せつけられることになる。
そんなことを、させる訳にはいかない。

「退いたら負ける……! 攻めなきゃ!」

反転し、追いすがる無数の炎の鏃を、私は回避しながらも、一直線にカイエンの元へ駆けた。

地面をスライディングし、瓦礫の壁を走り、側転し、宙を駆ける。
リゼちゃんもその全てを避け、或いは防ぎながら、何の澱みもなく駆ける、その先にこそ、勝利があると知っているから。
後方からは無数の爆発が追いすがり、その体を喰らわんとする。
それは全てが、一発当たれば致命に至る必殺の刃。
だが、しかしーー当たらなければどうということはない。

254 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:25:05 ID:dmyIwjtzxO

「くっ……まさか、この短時間で、腕を上げたか!」
「カイエン! 今日ここで、貴方を討つ!」
「貴様の下賎な企みもここで終わりだ! 貴様に正義はない!」
「言ってくれるな、天々座理世!」

私とリゼちゃんの同時攻撃を、カイエンは後退しながらやり過ごす。

「正義とは、独善的なものだ! 私にもある、貴様らには理解できんだろうがな!」
「そのためならば虐殺すら、正当化するのか! ならば貴様のやっていることは、単なるテロルに過ぎない!」
「知っているさ! だが今さらそんな月並みな説教をしたとて、止まるものかよ!」

凄まじい気合と共に、炎と爆発が狂ったように放たれ、周囲の全てを吹き飛ばす。
私とリゼちゃんはたまらず後退して、その余波をやり過ごす。
焦熱を凌ぎながら、最早、炎そのものと化したカイエンに向かい、私は叫んだ。

「あなたは何が目的なの!」
「碑しい弱者の全てには、正道な力を持って裁定を降す! その上で、私の失った全てを作り直す……!」
「失われたものは、戻ってくることはない! 時間でも巻き戻さない限りは! 」」
「だろうな! だが、そうとでも言えば、貴様らはやる気を出すだろう!?」
「っ! ふざけたことを!」
「始めから言っている! 私を打ち倒して体に聞けとな!」

カイエンの放つ炎はその勢いを更に増し、最早それは彼女自身を焼くほどになっていた。
力を、制御できていないーーいや、するつもりもないのか。

255 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:26:19 ID:dmyIwjtzxO

だがしかしーー総身を炎に焼かれながら、カイエンはその唇を半月状に歪めていた。

「死ぬ気か! カイエンっ!」
「くっ、ははは、あははははははっ!!」
「っ!? 狂ったか!?」
「ははっ、はーっ……狂っているのは貴様らも同じだろう? この場において、そうでない人間などいないさ」
「貴様と一緒にするな!」
「大義だか正義だか何だか知らんが……戦いの場においては、そんなものはただただ、無粋! 腕を切り落とされ、総身を刻まれ、命に刃が迫っている! その事実が、私を最高に昂らせる!」

カイエンの表情は、晴れやかだった。
子供のような無邪気な表情。
本当に、この女は実力者と戦うためだけにこの騒動を起こしたのではないかーーそう思うほどに。

「来い! クリエメイトの戦士たち! 私を殺せ! 私の喉元に剣を叩きつけ、その手に勝利を掴んで見せろっ!」

狂った叫びとともに、カイエンの周囲に炎が舞い、無数の燐光が散る。
皮膚は裂け紅蓮の華が咲き、身に纏う炎は自らを焼き続ける、まるで、最後の輝きであるかのように。
その炎を内に押さえつけるように、彼女は剣を鞘に納める。

「ココア! 大技が来る、私の後ろに来い!」

盾を構えたリゼちゃんの周囲をクリエの光が覆う。

しかし、私はそれを尻目に、前へ出た。
リゼちゃんの表情に、驚愕が浮かぶ。

256 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:27:42 ID:dmyIwjtzxO

「尻込みしている時間は無いぞ! 貴様らがそうしている間に、鋼鉄巨人とゴーレムの残党どもは虐殺をする!」

スキル『ハイインパルス・サーモバリック』ーー

次の瞬間には、カイエンは動いていた。
右腕一本で素早く抜刀、一閃。
視界を光が包み、無数の燐光が一斉に起爆、猛烈な爆風と焦熱が周囲を包む。

ーーそして、それに乗って、私は上空へ跳んでいた。

この技は超広範囲に爆発を発生させる、不可避の技だ、本来であれば、リゼちゃんのように防御に徹するしかない。
事実以前は回避出来ず、カイエンに対して致命的な隙を晒した、しかし。

この燐光は空気より重い、つまり、上にはほぼ拡散しない、以前は閉鎖空間であったため回避不能だったが、今回は違う。
上空こそが、この技の死角ーー

私は爆風に乗って、一気にカイエンへと接近した。

「はああぁぁぁっ!!」

大上段より重力を乗せた一撃。
強烈な破壊力によって、甲高い剣激とともに、カイエンの立つ地面に亀裂が入る。

「たった一回で、私の攻撃を避けるとは……! これがクリエメイトの力……!」
「違う、これは想いの力、私が溢して来た、命を乗せた力!」
「訂正しよう、君たちクリエメイトは、弱者ではない! ここまで私を楽しませてくれるっ!」

カイエンの剣が激しく炎を纏い、強まった力が、私の剣を押し返す。

257 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:30:43 ID:dmyIwjtzxO

「っ!」

大きく仰け反り、再度カイエンの剣を見て、私は目を見張った。
構えられた剣にまとわりつく炎は、その火力を更に増し、青い光を放ちながら収束、安定し、一直線に伸びる炎の大剣となった。
100m近い長さを持つそれは、触れる瓦礫を一瞬で焼き溶かし硝子化させるほどの熱量。
触れれば瞬時に蒸発させられることは、間違いなかった。

「かつての戦場にも、君たちのような人がいた……その全てに打ち勝ち、殺してきたのだ……ただ、二人を除いて」

スキル『デイジーカッター・ブリーブレイド』ーー

炎剣が横薙ぎに振りかぶられ、周囲の全てを焼いていく。

そこから更に上段からの二連、左右から挟み込むような斬激。
普通に剣を振るうように、凄まじいリーチを誇る炎剣による連激が放たれる。

「ぐっ!?」

避けきれずに、左肩が焼かれる。
舞い散る火の粉が、全身に細かな火傷を作り出す。
速すぎる、異次元の速さだ。

私は一気に防戦一方となり、目前を擦過していく死をひたすらにかわしつづけた。

横薙ぎを飛び越え、降り注ぐ炎の安地を即座に読んで、踊るようにそれを避ける。

「ごほっ……!」

空気が、熱い。
肺が焼ける。
呼吸が出来ない。

足が縺れる、炎が迫るーー!

258 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:32:11 ID:dmyIwjtzxO

「ココア! 無理をするな! 」

その直前で、リゼちゃんが割って入り、盾で炎を遮る。
防いだにも関わらず、凄まじい焦熱が肺を焼く。

「リゼちゃん……!」
「まだ動けるな!? 分散して叩くぞ!」
「了解……っ!」

一呼吸ほどの間を置いて、更に迫った上段からの炎によって、私達は再び分散した。

凄まじい熱量は、ただそこにいるだけでも、ダメージを蓄積させていく。
さらにこの猛攻、並のクリエメイトであれば数秒と持たず灰塵と帰すだろう。

長く戦っていてはじり貧になることは必死、どうにか攻撃の糸口を見つけなければ……。

「突破口を開く……!」

ーー炎が迫る、上空を炎が覆う。

リゼちゃんはそれに対し、クリエの光を湛えた槍を構えた。
冷気によって、この獄炎の中においても、その周囲だけは真っ白に霜が降りていく。

スキル『メモリア・ドライブ』ーー

氷の力を纏った槍を素早く一閃。
相反するエネルギー同士は、一瞬の拮抗の後、衝撃波となって周囲を打ちのめす。

259 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:33:35 ID:dmyIwjtzxO

「はああぁぁぁっ!」

ーーそして、炎のかき消えた一瞬の隙に、リゼちゃんは爆風も構わず突っ込んでいた。

槍の間合いに入り込む。
両手で構えられた槍には、一目でそれとわかる膨大なクリエが込められている。

「これで、叩きのめしてやる!」

スキル「休日をだらだら過ごすなぁ!」ーー

叫びと共に爆発的にクリエが放出され、必死の刺突が放たれる。
その数、瞬きの間に20。
常人であれば、主要臓器の全てを一瞬で破壊され、更に四肢と首をおまけに吹き飛ばされるであろう、技巧の粋を尽くした技。

それを受けたカイエンは全身を刻まれ、花火のように血飛沫が上がる。

「グッ……!」

しかし、それを受けてもなお、カイエンは目前の、技を終えて一瞬の隙を作ったリゼちゃんへ剣を振り上げた。

全身に傷をつけたが、致命傷には至っていない。
リゼちゃんの無防備に晒された首筋に剣が振り下ろされる。

「リゼちゃん!」

私は叫んだ。
間合いが遠すぎる、助けられないーー!

ーーしかし、剣はうなじの目前で、金属音を立てて止まった。
カイエンの剣は、リゼちゃんの拳銃の銃身によって止められていた。
そしてその銃口は、カイエンの額を向いている。

直後、過たず激鉄は引かれ、魔法の弾丸はカイエンの額を撃ち抜く。

260 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:34:43 ID:dmyIwjtzxO

ーーことはなかった。

眼前に展開した青い炎が、水の弾丸の全てを受け止め、消し去っていた。

「なっ……!?」

用意した最後の不意打ちを防がれ、動揺を見せるリゼちゃん。
そこに、更に、青い炎剣が迫る。
その数を二本に増やして。

スキル『ここが私の見せ場だな!』ーー

左右から迫る必死の一撃を、咄嗟に展開した防御壁で受ける。
しかし、その威力を防ぎきることはできず、リゼちゃんは大きく吹き飛んだ。

「はぁ……はぁ……はぁ……良いぞ……!! これは、まるで……」

カイエンは息を切らしながら、呟いた。
身に纏う炎も霧散し、満身創痍の状態。
だがそれでもなお、剣を構え、無防備となったリゼちゃんに襲いかかる。

「っーー!」

戦慄した私を他所に、その突撃は、止まった。
止められた。

「げほっ……!」

カイエンの前に躍り出た、ポルカちゃんの肉体によって、それは止められた。

その腹部には、深々と剣が突き刺さっていた。

「動きが速かろうが強かろうが……目標がわかってれば、止めることはできる……!」
「くっ……!」
「逃がさねぇよ……!!」

261 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:35:24 ID:dmyIwjtzxO

ポルカちゃんは自ら剣を体に深く刺し込み、自らの腹筋と、更にカイエンの手を掴むことで、カイエンを一瞬、拘束して見せた。

ーーポルカちゃんは、そもそも重症をおして戦っていた。
死ぬ覚悟は決めていたのだろう、その上で、どう役に立って死ぬかを考えていた。
ーーその結論が、これだった。

「ーーココア!!」

その叫びが聞こえた時には、私はカイエンの後ろに回り込んでいた。

「はああぁぁぁっ!」

一閃。
カイエンの背中から血飛沫が上がる。
明らかな致命の一撃。

262 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:36:11 ID:dmyIwjtzxO

ーーだが、それでもなお、カイエンは倒れない。

「ぐっ……! ぬあああぁぁぁぁぁ!!!」

カイエンの剣より、再び青い炎の大剣が迸る。
続く薙ぎ払いは、ポルカちゃんの体を易々と消し飛ばした。

そして、そのまま剣は天に掲げられ、凄まじい熱量が、剣先に収束していく。

「何!?」

周囲の炎が収束していき、昼間のように明るかった周囲が暗くなっていき、気温が冬のそれを取り戻していく。
それにつれて、カイエンの剣先には炎ーー光が収束しする。

先ほどまでのそれとは、技の桁が違うことは、一瞬でわかった。

「まさか……ソルトちゃんの言っていた『とっておき』を使うつもり!?」

そうであるならば、遺跡を崩壊させるほどの破壊力のスキルとなる。
ソルトちゃんは転移魔法で難を逃れたが、私達には使用できない。
効果範囲外に逃れることも、同時に不可能だろう。

ーーつまり、止めるしかない。

263 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:38:14 ID:dmyIwjtzxO

「みんな、私に力を貸して……!!」

とっておき『お姉ちゃんに任せなさい!!』ーー

剣先に暴風がまとわりつく。
触れる礫を一瞬で刻み散らし砂塵化させ、それをその身に纏うことで幾億の刃と成し、災害級の破壊力を放つ、私の持てる最強の技。
それを私は、後方に『放った』。

炸裂の勢いを持って、一瞬で音の壁を突破し、私はカイエンに迫る。

とっておき『プリミティブ・ライト』ーー

それと、カイエンの剣先から、光の玉が放たれるのは、ほぼ同時だった。

光が迫る。
それに当たったのならば、私は多分死ぬだろう。

だがその直前に、カイエンの心の臓に、今度こそ、この剣を突き立てることができる。

私が死んでしまったのならば、また、リピートが発生するーー全ては、無かったことになる。
でもその事実すら、最早今の私にはどうでもよかった。

チノちゃんを、里のみんなを、私の大切な日常を、そして、私自信をーー何度も何度も何度も殺して殺して殺しまくった仇敵。

こいつを殺さなければ、きっとこのリピートが前に進むことはない。
そのためならば、命すらも、どうでもよかった。
例え、相討ちになったとしてもーー

264 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:40:11 ID:dmyIwjtzxO
「っ! やらせるかあぁぁぁぁっ!!」

とっておき『リゼの特性ラテアート』ーー

ーーその時、私の横を、巨大な水の砲弾が掠めた。
それは、カイエンの放った光の玉とぶつかり合い、壮絶な大爆発を引き起こした。

そして、私はその爆発の勢いに乗って、更に加速。
弾丸そのものの速度を持って特攻ーー

「うおおおぉぉぉぉぉーーっ!!」

ーーカイエンの心臓に、深々と、その剣を突き刺した。

その勢いのまま、カイエンと私はは壊れた遺跡の壁に叩きつけられ、私の剣は、カイエンの体をそこに縫い付ける。

「げほっ、げほっ……」

激しく咳き込みながらも、私は思った。

ーー勝った!

265 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:43:17 ID:dmyIwjtzxO

「あ……?」

ーー地面が急速に近づく。

ーー体が冷たくなっていく。

ーー目が、耳が、急速に遠くなっていく。

体が動かない。
視界はどんどんと暗転し、最早暗闇以外に見えるものはなくなった。

その中で、微かに、声が聞こえた。

「ーーるいは……君のような人がいたならば……」

喀血交じりの、小さな声。

「私をーー殺すな」

私は、急速に遠ざかっていく意識の中で、どうにかその声に耳を傾ける。

「……今、私を殺すことは『不可能』だ」

独り言のように、うわ言のように、カイエンは呟いた。

「……『呪い』によって、君も死ぬことになる……そして『刻巡り』が発動する」

何故、彼女がわざわざ、それを口にしたのかは、わからない。

「……鋼鉄巨人を……破壊しろ」

だが、それはきっと事実なのだということは、わかった。

「……その上で、鋼鉄巨人が持つクリエゲージを破壊し、帰れ……君たちの死ぬべき場所は、きっと、ここではないからーー」

意識が、暗闇と静寂に溶けていく。

266 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 00:43:48 ID:dmyIwjtzxO

「……そういう、ことか」

そして、また私は、目覚めた。

100週目の、朝。

267 名前:名無しさん@ただしアオイ てめーはダメだ[age] 投稿日:2020/03/22 03:39:33 ID:hz/.3v8Xln
オオオオオオオオオオオオオオオオすげえよすげえよ

268 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 12:12:03 ID:8xjm2.twan
>>267

ありがとうございます!

269 名前:阿東[age] 投稿日:2020/03/22 13:17:04 ID:bwUD/xnsch
ソルトが無事でよかったです・・・。

270 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/03/22 20:45:59 ID:8xjm2.twan
>>269
ありがとうございます!
前回の描写があれだったので、ソルトたち三人は壊滅させられたと感じられた方が多かったみたいですね、あんまり間違いじゃないんですが……

< 1234>
▲▲▲全部▼▼▼戻る
名前 age
コメント
画像ファイル


やるデース! > きららBBS > 【長編ss】ココア「live die repeat and repeat」

- WEB PATIO -