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【長編ss】ココア「live die repeat and repeat」
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1 名前:名無しさん[age] 投稿日:2019/12/28 22:55:10 ID:LXHxLaq/N9
長編ss(予定)です。

昨年2月にあった『エトワリア冒険譚 後編 目覚める鋼鉄の巨人』イベントにオリジナル要素を加えたリブート作品です。

ーーcaution!ーー

以下の点に不快感を感じる方はブラウザバック推奨です。

・グロ描写あり
・死亡描写あり
・ループものです
・オリジナルキャラあり(一人だけ)
・独自解釈多数
・独自設定多数
・キャラ崩壊
・終始シリアス展開

ss初投稿のため、至らないところもあるかもしれませんが、優しく見ていただけるとありがたいです。

また、誰も死なない終わりを目指します。

< 1234>
71 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/11 09:23:25 ID:RNYt7PXvaq
昼のピークを過ぎ、店を閉めたライネさんは、私を修練場へ案内した。

村の外れにあるこぢんまりとしたその場所は、周囲に作られた観客席などから、何かのイベントの会場として作られたものだろう、しかし、その規模に比べ『里』はそう大きくなく、何のために作られたのかいまいちわからない場所だった。

現在は、ライネさんによって定期的に開かれるクリエメイトたちへの戦闘訓練の際に使用されている程度だ。

この世界の常人より多くの『クリエ』を有するクリエメイトたちは、その力も強大で、暴発の際には危険も伴う、開けていて周囲に施設もないこの場所は最適と言えた。

「ココアちゃん、普通は聞かないのだけれど……あなたには特別に、聞いておく」

修練場の中心まで歩いていったライネさんが、こちらを振り向いて言った。
その所作は優雅でありながら一片の隙もなく、彼女の強さを際立たせる。

「あなたは、何のために力を欲しがるの?」
「え?」
「大半のクリエメイトが私に修練を頼む理由は、単なる興味本位によるものが多かった、一部違う子もいたけど……でもあなたは、そのどれとも違う」

ライネさんは、何かを思い出すように、一瞬だけ目を伏せる。

「あなたには、戦う理由がある、そのために必要だから、力を欲しがっている……あなたはその力で、一体何を望むの?」

72 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/11 09:25:34 ID:RNYt7PXvaq
私が力を欲する理由、その目的。
そんなものは、ひとつしかない。

「何も望みません」
「なんですって?」
「私は何も望まない、ただ、何も変わらない明日が欲しい、それだけです」

私はライネさんの目を見て言った、微笑みが消える。

ーーあ、勝てない。
ただそう思った。

寒気で震えそうになる足と、反らしそうになる視線をどうにか維持しながら、漠然とそう思った。
殺気、覇気か、それにあてられた私は、さながら蛇に睨まれた蛙だ。
それは絶対強者に対する、根元的な畏怖と恐怖だった。

だが、屈する訳にはいかない、無限にある時間の中で、命はいくらでも替えがきく。
だが、心は折れればもとには戻らない、折り曲げた紙をいくら伸ばしても折り目が残るように、それは確かな弱点となって、やがてはその意思を粉々に砕く。

折れない意思、その一点だけは、決してなくしてはならないものだ。

私は冷たくこちらを見下すライネさんを、強く睨み付けた。

「……わかったわ、あなたを強くしてあげる」

彼女は一つため息をつき、言った。
私の体を襲っていた重圧が一瞬のうちに霧散する。

「いいんですか?」
「断ったらあなた、あの状態で切りかかって来そうだったもの」
「あ……」

いつの間にか、私の手は腰の剣を掴んでいた。
目の前の危機を退けるには、それを使うしかないのだと身体に染み付いた結果だった。

「あなたは他の子たちより骨がありそうだから、少しキツめにいくわよ、ついてきてみなさい」

練習用の木剣を携え、ライネさんは言った。

73 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/11 09:36:38 ID:RNYt7PXvaq
「うおおぉーーっ!」

気合と共に放たれた剣檄が、ライネさんの剣を打ち据える。
高速で動き、常に自信の優勢となるポジションと間合いを確保しながら、隙を与えぬ連激を加えていく。

ライネさんは、その全力の攻撃を汗一つかかずに受け止め、避け、流す。
どこを攻めてもこの先には剣がある。
この人はひょっとしたら、予知能力者の類いではないかーーそう思うほど、その剣筋は正確で、動きは的確だった。

「甘いわ」

高速の動きに消耗し、動きの鈍った攻撃を受け流される。
重力に従い流れていく体、その鳩尾に、強烈な掌底が打ち込まれる。

「ぐはっ!?」

私は仰け反りながらたたらを踏んで、地面に膝をついた。

「うっ……げぼっ、ごほっ……!」
「……驚いたわ、あなた、この世界に来たのは最近よね? 」
「げほっ……そう、ですけど」

実時間ではそうだ、体感時間ではさらに1ヶ月ほどプラスされるが。

「いつどこで、どんな訓練をしたら、ここまで早く強くなれるのか……」
「私を叩きのめしておいて、そう言いますか……?」
「ただ訓練しているだけじゃ、あの動きはできないわ、自主的に魔物狩りでもやってたの?」
「えぇ、まぁ」
「……でも、まだまだね、あなたはまだ、戦いの最中に考えている」
「それが、いけないんですか」
「考えるまでもなく体が動かなくてはダメよ、その一瞬の隙が、強者との戦いでは命取りになる、特にココアちゃんはクリエを利用したスキルを使うときに、それが顕著になるわ」
「じゃあ、どうすれば?」
「身体に染み付けるの、どういうとき、どんな行動をとるべきか、反射的に判断ができるように……効率的な体捌き、正確な太刀筋、そしてあらゆる危険への対応、全部身体に覚え込ませなさい」
「……はい!」
「どうすれば勝てるのか、どうすれば負けないのか、どうすれば死なないのかーー死線を潜り抜けた者だけが知る境地、達するには、死なない程度にいたぶるのが一番、幸い里にはそうりょもいる、頭でなく、命で理解しなさい」

光を纏い、異次元の速さを持って剣が振り下ろされる。
反応出来ない、太刀筋が見えない、攻撃が読めない。
叩きのめされ、何度も何度も土を舐める。
無数のゴーレムに襲われることが、些事に思えた。

74 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/11 09:40:55 ID:RNYt7PXvaq
それからの私は、強くなるためにライネさんと訓練を続けた。

訓練をして、本番としてゴーレムどもを八つ裂きにする、そして、力及ばず八つ裂きにされる。

殺す、食う、寝る、殺す、殺す、食う、寝る、殺す。

ただそれだけを延々と繰り返した。

20週目ーー15分で死亡。

42週目ーー頭が痛い、記憶が曖昧だ。
25分から先の記憶がない。
やり直しているということは、多分死んだのだろう。

60週目ーークレアちゃんの召喚の館が燃えているのを見た、傍らにはクレアちゃんが倒れていた。
「ポルカと……コルクは……大丈夫か……な」
そう言って彼女は目を閉じた。
私は無事だと言った。
聞こえていたのかはわからない。
33分で死亡。

69週目ーー頭の痛みがピークに達している。
おぼろ気な記憶のなかで覚えているのは、怯えたようにこちらを見るチノちゃんの顔だけだ。
52分で死亡。



75週目ーー

「っ!」

ライネさんの強烈な一撃。
それを無理な体制で受けた私は大きく吹き飛ばされ、修練場の壁にめり込んだ。

「がはっ……」

口元から血が溢れる。
それでも、目前に立つライネさんを睨み付けどうにか立ち上がる。

しかし、激痛で力が抜け、立ち上がることが出来ずに私は再び地に崩れ落ちた。

「あらあら、ごめんなさい……少し強くやり過ぎたみたいね、骨が折れてるわ」
「え……?」
「まぁ、里にはクリエメイトのそうりょもいるし、治癒の魔法をかけてもらえば、そうかからず治るでしょう」
「具体的に、どれくらいかかりますか」
「そうねぇ……3日くらいは安静かしら……ココアちゃん!!?」

私は剣で、自らの喉を刺し貫いた。

75 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/11 09:44:35 ID:RNYt7PXvaq
97週目ーー

「はぁっ!!」

振るわれた剣が、ゴーレムを容易く両断する。
その死を確認することなく、周囲に視線を巡らせる。

右に2、左よりたくさん。
走る、0.1秒前に自分のいた場所が爆砕する、粉塵が敵を覆う。
敵は見えない、でも私にはその動きがわかる、敵には私の動きは見えない。

煙が動く。

「……そこか」

剣を一振り、二振り、二体のゴーレムが煙と消える。

その瞬間には、私は次の目標を駆逐すべく動いていた。
炎が舞い、産み出した気流が粉塵を吹き飛ばす。

とっておき『燃えるパン魂!』ーー

敵の大群へと投げつける、爆砕、火柱が上がり、吹き飛んだ奴らのパーツが散り散りになりながら煙と消える。

私の実力はさらに高まり、今ではライネさんも唸る程になっている。
今の私が軽く手首を捻るだけで、ゴーレムは塵芥と消えるだろう。

その動きは最早考えずとも繰り出される、そういう風に、脳に焼き付けられている。
一体のゴーレムを殺す間に目は次の敵を捕捉し、頭はその次の敵をどう殺すかを考えている。

攻撃は常に次の攻撃への布石となり、立て続けに振るわれる剣は敵に反撃を許さず、常に走り続ける足は敵を近づけることすらない。

76 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/11 09:45:49 ID:RNYt7PXvaq
あるクリエメイトは言った。

「ココア……のほほんとしていて、あんなにデキる奴だったなんてな」
「あの人の世界にも、私達の世界のような危険が、あるんでしょうか……?」

あるクリエメイトは言った。

「す、凄い……! まるでゲームのキャラの動きみたい……現実であんなことできるんですか……?」

あるクリエメイトは言った。

「次々とゴーレムさんたちがちぎ投げされてく……! もしかしてあの人も魔法少女……お花よりダンベルが好きなんでしょうか……』

死の恐怖に怯え、絶望して右往左往していた私はそこにはいない。
そこにいるのは、戦局を変えうる歴戦の勇士だ、前線で戦い抜き、敵味方あらゆるものから畏怖と敬意の視線を集めるせんしの姿だ。

その証拠としてか、私に集まる敵の数が、周回を増すごとに多くなってきている、そのせいか、生き残る人は増えた。

だが、強くなったとは言え、血は出る、ゴーレムの剣の一太刀を浴びれば死ぬことに変わりはない。
身動きできないほどに囲まれれば、大概は死ぬ。

それに、もうひとつ。

戦闘開始から一時間。

視界が暗転する。

77 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/11 09:49:57 ID:RNYt7PXvaq
「ーーまたか」

私はまた、目覚めた。


ーー98周目。

ラビットハウスで仕事をしながらも、私は考えていた。

ーー戦場の中にあっても生き残る力を手にいれた私は、それでもまだリピートの渦中にいる。

98周、時間にしておよそ10ヶ月ほど戦いを続け、ライネさんの技術を吸収して得た力、しかし私は、未だにリピートの発生原因を特定できていなかった。

それが、あの戦いの中にあることは間違いない、だが、90週を越えた辺りから、唐突に意識が途切れることが多くなった。
リピートの主な原因として私自身の死があり、死を認識できないほどの超速の攻撃で殺された可能性も否定できない。
しかし、私はこれまでそれを一度たりとも観測できてはいないため、今は否定する。

そうなると、別の理由でリピートが発生したということになる。

その条件は一体なんなのか……。

「ココアさん……ココアさん!」

チノちゃんが強い語気で話しかけてきて、私は思考の海から脱した。
いつものように笑って、彼女に言う。

「ん? どうしたのチノちゃん」
「あ……」
「?」

チノちゃんの表情が、困惑したように曇った。

「ココアさん……なにか、あったんですか?」
「どうして? 私はいつも通り……いや、妹分がちょっと足りないかな、チノちゃんでもふもふ補給〜」
「あ……ちょっと、ココアさん……」

チノちゃんに飛び付く私を、彼女はまんざらでもない表情で受け止める。
彼女からは、コーヒーのほろ苦い、でも落ち着く香りがした。

78 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/11 10:02:01 ID:RNYt7PXvaq

「ココアさん……」
「ん? なにかな、お姉ちゃんに全部言ってみなさい」

言うと、チノちゃんは困ったように俯く。
言葉を選んでいるのか、口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返す。

「ココアさん……なんで、何も言ってくれないんですか?」
「何も言ってくれないって、何が?」
「と……とぼけないでください!」

チノちゃんは私の包容を乱暴に抜け出し、少し離れて相対する。
その目には、僅かに涙が浮かんでいた。

「チノちゃん……」
「普段のココアさんは、そんな顔しません! ここ3日くらいずっと、ココアさんはおかしいです!」

普段の彼女からは考えられないような叫び声だった。

「ずっと上の空で、ものすごく辛そうで、でも話しかけてもあからさまな作り笑いをするばかりで……なんでなにも話してくれないんですか……?」
「……ごめん」
「私は今までたくさんのものをココアさんからもらいました、ココアさんが辛いのなら、私も力になりたいです、それとも……」

彼女はえずくように、言葉を絞り出す。

「わたしは、そんなに役にたちませんか……?」
「それは……」
「わたしだってクリエメイトです、それなりに戦えるつもりでいます、たしかにリゼさんみたいに強くはないですけど……」
「そんなことないよ! チノちゃんは私に妹力っていう無限のパワーをくれるんだから、それだけで役にたってるんだよ! だから……」

私はそこで言葉をつぐんだ。

チノちゃんの瞳が、さらに涙を溢そうとしていたから。
たぶん、次の言葉を読まれていたから。
『チノちゃんは何もしなくてもいいんだよ』という言葉を。

「……っ! ココアさんのバカ! もう知りません!! 一人で問題を抱え込んで、一人で潰れちゃえばいいんです! 後で頼ってきても聞きませんからね!!? 」
「あっ、チノちゃん……」

チノちゃんは泣きながら、ラビットハウスを飛び出して行った。

79 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/11 10:05:52 ID:RNYt7PXvaq
「わたし……」

ふと、窓ガラスを見る。

にっこりと笑う。

「……うわ」

明らかにそれとわかる微妙な引き釣った笑いが、そこにあった。
こんな顔じゃ、チノちゃんに心配をかけてしまうのも仕方ない。

「笑顔……笑顔……」

どうにかして、笑みを作る。
今後は気を付けなければ、チノちゃんに心配はかけられない。
これは私だけが出来ることなのだから。

笑顔を作るくらい、何度もやって来たことだ、今さらーー

「……あれ?」

でも、私は気づいた。

ーーなんで、私は笑顔を作っているんだ?

そんなことをしたことが、今までにあったか?

それに。

「どうやって笑ってたんだろう」

それすらわからない事実に、気づいた

80 名前:雨月琴音[age] 投稿日:2020/01/11 17:21:13 ID:Fy6KKPKHif
強さを手に入れたが、1番大切な人が離れてしまった…
リピートの条件が死だけではないかもしれない所が気になります

81 名前:阿東[age] 投稿日:2020/01/11 17:44:02 ID:/ZNmXaELU5
>>76

上から胡桃、美紀、青葉、優子ですか?

82 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/11 18:43:03 ID:mSszXscLr7
頭痛…だと……

ソーニャちゃんよりも感情を失ってしまいそうで心配です…どうか救いを…!

83 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/11 19:17:24 ID:RNYt7PXvaq
>>80
リピートをすれば人間関係はなかったことになりますので、チノちゃんとの会話もなかったことになります。
ですが、この会話は確実にココアちゃんに影響を与えるでしょうね……

>>81
大正解です。
メインキャラ以外は名前を出さずに『クリエメイト』で統一していましたが、そういう小ネタにも気づいていただけて感謝です。

>>82
リピートの影響ですね。
それが益になるのか害になるのかは、まだわかりません。
この作品の元ネタでは、どちらでもありましたが……

感想いただけてありがとうございます!

84 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 19:59:29 ID:y6ZuGBQ/gx
ーーゴーレムの襲撃が始まる。

「はあぁぁっ!」

スキル『レプリカスラッシュ』ーー

放った斬激は、空を割き、複数のゴーレムをまとめて塵と変える。

一瞬だけ迫り来る敵の群に穴が空くが、それはすぐに別のゴーレムによって塞がれた。

ーーまただ。
私を襲ってくるゴーレムの数が、また増えている。
複数のリピートの中で、私の存在を危険だと認識したのか、波の如く物量でもって、私を押し潰そうとしてくる。

しかし、むしろ好都合だ。

「私に敵が向いてくれれば、襲われる里の人は減る、私がこれをすべて倒せばいいだけ!」

戦いはよりシンプルになった。
すべて斬り殺せばいい。

今の私ならそれもできるはず、この問題を片付けさえすれば、チノちゃんとあんなケンカをすることもないのだ。
もとの、何も変わらない日常に戻れるはずなのだ。

敵の群れに、私は飛び込んだ。

「さぁ、私と踊ってもらうよ!」

文字通り踊るように、私は剣を繰り出した。
無造作にも見える動きは確実にゴーレムを吹き飛ばし、一瞬遅れた敵の攻撃が着弾するころには、私はその場にいない。
敵と、その攻撃の合間を縫うように走る私は、恐らくこの世で最も危険な場所にいるのだろう。
しかし、私の心は驚くほどに平静だった。

そのとき、視界の片隅に、赤い影が映る。

13週目、私に苦渋を与えた仇敵。
一直線に私に向かってきたそれは、あの時と同じ、焔に包まれた剣を振るってきた。

85 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:01:22 ID:y6ZuGBQ/gx
スキル『本番はここからだよ!』ーー

その剣と、私の剣が正面からぶつかりあう。
強大な力の奔流が、衝撃波となって周囲を吹き飛ばす。

「ーーえ?」

敵の顔は兜に覆われている。
だけどわかった。

こいつーー笑った?

スキル『オーグメンター』ーー

赤いゴーレムの周囲が赤く染まり、空間を歪ませる程の熱が周囲を包む。

その熱は、物理的な力となってゴーレムの剣に連なり、私の剣を押し返した。
後退し、剣を構え直す。

「こいつ、まだ……!」

赤いゴーレムの周囲には紅炎が舞い、発する熱は地面を発火させ、周囲を地獄の光景へと変えた。
その力、その重圧は、先ほどとは比べ物にならない。

まだ、こいつは力を隠し持っていたと言うのか。

「……大丈夫、今の私ならやれる」

細く息を吐き、真っ直ぐに赤いゴーレムを見据える。
それに対し、奴は更なる攻撃で返してきた。

スキル『インセンディアリー・ボム』

赤いゴーレムの周囲に複数の炎が現れる。
腕の一振りによって放たれたそれは、地面と接した瞬間、光を放って炸裂し、周囲に高熱の炎を振り撒いた。

飛んできた炎を横っ飛びに避け、にわかに小さくなった足場を縫って跳ぶ。

そのなかでも、複数のゴーレムが炎をものともせず襲いかかってくる。
しかし、遅い。

「退いてっ!」

跳躍、宙返りし、横薙ぎに振られる剣を上に回避。
そのまま体を捻り、上下逆さまのままゴーレムの首を刈る。

さらに前方から複数のゴーレムが襲い来る。

「相手にしてられないの!」

最前列のゴーレムの攻撃を打ち払い、跳躍。
体制を崩したゴーレムの頭を踏み台にし、私は高く飛んだ。
ゴーレムの群れを飛び越え、一直線に赤いゴーレムの元へ突進する。

赤いゴーレムの周囲は、地が燃え炎が舞い、地獄の顕現かと思うような光景と化している。
それは近づくだけで肌を、肺を焼いていく、長くは近づいてはいられない。

86 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:03:39 ID:y6ZuGBQ/gx

「うおおぉぉぉーーっ!!」

スキル『狙ったエモノは逃がさない!』ーー

刃先にクリエが収束、振りかざすと共に、炎の刃が飛翔する。
赤いゴーレムは寸前で反応し、剣の一閃でそれを弾き飛ばした。

更に勢いに任せ、大上段より剣を振り下ろす。
赤いゴーレムは左からの切り上げで応じ、甲高い剣撃と火花が散る。
ゴーレムは攻撃を受け流しながら後退、直ぐ様反撃の一撃を放つ。

「くっ……」

やはりこのゴーレム、力だけではない。
相手の一手二手先を読み、踊るように攻撃を繋げてくる。
まるでライネさんとの戦いのよう、それは人を、戦士を殺すための剣だ。

いま行われているこの剣のぶつけ合いも、私が敵の動きを予測し、敵が私の動きを予測し、その読み合いの末に起こっているものに過ぎない。

故に戦いは、どちらかが読み違えをしない限り終わることなく、無数の剣激とその余波が周囲を切り裂く。
最早常人にはその軌跡すら追うことはできない。

嵐の渦中に居ることが出来ないように、何人も、無数のゴーレムすらも、その戦いに介入することはできなかった。

「はあぁぁぁっ!」

私の放った全力の袈裟斬りは、しかし、まるで最初からそこにあったかのように、ゴーレムの炎の剣と打ち合っていた。

正確には。
私が、今の攻撃の軌道では3手先に胴体を輪切りにされることを予測しーー
それを予測した敵が変化した起動に割り込みーー
更にそれを予測した私が牽制を放とうとしーー
それを予測した敵が軌道上に炎弾を配置し……
その読み合いの末に、ただ打ち合うだけの結果となった。

読み負けた、ここまでやってもまだ、相手のほうが一枚上手だというのか。

さらに、一つの疑問が頭をもたげる、即ちーーこいつは人間ではないかと。
そこら辺にいるソルジャーゴーレムが一二回り強化されたところで、このような戦いができるはずはないからだ。

故に、私は叫んだ。

「何故、こんなことをするの!?」

答えはない。

「あなたの目的は何!?」

答えはない。

「答えて!!!」

87 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:05:06 ID:y6ZuGBQ/gx
スキル『フォックストロット』ーー

これが返答だ、とばかりに、無数の炎の矢が周囲に展開され、一斉にこちらへ射出される。

すんでのところで上に飛ぶ、私のもといた場所に無数の炎の矢が突き立ち爆発する。
さらにそのうち幾つかは方向を反転し、空中の私へと向かって来た。

空中では身動きが取れない、回避できない。
ならば。

「っ! はあぁぁぁっ!」

スキル『レプリカスラッシュ』ーー

剣にクリエの光が収束、無数の炎の矢へ向かい、思い切り振り抜く。
放たれた炎の刃はそれらとぶつかり合い、爆発、さらに周囲のものと誘爆し、空中の私を吹き飛ばすほどの爆轟を発生させた。

体勢を崩して数十メートル吹き飛ばされた私は、地面に叩きつけられ、しかし転がりながら素早く立ち上がり、周囲を見回した。

もといた方向を見る、ゴーレムがいない。
見失った。

「どこにーー!?」

ーーぞわり、と首もとに寒気。

いつのまにか後ろに回り込んでいたゴーレムが、私の首を刈らんと剣を振りかざす。
とっさのところで首に剣をあてがい、受ける。

衝撃で吹き飛びながら受け身を取り、再び剣を構える。

「やっぱり駄目か……っ!」

赤いゴーレムに対し構えた剣は、刃はこぼれ、抉れ、あまつさえ溶けてすらいた。
最早なにかを切ることなど出来はしない、ただの鈍器だ。
せんしのクリエメイトに対し、平等に宛がわれた剣であるが、それでは赤いゴーレムとの無数の剣激と焦熱、そして私の技に耐えることが、できなくなっているのだ。

再び敵が迫る、剣激、一合、二合、三合。
そこで、私の剣は根本から数センチを残し、折り取られた。

88 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:07:06 ID:y6ZuGBQ/gx
「くっ……!」

更に激しい攻撃、ナイフのようになった剣で、どうにかそれを受ける。
まだだ、まだ戦える。

「私は負けない! もう……!」

チノちゃんの言葉が、脳裏を駆け巡る。

『ココアさんのバカ! もう知りません!』

その言葉、悲しそうな表情が、何度も何度もリフレインする。
見限られた、嫌われたーー

きっと本心ではない、頭ではわかっていても、心を抉られた傷が塞がらない、疼いて疼いて仕方がない。

「終わらせるんだ! この閉ざされたリピートを! そうすれば、みんなみんな元に戻る、みんな、幸せになるんだから……!!」

その疼きが、私を焦らせる、駆り立てる。
悲しくて、苦しくて、寂しくて、頭がおかしくなりそうだから。

「はああぁぁぁぁっ!!!」

こいつを殺らねば、前には進めない、その思いで、ただひたすら前へ、前へ。

炎が掠めて腕を焼いていく。
防ぎきれない剣が、総身を切り裂いていく。

だが、死にはしない。
受ければ死ぬ最低限の攻撃だけを防ぎ、避け、猪突猛進の勢いで、ただ駆ける。

「見事……っ!」

全身から血を流しながら攻撃を潜り抜け、遂に、その首筋へと刃を振り抜く。

殺ったーー!

「ーーだがしかし、まだ足りない」

ふと、眼前に光。
蛍のように漂う燐光。

それは、私の剣が届くその直前に、光を放ち爆発した。

「がっ……は……」

力尽き、土を舐める私の首筋に、燃える刃が食い込む。

89 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:08:20 ID:y6ZuGBQ/gx

「……そん、な」

剣の食い込んだ首もとが焼かれる痛みすら、今は感じない。
決定的な、敗北だった。
また、こいつに負けた。

こいつに勝つために、死ぬほどーー死にながら努力を重ねた。
強くなった自信はあった。
だが、それでもまだ、届かないというのか。

悔しさと不甲斐なさで涙が出てくる。
まだ、ダメだ、こんなものでは。
もう一度ーー

「早く……殺し……て、よ」

呟く、しかし剣は動かない。

何のつもりかわからない、なにかを待っているような、なにかを準備しているような。
周囲を見回すと、ゴーレムが周囲を囲い始めていた。

自分の頭に、何かが翳されるのを感じる、何かの光が周囲を照らす。

私は底知れぬ不安を感じた、何か、巻き戻しの効かないことをされている、そんな不安を。
このままではいけない、と、漠然と思った、しかし、周囲は囲われ剣を宛がわれた今、動くことはできない。

どうにか反撃の糸口を探ろうと、周囲に視線を巡らせる。

ーーその時、聞きなれた声を聞いた。

「ーーココアちゃん!」

旋風が、周囲を薙ぐ。
それは私を取り囲んでいたゴーレムを一瞬で細切れにし、周囲を開けさせる。
絢爛たるクリエの光を湛えるのその剣ーー

ーー勇者、ライネの剣。

90 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:10:03 ID:y6ZuGBQ/gx
「ライネさ……ぐっ!」

赤いゴーレムが私を吹き飛ばす。

吹き飛び体制を崩した私に、こんどこそ本気でトドメを刺さんと、焔を纏った剣を突き出し突撃してくる。

回避ーー敵が多すぎる、できない。
防御ーーダメだ、あの攻撃は恐らく剣ごと私を貫く。
反撃ーー間に合わない。

私は目を閉じた。

剣が、肉を貫く音がした。
しかし、痛みはない。
目を開く。

「あ……」

私の前には、真っ白な髪があった。
その一部が、じわじわと、赤く染まっていく。

「コ……コア、ちゃん……逃げ……て」

敵が剣を引き抜く。
ライネさんが、力なく地に倒れる。
血が、地面を汚していく。
また、命が失われてーー

「ライネさんっ!!!」

叫ぶ。
それを煽るかのように、倒れ伏すライネさんに無数のゴーレムが襲いかかった。
まるでハイエナの群れのように。

「やめ……やめてぇ!!!」

叫ぶ以外に、何もすることができなかった。
無数のゴーレムに隠され、ライネさんの姿が消えていく。
ゴーレムたちはそれぞれに持った獲物を、執拗に、入念に、何度も何度も振るい続ける。
あの中にあって、生きていられる人間などいるはずはない。

「そんな……ライネさん……私のせいで……!?」

また、何も守れなかった、何も変えられなかった。
これは、私が浮わついて、突出してしまったことに原因がある。
そのために、わたしなんかの為に、ライネさんは……

ーーでも、悲しみに暮れる暇すら、私には与えられなかった。

ぞわり、と、凄まじい寒気がし、脳内にアラートがけたたましく鳴り響く。
自らの危機を避けるための、身に染み込ませた自己防衛本能、それが全力で警鐘を鳴らしていた。

周囲を見る。

91 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:12:53 ID:y6ZuGBQ/gx
怪しく光る、赤い瞳。

瞳、瞳、瞳、瞳、瞳、瞳、瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳瞳ーー

静寂。

この場に存在する全てのゴーレムがその動きを止めて、私をじっと、見つめていた。

「ーーつっっ!!!」

回避行動ーー何処へ!?
周囲は全て敵、逃げることはできない。

逡巡ーー

視界の全てが、ゴーレムで覆われた。

引き倒される。

「ぐっ……!」

肩に、焼けた鉄を押し付けられたような激痛が走る。

がむしゃらに右腕を振るう。

「あ、ぐっ!」

しかし動かなかった、複数のゴーレムによって、四肢の全てが地面に縫い付けられていた。

私は、全ての抵抗の術を奪われた。

唐突に、視界が開ける。
ーー殺さない? なぜ?

視界に、一つの影。

赤い兜、私の大切なものを尽く奪い尽くしてきた、私の仇敵。

「……良いせんしだった」

そいつはーー喋った。
ハスキーな女の声、そいつは淡々と続ける。

「或いはその刃、私の命に届くものかと感じたが……現実はこうも非情なものか」

冷徹に言う、その手にまばゆい光が宿り、それは点となり線となり陣となって、中空に緻密な魔方陣を描き出した。

「残念だ、あと数年あれば、違ったかもしれんが……先に逝くがいい」

魔方陣の輝きが増していく。

「神よ、我らの地獄への凱旋を称えたまえ」

ーーあれは、ダメだ。

直感が告げる。
あれは確実に、私の運命を、みんなの運命を不可逆に戻し、確定させる光だ。
あれを受ければ、私は今度こそ、完全に敗北し、死ぬ。

私は考えるでもなくそれを実行した、それが、勝利へと繋がる唯一の糸口だった。

私の体に宿るクリエを体内で凝縮。
赤いゴーレムの様子が変わる。

だが遅い。

「みんな、私に、力を……!」

とっておき『燃えるパン魂!』ーー

私は、私自身に『とっておき』を放った。

炸裂ーー。

猛烈な衝撃波と炎が、周囲の全てを吹き飛ばしていく。
弾け飛んでいく視界の中で、最後に見たものはーー

割れた、赤い兜の中から現れた、これまた赤い、燃えるような赤髪の女性の姿だった。

92 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:14:52 ID:y6ZuGBQ/gx
ーー99週目


「ーーはっ!!?」


私はベッドから飛び起きる。

全身をまさぐる、四肢ともに健在。

心臓は割れそうな程に激しく拍動し、体はびっしょりと汗をかいていた。

「……私の、せいで」

私のせいで、ライネさんが死んだ。
チノちゃんを怒らせてしまったのもある。
その死を何度も見てしまったのもある。
少しばかり強くなって増長していたのもある。

そのせいで、私は功を焦って突撃、スタンドプレイの果てに、ライネさんは私を庇って死んだ。
酷い死にかただった、人間の死にかたではなかった。

そしてーーそれがトリガーとなって、奴らの作戦は次のステップに進んだ。
赤いゴーレム、私を拘束した上であいつが放ってきた魔法は、このリピートを終わらせるためのものと見て間違いないだろう。
ライネさんの殺害が、奴らの最終目標なのか、それとも作戦の一部に過ぎないのか、それはわからない。

でも、一つだけわかったことがある。

「……もう、だれも頼れない」

ランプちゃんが死んだ、クレアちゃんも死んだ、ライネさんも、チノちゃんも誰も何も。
弱い私は何も守ることができず、頼る度に、その人の凄惨極まる死を見せられてきた。
守る、守ると妄言を吐き散らかしながらも、その人を死へと向かわせている。
その果てに私は一人無様に泣きじゃくることしかできていない。

一人でやるしかないのだ、私だけがこの場所で唯一のイレギュラーであり、私が私の大切な日常を守りたいと願う限り。

ライネさんの実力は、確かに私の心の支えとなっていた。
だが、ライネさんの死が敵の目的であるだろう以上、彼女が戦うような状況を作るのは悪手だ。
万が一、前回と同じ状況となった場合、今度こそチェックメイトだろうから。

93 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:16:36 ID:y6ZuGBQ/gx
「ーーココアさん、起きてるんですか?」

ドアがノックされ、チノちゃんの声がする。

「チノちゃん……」
「ココアさん? 入りますよ」
「……ダメ!!」

私は叫んだ。

「……ココアさん?」
「ごめんチノちゃん、入ってこないで……」
「どこか、体調が悪いんですか?」
「違う、でも、今は……」

平静を装って言う、そうしなければ、涙がこぼれてきそうだったから。
『助けて』とすがり付いてしまいそうだったから。
洗いざらい全てをぶちまけてしまいそうだから。

そしてそれが、何の意味も持たないことをわかっていたから。
それが結果として、チノちゃんを死なせてしまうことがわかっていたから。

「ココアさん、何か持ってきましょうか?」
「いらない、大丈夫だから」

チノちゃんの声が遠く聞こえる、私の突き放すような言葉が、余計にその距離を遠くさせる。
私とチノちゃんを隔てるドアは、まるで鋼鉄の牢か、巨大な壁のように思えた。
リピートを繰り返すたび、それは高く、固く、分厚くなっていくように思えた。

まるで、この世界にひとりぼっちになってしまったかのような孤独感を感じる、心が折れそうになる。

私は、側に置いてあった剣を握りしめた。
手をそれと癒着させるかのように、強く。

そうすれば、全ての感情を置き去りにして、私は機械になることができる。
機械は涙を流さない、ただ目的達成の為、計画し、実行し、評価し、改善する、ただそれを繰り返す。

何度でも生きる、死ぬ、それを繰り返す、何度でも。

94 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:17:59 ID:y6ZuGBQ/gx


「っ! うおおおぉぉっ!」

裂帛の気合とともに放たれた剣檄が交わり、甲高い音を響かせる。

修練場にて、私はライネさんと修行をしていた。
強くならなければならない、ひとりでも全てを打ち倒せるほどに、強く、強く、強く。
そのために、目の前のライネさんに向けてがむしゃらに剣を振るう。

「チェストぉーっ!!」

スキル『狙ったエモノは逃がさない!』ーー

「っ!」

数十合に及ぶ打ち合いの果て、一瞬の隙に放ったクリエによるスキルの刃。
ライネさんはそれをまともに受け止め、しかし受け止めきれず大きく後退する。

始めの頃に比べれば、ライネさんともかなりまともにやりあえるようになった。
しかしそれでも、勝利したことは一度も無いのだが。

「……やるわね、ここまでの手練とやりあったのは何時ぶりかしら」

そう言って剣を構え直すライネさんの顔には、かつてあった微笑みはなく、鋭く隙の無い視線をこちらに向けてくる。

「少し、本気で行くわよ」

次の瞬間には、ライネさんは視界から消えた。
ーー低い体制からくる高速の剣を、どうにか捉えて受ける。

速い、先程よりもずっと。

ライネさんからすれば私と戦うのは初めてだ、ここに来て漸く、実力を認めてもらえたのだろうか。

95 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:19:38 ID:y6ZuGBQ/gx
「あなたは強い、これ以上何を求めるの?」
「私は弱い、それじゃ何も守れないから、力が必要なんです」

斬り合いを続けながら、ライネさんが問いかける。
あらゆる間合い、あらゆる方向から繰り出される一撃は、それら全てが必殺の威力。
一対一の戦闘のはずなのに、まるで戦場で多数の敵に囲まれているかのような切れ目のない攻撃。

これが、勇者ライネの力ーー!

「その力で、あなたは何を守る?」
「『みんな』です、私の大切なもの、みんな」

私が放ったスキルを紙一重で避けたライネさんは、一瞬で私の後方へと回り込む。

「人は神にはなれはしないーーいや、神ですら、全能にはなれない」

振り下ろされる剣を、振り返りざまにどうにか受け止める。

「ましてやーー人の手と言うものはとてもちっぽけなもの、いくら力を手にいれても、自らの手の届く範囲のものすら守ることができない」
「それでも……! 私は何も変わらない明日が欲しい」

「そうやって血を流したところで、意味は無いわ、世界では今も夥しい量の血が流れているのよ、ただ、あなたがそれを知らなかっただけ」
「それでも!!」

ライネさんが剣を振り切り、私は大きく吹き飛ばされる。

そこにさらに追撃、クリエでできた刃が放たれる。
地を切り裂いて迫るそれをギリギリで回避。

それは、私が避けた先にある修練場の壁に、大きな傷跡を描いた。
さらにそれが、私を追うように連続で放たれる。

「……ココアちゃん、あなた、戦うのをやめなさい」

彼女は決然として言った。

96 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:21:53 ID:y6ZuGBQ/gx

「何でですか! そんな事……」
「あなたに戦いは向かない、それも、決定的なほどに」
「な……!?」
「かつての戦場にも、あなたのような人がいた」

スキルーー『レプリカスラッシュ』ーー

クリエの刃どうしが衝突し、爆発、衝撃波とともに周囲に砂埃を立ち上げる。

それに紛れ一気に接近、再びライネさんへ斬りかかる。

「なにかを守るためーー現実を知りながら、なおそれに抗おうとする」

斬りかかった先には、ライネさんの剣があった。
先程よりも更に数段速く、強い。

どうにか受け止めるが、再び大きく後退させられる。

「彼らは強かった、或いは私以上に勇者たらんとした人もいた、でも死んだ」

追撃、それは最早練習や試合で放つような威力ではなかった。
純粋な敵意をのせた、こちらを殺すための一撃。

「私は……死なない!」
「彼らも皆そう言ってきた、だけど全て嘘になった」


高速で振るわれる攻撃、私はとたんに防戦一方となった。
私とライネさんの間には、未だにここまでの隔たりがあったのか。
勝てないだろう、でも。

「ちっぽけな存在なのよ、貴方も私も……受け入れなさい、さもなくば命を落とすわ」

執拗な攻撃、こちらの心を折るための。
何度も吹き飛ばし、地面に転がされる。
でも、負けることはできない、今負ければ私は二度と立ち上がれなくなる。

97 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:24:55 ID:y6ZuGBQ/gx

「……私には、確かに才能がないのかもしれない」

呟く。

「リゼちゃんならもっとうまくやれたかもしれない、千夜ちゃんなら、シャロちゃんなら、もっとうまくやれたかもしれない、だって、既に私の手からは数え切れないほどの命がこぼれ落ちてしまっているから」

立ち上がる、呟く、でなければ、本当に心が死ぬとわかっていたから。

「でも、それでも……やらなきゃならないことがある!
他の人ならとか、私に才能がないとか弱いだとか、そんなくだらない戯れ言はどうだっていい!
これは、私だけができること、私がやらなきゃいけないこと!
私はチノちゃんも、その回りの世界も全て、守って見せる、私の前に立ち塞がるなら、例えあなただろうと叩き潰す!」
「……そう、あなたはそれでも、そう言うのね」

はっ、と息を飲む。
膨大な何かの力が、ライネさんを取り巻いていく。

それは剣に収束し、まばゆい光が剣を包む。

「ならば、貴方はここで果てなさい」

間違いない、あれは、彼女が扱える中でも最大の力だ。
受ければ間違いなく死ぬだろう。

まぁ、死んでもまた、やり直せる、大丈夫ーー


ーーではない。

敵はそのライネさんすら殺す存在だ。
ここでライネさんに屈して、軽い気持ちで次週があると言って、それで勝つことが出来るのか?

否、絶対に否。

一度折れた心は、確実に私を弱くするだろう。
大丈夫、次がある、と保険を作ろうとするだろう。
その果てにーー前の周のような、決定的な敗北を喫するだろう。

負けてはならない、折れてはならない。

私はその強大な力へ、剣を構えた。

「……」

ライネさんは冷たく私を見下し、無情にその強大な力を振り下ろす。

極光が私を包み込み、その肉体を塵も残さず、完全に消滅させるーー


ーーことはなく、それは私の鼻先一寸で忽然と消えた。

「……え?」
「いいわ、ココアちゃん」

見ると、ライネさんは剣を納め、やれやれといった様子でこちらを見ていた。
その顔には、微笑みがあった。

「ついてきなさい」

98 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:26:10 ID:y6ZuGBQ/gx


ーーライネさんに促され連れてこられた場所は、ポルカちゃんの鍛冶屋だった。
店主はリゼちゃんとともにゴーレムの調査を行っているため不在だが、製錬の為の炉の火は特殊なものらしく、常に強い熱量を放ち続けている。

その場にいるだけで肌を焼くような空気、そこらに転がった用途もわからない器具に、飾られた無数の武具たち。

それを見て、赤いゴーレムーー中身は赤髪の女性ーーに今使用している剣を叩き斬られたのを思い出した。

そうこうしていると、奥で何か探っていたライネさんの声が聞こえた。

「あったわ、ポルカ、やっぱり作ってくれてたのね」

そう言って、ライネさんは少し埃を纏った服をはたきながら、奥から出てくる。
その手には、一振りの剣。

「ライネさん、それは?」
「クリエメイトの膨大なクリエに合わせて作られた、特殊なぶきよ」

ライネさんは言って、私にその剣を手渡してくる。

99 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:28:24 ID:y6ZuGBQ/gx


……儀礼用の剣だろうか。

最初の感想はそれだった。

ほんのり温い鍔の部分には、太陽だろうか、それを模した金色の華美な装飾が施されている。
刀身はポピュラーな西洋剣のそれで、重心を持ち手側に寄せるために剣先は細く、鋭くなっている。

重量は驚くほど軽い、まるで玩具だ。
これで鎧を斬ることができるのだろうか。

「あなた専用に作られた、あなたの為のぶき、里のクリエメイトの子達はまだ実力が伴ってないから、渡さないようにしていたけど……あなたなら、渡すに足る実力があるわ」
「……少し、使いづらそうですね、これ」

言うと、ライネさんは笑った。

「うふふ、その形状は、あなたのクリエを制御するにあたっての特殊なものなの、確かに剣としてはちょっと邪魔かもしれないわね、でもーー」

ライネさんは一瞬で笑みを消し、腰に帯びたロングソードを抜刀。

「っ!」

私は咄嗟に、持っていた専用ぶきでそれを受けた。
きん、と乾いた音が響く。

「ーーえ?」

一拍遅れて、剣が地に落ちる甲高い音。
振り切られたライネさんの持っていた剣は、刀身の半ばから失われていた。

「すごいでしょう?」

ライネさんは言う。
専用ぶきの刀身には、傷ひとつない。
なんと言う切れ味か、ライネさんが扱っていたのは以前私が使っていたのと同じものだが、それを何の力も入れず受けただけで、『斬った』のだ。

その剣の軽さもあり、明らかに現実の物理法則に則ったものではない、魔法的な、何かスゴい力の産物であることは間違いなかった。

「流石『エトワリウム』製のぶきね、普通の金属製のそれとは別格だわ」
「『エトワリウム』?」
「エトワリアに太古から伝わる希少金属よ、神話で伝えられるようなぶきは、全てこれから作られたとも言われているわ、ココアちゃんのそれの刀身には、その鉱物が鋳込まれてる」
「へぇ……!」
「あなたがその力で、何と戦おうとしているのかはわからない、だけど、確実に力になるはずよ」
「ライネさん、ありがとうございます! これなら、きっと……」

奴らを倒すことも出来るはず、私、一人で。
全てを終わらせて見せる、そして、みんなを守り抜いて見せる。

鈍く輝く剣の光は、この閉ざされた運命すらも照らしてくれると思えた。

100 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:30:11 ID:y6ZuGBQ/gx


「……」

でも、ライネさんは微笑みを浮かべて私を見ながらも、少し、悲しそうだった。

何故、そんな顔をするのかはわからない。
だけど私は、その悲しみも、この剣で拭うことができるのだと、信じた。

「……あら?」

ライネさんが言う。
視線の先には開け放たれたままの窓。
鍵は壊されていた。

「……泥棒、でしょうか?」
「わからないわ、見たところ荒らされた形跡も……」

周囲を見回すライネさんの瞳がある点を捉えた。
そこは、私の持っているものと同じ、クリエメイトの専用ぶきが集められた場所だった。
華美な装飾の施されたものから、一見用途不明な物まで様々なぶきが集められた一角。
不自然に、一ヶ所だけなにもない空間があった。
代わりに、そこには張り紙があった。

『しばらく借りさせていただきます、ごめんなさい』

101 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 20:30:24 ID:y6ZuGBQ/gx
今回は以上です。

102 名前:阿東[age] 投稿日:2020/01/18 20:43:34 ID:8MwzT64bil
ココアまでこんな大きなものを抱えるとは・・・。

あんまり無茶はしないでくださいね、ココア。

103 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/18 22:32:31 ID:y6ZuGBQ/gx
>>102
感想ありがとうございます。
モカさんがエトワリアに召喚されていたなら、もしかしたらそう声をかけられていたかもしれませんね。
『姉』としてではなく『妹』として人と接することができていたなら、もっと誰かを頼れていたでしょうし、今ほど追い詰められてもいなかったと思います。

……ただ、ココアさんが強くなることがストーリーを進める最大のカギとなっているので、致し方ない部分もあったりします。
今回ライネさんから専用ぶきを受け取れたのは、その最大の結果ですね。

104 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/21 19:43:33 ID:jmJWcKd8fY
支援、希望が見えてきたようで良かった
(呪いがあるから無駄だろうけど単純な実力なら桃やあぎりさんあたりのチートでどうにかならないだろうか)

105 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/22 00:22:16 ID:duIiMeKXU1
>>104
支援ありがとうございます!
これからは本編組(リゼ、里娘、シュガソル)との合流などもあり、少し雰囲気が明るくなってくると思います。

まだ書き終えてない+推敲しながらと投稿なので亀更新ですが、どうかよろしくおねがいします。

106 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/23 17:05:09 ID:foDXkRCnDK
ゲーム内では対象キャラをLv100にすると勝手に貰える専用武器を、こういう形で一つの話にしたのは作者のセンスが光っていて脱帽しました

107 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 22:24:41 ID:tjC3EvDd/h
>>106
ありがとうございます!
ポルカちゃん不在! エトワリウムなし! の状態でどういうふうにしようか迷っていましたが、そう言っていただけると嬉しいです。

108 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 22:27:46 ID:tjC3EvDd/h
3日目。

私は以前潰した、奴らの沸く洞窟へ来ていた。

以前突入したときは大量のゴーレムに成す術も泣く櫟殺され、戦力の差がありすぎることから里での迎撃を行っていたが、やはりそれではダメだ。
結局誰も死なないようにするには、事が起きる前に手を打つしかない。

手には私専用のぶきが淡く輝く。
ずっと前の、弱かった私とは全てが違う。

「ここからゴーレムが沸いてくるなら、その原因もここにあるはず、それを潰して……」

そして、あの赤毛の女性ーー彼女を下せば、終わりだ。

今度こそーー!

私は洞窟へと、足を踏み入れた。

109 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 22:32:08 ID:tjC3EvDd/h

洞窟に入って数分、当然ではあるが日の光は届かず、依然として暗い。
揺れる松明の火だけが唯一の光源だ。
当然敵からすれば、見つけてくださいと言っているようなもの、落ち着かない心地で、周囲の音に気を配る。

周囲は風の音と、炎の音と足音だけが反響し、静謐な雰囲気すらある。

この先に、数十に及ぶゴーレムが潜んでいるなど、知らなければ考えもしないだろう。

「……そろそろかな」

じゃり、と。
微かに聞こえる複数の足音。

じゃり、じゃり……

私は剣を抜き、音源へ松明を放る。

ゆらゆらと揺れる炎が洞窟の先を照らす、その間も足音は近づく。
光に照らされた敵の数はーー3。
楽勝だ。

「……!」

松明の炎がゴーレムをはっきりと照らす、見慣れた白い鎧。
それらが行動する前に、すでに私は動いていた。
クリエを纏って剣が輝く。

「先手必勝っ!」

スキル『メモリア・ストライク』ーー

横一閃に放ったクリエの刃は、断頭台が如く洞窟を飛翔。
今までと同じタイプのスキル、だが、今回のものは違った。
刃の大きさも威力も、前のものとは全く違う。

それは洞窟の左右の壁に傷跡を刻みながら進む。
3体のゴーレムは反応すらできず、その首を纏めて狩り取られた。

110 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 22:34:57 ID:tjC3EvDd/h

「終わり……じゃないよね! こんなんじゃ!」

奥より更に複数の足音、このままではいずれ、私はゴーレムの群れに飲み込まれるだろう。
この閉所においては致命的だ。

ーー前までは。

「今の私なら……できる!」

しかし、この状況すら今ならば覆せる。
この武器とともに、私が使えるようになった、新たな力ならば。

「邪魔をするなら、容赦しないよ!」

クリエを纏い輝く剣を一振り、二振り。
そして、その切っ先を前方に構える。

とっておき『お姉ちゃんにまかせなさい!』ーー

前方に構えた剣を中心に、竜巻が私を包み込んでいく。
その竜巻は、クリエでできた刃の塊のようなもので、周囲の壁はひとりでにズタズタにされていく。
さらに、それよって発生した礫を飲み込んで、竜巻はその殺傷力を加速度的に増大させていく。

「いっけえええぇぇぇぇっ!!」

そして、風の弾丸と化した私は、その力を保ったまま、ゴーレムの集団に突っ込んだ。
その威力は触れたものを一瞬で塵芥へと還し、触れぬものすらバラバラに切り裂いて散らした。

風に乗って勢いよく進む私を、阻むものはなかった。
その全てが、私に立ち塞がる前に消え去る。

「すごい……あ、圧倒的じゃない……!」

竜巻が霧散するのを見、振り向くとそこには天災もかくやと言うほどの破壊の爪痕だけが、残されていた。
あれほどいたゴーレムたちは、欠片すらも残ってはいなかった。

私は口角が上がるのを抑えきれずに、専用ぶきを見る。
それは、理外にある魔法そのものの力。
この力があれば、どんな敵だって恐れるに足りない。

「……進もう」

落ちていた松明ーー先ほどのとっておきで切り裂かれ長さが三分の一ほどになっていたーーに火を着けて、私は再び進みだした。

111 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 22:36:28 ID:tjC3EvDd/h

洞窟を進んで一時間ほど。

先ほど倒したゴーレムたちは、恐らく里への強襲の尖兵となる存在だったのだろう、閉所で纏めて始末できたのは行幸だった。

……とはいえ、あれが全てではないのは明らかだ、里を襲撃したゴーレムの数は、あの10倍はくだらなかった。

しかし、減らせているのも事実らしい。
敵の数も疎らで、この一時間、2・3体程度の敵を軽く片付ける程度の小競り合いしか起こってはいなかった。

「っ!」

何かの声が聞こえ、一瞬で剣を抜く。
松明の火を向けて全方位に目を凝らす。

「どこに……?」

その時、もう一度声が聞こえた。

ゲコゲコ、と。

「え……?」

下を見ると、ごく小さなカエルがゲコゲコと喉を鳴らしていた。
水場が近いのだろうか、ここには普通の生物もいるらしい。

「……なんだ」

ため息をついて剣を納める。
その時、また音が聞こえた。

今度の音は生物の声ではない、これは……。

「剣激!?」

それは間違いなく、金属どうしがぶつかり合う甲高い音。
それは断続的に響き、戦闘が行われていることを示していた。

私は洞窟の奥へと走った。

112 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 22:41:49 ID:tjC3EvDd/h

少しずつ剣激の音は大きくなっていき、少しすると、狭い空間を抜け大きな広間に出た。
音はこの広間に反響し、ここで戦闘が行われていることを示している。

その音を辿って奥を見る。
そこには光を放つ魔方陣があり、そこからウンカの如くゴーレムが沸いてくる。
三人の少女が、そのゴーレムを相手していた。

「くそっ! なんて数だ! これじゃあの魔方陣に近づけないぞ!」

一人は褐色の少女、彼女は一抱えもある大振りな大剣をを易々と振り上げ、ゴーレムを薙ぎ払いながら叫ぶ。

「これ以上は……危険、私たちだけでは……」

もう一人ーー銀髪の少女は、両手に帯びたナイフで確実に一体一体ゴーレムを葬っていく。

「くっ……作戦を練る必要がありますね、わたしたちは、敵の戦力を見誤りました」

三人目は、白いドレスを纏った、まだ幼いと言える小さな少女だった。
少女は、その体格に明らかに不釣り合いなハンマーを振り上げ、ゴーレムを叩き潰す。

そのうち二人は、見覚えのある顔だった。

「コルクちゃんと、ポルカちゃん……!? ゴーレムの調査って言ってたけど、ここにいたなんて」

同時に、一人の親友の顔が思い出される。
彼女も、近くにいるのだろうか……。

「っ! コルク! 後ろだ!」
「え……っ!?」

後方に回り込んだゴーレムの一体が、コルクちゃんへ向けて剣を振り上げる。

ーーこの世界に住む人々は、当然ながら、死ぬ。

今まで見殺しにしてきた人々の今際の顔が脳裏を駆け巡る。
私は反射的に行動していた。

スキル『お姉ちゃんは許しませんよー!』ーー

抜刀、一閃。
巨大なクリエの刃が放たれ、それはコルクちゃんを襲ったゴーレムを容易く両断し、対面の壁に巨大な傷跡を穿つ。

「え……っ!」
「助太刀するよ!」

楯になるように、コルクちゃんの前で剣を構える。

113 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 22:43:42 ID:tjC3EvDd/h

「ココア!? それに、その剣……!」
「勝手に持っていってごめんね、どうしても必要だったから、ライネさんに頼んだの」
「……いや、いいぜ、元々渡すつもりだったものだからな、それにどうせ、ライネさんのお墨付きだろ?」

ポルカちゃんは嫌な顔ひとつせず快活に笑った。

「ありがとう、助かった」
「お礼には、私のことをお姉ちゃんって読んでくれるだけでいいよ!」
「……善処、する」

コルクちゃんは、少し困惑した様子だった。
彼女はあぁ見えてチノちゃんの一歳上らしいので、なんの問題もない。

「あなたはクリエメイトの保登心愛ですね、シュガーの報告書……のようなもので、話は聞いています」

唯一、見知らぬ顔の少女が言う。
雰囲気は真逆だが、どこか以前あった七賢者の少女ーーシュガーちゃんに似ている。

「申し遅れました、ソルトの名前は『ソルト』、シュガーと同じく、七賢者を勤めさせていただいています」
「よろしく……ってしたいところだけど」

剣を構える、その先には、この閉鎖空間を埋めんと沸き続けるゴーレム。
その奥には、魔方陣が輝き、一体、また一体とゴーレムを増産し続ける。
あれを破壊すれば、奴等が里を襲撃することは不可能になるはず。

「まずはこいつらを始末するよ!」

私はゴーレムの群れに躍り出た。

スキル『私の胸に飛び込んでおいで!』

スキルによって発生した巨大な刃は、軸線上に群がるゴーレムを一撃で蹴散らす。
私はそのまま、足並みの乱れたゴーレムに飛び込み、専用ぶきを振るった。

専用ぶきは、敵の鋼鉄の鎧を熱したバターが如く切り裂き、両断する。

114 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 22:46:49 ID:tjC3EvDd/h

「やっぱり、このぶき……」

どこかはらはらとした視線を向けていたポルカちゃんの表情が、パッと笑顔に、そしてドヤ顔に変わる。

「すごい!!」

今まで使っていた物が、その辺の棒切れに思えるほどの雲泥の差だ。
私の動きは更に速く、精細に、そして強くなっていく。

そしてこの閉鎖空間において、多数の利はない、立ち回りさえ気を付ければ、敵に囲まれることもないだろう。
入れ代わり立ち代わりに現れるゴーレムを切り伏せていくだけ。

このままならば、敵陣を突破することもできるかもしれない。
そうなれば、奥の魔方陣を破壊して、終わりだ。

「ココア……あんなに強かったなんてな」
「……いや、あれは」

コルクちゃんと、ポルカちゃんが驚いたように話す。
私の戦い振りを見た人は皆、同じような反応をする。
無理もない、僅か3日で、他の皆ができないような戦いぶりをしているのだから。

「……あれは……私たちはあれを、一度見ている」
「えっ?」
「わからない? 突然、圧倒的な実力と経験を手に入れたクリエメイト」
「……まさか」
「そう、『彼女』と同じ」
「……なるほど、確かに、聞いていた話と同じなら……その戦闘経験は、おれたちの遥か上を行く」
「いずれにせよ、これは好機、このまま押しきる」

私の傍らに、コルクちゃんと、ポルカちゃんが並びたった。
二人とも、以前の私では逆立ちして も勝てないほどの実力者だ。
そしてーー

「なんの話か知りませんが……このソルトを忘れるのはとても不快です」

その声と共に、無数の人影が躍り出る。

「ぶ……分身!?」

突然現れた無数のソルトちゃんは、一斉にゴーレムの群れに襲いかかった。

「実態の無い幻惑に過ぎませんが……あなた方には十分だと計算が出ました」

115 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 22:50:31 ID:tjC3EvDd/h

ステレオでソルトちゃんの声が響く。
幻惑に合わせ本人も攻撃しているのか、本物がどれなのかは全くわからない。
一瞬で、ゴーレムたちは足並みを乱され、烏合と化した。
一匹、また一匹と、ソルトのちゃんの持つハンマーに殴り砕かれていく。

これが、七賢者の力ーー!

「すっげえ……! おれたちも負けてられないな!」
「当然、紫電一閃にて終わらせる」

コルクちゃんは腰を低くして構え、弓を引くように鋭くナイフを撃ち出した。

放たれたナイフはゴーレムーーの足元の地面に突き刺さり、そこから溢れた光は、一瞬で魔方陣を描き出した。

十体近いゴーレムを巻き込んだそれは、強い風を上方に放ち、ゴーレムたちを浮かせて拘束する。

とっておきーー

「『疾風』ーー」

コルクちゃんは目にも止まらぬ動きで跳躍、ゴーレムたちに肉薄。

「『迅雷』っ!」

閃光のような斬激が無数に放たれ、ゴーレムたちは一瞬で細切れとなった。
がらくたと化したゴーレムがその場に降り注ぎ、次の瞬間には煙と化して消える。

「私も、続けていくよ!」

とっておき『燃えるパン魂!』ーー

剣先に、炎が収束する。
専用ぶきから放たれるその熱量は、剣を掲げた天井から、天井の岩が赤熱化していくほどのものになっていた。

「吹き飛べ!」

ゴーレムの群れに剣を振り下ろし、火球を投げつける。
瞬間、洞窟全体を揺るがすような大爆発は、周囲のゴーレムをまとめて焼き払った。

116 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 22:54:26 ID:tjC3EvDd/h

「ポルカちゃん!」
「ポルカ!」
「これで計算終了です!」

三人の攻撃によって敵の群れに穴が空いた所を、ポルカちゃんは剣をを携えて突撃する。

「いっくぜぇ! せーのぉ!」

ポルカちゃんの掛け声と共に、彼女の剣が激しく燃え盛る。

そして、急激に鎮火していき、姿を現したのは、身の丈すら越える巨大な金槌。
伝説の鉱物すら変形、整形するであろうそれは、単なる凶器として見ても十二分に過ぎる威容を誇っていた。

とっておき『ブラックスミス・インパクト』ーー

「いっけえええぇぇぇっ!!!」

魔法陣に向けて、ポルカちゃんが金槌を振り下ろす。

その直前。

ぞわり、と、強い殺気を感じた。

「ポルカちゃん!」

私は目の前の敵すら無視して、ポルカちゃんの前に立ち塞がった。
視界が明るくなり、洞窟を炎が埋める。

スキル『フォックストロット』ーー

無数の炎の槍が、洞窟内を縦横に飛び交い、魔方陣への攻撃をしようとするポルカちゃんへ一斉に向かう。

「くそっ!」

ポルカちゃんはとっておきの使用を停止、回避行動に移る。
しかし、全てを防ぐことは不可能だ、あれの一発でもまともに受ければ、彼女は灰と化すだろう。

ならばーー

117 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 22:56:20 ID:tjC3EvDd/h

とっておき『お姉ちゃんに任せなさい!』ーー

「みんな、私に力を貸して!!」

烈迫の気合とともに、剣に暴風がまとわりつく。
それは触れる全てを切り刻み散らす刃の塊、私はそれを、渾身の突きとともに前方に『放った』。

塵旋風の如く爆風のボルテックスが軸線上の地面を抉りながら放射される。

更に、目の前の敵を斬るように、剣を動かし前方のすべてを薙ぎ払う。
その暴風に煽られた炎の槍は、その全てが吹き消されるように鎮火した。

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

炎の灯りがなくなり、暗闇に包まれた洞窟の奥から、足音が聞こえる。
燃え盛る剣が、赤い鎧を淡く照らし出す。

「悪いが、それを破壊されるのは非常に困る」
「お前は……!」
「赤いのは殺れると思ったが……なるほど、ここまで来るとはな、クリエメイトの小娘」

全身を赤い鎧で包んだ女は、落ち着き払った声で言う。
その声は、どこか楽しそうにも思えた。

剣を構える。
女は、無造作に剣を下ろしている、それにも関わらず、隙という隙は見当たらなかった。
勝てないかもしれない、今の私ですら、そう思ってしまった。
未だ間違いなく、相手の方が実力が上だ。

118 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 22:59:58 ID:tjC3EvDd/h

「クリエメイトなど、所詮は平和惚けした子供に過ぎないと思っていたが……なるほど、中々魅力的じゃないか、君は」
「……誉めてるの? だとしたら、最低の褒め言葉だよ」
「それは悪かったな、これ以外に、戦士の褒め方を知らんのだ……しかし、悪い誤算だが、少し嬉しい誤算でもあるな」

言って、女は兜を取り去り、その素顔を露にする。
波打つ長髪がぶわっと広がる。
それは、まるで炎そのものであるかのようにも見える深紅色をしていた。

「その力と意思に免じて名乗ろう、私の名前は『カイエン』」

名乗りと同時に、女ーーカイエンは剣をこちらに向ける。
その瞬間、剣にまとわりついた炎が一段と激しくなり、周囲の気温がみるみるうちに上がっていく。
間合いより遥か遠くにいるにも関わらず、肌を焼くような熱量をそれは持っていた。

「君たちに、終わりの始まりを告げに来た」
「っ! 勝手なことを、何も終わらせないし、何も始まらせない! もう何も、私から奪わせるものか!」
「奮い立つか、クリエメイトの小娘」

周囲に殺気が充満し、緊張の糸が張りつめる。

来るーー!

「ならば、私を止めてみせろ」

119 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 23:00:18 ID:tjC3EvDd/h
今回はここまでです。

120 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 23:15:16 ID:HmEiKcMQmo
>>118

「クリエメイトなど、所詮は平和惚けした子供に過ぎないと思っていたが……」


クロ、胡桃、メリー「・・・・・・」

121 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 23:29:29 ID:tjC3EvDd/h
>>120
カイエン「ただし一部のクリエメイトは除く」

そういや平和惚けしてなければ子供でもないクリエメイトって結構いましたね……あんま考えてなかった。

122 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/24 23:41:23 ID:va1LvKUC4d
カイエンペッパー・・・・・七賢者寄りの名前なのが少し気になりますね。さらに言えば、ココアと同じ境遇になっていそうなキャラが最低二人くらいいそうなのも気になります

123 名前:ルナ・ソレイユ◆yodjdoerBO2[age] 投稿日:2020/01/25 15:06:34 ID:1sIaNZPw0K
過去にも同じような経験をしたクリエメイトが…?
カイエンの目的も気になるところです…!

124 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/01/25 19:24:55 ID:7Afr2XG2QG
>>122
カイエンの名前の由来は仰る通り、つまりはトウガラシさんです。
メインクエストで言う七賢者的ポジションの敵、ということですね。

>>123
二人目のリピーターですね。
物語の本編との兼ね合いを考えたら、ココアと会わせるのがめちゃくちゃ遅くなってしまいました……
まだ少しかかります。

125 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 22:40:34 ID:iMZwhS0NGL

スキル『オーグメンター』ーー

カイエンの後方で、クリエが激しく炸裂する。
残光だけを残し、カイエンは瞬時に間合いを詰め切り、炎を纏った剣を振るってきた。

ーー速い、異次元の速さだ。
100m以上離れていたにも関わらず、既に剣の炎は私の肌を焼き焦がしている。
私は咄嗟に剣を楯にした。

「っ!?」

以前使っていた剣では、それごと折られて死んでいただろう。
しかし、その破壊的な威力は抑えきれず、私は容易く吹き飛ばされた。

岩盤に叩きつけられ、土埃が舞う。

スキル『デイジーカッター』ーー

カイエンの剣から、炎が吹き上がり刃を成す。
振りかざされた巨大な炎の刃は、横薙ぎに周囲を焼き払いながら迫り、私のいる岩壁に叩きつけられる。

スキル『メモリア・ストライク』ーー

剣から巻き起こる旋風が土ぼこりを巻き上げる。
私はそれを、迫り来る炎の柱へ向けて振り切った。

膨大なエネルギー同士がぶつかり合い、激しい光が洞窟を照らす。
直後、爆塵と衝撃波が周囲を打ちのめし、煙が視界を覆う。

「まだまだ……!」

その煙の中から、砲弾のように勢いよく私は飛んだ。
剣が、重い。
カイエンの剣を二度に渡りまともに受け止めた腕は、未だにびりびりと痺れている。

強い、あれの前では、ソルジャーゴーレムなどただのカスだ、剣を受けて改めてわかったが、実力はあちらのほうが明らかに上だろう。
故に、長期戦は不利。

ーーならば、九分九厘の力で持って、一気にその首叩き落とすまで。

126 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 22:41:40 ID:iMZwhS0NGL

剣がクリエを纏い、淡い燐光を放つ。

「せえええぇぇぇぃっ!!!」

落下の勢いと渾身の力を乗せた必殺の一撃。
それを、カイエンは炎を纏った剣の一撃によって応じる。

激突。
膨大なエネルギーの衝突は光と衝撃波となって、周囲に撒き散らされる。

「くっ……なんて馬鹿力!」

しかし、その力でもってしても、カイエンの剣を圧しきることは出来ない。
剣を振り切られる、着地、後退、再度攻撃。

「その程度ではあるまい、本気を見せてみろ」
「遊ぶな!」

スキル『フォックストロット』ーー

前進する私を、無数の炎の槍が阻む。
それは、寸前で飛び退いた私の一瞬前いた場所を一瞬で灼熱地獄へと変えた。

さらに、残った槍は方向を変え、再び私を追尾し飛翔する、まるでミサイルだ。

不規則に動いて狙いを散らし避けるが、それも全てとはいかない。
撃ち漏らした数発を、剣で叩き落として迎撃していく。

その全てを迎撃し、周囲が火の海になったとき、カイエンの姿を見失ったことに気づく。

「……後ろ!?」

127 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 22:42:57 ID:iMZwhS0NGL

反射的に身を屈める。

間一髪、直上を炎の剣が掠め、舞い上がった髪の数本を焼き切った。

さらに、大上段からの唐竹割りーーギリギリで身を翻して受ける。

「ぐ……っ!」

凄まじい力で、剣が押し込まれていく。
屈んで受ける形となったのもあり、非常に不利な体制。
近づいてくるカイエンの剣は、触れずとも体を焼くほどの熱量を持っていた。

「しかし残念だ、ここまで来たのであれば、君には舞台を降りてもらわなければならない」
「私からこの力を奪うつもり!?」
「アドリブが過ぎたんだよ、幸い、まだ『演者』はいるのでね」
「演者?……一体何を!」

意味深なことを言うカイエン。
その意味はわからない、しかし、彼女に下されれば、前に使われたリピートの力を奪う魔法を使われるのは、間違いなかった。

「そんなことを言って、私に隙を作らせるの!?」
「その通りだ」
「なめるな!!」

128 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 22:47:04 ID:iMZwhS0NGL

とっておき『燃えるパン魂!』ーー

剣にクリエが収束、炎が剣と剣の間を激しく焼く。
次の瞬間、鍔競り合った剣の間に爆発が起こった。

爆風で大きく吹き飛んだ私は、なんとか受け身を取って着地し、剣を構える。

「な……っ!」

しかし、爆炎の中を駆け抜け、カイエンは追撃を加えてきた。
まるで爆風も炎も異に介さないと言うように。

振るわれた剣を辛うじて受け止め後退、反撃の剣を振るう。

「温いな、炎が!!」

反撃は容易く受け止められ、そこに高速の突きが繰り出される。
ギリギリで体を反らし、剣は私の首の皮一枚を裂いていった。

「そん、なっ……!」

勝てないーー
ふと頭に過る確信。

カイエンはその様子を見る限り、まだ本気を出してはいない。
その上で、私は既にその力のほとんどを使っていた。
とっておきを連続で使用できるのは3回まで、今のが最後だ。
クリエは枯渇し、もう大技を出すことは出来ないだろう。

また、負けるのか、これほどの力を手にしてもまだ足りないのか。

チノちゃん、ごめん。

また、私はーー

129 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 22:49:00 ID:iMZwhS0NGL

「……チノちゃん?」

その時、何かの線が繋がった。

謎の『オーダー』で呼び出された、私、チノちゃん、リゼちゃんの三人。

『まだ、演者はいる』、『君には舞台を降りてもらう』という発言。

今の『演者』が、『オーダー』で呼び出された私ならば。

ーー次は?

このリピートの中で、チノちゃんの死を、何度見た?

こいつは、チノちゃんを狙ってはいなかったか?

何故か?

ーー私の力を奪った上で、チノちゃんを次の『演者』、この地獄へと引きずり込む為だ。

恐らく『演者』は『オーダー』によって呼び出されたものに限定される。
なら次はリゼちゃん? 次は? 他のみんなも呼び出されたら? 次は千夜ちゃん? シャロちゃん? マヤちゃん、メグちゃんも、青山さんも、お姉ちゃんも危うい。

私の大切な人たちがみんな、こんな絶望を味わうというのか。

「……やらせない」

その線が繋がった時、私の頭は沸騰した。

スキル『狙ったエモノは逃がさない!』ーー

後退しながら牽制のスキルを放つ。
同時に私は宙へと舞った。

130 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 22:52:37 ID:iMZwhS0NGL

「うおおぉぉぉぉーーっ!!」

スキル『私の胸に飛び込んでおいで!』ーー

さらにもう一撃、怒りと重力を乗せて、渾身の一撃を放つ

一撃目を余裕を持って弾いたカイエンはしかし、目を見開いてそれを正面から受け止める。
力と力がぶつかりあう、その破壊力はカイエンの立つ足を起点に地をへこませ、衝撃波が周囲を凪ぎ払った。

鍔競り合いながら、私は、カイエンの額に流れた汗を見た。

「ここに来て、力が増すとは……っ! これが、クリエメイトか!」
「やらせない! 絶対に……! チノちゃんをやらせはしないっ!!」

力のまま剣を振り抜く、カイエンは地を削りながら、大きく仰け反る。

それに向けて、更に私は地を踏み砕きながら飛んだ。

「はあぁぁぁぁぁっ!!!」

がむしゃらに、全開の力でもって剣を振るう。
後退しながら守りに徹するカイエンを、執拗なまでに追い立て、その体に剣を突き刺すために迫る。

こいつは、絶対に殺さなければならない。
でなければ、チノちゃんが地獄を見ることになるのだ。
そんなものは、お姉ちゃんではない。
お姉ちゃんならば、自ら味わった苦しみを、妹に味会わせたいはずはーー!

「っ!」

スキル『デイジーカッター』ーー

後退したカイエンは私を近づけんと、剣に膨大な炎を纏わせ、大振りな横薙ぎを放つ。
周囲にある全てを焼き潰さんとする一撃。

炎の壁が迫り来るような光景。
しかし私はそれを、下にーー地面を滑走して避けた。

「何!?」

カイエンへと肉薄。
剣を振り切り無防備な胸に向かい、下段からの逆風斬りを放つ。

カイエンはそれをギリギリで後退し避ける、が、それは彼女の赤い鎧に一筋の傷跡を作った。

131 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 22:53:58 ID:iMZwhS0NGL

さらに剣を両手に持ち替え、大上段からの一撃。

素早く体制を建て直したカイエンは、左からの切り上げでそれに応じる。

何度めかわからない、鋭い剣檄が響いた。

「……ふふっ、楽しませてくれる」
「っ! 何がおかしいの!?」
「いいや、少し心が躍ってきたのでね、それに」

言うや否やカイエンは体の力を抜いて、私の剣を捌いて後退する。

「もう一人、面白い子が来たようだしね」

そこに、追撃とばかりに、旋風がその場所を打ちのめす。
その攻撃を放った主は、白いドレスをはためかせて私の目の前に着地した。

「無事ですか、ココア?」
「ソルトちゃん……」

振り翳したハンマーをゆっくりと肩に乗せて、少女ーーソルトちゃんは言った。

132 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 22:56:57 ID:iMZwhS0NGL

「魔方陣から出現するゴーレムは依然、止まっていません、しかしソルトたちだけでは極め手に欠けます、なので、まず奴を仕留めるべきと計算が出ました」

ソルトちゃんの言うとおり、魔方陣から出るゴーレムはポルカちゃんとコルクちゃんの二人でどうにか押さえているが、そう長くは持たないだろう。
そもそも最初の時点で、彼女ら三人では攻めきれなかったのだ、長くは持たないだろう。

戦いを決するには、目の前のカイエンを倒し、4人で押しきるしかない。

「しかしその実力、七賢者の中でも、ジンジャー、フェンネルに……いや、下手をすればそれ以上です、そんな実力の者が早々いるはずはない、あなた、何者ですか」
「聞き方が間違っているのではないか? 七賢者ソルトよ」
「……どういう意味ですか」
「時に剣は、口ほどに物を語る」
「そういう手合いですか、理解不能です」

挑発するようにカイエンは笑みを浮かべた。
私はソルトちゃんの体を遮るようにして、前に出た。

「ソルトちゃん、あの人に言葉をかけても無駄だよ」
「ココア……」

剣を水平に構える。
ソルトちゃんも察したか、持っていた巨大なハンマーを持ち上げた。

「彼女の好きな殺し合いで、体から聞き出すしかない」
「わかっているじゃあないかクリエメイトの小娘ーーねだるな、乞うな、欲しいならば奪え、君達が強者であるならば、尚更」

カイエンは、心底楽しそうに笑いながら言った。
戦えること、自信の実力を振るえることが嬉しくてたまらない、どこか狂った笑みだった。

「なんで意気投合してるんですか、あなたたち……」

133 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 22:58:05 ID:iMZwhS0NGL

ソルトちゃんが小さく呟く。
それを完全に無視して、カイエンはその剣に纏う炎をさらに猛らせる。

「しかしこの程度では、君たちを殺すことは出来ないらしい」

その言葉と同時に、放たれる熱量はさらに増幅する。
洞窟内に僅かにある水分すら蒸発し煙となって、視界をうっすらと濁らせる。

「ならば、私の全霊を注ぐとしよう」

その言葉と共に、炎が舞った。
その熱は、何もない地面をすら発火させ、あたり一面を地獄の様相へと変えた。

「余波ですらこの熱量……! ココア、長くは戦えません、このままでは全員、肺を蒸し焼きにされてしまう!」
「わかってる、今の大気は、呼吸すら辛い……」

激しい温度差による風が洞窟内に吹き、僅かに髪を揺らす。
しかし、それはカイエンから放たれる圧倒的熱量に対しなんの意味もなかった。

「出し惜しみはしません、一気に行きます」

言うやいなや光が乱舞し、それは個々に収束して無数のドレスの少女を形作った。

分身、いや幻惑の魔法か、それによって現れた無数のソルトちゃんは一斉に散開、四方八方より赤い戦士へ襲い来る。

「なるほど、手札はそれなりにあるらしい」

134 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 22:59:25 ID:iMZwhS0NGL

カイエンはその連続攻撃を容易く受け止め、反撃で分身を消滅させていく。

そして、最後の一体が消滅。

同時に、上ーーカイエンの死角からソルトちゃんは躍り出る。

「これで……!」

カイエンは気づいていない、ソルトちゃんは風を纏い、必殺の一撃を放とうとしていた。

「だが、甘い」

スキル『アルアヒージョ』ーー

ソルトちゃんは空中で一回転し、そのままの勢いで、巨大な衝撃波を放った。
その一撃は地面を砕き、カイエンももろともに叩き潰すーー

「手応えが、ない……!?」
「可哀想だが、死ね」
「なっーー」

最初からそこにいたかのように、カイエンはソルトちゃんの後方に回り込んでいた。

無慈悲な一閃が、ソルトちゃんの首をはね飛ばす。

「ソルトちゃん!? くっ……!」

ソルトちゃんが切り伏せられるのを見て、『私』が、飛び出した。
速い、だが愚直で分かりやすい攻撃。

カイエンは失望したようにそれを一瞥し、振り下ろされる剣を軽く受けた。

剣は容易く受け流され、カイエンの前に無防備な体が曝される。

135 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 23:00:31 ID:iMZwhS0NGL

「……これだけか? 何とも呆気ない……!」

振り下ろされた剣は、私の体を深く袈裟斬りにする。
袈裟斬りにされた胸から鮮血を撒き散らし、その場に私は力なく倒れ伏した。

「……ココア!」

倒れた『私』が叫ぶ。

「……!?」

スキル『お姉ちゃんは許しませんよー!』ーー

ーーそのとき既に私は、カイエンの間合いへと入り込んでいた。
クリエの光を纏い輝く剣を、カイエンの首に向けて振り抜く。

一閃、辛うじて受けられる。
更に二閃、防御に構えられた剣が弾かれる。
そして三閃、カイエンの無防備な胸を、袈裟斬りにする。

カイエンはそのまま大きく吹き飛び、その体に土を存分につけて転がった。

「やりましたか……?」

剣を構え残心する私の傍らに、変身をといたソルトちゃんが立つ。
ソルトちゃんは、無数の分身の中に私に変身した上で紛れ込んでいたのだ。

その胸には、一匹のクロモンが抱かれていた。
クロモンの体は、真一文字に深く切り裂かれ、一瞬で絶命していた。

136 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 23:03:55 ID:iMZwhS0NGL

「……いや、まだだよ」

その言葉と同時に、カイエンは立ち上がって剣を構えた。
鎧には傷が入っているが、浅い、ダメージは与えたが、致命打には至っていないのだ。
この程度の傷は慣れてるのか、彼女はそれをおくびにも出さず微笑みを浮かべた。

「まさか土をつけられるとは、面白いなぁ、クリエメイトの小娘よ」
「小娘、小娘と……私には心愛っていう名前があるんだよ」
「君は心愛と言うのか、可愛らしい名前だ……その上強い、強い者は好きだ……その剣の冴え、さぞ人を斬ったのだろう」
「……っ!」

ぎり、と歯が軋む。
胸の内に炎が荒れ狂うようだった、怒りで臓物が焼けそうだとすら思った。
私はその炎を吐き出すかのように、激しく叫んだ。

「あなたのような人と一緒にしないで!
こんな力、できることなら欲しくはなかった! 大切なものが奪われそうで、それを守るには力が必要だったから、私はこんなことが上手くなってしまった!
壊すこと、殺すことにしか力を使えない、あなたのような人殺しとは根本的に違う! 守るためにしか、私は剣を振ったことはないよ!」
「……ほう?」

常に微笑みを浮かべていたカイエンの表情が、この時初めて強張った。

137 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 23:04:49 ID:iMZwhS0NGL

「……弱者を守るために力を振るうなど、無意味、そして無価値だ、それは強者にとって弱点にしかならない、全く下らん」

カイエンは、諭すように言った。
その瞳の奥の熱が、急速に冷えていくのを見た。

「弱者は嫌いだ、力を持たぬものは、同時に誇りを持たない、卑怯だ、命の危機となれば外道へ堕ちることすら厭わない、犬猫畜生と何も変わらん」
「それは……っ! みんなのことを言っているの!? 」
「弱者に余裕はない、いつも自分のことで手一杯だ、解らずともいいがな……」
「あなたの絶望を押し付けられても困る! その言葉、力ずくでも撤回させてやるんだから!」

私は叫んだ。
カイエンはそれに、苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。
そして、それを振り払うように再び剣を水平に構える。
空気が発火し、無数の鬼火がカイエンの周囲を漂う。

「……喋りすぎたか、仕切り直しといこう」

スキル『フォックストロット』ーー!

カイエンの叫びと共に、鬼火が形を成し、再び炎の槍が無数にカイエンの側に現れる。
扇状に射出されたそれは、私たちを包み込むように前方広範囲から迫る。

138 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 23:05:58 ID:iMZwhS0NGL

「その攻撃は、二度、見ています!」

ソルトちゃんの声と共に、周囲に、無数のソルトちゃんと、無数の私が現れた。

無数の炎の槍が迫る、ソルトちゃんが私を見る。
彼女は小さくつぶやいた。

「行って下さい、ココア」

炎の槍が着弾し、幻影たちがそれに飲み込まれて消えていく。
吹き上がる炎に紛れて、私とソルトちゃんは別の方向へ跳んだ。

爆塵の中を駆け抜け、炎の槍を弾きながら、一路、カイエンの元へ走る。

「カイエンっ!!」

叫び、一路カイエンへと迫る。
眼前に迫る彼女はしかし、時期に迫る私の攻撃を受ける様子を見せず、無造作に剣を降ろしていた。

そして、私は気づいた。
周囲を覆う炎に紛れて、ダイヤモンドダストのように光る無数の燐光が漂っていることを。
それは空間に広がり、幻想的な光景を作り出す。

それらは、前周、私にとどめを刺した一撃。
幾千の燐光が、周囲を取り巻いていた。

「心愛、私を止めたければ、私を殺してみろ、君なら或いは……」

カイエンは剣を腰の鞘へと納め、柄へと手をあてがったまま、深く体制を沈ませた。
分かりやすい、抜刀術の構え。

不味い。

私の本能が、アラートを全力で掻き鳴らした。

「ソルトちゃん!」

立ち止まり、叫ぶ。

一撃ですら、至近で受ければ昏倒させられる威力。
このすべての爆発を受けたなら、文字通り私は塵芥と化すだろう。
即座に私は行動していた。

139 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 23:07:29 ID:iMZwhS0NGL

スキル『メモリア・ストライク』ーー

再度、風を纏った刃を、回転しながら振りかざす。
発生した旋風に煽られ、燐光が吹き飛んでいく。

しかし、遅かった。

「誇れ、君はとても強い」

スキル『ハイインパルス・サーモバリック』ーー

カイエンは目にも止まらぬ速度で、宙に剣を振り抜く。
何かが一瞬、瞬いてーー

ーー私の視界の、全てが弾けた。

目が光にやられ、耳が音にやられ、三半規管は自らが浮遊していることと、回転していることを脳に知らせる。

痛みと共に目頭に稲光が走り、連続して起こるそれは、まるで雷雨のようにも思えた。

いかれた耳は激しい耳鳴りだけを放ち、視界は白く霞んで状況を把握させない。

地面からの熱さを感じて、漸く自身が地に伏していることを理解すると、ふらつく頭、激しい耳なり、揺れる視界で、どうにか現状を見る。

ーーそして、そのときには、カイエンの剣は目の前に迫っていた。

目も耳も機能せず、敵はぼんやりとしか見えない。

だから私は、直感で剣の来る方向を予測して、そこに剣を置いた。

剣激が一回、二回、三回、四回。
まともに剣を受け、私は大きく吹き飛ばされる。

140 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 23:09:29 ID:iMZwhS0NGL

「くっ……」

更なる追撃。

しかしその剣は、割り込んだ影によって防がれた。
更に、誰かによって抱き抱えられ、急速に視界が駆け抜ける。

「撤収します! 洞窟が崩れる、このままでは全員生き埋めです!」

激しい地響きが洞窟全体を包む。
同時に、巨大な岩が、私とカイエンを阻んだ。

「……ふん、戯れが過ぎたか」

地響きは更に大きくなり、大小様々な岩がそこらじゅうに落下する。
洞窟が、崩落していく。

「こんな馬鹿なことを、あの女、何を考えてる……!?」

私を抱える少女ーーコルクちゃんが叫ぶ。
先程のカイエンが起こした爆発によって、洞窟全体が崩れてしまっているらしい。
このままでは、岩に潰され圧死することはまちがいなかった。

「ポルカ!」
「わかってるよ!」

声と共に、カイエンと撃ち合っていた少女、ポルカちゃんが合流した。

同時に背後より、声が届く。

「お前が弱者を守りたいのならばーー鋼鉄巨人の元へ来い、保登心愛」

直後、巨大な複数の岩が声を阻んだ。
私たちにできたことは、崩落から命からがら逃げることだけだった。

141 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 23:09:44 ID:iMZwhS0NGL
今回はここまでです。

142 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 23:27:05 ID:6UaXPCoH8A
鋼鉄巨人…だと…!?

鬱展開からだんだんと希望が見えてきて嬉しいです!バトルの描写が好きです!

143 名前:阿東[age] 投稿日:2020/02/01 23:27:48 ID:IoJ1fyENtM
おおう、すごい展開ですね。

後ココアが強くかっこいいです。

144 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/01 23:52:28 ID:iMZwhS0NGL
>>142
はい、ようやく名前を出せました。
一応この作品の題材って鋼鉄巨人イベなんですよね。
正直ほぼ原型ないですけど……

>>143
ありがとうございます。
台詞は特に作者の趣味が入ってますので、ココアさんには徹底的にカッコいい(と作者が思っている)台詞を言わせてます。
キャラ崩壊が進む進む……

145 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/02 01:45:29 ID:oaLufC6E.L
希望は見えた。見えた筈なのに、

カイエンに負けたらループが途切れる
ループが途切れたら次は他の誰かが犠牲になる
ループによる強化+専用武器持ちで尚、カイエンの全力を引き出せていない
カイエンを越えて悲劇を終わらせたとしても、重ねたループで擦り切れたココアが元の生活に戻れる保証がない

不安要素が多すぎてあんまり安心できない気が・・・・・

146 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/02 07:59:33 ID:cyBU838uTp
>>144
ええやんええやん

147 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/02 20:30:15 ID:VAe30BATcv
>>145
ありがとうございます、そこまで読んでいただけて光栄です!
きらら作品なので、ハッピーで……いや最低でもベター位の後味の終わりかたにはしたいと思ってます。

148 名前:名無しさん[sage] 投稿日:2020/02/07 17:58:13 ID:GnX.UC37qb
>>147
ええんやで

149 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/08 20:14:42 ID:HS9N5sQe9m

……こあ。

誰かの、呼ぶ声が聞こえる。

……ココア。

チノちゃんかな……?

……ココア!

ごめんね、体が重い、凄く眠いの。
起きられない。

声が、遠ざかる。

「……起きてよ、ココア」

誰かの声。
チノちゃんじゃあ、ない。

どこか焦燥を滲ませる声、なんでそんな声を出すのか。
何か、あったのか。
何かーー

脳裏に、光景がフラッシュバックする。
血と、土と、涙と、そして死が、コマ送りのように無数に視界を流れる。

血を流し、力なく倒れたチノちゃんの虚ろな瞳が、糾弾するように此方を見つめーー

150 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/08 20:15:57 ID:HS9N5sQe9m

「ーーはっ!?」

私は目覚めた。
周囲は明るい、にわかに傾き始めた日が照らす。
そして、安心した様子のコルクちゃんの顔があった。

「ココア、良かった……」
「コルクちゃん……」

そうだ、私はカイエンの攻撃で吹き飛ばされてーー!

「カイエンは!?」

私は叫んだ、いてもたってもいられない、奴を野放しにはしておけないのだ。

「落ち着いて、ココア」
「コルクちゃん……洞窟から出ているってことは、逃げたの」
「……そう、そうせざるを得なかった」

コルクちゃんは、語りだした。

「カイエンのあの攻撃によって、ココアは失神させられ、さらに洞窟が崩れ始めたんだ、あのままじゃ生き埋めだった、だから、私たちは逃げるしかなかった」
「そうだったんだ……ごめん」
「いや、ココアがカイエンを抑えてくれなければ、あの場で私たちは皆殺しにされていた、あの攻撃も、初見で避けられるようなものではなかったし、洞窟が崩れ始めた時点で、それしかできることはなかった」

コルクちゃんは俯いてそう言った。

そこまで話を聞いて、私はあることに気づいた。

「……ポルカちゃんとソルトちゃんは?」
「あぁ、二人ならーー」

151 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/08 20:18:07 ID:HS9N5sQe9m
「い"ぃーーーーっ!!痛い痛い! 痛いって!」

聞くと同時に、ポルカちゃんの悲鳴が聞こえた。
見ると、ソルトちゃんがポルカちゃんに寄り添っている。

「ポルカちゃん、怪我してるの!?」

急ぎ立ち上がると、全身に痛みが走る。
それを堪えながらソルトちゃんとポルカちゃんのところへ向かう。

「っ!」

ポルカちゃんのお腹には、酷い裂傷があった。
ソルトちゃんが、手に纏った光をかざしながら、その傷を針で縫っていたのだ。

見たところ、麻酔なし。
壮絶に痛いことは間違いない。

「お、おぅ、ココアか、目が覚めてよかったぜ……くぅ……」
「ポルカ、あまり動かないでください、手元が狂います」
「無茶言うなって……!」

ポルカちゃんの顔には脂汗が滴っているが、見ると、致命的な傷ではないようだ。
ほっ、と息をついて、私はその場に腰を降ろした。

「ポルカちゃん、大丈夫?」
「あぁ、あの爆発の時、破片をもろに食らっちまってな、拳ぐらいの石が腹にぶっ刺さったんだよ」
「でも、そんな状態でカイエンと打ち合って、更に全力疾走までしてきたんだから、やっぱりポルカはポルカ」
「……それ誉めてんの? 貶してんの?」
「もちろん誉めてる、私とは生命力が違いすぎる」
「そりゃどーも……あの爆発をまともに食らって気絶で済んでるココアも大概だと思うけどな」
「あはは……」

私はあの爆発の直前にスキルを放ち、衝撃を和らげていた、そうでなければバラバラになっていた。

しかし、もし……腹に何か刺さったとして、私では動けるか……? 多分動けるか。
でもそれは90回以上も死んだから成し得たことであって、素でそれをやってのけるポルカちゃんは確かに凄いのだろう。

152 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/08 20:20:37 ID:HS9N5sQe9m

「ソルトがもう少し治癒魔法を使えていれば良かったのですが……流石に専門外です、自分にはかけられますが、他人にかけるとなると軽い傷を治すか、今のポルカの傷なら治癒を促進する程度の力しかありません」
「私たちはだれも使えないから、それでも助かった、そのままだったら出血で大事になったかもしれないし、何より感染症の危険もある」
「すげえ痛いけどな……! 流石に麻酔なしで傷を縫うのは始めてだぜ……」
「ソルトもです、とりあえず傷の縫合が終わったら、一旦里に戻りましょう、あそこなら、クリエメイトのそうりょもいます、ここでは応急処置しかできませんから」
「ここからだとかなりかかる、大丈夫?」

ソルトちゃんの言葉にコルクちゃんが言う。
確かに、ここから里へは、下手をすれば1日はかかる。
でも、彼女は『七賢者』だ。

「大丈夫だよコルクちゃん、ソルトちゃんなら、転移魔法が使えるから」
「なるほど……高位の魔法だけど、その幼さで七賢者を名乗っているだけはあるってことか」

コルクちゃんがふんふんと頷くなか、ソルトちゃんは面食らったようにこちらを見た。

「……なんでそんな事知ってるんですか?」
「え? あ……」
「あなたとは初対面の筈ですが……」
「えっと……なんといっても七賢者だし、それぐらいはお茶のこさいさいかな……って」
「七賢者でも、転移魔法の使えない人はいます、強い魔法の素養がなければなりませんから」

ソルトちゃんは、疑うようにこちらを見てくる。
彼女が転移魔法を使えるのを知っているのは、同じく七賢者のジンジャーさんに聞いていたからだが、それも90周以上前のことだ、この周では彼女とは話していない。

「さてはあなた……」

153 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/08 20:21:39 ID:HS9N5sQe9m

見抜かれた? 私が同じ時を周回していることを。
少しだけ心臓が高鳴る。

「シュガーと会っていますね?」
「え?」
「シュガーの報告書……のようなものに、クリエメイトのお姉ちゃんたちに会ったと書いてありました、他に余計なことは言っていませんでしたか?」
「いや、他には……シュガーちゃんが凄く可愛かったことしか覚えてないなぁ」
「そうですか……全く、不用意に手札を明かさないでほしいものです、計算が崩れます」
「あはは……」

そんなわけはないか。
流石にあれだけの情報で、そんな突拍子もないことを言うはずがない。
ランプちゃんも言っていたではないか、時間を操る魔法は実現していないと。

「……」

コルクちゃんが、どこか疑るような視線を向けてくる。
今日会ってから、何度か感じた視線。

しかしそれは、唐突なポルカちゃんの声で途切れた。

「……あのさ、話が纏まってるとこ悪いんだけど、おれは里に戻る気ないぞ」
「え?」

154 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/08 20:23:39 ID:HS9N5sQe9m

地面に体を横たえたまま、少し苦しげにポルカちゃんが言う。

「……死ぬ気?」
「そりゃあこっちの台詞だぜ、コルク、あんな奴を相手にするんだ、お前を一人にはさせられねぇよ……よっと、痛ってえな……」

とりあえず傷の縫合を終えたポルカちゃんは立ち上がって、コルクちゃんの前に立った。

「ポルカは怪我人、足手まといにしかならない」
「そうだな、そもそもおれはそんなに強くない、今回の戦いで思い知ったよ、今までもいろんなのと戦ってきたけど、カイエンはそのどれよりも強い」
「なら……!」
「逃げたほうが良いのかもしれない、でも前を向かない者が得られるものはない、あるとするなら、自分の預り知らないところで、なにかを失うことだけだ」
「それでも、一番大切なものは失わない」
「失うさ、何もせず、何も出来ず、そして後になってお前の死を聞くだけなんて、絶対に、それこそ死ぬまで後悔する、だから行かせてくれ、相棒」

『相棒』の言葉にコルクちゃんは幼子のように目をぱちくりとさせた。

「相棒、か……思えば、ポルカは私が無茶をすると、決まって私を守ってくれてたね」
「そりゃ、コルクは危なっかしいからな、涼しい顔して、平然と無茶苦茶しやがる、修行時代も、おれがいなきゃヤバいこと、何度もあったろ?」
「それは……感謝は、してる、でも今回は」
「今も昔も、これからもだ、それにおれはお前の護衛なんだろ? この程度、今更だよ」
「……わかった、でも無理はしないで」
「お前もな、コルク」

言って、コルクちゃんはポルカちゃんに肩を貸した。
ポルカちゃんも遠慮なく体を預ける。
そこには幾度も修羅場を潜り抜けた戦友らしい気安さがあり、私は少しだけ羨ましい、と思った。

155 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/08 20:24:27 ID:HS9N5sQe9m

その後、コルクちゃんに連れられ私たちは北へと歩いていた。
話によると、途中でメンバーを洞窟内の魔方陣の探索と北にある遺跡の探索に分けたらしく、この先の町で合流する予定らしい。

合流する予定の場所へ近づいた所で、私は気づいた。

「これは……! みんな、気をつけて」

剣を抜き放つ。
目的地の方向には町らしき建物の群が見えるが……
そこから漂う、嗅ぎ慣れた匂い。
死の、匂い。

「血の匂い……あの町にゴーレムがいる」
「まさか、先程討ち漏らしたゴーレムが襲撃を……?」
「待って」

構えられた私の剣を下げさせながら、コルクちゃんは言った。

「もう……全部、終わってる」

コルクちゃんは目を伏せて、そう続けた。
その意味は、言葉がなくともわかった。

156 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/08 20:29:16 ID:HS9N5sQe9m

ポルカちゃんを休ませる為、彼女はソルトちゃんにまかせる。
そして、町に足を踏み入れるとそこは酷いありさまだった。

「……ひどい」

死体は片付けられてはいたが、逆に言えばそれだけだった。
そこかしこに血痕が残り、住宅なども大概が破壊されていた。
ポツポツと見える生き残りの住民たちの瞳に光はなく、ただただ途方にくれている。

「……3日前、この町をゴーレムが襲撃した」
「……3日前?」
「うん、この町は鉱山で栄えていた、ゴーレムたちは、貯蔵されている鉱石を狙って、ここを襲撃したらしい……リゼ、ポルカ、私、あと七賢者のシュガーに、きららで、この街の防衛をした、結果は……」

周囲を見回す。
これが、結果か。

「……3日前、か」

小さく呟く。
『3日前』という現実。
今は3日目、リピートによって戻っても、これが起こった翌日までしか戻れない。

この惨状は、最早変えられない、確定してしまったものなのだという現実を、私は突きつけられた。

そして、私が失敗すれば、更に酷い惨状が現実となるーー『里』が、同じ目に合うことになるのだ。
その上で、恐らくはチノちゃんが、私と同じ絶望を味わうことだろう。

157 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/08 20:34:46 ID:HS9N5sQe9m

「ゴーレムだけなら、なんとかなった、だけど、あいつが来た」
「……カイエン?」
「そう、きららとリゼで奴を迎撃した、でも、きららの召喚したクリエメイトたちは、あいつとの激闘の末、全員が討ち果たされた」
「きららちゃんの召喚するクリエメイトって、いま里にいる人達の中でも指折りの筈じゃ……」

クリエメイトの中でも、きららちゃんが戦闘をお願いするクリエメイトは、今までいくつもの強敵を打ち倒してきた猛者ばかりだ。
七賢者、更にはーーオーダーの使用で大幅に衰弱していたとはいえーー筆頭神官アルシーヴすら下し、オーダーによる混乱を収束に導いた戦士たち。
しかし、それすら……

「クリエメイトは強力なクリエを持ち、強いけれど、戦いの技量ではどうしてもこの世界の武人には及ばないところがある。
彼女らはあいつの繰り出す攻撃に対処しきれなかった。
ナイトの子と、次にそうりょの子がやられたあとは、一方的だった、後に残ったのはリゼだけだった」
「リゼちゃんが……?」
「そう、彼女はとてつもなく強かった、ココアもカイエンと渡り合ってたけど、多分同じくらい、そして、結果も同じ」
「負けたの」
「そう」

コルクちゃんは苦虫を口いっぱいに放り込んで噛み潰したような顔で、それを肯定した。

ーーそういうことか。

里がゴーレムの襲撃を受けた際、殆ど抵抗ができなかった原因。
その時点で、主要なクリエメイト達がカイエンとの戦闘で消滅させられていたからだ。
里には他にも相当数のクリエメイトがいるが、その全員が戦闘要員という訳でもない、かくいう私自身も、こんなことが起こらなければラビットハウスで働いていただけだったのだから

158 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/08 20:36:10 ID:HS9N5sQe9m

「そういえば、きららちゃんは……?」
「きらら……きらら、は……!?」

コルクちゃんは言いづらそうに口を幾度がぱくぱくとしーーなにかに気付いた。
そしてそれより前に、私は腰の剣を引き抜いていた。

聞きなれた音、ゴーレムたちの足音、その整然としたリズムが、聞こえたからだ。

「さっきの残党が、こっちに来たのか……!」
「見てくる!」

私は一足飛びに半壊した家の屋上へ登り、その方向を見た。
予想通り、相当数のゴーレムが、この街に近づいてきていた。

「ここまでのことをしてまだ飽きたらず、人を襲うというの……!?」

視界が赤く染まる、激しい怒りが思考を埋める。
あいつらを野放しにしてはおけない。
私はゴーレムの集団へ向けて跳んだ。

「ココア!」

後ろから呼ぶ声を無視し、私は家の屋根に着地、再び飛ぶ。
下道を走るより、こちらのほうが近いし敵の状況も確認できる。
敵の数はざっと100ほどか。
今の私ならなんとかなるだろう。

「……人?」

そう思いつつ進んでいると、接近してくるゴーレムの群れに相対するように、ふたつの人影が見えた。
一人は濡れ烏色のの髪をツインテールにした少女。
もう一人は、シックな色のドレスを着た、亜麻色の髪の少女だ。

そのうち一人、ツインテールの少女が天に手を掲げる。

159 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/08 20:38:23 ID:HS9N5sQe9m

とっておき『突撃! ラテアート職人!』ーー

その手を中心に青い光が収束する。
それは形を持ち、程なく、少女の身の丈を越える大きさの巨大なガトリング砲となって両の手に収まった。

そして掲げられた多銃身が回転し、無慈悲にそれは放たれた。

それは最早、『連射』というより『照射』という表現が近い。
無数に放たれた魔法の弾丸は、嵐よりなお熾烈な威力と激しさを持って、ゴーレムの集団を襲う。
射線に入ったものはその全てが瞬時にバラバラに砕け散り、衝撃波によってその周囲のゴーレムすら蜂の巣に変えていく。

更に少女は連射を続けながら銃口を動かし、扇状の広範囲を凪ぎ払う。
箒でチリを掃くように、ゴーレムの群れは容易く消し飛んだ。

ーーその姿、10か月間会っていない程度で見間違える筈もない、私と同時にこの世界に召喚された、私の親友。

「リゼちゃん!」

黒髪を揺らし、少女が振り向く。
宝石のように淡く、虚ろに光る青い目が私を写す。

数瞬の後、その瞳は驚きと、悲しみを写した。

「なんで……」

言葉が紡がれる前に、私は彼女の胸に飛び付いた。

「リゼちゃん……会いたかった、ずっとずっと、会いたかったよ」
「ココア……」

リゼちゃんの顔が崩れそうになる、ゆっくりと、両腕が後ろに回される。

「……ダメだ、甘えるな」

リゼちゃんが小さく呟く、そっと私の体を引き剥がす。
困惑しながら彼女の顔を見ると、そこには最初に見たような、虚ろな感情を感じさせない表情があった。

「リゼちゃん……?」
「ココア……」





「なんで、ここに来てしまったんだ」

リゼちゃんは無表情でそう言った。
なぜかその表情は、泣きそうだ、とも思えた。

160 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/08 20:38:58 ID:HS9N5sQe9m
今回はここまでです。

161 名前:阿東[age] 投稿日:2020/02/08 23:02:03 ID:Pwh7.HE3I3
とっておきの名前がいい清涼剤になってますね。

162 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/08 23:42:24 ID:tisiSm.Q2T
リゼのこの能力は、やはりココアと同じ状況にあるんですかね?
だとしたらリゼの表情が『虚ろ』だったり『無表情』だったりするのは、リゼがそうなってしまうくらいのループを繰り返したって事じゃ・・・・・
(ココアのメンタルが強い可能性もありますが)

163 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/09 09:47:41 ID:rPg4WHoQ/d
>>161
自分も、書いてて最初はシュールギャグみたいだなと思ってました、ボーボボみたいな。
まともな技名持ってるキャラなんて一部しかいないんで、どうしようもないんですが……

>>162
リゼちゃんはココアさんと同じような状況ですね。
既に何度も死んで、ココアさんと同じくらいに強くなってます。

164 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/09 13:40:25 ID:6hOdx4J4Da
>>163
戦闘中に勝手に自分の世界作り出すあたりきらファンってボーボボだな。

165 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 22:59:55 ID:zIZIY3hSc1

「リゼちゃん……?」
「ここは危険だ、直ぐに里に戻れ」
「……なんでそんな事言うの?」
「ここは、お前のいるべき場所じゃない、ラビットハウスへ戻れ、お前はそこにいるのが一番似合っている」

リゼちゃんの言葉は重かった、強い決意を滲ませた言葉だ。

「嫌」
「ココア……!」
「私は戻らない、たくさんの人たちを見棄てて、漸くここまでたどり着いた、私はもう止まれない」
「そうか、ならそのすべてを私が受け継ぐ、今すぐ戻れ、ここは危険だ」
「そんな事わかってる! 全部わかった上で、私はここにいるんだよ、リゼちゃん」

私は剣を引き抜いて、リゼちゃんの首筋に突きつけた。

「私に戦いは向いてないのかもしれない、でも、私は弱くない、それを今から証明してあげるよ」
「その剣……何故お前がそれを持っている」
「託されたの、ライネさんに、私が成すべきことの力になるからって」

リゼちゃんは、私の剣、エトワリウムから作られた専用武器を見て、初めて表情を変えた。
そして、リゼちゃんはゆっくりと背中の槍を引き抜く。

その輝き、その威容、間違いないーー
私と同じ、エトワリウム製のぶき。

「それは……もしかして、専用ぶきを盗っていったのはリゼちゃん!?」
「違う、託されたんだ、私も……託してくれた人は、この世界にはいないけれど……私にはこれが、力が必要だった、私が、私の義務を果たすために……だから」

リゼちゃんの瞳が、鋭い殺気を放つ。
ーーそこからのリゼちゃんの動きは、迅かった。

166 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:03:53 ID:zIZIY3hSc1

突きつけられた剣を左手の盾で打ち上げ、同時に弓を引くように長槍が構えられる。

引き絞られた体から放たれるは、正しく神速の一突き。
以前の私なら、反応すらできず心臓を穿たれ、言葉すらなく絶命させられただろう。

ーーしかし私とて、なにもしてこなかった訳ではない。

打ち上げられた衝撃を後ろに逃がし、体を反らしてギリギリで回避、寸止めするつもりだったのか、長槍が私の胸のあった場所の鼻先一寸で止まる。

「何……!?」

リゼちゃんの驚愕の表情を尻目に、その胸を蹴ってバク転、後退し、素早く剣を構え直す。

「この速さ……ライネさんに認められた、というだけのことはあるらしい」
「こちらこそ、こんなに強いだなんて、思ってもいなかった」
「あばばばばばば……」

リゼちゃんの横にいた少女、シュガーちゃんは、唐突に始まった修羅場を、あばあばとしながら見ていることしか出来ていなかった。

お互いに距離を取り合い、油断のない視線を向け合う。
そこに、年端もいかぬはずの少女の面影はない。

「……しかし、認める訳にはいかない、これは私が成さねばならないこと、私はもう、何も失いたくない」
「なら見極めればいい、私はみんなをーーリゼちゃんを助けるために、ここまで来たんだから」

リゼちゃんの表情が強ばる。

一瞬の後、同時に地が蹴られ、槍と剣がぶつかり合う。

「くっ!」

片手で構えていたリゼちゃんのスピアを弾き、その首筋に追撃の刺突を放つ。
しかしその攻撃は角度をつけて構えられた盾に弾かれ、リゼちゃんの服を僅かに裂くに留まる。

リゼちゃんは一旦後退し、長槍を両手で構える。

「ハアァァァァッ!!」

力強い踏み込みから放たれた突きは、先程よりも更に数段、速い。
剣の間合いの外から繰り出される連続の突きに、私は防戦一方となった。

「くっ……」

後退しながら剣で槍を弾く。
その数、十秒足らずで数十合。

激しい攻撃を続けるリゼちゃんが、僅かに息を切らす。
優勢に見えるが攻め手を欠き、このままでは攻撃の隙にやられることを予期したであろうリゼちゃんは、間合いを離すために、広範囲に横薙ぎを放ってきた。

167 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:05:44 ID:zIZIY3hSc1

ーーしかし、その攻撃は愚作だ。
体制を低くし、横薙ぎに振るわれる槍を下に回避。
そのまま一気に間合いを消し去る。

槍は間合いを狭めれば無力化できる、積みだーー

ーーそう思って剣を振りかざした瞬間、リゼちゃんは上に飛んだ。

「何!?」

横薙ぎと同時に前方の地面に突き刺した槍を支点に、彼女は宙を舞った。
剣が空しく空気を裂く。

そして、リゼちゃんは着地と同時に、一瞬で私の間合いへと入り込んできた。
構えられた楯が突っ込んでくる。
ーーシールドバッシュ。

「っ……!」

剣で受け、大きく後退、間合いを離された。
これでは、先程の二の舞だ、リゼちゃんの間合いの内側に入るか、あるいはそれごと破壊するかしなければーー

リゼちゃんは楯を構えて残心し、一瞬、息を整える。

「終わりだ、ココア……!」

そして、次の瞬間にはリゼちゃんの持つスピアがクリエの青い光を纏う。
このまま決める気か、ならば。

「リゼちゃん、行くよ……!」

私の剣に翠色の光が宿る。
私の全力をぶつける、こんなところで私は折れることはできない。

それに、気づいたのだ、私は一人ではないと。
それを、彼女に知らしめるために。

168 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:07:10 ID:zIZIY3hSc1

相対する二つの光は、同時に放たれた。

「ココアァっ!」

スキル『メモリア・ドライブ』ーー

「リゼちゃんっっ!!」

スキル『メモリア・ストライク』ーー

槍と剣が膨大なエネルギーを持ってぶつかり合い、余波が大気を激しく揺らす。
それに負けじと、私は叫んだ。

「リゼちゃんこそ、里へ戻ればいい!」
「私は軍人の娘だ! ならば、銃後にある人々を守るのは私の義務であるべきだ!」
「それは屁理屈だよ! 私だってみんなを、リゼちゃんを守りたい! 」
「その思想は、無辜の人を破滅へと導く悪魔の論理だ! お前のような優しい子が、何故わざわざ地獄に身を落とす必要がある!」
「そうしなきゃ、失うものがあるからだよ! この世界に神はいない、願いや想いなんてものは、純然な暴力の前には容易く蹂躙される! それに……っ!?」

つばぜり合っていた剣と槍、その均衡が崩れる。

リゼちゃんが槍を手放したからだ。

私の剣を蛇のようにぬるりと避け、私の手首が掴まれる、吐息が感じられる程に体が接近する。

ーー次の瞬間、手首に痛みを感じたかと思えば、何かの斥力に引かれるように、私は宙を一回転していた。

169 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:10:44 ID:zIZIY3hSc1

「がはっ……!」

背中から地面に叩きつけられ、肺から一気に空気が漏れる。
剣が手から離れる。

クロース・クォーターズ・コンバットーーCQC。
リゼちゃんが得意とする近接格闘術。
まさかこの身で味わうことになるとは……!

痛みで白くなる視界を上方へ向けると、リゼちゃんがなにかを腰から抜いた。
青と白で装飾された、『拳銃』ーー!

背中を跳ね上げ、後転の要領でリゼちゃんの腕に蹴りを放つ。

「くっ……!」

銃口が逸れた隙に転がって剣を回収、素早く立ち上がる。
体を半身にし拳銃の射線を避け、そのまま余裕を与えず、回し蹴りを繰り出す。
リゼちゃんはそれを容易く受け、右腕の拳銃をこちらに向けようとする。

連激で繰り出した剣がリゼちゃんの首筋に触れるのと、リゼちゃんの拳銃の銃口が私の額を狙うのは、同時だった。

私とリゼちゃんの動きが止まる。
リゼちゃんの私を見る表情は、驚愕に染まっていた。

「……まさか、お前……私と同じ?」

170 名前:名無しさん[age] 投稿日:2020/02/15 23:12:23 ID:zIZIY3hSc1

たっぷり30秒の時間を置いて、リゼちゃんは恐る恐る口を開いた。
認めたくない現実を突きつけられたような、悲しげな表情。

「……違うと言ってくれ」
「同じだよ、多分」

私は呟いた、リゼちゃんは目を見開き、息を飲んだ。

リゼちゃんの瞳に移る私は、きっともう元の私ではないのだろう。
元のように笑わなくなった私を見てか、リゼちゃんは、目に涙を貯めた。
彼女の膝が落ちる。

「……私は、何も守れていなかったのか」

私はリゼちゃんに近づき、その手を取った。

「私も、何も守れていなかった、だから、私も……」

そのまま彼女の体を抱き締める。
彼女の瞳から涙が溢れる。

「ココア……私を許してくれ、力及ばず、お前を戦いへと引きずり込んでしまった私を」

彼女は言った、泣きはらす彼女を見て、彼女は私と同じだ、と思えた。
大切な誰かの死を許容出来ないからこそ、貪欲に、何度繰り返してでも、全てを守ろうとした、こんな地獄を味合わせたくないから、私にもチノちゃんにも、戦うことが似合わないと思ったから、助けを求めなかった。

それは私も同じだった、彼女は軍人の娘で、そして私はお姉ちゃんでありたいと思っていたから。

そんな彼女を責めることなど、できるはずはなかった。

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名前 age
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