お久しぶりです。そうでない人は初めまして。
以前このBBSで、以下のSSを投稿させてもらった者です。
【SS】ハッピーシュガーライフ×きららファンタジア
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=775&ukey=0&log=past
【SS】小鳥と不死鳥と(機動戦士ガンダムNT×アニマエール)
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=1471&ukey=0&log=past
最初に投稿したSSを基に、ハピシュガの人というコテハンを使いたいと思います。
今回は、昨年アニメが放送され、現在アプリゲームが配信中のアサルトリリィときらファンのクロスSSを書きました。
今回は10万3千字ほどの文章を、何回かに分けて投稿したいと思います。
全15章分、お付き合いのほどよろしくお願いします。
今回はさっそく、第1章と2章を投稿します。
その後、皆で朝食を取っていると、水晶玉のテレビを通じ、アルシーヴと梨璃の姿が映し出される。
迫る危機をエトワリア中に知らしめ、ギガント級捜索への協力を要請すると共に、クリエメイトたちに本日から訓練を始める旨を伝えたのだ。
息を呑む一同。
朝食を終えると早々に荷物をまとめ、指定された場所へ向かうのであった。
正午、日も最高潮に登る頃。
普段はビーチバレー部が使う砂浜に、死屍累々の光景が広がっていた。
かおす「・・・」
葉山 照「・・・」
シャミ子「かおすさん、葉山さん、大丈夫ですか生きてますか?」
かおす「おえっふ・・・」
葉山 照「・・・頭おかしいでしょこの訓練」
千夜「わ、私たちに妥協と敗北は許されないわ・・・、がくっ」
チノ「ち、千夜さ〜ん!!」
青葉「ふだん体を動かしていなかったツケが・・・」
椎奈「だ、誰かエナドリを・・・」
ミリアム「ほれ、缶ではなく紙パックのじゃが良いかの?」
ポルカ「タオルの差し入れもあるぜ!」
椎奈「ありがとうございます・・・」
かおす「ふぇえ!?お二人ともクマが酷いですけど、ちゃんと寝られましたか!?」
ポルカ「いや〜、練習用の模擬弾含め、弾づくりしてたら朝になっててな〜」
ミリアム「皆のチャームも整備してての〜。そりゃあもうエナドリが進む進む!」
青葉「ええ!?つまり一睡もしてないんですか?」
ミリアム「結構楽しくなってテンション上がってしまってのう〜」
ポルカ「いや〜二人で作業していると話が止まらないんだこれが!」
椎奈「典型的な深夜テンションですねこれは」
かおす「あばば、早く寝てくださ〜い!!」
ポルカ「いやいや、これから作った弾の様子を確かめに・・・」
ミリアム「そうじゃそうじゃ、リリィとしての訓練も・・・」
そう言うと二人は砂浜に倒れ込んでしまう。
顔を覗き込んだところ、見事な白目を向いて眠っていた。
チノ「ひええ!」
葉山 照「ここまで来るとただのお馬鹿さんね・・・」
そこにまた、別の二人が通りかかる。
椎名「うわあ、大丈夫なのかなこれ」
椎奈「あ、リョウさんところの椎名さん」
椎名「これはどうも、SNS部の椎奈さん」
二水「一文字違いで同じ“しいな”さんなんですね」
かおす「お二人も休憩ですか?」
椎名「うん、中々にハードだからねこれは」
シャミ子「このままだと死者がでるかも・・・」
椎名「それは無いんじゃないかな。キツくはあるけど、きちんと個々人の体力や能力に合わせてメニューが作られてるよ?」
二水「えへへ、一晩で考えたかいがありました」
青葉「え、二水ちゃんが一人でメニュー作ったの?」
二水「流石にアルシーヴさんやきららさんと相談はしました。でも、あの時の戦いで皆さんの様子は見ていましたし、私、こういうのは新聞づくりで慣れているんです」
かおす「・・・編集さんになりませんか」
椎奈「いえ、ぜひウチのスケジュール管理を」
青葉「あの、良ければイーグルジャンプに・・・」
千夜「いいえ、ここは甘兎庵の新メニューづくりにその力を!」
チノ「あ、千夜さん起きました」
二水「あわわ、皆さん待ってくださ〜い」
夢結「良いわ千代田さん!そのまま全力でぶつかってきて!!」
桃「ふふ、特訓でここまで張り合えるのは久しぶりかも」
梅「ほらほら、そう簡単には追いつかせないゾ?」
カルダモン「へえ、縮地抜きでも軽やかな身のこなしだね」
ソーニャ「意地でも追いついてみせるさ!」
ねね「ぎゃあ!またペイント弾撃たれた・・・」
うみこ「この距離で、ここまで正確に当ててきますか・・・」
ユタカ「なら狙撃手を狙えば良いんです!ってうわあ!」
雨嘉「・・・」
ユタカ「そんな、一瞬で武器を弾かれました・・・」
エンギ「状況に応じ、射撃と斬撃を一瞬で切り替えるか。油断したなユタカ」
神琳「ふふ、狙撃が得意だからと言って、近接が苦手とは言っていませんよ」
エンギ「楽しそうだな、神琳」
神琳「ええ、雨嘉さんの活躍も見られますし、何より、こうやって技を高め合うのもやぶさかではありません」
エンギ「・・・そうか、では行くぞ!」
神琳「ええ、どこからでも!」
ねね「お淑やかに見えて結構アグレッシヴ・・・?」
うみこ「思った以上に、熱が入りやすいのかもしれませんね、彼女」
胡桃「これで、どうだあ!」
楓「凄まじい力ですわね、でも!」
胡桃「う、受け流した・・・!?ってわあ!」
楓「ご自分でそこまでの技を身につけたのでしょう?とても素晴らしいことです。ですが、我流故に攻撃一辺倒になりやすい・・・。違いまして?」
胡桃「はは、これまで一撃で相手を倒すことばかり考えてたから、防御とか攻撃した後のこととか、あんまり考えてなかったや」
楓「なら、みっちりと叩きこんで差し上げますわ!」
胡桃「おう!どんと来い!!」
鶴紗「全く性格が違うのに、抜群のコンビネーションだ・・・」
シュガー「へへーん、ダテに双子やってないよ〜」
ソルト「もう、シュガーは前に出すぎです。相手の様子を伺いつつ、慎重に行動してください」
シュガー「ソルトが後ろに下がりすぎなんだよ〜!もっとこうバーンといかなくちゃ!」
鶴紗「・・・多分、あんな感じだから、逆にバランスがとれているんだね」
梨璃「強い・・・。さすが世界を救った英雄だね」
きらら「私がもし強いのだとしたら、それは支えてくれた皆さんのおかげなんです。だから皆のためにも、私はもっと強くならなくちゃ!」
梨璃「その気持ち、分かります。私も色んな人に支えてもらったから、ここまで来られたんです」
きらら「案外似ているのかもしれませんね、私たち」
梨璃「だとしたら、もっと心を通じ合わせれば・・・」
きらら「ええ、きっと大きな力が生まれるはずです!」
梨璃「そうだよね。だからこそ、今は手合わせお願いします!」
きらら「はい!どんどんいきましょう!」
各々に激しく打ち合うリリィとクリエメイト。
その様子を見て、興奮する者たちがいた。
二水「ああ〜。皆さんの戦う姿はやっぱり美しいです!」
かおす「リリィとクリエメイト・・・、異なる世界の少女たちが切磋琢磨する姿・・・。忘れないうちにスケッチしなきゃ!」
ランプ「はう〜。全くもって同意ですぅ!!」
青葉「ランプちゃんいつの間に!?」
二水「・・・何だかお二人とは他人の気がしません!」
ランプ「憧れの対象が違えど、私たちは仲間ですよ二水様!」
かおす「なら、私がお二人の架け橋になります!」
二水「ランプさん、かおすさん・・・!」
そういって手を取り合う三人をよそに、他の皆はどこか冷めた反応をしている。
シャミ子「ゆくゆくはあれに混じらなきゃいけないんでしょうか・・・」
椎奈「無理無理無理!!訓練であんなことしたら本当に死んでしまいます!!」
千夜「リリィっていつもあんな訓練してるの・・・?」
二水「訓練は常日頃からしていますが、今回は特に気合いが入っている感じですね。私も俄然やる気が出てきました!」
葉山 照「あれ見てそう言えるのは流石ね・・・」
椎名「はは、二水たちの世界にいたとして、私はリリィになれそうにないや」
そんな中、鐘の音が辺りに鳴り響く。
料理自慢のクリエメイトたちが昼食の合図を送ったのだ。
ライネ「みんな〜お昼休みよ〜」
リョウ「腕をふるってたくさんお弁当を用意してきました!」
ヒロ「スープや飲み物の用意もあるわ」
志温「ちゃんと全員分あるから、きちんと並んでね〜」
鶴紗「猫はいいぞ猫は」
恵那「う〜ん、でも私は犬の方が好きかなあ」
リン「私もどっちかと言えば犬派だな」
葉山 照「私は動物そのものが好きだけど、猫は特に好きかなあ」
梨璃「お姉様は凄いんです!いくつもの武功を立ててきたんですよ」
チノ「う、うちのココアさんは少し抜けていますけど、でも毎日一緒にいると飽きないんです」
夢結「梨璃、恥ずかしいわ・・・」
ココア「チノちゃん!もっと褒めて褒めて!」
梅「ここは自然がたくさんあって良いよな」
みら「梅さんたちの世界には自然が少ないの?」
神琳「自然そのものは残されていますが、居住区やガーデン近くの小動物は駆除されてしまうんです」
雨嘉「ヒュージになったら大変・・・」
あお「・・・深刻なんだね」
神琳「だからこそ、エトワリアを・・・、いいえ、皆さんの世界をヒュージに奪わせるわけにはいかないんです」
みら「私、特訓頑張るよ!」
あお「私も、みらと一緒ならどこまでも・・・!」
梅「ああ、その意気だ!」
そんな中、少しだけ空気の違う一団があった。
ミリアム「お主のその格好、いわゆるチアってやつかの?」
こはね「そうだよ!皆に元気を届けて、自分も元気になれる。それがチアなの!」
優「チア部のチアは凄いんだよ!」
二水「そこまで推されると、私も見てみたくなります!」
宇希「こはねが他の娘とすぐ仲良くなるなんていつものこと、いつものことじゃないか・・・」
春香「優ちゃんが他の女の子と仲良くしてる・・・!」
親友のことが気になる者たちが、影からそんなことを呟いていると、颯爽と現れる影があった。
楓「あらあらまあ!嫉妬の香りがしますわあ!」
宇希「うわあビックリしたあ!」
春香「ええと、確か・・・」
楓「楓・J・ヌーベルですわ。以後お見知りおきを。と、そんなことはさておき、何故もっとグイッと行きませんの?」
春香「それは、グイッと行きたいのは山々だけど・・・」
宇希「人目もあるし、恥ずかしいというかその・・・」
楓「人が人を愛するという気持ちの、どこに恥ずかしさがありまして?好きなものを好きと言えないなら、そんな世界の方がおかしいと思いません?」
宇希「いやいやいや、そんな割り切れたらここまで悩んでいないって!ねえ春香さん・・・って、ええ!?」
春香「・・・」
宇希「な、泣いてる・・・?」
春香「楓さん・・・」
楓「はいなんでしょう?」
春香「私、今もの凄く感動しました!そうですよね、この気持ちは間違ってなんかいませんよね!!」
楓「モチのロンですわ!同性だからどうとか、そんなことは愛の前に比べれば塵芥と同じですもの。さあ、共に意中の方の元へアタックを仕掛けましょう!!」
春香「はい!!」
そう言って意中の相手へとダッシュをかける二人。
それをただ、宇希は呆然と見送っていた。
昼食を終え、一同が訓練に戻る中、かおすに梨璃が話しかける。
梨璃「かーおすちゃん!調子はどう?」
かおす「あばぁ!梨璃さん!」
梨璃「昨日、不安そうにしていたから様子を見にきたの」
かおす「・・・正直、体がついていくか心配です」
梨璃「あはは、お姉様のしごきは凄いからね」
かおす「・・・でも」
梨璃「・・・?」
かおす「こうすることで、ちょっとずつでも、昨日の自分より強くなれるなら、それは素敵なことだなって思うんです」
それを聞いた梨璃の顔に、笑顔の花が咲く。
梨璃「そう言ってもらえて良かったあ。無理強いさせていたら嫌だなあって、つい考えちゃって」
かおす「無理強いだなんてそんな!それに梨璃さん、向こうを見てください」
そこには、体力の有無に関係なく、真摯に訓練を受けるクリエメイトの姿があった。
自分のペースでも、確かな一歩を歩もうと真剣なのだ。
かおす「言葉では素直になれませんけど、きっと皆さんも思いは同じなんです」
梨璃「・・・そっか、うん、そうだよね!」
梨璃が改めて、かおすに向き直る。
梨璃「ありがとう、かおすちゃん」
かおす「ふぇ?お礼を言われるようなことはしていませんよ?」
梨璃「ううん、お姉様に憧れてリリィになったあの時の気持ち、そして大切な誰かをもう喪いたくないって気持ちを、改めて思い出せたの」
かおす「梨璃さん・・・」
梨璃「行こう、みんな待っているよ!」
かおす「はい!」
それから夕方まで訓練に励んだかおす達、だが、その反動は確実に返ってきた。
かおす「ぜんしんぎんにぐづうですう・・・」
小夢「うごけない・・・」
翼「もう少し体を動かしておけば良かった・・・」
琉姫「筋肉痛で動けない少女に邪な魔の手が・・・、って私は何を考えているのよぉ!」
かおす「あばば、琉姫さんの理性が疲労のあまり吹き飛んでます・・・」
梨璃「みんなお疲れ様!明日も頑張ろうね!」
かおす「・・・あの時少し弱音を吐いた方が良かったかもしれません」
辛うじて動くことの出来たそうりょ組が皆に回復をかけ、一同は何とか帰路についたのであった。
その頃、ヒナゲシは洞窟に潜伏していた。例のギガント級も一緒だ。
洞窟の直上は海底となっている。そう簡単に発見されることはないだろう。
息も絶え絶えなギガント級に対し、少女は一本の矢を放つ。
ハイプリスが肝心なときに使えと指示した、あの黒い矢だ。
矢はギガント級に吸い込まれるように消えていく。
するとどうだろう、ミリアムに傷つけられた傷が、たちまちに塞がっていく。
怪物はそのまま深い眠りについた。
ヒナゲシ「ふふ、薬は飲むより注射に限るの」
だが、ギガント級が体力を取り戻し、再び侵攻を開始するには、まだ日時がかかるだろう。短くて五日、長くて一週間といったところか。それまで怪物は眠り続けるのだ。
ヒナゲシ「・・・作戦の変更が必要なの」
ヒナゲシがギガント級の体表に触れる。そしてそれを愛おしそうに撫で始めた。
ヒナゲシ「本当は神殿の真下にでもケイブを作って攻め込んでほしいけど、あなたはそうじゃないよね」
ギガント級を通じ、絶望のクリエが、そして負のマギが彼女に流れ込む。
ヒナゲシ「・・・そうだよね。どうせならアイツらに散々痛めつけられた場所でリベンジを果たしたいよね」
そっと手を離し、ヒナゲシは微笑む。
ヒナゲシ「安心して。例えあなたが朽ち滅んでも、その願いは絶対に叶えてあげるから。だって、あなたの願いは私の願いだもの」
彼女の手のひらに、かおすを刺した、極小のウツカイが舞い戻る。
ヒナゲシ「そのための余興も、ちゃんと仕込んであるから・・・」
夢を思いのままにするまぞくに、かつて手酷くやられたからこそ思いついた作戦。
それを思いだし、彼女はクスクスと嗤う。
地上とは正反対の、暗く、冷たく、息も詰まるような場所で、少女は確かな幸福感を覚えていた。
>>635
作者です。
そうですね、こみが勢を中心に、でも満遍なく皆のことを出したいなと思いながらSSを書いていました。
この後の展開でやりたかったことにも繋がってくるので・・・。
第10章 ブラックサレナ(復讐、呪い、あなたへの愛を忘れない)
あれからも訓練は続き、かおすはへとへとになりながらも、体力が身につくのを実感していた。
だがそれと同時に、彼女はどこか違和感を抱いていた。
何か他のことを考えていると忘れてしまうが、確かに胸の中にあるささくれ。
いつか戦う敵のことが不安なのだろうと、かおすはそれを深く追及しなかった。
もっとも、その考えは当たらずも遠からず、といったところだったのだが。
訓練を終え、寮に戻り、入浴と夕食を済ませ、一息つく。
疲れていたこともあり、程なくして眠りに入る彼女。
恐怖を思い出したのはそれからだった。
かおす「あ、ああ・・・、そうだ、なんで忘れていたんだろう・・・!」
辺りは燃えさかり、分厚い煙で空が覆われている。
あまりの熱に、呼吸をするのさえ苦しい。
そこには傷ついた仲間と、一柳隊の皆が倒れている。
自分を除き、誰もピクリとも動かない。
あれから彼女は、毎晩同じ悪夢を見ていた。
逃げ出して、叫んでも目が覚める様子がない。
おそらく現実の自分は、少し寝苦しそうにしているだけなのだろう。誰かに起こされるといった様子もないのだ。
夢の感触は日ごとにリアルになっていった。
最初は煙で包まれ分からなかったが、ここがあの平原であることを今ではハッキリと実感できる。
煙と陽炎の境目、煙の黒さ、目と喉に染みる痛さ・・・。
どれもただの夢とは思えなかった。
彼女の脳裏に一つの考えが浮かぶが、それを振り払って、彼女は駆け出す。
かおす「誰か!誰か返事をしてください!小夢ちゃん、翼さん、琉姫さん、梨璃さん、誰でも良いから返事をしてください・・・!」
必死に走る彼女だが、勢い余って何かにつまずいてしまう。
石にしては柔らかい感触。それに嫌な予感を覚えながら、かおすは足下を見やる。
その背中には、冷たい汗をかいていた。
かおす「ああ、やだ、こんなのやだ・・」
目が合ってしまった。
焼き焦げ、血を流し、虚ろな目をした小夢、そして梨璃と。
血の気が引いて白い肌をしたそれは、どこか人形のようにも見えた。
かおす「嫌だ・・・、こんなの嫌だぁ!!」
方向感覚も分からないまま、がむしゃらに駆けるかおす。
その間に、先ほどのような光景を何度見たのだろう。
翼が、琉姫が、美姫が、怖浦が、きららが、ランプが、一柳隊の面々が・・・。
皆、ガラス玉のように生気の無い瞳をしていた。
泣き叫ぶ気力すら失い、へたり込むかおす。
眼前を見れば、怪物が全身を震わせ、雄叫びを上げている。
見れば、その体表は白と黒に染まり、激しく明滅をしている。シルエットも変わっているようだ。
いつの間にか、かおすの手には自分の杖が握られていた。
その先端を見ると、禍々しい光を放つ何かが取り付いている。
それは目の前の敵が放つそれと、同じに見えた。
????「あの怪物は絶望のクリエをめいいっぱい取り込んでいるの。これ以上水を入れたら破裂する風船みたいに」
かおす「じゃあ、これは…」
????「本当は分かっているんでしょう?その杖に光っているのも絶望のクリエ。それをぶつければ…」
かおす「ギガント級を倒せる…?」
????「そう。ボーンって破裂するの」
だが、肝心のかおすには、その光を相手に飛ばす術がない。
だとすれば、採れる方法は一つしかなかった。
????「ねえ、こんな話知ってる?昔の人は、銛に爆弾をつけて、そのまま敵の船に突撃しようとしてたんだって」
かおす「だって、だってそんな…」
????「…かおすちゃんだけ生き残って、申し訳ないと思わないの?」
かおす「…!!」
これが夢であることは、最早かおすにとって意味を成していなかった。
今あるのは、自分が死ねば、敵を倒し、エトワリアを、その先に広がる皆の世界を救えるということだけだった。
彼女の息が荒くなり、足も震える。
????「何の取柄もない、愚図な自分が嫌なんでしょう?」
かおす「それは…」
????「でもね、ここで勇気を出せば、あなたは何者でもない、ただ唯一の存在になれるの」
かおす「私でも、誰かの役に立てる…」
????「大丈夫、みんなだって向こうで待っててくれるの。もう友達のいない世界なんて、いても意味がないでしょ?」
かおす「あああああああ!!!!!」
そう叫び、彼女は敵へ突貫した。
その姿こそ見えないが、声の主がここにいたならば、口元を嫌らしく歪めていただろう。
????「これで良いの。これは夢で終わりだけど、こうやって刷り込んでおけば、現実でもきっと…」
‐ダメ!‐
どこからか、また別の声が聞こえる。
その声の持ち主は、かおすの下へ駆け寄ると、杖を一瞬で弾き飛ばす。
その手には、梨璃が持っているのと、よく似たチャームが握られていた。
????「…っ!誰なのあなた!!」
‐あなたこそ誰なの?夢でだって、こんなことさせちゃいけないんだ!‐
そう言うと少女はチャームを構え、虚空を切り裂く。
すると、あたりの景色が壁紙を切ったかのように、バラリとめくれ、やがては消えていった。
かおす「わ、私いったい何をして…」
‐大丈夫、これはただの夢。現実じゃないし、こんなことは起こらない‐
かおす「…ぅ、うわああああ!!怖かった、怖かったよお!!」
‐よしよし、もう大丈夫だからな‐
緊張の糸がほぐれ、かおすは少女の胸で泣いた。
‐自分を犠牲にしたって、誰も喜んでなんかくれない。みんな泣いちゃうよ?‐
かおす「うん!うん!」
‐あなたの友達に、悲しい匂いはつけさせないで‐
虚空から、かおすを惑わした声の主が現れる。
ヒナゲシ「リリィって何なの!?みんな寄ってたかって私の邪魔をして!!」
‐この娘の夢から消えて!‐
ヒナゲシ「まあ良いの。これだけ刷り込んでおけば、肝心な時に動いてはくれるはず」
そう言ってヒナゲシは、二人の前から姿を消した。
かおす「あの、ありがとう・・・!!あなた、もしかして・・・?」
かおすを助けた少女の姿はおぼろげで、輪郭もあやふやである。
だが、彼女にはそれが誰なのか、はっきりと分かっていた。
‐言ったでしょ?これはただの夢。起きて覚めたら、みんな幻になるの‐
かおす「そんな!」
‐ほら、もう朝だよ‐
かおす「待って!待ってください!!」
‐梨璃によろしくな!‐
かおすがベッドから飛び起きる。
窓から陽光が刺し、それを吸ったかのように、杖も淡い桜色に輝いていた。
かおす「…なんで私、泣いてるんだろ」
何か恐ろしくて、暖かで、それでいて悲しい夢を見ていたようで。
それからしばらく、かおすの目からは涙が溢れて止まらなかった。
そう言えば紹介してなかったので、唐突にですがアニメ版こと「アサルトリリィ Bouquet」のOP「Sacred world」の公式動画を貼り付けておきます。
担当されているのは(ブシロード繋がりで)バンドリのRAISE A SUILEN。打ち込みサウンドとラップが印象に残る曲ですが、ラップを担当されているのは鶴紗の中の人(紡木吏佐さん)だったりします。
https://www.youtube.com/watch?v=-jJzyrbReXU
投稿を再開します。
今回は第11章です。昨日と打って変わり長めの章ですがお付き合いよろしくお願いします。
第11章 カランコエ(幸福を告げる、たくさんの小さな思い出、あなたを守る)
訓練を初めてから、五日が経過した。
胸のモヤモヤも解消したかおすは、よりいっそうの鍛錬に励んでいた。
小夢「そういえばかおすちゃんの杖、バージョンアップしたの?」
かおす「バージョンアップ?」
小夢「何だか輝いているからさ〜」
翼「うん、ほんのりとした桜色」
琉姫「優しい光・・・」
かおす「・・・何か、夢を見た気がするんです」
翼「夢?」
かおす「怖くて、逃げ出したくなって。でもとびきり暖かくて、悲しい夢・・・。それからなんです、杖が光るようになったのは」
ミリアム「ふ〜む、興味深いのう」
琉姫「わ!?突然出てきた」
驚く琉姫をよそに、ミリアムは話を続ける。
ミリアム「お主らの専用武器はエトワリウムで出来ておる。その杖も同じだの」
エトワリウム。
この世界でも貴重かつ加工の難しい、まだ謎の多い鉱物。
ただ確実に分かっているのは、持ち手の感情や精神に呼応して、強い癒やしの力をもたらす、という点である。
ミリアム「その杖、クリエというよりもマギに近い反応を感じる」
かおす「え?」
ミリアム「ほれ、現にわしのニョルニールが強く反応しておる」
見れば、ミリアムのチャームに埋め込まれた宝玉が、かおすの杖に呼応して光と音を放っていた。
小夢「本当だ・・・」
翼「でも、どうして?」
ミリアム「クリエもマギも、その人間の精神性と深く結びついておる。そして夢もまた、精神の発露といえる」
かおす「つまり・・・?」
ミリアム「つまり、お主が見た夢に呼応して、マギを有する“何か”がこの杖に混じった可能性がある、ということじゃな」
琉姫「随分ふわっとした物言いね」
ミリアム「技術者として結論がハッキリしないものを断定などできんよ。ただ言えるのは、その杖には外部から何らかのマギが混じった、ということだけじゃ」
梨璃「みんな、ここにいたんだ!」
かおす「梨璃さん、どうしたんですか?」
梨璃「アルシーヴさんが大切な話があるから、みんなを呼んでほしいって」
ミリアム「おっと、わしもその場に立たなきゃならんかった」
梨璃「もう、ミリアムちゃんはうっかりさんだなあ・・・。あれ?チャームが・・・」
かおす「つ、杖ももの凄く光って・・・!」
梨璃のチャームとかおすの杖が共鳴し、眩い光と音を放つ。
それは先ほどのニョルニールのものより、強い反応だった。
やがて光が収まると、静寂が辺りを包む。
翼「まるで、梨璃を呼んでたみたいだ」
琉姫「ねえ、この光といい、さっきのといい、もしかしてこの杖に宿っているのって・・・?」
ミリアム「・・・そうか、わしらのことを追いかけていたなら、あのことも知っておるか」
小夢「で、でも、そんなことってあるのかな・・・?」
ミリアム「・・・じゃな。一度失われたものは、そう戻ってきたりしない」
そんな四人を傍らに、梨璃とかおすはその場に立ち尽くす。
特に梨璃には、何か思うところがあったようだ。
梨璃「今の感覚、まさか・・・」
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