タイトルからは分からないとは思いますが、このSSは棺担ぎのクロととある非きらら作品のクロスSSとなっております。
以下注意書き
・ちょい長
・その割に盛り上がるのは中盤以降
・ちょい長なので分割で週一くらいのペースで投稿しようかと思案中
・完成させたものの投稿なので投げ出したりはしない(はず)
・キャラ崩壊はしないように頑張ったつもり
・二つの作品の設定を都合よく解釈したご都合主義とも取れる展開あり
・全くグロくないとは言い難い
・きらファン成分は二摘み
こんな感じですがそれでよければ読んでみてほしいです。
ちなみに何となくですがこの段階ではクロス先作品のタイトルは伏せておこうかなと思います。すぐに分かるようにはなっているんですが。有名な作品ですよ。
セン「は?それって地上に戻るってことか?」
クロ「うん、そういうことだね」
セン「いや、構わねえけどよお。何でまた急に……」
クロ「別に。危ないと思ったらすぐに引き返すつもりだったし」
セン「……お前は死にたくても死ねない体だけどな」
クロ「でも、怪我はしたくないから」
セン「……もしかして、俺のこと心配してくれてんのか?」
「…………」
セン「痛え痛え止めろ!!引っ張るな!!
セン「千切れる!!裂ける!!死ぬ!!」
「…………」
「…………おい」バシャバシャ
クロ「!?」バッ
「…………」
クロ「……君は?」
「んなぁ〜……。まあ名前くらいは名乗るべきだよなぁ」
セン「痛てて……。ふわふわのぬいぐるみが何の用だ?」
クロ「意思を持ったぬいぐるみとは珍しいね」
クロ(確かにこの獣人のような見た目はぬいぐるみに見紛いかねないな……)
「オイラはナナチだ。ぬいぐるみじゃねえ」
ナナチ「んなぁ〜。お前らに頼みたいことがあるんだけどさぁ……」
クロ「頼みたいこと?」
セン「コイツは食ってもうまくねえぞ?」
ナナチ「一々話の腰を折るなよ……」
セン「ああ、悪いな。こっちはこっちで警戒してるんだ」
セン「何せ今まさに普通なら命を落とす状況に出くわしたとこだからな」
ナナチ「まあ、こんなふわふわのぬいぐるみみたいな奴が話しかけてきたら警戒もするか」
ナナチ「けどなあ、お前らも大概だぜ」
ナナチ「お前は蝙蝠なのに喋るし」
ナナチ「そっちの姉ちゃんは半裸で全身真っ黒だし」
ナナチ「不気味な力でタマちゃんを仕留めちまうし」
クロ「……………………」
ナナチ「それに……、その……、半裸だし……」
クロ「……………………」
ナナチ「その……、何で服着ねぇの?」
クロ「衣服は全て洗濯中でまだ乾いてないんだ」
ナナチ「あ、そう……」
クロ「……………………」
セン「……………………」
ナナチ「……………………」
ナナチ「まあいいや。とりあえずオイラのアジトに来てくれねえか?」
ナナチ「一度ちゃんと話したいんだ」
ナナチ「ついでに洗濯物が乾くまで休んでいきなよ」
セン「どうする……?」
クロ「まあ、人間離れしているのはお互い様だしね」
クロ「この子が私達の欲しい情報を持っているかもしれない」
クロ「行くだけ行ってみようか」
ナナチ「決まりだな。案内するぜ、ついて来いよ」バシャッ
----
--------
ナナチ「この先がオイラのアジトだ」
セン「おいおい、結構な坂じゃねえか」
セン「四層ともなるとそれなりに上昇負荷もきつい筈だよな?」
ナナチ「なんだ、見えてるわけじゃねえのな」
クロ「見えてる……?」
ナナチ「安心しなよ。この辺りには呪いは無いから」スタスタ
セン「……本当に大丈夫そうだな」
クロ「そのようだね」スタスタ
ナナチ「な?大丈夫だったろ?」
セン「ああ、こんな都合のいい場所が奈落の底にあるとは思わなかったぜ」
ナナチ「だろう?ここ見つけるの苦労したんだよ」
ナナチ「さて、着いたぜ」
セン「おお……」
クロ「立派な家だね……」
ナナチ「ここがオイラのアジトだ」
――ナナチハウス
セン「邪魔するぜ」
ナナチ「適当にくつろぎな」
クロ「助かるよ。ありがとう」
ナナチ「んなぁ〜、例には及ばねえよ。こっちも頼みがあってお前らを連れてきたんだ」
クロ「そういえばそうだったね」
セン「つっても俺達は大したことなんかできねえぞ?」
ナナチ「よく言うぜ。タマちゃんを仕留められる奴なんかそうそういねえっつうの」
クロ「タマちゃん?さっき私達を襲った奴かい?」
クロ「確かにさっきはかなり危なかったよ」
セン「ていうかアイツそんなにかわいい名前だったっけか?」
ナナチ「まあとりあえず、その濡れた服とか干して来いよ」
ナナチ「ココの裏にちょうどいいところがあるから」
クロ「ありがとう。そうさせてもらうよ」
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--------
クロ「さて、頼みたいことがあるって言ってたね」
セン「まあ、そんなに難しくないことなら助けにはなってやれるが」
ナナチ「んなぁ〜……、言いづらいんだけどさ……」
ナナチ「さっきのタマちゃんを仕留めた力でな……」
ナナチ「その……、殺してほしい奴がいるんだよ……」
クロ「無理だね」
ナナチ「最後まで話聞けよな〜」
クロ「……話くらいなら聞くけど、あまり期待はしないでくれよ」
ナナチ「んなぁ〜、じゃあちょっと殺してほしい奴連れてくるから待っててくれよ」
セン「連れてこれるのかよ」
ナナチ「ミーティ。おいで」
ミーティ「ミィィィアァアァァ」
クロ「…………」
セン「ほぅ……、こいつぁ……」
セン(凡そ生物の形を成してねえな)
セン(眼球と口と腕……、いや、前足を持った肉塊と形容すべきか……)
ナナチ「あれ?意外と驚かねえのな」
クロ「私達もそれなりに色々なモノを見てきたからね……」
セン「こいつがお前の殺してほしい奴か?」
ナナチ「ああ、紹介するよ。この子の名前はミーティ。オイラの宝物さ」
ミーティ「ァアアァアァァアミィィィィィアアァァ」
ナナチ「オイラ達はさ、元々は普通の人間だったんだ」
ナナチ「知ってるか?六層の呪い」
ナナチ「人間性の喪失もしくは死ってやつ」
ナナチ「そのせいでオイラ達は人間じゃなくなっちまったんだ」
ナナチ「もうこの姿になったら人間には戻れない」
ナナチ「人間性を失っちまったらさ、他の探窟家が殺してやるのが昔からの習わしなんだ」
ナナチ「でもな、ミーティは受けた呪いが強すぎてさ」
ナナチ「死ぬことができなくなっちまったんだ」
ナナチ「串刺しにしても、毒を盛っても、磨り潰しても」
ナナチ「本当にいろんな方法を試したんだよ」
ナナチ「でもダメだった。オイラにはどうあがいても殺せなかった」
ナナチ「なあ姉ちゃん。アンタならミーティを殺せるんじゃないか?」
ナナチ「さっきのタマちゃんを仕留めた力。あの力をミーティに使ってほしいんだ」
クロ「それはできない」
ナナチ「何だよ、同情ならいらないぜ。それとも、アンタでもミーティは殺せないのか?」
クロ「残念ながら、後者だよ」
クロ「君がタマちゃんと呼ぶ獣を仕留めたあの力について説明するとしようか」
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--------
ナナチ「んなぁ〜、なるほどな。死を跳ね返すってことか」
ナナチ「なるほどなるほど〜」
ナナチ「確かにそれじゃあミーティは殺せないな」
ナナチ「ミーティは人を襲ったり傷つけたり、ましてや殺すなんてことはしないからなあ」
クロ「意思の疎通もできなそうだしね。私を襲うように命令することもできない」
セン「まあ、死ぬと分かっててお前を襲う奴がいるかは疑問だけどな」
ナナチ「でも、説明を受けて納得した。どうしてアンタがタマちゃんを仕留めることができたのか」
セン「そんなに不思議か?そりゃ、タマちゃんとやらは確かに獰猛でやばい生物だったけどよ」
セン「コイツのアレは傍から見たらもっとヤバいものに見えそうなもんだが」
ナナチ「いや、タマちゃんってな?動きを先読みできるんだよ」
クロ「先読み?」
ナナチ「厳密には違うんだけどな」
ナナチ「だからどんなにすごい攻撃ができたとしても、そうそう奴を仕留めるのは容易じゃないんだ」
ナナチ「でも、アンタの呪いはアンタの意思とは無関係に、アンタを殺そうとした奴に降りかかるもんなんだろ?」
セン「……先読みする意思が無かったから避けることも、発動条件を回避することもできなかったってわけか……」
ナナチ「そういうことだな」
クロ「……私達は運が良かったんだね」
ナナチ「しかし、その呪いが無かったら為す術もなく殺されてたってわけだよな?」
クロ「そういうことになるかな」
ナナチ「お前ら、ここに来るまでに遭遇した奈落の生物達にどうやって対処してたんだ?」
セン「出来るだけ遭遇しないようにしてたのさ」
クロ「まあ、3回くらい食べられたけどね」
セン「コイツが不味いから飲み込まれずに済んだんだ」
ナナチ「んなぁ〜、お前らそんなんでよくやってこれたな」
クロ「同感だよ」
ナナチ「まあ、お前らがミーティを殺せないのは分かった」
ナナチ「せっかくだからゆっくりしていけよ」
ナナチ「用が済んだからって追い出したりはしないからさ」
セン「助かるぜ」
クロ「ありがとう、ナナチ」
クロ「そうだ、そういえばまだ名乗ってなかったね」
クロ「私は旅人のクロだ」
セン「センだ。よろしく頼む」
ナナチ「んなぁ〜、よろしくな」
セン「よし。じゃあナナチ、今度はこっちが質問する番だぜ」
セン「お前、この奈落で魔女を見たことは無いか?」
ナナチ「魔女?」
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--------
ナナチ「ふ〜ん、姿を変える呪いねえ」
クロ「死を跳ね返す呪いもその時に与えられてね」
ナナチ「んなぁ〜、見たことないなあ、そんな奴」
ナナチ「悪魔みたいな男ならこの下にいるけどな」
セン「スカだな。無駄足だったな」
クロ「手間をかけさせたね」
セン「全くだ」
クロ「ところでナナチ」
ナナチ「ん?何だ?」
クロ「私がミーティを殺すことができないと分かった時に」
クロ「君は随分と安心したように見えたけど」
クロ「本当は別れたくないんじゃないのかい?」
ナナチ「んなぁ〜……、痛いとこ突くなあ……」
ナナチ「別れたくねえよ。そりゃ別れたくはねえ」
ナナチ「でもさ、遅かれ早かれ別れは来ちまうんだよ」
ナナチ「オイラは不死身じゃない。いつかはこの世からいなくなっちまう」
ナナチ「でもきっと、ミーティは死なずに……、死ぬことができずに生き続けちまうんだ」
ナナチ「ミーティはさ、どんなことをしても受けた傷は元通りに再生しちまう」
ナナチ「でも、痛みは感じているし、涙だって流すんだ」
ナナチ「オイラが死んじまった後も、ミーティは永久に苦しむことになる」
ナナチ「それじゃあミーティは救われない。そうだろ?」
クロ「……………………」
セン「……………………」
セン「お前さっき六層の呪いを受けたとか言ってたよな?」
セン「一体全体何でそんな所まで足を踏み込んだんだ?」
セン「そもそもお前はコイツと……、ミーティと同じ呪いを受けたってのに」
セン「どうして人間性を失っていないんだ?」
ナナチ「……さて、何処から話せばいいものやら……」
ナナチ「……オイラ達はさ、元々は別々の国の生まれなんだ」
ナナチ「でもな、ある時にある連中が」
クロ「ちょっと待ってくれ」
ナナチ「何だよ。盛り上がるポイントはまだ先だぜ?」
クロ「君達がその姿になった経緯は聞かないでおきたいんだ」
クロ「聞いたらきっと……、出来もしないのに君達を助けたくなってしまうから……」
セン「……………………」
ナナチ「んなぁ〜……、そうか。じゃあやめとく」
ナナチ「じゃあさ、地上に戻ってもオイラ達のことは口外しないでくれよ」
ナナチ「絶対捕まえて研究しようって連中が湧き出てくるだろうからさ」
クロ「……うん。分かった」
セン「そうなんだよなあ。話せる被検体ってめっちゃ重宝されるんだよなあ」
ナナチ「まるで身に覚えのあるかのような口ぶりだな」
クロ「……ナナチ。一つ提案がある」
ナナチ「ん?何だ?」
クロ「私はミーティを殺すことは出来ないけれど」
クロ「こことは別の場所に連れて行ってあげることは出来る」
ナナチ「それは……、どういう意味だ?」
クロ「言葉通りの意味さ」
ナナチ「んなぁ〜、よく分からねえが……、それは生きたままって意味だよなあ?」
ナナチ「なら遠慮しとくぜ。それじゃ意味が無いからな」
クロ「……分かったよ」
ナナチ「さて、辛気臭い話はここまでな」
ナナチ「お前ら腹減ってねえか?」
ナナチ「オイラ特性の奈落シチューを振る舞ってやるぜ」
セン「お?飯か?色々とすまねえな」
クロ「ご相伴に預からせてもらおうかな」
ナナチ「じゃあちょっと用意するから待っててくれな」
――数分後
セン「なあクロ」
クロ「どうしたんだい、セン?」
セン「なんかとんでもない匂いがしねえか?」
クロ「ああ、するね」
――さらに十数分後
ナナチ「できたぜ。特性の奈落シチューだ」
クロ「……………………」
セン「……………………」
ナナチ「どうした?遠慮せずに食えよ」
クロ「……………………」モグ……
セン「……………………」モグ……
ナナチ「どうだ?美味いか?」
クロ「……懐かしい味がするね」
セン「なるほどな。これはあの時の味に似てるな」
クロ・セン(旅を始めたての頃に遭難して本当に何も食べる物が無い時に仕方なく口に入れたヘドロの味に……)
ナナチ「そうかそうか。おかわりあるからな」
――数日後
セン「戻ったぜ」
クロ「ただいま、ミーティ」
ナナチ「よう、お帰り。成果はどんなもんだ?」
セン「変な物拾ったぜ」
クロ「お一つどうぞ」
ナナチ「んなぁ〜、サンキュー」
セン「しかし、いろいろ危なっかしくて、あまり遠くまでは行けねえなあ」
クロ「まあ、あくまでも暇つぶしに少し出歩くのが目的だからね」
ナナチ「……………………」
ナナチ「んなぁ〜、お前らさあ……」
セン「何だ?」
ナナチ「進むでもなく、戻るわけでもなく。何か待ってんのか?」
クロ「その通りだよ」
セン「悪いな、居座っちまって。もう数日のはずなんだがよ」
ナナチ「いや、それは別にいいんだけどよ」
――夜
クロ「今夜も来なかったか」
セン「仕方ねえ。もう寝ちまうか」
ナナチ「健康かよ」
――翌日
セン「しかしこのガンキマスってのは何処にでもいるな」
ナナチ「多くの探窟家達の胃袋を満たしてきたんだろうぜ」
ナナチ「よし、じゃあ特性の奈落シチューを振る舞ってやる」
クロ「いや、もうガンキマス塩焼きにして食べてきたから」
ナナチ「何だよ、またかよ。つれねぇなあ」
セン「しかし出歩こうにも、上昇負荷やら原生生物やらで危なっかしいからなあ」
ミーティ「ミィィイィイィイィィィアアアァアアァアァァァァア」
セン「しょうがねえ。ミーティで遊ぶか」
ナナチ「やめんか」ペシ
セン「あいた」
クロ「……………………」
ミーティ「ミィイイイィィィイィィイィ」
クロ「……………………」ソーッ
ミーティ「ミィィイィ?ミィイィイィイイイィイィィアアァアアァアアアァァアアアァアァア!!」ズルズルズルズル
クロ「私には全く懐いてくれないな、ミーティは」
ナナチ「安心しなよ。ほとんど誰にも懐かないから」
――夜
クロ「さて。また夜がやってきたね」
クロ「セン。体に変化は起きたかい?」
セン「いや、何とも……」
セン「ん?いや、来たか」
セン「クロ!!棺開けろ!!」
クロ「分かった」
ナナチ「そういえばそん中には何が入って……」バサバサバサバサバサ
ナナチ「んな!?何じゃこりゃ!?」
クロ「これはセンの身体だよ」
ナナチ「いや何言って……」
バサバサバサバサバサ
セン「ふう……」
ナナチ「……人間になった……」
クロ「戻ったみたいだね、セン」
セン「ああ。急ぐぞ、クロ。千載一遇の好機だ」
クロ「分かってるよ」
クロ「ナナチ。それにミーティも」
ナナチ「な……、何だよ」
ミーティ「ミィィイイィ」
クロ「お別れだ。私達は地上に戻るよ」
ナナチ「おいおい、今からか?随分と急だな」
セン「俺達は最初からこの時を狙ってたけどな」
ナナチ「この時?」
クロ「そう。センが人間に戻る時は一年に一度の赤月の夜」
クロ「月が全ての呪いを一晩だけ肩代わりしてくれる日さ」
ナナチ「まさか……」
----
--------
セン「この辺りは普段ならアビスの呪いで満たされている場所だな」
ナナチ「ああ……。でも今は呪いが無くなってる」
クロ「ナナチが言うんだったら間違いなさそうだね」
セン「やれやれ、見込みが当たってよかったぜ」
クロ「そうだね。赤月の夜だからって奈落の底の呪いまでもが無くなってくれる保証は無かったからね」
ナナチ「極たまに呪いが消え去る時間があるのは知ってたんだ」
ナナチ「多分探窟家でも知ってる奴は知ってるんだと思う」
ナナチ「でもアビス内は地上とは時間の流れが違うからな」
ナナチ「それが赤月の夜が原因だってことは恐らく誰も知らないはずだ」
ナナチ「ましてや奈落の底にいながらその時間を予測しようだなんて不可能だ」
ナナチ「お前ら一体どういう星の下に生まれたんだ?」
セン「お前も呪われてみるか?」
ナナチ「もう呪われてるようなもんだけどな」
クロ「さて、じゃあこれからどうする?」
セン「どうするって、もう地上に戻るんだろ?」
クロ「どうやって?」
セン「どうやってって……」
クロ「……………………」
セン「……………………」
セン「そういや、どうやってここ登ればいいんだ?」
クロ「蝙蝠の姿に戻ればいいじゃないか。夜明けまでまだ時間はあるよ」
セン「夜明けまで戻れないんだが」
ナナチ「お前らバカだな〜」
セン「考えてみれば呪いの有無とか関係なくこんな所本来人間の立ち入っていい場所じゃねえぞ」
ナナチ「お前らが勝手に入ってきたんだろ?」
クロ「まあしょうがない。呪いが無いだけましだと思って地道によじ登ろうか」
セン「本気かよ……。こんなに人間の姿に戻れてがっかりしたことは無えぜ……」
セン「ん?今何か聞こえたか?」
クロ「何かの断末魔が聞こえたような……」
ナナチ「オイラにも聞こえだぜ」
クロ「上からかな?」
ナナチ「おいおい!?なんだありゃあ!?」
セン「ありゃあ……」
「きえぇぇぇぇぇぇ!!」バサバサズシィィン
ナナチ「んなあぁぁぁぁ!?」
セン「いつぞやの鳥じゃねえか」
クロ「もうすっかり元気そうだね」
セン「なるほど。それで改めて俺達を食いに来たってわけか」
「きえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ナナチ「何だお前ら!?コイツのこと知ってんのか!?こんな生物奈落にはいねえぞ!?」
クロ「ここに来る道中で会ったんだ」
セン「こんな所まで来て他の生物に目ェ付けられたらまた怪我するぞ?」
「きえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」バサバサ
クロ「……セン。彼は何かを私達に伝えたいのかな?」
セン「かもしれんが……。アイツらがいないと何が言いたいのかさっぱりわからん」
クロ「そうだね。でもきっと、私達に恩返ししに来てくれたんだよ」
セン「まあ、そういうことなんだろうな……」
セン「ならお言葉に甘えようぜ。ちょうど翼が欲しかったところだ」
「きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ナナチ「お前ら……。本当に行っちまうんだな……」
クロ「ああ、お別れだ。きっともう会うこともないだろうね」
セン「俺達がいなくても寂しくて泣くんじゃねえぞ」
ナナチ「馬鹿言え。オイラにはミーティがいるんだ。寂しいことなんてあるかっつうの」
クロ「そうだね。最後に一つ」
クロ「いつか君達の救いとなりえることが必ず訪れる」
クロ「なんて、無責任なことを言うつもりはないけれど」
クロ「私達は君達の旅が望み通りの結末を迎えることを祈っているよ」
ナナチ「ああ、祈っててくれ」
セン「じゃあ行くぜ、クロ」
クロ「ああ、セン」
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--------
セン「……結局この形態に落ち着いたか」
クロ「ニジュクとサンジュと同じになったね……」
ナナチ「ぶははははは!!鳥から頭だけ突き出てらあ!!シュールの極致だなオイ!!」
セン「笑うなよ」
「きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」バサバサ
クロ「な!?ちょっと!!」
セン「ちょっ!?おい!?」
ナナチ「んな!?」
「きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」バサバサバサバサ
ナナチ「……行っちまった」
クロ(凄い速さで飛んでるな……)ビュゥゥゥゥバサバサバサバサ
クロ(さっきまでいた場所がもうあんなに小さく見える……)ビュゥゥゥゥバサバサバサバサ
クロ(……名残惜しさを残す別れ方をしてしまったな)ビュゥゥゥゥバサバサバサバサ
――ナナチハウス
ナナチ「ただいま、ミーティ」
ミーティ「ミィイィィァアアァァア」
ナナチ「クロ達は地上に帰っちまったよ」
ミーティ「ミイィィィイィィイィィイアアァアアァァァアァアァアァ」ズルズル
ナナチ「久しぶりに楽しかったな……」
ナナチ「ミーティも楽しかったろう?」
ミーティ「ミィィィイィイイィィィィイイィアアァァァァアァアァァ」
ナナチ「うん、そうだね」
ナナチ「……………………」
ナナチ「今日はもう寝ちまおうかな……」
――深界二層 誘いの森
セン(早いな。もう大断層を越えやがった)
セン(人間には巨大な縦穴も、コイツにとってはどうということはないってことか)
クロ「あっ!ちょっと待った!!」モゾモゾ
セン「なんだ!?どうした!!」
クロ「忘れ物が……!!」モゾモゾ
セン「おい馬鹿!!落ちるぞ!!」
「きえぇ!?」バサバサ
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--------
セン「ったく……。本当に落ちる奴がいるか馬鹿!!」
セン「良かったな!!コイツが空中でつかみ取ってくれて!!」
クロ「すまない。助かったよ」
「きえぇぇぇぇぇぇ」
セン「で?この千歳一隅の好機を逃してまで何をしようっていうんだ?」
クロ「どうしても寄りたい所があるんだ」
セン「おめえ……、この辺で寄りたい所っていったら……」
「きえぇ?」
――監視基地
セン「お前、また何でこんな所に……」
セン「夜が明ける前に地上に戻れただろうに……」
クロ「すまない。どうしても無視できない用事があるんだ」
セン「……じゃあ、鳥。ちょっとあの高いところまで連れてってくれ。建物の入り口の所」
「きえぇぇぇぇぇぇ!!」
クロ「夜だから静かにね」
クロ「ありがとう。ここまで助かったよ」
「きえぇぇ」
クロ「さあ、もうお行」
「きえぇ?」
セン「まあ、ここにはおっかねえ魔女みたいな婆さんがいるからな」
セン「のんびりしてると食われちまうかもしれねえぞ?」
「……………………」
「きえぇぇぇぇぇぇ!!」バサバサ
クロ「いやだから静かに……」
セン「俺達の言ってることが分かってるのか分かってないのか」
――翌朝
オーゼン「……………………」
マルルク「お師さま、おはようございます」
オーゼン「おはよう」
マルルク「今日は早いですね。すぐ朝食の支度をしますから」
オーゼン「なら客間に転がっている奴らの分も余分に用意してやんな」
マルルク「え?誰かいるんですか?」
マルルク(客間に誰かが……?)ヒョッコリ
マルルク「……………………ヒエッ」
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--------
セン「いや、悪いねえ。急に押しかけて飯まで御馳走になっちまって」モグモグ
オーゼン「全くだ。客間にお前達を見つけた時は血の気が引いたよ」
オーゼン「何せ部屋中に蝙蝠が散乱してるんだからねえ」
マルルク(それボクもです……)
クロ「お騒がせしてすみませんでした」
マルルク「でも、無事に帰ってきてくれて本当に良かったです」
オーゼン「不法侵入は褒められたものじゃないがね」
セン「すまんな。夜中だったもんで勝手に忍び込んで寝床を借りることにしたんだ」
オーゼン「お前達、随分と早い戻りだったが、何処で怖気づいて戻ってきたんだい?」
クロ「タマちゃんに襲われて、身の危険を感じまして」
マルルク「タマちゃん?」
セン「何かこう……、ハリネズミみたいな……。いや、もはやネズミじゃねえんだけどさ……」
オーゼン「ああ、タマウガチか……」
マルルク「タマウガチ!?タマウガチと遭遇して無事に帰ってきたんですか!?」
クロ「……………………」
セン「まあ、その辺のことは詳しく聞くな」
マルルク「それに……、タマウガチの生息している四層から帰還するのだって並大抵のことじゃ……」
オーゼン「まあ、昨日は特別な夜だったしねえ」
セン「なんだ、分かるのか?」
オーゼン「この辺りはまだ地上の時間の進み方と大した差異がないからねえ」
マルルク「あの……、何のことですか……?」
オーゼン「後で教えてやるよ」
オーゼン「加えてこの羽根の持ち主を移動手段に使ったね?」スッ
クロ「それは?」
オーゼン「お前の服に引っかかってたよ」
マルルク「きれいな羽根ですね……」
セン「あの鳥、奈落の原生生物じゃないらしいが、一体何なんだ?」
オーゼン「こいつは渡り鳥でね。確かに奈落の原生生物ではないね」
オーゼン「たまにこの島の上空を飛んでいくことがあるよ」
オーゼン「地域によって流星の御使いやら星渡りやら、いろんな名前で呼ばれているね」
オーゼン「まあ、そんなことよりも、どうやって意思疎通を図ったかの方が問題なわけだが」
セン「まあ、色々とご縁があってだな」
オーゼン「それにしても、タマウガチと遭遇して無事に切り抜ける力……」
オーゼン「奈落の底に居ながら赤月の夜を察知する力……」
オーゼン「人語を解すはずのない生物を手懐ける力……」
オーゼン「お前達、本当に何者だい?」
マルルク「お師さま……」
クロ「私達は旅人ですよ」
オーゼン「……そうかい」
オーゼン「それにしても、よくもう一度ここに立ち寄る気になったもんだ」
セン「いや、コイツが用があるっていうもんだからよ」
クロ「そうだった。これを返さないと……」ゴソゴソ
セン「……お前、ちょっと忘れてただろ」
クロ「何のことかな」
クロ「あった。貸していただきありがとうございました」
オーゼン「ああ……、そういえば貸してたっけねえ」
セン「蒼笛……。それを返すためだけにわざわざここに立ち寄ったのか?」
セン「安全に地上に帰る好機を棒に振ってまですることか?」
クロ「借りたものを返すのは当然のことだろう?」
オーゼン「殊勝な心掛けだな」
セン「ったく、呆れたぜ……。不器用な生き方しかできない娘に育ったもんだ」
マルルク「……あれ?えっと……、もしかして親子なんですか?」
クロ「それじゃあ今度こそ本当に地上に帰ります。お世話になりました」
オーゼン「ああ、二度と来るんじゃないよ」
セン「はあ……、これから上昇負荷と格闘しなけりゃなんねえのか……」
クロ「マルルクも。お元気で」
マルルク「えっ?あの……、えっと……」
セン「目上の人間のいうことはちゃんと聞けよ」
マルルク「あの、はい、その……、道中お気をつけて……」
マルルク「結局……、何者だったんでしょうか……、あの二人……」
オーゼン「私が知るわけがないとこの前も言ったはずだが?」
マルルク「あっ……、すみません……」
オーゼン「まあでも、悪くなかったよ」
マルルク「悪くない?」
オーゼン「面白いものが見れたし、面白い話も聞けたし、面白いものが手に入った」
マルルク「……その羽根が何か?」
オーゼン「この羽根はね、なかなか取引価値がある。欲しがる奴が多いんだよ」
オーゼン「それに……、四層か……。確かあそこには……」
『見てみろオーゼン!!トコシエコウがこんなにも!!』
マルルク「お師さま?」
オーゼン「……少し散歩に出かけてくる。留守を頼んだよ」
マルルク「え……、あ、はい!!」
――深界一層 アビスの淵
クロ「もうすぐ日が暮れてしまうね」
クロ「でも、ここまで登ってこれたなら今日中にアビスから出られそうかな」
セン「もう少しで出口だな!?帰ってきたんだな!?」
クロ「そうだね。上昇負荷もだいぶ軽くなってきたね」
セン「監視基地からの戻りすらも素人にはキツイ道のりだったぜ……」
クロ「迷惑をかけたね。でも、センのおかげで戻ってこれたよ」
セン「帰ったら飲むからな!!止めるなよ!!」
クロ「仕方がないな……。でも程々に……」
クロ「……変な匂いがするな。焦げ臭い」クンクン
セン「あ……?確かに……」
クロ「あっちからだ」クルッ
セン「オイ、別にかかわる必要なんて無いだろ!?」
クロ「少し様子を見るだけさ。危なそうだったらさっさと逃げるよ」
セン「ったく……。早く戻りてえのに……」ブツブツ
クロ「……………………」ソロ~リ
セン「何かいるか?」ボソボソ
クロ「……いや、何もいないみたいだ」
クロ「ただ……」ザッザッ
セン「うおっ!?木が丸く抉られてやがる……」
セン「しかも一箇所じゃねえ……。まるで何かが木々の間を一直線に貫通していったかのような……」
クロ「焦げた匂いの発生源はこれだね。断面が焼け焦げているよ」
セン「いったい何をどうしたらこんな現象が起きるんだ?」
クロ「分からないけど……。何かの兵器によるものなのか、奈落の原生生物の仕業なのか、見当もつかないよ」
クロ「ただ、火が燃え残っているということは、この現象を引き起こした何かがまだ近くにいるのかもしれないね」
セン「……行くぞ。考えても良知が明かねえ」
クロ「……そうだね」
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クロ「……………………」
セン「どうした?さっきのが気になるのか?」
クロ「うん。多分あの現象は原生生物の仕業じゃないんじゃないかな」
セン「何でそう思う?」
クロ「いくらこの奈落が危険な場所だからって、こんな入り口付近にはあんな危険な芸当ができる生物はいない筈さ」
クロ「見習いだって探窟可能な範囲だったんだから」
セン「ってーと、あれは何かの兵器によるものってことか?異次元の力だな」
クロ「まあ、あくまで想像の域を出ないんだけどね」
セン「ところでだ」
セン「もしもあの現象を生み出した何かがお前に向けられたら、お前はどうなっちまうのかな」
クロ「死なずに生き残る自信があるよ。そんなことに自信なんて持ちたくないけどね」
セン「まあそうだろうな」
セン「でも、お前は生き残れても、アイツは……」
セン「……いや、仮定の話は止めておくか」
クロ「……………………?」
クロ「……おや?そうこうしているうちにとうとう出口だね」
セン「やっとか……。この二日酔いみたいな症状ともおさらばだぜ……」
クロ「二日酔いってこんな気分になるのか……。なぜ人は過ちを繰り返すんだい?」
セン「人間はそんな高尚な生物じゃねえのさ」
――大穴の街 オース
門番「おい!?お前達、探窟家でもないのになぜアビスから出てきたんだ!?」
クロ「南区のスラムを歩いていたら、床が抜け落ちました」スタスタ
セン「ここを管理してるんだったらそういうところきちんとしといた方がいいぜ」パタパタ
門番「え……、ああ……」
門番「……………………」
門番「いや、待て待て待て!!今のやり取り前にもやったぞ!!」
門番「今日は逃がさないからな!!盗掘者め!!」グイイイイ
セン「ちっ……、駄目か……」
クロ「学習能力がある分センより優秀だね」
セン「うるせーよ」
門番「お前達!!神妙にお縄についてもらうからな!!」
クロ「あっ、これ奈落の底で拾ったんです。お土産にどうぞ」スッ
門番「ゑえっ?」
セン「四層で拾ったやつだからな。それなりに貴重なんじゃねーか?」
クロ「それじゃあ私達はこれで」スタスタ
チョットモッタイナカッタナ
シカタガナイヨ
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セン「さて、あのチビ共は元気にしてるかな」
クロ「まあ二人が仲良くしてくれてれば文句はないよ」
セン「脳みそ小さそうだからな。もう俺達のことなんか忘れてたりして」
クロ「随分失礼な物の言い方だね」
セン「まあ、それは無いにしても、宿屋のおっさんにあいつらが迷惑をかけちまって孤児院にでも厄介払い――」
セン「なんてことは十分に考えられる」
クロ「……………………」
クロ「急ごう」スタスタスタスタ
セン(……分かりやすくておもしれえな)
――宿屋
クロ「こんばんオフっ」ドスッニジュク・サンジュ「クロちゃ〜(ん)!!」
クロ「や、やあニジュク、サンジュ。ただいま……」
ニジュク・サンジュ「クロちゃ〜(ん)!!」ズビビビビビ
クロ「……寂しい思いをさせてすまなかったね」
宿屋の店主「おっ!?まさか本当に帰ってくるとはなあ」
セン「おう、おっさん。こいつらが迷惑かけなかったか?」
宿屋の店主「よく手伝いをしてくれてたぜ。いっそ養女として迎え入れたいくらいさ」
セン「そうか。まあ無理だと思うぜ」
宿屋の店主「……………………」
ニジュク・サンジュ「クロチャ~(ン)」ズビビビビビ
クロ「ソロソロハナシテ……」
宿屋の店主「まあ……、そうみたいだな」
――翌朝
宿屋の店主「よう。よく眠れたかい?」
クロ「ええ、おかげさまで」
サンジュ「おじちゃん、おはよう」
ニジュク「おてつだいする?」
宿屋の店主「ああ、朝飯ができてるから運ぶの手伝ってくれ」
ニジュク・サンジュ「は〜い!!」
セン(本当に手伝いしてたんだな)
クロ「そういえばセンは昨日はしこたま飲んだのかい?」
セン「いや、駄目だった。疲労感には勝てなかった」
ニジュク・サンジュ「モグモグムグムグ」
宿屋の店主「ところで旅人さん。旅立ちの日取りは決めてるのかい?」
クロ「欲を言えばもう少しゆっくりしたいところですけど、もう留まる理由もありませんからね」
クロ「今日にでも発とうかと思っています」
宿屋の店主「そうかい……。なら……」パチパチパチン
宿屋の店主「宿泊料はこれくらいかな」
セン「んん?一桁間違えてねえか?」
宿屋の店主「間違えてねえよ。何泊したと思ってるんだ?」
セン「ああ、ニジュクとサンジュの分か。もっとまけろよ。手伝いとかさせてたんだろ?」
宿屋の店主「まけてこれくらいだよ。もうかなりサービスはしてあるぜ」
宿屋の店主「払えないんだったら、しばらく住み込みで働いていくか」
宿屋の店主「いっそ二人を預けていっても私は一向にかまわん」
セン「この野郎が……。それが狙いか……」
クロ「……………………」ゴソゴソ
クロ「あっ……」
セン「なんだ、どうした?」
クロ「これのこと忘れてたよ」
セン「そりゃあ……、涎でべたべたの何かじゃねえか」
クロ「正確に言えば涎でべたべただった何かだね」
クロ「一応奈落の遺物ですけど、これで支払いになりますか?」
宿屋の店主「んん……?そうだな……」
宿屋の店主「いいぜ」
セン「いいのかよ?そんな用途不明の芥みたいなやつで?」
宿屋の店主「ああ。遺物ならなんかしらの価値はあるだろ」
セン「へえ……」
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ニジュク「おせわになりました」
サンジュ「またね、おじちゃん」
宿屋の店主「おう、またいつでも遊びに来な」
クロ「ありがとうございました」
セン「ところでよお、奈落から持ち帰ったもので何か手元に残った物はあるか?」
クロ「いいや、何も。遺物も廃品も何一つ残らなかったよ」
セン「そうか……、今後も貧乏旅は続きそうだな……」
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旅を終え、束の間の安らぎを得る旅人達
それでも奈落への好奇心は収まることを知らない
すぐ目の前で大口を開けて
旅人達を誘い続けているのだから
セン「お?その謎ポエム、久しぶりだな」
クロ「ああ、実は今のは自分で考えたんだ」
セン「なんだ?随分毒されたな」
クロ「そうかもね」
クロ「この島での旅路もそろそろおしまいだからね」
クロ「終わりにちょっとそれっぽいことを考えてみたんだ」
クロ「冊子にも図録にも旅を終える人に向けた詩がどこにもないからね」
セン「……それは探窟家が身を置く過酷な環境が影響しているのかもな」
セン「まあ、いくら奈落が俺達を誘おうが、俺達には俺達の旅路があるわけだがな」
クロ「そうだね」
クロ(その旅路の終着点もそう遠くはないだろうけどね……)
セン「それじゃあまず手始めに本土に帰還する連絡船が待ち構えてるぜ」ドン!!
ニジュク「クロちゃ〜」ピョンピョン
サンジュ「はやく〜」ピョンピョン
クロ「……………………」
クロ「……大変だ。今誰かに呼ばれた気がするよ」クルッ
セン「いやあ、波も穏やかで天気も良い」グィィィィ
セン「絶好の船出日和なんだよ今日は」ガコガコガコガコガコ
セン「だから暴れんな!!あれに乗らないと帰れねえだろうが!!諦めろ!!」ガコガコガコガコガコ
クロ「待て!!セン!!……そうだ!!星渡りにもう一度運んでもらうとか……」ジタバタ
セン「ニジュク!!サンジュ!!積み込め!!」ガコガコガコガコガコ
サンジュ「は〜い!!」
ニジュク「クロちゃど〜ん!!」
クロ「待って……」アッ~~
深淵に誘われ、足跡を残していった旅人達
その旅路が大いなる好奇心を宿した少女達に
旅の扉の鍵を与える手助けとなっていたことを
旅立ちの夜明けを迎えさせてしまうことを
旅人達は知る由もない
終
主役は出てこないのでした
それにしても無駄に引っ張ってしまった今度は短編書こう
あ、読んでくれてる人いたんだ良かった……
レスポンス無いから毎回更新止めようかという思いと戦ってましたw
ありがとです
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