こんにちは!カレルと申すものです
5作目というキリが良い(わたしの中で)数字なので、いつも以上に気合を入れて書きました
こちらは「サジちゃんの病み日記」というまんがタイムきららMAXで連載されていた作品の二次創作です。
今作は「サジちゃんの病み日記」の後日談として制作しました。そのため原作の壮絶なネタバレがあります。そのため原作を読んでから本作読むことをお勧めします。
シリアスとほのぼのの半分が含まれています。
少し長くなりそうなので、何分割かして投稿しますが、最後までは書いていないので投稿が遅れる可能性がありますので、そこはご容赦ください。
注意事項
*キャラクターの独自解釈
*独自設定
*原作との乖離
*妄想
等が含まれるので苦手な方は注意してください
サ「 」み「 」日記
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7/24 天気 晴れ 7:00起床
晴天が続き、夏を実感するようになった、今日もいい日
になりそうだ今日もひかりちゃんに会えるのかと思うと
わくわくする。少し違和感を感じる、うさぎの事件から
4か月くらいかだんだん大きくなっている、なんなんだ
ひかりちゃんとはなしているとうさぎの声が聞こえてく
る こ「 」わ「 」い
こ「 」わ「 」
7:30
すこしおちついた そのあいだうさぎが言っていたこと
を思い出した
きっとこわいからだ、ひかりちゃんに「
」
ちがう、「 」られるのがこわい うしなう「 」
こわい 「 」うがこわい
ひかりちゃんが「 」
もうだめかも 「
」
8:00
もう学校へ行く時間だ まったく私はとんだ大馬鹿もの
だ 私はひかりちゃんを不幸にしてしまう、もう潮時だ
ありがとう さようなら
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「この日記の日付、三日前のものだ…」ぼろぼろの日記を読みながら橋口メロは言った。
「三日前、つまり私たちと別れた後に行方不明になったってこと?」不安の混じった声で江戸川ひかりは返した。
[少し前]
ふたりは学校に来なかった月宮沙慈(通称サジちゃん)様子を確認するため彼女の自宅を訪ねていた。
「ひかり、サジちゃんの家は隣でしょ 気づかなかったの」メロがあきれ顔で聞いた
「いやぁ〜先週末は家族でお出かけしてたから気づかなかったよ。 たぶん体調不良だと思うから、沙慈ちゃんがすぐに元気になれるようにおいしいごはんを作ろうかな〜」ひかりはのんきな口調で答えた
(ほんとにひかりは楽天的だな)とメロはサジちゃんの家のインターホンを押しながら思ったが、インターホンの音が少し不気味に響く家に違和感を覚えた
「ひかり、うまく表現できないけどなんか嫌な予感がする」メロの深刻な顔を見たひかりも、これまでの楽天的な考えが間違いなのではないかと思い始めたようだ。
「おーい!」
「...」
家の中に呼びかけるも反応がない。しばらく様子をうかがったのち、しびれを切らしたメロは玄関のドアに手を伸ばしノックした。
「お〜い いるんだろ〜 いるなら返事してくれ〜 ひかりもいるぞ〜」
「...」
サジちゃんの部屋には誰もいないのか物音ひとつ聞こえない、不安感が頂点に達したメロはドアに耳を押し当て中の音を聞くことにした。
『おかしい、私はともかくひかりが来ているのに物音ひとつしない三日前のサジちゃんは特に普段と変わりない様子だったけど、私たちと別れた後に何かあったのか?』 部屋の中に誰もいないことを確信したメロは悪い想像を巡らせている。
「メロ、私沙慈ちゃんの部屋の合鍵持ってるから、入ろう!」ひかりは意を決したように言った
「うん、 え!? なんでひかりが合鍵を持ってるの?」突然の事実に驚きを隠せない
「詳しい話はあと、さぁ開けるよ」メロの疑問を流し、ひかりはドアノブに鍵を差し込んだ
「ギギギィ…」アパートのドアは建付けが悪いのか、不快な金属音を鳴らしている
「おじゃましま〜す」
部屋の中に入った二人は驚愕した
「あれ? サジちゃんの部屋ってこんなにきれいだったっけ? もっとひかりの写真とか前ほどではないにしても飾ってあったのに 引っ越しでもしたみたいだな」きれいに片付いた部屋を見て自然とそんな感想がメロの口から出た
「ひ、引っ越しって、沙慈ちゃんがわ、私たちに内緒でど、どこかに行ったっ…てこと」メロの何気ない一言、しかしひかりはいつにもないほど動揺しており、声が震えているのが伝わった
「いや 確定していないけど… ごめん不安にさせるつもりでいったんじゃなかった…」しばらくの間の無言が、ふたりの間の空気を停滞させた。
「.........」メロは会話の取っ掛かりを探すように、部屋を見まわした。あるのは空の本棚、ベッド、引き出し付の机…
「…っ、ひかり! もしかしたらあの机の引き出しに何か手がかりが残されてるかもしれないから、開けよう! そうしよう」自らを鼓舞するようにわざと元気な声でひかりに呼びかけた
「うん、そうだね メロの言う通り不安になっても仕方ないし 手がかりがあるならそれにすがろう」
ひかりは引き出しに手をかけ開ける。幸い引き出しには鍵がかかっていないようなのですんなりと開いた。引き出しの中には汚れた日記帳のようなものが数冊入っていた
「サ、み、日記? 表紙がとんでもないくらい汚れてるけど、たぶんサジちゃんが書いた日記だよね」血が乾いたような跡になっている日記帳をみながらメロが言った
「そうだと思うけど、人の日記を盗み見するのは気が引けちゃうな〜」ひかりはいつもの調子に戻っている
「私は別の意味で怖いけど見ようか」
メロは別の意味でドキドキしながらひかりと、サジちゃんの日記を読み始めた
「まずは一冊目から 日付は去年の9月18日だから最近の日記はだいぶ後か」
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09/18 天気 晴れ 朝7:18ひかりちゃん起床、
ベッドで8分間、スマホを見ながらねむそうにしている
と妹が起こしに来た、クソひかりちゃんにさわる「 」
じゃないふざけるなふざけるな メッセージの
通知音がした、
多分橋口メロのものだ あ“「
」
どいつもこいつも本当にジャマだ!朝からイライラする
(略)
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(やっぱり、私に敵意むき出しだな、怖いし)
「ねぇ、最新の日記まで飛ばさない? ちょっと私への殺意がすごすぎて」
「そ、そうだね メロに対する当たりが強いもんね」殴り書きされた内容はひかり7割、メロやまわりの人への怒り3割ほどで、全体にまんべんなく血が乾いたようなシミがある。特にメロに対する記述には血痕と殴り書きで判別が困難で強い恨みが感じ取れるようになっている。
メロは恐る恐る机の奥を探り、比較的汚れの少ない日記帳を発見した。表紙には日記05と書かれている
一冊目とは比べ物にならないほどきれいな表紙でメロやひかりと仲良くなった後の内容であることが想像できる。
「多分これが最新の内容だよね、1ページ目の日付を見る限りうさぎの事件から一か月後の日にちだ」一冊目の表紙と見比べながら言った
「つまり、一番最後の内容に手がかりがかくされているかも、ちょっと貸して」ひかりはメロから日記帳を受け取ると、はじめから読み始めた
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4/18 天気 晴れ
だんだんこの生活にも慣れてきた、最近空がきれいだと
思うようになってきた、これまでそう思ったことが一度
もないので、少し戸惑っている。
今までつけてきたひかりちゃん観察日記のサブでつけて
きた日記以外すべて無くなったしいい機会だ。
これからは自分のことも少しずつ書いていこう。
わざわざひかりちゃんの屋根裏へ侵入しなくても、これ
からまた会えるんだから必要ない
橋口メロもうざいが、慣れてきた 案外私とも少しほん
の少しだが趣味は合うし、私をともだちと思ってくれて
いるのが「 」
これからの生活がずっと続くのか、たのしみ
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「沙慈ちゃん…」ひかりは慈しみのまなざしで彼女の日記を読んでいる、この4か月のことを思い出しながら、飛ばして6月24日の日付の付いた日記を読み始めた。
読み始めて数秒、微笑みを浮かべていたひかりの表情が少し曇ったことにメロは気づいた。
「ん? どうしたんだ 気になる内容でもあったのか」
「…みてよ」ひかりは日記の内容に指をさしてメロに見せた、内容ははじめのほうは比較的整った文字だが、後半は最初の殴り書きよりも読みづらく、判別不可能だ
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6/24 天気 雨
最近不安感が大きくなってきた、悪夢を見ることが多い
ひかりちゃんに見捨てられるゆめ
これはゆめ それともげんじつ
悪夢は巡り終わらない
釘付けにされたように心が苦しい
私はおろかものだ、なに一つかえることができていない
ひかりちゃんが示してくれる希望を貪りちらしてしまう
うさぎが言っていたことはおそらく正しい、私は愛すべ
きではなかった。できることは人をふこうにすることだ
け
いっそ真実に向き合おうか、そうしたら悲劇から抜け出
すことができるかも「
私 悪 ただ
人間 いない
誰 愛し
嫌」
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「これヤバいんじゃないか 後半はほとんど塗りつぶされて判別不可能だけど は、はやく続きを というか、もう一番最後に書かれた日記を読もう!!」メロはいてもたってもいられず、語気を強くしてひかりに言った
「うん! わかってる」ひかりもメロと同意見だといった反応で、最新のページまで日記を飛ばした
「これだ!日付が7月24日、早速読もう」
[冒頭に至る]
「この内容、不安になる要素で構成されて隙がない、特に最後のありがとうは何なんだ!最後のお別れのつもりか! マジで許さない、今度会ったらぶん殴らなきゃ気がすまない ねぇ、ひかり」メロの憤慨の意図にひかりは気づいているらしく、同様に
「ほんとうだね 次あったらおいしいお菓子攻撃をお見舞いしないとね」
現実の可能性から少しでも目をそらそうと空元気を演じた二人だが、最後の「さよなら」が気になり、これ以上明るい話題が出てこない。黙っているとそれが現実になっていくような予感が大きくなるが、出たのは一言だった
「沙慈ちゃん、どこにいるの…」
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【7/24(金)】
[サジちゃん]
「そろそろ限界か…」私は部屋から出るときにつぶやいた、何気ない言葉。自然と出てきたそのつぶやきは青い空に吸い込まれていった。
東の空には三日月にも満たない痩せた月が顔を出している
「おはよう 沙慈ちゃん!」後ろから安心する声が聞こえた、ひかりちゃんだ。
彼女は私を受け入れてくれている、しかし、今のままではいられない今日は決別の日だ。
「おはよう ひかりちゃん」そう言いながら振り返る。
私をまっすぐ見つめる瞳は穢れがなく吸い込まれそうなほど美しい。そんな瞳に見つめられると否応なしに鼓動が高鳴り痛くなる。
そんな素晴らしい人と私、そんな人の隣に立つ資格なんてあるのか、ひかりちゃんに甘えてばかりの私、腕に刻まれた醜い傷よりもっと醜い心、助けてほしい。
女神に微笑みかけられながらそんなことばかり考えるのは本当に嫌になる、だがすでに決めたことだ、後悔はない。
「さ〜じちゃん どうしたの?」
「ひっ、ひかりちゃんちかいよぉ…」
(ひかりちゃんの顔が目の前に、いい匂い、ひかりちゃんの香り〜)
私の考えなどお見通しだと思ってしまいそうなほど、いたずらな表情。
この表情を拝むことができるのは最後になるのかと思うと途端に心ぼそくなる。
それも覚悟の上だ
しばらく歩いていると「ひかり〜サジちゃ〜ん」と、いけ好かない奴の声が聞こえたかと思うとすぐに重い何かが当たってきた、メロの体だろう。
橋口メロには感謝しているが、さっきのような不意打ちには敵意を持ってしまう、しかし恩人にはそれ相応の態度を示そう、そう最後なのだから。
「おい! びっくりするだろ、挨拶もまともにできないのか?」
「うぅ 辛らつだな でもこんなこと言ってても私のことすきだもんな〜」そんなことを言いつつ、私に寄りかかってきた。
実際そんな不快ではない、いや信頼感さえ感じ取れて、誇らしい気分にすらなる
「ば、ばか そんなことないだろう、というか離れろ」
いつも素直になれない、そんな私が嫌いだ。ひかりちゃんなら簡単に言ってのけると思うのに。
もう少しで手が届きそうなのに、私は愚か者だ。
「もう 二人でじゃれてないで私もまぜてよ〜」
彼女のかわいい声が聞こえる
ひかりちゃん、メロ。
「ありがとう」
......................................
空がきれいだ、手を伸ばせば届きそうなほど。
私は屋上にいる、少しだけ風が吹いていて心地がいい。ここに来るまでに決心が揺らいだりすることに少しは期待したが、もう未練はないらしい。
いや未練はある、未練はあるがあの二人のことだ、私なんかいらないほうがいいんだ。
でもせっかく最期だし何かささやかな置き土産をしておきたいな、と言っても私の物は少ないし、大切なものはすべてうさぎに捨てられた。残っているものは日記くらいだ。
私の日記は机の引き出しの中にまとめているから、私の死後には見てくれるだろう。
そうしたらあの二人は怒るのかな、それとも悲しんでくれるのかな。
本当にこれで良かったんだ。そろそろ行かないと、決意が鈍る
私は屋上の金網に手をかけ上った。
現世と冥界を隔てる境界を渡る。
今の私にとっては簡単なことだ、たぶん私は地獄行きだろうな。
私にはたかだか2メートルほどなんの障害でもなく、あっさりと死の淵に立った。
何故だろう、急にみんなのことを思い出した、病室で言われたメロの一言、ひかりちゃんの屈託のない笑顔。そして忌々しいうさぎの言葉…。
引き寄せられるかのように私の体は深淵へと落ちていった。「バカだな」視界の端に黒い影が見えたが、気にしている暇はない「.........でもこれで」すぐに意識は途切れた。
…昔の約束に縛られ、自らに刻んだ消えない傷に
死に魅かれて墜ちていった…
これは光を求めた少女を巡る愛と死の物語
[完?]
※先に断らせていただきますが、私は『サジちゃんの病み日記』未読勢です。たいへん申し訳ございません。
拝読いたしました。切ない... ただ、切ない...。
狂気的なまでの愛憎を抱える一方で、気を許せる「ともだち」を求めてもいた沙慈ちゃん。
ひかりちゃんとメロちゃんは、そんな沙慈ちゃんのことを大切に思っていたからこそ、彼女を迎えに来た。
...沙慈ちゃんは、もうどこにもいないのだという事実を知らずに。
彼女が人知れず、遠い遠い場所に旅立っていったのだという事実を知らずに。
逃れることのできない死への憧れにいざなわれるように、自らの物語を閉じる直前。
最期に「ありがとう」と二人に言えたことが、沙慈ちゃんにとってのささやかでかけがえのない、最後の救いだったのでしょうか...。
コメントありがとうございます
プロローグの内容は二巻の最終話の話を私なりにアレンジしたものです。
ここから、どのように物語が展開され、どのような結末になるか、そしてタイトルの意味とは。いまだ執筆中ですがご期待ください。
続きは来週中に必ず投稿します。
【??/??(?)】
見知らぬ天井が見える、「私は死んだのか」現実感がないまま部屋を見渡した、時計もないまっさらな部屋。
窓にも厚いカーテンがかかっていて外の様子はわからないが、光の漏れがないので外は夜なのではないかと思われる。
これが死後の世界か。眼鏡がないのであまり全体のディティールはわからないが病院とは少し違うな、という印象を持った。
部屋の観察を続けている最中
「痛っ!」
急に頭痛がした、頭に手をやると包帯が巻いてあり誰かが治療してくれたらしい。
私は包帯を解き指先で痛みの原因を探った。
痛みの周辺に触れるとざらざらとした感触がある。たぶん血が固まった跡だろう。
次に痛みの原因を触った。濡れているようなヌメヌメした感触と鈍い痛みがした、頭から戻した指はほんのり赤く染まっている。
新鮮な血の色、飛び降りた時よりさほど時間は経過していないと思われた。
「生きてるのか…」
色のない濃霧とともに、現実がゆっくりと顔を現した
安堵と絶望と虚無感とが同時に現れ、おかしさが体から噴き出した
「ははは!生きてるんだ もうどうしようもないな! 一回死んだのにまだ現世にへばりついてる、あははは!」
もうおしまいだと思っていたのに、まだなのか。
もうひかりちゃんに合わせる顔もないしどうしようか、それにここはいったいなんなんだ。それに飛び降りた際に見た影、いったい誰なんだ、だれか答えてくれよ。もう私の頭の中は洪水みたいにぐちゃぐちゃだ。
「これからどうしようか…」部屋にはベッドしか置いていないので声がよく響く。
私の愚かな声がよく聞こえるよ。出口は正面にある、でも救いは?今は何もしたくない。
もう自殺をしようとする、エネルギーはすべてなくなっている。
すべてのものが意味がないように見えて仕方ない。希望はすべてあの屋上に置いてきた。
今は寝よう起きたら、すべてが夢で終わっているかも。
そんな淡い期待を抱きながらもう一度まどろみの中に飛び込んだ。
「もう… なんでもいいや」
.............................
【??】
今私は夢を見ている、ひかりちゃんとメロ、うさぎ、私、四人でおしゃべりしている夢
みんな自然に話している、私も話している。屈託のない笑顔、きっとこんな世界があったのだろう。遠い世界の話だ、私には関係ない、すべて偽物だ。
うさぎが何か言っている、だが聞き取れない。
私になにか伝えようとしているようだ、現実で見たうさぎの顔はもうほとんど悪意の表情しかなかったが、ここでは親愛にあふれた優しい表情だ。
きっと私はこんな光景を望んでいたのかな、しかしもう遅い。
ひかりちゃんに触れて私も少し優しくなったのかな、いいや私はわたしだ、何も変わらない。暗い闇をさ迷うだけの人影が、肉体を得ただけに過ぎない。
ひかりちゃんが何か言ってる、必死に私に伝えようとしているでも聞き取れないんだ。
もうあきらめてくれ、心が乱れる、もう傷つけたくないんだ。
「願うことならもう一度…」
そう言いかけたが夢の中のひかりちゃんはもうそこにはおらず、言いかけた言葉もどこかへ消えていく。
意識は深い闇へと落ちていく、ひかりちゃんの言葉とともに
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「ひかりちゃん!!」自然と口から飛び出した言葉とあふれる涙。幸いこの部屋にいるのは私だけ。聞かれる心配がない、心から安堵した。
時間がたち少し落ち着いた、時間は30分か1時間か、もしかしたら2時間かもしれない。時間感覚が狂ってくる。
昨日、いや昨日かはわからないが、だんだん決心がついてきた。
この部屋から出る決心だ。夢の中でひかりちゃんに言われた何かも気になる。二度と会えないとしても。
今は宣言しなくては決心がぶれてしまう、だから言霊で私を縛る。
「私はこの部屋から出る」
効果があるのかわからないが、口に出さないよりはいいだろう。
宣言した後もなんだかんだで無意味にゴロゴロしていたが、ようやく決心がついた。
私は意をけっして、ベッドから体を起こした。
急に起き上がったのと怪我の失血の影響で少しフラフラしたが、動けないほどではない。
昨日部屋を見まわした時に見つけた出口、ゆっくりと着実に向かっていく。
時間がかかっただろうがようやく出口にたどり着き、扉のノブを下した。
私を外界から隔絶していた部屋の扉は、ずいぶんあっさりと開いた。
扉の先の景色は、拍子抜けしてしまうほど特徴のない廊下だ、廊下には左右に部屋があり少し暗い。奥にも部屋がある。
奥の部屋の扉はぼやけているがほかの左右の扉とデザインが違うような気がして、入りにくい印象をもった。
(と、とりあえずは左右の部屋の様子を見よう、決して奥が怖いとかはないんだけど)
心の中で精いっぱいの強がりをしながら、右の扉に手をかけ引いた。
「ガチャ」とノブが回る音がしたが押しても引いても扉は開かない、どうやら鍵がかかっているらしい。
同様に左の扉も試したが鍵がかかっている。
残すは奥の扉だけ。廊下の壁を伝いながら、一歩一歩扉に近づく。
扉に近づくとデザインがよく見える「厳つい扉」私はそう感じた。
高そうな木目調の扉、何か恐ろしい、いきものが描かれている。
「怖い」そんな感想しかでない扉を前に先ほどの決心が一瞬揺らいだが、どうせ一度は死んだ身、恐怖なんて…
私はおそるおそるノブに手を伸ばした。
厳つい扉と同じくノブも厳つく、ひんやりと冷たかった。
ノブを回すと「ガチャリ」と音がした。どうやら左右の部屋のように鍵はかかっていないようで、ノブを引くと音もなく扉が開いた。
開いた先はまた廊下だ、両隣には照明があり奥には、後ろ姿の人影が見える。
その人影が助けてくれた人物だろう、私はそう思った。
眼鏡がないのでよく見えないが、よく目を凝らすと髪が長いので女性であることはわかる。女性の元まで歩くのは億劫に感じたので、声をかけてみることにした。
「すいません、あなたが私を治療した人ですか?」と言おうとしたが、体力の低下と空腹感のせいでまともに発声できず、口から出たのは「す…」の一言だけだ。
こんな言葉じゃ伝わらない、そう思ったが、意外にも女性の耳には届いていたらしく、振り返った。
振り返った女性は、こちらに気づいたようで、大きく手を振っている。
とりあえず安全だと思った、その女性の声を聴くまでは。
「サジちゃん、おはよう」女性は言った
私はその声に覚えがあるような気がする、いや聞いている。
記憶に刻まれた天敵のこえ。凛道うさぎだ
女性はうさぎと同じような声をしている、しかしうさぎのような敵意が感じ取れない。
いったいどうゆうことだ、混乱していると、女性も察したらしく近寄ってきた。
女性が寄ってくるのとは反対に私は後ずさりしようとしたが、後ろの扉を閉めてしまったので下がれない。下がれたとしても袋のネズミ。
私は覚悟を決めた。
だんだんと女性の像が鮮明になっていくなかで、私は確信した。
紫色のウェーブした髪、加虐的な瞳。
間違いない、助けてくれた女性は凛道うさぎだ。
メロとひかりちゃんを殺そうとした女だ。
恐怖した、心臓の早鐘が鳴りやまない「…ナンデ、おまえが…」言わずにはいられない
「おはよう サジちゃん」
その言葉から後の記憶はない
.............................
【??/??(?)】
私は知らない天井を見た、これで3回目だ
今、私は最悪な状況にある。手足を縛られてうさぎにごはんを食べさせられている。
どうしてこうなった、思い出してみる。
私が起きると枕元にはうさぎがいて、テーブルが用意されていてそこにはごはんが乗っていた。
そうだ、私が食べるのを拒否して暴れて、うさぎに取り押さえられて今に至る。
まぁ、当たり前か、だいたい二日ほどは何も食べていない、負けるのは道理か。
しかしこの状況はまずい、うさぎのことだ、食事に何か薬を盛ってるにきまってる。
だから私は拒否を続けている。
「もう、サジちゃんは疑り深いわね 何も入っていないのに」どうにも信用ならない
「なら、毒見しろ なにも入ってないなら食べられるだろ」
「もうしかたないわね いただきます」うさぎは特に躊躇せずに、スープを口に含んだ。
とてもおいしそうな匂い。私はいま食べたくて仕方ない、だがやつに悟られるのは避けたい
「ふん、どうやら毒は入っていないようだな」
「まぁ、サジちゃんが食べないなら私がすべて食べるから安心してね」うさぎは不敵な笑みを浮かべながら、言った
完全に私で遊んでいるな、黙っているとうさぎにすべて食べられる。
タイムリミット付で選択を迫ってきやがる。
「なんてね サジちゃん面白いからイジワルしちゃった 拘束も解くから、自由にしてていいわよ」うさぎの言っている意味が分からない、うさぎは凶悪なやつで、私の絶望の表情が好きなサイコ野郎のはずだ。
私が考えを巡らせていると、スルスルと拘束が解かれていく。
「どうして?」
「どうしてって?」私の質問にオウム返しできた、
「どうして私を助けたんだ」もう一度質問した
「ん〜 たまたま」どうにも本心が読めない
「なんで屋上にいたんだ」
「それはあなたを殺しに行ったからね」衝撃の言葉が飛び出し、体がこわばった
「ふふふ、なんで助けたかの質問だったわね。私はあなたを殺しに学校に忍び込んだ、あなたを殺し私も死ぬために」
「じゃあ、私がっ、元気になったら殺すのか?」
「いいえ、もしそのつもりだったら、あなたを助けるより、一緒に身投げしたわよ、でもしなかった。なぜだかわかる?」うさぎの主張は意味が分からない、沈黙を選択することにした。
「ふふっ あなたに興味がなくなったからよ。正確にはあなたを私の物にすることね」
「…なんで?」私は全く納得がいかない、私を殺しに学校に来たということは、相当明確な殺意があったということ、それが消えるのか。
「これが今の私の本心よ」私の心を見透かしたようにうさぎは言った
うさぎのことは一切信用できないが、飢餓には勝てないので、うさぎの作ったらしいご飯を食べることにした。
「はい スプーンよ、」
「…」
「大丈夫よ、新しいものだから」
「…いただきます」とても不本意だが食材には罪はない
スープをひと掬いし恐る恐る口を付ける。
「ん! おいしい」料理名はわからないがトマトの酸味とうまみが口の中に広がる、とてもおいしいスープだ。
付け合わせのパンも食パンとは違い丸く柔らかい。
「そうでしょ、頑張って作ったんだから」本当に不本意だ。以前やつのオムライスやカレーを捨てていたが、惜しいことをしていたのではないかとも考えた。
だが気持ち悪さのほうが大きいから食べることはなかっただろう。
「…はぁ ごちそうさま」
「お粗末様」うさぎは満足そうな顔をしている。穏やかな雰囲気を纏っていて、つい心を許してしまいそうになる。
しかし相手はうさぎ、一瞬たりと油断できない
食後の余韻を楽しんでいると、うさぎが急に話し始めた。
「サジちゃん、あなたを助けたのはほんの気まぐれだから恩に着る必要もないし、江戸川さんやメロちゃんのもとに戻るといいわ」うさぎに敢えて言われると、考えるものがある。もうあの二人には会えないし、他に行く当てもない。この状況で頼れるのはうさぎだけ。
「...」
「サジちゃん?」
私は決心した。
「なあ、うさぎ もう少しお前と一緒にいてもいいか? もうどこにも帰れない。お前しかいないんだ」
「あら サジちゃん それってプロポーズ?」言い終わり、とんでもないことを言ってしまったと気づいた、だがもう退けない
「そんなことない あと日記帳はあるか?」
「あるけど…私のお古でいいなら」
どうせ過去には未練がない
「それでいいよ」
「どんなことを書くの?」
うさぎは知りたがりだ
「お前との日常さ」
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7/26 天気 ?? ??/??起床
今日は大荒れの一日だった。仇敵と共同生活を送ること
になった。どうやら胃袋を掴まれてしまったようだ私は
サイコ野郎な一面しか知らないが、案外料理が上手で、
なかなか頼りになる存在だ。後で料理名を聞いたらミネ
ストローネだと教えてくれた。
うさぎの日記帳を流用して書いている、これを書く前に
内容を恐る恐る確認したが、普通のことが書かれていて
拍子抜けした。
昨日(?)の夢で見た光景がまだぼんやりと景色として
あるみんなで笑いあう夢、所詮夢だが、妙に引っかかる
明日はどんな一日になるのだろうか、ひかりちゃんはど
んなことを考えているのだろう
......................................
[ひかり&メロ]
7/27(月)
「沙慈ちゃん、どこにいるの…」
「この日記にも手がかりらしい手がかりもなかったしどうする?」メロはどうにもならないという風に両手を上げてリアクションをした
「…」
またも二人に気まずい沈黙が流れ、時間がたつごとに悪い想像が膨らんでいく。
メロはふとあることを思い出した。
「なぁ、ひかり 思い出したんだけど、ひかりのお母さんは、サジちゃんのお母さんと知り合いだったよな?」
「リルカおば… リルカさん? !! メロいったん帰るよ」ひかりは何か閃いたようでうで、メロの腕を引き、足早に家に帰った。
「ただいま、お母さん!」ひかりは帰るなり母に詰め寄った
「お母さん、今からリルカさんに会わせて、サジちゃんのことについての話があるの」柘榴は突然の娘の話に戸惑いを見せたが、ひかりの真剣な表情を見てただ事ではないと理解したようだ。
「わかった…」その言葉を聞いたひかりとメロは互いに目配せをし頷いた
「だが、今じゃだめだ、行くにしてもかなり遠いし 莉瑠歌にも話を通さないといけないから、明日だ」そう言い残し、柘榴は別の部屋へ行ってしまった
「これからどうする? ザクロさんの話の通りなら明日、サジちゃんのお母さんに会えるんだよね?」メロは不安そうにひかりへ問いかけた
「わからないけど、待つしかない」視線は柘榴が去った扉を見すえている
「もう遅いから送っていくよ 明日の朝、私の家に来て」ひかりはメロに答えだというように明日の予定を伝えた。
メロはひかりにいつにもない頼もしい印象を持った。
普段は「ほんわか王子」な彼女だが、これ以上不安感を大きくしたくないという思惑だろうか、それとも覚悟を決めたのだろうか。
凛とした表情で前に進もうとしている。
メロは友人の新たな表情を見て、「自分もしっかりしないと」という思いが強くなった。
帰り道、隣で歩いているだけで会話はない、しかし以前とは雰囲気が違う。
家に到着し、彼女と別れた後も一緒に歩いた姿を思い出し、明日の英気を養った。
......................................
7/27 天気 くもりのち晴れ ?:??起床
謎の場所で目覚めて3日目の朝だ。だんだんこの生活に
も慣れてきたような感じがする。朝ごはんも見慣れない
料理があった。でもそれもおいしかったが見た目が強烈
だった。真っ赤なスープで、私が文句をつけるとやつは
私を縛り付けて、口に運んできた。仕方なく食べると、
辛さもなくおいしかった。やつの料理は見た目はあれだ
がすべておいしいのでは、という考えが生まれた。縛る
のは趣味なのか?だとしたら相当趣味が悪い。まぁ、ひ
かりちゃんの写真をすべて捨てて、やつの写真にすべて
変えるくらいだから、趣味の悪さはわかっていたことか
今日は気になっていたことの一つが解決した、「やつ」
ことうさぎが何故私を助けられたということだ。やつは
メロを殺そうとして、警察に捕まった。しかし現にそこ
にいる。私はうさぎは実は偽物、または双子の姉妹で私
を世話しているのは、違うやつなのではないかと考えた
そのことをやつにそれとなしに聞いたが、ろくな答えが
返ってこなかった。
やつが言うには「未成年 矯正可能性? 殺人未遂」な
ど難しい話が合ってよくわからなかった。私が分かった
ことは、刑務所には行かないことだけだ。双子説も聞い
たが笑われてしまった。私もそれはないと思っていた。
うさぎのような人物が複数人いたら、死んでしまう。
昼食はハンバーガーだった、よくあるジャンクフードの
代表のようなハンバーガーではなく手作りのハンバー
ガーだった。特に見た目も変わったところもなく、今回
は縛られることもなく食事をした。隣で一緒に食べたが
、ロープがそばにあって心が休まらなかった。だが味は
とてもおいしくかった。肉がジューシーでパンも柔らか
く、野菜もシャキシャキしていて文句のつけようもなか
った。
午後はリハビリを兼ねて、うさぎとゲームをした。うさ
ぎの急な提案で外に出ようと切り出してきた、私は正直
外には出たくないが、なんか断ると縛ってきそうな気も
するし、というかロープを出してた。それもあるがうさ
ぎの瞳がキラキラしていて、少しいとおしく思ったこと
もあったかもしれない。いやそんなことないな、気のせ
いだ。
三日ぶりの外はくもり、私は直射日光を受けたくないと
思ったので好都合だった。出た先は外というか、中庭で
室内にいた時も思ったが、私が生活をしている場所は屋
敷だったらしい。ここのことをやつに聞くと「私たちの
家」などとはぐらかされあまりわからなかった。わかっ
てもあまり外には現状興味はないし、出るつもりもない
から関係ないけど。
中庭を散策していると、バスケットゴールがあって、そ
こで勝負をした。うさぎはハンデをくれたが結果は惨敗
、意外と身体能力が高いらしい。汗をかいたのでシャワ
ーを浴びた、うさぎとは別の場所でシャワーを浴びたが
特に絡んでくるようなことはなかった。身構えて損した
うさぎが用意した服に着替えるときに、前の服は三日も
着ていたのかと思いびっくりした。用意した服はシンプ
ルな白のワンピースだった。
その後は空調の利いている部屋で昼寝をした、案外そん
な生活も悪くないのかな。いつやつのどす黒い狂気が私
を襲うかわからないけど、それはそれでどっちでもいい
な。
夕ご飯は和食だった。うさぎはジャンルを問わないんだ
なと、また感心した。だしがよくしみていてとてもおい
しかった。私が素直に感想を言ったら、子供のようには
しゃいでいた。これもうさぎの一面だと思うと、面白い
今週は私の誕生日だ。しかし私は死んだから今更祝うも
ないか
眠くなってきたしもう寝る。
寝る場所は病院のような殺風景な部屋はいやだと言った
ら、うさぎはちゃんと部屋を用意してくれた、信じてもい
いのかもしれない。
いいや、まだ信用に足らない、でももしかしたら
......................................
7/28 天気 晴れ 9:30起床
4日目の朝だ。昨日の日記の内容を書き直したほうがい
いかもしれない
朝起きたらやつが布団の中に潜り込んでやがった。
うさぎの言い分によると、「何度起こしても起きないか
ら、一緒に寝ちゃおう」らしい。確かにうさぎの髪はち
ゃんとセットされていて、夜中潜り込んだという風には
見えなかったが。モーニングコールがこれでは参ってし
まう。私の衣服も特に乱れもなかったし、体の痛みも昨
日の運動による筋肉痛だから、信じてもいいだろう。
朝はそれよりも朝のごはんの事のほうが重要だからこれ
以上寝起きのことについて深堀する気はない。
今日の朝食は、目玉焼き、ベーコン、ソーセージ、ハム
トマト、トマトで煮込んだ豆などホテルのような朝食だ
った。
うさぎ曰く「イングリッシュブレックファースト」らし
い、つまりイギリスの朝ごはんだ。時間がたっていて、
暖かくなかったがおいしくいただくことができた。少し
重かったが、今日は朝から出かけるみたいで、逆に良か
った。お出かけのさいにうさぎがお弁当も作っていて、
なんでもありかよ。ほんとなんでもできるんだな。
それで私たちは出かけた、車で出かけるといっていたが
お手伝いさんがいて、運転してもらって、目的地まで向
かった。私が想像するようなメイド服で、胸も大きかっ
た。この差には少し気おくれする
目的地は大きな自然公園だった。中央には大きな湖?池
があって静かな場所だった。私が住んでいる場所にはこ
んな公園はなかったはずなので、近所ではないんだろう
適当にそこらを散策しながら、うさぎと雑談をした、う
さぎと一緒にいることも日常の一部だと思い始めた、案
外悪い奴ではないのかもな、あいつがやったことは忘れ
ないけど。うさぎに質問してみた、お手伝いさんについ
て尋ねたら、「あの子はアンドロイドだ」と言っていた
まったくしゃべらないし、汗もかかないし、なにか変な
音を発しているので、妙に納得した。
お昼の時間になった。今日の昼食はサンドイッチ
具もいろいろなものが入っていた、ツナ、ハム、タマゴ
トマト色とりどり。
外に出るのはあまり好きではないが、こんなご褒美があ
るならいいものだな
帰りがけ、うさぎが色々いってきた、今度行きたいとこ
ろ私の誕生日、食べたいもの、今後のこと。一気に言わ
れたので全部答えることができなかった。言えたのは食
べたいものだけ、うさぎのごはんがたべられないと、死
ぬ自信がある。これだけは第一優先事項。うさぎの作っ
てくれるごはんは体に熱を与えてくれて幸福な気分にな
るからいいな
うさぎも飛び切りの笑顔で私を抱きしめてくれた、これ
もわるくはない。
夕食の時間だ。今日はカレーだった。カレーなんて実家
に居たいらいだから、嬉しかった。これもうさぎの手作
りだ作るところを見ていたが、スパイスからカレーを作
っていて本格派カレーだ。食べてみると、うちのカレー
とは全く違うが、とてもおいしく、満足ができた。
一日終わって、夜だ。うさぎと一緒に寝ることになった
何故だか知らないがそんなことになった。
日記を書いていると急にうさぎが部屋に来て甘えてきた
私もうさぎのことをだんだん受け入れてるのかも。案外
悪くない、お姉さんになった気分だ。
おやすみ
......................................
[ひかり&メロ]
【7/28(火)】
朝から二人はひかりの家の前で待っていた。
夏休みが始まり希望にあふれた一日目。
ふつうはそうだろうが、二人の雰囲気はそんな夏の空気を凍らせるほど張りつめていた。
4日前に行方不明になった、月宮沙慈の手がかりを探るため、彼女の母親に会いに行くところである。
目的地の家はかなり遠くにあるため、車を使わなければたどり着けない。
ひかりの母親が車を出してくれることになっているが、肝心の母親が寝坊して、待っている最中だ。
「くそっ 暑いな」メロは暑さに耐えきれずこぼした
「まぁ お母さんが来るまでもうちょっとだと思うから我慢しよう」暑さでイライラしているメロをなだめた
「まったく 柘榴さんに先に行っててって言われたからだけど、ひかりの家にすぐもどりた…」
最後の言葉を言い終える前に、玄関の扉が開き元凶が出てきた。その隣にはひかりの妹のぺぐも立っていた
「すまない 遅れた」と言って柘榴は車に乗り込みエンジンをかけた
母に続くように、妹が話しかけてきた
「お姉ちゃん、あの元ストーカー女の家に行くの?私、お母さんとお姉ちゃんたちが話してるのが聞こえて気になって。それに私のお姉ちゃんに黙っていなくなって心配かけさせるなんて私、許せない。 もし見つけたらメロ、私に代わってチョップしてきて!」
早口に言い終わると、ひかりに抱きついて、家に戻っていった。
ひかりのズボンには二つの小さなしみが残っていたが、すぐに乾いてなくなった。
「ははっ なんか勇気をもらったみたいだな」
「うん そうだね」メロもひかりもぺぐの不器用な激励を受けて、車に乗り込んだ。
きっといい結果が得られる、不思議とそんな気がする。私たちはそんな根拠のない自信を持ちながら、サジちゃんのお母さんが待つ○○市へと急いだ。
途中大きな川、自然公園や、古い屋敷などがあった。
山を一つ越えた先にようやく目的の家が見えてきた。
「わ〜 昔のままだ」「なんだこれ!?」
ひかりは子供の頃以来にみる沙慈ちゃんの家になつかしさを覚えはしゃいで、
私は話には聞いていたサジちゃんの家が大きな屋敷である事実に驚いていた
「ついたよ」柘榴さんが言った
遠くからみても大きかったが、近づくと特に大きい。
ひかりは昔、隣の家に住んでいたらしいが、隣の家と比べてスケールが違いすぎる、塀の上には棘の装飾がされた剣山が屋敷の周りを囲んでいて威圧感があって。
門も棘と一部に薔薇の装飾があしらわれており外界との交流を閉ざしているような印象を感じた。
「待ってて」と言って柘榴さんは車を降り、門のインターホンに何か言って車に戻ってきた。
少し待っていると、突然門が開き車を中に進ませた。
「すごい!」これまで驚きっぱなしだ
中は門の外の威圧感とは裏腹に、きれいに整備された庭園があった。花が咲き乱れ、小川が流れている。
『外のカラスが鳴いていそうな感じとは程遠い、むしろ小鳥がチュンチュンしてそう』と庭園を見まわしながら思った。
車から降りたひかりと柘榴さんは玄関へ向かうと言って歩き始めた。
私は全く場所が分からないので、とりあえずついていく。
ひかりと柘榴さんはこの場所慣れていて、わき目もふらずに歩いている。私はそんな二人の後を追い、庭園を目で楽しみながら進んだ。
しばらく歩いていると、玄関が見えてきた。玄関は屋敷の門とは違い、装飾もなく白のシンプルなデザインの扉だ。このシンプルさは普通の家だとお洒落だと思うが、この屋敷だと浮いている感が否めない。
玄関にたどり着き、ドアベルを鳴らすとすぐに扉が開いた。
扉を開けた人は所謂メイドさんという格好で、私たちを迎えた。
「ようこそ、おいでくださいました」とテンプレートなメイドさんの台詞を聞いて
私は『やべえ』と心のなかで叫んだ。
「莉瑠歌さまは、奥で待っておられます」と言ってメイドは、私たちを案内した。
歩いている最中も、私は驚きっぱなしだった。
玄関のホールのシャンデリア、長い廊下、高級そうなカーペット。どれも普通に生活していれば縁のない代物だ。
通された部屋は応接室のような雰囲気で、柱時計、ベランダにつながる、ガラス張りの窓、花を象った金の装飾がついた机、そして眼帯をしたサジちゃんそっくりな人。
「いらっしゃい 柘榴、ひかりちゃん、そしてメロちゃん」
サジちゃんにそっくりな女性は私たちを歓迎するようなしぐさをした。
「メロちゃん、あなたは初めましてだったわね。私は莉瑠歌、沙慈の母よ。気軽にリルカさんでも沙慈ちゃんママでも好きなほうで呼んでね あとお菓子焼いたんだけど、食べるかしら」と言いながらお菓子を取り出した。
サジちゃんのお母さん、サジちゃんにそっくりだけど、性格はそこまで似てないな。嬉しそうに話すリルカを見て、そう思った
「莉瑠歌」柘榴が口を開いた
「なぁに?」嬉しそうに答えた
「この娘たちの質問に答えてくれないか」
「…」莉瑠歌の表情がわずかに曇った、しかしすぐに元の表情に戻っていた
「リルカさん、沙慈ちゃんが三日前に行方不明になっちゃったんです。沙慈ちゃんが何処にいるかの手がかりが欲しくて、ここに来ました」ひかりはきっぱりと言った
「まあ…。沙慈はここにはいないわよ、場所もわからない。 わかることは沙慈はまだ死んでいないってことだけだわ」莉瑠歌さんは感情を読ませない声で言った
「な、なんで、死? なんでわかるんですか?」ひかりはわけがわからないというふうに、莉瑠歌さんに詰め寄ろうとしたが、柘榴さんが静止した。
「お話はそこまで 沙慈を探すのには協力するから安心して」私はそう話す莉瑠歌さんの眼を見て鳥肌が立った。
『あの人、顔は笑っているけど、まったく眼が笑ってねぇ 人を殺しそうな眼だ』莉瑠歌さんの眼を見てうさぎの眼を思い出した。
記憶に刻まれた恐怖を思い起こさせる瞳に、汗と震えが止まらない。
「あらあら メロちゃんかわいいわね」私の考えなどお見通しだというような口ぶりだ。
正直、私が苦手なタイプの人間の中でもトップ5に入るくらいの嫌悪感だ。
流石の鈍感なひかりでも私の変化にはすぐ気づいた
「大丈夫、顔色悪いけど」
「だ、だいじょうぶだ ちょっと体調が悪くなっただけだから ははっ…」ひかりに心配されないように精一杯の強がりをしてごまかしたが…
「莉瑠歌さん、メロを休ませたいから沙慈ちゃんの部屋で休ませてもいいですか」
そんな強がりひかりにはお見通しだったようだ。
「ええ、いいわよ ゆっくりと休んでいらっしゃい 食事も用意してるからそれまではゆっくりしていくといいわ」
リルカさんの口だけの心配の言葉を背中に受けながら、部屋を後にした。
部屋を出た後に、うっすら柘榴さんと莉瑠歌さんの話が聞こえてきた。何を話しているか気になるがひかりは私を休ませる事のほうが優先のようだ。
......................................
[サジちゃん]
【7/28(火)】
朝起きたらかなり服が乱れていた、大方うさぎが抱きついて乱れたのだろう。だが肝心のうさぎはいなかった。壁に掛かっている時計は7:22を指している。
「寂しい…早く来て」
あの日からうさぎの印象が私の中でだいぶ変わっていった。まだ4日程度しかいないがそんな感情を持つようになった。
あいつの料理がおいしいのもあるが、もっと別のところ、いや好意と言ったほうが正しいのかもしれない。ひかりちゃんに向けていた押しつけだけの感情ではない。
もっと純粋にうさぎのことが好きになってしまった。
今のうさぎのやさしさが「愛」だとするのなら、これは私が自分勝手に抱いた感情ではない。
もしかすると私とうさぎは互いに惹かれあう運命にでもあるのだろうか。
あの時、私とうさぎは似たもの同士だと言っていたが、今はそんなこともあっているのではないかと思ってしまう。
約3日間しか一緒にいないので仕方ないが、いまだにうさぎには謎が多い。
この屋敷のこと、アンドロイドのメイドの事、私を助けた時の事。
色々考えは尽きないが知らないほうがいいのかもしれないな。
考え事をしたらお腹が減ってきた、はやくうさぎが来ないかな。
あいつのことが待ち遠しいよ。ほんとうにそんなことを考えるって我ながらほんとに変わったな、以前までは相手の事なんて無関心で、自分の事すらどうでもいいって思っていたのに。
今はうさぎが来ることを待ち望んでいる。
壁に掛かった時計が30分を指したころ、うさぎが戻ってきた
「おはよう サジちゃん」うさぎはいつもの調子で語りかけた。
「うさぎ お前、私が寝ているときに抱きついただろ」少し責めるような口調で言った
「あら ごめんなさい あまりにも寝顔がかわいくて」悪びれもせず返した。
うさぎに対する不快感は全くない、むしろ求められている感覚が心地よい
「まったく、で?今日のご飯は」
「今日の朝ごはんはホットサンドよ」と言いながら、うさぎは銀色の半球を被ったお皿を差し出した。よくホテルの料理を運ぶときに使われる、謎の半球。これを被っているだけで、どんな料理もワンランクグレードアップしたように感じられる。
「召し上がれ」うさぎに促されるまま、半球のふたを開けた。
中にはこんがりときつね色をしたホットサンドが二つあった。「一つはチーズとベーコンをはさんだもの、二つ目は目玉焼きをはさんだもの」と説明した。
私はまずベーコンとチーズをはさんだものに手を付けた。
できたてなのか、熱くても持ちづらい。少し気にしながら、ホットサンドに控えめにかぶりついた。
「ガリっ」と小気味いい音を立てたが、肝心のチーズとベーコンには到達しなかった。
そのためただのトーストをかじることになった。
かじったホットサンドからは湯気と一緒にチーズとベーコンのいい香りがした。
次はお待ちかねの具、息を送り少し冷ましてかぶりついた。
「んん おいしい」チーズの香ばしい香りと、ベーコンのうまみが、カリカリのパンとが合わさり一段階上のおいしさを出している。
二口目から、熱さもちょうどよくなり、どんどんと食べていける。気づいたら一つ目をすべて食べてしまった。
「あらあら もう食べ終わっちゃったのね 急がなくても二つ目もまだあったかいわよ」
次に二つ目の目玉焼きをはさんだホットサンドを手に取った。
うさぎの言う通り銀色の半球の中にあったホットサンドは先に取ったものと比べても全く冷めていない。
前回の反省を生かして、今度は深めにかじった。今度は一回で具までたどり着いた。
白身はカリカリとした食感でコショウがアクセントになっている。
食べ進めていくとお待ちかねの黄身の端が出てきた。私は黄身を食べないように、周りを食べ進めた。
「ふふっ 面白いたべかたね」
うさぎが面白がっているが、気にせず食べていく。
周りをすべて食べ終わったので、ついにメインデッシュ。黄身を一口でいただく。
中は半熟を保っていてトロトロな食感だった。
「ごちそうさまでした」うさぎの作るごはんは美味しくて幸せだ。
私の中である1つの結論が生まれた、うさぎとずっと一緒にいる未来だ。
私を死の淵から救ってくれて、生きる活力を与えてくれている。
過去に私たちは色々あったが、私は一度死んだ身、生まれ変わったといってもいい。
以前のうさぎでは一切芽生えなかった感情。今なら思ったことを素直に言えるような気がする。
私は決心して後ろを向いた
「なぁ まえにお前ともう少しいてもいいかと言ったが訂正する」うさぎの反応を伺ったが反応はなかった。
「ずっと一緒にいてもいいか」
言ってしまった、だがこれが今の私の本心の一つだ。
恐る恐る振り返ると、うさぎの顔が紅潮していた。
今にも泣きだしそうなほどに。
うさぎも気づいたのか、腕で顔を隠し後ろを向いた。
5分ほどたっただろうか
「ありがとう サジちゃん。私もあなたと一緒にいたいわ」はじけるほどの笑顔でそう言った彼女の目の端には、まばゆいほど輝く宝石が煌めいていた。
私は今後うさぎの太陽のように明るい笑顔を忘れることはないだろう。そう自分自身に誓った。
…死が二人を分かつまで…
......................................
[ひかり&メロ]
私たちはサジちゃんの部屋で休息をとった。
部屋は今でも使用されているように清潔に保たれている。
ひかりに肩を貸してもらってキングサイズのベッドに横たわるとすぐに眠気が襲ってきた。殺意はうさぎやサジちゃんで慣れているはずだったが、あの人のプレッシャーは一段階違う、異質さを感じた。
もっと具体的な、例えば首をゆっくりとのこぎりで切断されているような、体をゆっくりと溶かされているような、ドブの底のヘドロのようなねっとりとした悪意だ。
なんでそんなことを感じるのか自分でもわからないが、そんな気がする。
何とか震えを抑えようと考えを巡らせていたが別に眠気もやってきた。
眠気にも限界がある、私は耐えきれず目を閉じて横になった。
私の意識はすぐに眠りへと堕ちていった。
そんな親友の様子を見て、ひかりはひとり疑念を強めていった。
「とりあえず 沙慈ちゃんの部屋を探索してみるかな」と呟きながら部屋を見渡した。
見える範囲には机、椅子、時計、クローゼット。ひとつひとつ探ってみたが、めぼしい手がかりは得られなかった。
机の引き出しやクローゼットの中など探してみたが、なにも出なかった。仕方ないので外に出てみようと考えた。
メロをここに残していくのは心残りだが、家に帰るタイムリミットが夕食までなので、うかうかしている暇はない。
「ごめんメロ、ちょっと出かけてくる」そう言って部屋の外に出た。
子供の頃にサジちゃんと遊んだ思い出の洋館。昔のことを思い出しながら歩いた。
子供の頃はこの洋館は無限に続く迷宮だと思っていたが、成長のおかげか極端な大きさを感じなかった。
しかし、今の状態でも広いと感じるほどには大きい。ひかりは部屋のあたりを付けながら、母がまだいると思しき応接部へ近づいた。
まだ二人は話しているのか、声が聞こえる。
そこで聞き耳を立てることにした。壁越しなので音がくぐもっているが、聞き取ることができた。
「あの娘の居場所知っているんだろ?莉瑠歌」母の声だ。
「さぁ 私にはなんだか」
「お前はうそをつくのがとてもうまいが、私を騙せるほどうまくないよな」
「はぁ 流石、私の惚れたひと。そうねぇ ひかりちゃんが通っている学校の屋上で、あの子の眼鏡に付けた発信機が落ちていたの」
『発信機?』
「何時間たっても動かないから不審に思って、見に行かせたら屋上の端に落ちていたのよ」「ちっ! なんで黙ってたんだ」
「ふふっ なんとなくよ どうせあの娘たちなら自力で見つけると信じているもの。」
「こどもたちを試しているのか?」
「えぇ 自ら見つけることに意味がある 沙慈の誕生日もそろそろだし、サプライズかしらね」
『誕生日? 確かにサジちゃんの誕生日は7/31日の金曜日』
「柘榴、もうすぐごはんの時間だから、部屋で休んだほうが良いんじゃないかしら」
「そうだな そうさせてもらう いきなり押しかけて悪かったな」
「柘榴だったらいつでもかんげいするわ」
お母さんが部屋から出てくる、鉢合わせにならないように急いでメロの待つサジちゃんの部屋に戻った。
部屋に戻るとメロはまだ寝ていた。安らかな寝顔、ひかりはメロに少し悪戯がしたくなった。
今しがた衝撃的な事実を聞いて、現実逃避をしたかったという理由もあるかもしれない。
ちょんちょんとメロの頬をつついてみた。指先からでもわかるほど弾力があり、もっとしたいという欲望も生まれた。
今度は頬をつまみ、もんでみる。
ぷにぷにとした感触、大福を思わせるような感触とメロから漂う汗の匂いと微かな甘い香りがひかりの理性を少しずつ奪っていく。
ぷにぷに、もちもちとメロを楽しんでいたひかりだが、抑えきれないといったように、メロに掛かっている布団をはがして、覆いかぶさった。
「はぁはぁ メロ、我慢できなくなっちゃったよ。ごめんね…」
ひかりはメロのくちびるに顔を近づけながら言った。近くによるとメロのお菓子のような甘い香りがひかりの本能を刺激し、ますます興奮していく。
いつも嗅いでいるはずなのに今は何かが違う。欲求が高まっているからだろうか、メロがいつもより魅力に見えてくる。
ひかりの顔は上気し、息も荒くなっている。こらえているのも限界にちかい
「いただきます…」
そう言ってメロの頬を甘噛みした。
「ふぃかり、にゃにやっているふぁ?」ひかりに嚙みつかれている状態でまともに言葉が出てこない。
「え、えっと メロがおいしそうでつい」メロの声を聞いて冷静になったのか、メロの頬から顔を離して答えた。
「はぁ、まったく いくらおいしそうでも人に噛みつくやつがいるかよ」ひかりのよだれをハンカチで吹きながら言った。
「ひかりもやったんだから、私がやり返しても文句ないな」と言いながら、覆いかぶさっているひかりを倒し、逆に覆いかぶさった
「ひかり、こんな大きいもの二つもぶら下げやがって、うらやましいぞおい」
「いや、おっぱいは自然に大きくなったから…」その発言がメロの逆鱗に触れた
「なら、わけてくれー!」メロは怒りながら一心不乱にひかりの胸を揉みしだいた。手に伝わる弾力が心地良く、怒りはすぐに収まった
「はぁはぁ これぐらいでいいかな」
「はぁはぁ メロ激しすぎ…」ひかりがこの上なく色っぽく見えたが、これ以上はまずいと理性が判断して、ベッドから降りた。
私が降りた後もひかりは色のある浅い呼吸をしていたが落ち着いたのか、寝てしまった。
「ひかりっぽいな…」てのひらに余韻を残しながら私は時計をみた、時計の短針は5を指している。
普通に考えると、夕食の時間は6時だろう。それまで1時間はある、だがひかりが寝てしまった以上下手に動くわけにもいかない。
もし無理に私一人で部屋から出ようものなら、余裕で迷子になる自信がある。だから動かずここで待機することにした。
1時間後〜
「お食事のお時間です」扉の外から、昼に案内してもらった、メイドさんの声がした。
「おい!起きろひかり、ごはんの時間だぞ」
「う〜ん メロ〜」寝ぼけているのか、要領を得ない返事をした
「ほら 一緒に行くぞ」寝ぼけるひかりに肩を貸しながら、食堂へ向かった。
[サジちゃん]
「おっ! おいしそう」私は感嘆の声を上げた
夕ご飯は炒飯とエビチリ、麻婆豆腐の中華三昧だ。隣にはうさぎがいる、それがなんとなくうれしい。
昨日もそうだが誰かと一緒に食べるとおいしさが倍増されているような気がする。
気のせいかもしれないが、こんな幸せがずっと続けばいいのに。
だが、その三品ともあまり食べたことはない、エビチリと麻婆豆腐は辛いという先入観を持っているだけであまり知らない。
見た目的に辛さが全くない炒飯を優先して食べた。
私が炒飯だけ食べているのを見てうさぎは「辛くないわよ ほーら」と言ってどちらもおいしそうに食べている。
この生活でうさぎを信用できるようになったので、エビチリを一口食べてみる。
エビチリの見た目は赤くとても辛そうだが、ボルシチの件も手伝って、口に含んだ。
「ん、おいひぃ」小エビのぷりぷりな食感と、ソースの甘さ、そして玉ねぎのシャキシャキ感が合わさり、白米とよく合うなと直感した。
だが白米がないのは残念だ。食べているうちに少し辛みを感じたが、その辛みが食欲を増大させる効果があるのか、気にすることもなく食べ進めた。
エビチリを一通り食べ終えると、次に麻婆豆腐に手を出した。
うさぎの盛り付ける量が適切で、私が満腹にならない量にとどまっている。
この麻婆豆腐を食べ終わってちょうど満足する量だと思っている。それを加味しても、もっと食べたくなってしまう味だ。
食べることに夢中になって気づかなかったが、うさぎは結構食べるタイプみたいだ、目測、私の二倍程度は食べている。
私はあまり胃袋が大きくなく、あまり多くものを食べられないから太らないが。
うさぎは太らないのかな。
もしかして、あの乳に栄養がいっているから太らないのか。
そう考えていると、私の視線がバレたのか、うさぎがいたずらな表情になった
「ふふっ いずれサジちゃんも成長するわよ」
この世で一番根拠のない言葉、これほど信用のできない言葉はないだろう。
うさぎの戯言は無視して、麻婆豆腐を食べよう。
これはエビチリほど見た目が辛そうではないが、子供の頃に食べた麻婆豆腐が激辛で軽くトラウマを持っている。
だがここはうさぎの料理の上手さと信頼を担保に食べてみる。
ひき肉と豆腐、そして餡それだけなのにとてもおいしい。
スパイスの香ばしい匂いが鼻から抜けていき、次の一口を誘ってくる。
気づいたら麻婆豆腐の皿はあと一口にまで減っていた。
それほどおいしかった、うさぎに作ってもらった料理の中で今一番に好きかもしれない。
そして最後の一口、私は全身でこのおいしさを味わい言った
「ごちそうさま!」
「お粗末様 それにしても、あなたすごい汗ね」
うさぎに言われて気づいた、食べている最中、体が熱いと思っていたが、麻婆豆腐かエビチリの中に発汗を促す香辛料でも含まれていたのかもしれない。
「こうも汗をかいたらシャワーを浴びたいな」
「ねぇ どうせなら私とお風呂に入らない」うさぎはうれしそうに聞いてきた
正直、私はあまりお風呂が好きじゃない。
昔はひかりちゃんの屋根裏に張り込んでいたので、お風呂に入らず、シャワーや濡れたタオルで体を拭く程度にとどまっていたからその癖がついてしまった。
だからこの3日間はシャワーを使ったり、タオルで体を拭いていた。
過去の唯一の関わりである体の傷をうさぎに晒すのはあまりいい気分ではない。
昔のことが否応にも思い出してしまうし、腕の傷も癒え白い痕になって、目立たなくなっているが、まだ私は過去に縛られている。
「いや お風呂は…」
「ふふっ わかっているわよ」そう言いながら私を担いだ
「え?」
あまりに突然の事なのでなすがまま担がれたが、どう考えてもお風呂場まで連行される。
本来ここは全力で抵抗するところだが、心の奥で何か期待しているのか。
もぞもぞと動くだけで、抵抗らしい抵抗ができなかった。
「あら、恥ずかしがっているのね かわいいわ。でもサジちゃんの顔が見たいからお姫様抱っこで行こうかしら」
そう言うと私を下して、もう一度抱き上げた。
私も観念して安定度を上げるため、私もうさぎの肩に腕を回した。
お姫様抱っこの姿勢はうさぎの顔がよく見える、今までうさぎの顔をまじまじと見たことはなかったが、整った目鼻、長い睫と挑発的な視線、ほのかにかおるいい匂い、自然とかわいいと思ってしまう。
「サジちゃんのかわいい顔がよくみえるわ」
「ふっ、ふん よくある文句だな」
「ふふっ、素直じゃないんだから」
「こんな言葉で喜ぶと本気で思っているのか?」
「喜んでいるじゃない、ほら瞳孔が大きくなっているもの」
「っ! なってない」急いで目を閉じた
「ふふっ、冗談よ。でもサジちゃん、この格好はキスを誘っているのかしら」
言われて気づいた、うさぎの肩に手を回して、目を閉じている。
まるでキスを待ってるみたいだ。
「うぅ ばかっ…」
バランスが崩れるので、肩に回した腕を戻せず、顔を逸らすことしかできないから、赤面をうさぎに晒すことになった。
「サジちゃんはかわいいわね。さぁ、着いたわよ」
そう言うとうさぎは丁寧に降ろしてくれた。
「私は先に行ってるから」
うさぎは脱衣所の扉を開けて中へ入っていった。
うさぎにされるがままでここに来たが、どうにも気分が進まない。
ただ、さっきのことで変な汗をかいてしまったので、体がきもちわるい。
お風呂に入りたい気分に少し傾いてもいる。
だが、うさぎのたくらみに乗ってしまっているようで面白くない。
でも、せめてシャワーは浴びたい。でもシャワーの場所が分からない。
そんなことを考えながら、足は自然と脱衣所の方へ向かっていた。
もう疑って深く考えるのはやめた方がいいのかもな。
うさぎは私を受け入れてくれているし、助けてくれた恩も返さなくてはならない。これも恩返しの第一歩だと考えれば軽い。
私の進む道はうさぎとともに歩む道だ。なにも迷うことはないんだ。
脱衣所に入ると、うさぎが服を脱いでいる最中だった。
透き通るような白い肌、私が急に入ったのに驚いたのか、胸を隠すようなしぐさをした。
幸いショーツはまだ脱いでいないので、目のやり場に困ることはなかった。
だがうさぎの裸体とアクセントの紫の下着が合わさり、不思議な色気が醸し出されていてすごくドキドキする。
「あら、私とお風呂に入る気になったのね、うれしいわ。それにしても大胆ね、私が脱いでるときに来るなんて」
「はぁっ! たまたまだ!」
慌てて別の方向を向いた
「ふふっ、まぁいいわ。サジちゃんも早く脱いじゃいなさい さあ」
促されるまま、私も渋々後ろを向いて服を脱いだ。
うさぎに見られている感覚は、不思議と嫌な感じはなかった。
「ほら タオルよ」
脱ぎ終わると、後方からタオルが飛んできた。飛んできた方向に目をやると、豊満な体をタオルで隠したうさぎの姿があった。
タオルでは隠しきれていないほどの魅力を感じる。
傷跡もないきれいな体、私の傷だらけで貧相な体と全く違う。
私もうさぎに倣いタオルで隠し、ついていった。
「ガラガラ」と音を立ながら扉が開いた。
浴場の中の様子は湯気で完全にシャットアウトされていてよくわからないが、音の反響具合からしてかなり大きいのだろう。
床も石造りで高級感が漂ってくる。
「まずはかけ湯ね」
「かけゆ?」
「そっか、サジちゃんは知らないのね。ごほん! かけ湯とは湯船に入る前にお湯で体の汚れを落とすことよ」
「えっと、つまり入る前に汗を流すのか」
「そうね、そうすれば湯船が汚れないし、気持ちよく入ることができるの」
「へぇ〜 意外とちゃんとしてるんだな」
「もぅ 意外は余計よ」
うさぎは少し怒ってむくれている、そんな表情もかわいいな
かけ湯も終わったので、あとは湯船入るだけ。
うさぎはもうかけ湯を済ませて、お風呂に入っていて、とろけるような表情になっている。
たぶん相当気持ちいんだろうな、とは想像できるが、銭湯はおろか浴槽にもなじみが薄い私でも楽しめるのか、そんな考えが頭をよぎる。
とりあえず、入ってみることにした。
大きな湯船に入る経験が実家以来なので、慎重に入ることにした。
お湯に触れては、離すことを三回ほど続けて、うさぎには「猫みたい〜」と言われてしまった。
この三回の経験で、だいたいの温度が分かったので足を入れてみる。
私の奮闘がよほど面白いのか、うさぎは真剣なまなざしで湯船と格闘する私を見ている。
最後に、全身を入れてみる。
「ふぅ〜」声が自然と出てしまう。
熱すぎず、温すぎずの絶妙な温度加減で、表情が緩んでいるのを感じる。
お風呂がこんなに気持ちいいものだとは全く知らなかった。
実家にいるときの記憶はあまりないけど、浴槽にはあまり浸からなかった気がする
私は色々なことを知らなかった。
いや、知ろうとしなかったんだな、それを教えてくれる。
そのまま10分程度入っていると、うさぎが話しかけてきた。
「サジちゃん、お風呂からでて洗いっこしない?」
洗いっこは聞きなれない単語だが、うさぎが言うということは、きっと気持ちいいことなのかな。
とりあえず提案を了承して、湯船から上がりついていくと、シャワーがたくさん並んでいる場所に着いた。
「サジちゃん、後ろ向いてここに座って」
私はうさぎに促されるまま、木でできた椅子に腰を掛けた。
「はーい あらいますよー」
「なっ!」
火照った体に急に冷たくてトロトロとした液体が背中にあたり、声を上げてしまった。
その後、間髪入れずに、うさぎの手が背中を撫でる。うさぎの優しい手と、トロトロの液体、たぶんボディーソープが合わさり、未知の快楽が私の背中で起こっている。
「ふふっ、きれいな体ねぇ」
そう言いながら、手は動き続けている。
少しいやらしいと感じる手つきだが、そんなことも吹っ飛んでしまうほど気持ちがいい。
うさぎの手が、背中から首、お腹、ふとももまで私を侵略する。
初めての快感に酔いしれながら、私はうさぎのすべてを受け入れていた
「ふぇ、う、うさぎ///」
「ふふ、サジちゃん、だすわよ」
そう言うと、蛇口をひねりシャワーを私にかけた。少し冷たいシャワーが私の興奮を流して冷静になったが、いまだに胸のときめきは残ったままだ。
「うさぎ、覚悟しろよ」
..................................
[ひかり&メロ]
私たちは食事が終わったので、サジちゃんの部屋に戻り、つかの間の休息をとっていた。
食堂にいたリルカさんの様子は変化がなかったが、妙な雰囲気を纏っているのであまり近づきたくない印象だ。
柘榴さんはひかりの妹のぺぐの面倒を見るために帰ってしまった。
「ねぇ、メロ。私、寝る前にすごいこと聞いちゃったんだけど」
「ん?気になるじゃん」
「えっと、沙慈ちゃんは7/24日に行方不明になったってかんがえたよね?」
「…まぁそうだな」
「実は、サジちゃんの眼鏡が学校の屋上でみつかったんだよ」
「え…?じゃあサジちゃんは…」
「もう、話は最後まで聞いて。リルカさんが周辺を探して見つからなかった、ということは何処かに行っている可能性が高くなったんじゃないかな」
「ひかり、その何処かがわからないから、ここまで来てるんじゃなかったっけ」
「でもリルカさん言ってたでしょ。協力してくれるって」
「それを信じていものなのか」
「今の私たちでは、頼りはリルカさんしかいないんだ。これしか方法はないよ」
「くっそー しょうがないか」
「あとお風呂だね」
「ああ、そうだな」
私たちはサジちゃんを探すためにはリルカさんの力が欲しいという結論になった、それしか方法がないのが悔しいが、今は信じるしかない。
リルカさんとの食事の最後に、お風呂も用意してあると言っていたので、彼女を刺激しないためにもここはおとなしく従った方がいいだろう。
ひかりはすごいよ、私はそれまでの前向きな姿勢をみてそう思った。
私一人だけでは考えもつかなかったことだ。
ひかりはいつも周りにいる人を笑顔にしてくれる、不思議な力があるのかな。
でもその力に甘えてばかりなのは、悪いと思っている。
せめて、ひかりがこのまま笑顔になれるように私が全力でサポートしなければ。
そんなことを考えながら、メイドさんが呼びに来るまで、ひかりと話していた。
少し時間がたち、メイドさんがお風呂の用意ができたと呼びに来た。
待っていた私たちはすぐに返事をし、メイドさんについていった。
外も、もうすっかり日が暮れて、セミの大合唱から、鈴虫やマツムシの音楽会に代わっている。虫の音に耳を澄ませているとすぐにお風呂のある部屋に着いた。
外観は「ザ旅館」のような感じで暖簾がかかっている
「なんか、洋館と似つかわしくない和、な感じのおふろだな」
「はい、莉瑠歌さまの趣味で作らせたものですわ」
「えっ?へ〜」
急にメイドさんが口をひらいたので思わず変な声が出てしまった
「失礼。莉瑠歌様からの伝言です。『お風呂の設備は自由に使用してかまわないよ』とのことです。では失礼します」
「ありがとうございます」
メイドさんは終始表情は変わらなかったけれど仕事一辺倒というより、純粋にたのしんでいる、という印象をうけた。
何から何まで私の常識から外れた出来事ばかりだけど、急に親近感がわいてきた。
「メロ、はいるよ〜」
「あっ、まってくれ」
ひかりに続き暖簾をくぐり中に入った。
中の様子は、いかにも旅館の脱衣所という見た目で、棚に竹で編まれた着替えを入れる籠が並べてあった。
ほかにも体重計、洗面所、扇風機、極め付きに冷蔵庫に各種牛乳が入っている。
「おい、ひかり!フルーツ牛乳やイチゴ牛乳があるぞ、上がったら飲もう!」
「うん 私はコーヒー牛乳かな」
ひかりと他愛もない会話をする、それだけで心が洗われる。これ以上のことを望むのは贅沢すぎるそんな気がするんだ。
きっと、サジちゃんにもう一度会うことが出来たら伝えよう。
「メロ〜早くお風呂入ろうよー」
ひかりはすでにすべて脱いで準備万端だ。
私も遅れないようにすぐに服を脱ぎ、ひかりの後を追った。
浴場の内装も脱衣所と同じく、和を感じさせる檜風呂で檜の良い香りが漂っている。
ひかりはすでにかけ湯を済ませて、湯船に入っていた。
あまりの行動の速さにツッコミを入れたくなったが、ひかりがとっても幸せそうな顔をしていたので、私もかけ湯を済ませ、お風呂に入った。
お湯の温度は高めだったが、熱さが逆に私の精神的な重荷をすべて外していると思うほどのリラックス効果を実感した。
「ふぅ〜 気持ちいいな」
「はぁ〜 そうだねぇ〜」
ひかりも私も緩みきった顔でお風呂を楽しんだ。
「さっ、体でも洗おう」
「ん〜 じゃああらいっこしないか、こどものころやったやつな〜」
「メロ、のぼせてない?」
「いいや!なぼせてないぞ〜」
「いや、のぼせてるじゃん 外で冷やさなきゃ」
「だっこって、こどまじゃないんだから〜」
「少しおとなしくしておいてよ、メロ!」
「はいは〜い」
〜五分後〜
「はいお水、どう?」
「ああ、ありがとうひかり、私完全にヤバい状態だったな」
ヤバいな完全にのぼせてた、急に意識がトブとは話に聞いていたけど、なに話してたか全く記憶がない。
私は何をひかりに言ったんだっけ?
「メロ、回復したら洗いっこしようか」
「う、うん」
私そんなこと言ったんだな、洗いっことか中学校以来だぞ。なんか恥ずかしくなってきた。
「メロ、大丈夫。まだ顔が赤いね」
「ははっ、大丈夫だ。もう少し風に当たってれば自然と引くよ」
「うん、わかった。 じゃあ私は露天風呂に入ってるね。回復したら呼んで」
ひかりはそう言って、またお湯に浸かった。
外は山が近いのか静かで、空気がきれいだ。
そして時おり吹き抜ける夏の夜風が火照った体をゆっくりと冷やしてくれてとても心地がいい。
今まで気づかなかったが、空も雲一つない快晴の状態になっていて、星がよく見える。
虫の音と夜空のハーモニーは、夏の始まりを優しく教えてくれている。
「なぁ、ひかり〜」
「ん?なに、メロ〜」
「もう夏休みだよな〜」
「あっ!そうだね〜」
「サジちゃん、どこにいるんだろな〜、もしかして私たちと同じで夜空をみあげてるのかな〜」
「それだったらうれしいね〜」
夜風に当たっていたら、考えが纏まってくるような気がする。
サジちゃんを早く見つけて、夏休を満喫したいな。
そんな小さな願いを抱えて、私はひかりを誘って室内に戻った
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「メロ〜、きもちいいね〜」
「はいはい」
広い浴室にひかりの声が響く、この大きさで私たちしか人がいないというのも変な話だが、あのメイドさんもここを使用しているのかな?そんなことを考えながら、ひかりの背中を洗っていた。
ひかりは私よりも一回り大きい、私が小さいだけかもしれないがそれでも大きい。
ある部分は更に大きい…。
発育の部分は物申したいところもあるが、それも含めてひかりは私の大切な親友だ。
この大きな背中は安心感を与えてくれる。
もっと力になりたいな。
「ん〜、ぺぐは平気かなぁ〜」
「まぁ、柘榴さんが戻ったから平気なんじゃないかな」
「ぺぐとはいつも洗いっこしているから、なんか思い出しちゃったよ」
「そうだな、ぺぐはまだ小学生だもんな」
「ほんと、小さくてかわいいんだよ」
しかし、ぺぐも江戸川家の一員、体こそまだ小さいが成長したらひかりクラスになるのかと思うと、この先楽しみだという思いと背を抜かされるのではないかという不安が入り混じる。
「おっけ! じゃあ流すぞ」
「うーん、終わったら交代ね」
『繊細な細い糸』私たちとサジちゃんをつなぐ絆をそう表現したらひかりはどんな反応をするかな。
「ピアノ線くらいあるの?」とか言いそうだな。いや、ひかりなら実際そうなりそうなのが面白いところだけど、プレゼント早く渡してあげたいな。
「メロ、洗うよ〜」
「あーい」
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「はぁー いいお湯だったー」
「はい、ひかり。コーヒー牛乳」
「おっと、ありがとう。いただきます」
私はフルーツ牛乳を選んだ、普段はイチゴ牛乳を飲んでいるから、今日は趣向を変えてフルーツ牛乳に挑戦してみるとする。
コーヒー牛乳は瓶のままだが、フルーツ牛乳はペットボトルの容器に入れられている。
フルーツ牛乳だけが仲間外れを受けている理由はわからないけど、逆の特別さを感じたので選んでみた。
「ん!フルーツ牛乳もいけるな」
「そう?私もフルーツ牛乳飲んだことないから飲ませて」
「りょーかい 全部飲むなよ」
「わぁー なんか不思議な味」
フルーツ牛乳の味は形容するのが難しい不思議な味をしている、特になんのフルーツが含まれているかわからなくらい複雑だ。
口の中に入れた時にまず甘味が来て、次にフルーティーな香りが鼻を抜ける。
そして、飲み込んだ後は濃厚な牛乳の後味と甘い香りが残っている。
一通り牛乳を満喫した私たちは、用意されていた浴衣に着替えてサジちゃんの部屋に戻った。
もともとここにはサジちゃんの情報を得るためだけに来ていたが、完全にホテルに宿泊しているような気分になる。
用意された下着も私たちが普段つけているような感じではなく、高級感の漂うものが用意されていて至れり尽くせりだ。
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[サジちゃん]
今私達は寝室にいる。もう、うさぎと一緒に寝ることは自然だと考えている節が私の中で大きな割合を占めている。
壁に掛かっている時計は11時30分を指していて、もうすぐで29日になる。
お風呂から上がり、髪を乾かして一緒に牛乳を飲んだ。
風呂上がりの牛乳がこんなにも美味いものだとはだとはな、これも新しい発見なんだな。
寝室に行く前にうさぎは明日の予定を眠そうな声で言っていた
「明日は山とか行ってみない?キャンプが今熱いみたいよ」
うさぎが言うように世間はキャンプが熱いらしいが、世間について私は何も知らないので、適当に頷くしかない。
眠気がピークに達したらしいうさぎは寝室に着くなり、私を道連れにして眠ってしまった。いきなりもたれかかってきたときは驚いたが、「すーすー」とすぐに寝息を立てて寝てしまっている。
ランプの弱々しい光と月光が寝室を照らしのんびりとした時間が流れている。私はお風呂場で少しはっちゃけてしまって、眠れないのでぼんやりと外を眺めながら事の張本人であるうさぎを見た。
あの後、あんなことやこんなことをやったのに呑気な寝顔を私に晒している。
うさぎの寝顔は普段の大人びた悪戯な表情からは想像もできないほど幼く、守ってあげたくなるほどかわいい。指を口の前に出したら噛んできそうな気さえする。
昼から出てきた月がもうすぐ地平線に沈みそうで少し寂しい気分になる。
半月より少し膨らんだ月、あと数日もすれば満月になるだろう。
それとは逆に宙の星は瞬きを増して、特に強烈に光り輝く星がある。
普段星なんて気にも留めない存在のはずなのに、今日は人生で一番星がきれいだと思った。昼には太陽と何もない青が広がるだけの空。そんな作り物のような景色にうんざりしていたのかも。
今日の出来事は、いつもと変わらない日々だった。
強いて上げるなら、私はうさぎが好きなんだと思う。
今まで感じなかった、この胸のときめき。これを表現しようとしたら、なんと言えばいいんだろう。私には皆目見当もつかないけど、うさぎならこの心を正確に表現する言葉を知っている。そんな気がする。
そして、寝ているうさぎのてのひらに触れてみる。
最も強い“ひかり“を受けて失明した私は、仄暗く優しい希望にしか触れることができない。てのひらから伝わる体温が偽物であろうとも。
でも私はうさぎを信じている、誕生日の日に私の嘘偽りのない本当の気持ちをすべて伝えよう。
あと3日後、明日はどんな日になるのかな?
今日のことも日記に書かないとな。
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【??】
また“私”は夢を見ている、ひかりちゃんとメロ、うさぎ、私、四人でおしゃべりしている夢
今度もみんな自然に話している、私も話している。だが全く音が聞き取れない。
うさぎが何か言っている、今度はうっすらだけど聞き取れた
「…なた…し…で」
言葉の意味は分からない、言葉のつながりから考えることができる。
「あなた死んで」か「あなた死なないで」のどちらか。
うさぎが本当は私に死んでほしいのか、それとも死んでほしくないといっているのか声の調子や表情からは全く分からない。
私の顔はそれを聞いても表情が変わらず虚空を見つめている。
自分の顔を観察するのもおかしな話だが現にできている。
急に場面が変わって、どこかくらい場所にうさぎとふたりでいる場面になった。
暗くて状況がよくわからないが私の手と服にはべったりと血がついている。
うさぎは近くに倒れていて、腹には大きな穴が開いて血が噴き出している。
私の体には目立つ傷がないので、この血はうさぎのものなのだろう。
お互いに衣服が尋常ではないくらい汚れていて、どんな状況でこうなったのか全く不明だ。
私は涙を流しているようで、うずくまりながら小刻みに震えている。
音が一切ない凪いだ湖畔の静寂に身を浸したようなうすら寒い感覚のまま“私”の意識は何処かへいってしまった。
もう一度目を覚ますと、また場所が変わって、今度は異常に明るい場所に私一人だけがいる。何をするでもなくただ突っ立っている。
その顔は無
なにもなかった。
顔がある部分はぽっかりと空いて、闇が瘴気のように漏れ出ている。
時折黒い液体が部屋の至るところから噴き出し、部屋のひかりを喰らっているようにも見える。
噴き出し、たれ落ちる汚れた色が部屋を侵食して、ひかりを穢していく。
部屋の光度がじわじわと下がっていく、そして私の体は闇と一体化して見えなくなってしまった。
しばらくすると液体が部屋をすべて覆いつくし、真の暗闇が訪れた。
これ以上は何もなくただ時間だけが過ぎ去っているだけ。
..................................
[サジちゃん]
7/29(水)
最悪の寝覚めだ。朝起きたら寝ぼけたうさぎに首を絞められた。
起きる前に何か夢を見ていたような気がしたが、さっきのショックですべて忘れてしまった。
何か重要なことを夢に見っていたような気もするが、すべては忘却の彼方だ。
当のうさぎは首を絞めたことを覚えていないようで、モヤモヤとした気分だけが残った。
「ねぇ、うさぎ 今日のご飯はなぁに?」
「あらあら、こんな甘えた声出しちゃって、かわいい」
「なっ! うるさい」
うさぎに指摘されて初めて気づいた、媚びているようでなんだか癪だが気にしないことにした。
「今日はサジちゃんの好物の卵焼きよ。だし巻き卵と普通の卵焼きの二つを作ってみました」
うさぎが運んできた卵焼きは、クオリティがとても高く、改めて料理上手なんだなと思った。
「召し上がれ」
「いただきます」
まずはだし巻き卵の方から先に食べてみる。
「うん、おいしい」
しつとりとした食感で、だしが良くしみている。付け合わせの大根おろしといっしょに食べると、さっぱり感もプラスされてすぐに食べ終わってしまった。
次に卵焼きをいただく。私が最も好きな料理だ。
「うさぎ、卵焼きは私の一番好きな料理だから、評価も辛口でいくぞ」
「ええ、いいわよ。絶対サジちゃんを満足させる出来になってると思うから」
「ふっ、ふーん じゃあ、いただきます」
見た目は王道の卵焼きよりも一回り小さく、俵型で食べやすいサイズだ。
一つ食べてみる。
「ん!うまい!」
程よい塩加減と、ふわふわの食感。
私好みの卵焼きだ、香りは少し違うような気もするが、これはオリーブオイルかな?何もつけなくてもそのままの味で楽しめる完ぺきな出来だった。
この卵焼きもだし巻き卵と同様にすぐに食べてしまった。
「あら、サジちゃんもっと欲しいの?」
「いや、そうゆうわけでは」
うさぎのお皿に乗っている卵焼きを恨めしそうに見ているのがバレてしまった。
「はい、あーん」
どうやら、卵焼きを分けてくれるみたいなので、全力でもらいにいく
「あーん。 うまい!」幸せを口いっぱいに噛みしめられて満足だ。
「ふふ、サジちゃんかわいいわね 食べちゃいたいくらい」
「いや、もう食事は終わりだぞ。ごちそうさまでした」
「ふふ、そうね。お粗末様でした」
食事がおわり、うさぎは朝の支度を始めた。
私は特にやることがないので、アンドロイドらしいメイドの仕事風景をぼんやりと眺めていた。
今日は山に登るらしいから、準備も忙しい。あわただしく動く風景は見ていて楽しい。
「ちょっと、サジちゃん。貴女も準備しないとでしょ」
「ん〜 わかってる〜」
「もう、私がやってあげるわ」
そういうと、うさぎはまた私を洗面所に連行した。
担がれるのは、もう慣れたので一切うさぎに身を任せて運ばれた。
洗面所に着くと、椅子に座らせて、櫛で私の髪を優しくとかし始めた。
「サジちゃんの髪はきれいな灰色ね〜」
髪をとかしながら言った。
私の髪はくせっけでかなり絡まっているが、魔法のように痛みもなくとかしてくれている。
「はい、おわり」
瞬く間に終わってしまった。髪に指を入れるとスルスルと入ってちゃんととかされている
「さぁ、行くわよ」
うさぎは楽しそうに私に呼びかけた。
こんな日がず〜っと続けばなぁ…
.............................
[メロ&ひかり]
7/29(水)
「う、ううん...」
私は見知らぬ部屋で目を覚ました、隣にはひかりがまだ気持ちよさそうな寝息を立てている。
日がまだ完全には出ていないので、部屋はまだ涼しい。ここは何処なのだろう?自分の部屋でもないし、ひかりの部屋でもない。
何か重要なことを忘れているような気がする。
「… !? ここサジちゃんの部屋か!」
急に思い出した。
私たちはサジちゃんの実家に行って、ごはんを食べて、お風呂に入って寝たんだっけ?
特に重要なことをしていないように感じるが、目的は行方不明になったサジちゃんの捜索だ。
そのためにここに来たし、重要な情報も昨日ひかりが盗み聞きだが手に入れた。
あとはサジちゃんの情報が少しでも手に入れば、こんな怖い人がいる家からはおさらばしたいんだが無理だろうな。
私たちの捜索力じゃいくら探しても見つからないだろうし、お金持ちらしい莉瑠歌さんの協力は必要不可欠だ。
それに夕食のときに「あたりはつけてある」と言っていたし、何か私たちにはわからない力があるのだと思う。
そんなことを考えているうちに、外の気温は上がってセミが鳴き始めた。
室温もだんだんと上がって、蒸し暑さを感じる。
「うう、あっつ」
呑気なひかりもこの暑さと騒音にこたえたと見え、機嫌が悪そうに起き上がった。
「あっ、おはようひかり。エアコンつけるか」
「うんうん」
ひかりは私の問いに首を縦にブンブンと振って答えた
大きな窓を閉め、壁にかけてあるリモコンを操作してエアコンをつけた。
時間は7時、莉瑠歌さんが8時に朝ごはんの用意ができているといっていたので、まだ1時間ある。
特にやることもなくダラダラと時間まで過ごしてもいいが、柘榴さんが迎えに来るのが11時なのであまり時間的な猶予がない。
「メロ〜 眠いよ〜」
隣の相棒はまだ寝ぼけまなこで話がまともにできる状態ではないが、ないものをねだっていても仕方がない。
「ひかり、はやく朝の支度をしよう。めっちゃ髪の毛はねてるし」
「う〜ん 二度寝させてぇ」zzz
「おいおい久しぶりに発症したな、めんどくさいモード まぁ夜遅くまで話してたから無理もないか」
「そうだよ、髪なんかとかさなくてもいいし、歯磨きもしたくな〜い」
「もう、しょうがないなぁ〜。私が運んでやるよ」
「おー メロ大好きだよ」
「はいはい じゃあ起こすぞ…って重過ぎる」
「え〜失礼だな、私も女の子だよ」
「女の子なら、自分で動けよ!体だけでなく、脂肪の塊もとてつもなく大きくなりやがって!」
「ひどーい メロのイジワル」
「って、もう起きてるだろ。こんだけ受け答えできるなら」
「あはは…バレてるか」
「はぁ、いくぞ」
「はーい」
私たちは外に出ようとドアをあけるとメイドさんが部屋の前に立っていた。
「おはようございます あと30分でお食事の時間です」
感情があまり読み取れない声で言った。
いままでのイチャイチャをすべて聞かれたと思うと、とても恥ずかしいが、メイドさんの表情の変化がまったくないのでそれまではわからなかった。
わざわざ聞くのも傷口を広げるようなものだし、メイドさんに軽く挨拶をして洗面所へ向かった。
何事もなく洗面所までついて扉をあけると先客がいた、莉瑠歌さんだ。
「あら、おはよう二人とも」
何気ない挨拶のようにも聞こえるが、昨日の出来事ですっかり警戒しているので別の意味があるのではないかと勘繰ってしまう。
「おはようございます」とりあえず挨拶は返しておく
「あっそうだわ」莉瑠歌さんが急に何かを思い出したように言った
「えっ!何ですか」
「沙慈のことについて新たな発見があったの」
「え!!本当ですかリルカさん!」ひかりが莉瑠歌さんの話に食いついた
「ええ、本当よ。でもここで話すのは違う気もするから朝食の時にはなすわ じゃあね」
「ありがとうございます!」
莉瑠歌さんから告げられた、希望の光明。
やはりここに来たのは間違いではなかったのかな、これで核心に迫れるのなら願ったりだ
ひかりのように期待をしているが信じることはまだ完全にはできそうもないが、一歩前進というところだろうか。
「ひかり、はやく準備していこうか」
「うん、そうだね。さっきの話で眠気が全部吹っ飛んじゃったよ」
私たちは、洗面所で朝の支度を急いで終わらせて、食堂へ急いだ。
.............................
私たちが食堂に到着すると同時に壁にある大きな柱時計が時間を告げていた。
「ふぅ〜 何とか間に合ったな」
「ほんと時間ぎりぎり」
ひかりと話しながら、周りの様子を観察した。
部屋の中央には大きなテーブルがあり、朝食用のパンや皿が並んでいる。
部屋の奥にはさっきのメイドさんのほかに、あと二人ほどいる。
すでにテーブルには莉瑠歌さんが着いていて、感情の読み取れない笑顔で私たちが着席するのを待っている。
「おはようございます」
ひかりは臆面もなく席に着いた。
昔からそうだ、ひかりの大胆さや、明るさは私にいつも勇気をくれる。
私ひとりだったら、席に着くのも気おくれしてしまって、相手に余計な印象を持たれてしまうだろう。
私には到底まねできない、彼女だけの武器だ。
私たちが席に着くと、メイドさんたちが料理を運んできた。
コーンスープとサラダと目玉焼きだ。いい匂いが漂い食欲をそそるが、莉瑠歌さんがサジちゃんに関する情報があると言っていたので食べている場合ではない。
「あの、さっき言っていた沙慈ちゃんの新たな発見って何ですか?」
ひかりも私と同意見だったようで、出された食べ物に口を付けず質問した。
「あらあら、そうがっつかなくていいのに。先に食べましょ、話はそれからよ」
「はい…」
ひとまず食事をすることにした、だが話が気になりすぎて食べ物の味が良くわからない。
「おいしいわね」
「は、はい…」問われたので、ひとまず生返事でお茶を濁す
「まぁ、いいわ… 」
私の返事に興が冷めたのか、これ以上私には絡んでこなかった。
逆に私の心は揺れ動いていた。
隣にいる相方の方に目をやるとおいしそうに朝ごはんを食べている、
いや、これは完全に食事を楽しんでいるだけだ、単純にお腹が減って食べているだけ。
少し驚いたが、必要以上に構える必要はないというメッセージだと好意的に私は受け取ったので、ひかりに倣って私も食べることにした。
不思議と食べ物の味が分かってきたが、朝ごはんのおいしさにも驚いた。
まるで高級ホテルのような、ホテル自体も私はあまり行ったことがないがそんな感想が出るくらい料理のクオリティがたかい。
私たちが料理を全力で楽しんでいるときに莉瑠歌さんが突然口を開いた。
「単刀直入に言うわね。沙慈をみつけたわ」
その言葉を聞いた瞬間、呼吸を忘れ、心臓が早鐘を打ち始めた。
ひかりの方を見ると驚きと安堵が混じった、なんとも言えない表情になっている。
私も鏡を覗いたら同じようなひかりと同じような表情になっているのかもな。
「え!?いまなんて言いました?」
「沙慈をみつけたわ」
どうやら聞き間違いではないようだ。
「失礼します」
私たちが動揺していると後ろからメイドさんが写真を出してくれた。
出された写真は小柄な女の子と女性が一緒に映っている写真で解像度が悪く個人の特定はできない。
「メロ、これ沙慈ちゃんだよ」
「まじ?全く判別できないけど」
ひかりは一瞬で見抜いていたが、私はいまいちピンとこなかった。私のサジちゃんのイメージは薄着か制服を着ているイメージしかないので判断ができない。
「そうね、監視カメラの映像を洗っていたら偶然見つけたの」莉瑠歌さんは続ける
「二日前の写真だけれど、場所は私たちがいるこの家から山を一つ越えた先にある自然公園ね」
自然公園といえば、私たちが車で来るときに見た自然公園だ。私たちの家からは相当遠いが、案外近いところにいることが分かり安堵した、が新たな問題が出てきた。
一緒にいる女性が何者だということだ。
「ねぇ、ひかり?サジちゃんの隣にいる人に見覚えある?」
「ううん、解像度が悪すぎて判断ができないね、沙慈ちゃんの知り合いなのかな」
ひかりが分からないならもうお手上げだ、私が知っている中でサジちゃんを知っている人は…思い出したくないがうさぎしかいない。
しかし、この写真のシルエットからは全く判断できないし、一緒にいる姿を想像することすらできない。
「しっかし、誰なんだろう メイド服みたいな服着てるし」
「わからないね。 あっ、莉瑠歌さん、このメイド服の女性に心あたりはないですか」
「いいえ、私にもさっぱり。」
莉瑠歌さんが知らないとなると、この女性の謎は深まるばかりだ。しかしこの女性の素性が分からないことには手放しで喜べる状況ではない。
「あとは沙慈が滞在してると思われる場所もみつけたわ」
「なんですって!?」
「どうどう、がっつかないで」
こんな重要情報を後出しで出してくる莉瑠歌さんの考えは全く読めないし、考えたくもないが、明確な目標が見つかったのは喜ばしいことだろう。
「沙慈ちゃんの場所はどこですか?」
「自然公園の近くの古い洋館。あの子たちが乗ってた車を追ったら見つけたの」
お互いを見あって、その喜びを共有した。
「ひかり、サジちゃんにようやく再開できるかもしれないな」
「そうだね、お母さんが迎えにきたら早速向かおう」
「よーし!希望が湧いて来たぞー! 莉瑠歌さん、ありがとうございます」
「えぇ、私も沙慈に会いたいからがんばってね」
莉瑠歌さん、今まで心の中でさんざん信用できないとか言ってごめんなさい。
今までの考えを反省しながら、朝ごはんを改めてとった。
興奮がスパイスとなって、おいしい朝ごはんがさらにおいしく感じられた。
「ごちそうさまでした」
「あらあら、いい食べっぷりだったわね 柘榴が来るまでまだ少し時間があるしデザートでも食べてゆっくりしていってね。」
デザート、私はその言葉にめっぽう弱い
「莉瑠歌さん、デザートは何ですか」
「チーズケーキがあるわよ」
「うわー!めっちゃ楽しみです、ねぇひかり」
「う、うん 楽しみだね」
ひかりは浮かない顔をしていたが、すぐに笑顔になったので特に気にしなかった。
部屋に戻って、帰りの準備をした。
メイドさんに洗濯物を届けて貰ったり、下着は返却しなくていいと言われたり意外と忙しくすぐに一時間が経過した
〜すぐ後〜
「お待たせ、元気だったか」
「あっ、お母さん」
「莉瑠歌さん、ありがとうございます。サジちゃんは私たちが必ず見つけます」
そう言って私達は車に乗り込んだ。私が乗った後に柘榴さんが莉瑠歌さんと何か話していたが、内容は聞き取れなかった。
だが何か重要なことをしゃべっている風には見えた
しばらくして柘榴さんが車に戻ってきた
「ねぇ、お母さん 寄ってほしいところがあるんだけど」
「あぁ、あの洋館ね」
「えっ!お母さん知ってるの?」
「莉瑠歌から昨日聞いたんだよ、『あの娘たちは洋館に行きたがると思うから連れて行って』って言っていたからね」
「それは話が早くていいですね」
「じゃあ、発車するからシートベルトしめろよ」
「はーい」
これでやっとサジちゃんに会えるんだ、そう思うと鼓動が早くなるのを感じる。目標までもう少しだ。
高鳴る鼓動を感じながら私たちは目標の洋館を目指して出発した。
.............................
[??]
「ふふっ…」
暗い一室の中で不気味に笑う人影があった。
その人物は青白い肌に灰色の毛髪、片目は眼帯に覆われている女性だ
その女性は眼帯に覆われている方の目を抑え、自ら眼帯をはぎ取った。
露わになった瞳は作り物のように煌めいていて、涙を流しているようでもある
壁には人物の写真がところせましと貼り付けてあり、女性の異様な雰囲気と合わせて、異界の様相を呈している。
「絆、信頼、あの子にはどんな結末をもたらすのでしょう。沙慈、本当の苦しみは始まったばかりなのかもしれないわね」
うさぎと沙慈の顔がはっきりと認識できるものと真っ白な部屋にいる沙慈など多くの写真を机に広げて、人影は部屋を去ってしまった。
[ひかり&メロ]
峠を越え着々と近づいている、あと十分で目的地の洋館につく。
「もうすぐだね、はやく着かないかな」
ひかりも、はやる気持ちが抑えきれないようで何度も言っているのがいい加減うざいが
私も信号待ちの時間すら永遠に感じるような、期待感を持っている
「ついたぞ」
柘榴さんがエンジンを切っていった。
「私はここで待ってるから、行ってこい」
私たちは柘榴さんの激励を背中に受けて、洋館までの長い坂道を歩きはじめた
坂道は意外と急で、夏の太陽も相まって容赦なくこちらの体力を削ってくる。
「暑くてやってらんない…」思わず愚痴がこぼれてしまうほどの坂道。
基本体力は二人とも文化部なので、ほぼ一緒だが、ひかりは文句ひとつこぼさずに、洋館を見据えて上っている。
「頑張って、もうすぐだよ」
「はぁあ!了解!!」ひかりの励ましを何とか力に変えて上った
「やっとついたー! はぁ〜きつい!」
「お疲れ、水のむ?」
「ありがとう、少し休んだらいこう」
休憩して落ち着いてきたら、いろいろと冷静になってきた。この暑さによって考える力がほぼ失われていたのがよくわかる。これまでの軌跡を思い出す余裕すらもでてきた。
何故サジちゃんは行方不明になったのか、そしてなぜこんなところにいるのか。
疑問は尽きないが答えはもう目の前にある、あとは本人に聞けばすべてが分かるはずだ。
近づいてみると、遠くからは洋館の外観がよくわからなかったが、蔦が繁茂して柵の一部が壊れている。サジちゃんの実家を威圧感があると思ったがそれと比べるとにこっちはお化け屋敷感がある。雑草が生え放題でまるで廃墟だ、本当にサジちゃんがいるのか不安になるがここで引き返すわけにもいかないので、立ち上がって玄関の前まで来た。
「インターホン、押すよ」
「おっけ」
「...」
インターホンを押してしばらく時間が経過したが、人が出てくるような様子がない。それどころか人の気配が一切ない。
一昨日のパターンかよ、とも思ったが知らない洋館、しかもサジちゃんがいる確信が完全には持てないので、二の足を踏むしかない。
「メロ、忍び込むよ」消極的になっている私とは逆にひかりが急に言った。
「おい!大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないけど、行かなきゃいけない気がする」そう言うと、壊れた柵を潜って中へ入っていった。
「まってくれよ」
壊れている柵は人ひとり通れるギリギリの大きさで、手をついて入ればくぐり抜けられる。
私もひかりの後を追って柵を潜った。
潜るときに手が土で汚れてしまったのでウェットティッシュを取り出し、ひかりにも渡した。
中に入ると荒れ放題な庭が目についた。雑草が生い茂り何年も手入れされていないような印象を受ける。
なかには数メートルまで成長している草もあって植物の生命力の高さを再認識させられる。
そのなかで、ひかりは雑草を払いながら、ずんずんと玄関に向かって進んでいく。私はひかりが作った道を後ろからついていく。
時々よろめきながらも、雑草の切れ目までもう少しのところ
視線をひかりに向けると、脚と腕からは赤い液体が垂れているのがちらりと見えた
雑草地帯を抜けると、きれいな石畳の道が現れた
開けた場所に出た時にひかりの様子も露わになった。
ところどころ出血して白い肌に線が走り、指先からは血が滴り、地面に黒い点を作っている。
白い石畳と赤黒い血、この強烈なコントラストが私の目に焼き付いた
私の体はひかりのお陰で傷ついていないのが逆に申し訳なくなってしまう
「メロ大丈夫? 足元に気を付けてね」
自分の心配をよそにして私の心配をしてくれるのはとてもありがたいが、今は自分の心配をしてほしい
「ひかり、血が出てるから止血しないと」
「ううん、大丈夫だよ そんなに痛くないし、時間が経てば血も止まるから」
「そうゆう問題じゃないだろ!! ひかりそこを動くなよ」
ひかりを石畳に強制的に座らせて、脚や腕の血を拭きとって絆創膏を貼った、私の甘い考えも合わせて拭き取ろうと心を込めて。
治療している間ひかりはすごく申し訳なさそうな顔をしていたが、私のわがままなので一切を無視して続けた。
ひかりの綺麗な体に傷がついてしまったことは本当に悲しいことだけど、ひかりの歩みを止めさせることは一切考えていない。
次はひかりのことを守れるように先を見越した行動をしていかないといけないな、さもないとまたひかりが傷ついてしまうことになる。
それは絶対に避けないと
応急処置が終わるとまた歩き始めた、今度は私が先頭に立って玄関を目指すことにした
玄関までの道はかなり整備されているといった印象を持った。ところどころにセンサーライトが設置されていて、外観や雑草が生え放題な場所とは対照的に人が住んでいそうな雰囲気を醸し出している。
ここからは順調に歩いて玄関までたどり着いた。
玄関はサジちゃんの実家のような装飾のないシンプルな白の扉だった。
ただ一つ違うところを挙げるのなら、あの家以上に扉がこの洋館のアンバランスさを際立たせているという点だ。
廃墟のような外観と白い扉それだけで違和感が溢れてくる、中はどのような様子なのか開けて確かめたくなるような魔力を持っている。
私はひかりとアイコンタクトをとって扉のノブに手を伸ばした
「鍵がかかってるかもしれないけど、開けるぞ!」
と息巻いてみたが恐怖で腕が震えてうまく回せない、何回か失敗したのちひかりの手を借りてようやく回すことができた。
「あっ、開いた」鍵はかかっていないようで、扉はあっさりと開いた
「じゃあ、入るよ」
洋館の中は薄暗く、光に慣れた目では全体が把握できない。
しばらくするとだんだん闇に眼が慣れて、洋館の内装が分かるようになってきた。
内装は外の荒れ放題な状況と比べて天と地の差があるほどきれいだった。
電気がついていなくて外が荒れ放題な点を除けば、あの洋館と大差がないほどにそっくりだ。
少し進み食堂のような大きな部屋に着いた。左右に道が分かれ、奥には二つの扉があり、一つは銀の扉で、二つ目はいかにもな装飾の付いた大きな扉で、威圧感を放っている。ただ全く人の気配がしない。
「なぁ、ひかり。手分けして探さないか。人がいる気配もないし」
「そうだね、左右に分かれてるから、終わったらこの食堂で落ち合おう」
「じゃあ、私は左側に行ってくる」いったんひかりと別行動をすることにした。
自分で提案した作戦だがひとりというのはすごく心細い、まだひかりは付近を調べているようで気配は感じるがどんどんと離れていっているのがわかる。
食堂から出てまずは一番近くの部屋を開けてみた、この部屋にサジちゃんがいないことはわかりきっているが手ごろな付近から調べることで、ひかりとの距離を離したくない。
恐る恐る中を覗くと家具も何もない真っ新な部屋だった。
本当に何もない生活感のかけらもなく、ただ存在しているだけの部屋だ
ただ掃除は行き届いているようで、床はおろか窓のサッシにもホコリが一切積もっていない。
何もないのに掃除だけは行き届いている、少し不気味に思いつつ部屋を出て、また別の部屋を目指した。
捜索の途中で中庭が窓から見えたが、陽光が差してここだけ別世界のような印象を受ける、すごく気になるところだが中庭に入るのはひかりと合流した後でいいだろう。
一通り探索を終えたがめぼしい発見が一切なかった、どの部屋も家具の一つもない更地だったので探索な時間が一切かからず食堂に戻る廊下を歩いている。
ひとまず一度探索を終えて食堂に戻ったが、ひかりはまだ食堂には戻っておらず、戻るまで不安な気持ちのまま待った。
「お待たせ」後ろからひかりの声がしたので振り向いた
「どう?収穫あった」
「あったよ」
「え?あったの」
「そうだよ、シャワールームとお風呂があったよ」
「おいおい、私は全く収穫なかったのに 敢えて言うのなら中庭があったくらいだ」
「まあ、それはしょうがないよね 私もそこが気になってるし一緒に行こっか」
「了解、じゃあひかりが見つけたシャワールームとお風呂も見たいし右から行くか」
そうして右側へ歩みを進めた、これまでの坂道で汗をかいている、シャワー室に惹かれるのは乙女なら当然ではないだろうか。
右側の扉を開けると明るい廊下がお出迎えしてくれた、私の左側とは似ても似つかないほど構造が違っている。
渡り廊下には採光用の大きな窓ガラスが張られていて、綺麗度は左側とほぼ同じだが柔らかさというところを見れば一目瞭然だ。
窓から見える景色もとても青々としていて、自然の美しさが堪能できるようになっている、私の方の雑草だらけの場所とはえらい違いだ。
いちいちの違いに目を付けてツッコんでいた私だが、ついに問題のシャワー室の前まで来た。
ここまで案内してくれたが、正直一切ほかの部屋との区別がなく、同じ部屋が5部屋ぐらいあるので迷ってしまいそうになる。
お風呂は暖簾がかかっていてわかりやすかったので、シャワー室も同じくらいわかりやすくしてくれればなと言いそうになったが、口に出すほどの事でもないので飲み込んだ。
「じゃあ、扉開けようか」ひかりは急に真剣な声色になった
あまりの変わりように少し戸惑うが、ひかりのことなので大したことがないことだと思っているが、最悪のケースを想定してシャワー室に入った。
中の様子は特にいうことのないほど普通だ、籠が並んでいて奥はシャワーがある部屋だろうかタイル張りになっているのが見える。
「メロ、これなんだけど…」
そう言いながらひかりは籠を取り出した、その中身を見ると服が入っている
「あれ?なんかうちの制服っぽいけど、まさか!!」
「うん、たぶん沙慈ちゃんの制服だと思う、綺麗に洗濯されてるの!!」
ひかりがいつも以上にテンションが上がっているが無理もない、私も飛び上がりたいほどうれしい。きれいに洗濯されているということは、サジちゃんを世話してくれていることと同義だから安心して探すことができる。
籠の奥にはわが校のネクタイも入っていて、ほぼ確定とみていいだろう。
「マジか、大収穫じゃん」
「ほんと、チラッと見た時私の目を疑ったもん」
「これで後は中庭と食堂の奥の扉だけかな」
「メロ、その前にシャワー浴びてかない」
「あぁそうだな 汗で気持ち悪いし」
ひかりの提案を了承してシャワーを浴びている途中に気づいたが、これ不法侵入をして勝手に水を使っていると思ったが、やってしまったものは仕方ないし、もし家主に出会ったら全力で謝罪することで放免してもらおう。
サジちゃんを世話している人だし大丈夫だと思うが、もし何かあったら莉瑠歌さんを盾にして何とかしよう。
「メロ、冷静になって思ったけど、これってめっちゃヤバいよね」
「そうだな、何かあったら大人を頼りにしよう」
流石のひかりも今の行為を自覚しているようで、脱衣所からでてすぐに中庭へ向かうことにした
「さっさとサジちゃんを見つけたいね」
「そうだね、長居は良くないし早く外に出よう」
ひかりはそう言いながら中庭へ続く扉を開けた
中庭は侵入したときに通った雑草だらけの場所と比べて整備されている、奥には林があり、手前側にはバスケットコート、池と目でも楽しめるようになっている。
一周してみたが、特にめぼしい発見がなかった、ただ良い環境であることはわかった。
林も日光が程よく葉っぱに吸収され涼しく過ごしやすかったし、池の周りには睡蓮が咲いていて癒された。
時間があればここでバスケをしてもいい、そう時間が…
「はっ! 早く食堂に戻ろう」
「え〜 そんなに慌ててどうしたの?」
「もう、ここに不法侵入してるって忘れてるだろ、できるだけ早く見つけて出たいんだ」
「うん、それもそうだね」
ひかりの普段と同じような反応、でもそれが逆に不安になる。
まるで何かおかしなことが起こることを予感させるような嵐の前の静けさだ。
私たちは食堂に戻ってきた、中の様子は外と比べて重苦しい、威圧感のある扉がそうさせるのか、原因は不明だが前に進まないことには何も解決しないので、扉に歩みを進めた。
「どっちにする?」
「まずは銀色の扉からにしようか」
決めるのが早いか、ひかりは迷いなく銀色の扉の中へ入っていった。その後を追いかけて私も入った。
銀の扉の先は厨房で、その一角に調理器具が所狭しと並べてあり威圧感があった。食材をしまう冷蔵庫も巨大で人くらいなら何人も余裕で入るサイズだ。
少し嫌な想像が入ったが、ただの冷蔵庫中を確認することぐらいはしていいだろう。
「なか確認する?」
「鍵がかかってるかもしれないけど開けてみよう」
冷蔵庫の扉に手を伸ばして開けた、開かれた冷蔵庫からは冷気が漏れ出し、周囲の気温を下げている。
中身は一般的な冷蔵庫で空白の場所が目立つが、特に変わったものは入っていないようだ。
「ここには特にないか」
「まぁそうだよね」
私たちは食堂に戻って、本命の扉の前に立った
「じゃあ、開けるぞ」
私はノブに手をかけて回した。ひんやりとした感触がしたが特に抵抗もなく扉は開いた。
扉の先は廊下で、左右に一部屋づつあり、奥には白い扉があった。
「部屋が三つあるけど、右の部屋から調べようか」
「おっけ〜」
ひかりは確認もせず、右の部屋のノブを回した。
「ガチャガチャ」とノブを回すが開かない。どうやら鍵がかかっているようだ。
ひかりはすぐに左のノブに手をかけた。
流石に興奮を抑えられないようで、普段のひかりと比べて1.5倍素早く動いている
「ガチャ…」左の扉は鍵がかかっていないらしく開いたようだ
開いた中の様子を覗くと、寝室のような部屋が見えた。
中央に巨大なベッドがあり、他にも椅子、机など生活感が感じられた。
今まで廃墟の外装や何もない部屋などさんざん見て来たので、ホッとする気持ちになる
「なんか、人がちゃんと住んでるんだよな」
「うん、そうだね」
部屋の中を一通り観察したが、クローゼットに服が大量に入っていること以外、特にめぼしいところがなかったのでこの部屋を出た。
残すは奥の白い扉だけとなった
「ここが最後だな、じゃあ開けるぞ」ノブに手を伸ばして下げた。
あっさりと開き部屋の全容が把握できた。
病院の一室を彷彿とさせるような白い部屋で、内装自体はさっきの部屋と大差なかった。
しかし、机の上には謎の本がおかれていた。
「日記帳かな?」
『Diary』と書かれた表紙を見ながらつぶやいた
その時急に扉が閉まった。
扉を開けようとするが、ノブを下しても扉が開く気配がない。
「ひかり、扉があかない!!」
そのことを聞いたひかりはカーテンを開けて窓を露わにした。
「嘘だろ…」窓には鉄格子がはめられていて出られない。
私たちは完全に閉じ込められてしまった。
.............................
[サジちゃん]
「ふふっ、かかったわね」
「どうした?うさぎ」
「…いいえ、時間がかかったなと思っただけよ」
「ふーん 変なの 10分ぐらいしか移動してないのに」
「でもなかなかいい景色だと思わない」
「ま、まぁ そうだな」
確かにうさぎの言う通り、いい景色だ。川がそばに流れ、周りが森に囲まれて、空気がおいしい
キャンプなんて私には合わないと思っていたが、来てみるといいものだなと思ってしまう。装備はすべてうさぎが用意してくれたし、面倒な作業をすべてやってくれてることも大きいかもしれない。
「サジちゃん、水遊びしない」
「えー、いやだ」
いくら人がほとんどいないとしても、水着を着るのは恥ずかしいから拒否する
「せっかくかわいい水着買ったのに、着てくれないとうさぎ悲しい」
「っ、…まったくしょうがないから着るよ」
どうせ着てくれるまで粘ると思うし、うさぎのガッカリする顔が見たくないので着ることにした。
「はい、これ」
渡された水着は半袖にショートパンツという、水着らしからぬ水着だった。
触り心地は普通の服と違って、何やら不思議な感触だ
「サジちゃんはビキニとか絶対嫌がるでしょ、だから普段着とあまり違いのないこの水着を選んだのよ」
「あ、ありがと」
「私はもう着替えてるから、向こうで着替えていらっしゃい」
うさぎから水着を受け取って、更衣室まで急いだ
川からあまり離れていない場所に更衣室があった、夏休みということで少なからず人がいた。
正直人がいる場所で着替えたくないが、うさぎを待たせるわけにはいかないので我慢して着がえた。
私はプールや海などの水遊びをする場所には行ったことがないので、楽しみ方はわからないが少しワクワクしている自分がいる。
うさぎのもとへ急いだ
「待たせたな」
「わぁ!サジちゃんすごくかわいいわ」
「…ありがと」
「じゃあ遊びましょ」
そういうとうさぎは上着を脱いで私の手をとった
暴力的なまでの情報が入ってきて一瞬たじろぎ、そのすきを突かれ川に誘われた
「つめたっ!?」
川の水、夏だからそんなに冷たくないと思っていたが、予想外に冷たくて驚いてしまった
でも水の冷たさに最初はびっくりしたが、触れているうちにだんだんと慣れていった
今日は気温が高く、この中での水遊びはとても楽しいことが分かった。
鳴いているセミの声も気にならないくらい全力であそんだとはっきり言える。
水鉄砲、浮き輪、ボールといろいろなものをうさぎが持ってきてくれたので、飽きが来なかった。
途中、足を滑らせて全身が濡れてしまったが、それも笑い話となるくらいには楽しんだ。
「そろそろお昼にしましょうか」
「もうそんな時間?」
遊んでいて気づかなかったが太陽が高いところに上っていて、かなり気温が上がっている。
「あと、水分補給を忘れないでね。気付かなくても体の水分が結構抜けてると思うの」
「ああ、わかった」
忠告通り水筒の水を飲んだ
ごくごくと飲めるのは、うさぎの言う通り体の水分が抜けてるからだろう。
「今日はキャンプらしくカレーよ、作るまで少し時間がかかるから遊んでらっしゃい」
うさぎはそう言っていたが、いつもご飯をつくってくれているから、負担を少しでも軽くしてあげたいと思ったので
「ねぇ、うさぎ 私もごはん作るの、手伝ってもいいかな」
「わぁ!ありがとう サジちゃんがこんなに心を開いてくれるなんて嬉しい」
「ちょっ、茶化すな、どっか行くぞ」
「ふふっ、ごめんなさい じゃあこのタンクに水を入れてもらえるかしら? 水は水道水を使ってね」
そう言うと車輪付きのウォータータンクを出してきた。
大きさもそこそこで水を並々といれるとかなり重量になりそうな予感がする
「そうか?川の水を使ったほうが楽だと思うけどな」
「サジちゃん、川の水は食用じゃないのよ。病気になるかもしれないからね」
「うん、わかった」
うさぎの言う通りに水道を探し土手に出た。
坂を上った先に水道があり、タンクに水を入れて戻った。
暑い中、満タンのタンクを運ぶのはかなり重労働だ。いくらタンクに車輪が着いていても重くて思うようには動かない。
やっとの思いで戻ると、うさぎは焚火を作りすでに野菜を煮ていた。
「おつかれさま 重かったでしょう、そこで座って休んでて」
うさぎの料理をしているところは初めてみたが、テキパキとしていて見入るほどのウデだ。
「あっ!そうだわ、サジちゃん。お米を研いでくれるかしら」
「お米を洗うだけだから、簡単にできるわよ」
「それなら私にできそうだな」
正直タンクを運ぶだけで体力が半分奪われたが、弱音は言ってられない
「軽く洗うだけでいいわよ、研いだお米は飯盒に入れたままにしておいて」
うさぎはそう言って、お米と飯盒を取り出した。
「わかった」
私が米を洗おうとしている中、隣ですごい勢いでカレーが形になっていく。
カレールゥを入れたようで、おいしそうな匂いが漂ってくる。
「よそみしないの」
「ごめん…」私も集中してお米を研ぐことにした。
ボウルにお米を入れて水を注いだ
入れた水は透明から瞬く間に白く濁って、お米が見えなくなった
「ふふっ ちゃんとやっているわね、そうなったらお米がこぼれないように水をこぼして、あと2回くらい優しく繰り返してね」
「うん わかった」
2回、3回と浮かぶ白いモヤモヤの量は変わらない。うさぎに洗うだけと言われたので、これ以上やりたいが我慢しておく。
「終わったぞ」研ぎ終わったお米をうさぎに差し出した。
「ありがとう。もうこれでカレーは煮込むだけだから、サジちゃんは完全に暇になっちゃうわね」
「いいや、うさぎの料理は退屈しないからいいよ」
「ふふ、じゃあ存分に楽しませないとね」
うさぎは研ぎ終わったお米が入った飯盒を焚火の上に吊るした。
「あとはお米が炊き上がったら完成よ あとは炊き上がる様子でも眺めてて あっ! でも絶対触っちゃだめよ」
何もやることがないようなので、うさぎの言うように焚火を眺めながら炊き上がるのを待った。
揺らめく炎を見つめているとなんとなく心が休まる気がする。
飯盒から吹きこぼれる水分で、炎の形が不規則に揺れて、バラエティーに富んでいて面白い。
吹きこぼれもなくなって、炎の揺れも安定してきたとき、飯盒を焚火から離した。
どうやら、お米が炊きあがったようだ。
「うん、よくできてるわ サジちゃんのおかげね」
お世辞だろうが、褒められるのは悪い気分ではない。それに炊き立てのご飯の香りと食欲をそそるカレーの匂いが合わさり、期待が止まらない。
「うさぎ!はやく食べよう」
「はーい、今カレーをよそうから待っててね」
私は、はやる気持ちを抑えきれないが、グッと我慢して席に着いた
「はい、お待たせ」
私にはうさぎがカレーを運んでくる天使に見えた。
「いただきます!」
ライスをスプーンで掬いカレーに付けて食べた。
「う、うますぎる!」
これまで私の食べた中で最高の食べ物だと確信した。
空腹感もスパイスとなり、スプーンを動かす手が止まらない。
野菜も柔らかく口の中でほぐれて、肉は牛肉で歯ごたえもしっかりとしていてうまみが溢れている。
「ごちそうさま、今までで一番おいしかったかもしれないよ」
「えっ!? そう!うれしいわ」うさぎは意外そうな顔をしていたが、すぐに歓喜の表情に変わった。
「そんなに喜ぶことか?」私には理解ができなかったが、うさぎにとってはとても重要なことなのかもしれない。
少し雲が出てきた
「午後はトレッキングでもやってみない」
皿洗いを一緒にやっていたときに急に言い出した。
私はなにやら言葉の意味が理解できなかったが、二つ返事で了承した、がその選択は今考えると失敗だ。
「つらい…」
もう二時間も山道を歩いている、うさぎは余裕があるのか鼻唄を歌ってノリノリで歩いている。
途中で気づくべきだった、着替えをしているときにやけにしっかりとした素材の服を着るな、と思ったり、妙に荷物が多いなと思ったり。
最初の一時間はどこかへ行くために移動してるのかと思っていたが、まさかガチで山登りをすることになったのは完全に騙された。
うさぎ曰く「初心者におすすめコース」と言っていたが辛い
「さぁ、もう少しで休憩所に着くから頑張って」
うさぎの励ましの声が聞こえるが、気にする暇がないほどヘトヘトだ。
休憩所に着いたら、1時間くらいは休憩したい。
少し足元がおぼつかなくなってきた、荷物の重さはそんなでもないが、これまで通しで歩いているから足が痛い。
うさぎもそのことに気づいてペースを合わせてくれえているが、辛さが軽減されることはないから、あくまでも気休め程度だ。
水自体はうさぎが飲ませてくれるから脱水症の心配がないことだけが唯一の救いだ。
ここまで歩いていると景色どうこうの問題ではなく、完全に自分との戦いになっている。
頂上に着くのが先か、私の体力が尽きてうさぎに負われて下山するのが先かのチキンレースだ。
いくらうさぎとはいえ勝負に負けるようなのは癪なので、気合でついていく
そのまま歩いていると、急に広場のような場所に出た
「ついたわよ」
「はぁー!!やっとついたー!」あまりの解放感に身をうさぎに預けた
どうやらここが休憩ポイントのようで、トイレや自動販売機などが見える
「おつかれさま」
「うわっ!? すごい安定感」休憩所について安堵の気持ちでうさぎに寄りかかった時、一切動かなかったのでそんな感想がでた。
うさぎは、はるかに私よりも重い荷物を持っても、あまり疲れていないように見える。
きっと体幹が違うのかと思ったら、昨日のお風呂で洗いっこした時のことを思い出した。
.............................
7/28
〜お風呂場にて〜
沙慈「うさぎ、覚悟しろよ」ジリジリ
うさぎ「ひゃあ、サジちゃん大胆」フフッ
沙慈「さっきのお返しだ」モミモミ
うさぎ「はぁ、気持ちいいわ」
沙慈「ぐっ、これならどうだ」モミモミ゙
うさぎ「いいわね、もうちょっと強くやってもいいわよ」
沙慈「ぐっ、これなら ってなんで私が肩もみなんて」スベッ
沙慈「痛あっ!」ゴテン
うさぎ「大丈夫?サジちゃん」ガタッ
沙慈「だいじょうぶ、マットの上に落ちたから怪我はないって…」ジッ
うさぎ「どうしたの?サジちゃん」
沙慈「うさぎ、すごい腹筋だな」ジーッ
うさぎ「サジちゃんのえっち、見すぎよ」///カァァ
沙慈「理不尽」
.............................
そんなことがあったな、思い出してしまった。
腹筋のほかに、おっぱいも大きかったなぁ〜 そんなことを考えてると、うさぎが
「そろそろ行きましょうか」と言ってきた。
「えぇ…」
「そろそろ行かないと雨が降るわ」
「雨…」
私はずぶぬれになることと、山道を歩くことを天秤にかけた。
最悪すぶぬれになりながら山道を歩くことを考えると、まだ山道を歩くことの方がましだと感じたから、うさぎの提案を受け入れた。
「あと一時間で頂上に着きそうかしら」
「この苦労が報われるといいんだけどな」そう言って私たちは頂上を目指して歩き始めた。
厚い雲が空に掛かって今にも雨が降りそうだが、まだ雨は降らないらしい。
もう30分ほど歩いたころだろうか、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。
最悪のタイミングだ、傘を持っていないし濡れるのは確定だ
「サジちゃん! 付近に洞窟はないかしら確かあったはずなの、手分けして探しましょう」
「わかった!」
私は雨に濡れるのが本当に嫌なので、うさぎの言葉を聞く前に雨宿りできる場所を探して走り出した。
山道を2,3歩外れたところに洞窟があった
「うさぎ!! あったぞ!洞窟」
幸い近くに雨宿りができるくらいの洞窟が近くにあったのと、雨が降り始めだったのであまり濡れずに避難することができた。
「雨、急にふってきたわね」うさぎは空の様子をうかがいながら言った
洞窟のそとでは滝のような雨が降っている、当分外に出られそうもないので腰を落ち着けた。
「これからどうするんだ?」
「うーん、どうしようかしら」
「でも、雨が上がるまで動けないからな」
「そういえば、その大きい荷物は何が入っているんだ?」うさぎの荷物を指で指しながら言った。
「これね、中身は救急箱と食料とナイフと寝袋よ」うさぎはリュックの中身を出しながら説明してくれた。
「すごいな」
山初心者なので、これが適切なのか過剰なのかの判断が一切できないので、すごい微妙な返しをしてしまった。
「ふふっ、ありがと」
しかし、うさぎは特に気にしていないようで余裕のある返しを受けた
いままで気にしていなかったが、話だしに笑う癖があるのに気付いた。
うさぎが楽しそうにしていると私もつられて、気持ちが上向きになるような気がする。
とうとう雷も降り始めた、空気を裂くような轟音と光が洞窟を照らした。
大きな音に最初はビビったが音にも慣れて、景色を楽しむ余裕もできた。
隣に座っている相方の方に目をやると心なしか体が震えている。
「サジちゃん…」いきなり私の視界がふさがれ、柔らかい感触と甘い匂いが漂った。
「うさぎ、苦しい…」かなり強い力で締め付けられていてもがくことしかできない
「サジちゃんどこにもいかないでよ… 雷こわいよぉ」
「っ!?」
私が聞いた声はいつものうさぎの余裕そうな雰囲気とは違う。
か弱い、守ってあげたくなるような少女の声が聞こえた。
私を抱きしめている腕も小刻みに震えている。
私の頭に一粒の温かいしずくが落ちた。
悪戯なんかじゃ決してない
うさぎのありのままを垣間見たような気がした。
相変わらず拘束する力は落ちないが、声を振り絞って名前を呼んだ
「うさぎ!!」
そう言うと、うさぎの腕の拘束が少し緩まり、更に声をかけた
「どこにも行かないさ、お前を守ってみせる」
しばらくすると、うさぎの声にもならない声が聞こえ、さらに多くの暖かいしずくが私の髪を濡らしていく。
視界が大きな障害物にふさがれてうさぎの顔を確認できないが、きっととびっきりの笑顔になってるのかな。
私も少し息苦しいが、必死に手を伸ばした。
どのくらいの時間が経っただろうか、まだ外は盛んに雨が降っている。
うさぎは泣き疲れたのか穏やかな寝息を立てている。ここから出るのはまだ時間がかかりそうだ。
洞窟内には雨のザーザーという音だけが響き渡っている。
.............................
[ひかり&メロ]
「何時間たったんだ?」
「んん?まったくわからないね」
私たちは白い部屋に閉じ込められてしまった。ここにサジちゃんがいるとの情報だったが、二人とも情けなくこの部屋に釘付けになってしまっている。
幸いこの部屋にはエアコンがあり、熱中症で生命の危機に瀕することがないのが救いだ。
「これ、完全に騙されたんじゃないのか」
「ううん…これが莉瑠歌さんの罠という可能性が高いけど、なんとも言えないね。」
この数時間、脱出の方法を色々試してはいるがどれも失敗に終わっている。
この部屋自体が電波を遮断する素材でできているのか、スマホも圏外になってしまっているので外に連絡も取れない。
「これは柘榴さんが心配して来てくれるまでここで待機するしかないな」
「いいや、明日まで助けが来ないかもしれない…」
「それってどうゆうこと?」
「つまり、お母さんと莉瑠歌さんが裏でつながってるってこと」
「なんでそんなことを」
「わからないけど、私たちが車で待ってるときに話をきいたんだよ 断片しかわからなかったけど」
「ううん…」
「まぁ、そうゆうわけでゆっくり待とうか」
「おい!ひかり 知ってたなら言ってくれればよかっただろ」
「それは、そうだけど ごめ〜ん 確信が持てなかったんだよ」
「はぁ、まあいいや」
ひかりの適当さはわかっているがこの状況では笑えない、脱出の線も薄いとなるとどうしたらいいかわからなくなる。
話をきく限り、莉瑠歌さんがサジちゃんの失踪について詳しいことを知っているのは確かな様だ。
しかし、そうまでして私たちをここに閉じ込めておく理由はないはずだ。
考えれば考えるほど、頭の中がこんがらがって纏まらない。
「はぁ、甘いものが食べたい…」
「メロ、甘いものなら冷蔵庫にあるよ」
急にひかりが変なことを言い始めた、冷蔵庫なんかこの部屋にあるはずがないのに。
半ばあきらめでひかりの声がする方を向いた。
「え?あるじゃん!?」
ひかりの手にはシュークリームが乗っていて、壁からは冷気の白い靄が漏れ出ている。
「壁を調べたら、冷蔵庫があって…シュークリーム食べる?」
そう言ってプラスチックの容器に入ったシュークリームを差し出した
「あぁ、いただくとす…。」
ひかりから渡されたシュークリームは、どう見ても高級、というか最高級品だ。
容器にプリントされたロゴ、甘いもの好きなら一度は憧れる「暗月堂」の大人気商品、開店1時間で売り切れる激レアだ。
なぜそんなものがこの拘束部屋にあるのかは理解に苦しむが、莉瑠歌さんが私たちをここに釘付けすることが目的なら、一応筋は通っている事になる。
と、そんなこと考えても仕方ないのでシュークリームをいただくことにしよう。
せっかくの最高級を腐らせたら、死んでも死にきれない。
前に並んで直前で売り切れて食べられなかった幻のお菓子、それが私のものに。
「もう目的は達成されたんじゃないかな、これだけでまんぞくだよ」
「もう! メロ、元気は出してほしいけど満足しすぎないようにね」
「はいはい いっただきまーす♪」
『ん〜!うまい!』
サクサクの生地にバニラがふんわりと香るカスタードクリーム。
一般的なシュークリームは生地が軽いものが多いが、私の好みはサクサクのビスケット生地。
まさにこれは、私が求めていた完ぺきなシュークリームの一つだ。
「メロが元気になってよかったよ」
「んむ、最高だぞ」
「そういえば、まだ机の上にある日記帳見てないよね?」
「あぁ、そうだったな。色々とごちゃついてわすれてたわ」
「誰の日記帳だろうね?もしかして沙慈ちゃんの物かな?じゃあ読むよ」
.............................
[サジちゃん]
ようやく雨が上がった
そのあとは私も寝てしまって正確な時間が分からない。
太陽の位置がかなり西に寄ってしまっているので、かなり時間が経過してることはわかる。
おそらく長く寝ていたので、体力は完全に回復したが足はまだ痛い、帰ったらうさぎに存分にマッサージしてほしいな、絶対に気持ちいいと思う。
「ん? ふぁ〜〜 おはようサジちゃん」
「おはよう ところでうさぎさん、離してもらっていいですか」
「わぁ、ごめんなさい」
だいたい数時間ぶりに、拘束を脱した。
うさぎの甘美な匂いが鼻の奥をいまだに刺激してくらくらする。
もう少しこの匂いを堪能していたいところだが、暗くなる前に頂上に着かなくてはいけない
「なんで、サジちゃんを抱きしめていたのかしら」
「それは…」
いや、よそう雨が降っていた間のことを覚えていないのなら、こっちにとっても好都合。
わざわざ恥ずかしい記憶を引っ張り出す必要もない。
もし喧嘩をしたときに、こっちが有利になる手札の一つとしてとっておこう。
それに気障な台詞も吐いてしまったし、これは墓場まで持っていこうと思う
「顔が赤いけど何かあったかしら」
「なんだったっけ、覚えてないや それにお前の乳に押しつぶされてたからな」
「それはごめんなさい じゃあ、そろそろ出発しましょうか」
私たちは荷物をまとめて、洞窟をでた
「うっ、まぶし」長い間洞窟にいたので、暗闇に慣れた体に西日が強烈に刺激してくる
とっさに目を逸らすと、別の景色が瞳を輝かせてくれた。
「うわー!虹だ」
「ほんと、きれいね」
山と山の間に架かる大きな虹
雨が空気の汚れをすべて洗い流したのか、どこまでも透き通るような空に、鮮烈な橋が架かっている。
うさぎとみる景色はいつまでたっても飽きることがない、もうずっと見ていられるほどに
「サジちゃん、サングラスよ」
私が景色に見とれている横で、うさぎはすでに出発の準備を整えていた。
「ありがと」
サングラスを受け取り、
私も少ない荷物を背に担いで、頂上に向けてまた歩き始めた。
「滑りやすいから気を付けてね」
「あぁ、わかっている」
「高いな…」
「落ちたら、大怪我じゃすまないわよ」
崖の近くを歩きながら、お互いに声を掛け合っていた。
崖の高さはそこまでではないが、下は川が流れていて、ゴツゴツとした岩肌が露出していている。
『落ちたらおわりだな』
まるで死の淵に…
「サジちゃん!?」
「へ?」
気が付くと私の体の半分宙に浮いている?足を滑らせたのかな
うさぎの焦った表情がとてもゆっくりに見える。
それに景色も、私が落ちるのもゆっくりに見える。
これが走馬灯か、前に飛び降りた時には何も感じなかったのに。
怖い
死ぬのが本当に怖い
無慈悲なほど平等にかかる重力、これほどにまで恨めしいと感じたことはない
生きる希望が芽生えた瞬間に摘み取られる、ただ残っているのは絶望のみ
せっかくうさぎと仲良くなれたのにここで終わりなのか。
何か、なにかないか、嫌だ!もっと生きたい!それなのになんで、これは呪いか
それとも生きようとしたことへの罰か! 畜生!!
『もっと…もっと生きたかった…』
『…サジちゃん』
うさぎの声が聞こえる、幻聴かな?
涙で全く景色が見えないのにうさぎの姿だけははっきりと見ることができる、私の大切な人
「サジちゃん」
とうとう幻まで見えてきたうさぎが近くに見える
『はぁ 最期にうさぎに会えてよかったよ ひかりの見えない日々に希望を与えてくれた恩人 私がいなくなっても問題なく世界が動くんだからいっそこれで 本当に最後に幻でもなんでも…』
「サジちゃん!!もう大丈夫よ!」
「!?」これは現実だ
うさぎの大きな腕が私を優しく包んでくれる、安心する匂い
もう会えないと思っていたのに、これで終わりだと思っていたのに、急に生への未練がこくこくと湧いてきた
絶対に死にたくない、私を助けるためにこんなところへ飛び込んできてくれたうさぎの為にも
「うざぎぃぃ ごわがっだよー」
「サジちゃん、しっかりつかまってね、下手したら一緒にお陀仏よ」
「うん!!」
ふたりは重力に従って落ちている
このままいけば地面にたたきつけられて死んでしまうだろう、最悪の事態を防ぐためうさぎは考えを巡らせた
崖際にはまばらに小さな木が生えている、それを使えば二人とも無事に崖下へ降りられるかもしれない、そう考えたうさぎは沙慈を抱きしめ、張り出した枝に手を伸ばし掴んだ。
が、二人の体重を支え切れずに折れてしまった。
「くっ」
うさぎの掌は木を掴んだ際に擦り切れて出血を伴った激しい痛みが襲っている
もう木を掴むほどの握力も残っていない
「う、うさぎ、だいじょうぶ」
「だ、大丈夫…よ 私を信じて!!」
『とは言ったものの、これは難しいかもしれない… 左手が残っているけど、これがつぶれると本格的にヤバいわね』
「ぐっ!!」
残った左手を木に伸ばしたが、結果は右手の時と同様だった。両手はずたずたに裂かれて出血をしている、握るだけでも激痛が走る
「うさぎ!!」
「はぁはぁ だいじょうぶよ! 絶対に助けるから!!」
『何とかサジちゃんだけでも助けたいけど難しい。私が下になれば衝撃を吸収できるかしら』
「サジちゃん、ごめんね…」
うさぎは沙慈を上にして、抱きかかえるような体制をとった。下は幸運にも枝葉が茂っている木の上だ。
バリバリと木の枝が裂ける音が響いている。
落ちていく間、沙慈を掴む手を一瞬たりと弱めたりしなかった。
「…生きているのか?」
あまりのことに生きた心地がしないが、心臓が脈を打っているのが分かるので死んではいない
「うさぎ!!」
問題なのはうさぎの方だ、私をかばって背中から落下した。状態を確認したいが、どんな状態になっているか確認しなくてもわかる。
「血が…」
うさぎの横腹に、血に濡れ肉がぶら下がった枝が禍々しく突き出ている。
刺さった根元から、だんだんと赤い染みが広がっている。
私を庇って負った傷、早く治療しなきゃうさぎは死んでしまう
携帯電話は持っていないし助けを呼ぶ手段が分からない
「ははっ…しく…じったわ… ほねも…なんぼんか…おれてる…の…かし…ら」
「おい…笑ってる場合じゃ…」
「さ…じちゃん わたし…のはなしを…きいてく…れる」
「なんだ!!わたしにできることなら」
「おちるま…えにか…ばんをなげ…たからとっ…てきて」
「かばん? うん! わかった、鞄だな」
私を抱擁していた優しい腕は力なく下がり、痛々しい掌が露わになり私の心を抉る
「うさぎ こんなことになって…」
浅い呼吸をしているうさぎの元から離れ、件の鞄を捜索することにした。
探している最中、枝が刺さった痛々しい姿のまま横たわっている姿を何度もみた。
うさぎの顔から血の気がどんどん引いていくのが分かる
『時間がない!!』
付近を必死に探して走り回った、うさぎのお陰で怪我らしい怪我をしていないので体力の限界など気にしていられない。
焦燥感が高まり生きた心地がしないが、かばんは幸いにもあまり離れていないところに落ちていた
すぐに戻って鞄をうさぎにみせた
「見つけたぞ」
「そのな…かにおうき…ゅうきっと…とほんが…あるからつか…って」
「わかった、絶対に救ってやるからな」
「たのんだ…わよ」
「ああ!任せろ。二度も救われた命。 たすけてやるよ!」
私は応急処置の本を見ながら始めた、該当のページに付箋が貼ってあったのですぐに見つけることができた。
まずは傷口を見ることが最優先。ハサミで服を裁断して、傷口を露わにした
『…酷いな』私の腕ぐらいの枝が横腹を貫いている。
経験がないので、抜いて良いものかそのままにしておくべきなのか全くわからない。
もし抜いた時に出血がひどかったらうさぎは死んでしまう、そんな恐怖が先行して実行できない
うさぎは苦しそうに呻いている
とりあえず、傷口をペットボトルの水で洗い、うさぎの指示を仰いだ。
「つぎはどうしたら…」
「できる…ならぬい…て…そうしたら… ほんに…かい…てあると…おり…のしょ…ちをし…て…」
「わかった…」
私は覚悟を決めた、刺さったままでは出血し続けるだろうし助けられない、だから最善の方法と信じて
背中に手を回し、上半身をゆっくりと起き上がらせた
「まって… なにか…かま…せて」
「うん! タオルとかどうだ?」
「えぇ…いいわ…」
そう言うとタオルを咥え、痛みに耐える準備をした
「じゃあいくぞ!!」
背中に刺さっている枝を掴み、力を込めて枝を引いた
「うんん、ぐっ!!」悲惨なうめき声がこだまする中、出血を伴って枝が抜けた
「はぁはぁ、取れたぞ。 いま止血してやるからな」
「…」
返り血がぽたぽたと私の腕を零れる
『…まるで私まで怪我をしたみたいだな』
うさぎは痛みで失神したようで、だらりと私に寄りかかっている。
うさぎを鞄の中にあったレジャーシートに寝かせ、本に書いてある通りに傷口周りを消毒し、包帯を傷口に押し込み圧迫した。
うさぎの中は赤みを帯びたピンク色に見え、綺麗だと思ってしまった。
こんな状態なのに変なことを考えてしまったことを悔いる暇もない
雑念を払うように力を込めて押し込む
押し込んだ包帯はすぐに真っ赤に染まり焦りだけが積もる。
レジャーシートに流れた血がたまり小さい池ができている
濃厚な血と肉の匂いが私の鼻腔を刺激し、胃液がせりあがってくるのを感じる
何とか吐瀉を我慢し、傷口の出血が少なくなったので包帯を腹部に一周するように巻いた
「はぁはぁ、なんとか血は止まったな」
「うさぎ、ごめんな でも運が良かった」
もしうさぎの意識があってそのまま止血していたら、地獄の苦しみを与えてしまうところだった、私も叫び声や呻き声を聴きながらやるなんて気が変になってしまう。
だから意識を失ってくれてお互いに幸運だった
でも早く病院に行かないと、うさぎが死んでしまう。
日が落ちてしまう前に屋敷に帰らないと
両方の掌や手足の傷口に包帯を巻き、私はうさぎを担いで川沿いを移動した。
..........
どれくらい歩いただろうか、日がとっくに落ちて、闇が辺りを包んでいる。
時折聞こえる獣の声が私の不安感を増大させる。この状態で動物に襲われたら確実に二人とも死ぬだろう。
私は逃げられずに殺されて、うさぎは動けないまま喰われて死んでしまう
そんな最悪を想像しながら、歩いていた
暗くて足元がおぼつかない、ヘッドライトだけではこれ以上歩くのはリスクが大きすぎる。
もし転んで私までけがをしたら、いよいよもって生還は絶望的になる
うさぎはもう起きているが、体力の消耗を抑えるために寝て貰っている。傷が開いてしまうので動けそうにもない。
だが休憩をするにも何もない野晒しの状態で腰を据えるのも自殺行為。もっと安全な、例えば洞窟などが休憩場所としてはふさわしいだろう。
私は休憩場所候補の洞窟を見つけるために川の道から外れて、危険だが崖側の森に入ることにした
森に入って10分ほど、さ迷い歩いた
うさぎを負ぶっているので体感100メートルも進めていないように感じる、だが確実に進んでいる。
またしばらく進んでいると、ヘッドライトの光が大きな壁にぶつかった。ライトを壁に沿って這わせると、暗黒が口を開けていた
「やった!洞窟だ」
「うさぎ、ここで休憩しないか」洞窟の入り口をライトで照らしながら言った
「わかったわ…」
食料などはバックに入っていたので体力を回復できるが、身の安全が心配だ。
洞窟の中は奥に広く、ライトで照らしても何かがいるような様子もない、入っても背伸びができるくらいの余裕があるように見える
「うん、安全そうだな」中は外の気温と比べて涼しく過ごしやすい。
洞窟の中に身を入れて休息をとることにした
「安静にしていて 私は焚火ができるように薪を探してくる」
うさぎには横になってもらい、焚火用の薪を集めることにした。外は真っ暗だが周りは森、枯れ枝を探すくらいわけないと思っていた。
「くそっ!どれも湿っていて使い物にならない」集めてきた薪に火をつけようとしたが、まったく火が付かない。
さっきの大雨で枯れ木がすべて濡れてしまって、火が付かないらしい。
そんな様子を見かねたようで、「サジちゃん、毛布で…十分よ」と私を気遣ってくれる
うさぎは傍からみても消耗していることが分かる。このままではうさぎは太陽を拝むまえに体力が奪われて死んでしまう。
「ごめんな、うさぎ 大切なおまえの命ひとつ救えないような情けないヤツで 私にはおまえ以外何もない だから安心してくれ、もし…」
「サジちゃん!! 私、名案を思いついたの…」私の言葉を遮るように言った
「貴女一人で助けを呼びに行って…」
「なっ… そ、そんなことできるわけ」
「いいえ、どうせ…このままでは共倒れになってしまう…」
「一番生き残る可能性が高い提案なのよ…」
痛みを堪えながら必死に私を助けようとしている、うさぎを見捨てるのか。
「無理だ、そんなことできない やっぱりここで…」
「沙慈」
うさぎからは聞いたことない、静かで力強い声が聞こえた。
「沙慈ちゃん、こっちに来て」今度は母性に溢れた声が聞こえた
「!?」
私のくちびるに柔らかく熱い感触が伝わってきた
『キスだ』
頭では理解できなくても、瞬時に体が理解する
はじめてを奪われたキスと似て、鉄の味がする強引なくちづけを
でも今は嫌じゃない
体のこわばりも呼吸の乱れもなく自然に、激しく…
うさぎのくらくらするほどの甘い匂いと、汗と血のにおいが混じって私のときめきがもっと
洞窟の熱っぽい空気が記憶をとろけさせ、濃密に絡み合う
お風呂場で感じた微熱
自分でも気づかないうちに大きくなり、貪るようにうさぎを感じていた。
「沙慈、大好きよ」
「はぁはぁ うさぎ…」
この胸のときめきが止まらない、うさぎをすべて自分のものにしたい
果てる最期の時まで
『次は私から…』
「沙慈 これは別れのキスよ」
私の思考を遮るように、信じがたい言葉が飛び込んできた
「えっ? 別れ…そんな…」
急にそんなことを言われて、冷水を頭からかけられたような気分になった。
「安心して、私は死なないわ 約束する」
「うさぎ…」
「大丈夫、無事に生還できたらこの続きをしましょう」
「くっ… くそっ、わかった 死ぬなよ 約束だからな!!」
「電話は沙慈が最初にいた部屋にあるわ」
「わかった 絶対に死ぬなよ!!」
洞窟にうさぎを残して走り出した
雲にかかった月が顔をだし、漆黒の川辺を冷たく照らしている
「私は彼女に何かを与えることはできたのかしら… 空虚な人生だったけど、あの娘と再会して何か変わったような気がするわ はぁ…お別れね」
洞窟の隙間から月の光が冷たく注いでいる、彼女のつぶやきは静かに洞窟内に響いている
情念は昏く奥に吹き溜まり、夜が更けていく
.............................
[ひかり&メロ]
7/30(木)
「もう日付またいだかな?」
「こうもやることないと時間間隔もごっちゃになるね〜」
「日記はサジちゃんの日記だったけど」
「ほんとびっくり〜」
「それにうさぎと一緒だったとは」
「ほんと〜」
「おいひかり、完全にやる気なくなってないか」
「え〜 だってここで気張っててもどうしようもないし」
「まぁ、そうだけど… まって!」
「ん?どしたん」
「なぁ、足音聞こえないか」
「!? 聞こえる」
さっきは微かな足音だったが、だんだんと大きくなって、こちらに向かってくるような気がする。
「おいひかり、誰かが来るみたいだから準備しとけよ」
「了解!」
部屋の電気を消し、私たちは扉の前で待機した。
足音は扉の前で止まり激しい息遣いが聞こえてくる。ガチャと扉の鍵が外れる音がし、扉が開いた。
「覚悟ーっ!」
「えっ?」
暗くて見えないが、ひかりが誰かを捕まえたらしい。
「ちょ、離せ! 誰だ?」
その声、聞き覚えがある
「ひかり!」
「え!なに?」
「多分、捕まえてるのサジちゃんだよ」
「え?」
すぐさま電気をつけて、確認した。
「沙慈ちゃん?」
「えっ?ひかりちゃん」
「って、そんなことしてる場合じゃなかった、助けを呼ばないと」
「誰を?」
「えっと…友達だよ!」
「それで、電話はどこだ」
「えっと、サジちゃん ここには電話はないぞ、別の部屋なら」
「それを早く言え!」
『理不尽』
サジちゃんはすごい勢いで別の部屋に行ってしまった。
「もしもし…」
.............................
7/31(日)
「沙慈ちゃん、誕生日おめでとう!」
「ありがとう」
ひかりちゃんの家で私の誕生日パーティーをしている。
あの一件から1年、私は日々を忙しく生きている
うさぎとの最後の約束、それを胸に秘めて。
約束を果たすまでは私は死ぬことはできないし、洞窟でうさぎと離れたあと片時も忘れたことはない
『もう1年経ったんだよな なんか変な気持ちだ』
妙な胸騒ぎを覚え、外に出ることにした
「ちょっと外の空気を吸ってくる」
「あぁ、わかった でも早く帰って来いよ ケーキが残ってるんだから」
ひかりちゃんとメロは前と変わらず私に接してくれている。
あんなことをしていっぱい迷惑をかけて、今更合わせる顔がないのに。
「まったく、元気がない顔ね」
「!?」
私の目の前にうさぎが立っていた
「約束したわよね、死なないって」
「うさぎ… 」
「ふふっ、なんて顔してるの、生きてる間くらい笑わないと」
「ほんとにうさぎなのか?」
「お腹の傷跡でも見てみる。こんな体になっちゃったんだから責任取ってもらわないと」
そう言って、うさぎは服を摘まんでお腹を見せるしぐさをした
「泣いているの? 沙慈」
「っ…泣いてない!! いままでなにしてたんだよ!! 寂しかったんだぞ!」
何故だろう、うさぎの姿がにじんで良く見えない、もっと近くで見たいのに足が動かない
何故だろう、涙が止まらない。こぼれた雫は地面を濡らし、潤していく。
何故だろう…
「まるで宝石ね」
「くそっ 心配かけさせやがって…」
私が置いてきた希望の正体がわかったよ
ずっと待っていたものの正体
止まっていた時が動き出すような高揚感
偽物じゃなかった、うさぎとの間にやっと見つけた本物
本当にたくさんの遠回りして大切なことにやっと気づいたんだ
「愛してるよ」
太陽が高く、私たちを照らしている。これから来る真夏を予感させるような光
そう、私たちの物語は今始まったばかりだ
[完]
あとがき
ここまでよんでいただき、誠にありがとうございます
これから二人はどんな物語を紡いでいくのか、そしてひかりとメロの反応とは…
これにて完結です。
「サジちゃんの病み日記」私が本当に好きな作品の一つです
書いているうちに1万,2万と増えていって、最終的に約6万文字の長いお話になりました。
この作品との出会いは確か、やるデース!速報さんにまとめられていた記事を読んだことがきっかけだったと思います。
この頃はきららBBSはおろか速報もたまに見るくらいだったはずで、運命のようなものを感じました。
この作品のタイトルは「さりゆく貴女にくちづけを」ですが最初は「死にゆく貴女にくちづけを」というタイトルにしようとしていました。
けれど前に「きもちわるいから君がすき」の作品スレを建てる時にタイトルが消えてしまってなんのスレかわからなくなってしまった、という苦い過去があり、×××で伏字にしなくてはならなくなったので、表示が消えることを危惧して今のタイトルになりました。
話を戻して、原作は表紙からしてもやべぇオーラが出ていましたが中身を読んでみると、以外ときららっぽい内容と二巻のうさぎの殺人未遂が私の琴線にぶっ刺さりました。
最後のサジちゃんの飛び降りのシーンで終わっているのですが、明確に死亡したというシーンがなくここで誰かがサジちゃんを助けるというIF展開を考えたのが始まりです。
あの状況で助けられるのは、うさぎしかいないので消去法で彼女にしたのですが、書いているうちに愛着が湧いてきて、メロさんに次ぐ好きなキャラですね。
彼女は原作中でサジちゃんに「似たもの同士のクセにッ」と言っていましたが、本当にそっくりなんですよね。本作を作るにあたって4回くらい読み直したのですが、子供っぽいところや、ひとの気持ちを考えない、または聴かない、危害を加える、そして生い立ちなど。
特に生い立ちで、どちらとも幼少期に孤独を経験して、その孤独を埋めるため他者を求めるところも共通しています。
違う点は、人や物を傷つけることにより自分に注目してほしいと考えているか、人を縛り付けて自分に注目してほしいかの違いですかね。攻めと守りのような関係
終盤の雷でうさぎ幼児退行するシーンでも、子供の頃に嵐の日に一人寂しく震えていたのではないかという想像からできたものです。
そして、執筆するうえでこだわったことは、やはり性の表現を抑えることですかね。書いた後、読み返してみてもほとんど隠しきれていませんが「キス」くらいしか直接的な単語は使っていないですしね。まぁ オッケーということで、あとは読者様の解釈にお任せします
メロさん、サジちゃんが主人公として描きましたが、ひかりの扱いが結構困ったんですよ、イマイチ感情が理解できなくて、最初、クール系のキャラになったり次にポンコツ系になったりかなり迷走しました。いまでもキャラが掴めていないと思います(笑)
逆に他3人のキャラはかなり把握している自信があります。
同時に二つの物語を進行させるのはかなり難しかったです。初期の頃の好き勝手やっているところから、中盤のパートから二つの話が絡んでくるということを途中で考えてまとめていきました。
そして終盤へと書いているうちに道筋が明確に見えてきてときには、激しい興奮と高揚感で椅子から立ち上がるくらい喜びました。パズルを組み立てていくような感覚にすごく近いです。
プロットの段階では、始まりのうさぎとの邂逅と終わりのキスしか考えていなかったので、わりとまとまっていて感心したり
せっかくなので、執筆前の初期のプロットをスレの最後に原文ママで貼っておきます
反省としては、作中でうさぎの名前を書きすぎました。調べてみると280回使ったらしいです。自分でかいてアレですが、ちょっと書きすぎですね。
書き出しは日記風に書いてみましたが、行をそろえるのがめんどくさかったので、初期のあたりにしかないんですよね。
スマホでみるとあんまり実感しづらいですし、Pixivに投稿する際には日記に見えるように工夫したいですね。
あと初期は1レスにとんでもないくらい詰め込んでいますね、もうちょっと余裕を持たせてもよかった気もしますが、そうするとレス数が300程度を超えそうな勢いなんですよね。
作中で私が好きな要素をかなり入れました、キスをしてからの別れなど一番好きなシーンです。食べ物やシチュエーションetc…
ほかにもいろいろな作品を参考にしています。
「メタルギアソリッド3」
福井晴敏著の小説「ターンエーガンダム」
そしてペンギノンさんの「【SS】 シャミ子「杏里ちゃん、一緒に帰ろ?」」などを参考にしています。
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3668&ukey=0
とくに最後のキスシーンに衝撃を受けて創作意欲が高まったといっても過言ではないです。
完結しましたが、過程の話はいろいろ書きたいことがあります、うさぎの心情の変化やサジちゃんが洞窟を離れた後など、別のスレで投稿しようと思っているので、投稿したらそちらもよろしくお願いします。
最後にネタの提供お願いします!
唐突に言って意味が分からないと思いますが、提供して頂いたネタはきっちりと有効活用するので、よろしくお願いします。
と、いうわけであとがきが長くなりましたが、また次の作品でお会いしましょう
プロット
【死にゆく貴女にくちづけを】
はじめ
・屋上の描写、黒い影が視界の端に映る・サジちゃんの心情描写・知らない部屋で目が覚める・誰かの応急処置の跡を見る・生を実感し今までやっていたことが馬鹿らしくなる・お腹が減り、部屋から出る・ダイニングには凛道うさぎが寝ている・彼女を起こさないように逃げだそうとするが、起きてしまう・沙慈臨戦態勢・うさぎは語りだす・信じることはできないという・証拠をだす・渋々、臨戦態勢解除・今後のことをうさぎに聞く・「貴女を助けたのは気まぐれだから、恩に着る必要はないし、江戸川さんやメロちゃんのところに戻るといいという」・「いいや、もう橋口メロはともかくとして、ひかりちゃんに合わせる顔がない」・興味なさそうに相づちをうつ・うさぎは逃亡中の身なので逃亡計画・沙慈ちゃんもついていく
中
・海に行く・動物園にいく・温泉・うさぎへの好感度が上がる・山に行く・遭難・沙慈ちゃんが崖から落ちる・うさぎが庇い一緒に落ちる・うさぎの腹に木の枝が刺さり大量出血・うろたえる沙慈ちゃんに、うさぎが瀕死で治療を指示・雨が降ってくる・洞窟に避難・足止め・数時間後・うさぎが提案・沙慈は拒否・うさぎが力ずくで聞かせる・止められる・背負って下山・共倒れ・洞窟再び・先が長くないことを悟ったうさぎはある提案をする・沙慈ちゃんを説得したうさぎは最後にキスをする・うさぎの独り言・助けを呼びに行く・麓まで降りて通報
終わり
・間接的にうさぎの死を告げられる・うさぎの言葉を思い出す・家に帰り、メロと再会
拝読いたしました! かなりの超大作と相成りましたが、完結お疲れ様&おめでとうデース!!
改めて作品を俯瞰して気付くのは、シリアスとほのぼののバランス感覚が本当に巧い。緊迫した状況の中ににやにやしてしまう要素があったり、逆に和やかな雰囲気の陰に身震いを憶える箇所が潜んでいたりと、ある種のリアリティと総合的な意味でのエンターテイメント性が随所に散りばめられていました。
最初の時点では絶望に支配されきった沙慈が文字通り「さりゆく」お話かと思いましたが、物語が進んでいくにつれて沙慈が自分を飛び越えて心から笑えるようになるための「旅立ち」という意味なのかなと考えるようになりました。歪んだところはあれど献身的に沙慈を支え続けてくれたうさぎの、不器用で懸命な優しさがあったからこそ、沙慈は新たな答えを導き、それを手にできたのでしょう。
更に、行方不明になった沙慈を諦めず捜索し続けたひかりとメロ。彼女たちの「優しさ」は、うさぎのそれとは少々違う形をしていますが、沙慈を決して見捨てないという強い意志を胸に行動し続けた点は、紛れもなく彼女に対する「愛」と言ってよいでしょう。沙慈と再会を果たした後も彼女と良好な関係を保っていることがうかがえる描写、個人的にぐっときました。
序盤、意識が朦朧とする中で沙慈が視て、当時は偽物と考えていた「夢」の様子が、終盤で現実のものとなった。そういった描写の対比を通して、沙慈たち四人が彼女たちなりの幸せを確かに手にできたのだと、強く感じました。
本当に読み応えのある、素晴らしい作品でした! カレル様、どうもありがとうございました!!
P.S.
杏里ちゃんSS、読んでくださったのですね...! あの作品は個人的にもかなり思い入れがあるので、非常に感慨深いものがあります。
こちらとしても励みになります、重ねて御礼申し上げます!
P.S. 2
ネタの提供、ですか...。取り敢えず前に書き込んだこれ↓は、よろしければご自由にお使いください。
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3159#res39
あとはそうだなぁ... 『あんハピ♪』のリクエストOKだったら、椿ちゃん主役のお話とか読んでみたいかな。私、以前書いたSSで述べた通りぼくっ娘が大好きで... (笑)
ペンギノンさんいつもありがとうございます
「さりゆく」の意味、鋭い洞察ですね
さらにはもう一つの意味があり、うさぎの視点からみた別れを表しています。そして、うさぎには本編で明かしていない秘密が…
あとの話は別の機会に
つーか今はこれが限界…(ノブナガ感)
P.S
ネタ提供ありがとうございます
「あんハピ♪」の椿ですか、私は彼女について何も知らないので考察を深める時間も含めてかなりかかると思いますが、実現させます。
シリアスになるかコミカルになるかは「Make Your Choice」
原作読まないと…
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