【SS】スプリングシンドローム
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1 名前:カレル[age] 投稿日:2023/12/30 00:00:00 ID:Hy/5MAcn2w
こんにちは! 40作目です
本作は「アニマエール!」と「あんハピ♪」、「きららファンタジア」の二次創作になります。
一応クロスオーバーの要素があります。

2 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:01:06 ID:Hy/5MAcn2w
【里に来る春】

 クリエメイトが生活をしている『里』、その入口に2人の金髪少女が入ろうとしていた。ひとりはケモノの耳と尻尾が生えていて、ご機嫌そうに尻尾を左右に揺らしながら歩いている。それに合わせてツインテールもわしゃわしゃと動いている。しかし、となりを歩いている少女は周りをキョロキョロと見まわして落ち着きのない様子だった。その様子を気にしてか、ケモ耳少女は隣の少女に弾けるような笑顔で話しかけた。
「ねっ、ツバキ! 懐かしいな〜先生に会う前にここに来たけどにぎやかだよね そう思う?」
 椿と呼ばれた少女はその言葉に安心したのか、少し顔をほころばせた。秋の澄んだ空に、輝くばかりの金色の髪が揺れており、より一層引き立てているようだった。

3 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:01:29 ID:Hy/5MAcn2w
「そうだね、ボクもちょっと久しぶりだから……うん そういえば、カメリアがウキさんとコハネさんに出会ったのもここだっけ?」
「そうそう! あの時会ったままだったから、ようやく機会が回ってきたってところかな〜 ……ただ、浮かれてばかりもいられないけど……」と、カメリアと呼ばれたケモ耳少女は表情を曇らせた。言いようのない不安が彼女の周りをまわっているようで、足を止めた。
「カメリアの先生からだよね? ウキさんになにか異変があるって」
「うん、先生の口ぶり的には命に関わる程度のことではないらしいけど、やっぱり気になるからね……ツバキ」

4 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:01:56 ID:Hy/5MAcn2w
 カメリアはそう言うと、小ぶりな鞄を左手に持ち替えて、右手を椿に差し出した。これは、手をつなぎたい合図で、もはや習慣のようになっている。椿も待っていたように手を出し握ると、目的地の場所に向かった。


https://kirarabbs.com/upl/1703862116-1.jpg


5 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:02:16 ID:Hy/5MAcn2w
 今回、彼女達が『里』に来た理由は以下の通りである。
 カメリアは5日前にカメリアたちが襲われた黒い魔物に、同様に襲われた猿渡宇希の様子を確認すること、そして、彼女への恩返し。椿は、友人である花小泉杏達へ会いに行くことを目的としている。
 里に来るにあたり、ランプ経由できららに連絡を取り午前中に来る旨を伝えている。椿の方も友人に会う時間は午後の2時としたため、カメリアについて行くことを決めていた。
 

6 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:03:03 ID:Hy/5MAcn2w
 カメリアたちは事前にランプから渡された地図を頼りに目的地へ向かっていた。そこに行くまでに、商店街を抜け、それぞれのクラスを模した建造物を抜け、見えてきた。外観は普通の一軒家という趣きで、そのまわりには花が咲き乱れていた。
「うん、ランプちゃんの地図では……お花が目印の家……多分ここだね」と地図と家とを見比べると玄関に近づいた。そのそばには来客用のインターホンが設置されていて、カメリアは躊躇なくボタンを押し、「おはようございます!連絡したカメリアです」と元気にマイクに話しかけた。
「あれ?返事がないね、確かに連絡は行っていると思うんだけど」と不思議そうにカメラ部分を見つめたり、手を振っている。
「カメリア、インターホンだから相手が取らないと話は通じないと思うけど……すぐに押したね……ボクは心の準備が……」
「はい! どちら様でしょうか?」
 椿が言いかけると、インターホンから少しノイズがかかった女の子の声がした。

7 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:03:29 ID:Hy/5MAcn2w
 それにカメリアは、「おはようございます!連絡をしたカメリアです」と改めて言った。
「はい!カメリアさんですね、きららさんからお話いただいています 今向かいます!」と言うと通信は切れ、誰かが駆け足でこちらに来る足音が聞こえた。
 インターホンが途切れるとカメリアは椿に向き直り、「ふぅ……声の感じ的にはやっぱり深刻な感じはないね」と安堵の笑顔を見せた。

8 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:03:45 ID:Hy/5MAcn2w
「うん、そうだね」と笑顔を返したが、彼女が扉の方を向くと、表情を硬くした。椿にとっては初対面の人でどう話したらいいだろうや、ちゃんと話せるかなどを考えていた。そう考えていると、足音は扉の前で停止し音もなく扉が開くと、「いらっしゃいませ、遠いところからありがとうございます」と青い髪の少女が迎えてくれた。
「あれ……?クレアさん……」椿は見覚えのある人だったため、思わず声を出してしまった。
「あれ?ツバキちゃんお知り合い!!」とカメリアは後ろを振り向いて、期待の眼差しを向けた。しかし、クレアとの関わりは召喚されて会話にならない会話をした程度のことしかなく、何を話したらいいか分からず俯いた。

9 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:04:05 ID:Hy/5MAcn2w
「あ、あの カメリアさん…… 私から話します」と、クレアは空気を察しフォローを入れた。
「椿さんとは召喚の館というところで初めて会いました。カメリアさんは椿さんがクリエメイトであることは知っていますよね? 私はその召喚のお手伝いをしています」
「そうなんですか! なら、ツバキちゃんに会えたのもクレアさんが関わっているんですね!! 握手してください!!」と、両手を差し出した。
「…えっと…は、はい! ありがとうごさいます」
 クレアは突然の握手の求めに困惑したが、両手でしっかりと握った。
「うわぁ!感動です、きらら様のお仕事仲間と握手できたなんて!! ツバキ!見てる?ほら、すごいよ」
 カメリアは興奮からか、クレアの困惑とした表情は見えていないようだ。

10 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:04:36 ID:Hy/5MAcn2w
「カメリア!!興奮し過ぎっ!!」とブンブンと腕を振り、感動を伝えようとしていたが彼女の諌める声によって中断された。
「あっ……、すいません……クレアさん……ちょっと、すごい迷惑でしたよね……ごめんなさい」
 やってしまったとばかりに、手を離すと椿の後ろに回った。最初にブンブンと威勢よく振られていた尻尾は地面につきそうなほど沈んでいて、背中を丸めて縮こまっていた。
「……す、すいません、カメリアが迷惑をかけてしまって……えっと……」
「い!いいえ!びっくりしましたけどランプちゃんのクリエメイトの方々と接する時と似たようなテンションなので気にしてないですよ!」と椿の消え入りそうな声を救い取るように、肩を叩いた。
 カメリアはその様子をぼんやりと眺めていたが、自分の撒いた種であると自覚し、気を落としていられないと奮起した。

11 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:05:02 ID:Hy/5MAcn2w
「ツバキちゃんは気に病むことないよ、気が緩みすぎてた!私のやらかしは私が拭うから!!」
「カメリア……って、ほんとだよ前もだけど!」とカメリアの方へ振り向いた。呆れを含んだ顔で、反省して欲しいと言っているようだった。
「っ……ごめんなさい」
「もう!真面目な時とダメな時の差がありすぎるんだから」
「そ、それは……確かにだけどね なんか改めて言われると心にくるよ〜」
「そうだよ!あの時のカッコイイカメリアとは別人すぎて、ねぇ……」
「っ!?カッコイイ……っ!!」
 カメリアは急に言われた言葉に赤くなり、反論を探そうとしていたが、浮かぶ言葉すべてが自分にも恥ずかしさが返ってくる言葉だったので、沈黙を選択することしかできなかった。すでに、沈んだ尻尾は盛んに動いている。

12 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:05:18 ID:Hy/5MAcn2w
「っフッ!!あはは!」
「「!!??」」」
 クレアは2人の問答をしばらく眺めていたが、ついには堪えられずに失笑してしまった。これに驚く2人は揃って顔を赤くした。
「あはは、ふぅ…… おふたりがあまりにも仲良しだったもので、信頼されているんですね」と呼吸を整えながら言った。
 それにカメリアは「はい!」と自信満々に答え、椿は「そうですね……」と顔の紅潮を隠すように言った。クレアは満足そうにまぶたを閉じると、「ここで立ち話もあれですし、お入りください」と、建物の中を誘うように右手を屋内に向けた。

13 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:05:47 ID:Hy/5MAcn2w

 3人は玄関に入り、リビングへ向かった。そこへの扉を開けると、明るい声が迎えてくれた。
「うきちゃん、お待たせしました」
「くれあおねえちゃん、おそかった〜 ん〜、おくのひとたちは?」とうきちゃんと言われた幼女は不思議そうな目で2人を見ている。
「……ウキさん!? クレアさんウキさんに何があったんですか??」
「……!? わかるんですか、宇希さんだと」
「はい、魔力の質が同じなのですぐにわかりました そして、あの黒い魔物の残滓も感じます……」
「えっ?どういうこと?? カメリア」
「うーん……私もあんまりよくわからないけど、簡単に言うなら私たちが襲われた魔物にウキさんも襲われたってことかな なんでこういう状態なっているのはかは全く分からないけど……」
「えっ!おふたりもあの魔物に襲われたのですか!?」と耳を疑ってクレアは身を乗り出した。
「はい……」

14 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:06:15 ID:Hy/5MAcn2w
「そうですか……あっ、お茶を出しますね、カメリアさん、うきちゃんのことをすこし見ていてください」と、急いで台所へ向かって行った。その背中が台所に消えると、椿と目を見合わせて膝をかがめてうきに話しかけた。
「ウキさん、私の事覚えていますか? 少し前にあなたに会ったんですけど……」
 これにうきは頭を抱え、記憶を引っ掻き回しているようだったが「うーん、よくわかんない ねぇ、おねえちゃんのふわふわって本物?」と、興味の対象がゆらゆらと揺れているカメリアの尻尾に移っていた。
「ふわふわ……?ああ!尻尾ね うきちゃん、触ってみる?」とゆっくりと立ち上がり背中を向けた。
「いいの! やったー♪」
 それを聞いた途端にうきは瞳を輝かせ、金色の尻尾へと手を伸ばした。

15 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:06:44 ID:Hy/5MAcn2w
「わー!もふもふ ふんふん、あったかくていいにおいもするー」顔を尻尾に埋め、呼吸を繰り返している。
 カメリアは尻尾にかかる熱い吐息を受けて、くすぐったそうにしていたが、驚かせてはいけないと思ったのか、うきが満足するまでは動かないでいた。
「ふぅー、ありがとおねえちゃん!」
「私はカメリア、こっちのおねえちゃんはツバキだよ」
「かめりや、つばき……うん!わかった! ありがとかめりやおねえちゃん」
「……うん!うきちゃん 聞きたいことがあるんだけどいいかな?」と、もう一度膝をかがめて目を合わせた。

16 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:07:09 ID:Hy/5MAcn2w
「ん?なぁに?」
「コハネさんはどこにいるの?」
「う〜ん わかんない ちょっとまえからあってないの」
「うん、わかったよ ありがとう」
 これもよく分からないという答えで、椿と見合わせるとこれ以上有益な情報は得られないと考え、立ち上がった。台所からは、茶葉の良い香りが漂ってきていて、「お待たせしました」と声が聞こえると、クレアはティーポットとカップを持って戻って来た。
「さぁ、こちらに」とテーブルに手招きをした。テーブルには椅子が4脚あり、ひとつは子供用に足掛けがあるタイプのものであった。椿はクレアの隣に座り、カメリアがうきを子供用の椅子に座らせた。
全員が椅子に座ると、各カップに紅茶が注がれた。

17 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:07:37 ID:Hy/5MAcn2w
「カメリアさん椿さん、うきちゃんを見ていただきありがとうございました カメリアさんとはもうすっかり仲良しですね」と、カメリアの方をキラキラとした視線で見ているうきを見ながら言った。
「はい!うきちゃんはすっごくいい子ですから、すぐに仲良くなれました」と言うと紅茶を口に含んだ。
「うーん、美味しいですね」
「お口に合って良かったです」
「くれあおねえちゃん!みるくとおさとうとって」とうきは対角の皿に届かないようで、机に中途半端に身を乗り出している。
 クレアは危ないと注意をして、椅子に戻るように言うと砂糖とミルクをカメリアに「カメリアさん、入れすぎないように見ててください」と言って渡した。

18 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:08:00 ID:Hy/5MAcn2w
「はい、わかりました はーい、うきちゃん、どのくらい必要?」
「えっとね、う〜ん……じゃあ、おさとうはみっつ、みるくはたっぷり!」
「砂糖3でと……ミルクはこの小さなカップ2杯くらいかな はい、うきちゃん」と、別々の容器に入れた砂糖とミルクを渡した。しかし、砂糖は受け取ってくれたが、ミルクの方は量が不満だったようで、受け取るときにむくれてしまった。
「むぅ……もうちょっと、かめりやおねぇちゃん……」
「ダメですよ、うきちゃん」
 うきはカメリアにミルクをねだり、上目遣いで見つめたがクレアがそれを遮るように声をかけた。
「これ以上は、お昼が食べられなくなりますよ 我慢してくださいね、今日はライネさんのごはんですよ」
「………んん………わかった!!」
 うきはごはんとミルクたっぷりの紅茶を天秤にかけて少し悩んでいたが、天秤の秤がごはんの方向に傾いたようで、あきらめてミルクを受け取りすべてを注ぐと急いで飲み干すと、満面の笑顔を見せた。

19 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:08:27 ID:Hy/5MAcn2w
「んん、おいしっ!」
「あっ、うきちゃん零れてるよ 拭いてあげる」
「……んん!ぷはぁ、ありがとうかめりやおねえちゃん!」
「どういたしまして、紅茶美味しいよね」
 カメリアもハンカチをポケットにしまうと、カップに残った紅茶を全て飲みきった。それ興味深げに見ていたうきは見計らったように、彼女の袖を引いた。
「ねぇ、おねぇちゃん一緒に遊ぼ!お茶飲み終わったらいつも遊んでるんだよ」とグイグイと引っ張っている。
「えっ!……と、おねぇちゃんはクレア…お姉ちゃんと重要なお話があるから行けないんだ、ごめんね」
「んん!じゅうようなはなし?それってなに!!あそぶの!」

20 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:08:49 ID:Hy/5MAcn2w
 今度は激しく引っ張り始めた。少し涙目になって、自分の思い通りにならないことに憤っているようだった。カメリアはどう話していいか分からず、揺さぶられるままになっていた。彼女の対処についてクレアに助けを求めようとしたが、そちらもどうしたらいいのか分からないという顔をしていたので、自分でどうにかしないと考え必死に頭の中を巡らせた。しかし、幼児の欲求をうまく躱して納得してもらうような妙案が浮かばずに、その場しのぎの言葉しか出てこなかった。
 うきは泣き出す寸前、予想外のところから声がした。
「あ、あの!うきさん ぼ、ボクが遊ぼっか……」
「ツバキ……!?」
 カメリアは予想外だというように、頭をあげると袖のテンションが弱くなっていることに気がついた。

21 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:09:08 ID:Hy/5MAcn2w
「ぐずっ……お゛ねえちゃんがあぞんでくれるの゛」とうきも、鼻水で濡れた顔を上げた。
 コクリと頷き、椿は携帯型端末を取り出すと、「透明化〈インビジブル〉解除、チモシー!」と命令をした。すると、扉の前に二足歩行のうさぎ型のロボット、「チモシー」が何も無い所から現れた。
「わぁー♪うさぎさん!」と、チモシーを認識した瞬間先程のぐずりも嘘のように笑顔になり、チモシーに近づき撫で始めた。カメリアは椿のそばにいき、「ありがとう、ツバキ」と肩を叩いた。
「うん、任せて」
 親指を立てそれだけ答えるとうきの方に目を向け、「さっ、お、おねえちゃんがうきちゃんとあっ…遊びたいなー!」と、たどたどしいながらもうきの手を握って外へ出ていった。

22 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:09:44 ID:Hy/5MAcn2w
「……ありがとうごさいます、こういう時どうしていいか分からなかったので、椿さんに感謝です」
「はい、私もです……では情報を交換しましょうか」
 カメリアたちは、もう一度椅子に座ると緊張した雰囲気を醸し出しながら話し始めた。
「では、確認しておきたいのですが、コハネさんはどこにいらっしゃいますか? ランプさんに聞いたら知らないと言われましたし、うきちゃんに聞いても知らないといっていました」
「……こはねさんですか…実は最近どこかに行っているらしくて、会えていないんです」
「そうですか……わかりました、ありがとうございます では、あの魔物のことから話しますね」とカメリアは先週の里の近くの山で起きたことを詳しく話した。

23 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:10:18 ID:Hy/5MAcn2w
 見た目、魔法が効かなかったこと、ターゲットにした対象を執拗に狙うことなど共通点が多く、襲われた日が同じであったため、これが同じ魔物の仕業であると断定した。そして、クレアは魔物が結晶を摂取して姿が変わったことなどを話した。
「やっぱり同じ魔物ですよね……でもクレアさんたちが遭遇した時には、鱗に覆われていたんですよね?ほとんど脱皮みたいですよ」
「多分、形態変化ですね、カメリアさんを助けてくれたロザリアさんが破壊した鱗のことを考えると途中で結晶を食べて変化したというのが妥当だと思います」
「なるほど……変化というのは厄介ですよね、私とツバキちゃんの2人では全く手に負えなかったですし、もしかしたらウキさんと同じ状態になっていた可能性もありますし」
「……それは恐ろしいです あの状態については記憶を奪われて、幼児化させるものとおっしゃっていましたし、カルラさんがいなかったらどうなっていたか……」と、クレアは目を閉じた。あの時の記憶を探っているのか、暫くは指を空中で遊ばせていたが考えが決着したようで、目を開いた。

24 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:10:44 ID:Hy/5MAcn2w
「宇希さんには早く戻ってきてほしいです……」
「はい、そうですね…… そういえば、ツバキちゃんとうきちゃんは仲良く遊んでますかね?ちょっと心配になっちゃいました」
 カメリアは窓の外から見える景色を眺めながら言った。クレアもそれにつられ少し心配そうに窓を見たが、頭を振り「うきちゃんはいい子ですから」と微笑んだ。
「……ふふっ、そうですね 確かに、ちょっと過保護だったかもですね」
 そう言うとカメリアは部屋に視線を戻し、お皿に残っているお菓子を摘んだ。ほんのりと甘いクッキーで少し塩味も効いているのでお茶との相性も良く心を落ち着けるには十分だった。今度は穏やかな気持ちで窓の外を見た。

25 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:11:08 ID:Hy/5MAcn2w
 クレア宅の裏庭で、チモシーとうきは見合っていた。
「ヘーイ!ボクはチモシー キミの名前ハ?」
「わぁ! おしゃべりもできるの!?」
 うきは初めて見るものに、興味津々というように目を輝かせている。特に、喋るという点に意識が集中されているようで、腹話術のようにコソコソと端末に声を入れている椿には目が行っていないようだった。
「あたし、うき! さわたりうきだよ」
「オオ、ウキちゃんネ カワイイ名前だね」
「にへへ♪ かわいい〜?ありがと!」

26 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:11:37 ID:Hy/5MAcn2w
「ウキちゃん、何してアソブ?キミの好きなことをするよ、隣のお姉ちゃんもアソベるよ」とチモシーが言ったあとに椿は右手を控えめに上げた。うきはそれをちらりと見ると、視線をすぐにチモシーに戻し考え始めた。うーん、とかなり悩んでいる様子だったが、「じゃあ、かくれんぼ!!」と解放されたような大きな声で言った。
「隠れんぼね、わかったよ!でも、3人じゃサビシイからね」と、椿は端末の操作フォーマットを「チモシー」から「ミニチモ」に切り替え、『Activation』ボタンを押した。ミニチモは小型のチモシーといったような見た目で、コートの内ポケットに複数体が入っている。
 起動されたミニチモたちは自動的に椿のコートから飛び出し、うきの周りを手の届かないギリギリのところで跳ね回っていて、捕まえようと手を伸ばされるとサッと身をひるがえして躱している。そのまま同じことを何度か繰り返していたが、捕かまえることに興味が無くなったのか「チモシー」の方を向いた。

27 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:12:02 ID:Hy/5MAcn2w
「サッ、隠れんぼをしよう この子達はミニチモ、ボクのきょうだいだよ ウキは鬼がいいカナ?それとも隠れるホウ?」
「あたしおにがいい! みにちもつかまえる!!」と、うきは既にやる気のようで、ブンブンと腕をふって、待ちきれないという様子だ。
「いいねェ、やる気は十分だ ジャア、ルールを説明するよ もちろん、いいコのウキちゃんは聞けるよね?」
「んん!!うん!きける!!」と、そわそわとしていて、今にも動き出しそうだが、ぐっとこらえている。椿は彼女が我慢の限界を迎える前に、小さい子にわかる限界ぎりぎりの速度で端末に声を乗せた。

28 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:12:24 ID:Hy/5MAcn2w
「ルールはカンタン! その場で目をつぶって10秒数えてから、ボクとミニチモの合計4人を探すんだよ あと、椿おねえちゃんも鬼に加わるよ じゃあ、はじめよー!!」
 椿はそういうと、端末のチモシーの「操縦」モードを「自動操縦」モードに切り替え、ミニチモにも隠れるように指示を出すと数をすでに数え始めているうきに合わせて数え始めた。

29 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:12:44 ID:Hy/5MAcn2w
 かくれんぼの舞台となる裏庭は案外広く、大きく分けて菜園区画と作業区画に分かれている。菜園区画はきちんと手入れの行き届いた草花が生き生きと茂っていて視界が悪く、ミニチモが隠れる場所には事欠かない。そして、作業区画にもうきが遊ぶことを考慮して工具や農具などの尖ったものは極力排除されているが、肥料の袋や植木鉢などの障害物が多く、そこもまた隠れる場所が多い。
 チモシーは作業区画の肥料袋の陰に隠れた。そして、ミニチモ3体のうち、1体目は菜園区画の花壇の中のノーム人形風の置物のそば、2体目は菜園と作業区画の丁度中心の柵の上に、3体目は土の入った植木鉢の上に隠れた。

30 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:13:11 ID:Hy/5MAcn2w
 4体がそれぞれの場所に隠れ終わるころには、もうすでに9まで数え終わっていた。
うきは「じゅーう!!」と、大きな声でのカウントダウンが終わるやいなや、檻から放たれた動物のように地面を蹴って走り出していた。
 まず向かった先は菜園で、花壇の縁の部分に足をかけて植物の陰や裏側をかき分けている。肝心のミニチモの場所はうきが探している場所の裏側にいるが、植物の裏に隠れていると思っているのか、横にスライドしてどんどんと離れていく。
 一通り、花壇を探索し終わったうきは菜園をあきらめて、作業区画に向かおうとした。
「あっ!!みにちも!!みーっけ!!」と、柵の上にいたミニチモを指さし、鷲掴んだ。
「んふふ!!もうにがさないよ!あたしのもの!」
 捕まえたミニチモをオーバーオールのポケットにギュウと押し込んだ。これはある程度の大きさだがミニチモもある程度大きく先端しか入らないので、ポケットからずり落ちないように、ミニチモ側から掴むようにして安定した。うきはそれに満足そうに鼻を鳴らすとまた探索を始めた。次に向かった先は肥料の袋の山で、積み上げられた袋を両手でがっしりと掴み一歩一歩登っていく。

31 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:13:34 ID:Hy/5MAcn2w
「わぁ!いいけしき!」と山頂に登りきると周りを見渡してはしゃいでいる。
「あっ!うきちゃん危ないよ!」
「うん?あっ……!?」
 山頂で飛び跳ねていたうきだが、着地する時に足を踏み外して体勢を崩してしまった。
「危ない!!」
 そう叫ぶ前に、彼女を受け止めるために山の麓へ走り出した。
「うっ……あれ?」と、キョロキョロと不思議そうに周りを見渡していたが、目の前には椿の顔があり、それで山から落ちたのだと気がついた。

32 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:13:56 ID:Hy/5MAcn2w
「……間に合って良かった……チモシーも……ふぅ……うきちゃん、足元には気をつけようね」
 椿は諭すように、落ち着いた声で言うと地面にゆっくりと下ろした。うきはまだ落ちた現実を完全には受け入れていないようで、表情がふわふわとしていたが、地面に着いた時のズシリとした重さに乗って恐怖が感覚として襲ってきた。
「うっ…うわーん゛!! ごわ゛がっだぁよぉ゛!! あ゛りがどう゛ーー!!お゛ねーじゃん゛ん゛んー!!!」と、椿にしがみついた。押し付けられている部分は涙と鼻水で湿っている。

33 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:14:17 ID:Hy/5MAcn2w
 バタバタと暴れるように、顔を押し付けられていると、それに椿は1週間前の森での光景が重なり、自分が泣き止むまでただ撫でてくれた暖かい手のひらの感触がすぐ近くにあるような感覚がした。あの時彼女がどんな気持ちで撫でてくれたか、そして今何をすべきかが全てわかった。とても穏やかな気持ちで、彼女のように言葉を発することなく、一定間隔でうきの頭を撫でた。
 撫でていくと、うきも落ち着いたように嗚咽を漏らす回数が段々と減っていき、スースーと穏やかな呼吸音に変わっていった。椿はもしやと、撫でるのをやめて、顔を見たが目がしっかり閉じられていて、抱きついたまま気持ちよさそうに寝ていた。

34 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:15:02 ID:Hy/5MAcn2w
 考えてみれば、初対面の人に会うというのはかなりのストレスだ、それに重ねて山から落ちるまでは常に動いていたので疲労が溜まって眠くなるのは当然だ。そう椿は考え、「チモシー、ミニチモ集合!」と、端末に命令をしチモシーたちを集めると、追加でチモシーには”自動追従”ミニチモには”睡眠”を命令した。コートにミニチモを戻し、チモシーに服を預けると眠ってしまったうきをお姫様だっこの要領で抱き抱えると、家へと戻った。

35 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:15:24 ID:Hy/5MAcn2w
 椿たちが、家に戻るとなにやら3人の話し声が聞こえてきた。賑やかに談笑する声が聞こえるので、二人の知り合いかと思ったが、椿にとっては初めての人のため、気づかれないように足音を殺してリビングへと向かった。近づくごとに、話ははっきりと聞こえてきて、「こはね」という単語が耳に残った。それは、カメリアが恩返しをしたいと言っていた人物で、談笑している人物がこはねであるという予想が立てられた。扉の前まで到達し、聞き耳を立てるとこんなことが聞き取れた。

36 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:15:54 ID:Hy/5MAcn2w
「そういえば、宇希はどこにいるの?」
「うきさんは裏庭で、狭山椿さんと遊んでいます」
「さやまつばき……?」
「ツバキちゃんは、ジンジャー様のお屋敷にすんでいる、ツバキちゃんですよ」
「あっ!!わかった! ひづめがメイドで行ったときにあったひとだよね 狭山さんだったっけ?そのひと?」
「はい!そうです そのツバキちゃんです」
「へぇー!! じゃあ、挨拶しないとね 早く宇希にも会いたいし」と、椅子の引かれる音がし、足音がこちらに向かってきた。それに、椿はあわてた。このままでは盗み聞きをしていたのがバレてしまい心象によくないと思ったからであった。しかし、ここから逃げようにも、うきを抱えていて早くは動けなく、確実に後姿を見られてしまうので前進しか選択肢はないと思った。

37 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:16:12 ID:Hy/5MAcn2w
「あのー!カメリア、クレアさん、うきちゃんが疲れて寝ちゃって、抱っこしているから扉開けてください!」と、うきを起こさない程度の音量で言った。
「椿さん!ありがとうございます!」
「ツバキちゃん!今向かうよ!!」
 その声の後にどたどたと床を蹴る音が聞こえて、すぐに扉が開けられた。春の風のようにこちらを迎えてくれたカメリアの横には、桃色の髪に紅い瞳をもった少女も傍に立っていて、この人が「コハネさん」であると瞬時に理解した。

38 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:16:33 ID:Hy/5MAcn2w
 こはねは椿と、その腕に包まれているうきの存在を認めると、一歩踏み出した。「君が狭山さん?ありがとう!うきと遊んでくれて感謝だよ」と、笑顔で話しかけた。
「あぁあ…ど、どういたしまして…… あの……うきさんを……」
 こはねの笑顔にしどろもどろになりながらも答え、腕に抱えたうきをこはねに渡そうとすると「狭山さん、ありがとね」と椿に体を寄せて密着するように受け取った。
 ゆっくりと彼女を起こさないように受け渡しは行われ、うきはこはねの腕の中ですやすやと眠っている。
「クレアちゃん、宇希をベッドで眠らせてくるよ」と言うと、クレアはこはねについて部屋を出ていった。

39 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:17:15 ID:Hy/5MAcn2w
 その後ろ姿を見送った二人は、顔を見合わせた。
「お疲れ様、ツバキ」
「うん……すっごい大変だった」
「あれ、コートは?」
「コートならチモシーが持ってるよ、ちょっと汚れちゃったから」と、コートを着たチモシーを前に出した。
「わーっ! かわいい!!ミニツバキだね っと、ここだね汚れた場所は」
「まぁ、鼻水と涙だから、洗えばすぐに落ちるよ」
「そうだ! 私たちなら、この汚れ一瞬で落とせるよ!」と、コートの汚れを指しながら言った。

40 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:17:46 ID:Hy/5MAcn2w
「へぇ〜 そんなことができるんだ じゃあ、おねがい」
「ふふん!じゃあ!!」と、カメリアは得意げに鼻を鳴らすと、魔法の詠唱を開始した。彼女の口から出る言葉は龍の言葉らしく、一言いうごとに魔力の動きが肌で感じることができるほどに動いていた。しかし、これには森で感じたような威圧感はなく、椿は穏やかな気持ちで詠唱を見ることができた。
『融和する炎と水 極小』
 音のない咆哮の後に、水に包まれた炎の球体がカメリアの手のひらから放たれ、コートの汚れた部分に触れた。小さな球体は小さく炎を噴き上げると、上から水が汚れを含めてすべてを包み込み消滅した。

41 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:18:29 ID:Hy/5MAcn2w
「よーし、おわったよ」と、手をパンパンとはたくと、満足げに上体を反らした。
「すごい、濡れてないし焦げてもない」
「当然、洗濯玉はすごいんだから」と、また誇らしそうに言った。
「えっ?洗濯玉?」
「そう、洗濯玉だよ!」
 椿はあまりにもな名前に耳を疑い聞き返したが、この名前を気に入っていそうな口ぶりで、それ以上は言葉が出てこなかった。
「うん、いいね……」
「うん! ただ、さっきのはデモンストレーションのためにやったから、ほら!『融和する炎と水 小』すぐに出せるよ」と、一瞬で先程よりひと回り大きい球体を出すと『消失』の言葉を唱え一瞬で消した。
「本当に便利だよ、洗濯玉」
「へぇー!すごい魔法だね」明後日の方向から元気な声が聞こえた。
「そうでしょ?って……あれ?」
 カメリアは予想外のところから話しかけられて、周りをキョロキョロとしたがすぐに声の主を発見した。

42 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:19:01 ID:Hy/5MAcn2w
 カメリアは予想外のところから話しかけられて、周りをキョロキョロとしたがすぐに声の主を発見した。
「コハネさん!ありがとうごさいます! そうだ、洗濯物などあったら全部片付いちゃいますよ」
「ううん、それは大丈夫だよ それより、お昼ご飯食べに行かない?たぶん宇希が起きるのがお昼過ぎになりそうだし」
「いいですね! ……あっ、すいません」と、後ろいた椿に振り向いた。
「ねぇ、ツバキ 今からご飯を食べに行くけど行けるかな? 多分、大人数で食べることになりそうだけど……」
「ううん……、カメリアが……そばにいてくれるなら」
 椿は少し悩んだあと、これが答えとばかりにカメリアの手を握った。握った掌からは勇気を貰え、暖かい気持ちが溢れるようだと思った。それにカメリアも笑顔で握り返すと、こはねに一緒に行く旨を伝えた。

43 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:20:36 ID:Hy/5MAcn2w
「うん、大勢で食べた方がもっと美味しくなるからね あと、クレアちゃんは先に行ってもらったから、さっそく出発しよう!」と、鍵を取り出しジャラジャラと鳴らした。
「わかりました、さっ、ツバキちゃんいこ」と彼女の手を引っ張ってついていこうとしたが、手を逆に引っ張って拒否を示した。それに不思議な顔をしていたが、もじもじしている彼女の姿を見て、トイレに行きたいけれど言い出せないのだと何となく理解した。
「うん、わかったよ ツバキ、コハネさんには言っておくよ」と、小声で伝えると手を放し「お手洗いはそこのドアを行った右の先だよ」と付け足した。
「うん、ありがとう」
 椿は背中に言葉を受けそそくさと扉を開け、言葉通りに右へ進んでいった。

44 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:21:37 ID:Hy/5MAcn2w
「コハネさん、戸締りは私たちがするので先に行っていてください」
「いいの?」
「はい 私は戸締りの番人なんて呼ばれてましたから」
「ふふっ、じゃあ、お言葉に甘えるね!ライネさんの食堂は分かるよね?」
「はい、わかります」
 カメリアはこはねから鍵を受け取ると、彼女の後姿を見送った。そのあとは貰った鍵を回しながら、静かになったリビングを少し歩き回っていたが、それでは暇がつぶせないため、弟のティラ・ミルルスに話しかけた。

45 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:22:08 ID:Hy/5MAcn2w
「ねぇ、ティラミスちゃん なんかコハネさん、前にあった時と魔力の質がかわってたよね?」
「……?」
「そうかなぁ? なんか先生と質がほとんどおんなじみたいでね」
「……。」
「私の考えすぎかな」
「……。」
「うん、そうだね おやすみ」
 カメリアはティラにおやすみを告げると、また鍵を回したり手を洗ったりして時間をつぶしていたがそろそろ時間だと思い、廊下に出た。

46 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:22:29 ID:Hy/5MAcn2w
「おおグッドタイミング」と元気な声とともに彼女に近づき、手を握った。
「わっ!ツバキも冷たい」椿の冷えた手に少し驚いたが、すぐに体からの熱が掌に伝わりひんやりする程度になっていた。完全にお互いの体温が伝わる前に、カメリアはこはねの代わりに戸締りをすることを伝えた。事前にクレアと窓は閉めていたので、残るは玄関と裏庭への扉だけであることも伝えた。
「じゃあ、手分けしてカギ閉めよっか ツバキは裏庭をお願い」と、鍵の束から裏庭と書かれた鍵を渡して廊下を曲がっていった。

47 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:22:58 ID:Hy/5MAcn2w
 また一人になった椿は、渡された鍵を握って裏庭に向かうと鍵を閉めた。そして、ポケットにしまうとカメリアと合流するために玄関へ向かった。玄関に向かうまでの道は、雑木林のようになっており薄暗く、暖気と冷気の差がハッキリと感じられるほどになっていた。通り道には申し訳程度に石畳があり、そこを早足で駆け抜けた。
「ツバキ!おつかれ」と温かな場所に足を踏み入れると、光を集めたような元気な声が聞こえてきた。すぐさまそちらに目を遣ると、路地裏の薄暗さを完全に消し去るような笑顔が待っていた。
「カメリア 日が当たらない場所ってすっごい寒いんだね」
 そういうと、また彼女の手を握った。秋が深まった空気は手を冷やすには十分で、体温を分け合って、温めあいながらライネの食堂へ向かった。

☆☆☆

48 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/30 00:23:54 ID:Hy/5MAcn2w
前編はこれで終了です。
認識としては、宇希先輩とうきちゃんは別人という感じです。

49 名前:ペンギノン (あおちゃんSSの人) [age] 投稿日:2023/12/31 00:35:51 ID:KG/zCn5kch
拝読しました! きん!! ぱつ!! きん!! ぱt (ry
限界オタクカメリアさんかわいい。カメリアちゃんの前では少し砕けた感じになる椿ちゃんもかわいい。
うきちゃんと遊ぶ役目を自ら引き受ける椿ちゃんが逞しくてほんと... いいね...
そんな中、さりげなくこはねさんがつよつよになってる気配。まぁ、きらファンでもかなり強かったし少しくらい盛ってもばれへんか...
前半投稿おつかれさまです! 後半も楽しみにしてます!

50 名前:カレル[age] 投稿日:2024/01/01 10:14:14 ID:kk.1GqrCXE
ペンギノンさんいつもありがとうございます!

カメリアは好きなものに全力投球をしがちなので、感動、愛情、感情表現がちょっとオーバーな感じになっちゃいます。
 こはねの異変については、一年前から書きたかったある話につながるものなのでお楽しみに。

51 名前:カレル[age] 投稿日:2024/01/08 00:46:50 ID:ZtioaBLtMf
 椿とカメリアは、地図を頼りにライネの食堂に向かっていた。だが、クレアの家の時とは異なり地図に印などは書いていなかったために、探すところから始まった。
 カメリアは一通り地図に目を通し、指で紙面をなぞりながら歩いていたが、『里』の中心にある転移ゲートから南西の方角に5センチメートル(現実では50メートル)ほど進んだところに建築物が集まった商店街が描かれていて、その中に小さく「ライネの食堂」と書かれていた。
 カメリアは見つけた喜びで小さく微笑むと、隣でチモシーを操作して探してもらっていた椿にもその情報を共有し、先に行った2人をこれ以上は待たせない為にも足早に食堂へ向かった。地図通りに石畳の道を歩いていくと建物と建物の間から転移門が見え隠れしていて、ライネの食堂も近くにあることがわかった。

52 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:47:14 ID:ZtioaBLtMf
 転移門の広場に出ると、里の中心だけあっていろいろな人々が通りを歩いていた。その中にはどこかの学校の制服やカジュアルな洋服など、異風な装いをした少女もいて、クリエメイトであることが予想できた。それに椿はできるだけ目が合わないように下を向いてカメリアについていくように、通りを抜けると”食堂”と書かれた看板が見えてきた。
「あっ!コハネさんクレアさん!ほら、ツバキ待っててくれているよ」と、カメリアは食堂の入口で待っている2人を指さし、椿の手を握ると足早に彼女達の元へ走り出した。
「お待たせしました!」と、声をかけるとクレアは少し心配したような表情をしていた。
「カメリアさん、遅かったですね 迷っていたんですか?」
「あはは〜、ちょっと結構人が多くて、なかなか進めなくて」
「そうですか、確かに休日なのでひとは多いですね 食堂も大盛り上がりですから」
「そうそう、予約をとってもらってよかったよ」と、隣で聞いていたこはねはクレアに相槌を打つち「さっ、ごはんたべよ」と食堂の扉に手をかけて入っていった。残った3人も、彼女の後を追って扉をくぐった。

53 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:47:35 ID:ZtioaBLtMf

 食堂は、料理の香ばしい香りと活気にあふれていた。方々から飛ぶ注文の声、談笑の声、そして料理が作られていく過程の調理音、それがカメリアには面白く映り、まるでテーマパークにいるようだという感想を持った。その感情に合わせてやわらかめの刷毛のような尻尾が左右に揺れ動いていて、後ろに密着するようについていた椿の膝から上をくすぐっていた。
「んっ……ちょ、ちょっとくすぐっ……たい……カメリア……」と、我慢ができずに小声で彼女の肩をつついた。
「へぇ?なぁにツバキ?やっぱり人が多いのは苦手?」
「んっ!そういう……わけじゃないけど…はわっ……」
「ふふっ、呼んでみただけ?まぁ、ご飯はたのしみだよね!」
 カメリアは肩越しに振り向いたが、丁度赤面している椿の表情が見えずに、的外れなことを口にしてすぐに顔を正面に戻してしまったため、無意識の尻尾のくすぐり攻撃がやむことはなかった。結局、言い出すこともできず、かといって彼女から離れることができずに、耐えることしかできなかった。

54 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:48:05 ID:ZtioaBLtMf
 カメリアは椿に密着されて歩きにくそうにしていたが、こはねの後を追って歩いていると、「こはねちゃん、こっち!」と声が聞こえてきた。そこに視線をやるとテーブルにこちらへ手を振っている少女がいた。そのテーブルには、あと3人いて奥にいた赤髪の少女は待ちかねたような表情をしていた。
「あっ!こてっちゃんおまたせ〜 みんなも〜!」と、こはねも少女たちを見つけて、カメリアのようにアホ毛が揺れていた。
「って、いうかこはねちゃん、いきなり帰ってきてすぐいなくなっちゃうんだから クレアちゃんもこんにちは〜 あれ?後ろの人たちは?それにうきちゃんは」と、彼女の視線がこはね、クレア、カメリアと順に進みクレアの挨拶を聞き終わると、こはねに視線を戻して説明を求めた。

55 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:48:26 ID:ZtioaBLtMf
「ああ、えっと……この子はカメリアちゃん、そして、後ろにいるのが狭山さんだよ クレアちゃんの家で会ったんだ〜」
「狭山さん……。はっ!狭山椿さんですか!私です、有馬ひづめです」と、椅子に座っていた黒髪の少女が立ち上がり話しかけた。
「……あ、あの……メイドの研修にきていた……有馬さん?……お、お久しぶり……です」椿も覚えていたために、挨拶を返すことができた。これは恥ずかしさが、カメリアのくすぐりによって上書きされていたために、目を合わせないまでも人見知りが緩和されたためである。
「お久しぶりですね ジンジャーさんはお元気ですか?」
「は、はい…… すっごく元気、です……」
「まぁ、立ち話もなんだし座ろうよ」と、こはねはテーブルを見回し回り込むと黒髪の少女が座っている奥の方の椅子に座り、クレアもそちらに座った。そしてカメリアたちは、手前の椅子に座った。
「こんにちは、隣いいですか?」と、無表情気味のブロンド髪の少女に断りをいれ座ると、椿も座った。

56 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:48:45 ID:ZtioaBLtMf
 全員が座るのを見ると、こはねは咳ばらいをして話し出した。
「えー、みんな久しぶり!私は少し野暮用でちょっと出かけていたけど元気だったかな?宇希が残念ながら遊び疲れて寝ちゃってこれないけど、カメリアちゃんたちと一緒に食べることになったよっ!というわけでカメリアちゃんの自己紹介タイム!カッコイイ名乗りをお願い!」と言い終わると後を任せるように席に座った。
 その、いきなりのお願いにカメリアは予め知っていたように、立ち上がるとポーズを決めて語りだした。
「はーい!只今ご紹介に預かったカメリアです!大魔法使いカルラの弟子で、七賢者ジンジャーの門下生ですっ☆!よろしくねっ♪!」そう言い終わると大きく息を吐き出して満足げに席に着いた。

57 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:49:09 ID:ZtioaBLtMf
 それを聞いた反応はそれぞれで、黒髪の少女は表情にはあまり出していないが、ワクワクしているような雰囲気が感じられていて「はい、カメリアさん 私は大地駆ける疾風、有馬ひづめです!」と、彼女に触発されたかのようなテンションで言った。
赤髪の少女とこてっちゃんと呼ばれた少女はこはねの顔に穴が開くほどの視線を送っている。二人はため息をつくと、赤髪の少女が「牛久花和よ カメリアさんよろしくね」といい、こてっちゃんと言われた少女は恥ずかしそうに「舘島虎徹です」といった。そして、隣のブロンド髪の少女は尊敬のまなざしを送っていた。
「アリマヒヅメさん、ウシクカナさん、タテジマコテツさん うん!よろしくお願いします!」

58 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:49:27 ID:ZtioaBLtMf
 隣に座っていた椿は完全に気配を殺すことに努めていた。もう、くすぐり攻撃で限界であったし、絶対に自己紹介をしたくないという考えが表に出ていて、そして共感性羞恥から身を守るためにコートで顔を隠していた。自己紹介が終わると、頭にかけていたコートを取り椅子の背にかけた。かくして、昼食の時間が始まった。

59 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:49:56 ID:ZtioaBLtMf

 椿はメニューを探しキョロキョロとし、カメリアに話しかけようとしたが「あのー、カメリアさんでいいんですよね?」と、先にブロンド髪の少女がカメリアに話しかけた。その瞳には興味の色が浮かんでいた。
「はい、カメリアです えっと……あなたのお名前は?」
「あっ!そうですよね 私は稲葉兎和です」
「イナバトワさん……はい! トワさん、よろしくお願いします!」と、彼女の手を握った。兎和はそれにびっくりとして、目を大きくしたが、それ以上は態度には表さずに「はい、お願いします」と、返した。

60 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:51:12 ID:ZtioaBLtMf
「あの……メニューです」
「ありがとうございます!」
 兎和から受け取ると、「ツバキ、何食べたい?」と隣にいる椿の前にメニューを開いて見せた。メニューには、色とりどりの料理の写真が貼り付けてあり、カメリアはそれを視ながら食欲が抑えられないといったように少し変な笑顔を見せている。1ページ目はサラダ類、2ページ目はスープとジャンルに分けられていて、カメリアがめくるため彼女の興味によって飛ばされるページもあった。特に魚のページはかなりのスピードでスキップされていた。
 椿は慣れない環境に戸惑いながらも、写真をみてサラダとサンドイッチ、飲み物はコーヒーを注文しようと考えており、彼女に伝えようとした。

61 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:51:30 ID:ZtioaBLtMf
「あの……カメリアさん、あの私まんがを書いているのですが……」
「まんが?」カメリアはメニューをたたんで、兎和の方を向いた。
「はい、カメリアさんをモデルにしたいなと思いまして」
「モデルですか?いいですけど、私は何をすれば?」
「スケッチと私の質問に答えていただければ大丈夫です」
 兎和は椅子の下に置いてあったバッグから、スケッチブックを取り出すとすぐさまスケッチを始めた。

62 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:52:10 ID:ZtioaBLtMf
 兎和は椅子の下に置いてあったバッグから、スケッチブックを取り出すとすぐさまスケッチを始めた。
「あの、ポーズとかした方がいいですか?」と、腕を上にあげたり、服のヨレを直したりしている。
「だいじょうぶです、自然のままでやっていただければ、こっちで補正します」
「そうですか、では ……ツバキ、注文きまった〜?」と向き直った。
「わっ!びっくりさせないで、注文は決まったから!」話す相手がおらずメニューの写真をひらすら眺めていたために不意打ちの形となってしまった。
「うん!私も決まったよ コハネさ〜ん、注文決まりました」
「わかったよ!私たちも注文決まったから、ライネさ〜ん注文お願いします」と、椅子から立ち上がり厨房に呼びかけた。が、こはねが席に着くと同時に、桃色の長い髪をなびかせた女性が彼女たちの席の前に立っていた。

63 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:52:32 ID:ZtioaBLtMf
いきなり現れた女性にカメリアは驚きとともに、彼女からあふれる膨大な魔力の気配を感じ、ただものではないと悟った。そしてカメリアはあることを思い出していた、それは昔冒険者をしていた母親から聞いた”勇者ライネ”の話である。店の名前が「ライネの食堂」で、特に関係がないと思っていたが、この身のこなしを見せられては彼女が伝説の勇者である可能性が湧いてきて、それを確かめたいと思った。
 しかし、こはね達が先ほどの登場に動じていない所を鑑みると、これが日常なのだなと思って、それを崩したくないと考えたのでその場では口には出さなかった。

64 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:52:56 ID:ZtioaBLtMf
「ご注文は?」とのライネの問いにそれぞれ思い思いの料理を注文していく。
 こはねはハンバーグ、ひづめは野菜たっぷりの魚介パスタ、花和はスパイシーチキンとベイクドポテト、虎徹と兎和はミートスパゲティ(虎徹は大盛り)、クレアはミートパイを注文した。椿の注文はカメリアに代わりに言ってもらい、カメリアはビーフの香草焼きを注文した。
「わかったわ、少し待っててね」と言うと、また一瞬で視界から消えてしまい、厨房からは調理音が再開した。
 カメリアはライネのことを、伝説の勇者であると訝しんだため厨房に注目を集めていた。そして席で注文のコールが上がるごとに転移のように椅子の前に現れては消える神出鬼没な姿を観察していた。動く瞬間に残像は見えるので瞬間移動していることはわかるが、このごった返した店の中でどんな動きをしているのかは全く想像ができなかった。そのまま、観察を続けていると「あの、カメリアさん、質問いいですか?」と聞こえたので視線を戻した。
「はい!いいですよ なんでも聞いてください」
「はい、言いにくい質問だったらスルーしてくださって構わないです」兎和はメモ帖を取り出すと書き始めた。

65 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:53:27 ID:ZtioaBLtMf
「では、身長と年齢を教えてください」
「身長ね、確か……143センチで、16歳です」
「143センチ、16歳……あっ、年上なんですね……はい では、好物はなんですか?」
「私はケーキが大好きです。特にね!デルラさんが焼いてくれたケーキがおいしくてね、それが一番好きかな あとは、お父さんが作ってくれたパイかな〜」
「ふむふむ、ありがとうございます ……では、体重とか?」
「えっ……体重……?それもいうの?」そのとき兎和の隣で体重に反応して聞き耳を立てている人物がいた。

66 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:53:54 ID:ZtioaBLtMf
「はい、言わなくても大丈夫ですよ 参考までに聞くだけですから」
 カメリアは少し悩んだが、特に不都合も生じないと思ったので言うことにした。
「私の体重は結構前に量ったんですけど、その時は32キロでした、今の体重は分からないので申し訳ないですが……」
「あっ!いえ!ありがとうございます……えっと、次の質問いいですか?」
「はい、だいじょうぶですよ」
 カメリアの特に気にしていなさそうな反応に密かに胸をなでおろすと、次の質問を用意した。

67 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:54:19 ID:ZtioaBLtMf
「えっと、カメリアさんはカルラさんと七賢者のジンジャーさんのお弟子さんなのですよね?弟子とは普段どんなことをしているのですか?」
「そうですねぇ、基本的に魔法使いの弟子は割と雑用が多いですね。実験の手伝いなど、ただ、現代魔法はあまり面白くなくて……あと、ジンジャー様の弟子になったのはほとんど1週間前なので語れることはないですね」と、苦笑を浮かべ「それ以外だと……そうですね……龍術、ですね。龍術は言葉の力なので発音練習とか、やってくれます”お主らは自然にやっているせいで音を軽視している”とよく言われます」声の調子を変えて、別人の声を演じる。

68 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:54:47 ID:ZtioaBLtMf
「あの……!龍術とはなんですか?あと、現代魔法とは、私たちが使う魔法のことですか?」
「はい、そうです!でも、普通はただ”魔法”と言いますね、それとは別に古代魔法とその前身の龍術があります。まあ、古代魔法と龍術はイコールと考えてもらっていいです。 龍術は、今は限られた龍やヒトが使用する体系の違う魔法で、簡単に言うと音と意味と感情によって現象を引き起こす力です」
「そうなんですか……、それがカメリアさんは使えると」
「はい!」
「ありがとうございます……」
 兎和はメモ帳に先程聞いたことを書くと、「あの!カメリアさん、あの尻尾とかお耳などは自分の意志で動かせるのですか?」と、1番興味が溢れている表情で聞いた。

69 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:55:05 ID:ZtioaBLtMf
「ああ、そういえばうきちゃんにもそんなこと言われたな……」と兎和に聞こえないようにつぶやくと「はい!触ってみますか?」と、尻尾を彼女に向けた。空気を含んでふわふわの尻尾は顔の前を空間をかき混ぜるかのようにゆっくりと扇状に動いていて、あまり外へ出ないためケモケモしたものに触れる機会が無かった兎和にはかなり魅力に映っていた。震える指で彼女の尻尾の毛先にちょこんと触れ、手を離した。
「大丈夫ですよ、深くまで行っても!」と、うきのように触られると思っていたカメリアは少し不満そうに言った。
「は、はい……」と、カメリアに促されるまま尻尾の中心に手を入れた。ズボッという擬音が聞こえそうなほど毛の密度が高いところに指を入れ、芯になっているところを摘まむと一度手を離し再度摘まんだ。

70 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:55:20 ID:ZtioaBLtMf
「あっ……意外と尻尾って細いんですね それに結構硬い……」と、2度目の感想を口にすると指を離した。そして、その感触を忘れないうちにメモ帖へ何かを書き込むと頭を下げてお礼を言った。
「どんな感じかわかりましたか?では、耳とかも触ります?」と頭を下げて、けも耳が触りやすいように近づいた。
兎和も「はい、では失礼します」とノータイムに近い速度で反応すると、今度はゆっくりとだが指は震えずに触ることができた。
「……ふむふむ、すっごく触っていて気持ちいいですね サラサラというか、なんというか髪の毛のようなキューティクル感ではなく、なんでしょうか……」
 兎和は耳を触りながら、それに似たような感触のものを思い出そうとしていた。

71 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:55:43 ID:ZtioaBLtMf
 カメリアの方じっと耳の先端から付け根まで丹念に撫でまわされている。普段は触られることのない部分なので、尻尾と同様に奇妙な感覚に陥っていたが特に不快なものではなかったため、兎和のされるがままになっていた。しかし、それを横目で見ていた椿は、見てはいけないものを見ているような感覚を覚えて目を逸らして、メニューの写真を眺め続けていた。
 そのまま触り続けていた兎和だが、やっと似たものへの連想が終わったのか、けも耳から指を離した。
「そうです、アレですね買ったばかりの筆です!」
「筆ですか?へぇ〜」頭を上げて興味深げに彼女の顔を眺めるが、いまいちイメージがわかなかったためにそれ以上は何も言うことが見つからなかった。
「ありがとうございます、カメリアさん いい資料になりそうです」
「はい、どういたしまして!」
「あの、お礼をしたいのですが……なんでも仰ってください」
「お礼ですか……う〜ん、お礼……」カメリアが悩んでいると「はーい おまたせ〜」と、おっとりとした声が聞こえ、料理がテーブルにサーブされ始めた。

72 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:56:00 ID:ZtioaBLtMf
 ピークが過ぎた店内はある程度落ち着き、足の踏み場があるので配膳用のカートに料理を乗せていた。今回は余裕があるのか、目に見えない速度ではなく、捉えられるスピードで配膳されている。ライネはほんわかとした笑顔を絶やさずに、ひづめの方から料理を置いていく。
 今まで従業員らしき人をみていないので、一人でこのラッシュをさばいてきたとは思えないほどの余裕のある表情で、エプロンは汚れておらず、額からは一滴の汗もかいていない様子にカメリアは確信を強めていた。

73 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:56:20 ID:ZtioaBLtMf
「はーい ビーフの香草焼きは、そこの子ね」と、料理を持ってカメリアの隣にきた。
「はじめましてね、お名前を教えてもらってもいいかしら?」
「はい、カメリアと申します! あの……つかぬ事をお聞きしますが、あなたは伝説の勇者 ライネ様ではないでしょうか?」
「そうね、元だけれど…… 誰かから聞いたの? あと、”様”はやめてほしいわ」小声でいうとゆっくりと料理を置いた。
「あっ、すいません…… えっと、母が良くあなたの話を聞かせてくれたのでとそうではないかと」
「そうなのね、あなたのお母さんは元冒険者かしら?」
「はい!そうです ライネ様に助けてもらったことがあってですね、すっごく強いんですよね?確か山を砕いて並みいる魔獣を戦わずして退けたり、山ほどはあろうという魔物を一撃でしとめたり、そう聞いています!」
「そ、そうなのね…… あの、他の子の料理もあるから、あとで話しましょう……」
「はいっ!」
 ライネはキラキラと瞳を輝かせているカメリアからいったん目を逸らし、椿にサンドイッチとサラダを配膳すると、笑顔を絶やさなかったが、そそくさと逃げるように厨房へ戻っていった。

74 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:56:41 ID:ZtioaBLtMf

「へぇ〜 ライネさんの勇者時代の話ってあんまり聞いたことなかったけど、そんなにすごいの?」と、ハンバーグを切りながらこはねが興味津々に聞いてきた。
「はい!お母さんが言うには本当にすごいらしいです」
「そうなんだ!う〜ん……その話ライネさんから聞きたいけど、宇希が起きたら嫌だし、あとで聞かせてね」
「はい、わかりました!」そういうと、ナイフとフォークを持ち、大ぶりのステーキにナイフを入れた。切られた断面からは肉汁があふれ、熱された鉄板と触れ、ジュウジュウと音が鳴っている。一口に食べられるサイズまで切り分けると、やけどしないように十分にフーフーして冷ますと口に運んだ。

75 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:57:02 ID:ZtioaBLtMf
「んん〜!! おいひぃ!……んんっ!ふぅ ツバキすごいおいしいね」
「……うん、そうだね」満面の笑みをちらりと見ると、サンドイッチをかじった。あまりおいしく感じていないのか、彼女に見せないように、押し込むように食べている。
「うん、いいね!」そういうと、付け合わせの野菜をソースに絡めて食べた。ブロッコリーがその中で好きなのか嬉しそうに咀嚼をしていたが、その余韻が残らぬまに熱々の肉を口に運んだ。鉄板の温度が適温に下がったころ、ナイフとフォークを動かす頻度が多くなりどんどんと皿に盛られたライスが減っていく。
 最後の鉄板に残った肉を名残惜しそうに眺めると、口に慎重に運び、お皿が空になった。

76 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:57:47 ID:ZtioaBLtMf
テーブルに置いてあったナプキンで口の周りを拭き、「ごちそうさま」を言い、食事が終了した。他の人も料理を食べ終わったようで、事前に運ばれていたデザートを楽しんでいる者もいれば、食後のコーヒーを楽しんでいる者もいた。
 全員の食事が終わったことを確認すると全員からお金を回収し、こはねは注文票を持ち会計に行っていた。会計が終わると、それぞれ立ち上がり食堂からでると、その場でこはねたちとは数回ほど言葉を交わした。特に兎和にはお礼として、「漫画を描き終わったら真っ先に見せてほしい」と言って、住所の紙を渡してまた会おうねと別れた。

77 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/08 00:58:03 ID:ZtioaBLtMf
 カメリアはライネと話したいとの理由でもう一度食堂へ戻ることにしていた。それに椿も誘ったが、「ボクは花小泉さんの所へいっているんだから、もう……!」と言っていて背中を向けると彼女に聞こえないように「カメリアのバカ」といい、一緒に行くことはなかった。不機嫌な顔をしていたが、それにカメリアは気づくことなく、あとで追いつくと言って戻っていった。

78 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2024/01/08 11:43:52 ID:9v/RtjZ3E7
ちがう作品のキャラであるジンジャーは呼び捨てにするくらい親しくしているのに同じ作品のキャラであるはなこのことは名字呼びのままで親しくしていないというのはすごく不快です。やめてほしい。

79 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2024/01/09 16:01:11 ID:7Hs6CReQET
短編の方で公開してる母親に比べて小柄ですね…まあ体格は遺伝するとは限らないですが
このコンビ、会食は好きと苦手に分かれてしまいますね

80 名前:カレル[age] 投稿日:2024/01/09 22:37:14 ID:lfYbquxkix
>>79
本人はまだ胸も身長も伸びると思っているので、温かい目で見守ってあげてください。

これは完全に性格が出てしまうやつですね、話せる相手がカメリア、次点がクレア、そしてそれ以外はほぼ初対面なので、カメリアと話せないと彼女にとっては地獄のような場所だったと思います。

81 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2024/01/09 22:47:45 ID:0A.nQSCbPW
前のssで椿とジンジャーを親しくしさせ、その後呼び方を変えさせているのにはなこの呼び方は変えていない。つまり椿ははなこと親しくなる気ないということですか?

82 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2024/01/10 12:52:14 ID:PG/pr3TNxZ
椿はキャラシナリオのときにライネの食堂に行っていますのでライネの食堂の場所は簡単に分かるはずですよ。

83 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2024/01/14 10:43:15 ID:SYF8IWZWl.
このssで椿とひづめは一回目のメイドイベントでしか面識がないことになっていますけど、二回目のメイドイベントのときに椿とひづめは会っていますよ。それから球詠参戦イベントの時に里で野球が流行り、椿を含めたあんハピ♪メンバー達は野球のチームを作っています。野球のチームを作っている以上試合をしたり観戦したりしているはずなのでチアでどこかのチームの応援をしているひづめと会う機会はあるはずです。

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