「見て下さいミポリン!この土星の模型なんてどうですか? ぶら下げれば宇宙旅行も出来そうですよ!」
「そんなもの邪魔になるだけでしょ! まあでも、壁に星の壁飾りくらいは良いんじゃない? あんたの好きな星座で良いから。」
「じゃあ勿論天秤座です! ミポリンの牡羊座も飾ってあげますよ!」
「はいはい、ありがとうね。」
「いつまで寝てるの!いい加減起きなさい!」
「ミポリン酷いですー!眠っている人魚を起こしちゃダメですよー!」
「何よ人魚って…。」
「この布団カバーは海ですから、これで寝ているユタカは人魚です!」
(あの子と一緒だったらこんな会話でもするのかな?)
そんなことを思いながら私はインテリアショップで生活に必要なものを見ている。今年度から大学生になり、今まで住んでいた家を出るために。
色々と候補がありすぎて、今日の所はカタログだけ貰って帰ることにした。
あまり自慢はしたくないけど、私は早々と合格を決めていた。だから、あの子の受験勉強に付き合うことも出来た。
そういえば高校に入る時の受験もこんな感じだったな…。
中学2年で出会ってからずっと一緒だったあの子、ユタカは第4第3第2希望と不合格が続く中、本命の第1希望に見事に合格できたとか。
あの調子で、それも前日は夕方まで居眠りしていたのに合格できるなんて、相変わらずその勝負強さはちょっと羨ましい。
そんなユタカと私は希望する進路が全く違う為、大学からはついに離れることになる。
「ノートの写し漏れがあって、見せてもらえませんか?」
このやり取りがユタカとの出会いだった。
初めはそれっきりのはずだったけど、翌日からいきなりミポリンと呼んできて、それからも何かと付きまとわれるようになって、仕舞いには高校まで一緒になってしまった。
私も私でいい加減なユタカを放っておけず、つい色々と相手をしてしまっていたけど…。
本当のことを言うと、あの頃はユタカのことが嫌いだった。
ユタカのせいでリモコンなんてあだ名を付けられ、貸した宿題は提出日なのに忘れられ、知られたくない体重もバラされる始末。
2人組になる時はいつもユタカに絡まれ、他の友達と組むことも出来なくなってしまった。
ある日我慢の限界が来て、本人に面と向かって言ってしまったことがあったけど、あの時自分が言ったこととその時のユタカの悲しい表情はずっと忘れられない…。
いくら腹が立ったからって、あんな言い方しちゃったなんて…。本当はすぐに謝りたかったけど、気まずくて中々それが出来なかった。
それから少しして、放課後に偶然2人きりになり、ユタカが泣きながら謝ってきた。
あまりに泣きすぎるユタカに、つい私ももらい泣きしてしまい、あの時酷いことを言ったことを謝った。
ユタカと出会ってからは散々な思いをしてきたけど、それでも今までこれ程に私に懐いてきた子はいなかった。
「怒った所なんか想像できない非の打ち所がない子」
そう思われるような友達付き合いしかしてこなかった私が、初めて自分の本音を全部出せた相手、それがユタカだった。
普段は優等生と言われた私も、自分から謝ることもできないくらい十分に子供だということを思い知らされた。
高校進学の時には、私と一緒が良いと偏差値が大幅に上の高校を志望したユタカ。
受かるはずがないと思いつつも受験勉強に付き合ってあげたら、今までの模試の結果を覆して見事に合格を決めた。
高を括って「合格できたら食事を奢る」なんて約束したから、高い焼肉屋に連れていかれもしたけど…。
そして高校に入ってからは、私達2人はあのトオルさんと出会った。
ユタカも私も、何でも出来るのにそれを鼻にかけず、いつも冷静でかっこいいトオルさんに憧れたことで、この時ほど意気投合した時はなかったと思う。
私は話しかけるタイミングを掴めずにいる中、ユタカは持ち前の積極的な性格を武器にトオルさんにグイグイと接近し始めていた。
結果、私が付き纏われるのは減ったけど、どこか物足りないような空しい気持ちにも襲われた。
(今までミポリンミポリン言ってずっと私にベタベタしてきたのに、今はトオルさんにばかり…。)
トオルさんに迷惑だからと無理やり引き剥がしていたけど、本当はそれだけでなく嫉妬心もあったのかも知れない。悔しいから認めたくないけど。
でもユタカがいなければ、私1人ではトオルさんと話すことも出来なかっただろうから、そう思うとそれも悔しい。
だらしなくていい加減なあの子の世話をしているつもりだったけど、今思えば私もユタカに依存していたのだと思う。
いつしか当たり前のようになっていたユタカの存在。
色々と思い出を思い返しても全く美化されることはないけど、今の私にはそれら1つ1つがかけがえのないもの。
寂しい、離れたくない、一緒にいてほしい、今になってそんな想いが止まらない。
「いつかきっと可愛くなるから、トオルさんみたいに素敵になるから、だから私から目を離さないで…!」
そんな風に言えていたら、今みたいに1人で思い悩むこともなかった? 私だけいつも真っ直ぐに見つめていてくれた?
それとも「素直なミポリンが怖いですー!」とか言われた? 本気で拒絶された…?
そんな想像ばかりが、妄想ばかりが、頭の中から広がって…。
いずれにしても、もう遅い。貰ったカタログを見ていても、殆ど視界にも頭にも入って来なかった。
(疎遠に、なっちゃうのかな…。)
…気づいたら、あのまま寝てしまっていたみたい。
時計を見れば時刻は朝の8時、いつも欠かさず見ているテレビ番組も既に終わっている時間。
(そういえば、昨日はお風呂も入り忘れちゃった…。)
窓からの朝日を浴びながらの入浴。
今日は出来なかったけど、ジョギングした後の朝風呂は私の楽しみの1つ。
大学に入ってからもこれは続けよう、そんなことを思っていたらインターホンの音が聞こえてきた。
(こんな朝早くに誰?)
今日は両親は朝から用事で出かけていて、今家には私1人。
急いで上がって着替えを済ませ、玄関を開けると…。
「ミポリン!お待たせしました!」
「ユタカ!? 何の用?」
「何のって、家具を見に行くから家に来るよう言ったのはミポリンじゃないですか!」
「今日はちゃんと遅刻しませんでしたよ? 褒めてくれて良いんですよ!?」
「いや、何で私の家具をユタカが?」
「もーどうしたんですかー! これから一緒に住むんですからユタカにも選ばせて下さいよー!」
「一緒に、住む…?」
「ミポリンが1人は寂しいから一緒に住みたいと言ったんじゃないですか! ミポリンにしては色々忘れすぎですよー!」
何の話かわからない。もしかして昨日のは妄想でも何でもなかったの…?
(まあ、覚えてる訳ありませんよね。だってあの日に寝言で言っていたんですから。)
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2月28日 11時過ぎ 今井宅
「どうですかー?前よりずっと出来ているでしょう?」
「前よりって…、前が酷すぎて普通になってきただけじゃない…。」
「この調子だと合格間違いなしですねー!」
「本当にどうやったらそんなに前向きになれるのよ…。」
「…と、ちょっと失礼しますねー。」
「え?どこ行くの?」
「おトイレですよ! ミポリンも一緒に行きます?」
「遠慮しとくわ。それより逃げないでよ? まあ逃げたら泣くことになるのはあんただけど。」
「戻りましたー! 飲み物とお菓子も持ってきましたよー!」
「あれ?ミポリン?」
戻ってきたら、ミポリンはすやすやと寝息を立てていました。
ミポリンってば、「寝ないように見張る!」とか言っておいて先に居眠りしちゃってどうするんですか!
まあ、これからの準備とかで色々とお疲れなんでしょうね…。
(可愛い寝顔ですねぇ…。)
そんなことを思い、ほっぺたを突こうと近づいたら…。
「ユタカ、待ってるから…。」
寝言を聞いていると、「寂しい」とか「会いたい」とか、いつものミポリンは言ってくれないようなことを沢山…。
(いつかミポリンがトオルンのことで悩んでいた時、ユタカに言ったことを覚えていますか?)
「人見知りとかしないユタカが羨ましい。」
はい、ユタカは人見知りしないし、社交性には絶対の自信があります。
それでも、ずっと一緒にいたミポリンには、恥ずかしいとか嫌われるのが怖いとか、そんな想いくらいはありますよ…。
だからあの時、ミポリンが眠っていたのを良いことに…。
「じゃあミポリン、ユタカが合格出来たら一緒に住みませんか!?」
このユタカの声がちゃんと聞こえていたのかはわかりませんが、その誘いを嬉しそうに了承してくれました。勿論寝言でしたけど…。
色々ちょっかいかけたりトオルンに絡んでは関節技でお仕置きされましたが、それがユタカを特別な存在として見てくれるようで嬉しかった、それは嘘でもなんでもないです。
ユタカの部屋も定期的に片づけにきてくれましたし、きついことを言ってもそれでも一緒にいてくれて…。
モップの先輩方みたいに一緒に住みましょうと、いつでも簡単に言えると思っていたのに、断られたら?嫌われたら?と意識すればするほど言えなくなっていました。
だからこんなやり方しか出来なかったのです。これがバレたら、またお仕置きされちゃうかも知れませんね…。
物件についてはご心配なく! ミポリンが言っていた所の人と話はつけましたから!
「はい!OK頂きましたよ! じゃあその時は掃除や洗濯は全部ミポリンにお任せしますね!」
「さて、お疲れのミポリン先生を起こしちゃいけませんから、ユタカもちょっとだけ休ませて貰いますよー。」
「んー、つい眠ってしまいましたねぇ…。」
「今何時? ってもうこんな時間じゃない! 大丈夫なのユタカ!?」
「大丈夫です! ユタカは完璧ですから明日の入試くらいちょちょいのちょいですよ!」
「第4第3第2志望と全部ダメだったあんたが言えることじゃないでしょ…。」
「まあなんとかなりますって!」
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訳がわからず必死に思い出そうとする私の腕を引っ張るユタカ。
「何をしてるんですか!早くしないと良いのが売り切れちゃいますよ!」
「ちょっと待ってよ!まだ髪も乾かしてないんだから!」
急いで身支度を整える中、聞こえてくるのは「まだかしらー。」というユタカの声。
今まではずっと待たされる側だったんだから、今日は少しくらい待たせてたって文句は言わせないからね。
昨日行ったインテリアショップに2人で向かう途中、いつかるん先輩に言われたことを思い出す。
「ユタカちゃんとはずっと友達でいたいと思ってる?」
「じゃあ離れても大丈夫だよ! 2人を見てるとそう思うから!」
こうして進路は違っても、ユタカとは離れられない文字通りの腐れ縁な関係が終わることはなかった。
これからも色々と振り回されると思うけど、この関係はずっと続けたい。今は素直にそう思える。
「見て下さいミポリン!この土星の模型なんてどうですか? ぶら下げれば宇宙旅行も出来そうですよ!」
「そんなもの邪魔になるだけでしょ! まあでも、壁に星の壁飾りくらいは良いんじゃない? あんたの好きな星座で良いから。」
「じゃあ勿論天秤座です! ミポリンの牡羊座も飾ってあげますよ!」
「はいはい、ありがとうね。」
この前想像していたようなことが現実になった。
こうして2人での生活を始めるために必要なものを選ぶ、という私とユタカの最初の共同作業が始まった。
「あれ、この白い猫みたいなぬいぐるみ、どこかで見た覚えありませんか?」
「そういえばそうね…。」
「せっかくなんでこれ買いましょうよ!」
「セール中みたいだし、まあ良いわよ。」
可愛いものを並べていこう。私と一緒に並べていこう。
あとがき
こちらでSSを上げさせて頂くのはこれで2度目となります。
あの時に尊敬するSS書きのお2人からコメントを頂けたのが嬉しすぎて、調子に乗って2つ目を書かせて頂きました。
時系列的にも前回(https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3962)の少し後という感じです。
個人的な独自設定や妄想や願望を詰め込んでおり、色々とかなり無理がある点も多く、何より私の文章力が乏しい故に非常に読みづらいと思いますが、少しでも良いと思って頂けたら嬉しいです。
あの時にも書きましたが、私はこの2人がきららで1番好きなカップリングです。
今回のSSは原作とアニメは勿論、FUZのコメント欄や声優さん達のオーディオコメンタリー、更にはTwitterや5ch(当時は2ch)でのコメントやSS等、今までに私が見た2人に関するあらゆるものを参考にしつつ完成させた集大成的なものとなっています。
この2人は恋愛感情があるかというとそうではなく、あくまで互いに遠慮することなく信頼し合える1番の親友同士というイメージです。勿論そういう関係になった2人も見てはみたいとは思いますが…。
ミホの思い出として書いたのは、作中で書かれていたものと、公式と全く関係ない私が勝手に考えた作り話をごちゃ混ぜにしてあり、原作をお読みの方はどれが本当にあった話かお分かり頂けるかと思います。
それから、今SSのタイトルや作中の随所に出てくるフレーズは、堀下さゆりさんの「Privateroom」という曲から来ています。
原曲とアレンジverがあるのですが、特に原曲の方はピアノがとても綺麗でミホにもピッタリな曲と思っています。
この他も非常に素敵な曲ばかりですので、機会があれば是非一度お聴き頂きたいと思います。
長くなりましたが、お読み頂きどうも有難う御座いました。
読みました
過去含めて本編にありそうな違和感の無い展開と思いました
全然違うから反発することもあるけど、そんなことも大切に思えるのはこの2人だからこそと感じます
原作の延長で関係性を深めていく過程が良かったです
別離の不安を吹き飛ばす友の声、信頼し合える関係って良いですよね。元気な彼女に振り回されながらも、悲喜をともにしていくのだと感じました。
拝読しました! AチャンSS待ってた!! (のに、こんなに遅くなってすみません)
お別れシーズンのお話ということで、どこか切なさを思わせる文章に引き込まれました。
ミポリンとユタカの独特な関係性の尊さが感じられるとともに、その関係性のある意味での終焉をお互いにつらく思っているのが読み取れました。
心理描写がとても丁寧で、基本的にミポリン視点で話が展開されつつ、節々に挟み込まれるユタカの心境がとても良い味を出していたと思います。
そこから二人での共同生活へと繋がっていく...。タイトルの意味がわかったとき、素晴らしい作品を読んだという実感が改めて湧いてきました。
最後に、ミポリンとユタカの新たな船出にどうか幸あらんことを!
皆様、コメントどうも有難う御座いました!
それから返信がこんなにも遅くなってしまいどうもすみません。
お1人ずつ返信させて頂きたいと思います。
>>39
有難う御座います!
自分の願望を詰め込みつつも、2人の雰囲気は大事に出来ていたら…と思っていた為、そう言って頂けて嬉しいです!
反発することはあっても、それも含めて大事な思い出、これこそ2人の関係性という感じですね…!
>>40
カレルさんコメント有難う御座います!
元気な彼女に振り回され、真面目な彼女にお仕置きされ、そして喜びも悲しみも共有する、そんな関係こそがまさにこの2人という感じです!
>>41
ペンギノンさんコメント有難う御座います!
こちらこそ返信が遅くなってすみません、深刻な語彙力不足により文章がまとまらず…。
文を書く事自体に苦手意識を持っている為、そのようにコメントして頂けることが非常に嬉しく、次なる創作のエネルギーになります!
最後にタイトルの意味を回収する構図は結構意識していた為、そのコメントは特に嬉しいです!
あとがきでも触れましたが、これは堀下さゆりさんの「Privateroom」という曲からイメージして書いたssになります。
とても良い曲ですので再びお勧めさせて頂きます!
皆様、大変遅くなりましたがコメント有難う御座いました!
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