こんにちは、カレルと申すものです
26作目ですね。
こちらは「きららファンタジア」の二次創作になります。
前編と後編に分けて投稿する予定で、後編はオリジナルキャラクターを出す予定です。
注意事項
*キャラクターの独自解釈
*独自設定
*原作との乖離
*妄想
*オリジナルキャラクター
等が含まれるので苦手な方は注意してください
「お姉様!」
そう呼ぶ声が聞こえる。アタシを慕うようでもあり、親しみが溢れているようでもある声だ。
それにいつも起こされる。
「んっ……ううっ…… おはよう……ヒナゲシ」
「お姉様! おはようなございますなの!」
目を覚ましたリコリスの前にはヒナゲシが立っていた。眠たい目を擦りながら時計を確認すると6時30を指しており、外はまだ暗い。冬の朝特有の澄み切った空がレースのカーテンから透けて見え、冷気が少しづつ部屋に侵入してきている。そんな中、ヒナゲシは朝の支度を終えて待っている。
「ったく…アンタは朝から元気ねぇ……」
「えへへ……照れるの」
「褒めてないけど……まぁ、いいわ 起きましょうか…………」
そう言ったリコリスだが布団の温もりに心を未だ奪われており、体の支配権も睡眠欲から取り返せていない。ベッドの中をもぞもぞと移動し、時折外気温を確認するために脚や腕を外に出すが、それも緩慢となり沈黙した。
ヒナゲシはリコリスが起きようとしていない雰囲気を感じ取ると、「もう、お姉様 手間がかかるの」と言うと、スカートのポケットから時計を取り出した。
それのツマミを3度回すと地面に設置し、またポケットに手を伸ばすと、何かをサッと耳に詰め、「お姉様! あと三分まつの!」と大声で言うとそそくさと部屋を後にした。
何度かの寝返りを打ち、時計はジリジリと音を立てネジが回っている。もうすぐ約束の三分が経とうとしているがリコリスはまだ2度寝の快楽を噛み締めており、ヒナゲシの話を思い出すこともなかった。
ついに三分が経った。すると、ジリジリと音を立てていた時計は一旦機能を停止し、「ピー!ピー!」と警告音が鳴った。そして、その10秒後に時計の振動と轟音が寝室を震わせた。
これには微睡みにあったリコリスも覚醒を余儀なくされることとなった。
しばらくすると、音が止み無音の耳鳴りが部屋を包んだ。爆音の過ぎ去った部屋は衝撃で吹き飛んだ小物が散乱しており、猛烈な威力を物語っている。
リコリスは起床の余韻を残すことも無くベッドから立ち上がり、「チッ……! ヒナゲシ、起きたわよ!」と不快感を露わにして扉に向かって叫んだ。
するとすぐに扉が開き「お姉様、おはようなの」と顔をひょいと出した。
「よくやってくれたわね、ヒナゲシ ってうか、あれなんなのよ、ほぼ爆弾じゃない!」
「あれはソルトちゃんが貸してくれたもので、絶対に起きるって言ってたの 今日はメディアちゃんが聖典を持ってきてくれる日、だから起きてほしかったの!」
「あぁ?メディア……? …………そうね、確かに遅れる訳には行かないわね……不本意だけどありがと、起こしてくれて……」
「どういたしましてなの、お姉様これが着替え あと、寝癖がついているから直してあげるの」とヒナゲシは得意な顔でリコリスに服を渡すと、ブラシを取り出した。
「ちょっと、別に直すことくらいひとりでできるわよ!」
「でも、そう言ってもお姉様がセルフでやると時間がかかりすぎるし、わたしがやりたいからおとなしくするの!」
「くっ……! はぁ……ヒナゲシ、あんた変わったわよね…… 自分の意見を押し通すなんてあの頃からは想像もつかないわ」
「そうなの? お姉様も変わったの! 暴力もしなくなってお姉様のこと……もっとすきになったの」
ヒナゲシはリコリスの髪にブラシを通しながら続ける。
「お姉様の髪サラサラしているし、いい匂いもするの」
「……ふん! 戯れ言はいいからさっさとしなさいよ、メディアが待っているのでしょう」
「あっ!そうなの! …………はいっ、できたの 着替えも手伝うの」
「着替えはいいわ! ひとりで着替えるから部屋から出ていってちょうだい!」
リコリスはヒナゲシを部屋から追い出し、ふぅーっと一息をついた。最後までヒナゲシは追い出されることに抵抗していたが、何度かの問答の後、渋々扉から出ていった。
「全く、ヒナゲシにも困ったものだわ……」
リコリスは1人静かな部屋で呟いた。その顔に迷惑な色はなく、満ち足りたような表情をしていた。しかし、すぐに苦虫を噛み潰したような険しい表情となり、着替えを始めた。
赤い衝動が幽かに蠕動した。
「ヒナゲシと違ってアタシって、変わってないわね……」
「ヒナゲシ、終わったわよ!」とリコリスは寝間着から普段着に着替えるとまた扉に向かって叫んだ。
「終わったの? ソルトちゃんとシュガーちゃんも来ているからそろそろ行くの」とヒナゲシ扉を半分開きちょこんと頭を出した。その後「ヒナゲシちゃん、リコリスちゃん! メディアお姉ちゃんから連絡が来たよ」と元気な声や「そろそろ行かないと転送の準備が間に合いませんよ」と諭すような声が聞こえた。
「えぇ シュガー、ソルト待たせてごめんなさい、すぐ行くわ」と言うとドアノブに手をかけた。
――――――――
「ようこそおいでくださいました、皆さん!」とスクライブギルドのギルド長メディアはにこやかに言った。
「わーっ!メディアお姉ちゃん久しぶり! 色んな聖典があって面白いね」と周囲を見回しながら感嘆の声を上げている。
それにソルトは「シュガー、少し静かにしてください 皆さん仕事をしているのですから」とたしめたが「いえ! ここの素晴らしさに感動してくださっているのですから、むしろ歓迎ですよ」とメディアが口を開いた。
「んふふ ソルト」
「いえ、皆まで言わなくてもいいです、シュガーは存分に楽しんで貰っていいですから、我々はここに来た目的を果たしましょうか」
ソルトはシュガーに一瞥をくれると、メディア、そしてリコリスに視線を送り彼女の言葉を促した。
「……アタシでも理解できる聖典が完成したの?」
「はい!……と確信を持って言えたら良かったのですがあなたのようなケースは全く記録になくて、ソラ様にも協力していただいて作ったのですが……」と言葉を濁した。
「まぁ、そうよね 聖典が理解出来ない人間なんて、勝手にくたばる存在なのだから記録に残ってなくても当然よね」
「そんな……いいえ! 私たちはあなたを見捨てませんよ 絶対に!」
「フッ…… なら、あの時の約束覚えているわね? 理解出来なかったら、容赦なく破り捨てるから」
「はい!! 誇りと命に代えても!」と力強く返事をしたメディアの瞳は曇りがなく、深い覚悟の色彩が浮かんでいる。それにリコリスは淡い期待と尊敬の念を抱かずにはいられなかった。
赤い衝動は鳴りを潜めている。
「さぁ、皆さん行きましょうか 今回作った聖典は地下に保管してあるのでついてきていただけますか」とメディアは手招きしながら歩き出した。
それに4人はついて行くと、小さな地下室の扉をくぐり階段を下った。
地下室は1寸も見えないほどの暗闇で濡れたような石畳の通路が奥へと続いている。照らす光はメディアが持っている三又燭台のみで半径2メートルを照らすのがせいぜいである。地下はある程度の広さを持っており、左右の様子は伺いしれない。
「ううっ……地下室ってやっぱり不気味なの……」
「ねぇ、メディアなんで燭台なの? 明かりなら魔法で照らせばいいじゃない?」と2人は思い思いの感想を口にしている。
それにメディアは「地下室には光に弱い本が多くあるので、魔法で照らせないんですよ あと、暗視の魔法を使えるメンバーがここの管理をしているのですがちょうどお休みを取っていて、これで我慢してください」と精一杯燭台を高く掲げた。
「ならアタシに貸しなさい この中では1番背が高いし少しぐらいは先も見通せるでしょ」
「そうですね、リコリスさんが持った方が明るいですね」と言うと燭台をリコリスに渡した。
燭台はメディアの目線より高く掲げられ、柔らかい光が少しだけ先に届き書棚のシルエットがぼんやりと浮かび上がった。
「おぉ、ちょっと明るくなったね」
「さすがお姉様なの!」
一行は石畳の通路を歩きながらどんどんと奥へ進んでいく。奥へ進むごとにだんだんと壁幅が狭まり、燭台の光が壁に当たるようになると道の奥に扉が2つ見えてきた。
「着きましたね、この奥に件の聖典を保管してあります」
メディアは右の扉に近づくと、小さく何かを呟き扉のノブに手をかけた。すると、扉に神殿の紋章が浮かび上がり音もなく開いた。その開かれた扉からは光が漏れており、これまで燭台の光を頼りにしていた彼女達の目を刺激した。
「うっ…… 急に明るいじゃない」
「すみません、この部屋は太陽光が届くような構造になっていて、明るいんですよ」そう言うと扉を半開きにし部屋の中へ入っていった。リコリスたちもメディアに続くと陽光が差し込む部屋へと入った。
部屋に入るとまず、目に優しい緑が飛び込んできた。この一室が草原のようになっており、中央にはガラスのケースに守られた本が一冊置いてある。
「凄いですね、確か”言の葉の樹”のふもとの街の図書館の地下も同じような構造をしているとの話でしたが、ここもだったのですね…… 」とソルトは外のような光景に目を丸くしている。
先行していたメディアはガラスのケースから聖典を取り出すと「エトワリアの聖典”月と陽の番”です」と言いながらリコリスに聖典を渡した。
この聖典は一般に流通しているものとは装丁の趣が異なり鋲の部分に星彩の宝玉が煌めいている。
「月と陽の番? メディアお姉ちゃん、シュガーそんな聖典聞いたこともないよ、ソルトは分かる?」
「いえ……ソルトも知らないです」
「ソルトちゃんが知らないなら、何も分からないの」
「よくわからないんだけど、これは聖典なの……?」
4人はそれぞれ頭に疑問符が浮かんでいるので、メディアは言葉を続けた。
「はい……皆さんが知らないのも無理はありません、これは歴代の女神様に代々継承されるものであり起源は神話の時代に遡るらしいです ……ですがそれ以上のことは分かりません シュガーさん、ソルトさん、ヒナゲシさん、私たちはここから出ていきましょうか、リコリスさん1人の方がいいと思いますし よろしいですか?」と手元の聖典を訝しげに見つめるリコリスに問いかけた。
「えっ!? ……えぇ、確かにこの環境だったら落ち着いて読めるし、読み終わったらアナタたちを呼ぶわ」と草原を踏みしめ薫る大地の匂いに落ち着いた表情で応えると直接腰を下ろし本の表紙を開いた。
「では私たちは退散しましょう 読み終わったらこのボタンを押してください、私たちは隣の部屋にいるので」そう言うとメディアたちはくぐった扉へ引き返し静かに閉めた。心配したヒナゲシの声が最後まで残っていた。
ひとりになったリコリスは本の表紙を一旦閉じ、大きく深呼吸をした。耳を澄ませば小鳥のさえずりでも聞こえてきそうな陽だまりの中ポチャンポチャンと滴る水の音を聞いていた。それは草原が奏でる音楽にあるはずのない響く水滴の音ではあるが、不思議とそれが心落ち着くリズムを刻んでいた。
滴りに集中していくうちに、煩かった拍動の音がそれにかき消され、指の震えと呼吸が安定している。
「全く…… 心配しなくてもいいのに きっと理解できるわ 絶対!」
自分に言い聞かせると指先に力を込め、表紙をまた開いた。今度は表紙の文字を読む余裕さえ出てきており、複数の話で構成されたものであることが読み取れた。しかし、これはただの情報であり、この表紙1ページというリコリスにとって岩盤よりも厚く強固な「聖典を理解できない恐怖」を穿つ覚悟を試しているように思えた。
気がつくと触れるものは重く、それにつれ遠近感が狂っていき自分の手のひらの大きささえ分からなくなっていった。
それとは別に指先の感覚は研ぎ澄まされ、ページの角に指をかけると剃刀の如き冷たい紙が鋭敏に刺激する。だが、この痛みを無視し最初の1ページを開いた。
――――――――
「お姉様、だいじょうぶなの……?」
ヒナゲシは部屋の中を落ち着きなく歩き回っている。草原の部屋から退室して2時間以上が経過しており心配が勝り始めてきた。
「きっと大丈夫です それに、私たちができること受け継がれた聖典とリコリスさんを信じることだけですから、気長に待ちましょう!」
「……わかったの! シュガーちゃん、わたしもお菓子たべるの」
「いいよ〜 リコリスちゃんの分もちゃんと残してあるから、ここにあるお菓子は全部食べていいよ、ほぉらソルトも一緒に食べよ〜」と部屋の隅っこで聖典を黙々と読んでいるソルトに声をかけた。
「ふぅ…… わかりました ソルトも聖典を読み疲れたので食べます」というと、本を本棚にしまうとそそくさと椅子に座った。
この部屋も陽光が入る構造となっており明かりがなくても明るいが、右の部屋とは異なり四方と床には木が用いられており開放感よりも落ち着きを優先して作られていた。部屋の中央にある机の上にはシュガーが持ってきた色とりどりのお菓子が並べられている。
「わぁ! おいしそうですねシュガーさん、私は紅茶を淹れますね」とメディアは席を立ち、部屋の隅に備え付けてある蛇口からやかんに水を出し、コンロ乗せると魔力を込めた。
「ここの水で紅茶を淹れると風味がよく出るんですよ ミルク無しで飲むとよくわかるかもしれません」
「風味? シュガーは甘ければいいからそんなこと気にしたことないよ」
「それはもったいないです! 是非味の違いに注目していただけると面白いですよ さて……」とメディアは視線をやかんに戻し、沸騰したお湯をコンロから外すと少し置き素早く茶葉が入ったティーポットに注ぐと「おまたせしました」と机に戻ってきた。
大柄のポットからは香りを伴った湯気が口から立ち上り茶葉の芳醇な香りがテーブルを中心として広がり始めている。メディアは茶葉から十分に成分が抽出できたことをポットの蓋を開けて確認すると、それぞれのティーカップにお茶を注いだ。その際に周りを囲んでいた先触れの香りをすべて過去のものとする薫りが立ち上った。
「おぉ! すごいの……」とヒナゲシから感嘆の声があがった。それにつられシュガーやソルトも普段飲んでいる紅茶との決定的な違いを肌で感じ驚きの表情を見せている。
「確かに……香りが全く違いますね ソルトも美味しい紅茶の淹れ方は心得ていますが、水の違いがここまで違いを生むのですね 勉強になります」
「う〜ん…… ミルクは無し、お砂糖ちょっとで試してみる!!」とシュガーは角砂糖を1つ入れるとシュガーポットを元の位置に戻しカップを持った。しかし、飲み口に顔を近づけるだけで匂いを嗅いだり、紅茶の色を見ているだけにとどまり苦みを警戒している。
「シュガーさん、飲まないんですか? 私が言ったのは1つの楽しみ方なので、無視してもらって大丈夫ですよ シュガーさんの飲み方で……」とメディアは口を開いたが被せるように「ううん! やっぱりメディアお姉ちゃんのやり方で飲む!」と言いながらカップに口を付けた。
「に! にがい……!」
シュガーの第一声はこうだった。
「でも……」
続く声はただ苦みを忌避したような声ではなく、その奥にある甘さとは別のうまみを発見した喜びが含まれてもいた。
「悪くないかも……」
口の中に残る苦みをお菓子で中和しながらそう言った。その様子にソルトは一瞬驚きの表情を見せたがすぐにいつもの表情に戻り嬉しそうに「シュガー……」とだけ呟き無糖の紅茶を口に含んだ。
お茶会もひと段落し、メディアがティーポットを洗っているととチャイムが部屋に鳴り響いた。それはリコリスが聖典を読み終わったことを示しており4人の中で緊張感が高まった。皆が黙してメディアの方へ視線を送ると「はい リコリスさんが呼んでいますね」といつもと変わらない調子で言った。しかし、彼女から漂う緊張感は一入で、持っているポットが割れそうなほど研ぎ澄まされ、茶器を置くと直ぐさま扉に手をかけた。
同様にヒナゲシもメディアのすぐ後ろに着いたが、シュガーはこの雰囲気に耐えられないのか「シュガーたちはここで待ってるよ! リコリスちゃんが帰ってきたらまたお茶会しよ」と言いながらソルトを引っ張った。ソルトもため息をつきながらメディアにここへ残る旨を伝えた。
「きっとお姉様は大丈夫なの」と残る2人に落ち着い調子で声をかけると廊下へと繰り出した。
部屋の外は暗くメディアの表情を窺い知ることは出来ない。直ぐさまドアノブに手をかけ、小さく呪文を唱えると息をつかせる間もなく草原の部屋に入った。
「来たわね、待ってたわ」と部屋に入るなり勝気な声が聞こえてきた。
声の主は草原の中央に仁王立ちでおり、片手には聖典が握られている。
それにメディアはホッと胸を撫で下ろし、最悪の事態の想像を思考の外に追いやるとリコリスに話しかけようとしたがそれより先に、「お姉様!」と泣きそうな声とともにヒナゲシがリコリスに抱きついた。
その時片手に持っていた聖典が投げ出され宙を舞った。メディアはそれを地面に落ちる前に身を乗り出して確保すると「もう! 貴重なものなんですから大切に扱ってください!」と声を荒げた。
「ご、ごご!ごめんなさいなの!」
とヒナゲシは反射的に謝ったが、メディアもそれがまずいと思いすぐに「すみません 大きな声を出してしまって……」と返した。
「アンタら主役を放っておいてな〜に熱くなってるのよ ほら、聖典読めたわよ さすがに時間はかかってしまったけどアタシにしちゃやるんじゃない」と誇らしげな顔を見せ、ヒナゲシの頭を優しく撫でた。
「お姉様、ついにやったの! 誇らしいの! お祝いするの! ついに…ついになの……!」と興奮して矢継ぎ早に言ったため過呼吸気味になっている。
「もう、ヒナゲシったら 自分のことみたいね……」
「私もヒナゲシさんと同じような気持ちです! して、聖典の感想はいかがですか 恥ずかしい話写本の作業はほとんど無意識のうちにしていたので内容が分からないんですよ」と笑いながら言った。それを聞いたリコリスは一瞬躊躇いの表情が上がったかすぐに、「なかなか良かったわよ 特に最後なんて感動したもの」と感想を口にした。
「良かったの! そうだ、隣の部屋でシュガーちゃん達が待ってるから、お祝いのお茶会をするの!」と言いながら立ち上がり、扉を開けた。
「あー…… ちょっと聖典を読んで疲れたから、今は帰って寝たいわ」
「わかったの! じゃあ、お祝いは明日にするの メディアちゃん、明日は大丈夫?」
「はい! 今日はアルシーヴ様への報告もあるので明日の開催はありがたいです」
ヒナゲシはそれを聞くと急いで隣の部屋に入っていき、その旨をシュガーたちに伝えた。
驚きの声と祝福の声と残念がる声が開かれた扉から順に草原の部屋にも流れ込み、その後すぐさま「リコリスちゃん!おめでと〜!」と元気な声が質量を持って飛び込んできた。その勢いは衰えることなくリコリスにめがけて飛んでいき、しりもちをつく結果となった。
「ちょっと! いきなり飛び込んでくるんじゃないわよ」
「えへへ♪ うれしくてつい でも、なんだろ?リコリスちゃんからちょっと変な匂いがするかも」
「……変な匂いって」とリコリスはぎょっとして聞き返したが、「ううん、シュガーの勘違いだった! いい匂いだよ」とからかうようにペロンと舌をだしゆっくりと離れた。
「シュガー、はしゃぎすぎです リコリスは疲れているのですからすぐに帰りますよ」
「はーい リコリスちゃん、明日楽しみだね」
5人はまた暗い地下室を歩いている。しかし、行きの雰囲気とは打って変わって明るい空気が周りを包んでいる。そのまま、地下室から出るとメディアに別れの挨拶をしてスクライブギルドを後にした。
SSでまともなメディアを見るのが珍しい気が(何かがおかしい)
対比的な存在ですが、リコヒナもシュガソルみたいに相互に信頼できる姉妹になれる世界があってもいいですね
拝読しました! リコリスさん主役SSだと!? (喜)
「理解できないもの」に対する恐怖。私が思うに、それは人間が抱える本質的な恐怖の一つです。そんな「理解できないもの」である聖典に自ら挑戦しようとするリコリスさんの姿勢にぐっときました。壊す以外の解決策を見つけられたんだね... 本当に良かった...
待機組のほのぼのお茶会感も最高です。「おねーちゃん」ばかりに囲まれてきたシュガーちゃん、同年代 (推定) の友達ができて嬉しそうでほほえま。
こういう類のものは寛解まで相当な時間がかかるものですが、敢えて正面から立ち向かうリコリスさんを応援したいものです!
(まともじゃねーメディアちゃんを人一倍書いてきてしまった身としては、>>32 様の言葉がぐさりと刺さりますね...)
>>32
コメントありがとうございます
聖典LOVEとうつつLOVEなので、コメディチックな作品だとその方へネタを広げやすいのでシリアスメディアは珍しいのかもしれません。
ヒナゲシはストレートにリコリスに気持ちを伝えて、リコリスは照れながら遠回しに気持ちを伝えるみたいなことを自分の中で解釈して書きました。いろいろなカタチを書けて楽しいです。
>>33
ペンギノンさんいつもありがとうございます
「怒り」というリコリスの強大な負のエネルギーがシュガソルとの交流やヒナゲシの献身によって昇華されることにより、身近な人だけでも笑顔にしたいという考えが芽生えていると考えています。
ただ、おっしゃったように時間がかかるため、後編でそれがどう動いていくのかお楽しみください。
七賢者のコールの時のセリフを思い出しちゃいますよね、「昨日の敵は今日の友」ヒナゲシはシュガーと結構気が合って、エンジョイして日々を過ごしているようなイメージです。
あと、前編と後編の2章の構成としていましたが、3章構成になりそうです。ただ、現段階なので普通に2章構成になったらこれは無視してください。
*注意
今回の更新は中編になっています。
中編には血などのゴア表現が含まれているので、苦手な方はブラウザバック推奨です。そして、オリジナルキャラクターが中心の話なのでそれが苦手な方も注意してください。
夜の森に轟音が響き渡っている。
時折雲の隙間から覗く月が根元から倒された木々を冷たく照らしている。倒木は鋭利な刃物で切り裂かれた跡が生々しく走っており、およそ魔物の仕業ではないことがわかる。そんな跡が森の中央から東に移動を続けている。
その破壊は無秩序で一切の意思も感じとれず、ただ本能のままに行動する獣の如き凶暴さが共に横たわっているのをライネの弟子、ロザリアは感じ取っていた。
ロザリアは倒れた木の切り口に顔を近づけ、また、風に乗って漂う匂いを嗅いだ。今この状態でも破壊音が響き犯人の場所はわかるが、複数の犯行という線を完全に消すために集中した。深い呼吸を繰り返すとおぼろげながらに気配が伝わってきた。獣や魔物が通った痕跡、その中に全く異質な臭いが混じっており、嗅ぐ限り複数ではなく一人しかいないことがわかった。
これ以上の被害が出る前に破壊を阻止する。そう心に誓うと体制を低くし走り出した。
その移動中、付近から血の匂いが漂っていることに気づいた。その匂いは獣血や魔物の血のような野性味に溢れた濃厚な臭いではなく、人間特有のどこか薄く甘みを持った匂いが鼻をくすぐった。その匂いは微かに香る程度で、付近に死体も大量の血痕の類も確認できないため犯人が木々を切る際に持ち手がすれて出血したものだと考え、まだ見ぬ相手の消耗を促すため向かう速度を少し遅めた。
そのまま音のする方に向かっていると、闇の中に複数の生き物の息遣いが聞こえた。
すぐさま剣を抜き臨戦態勢に入るとすぐに補助魔法を唱えることができるようにすると草むらに意識を集中させた。
そこには敵意の光が月光の反射を受けてキラリと煌めいた。これは犯人が木を倒した衝撃によって寝ているところを起こされて気が立っている魔物、または動物たちであろうか、それが草むらから脅威を排除しようとこちらに襲い掛かってきた。
草むらから出てきたのは小型の熊の群れであった。あのときの森で戦った熊型の魔物と比べても大きさは半分程度しかなく、驚異のほどが小さいと認識した。さらに、気が立っているだけでこちらに直接的な敵意はないと判断したため、殺してしまわないように剣を鞘にしまい、熊の群れに突っ込んだ。
熊たちは丸太ほどの大きさの前腕で仕留めようと振り回しているが、月の光を頼りにすべて躱すと、すれ違いざまにリーダーと思しきひとまわり大きい熊の額に拳で一閃を見舞った。ゴツンと鈍い音がし熊がその場に倒れ伏すと、ざわめきが走った。
ロザリアは混乱した群れにもう一度入り込みもう一匹の戦意を失っていない若い熊も同様に額に一閃を加えると、群れは崩壊した。東の方に散ったことを確認すると気絶している若い個体とリーダーに回復魔法を施し、また歩みを進めた。
この先には湖があり、破壊音がだんだんと収まり血の匂いが濃くなってきた。ここに至るまでに混ざる異臭はなく、純粋な匂いだけがロザリアの鼻を刺激し続けている。およそ、その先に犯人が休息しているだろうという予想を立て、その奇怪な事実に首をかしげたが、この森を荒らす人物であることは間違いがない。しかし、その人物評価が固まっていないので相手の悪意を量るため”サイレント・ステップ”を使わず、細心の注意をもって対峙することにした。
もう湖は目と鼻の先にあり、ガサゴソとわざと音を出して進んでいく。視線を低くする際に湖畔には犯人と思しき人影が後ろを向いて佇んでいる姿が見えた。こちらが出す音は聞こえている距離にも関わらず一切の動きがない姿に一層の不気味さを感じ、これが罠なのではないかとさえ見える。しかし、それも織り込み済みで対峙しようと、気づかれる為に地面を目いっぱいに蹴ると犯人の後ろへと躍り出た。
シルエットは変わらず雲が隠れた湖の漆黒を見つめていた。手に持っている短剣の刃先からはぽたぽたと足元の水たまりに血が滴り落ち、そこから強烈に甘い臭いがしていた。そして、それが初めて香った血の匂いと同じものだと脳が判断すると、今度は別の臭いが漂ってきた。それは感情の臭いで、怒り、悲しみ、諦め、絶望との負の感情が積み重なった激臭として鼻腔を攻撃した。だが、その中には異質な匂いも混ざっている。
まるで、1週間常温で放置し腐らせた卵と肉と魚、そして果物を密室で長時間煮込んだような、そんな負の感情に眩暈がし、それと同時に「リアリスト」という単語が自然と口から零れ堕ちてしまった。
推定敵を前にして不用意な発言は迂闊だった、とロザリアは軽率な言動を呪った。
相手と自分との間に遮るものは何もなく確実に先の発言は聞かれたであろう。リアリストは既に解体されているとは言えエトワリアを破壊しようとした団体、その構成員と判断されてしまったからには気分は良くないだろう。最悪、問答無用で襲い掛かってきくる可能性もあるため、すぐに意識を強固にし、相手へ視線を戻しの出方を伺った。
ロザリアが警戒する中、犯人はゆっくりとこちらに振り向いてきた。雲の隙間から差す光に照らされる形となり、水面の反射を受けてシルエットは実体をもち、ただそこに立っていた。外套に隠れてよく見えないが長身の赤髪の少女でその表情は無そのまま。こちらを認識すらしていないように思えた。しかし、負の感情から生じる悪臭は耐えられないほどに強く、無意識にこちらが敵意を持つほどの重圧を持っていた。
「……リアリスト」少女は抑揚のない人形のような声で反応した。
それは本当に生きているのかさえ定かではないほど冷たく感情が読みとれなかった。
「アハハ! 確かにアタシはリアリストだわ」と急に感情を取り戻したかのように語気を強めた。しかし、表情は依然として変化がない。
その様子にぎょっとしていると、少女の懐からきらりと光るものが見えたその刹那、硬質な物体が月の光を受けて飛んできた。
ナイフだ。まっすぐ喉元へ飛んできており、すぐにそれと判断すると鞘から剣を抜き去り、叩き落した。叩き落されたナイフは地面に着いたと同時に消滅しており、これは実質無限にナイフが飛んでくることを暗に示している。
視線をまた少女に戻し、「何故こんなところでこんなことをしているんだ」と問いかけた。もちろん返事には期待していなかったが返事が飛んできた。複数のナイフと伴に。
「イライラするのよ、みんなみんなアタシに期待を込めて!」
表情は変化しないが飛んできたナイフには殺意の感情が籠っており、吐きそうなほど濃かった。
「そうか ハッ!それにしては中途半端だな」
これまでの問いかけで話は聞こえていそうなので、すべてを叩き落とすと少女に向かって剣を掲げ不敵な笑みを浮かべた。
「はあ? アンタに何が分かるのよ!」と怒気を伴った声が湖畔に響き渡った。
生気のなかった顔はようやくロザリアの方を直視したため、内心で笑みがこぼれた。
これは賭けだった。今のままではナイフを投げられるだけで近づけず朝になってしまう可能性が高い。それは攻撃魔法が使えないロザリアには致命的で、短期で決着をつけるためには明確な隙がないといけない。隙を作り出すために選んだ策が挑発であり、表面にまで感情を出させることができれば近づくチャンスになり、制圧できると考えたためである。
「いいや、別に何があったのかは知らないし興味もないから」
「本当にイラつくわね 殺すわよ」
「口だけでは何とでも言えるさ さぁ、私を殺してみるか?」
これ以上会話はなくお互いに動き出した。
怒りが頂点へと達した少女はこれまで以上の弾幕を持って襲い掛かってきており、それを紙一重で躱しながら近づいていく。
飛んでくるナイフの大部分が首や頭などの急所を的確に狙ってくるが、緩急をつけて、足や手にも飛んでくる。月の光もなく縦横から飛んでくる殺意の塊に翻弄されながらも、剣で叩き落し、それでも防ぎきれない弾は腕で受けたりなどして30メートルほど離れていた距離は半分の15メートルへと縮めることができた。
「アハハ! どうしたの、防戦一方じゃない? 苦しいわよねナイフには毒が塗り込んであるから、もう立ってもいられないはずよ」
少女は腕と足にナイフが刺さっている姿をみながら余裕を見せている。傍からみれば出血と毒でもう勝負は決しているように見えるが当の本人は瞳の光は消えていなかった。
ロザリアは深々と刺さっているナイフを力任せに抜くと、痛みを感じさせない足どりで再び突撃した。
「な、なによ!」少女は驚きながらも、またナイフの投擲を始めた。距離が近くなることにより相対速度は上がっているにも関わらず、開戦時と変わらない精度で躱すロザリアにだんだんと冷静さを欠き、大雑把な攻撃が多くなってきた。牽制のため水平放射状に発射されたナイフをスライディングで搔い潜ると、攻撃を入れるチャンスと捉え、一気に距離を詰めると懐まで飛び込み首元に剣を突き立てた。
勝負は決した。その後には荒い息遣いと水が流れ落ちる音だけが静かに響いている。
決着を見届けるために雲の間から月が顔を出し、世界を冷たく、そして優しく照らし出した。倒れた一方からはどくどくと赤い液体が首から噴出し刺さった刃を黒く汚している。
「はぁはぁ…… チェックメイト……ね」
少女はロザリアの喉に刺さったナイフを見つめながら言った。
それはとっさの事、袖に隠してあった実体のナイフを懐に飛び込んだ瞬間突き刺しこれが決まり手になった。
「あっけない……」
少女は突き刺さった肉の感触に震える手を必死に抑えると、ロザリアからナイフを回収するために近づいた。
「えっ……!?」
急に天地がひっくり返り、冷たい刃が首に当てられた。
「チェックメイト」
ロザリアは何とでもないといったような様子で少女を見つめた。直ぐさま拘束用の魔道具で両足両手を地面に縛ると、首に刺さってるナイフを慎重に抜き、「余程大事なナイフか…… 最期に言い残すことはあるかい?」と優しく問いかけた。
「……なんで死んでないの!毒だって……」と少女は幽霊を見るかのような恐怖の表情で見つめている。それに「私はこのくらいじゃ死なない これが最期の言葉でいいかい?えっと、君の名前は」
ロザリアの言葉に少女は乾いた笑いが出た。「リコリス…… 私はリコリス」
「じゃあ、リコリス ほかに最後に何かいうことはあるかい?」
「別にないわよ ただ……」
「ただ?」
「フッ! アタシって何のために今まで生きてきたんだろうっておもったのよ 聖典も読めないこんな出来損ないのアタシ ヒナゲシやメディア、シュガー、ソルトにはいっぱい迷惑をかけちゃったから謝りたいけどアンタに言っても無駄だと思うから、いいわ……」
リコリスは往生をしたように瞼をとじた。
「やっぱり……私の思った通りだ」
ロザリアはそう言うと、リコリスの拘束を解き首に当てていた剣を鞘にしまった。
「はぁ! なんで!私を殺すんじゃないの!」
その声は今まで以上に感情がこもっていたが、悪臭はしなかった。
「なんでって、別に私は君を殺したいわけじゃない、それに真意を量りたくて闘ったわけだし」
「…………!アタシはアンタを殺そうとしたのよ! そんなのって……」
「ハハッ! 私は1回死んだから、別に気にしていないよ …まぁ、花和は怒るかもだけど…」とロザリアは苦笑混じりに手を差し出すと、リコリスは不本意ながら彼女の手を取り立ち上がった。
「リコリス、なんで君はここで暴れていたの? 魂を獲りあった仲だし教えてくれてもいいんじゃない?」
リコリスはロザリアの顔を見て、不本意な表情ながらもポツリポツリと語りだした。「……メディアって子がね、アタシのために聖典を作ってくれたのよ、アタシでも理解できるようにって……」
「そういえば、さっき聖典を理解出来ないとか言ってたね、それで?」
「結局理解出来なくて、理解できたってウソをついたのよ それでこんなに必死になってやってくれたのに出来なくて、すごく情けなくて、悔しくて、怒りが込み上げてきたの それでこの森を荒らしちゃったの…… もうどうでもいいと思っていたの、別に……えっと、アナタの名前は……」
「私の名前はロザリアよ」
「ロザリアさんにここで殺された方がいいとさえ思ったわ」
「そうか…… リコリスの気持ち、よくわかるよ」
「別に無理して言わなくてもいいわよ 興味無いんでしょ……」
リコリスのこの言葉に、何かが突き刺さったような感覚があった。最善だと考えたことでも、人を傷つけてしまう。それはあの渓谷で起こったことと重なり、自分のしたことが本当に相手の為となったのかわからなくなってきた。しかし、これは考えても仕方ないことと割り切ると頭の中で浮かんだ言葉を紡ぎだした。
「確かにあの時は本気で君には興味がなかった ……でも今は放っておけないんだ、昔の私みたいでね」
「はぁ……わかったわ」とリコリスは大きなため息をつき倒木に腰かけ、「結局、アナタには負けたし話くらいは素直に聞くわ あと、気になっていたんだけど、なんで折れている武器を使っているの」と言いながら手持ちの武器と服に仕込んだ武器をすべて外した。
「ああ、これ」と鞘から剣を取り出し魔力を流すとリコリスの前に差し出した。「ちょっと前、ある奴に折られてね、魔法剣なんだ 生憎これしか手持ちがなくて、君との正面戦闘を避けた理由の5割くらいはこれだね」
ロザリアは紫に光る剣を鞘にしまった。その後、リコリスの向かいの倒木に腰かけると話し始めた。
「君には信頼できる人がいるんだね それは良いことだよ」
「信頼できる人?」と今まで考えたこともない単語に疑問符が浮かんでいる。
「君が言っていたじゃないか、ヒナゲシ、メディア、シュガー、ソルト、具体的な人名が出るなんて素敵なことだよ つまり、君は一人じゃない」
「……でも」
「まぁ、いきなり言っても難しいと思うし、私の大切な人の言葉を君に贈るよ ”つらいときはみんなで支え合うそれができて1人前” どう?素敵なことばじゃない?」
「それって、ロザリアさんがさっき言っていた”かな”っていうひとの言葉?」
「そうそう! 花和はね、いつもは厳しいことを言っているけどとっても優しくて強くて……私の憧れ」
「フッ! 確かに、アナタの言う通りかもしれないわね あの子たちもお互いを支え合うみたいなことを言っていたし」
「そうか…… ならよかった ……っと、もうすぐ太陽が出てくるし転送魔法で送っていくかい?」
ロザリアは立ち上がり、白む空を見つめながら言った。
新しい朝の始まりと伴に新しく人間が生まれ変わる。そんな予感がひしひしと伝わってきた。決して平易な道ではないだろう、しかし必ずやり遂げることが出来るだろうという確信があった。
「じゃあ、お願いするわね」
リコリスはロザリアと同様に空を見つめながら言った。不安と希望の入り混じった複雑な表情をしながらも、逃げるという選択肢は頭には存在しえなかった。
「じゃ、また逢えたらよろしくね 上級転移魔法『瞬』」
魔方陣がリコリスを包み込み粒子状となり消えていった。行ったことのない場所でも瞬く間に移動できる上級魔法でかなりの魔力を消耗する代物である。ロザリア魔法を唱え終わるとその場で倒れ伏してしまった。全身の筋肉が弛緩し立ち上がることはできない、そんな状況では何もできないため、彼女の成功を祈ると眠りについた。
……今は師匠であるライネへの、この惨状を報告しなければならないことも忘れて深い眠りを満喫している。起きた時のことを知らずに……
中編更新お疲れ様です! 拝読しました! ろべr... ロザリアさんのご登場だッ!!
うぅむ、やっぱりリコリスさん無理してたのか...。今の彼女は周囲に相談できる相手が増えたけど、もしかしたら甘えるのが苦手なのかも。私自身、彼女に必要以上にプレッシャーを与えるようなコメントをしてしまった故、心が痛い...。
そんなリコリスさんを救ったロザリアさん、今回もバトル描写が輝いている。途中えげつねぇ攻撃を受けてたりもしましたが、喉を刺されても立ち上がる底知れぬ生命力に、敵に回したら絶望するしかないと思いました。
... ところで、「1回死んだから、気にしてない」って... もしかして『プレゼント騒動』のときのあれって、やっぱり...
そして、最後に新たな不穏の種が蒔かれましたが、それも含めて後編を待てということで。続きが今から楽しみです!!
>>63
ペンギノンさんいつもありがとうございます!
どこにも向けようのない怒りが噴出した結果ですね。心配をかけないようにしたけれど、耐えられなくて…といった感じです。
ロザリアもあまり自分を大切にしない、というか怪我は魔法で治せるのでわりと無茶をしちゃいますね。リコリスは元リアリストの『左手』なので、無傷で制圧するためにはあの作戦が最適でした。
シュガー「んふ〜♪ とっておきのお菓子を用意したよ〜」
ヒナゲシ「わぁ〜! おいしそうなの」
メディア「スクライブギルドからお水を持ってきたので、紅茶を淹れますね」
ソルト「それは楽しみです ソルトも手伝います」
リコリス「シュガー、お菓子食べていいかしら?」
シュガー「うん!いいよ、リコリスちゃんをお祝いするお茶会だし、どんどんたべていいよ!」
リコリス「ええ、じゃあ もらうわ」サクッ
「……おいしいわね」
シュガー「よかったぁ!それに変な匂いもなくなってるし、だいじょうぶだね」クンクン
リコリス「ちょっと!」///
ヒナゲシ「シュガーちゃんずるいの! わたしもなの」ギュツ
リコリス「ワッ! もう! 身動き取れないじゃない、シュガーは一旦離れて」
シュガー「あはは! ごめんなさーい」サッ
メディア「盛り上がっていますね お待たせしました」
ソルト「ソルトもいます」
リコリス「メディア、この状況を見て盛り上がっているなんてよく言えるわね」
メディア「そうですか? いいじゃないですか、姉妹みたいで」
ヒナゲシ「そうなの! お姉様にはどこにも行って欲しくないの……」ギュツ
リコリス「別にアタシはアンタからは離れないわ、大切な人だもの」ナデナデ
ヒナゲシ「でも……昨日は様子が変だったし、部屋にもいなかったから……」
リコリス「っ…………! それについては謝るわ アナタに心配をかけたわ……ごめんなさい」ギュツ
ヒナゲシ「理由を話してなの! わたしたちの間では秘密はなしなの!」
リコリス「…………わかったわ メディアも関係のある事だから来てくれるかしら」
メディア「わかりました よく分からないですが大切な話ですね」
ソルト「その話をソルトたちが聞くのは野暮ですね、シュガー私たちは退出しましょう」
シュガー「えーっ! シュガーも聞きたいんだけどなー 紅茶が冷めちゃうし」
リコリス「ごめんなさい、シュガー でもすぐ終わる話だから大丈夫よ」
ソルト「はい、シュガー行きますよ」ガシッ
シュガー「あっあわわ!」ズルズル
ソルト「では失礼します」バタン
――――――――――――
「ヒナゲシ、メディア……伝えたいことがあるの」
リコリスは緊張した面持ちで語り出した。その緊張は2人にも伝播しており、硬い表情を作っている。
「……ホントはね、理解していなかったのよ」
「理解していなかったとは…………?」とメディアは最悪の可能性を浮かべながらも、聞き間違いの可能性を求めて聞き返した。
「聖典……理解できたなんて言ったけど、あれはウソよ…………ごめんなさい」
十分に時間をかけて紡ぎ出された言葉が少しずつ部屋を冷やしてゆくのが肌でわかった。
「…………!? えっ……嘘……!ですよね………?」
「…………お姉……様?」
「ウソじゃないわ 本当よ」
2人からは「冗談」という2文字が心から欲しかっただろうことは想像に難くない。しかし、一切真実を語ろうと覚悟したリコリスには些細な問題だった。
「お姉様! なんで……ウソついたの?」
「……もしかして、女神様が受け継いできた聖典なんて前置きがあったから言いにくかったんですか?」
それに対して、リコリスは言うことが決まっていた。今まで溜め込んでいたことや言いたかったこと、それを言わなければ己が前に進めないから。
「別にアンタたちのせいではないわ。というか、アタシのせいね。アタシは心の奥底でずっと思っていたの、別に聖典を読めなくてもヒナゲシやソルトが聖典を読んでくれればクリエは得られるし、それで良かった。でも、それに何か違和感があるとも思っていた、ヒナゲシはアタシとは違ってどんどんと成長していく、でもアタシは頼ってばかりでなんにも出来ない。そんな日々にもう1人の暴力を好むアタシは満足しなかった。日を追う事に赤い衝動が強くなって、聖典が理解出来ない事実を改めて突きつけられて、爆発しちゃったのよ……」
言い終わると2人の顔を見ないように窓の方へ移動した。外は空気が澄み晴れており、遠くの山まで見渡すことができる。こんな日和とは対照的に部屋には重苦しい空気が流れている。きっと彼女たちの顔を見れば後悔が浮かんできてしまうから。そう考えたリコリスは窓の外を見ながら更に続けた。
「それで、夜に1人で飛び出して、ただ暴れたの。その時はなんだかすがすがしい気分にさえなったわ。きっとこれが本当のアタシの姿なんだって、でも不思議ね……何か破壊している最中に浮かんできたの。すがすがしさなんてものとは裏腹の気持ち悪さ……なんていうのかしら、違和感みたいなものがあって、結局この気持ち悪さがアタシを引き留めてくれたような気がするわ。その後はなんか変なやつに説教されてむかついて、納得してそいつに魔法で送ってもらって今に至るわ。……ヒナゲシ、アナタには心配かけたわねさっきウソとかいろいろ言ったけど、アタシはアナタが好きなことに間違いはないと心の底から言えるわ。そして、メディア、アナタにも迷惑かけたわね、ウソをついてごめんなさい。このウソが許されないならもうアタシの為に聖典は作らなくてもいいわよ、その覚悟もできてるから、でも許されるなら今度は期待して待ってるんじゃなくて、今度はきっちりと向き合いたいわ。そしてアタシの生まれた意味も見出だしたい!」
リコリスは最後の言葉を言い終わると近くにあった椅子に座り込んだ。その表情には全てを言い切った清々しさがあり、それに対する反論を待っているようにも見える。
「……お姉様、言いたいことはわかったの でも許せないの! わたしに内緒でどこかに行くなんて許せないの! わたしたちは姉妹なの……これはわたしの一人芝居なの?」
「許してほしいとは言わない でもヒナゲシ、アタシはアナタのことをたった一人のかけがえのない妹だと思っているわ」
リコリスは静かに言うと、ヒナゲシの方を向いて微笑みかけた。無理をしているような様子もなく嘘もついていない。しかし、ヒナゲシは疑惑を捨てきれていなかった。
「……まだ信用出来ないの」
「アタシにできることはなんでも言って アナタに信じて貰うためならなんでもするわ」
「なんでも……」
ヒナゲシが下を向いてつぶやくと沈黙が流れた。考え込んでいる彼女の中ではいろいろな可能性が巡り、その中で最も必要なことを導き出していた。再び顔を上げると一言「週末デートして欲しいの」と答えた。
「デート……それでいいのね わかったわ」
リコリスは意外な答えに戸惑いながらも承諾した。真剣な表情で言われたそれはあまりにも眩しく見えたが、視線を逸らすことは決してできなかった。
「あの……私からもいいですか?」
遠慮がちにメディアが口を開いた。
「先程リコリスさんがおっしゃったことについてですが、本当のことを伝えていただきありがとうございます!」
「えっ……!? 感謝なんて……」
「いえ! 私は驕っていました、きっと貴方が理解できる聖典ができただろうと そんな驕りを持ったままいればきっとまた間違いを犯す、そんな事態にならなくて良かったです」
「……アタシが言うのもなんだけれど、アナタは真面目すぎるわ!」
「そうかもしれません…… でも、私もリコリスさんと同じように大切な人……うつつさんがいるお陰で頑張れているのだと思います」と言い終わるとメディアは大きく腕を広げた。
「それと、リコリスさんが聖典のお手伝いをしていただけるのは大歓迎です! 難しい道かもしれません、ですがきっと解決策が見つかると信じていますから、力をお借りします!」
この空間に温かみが戻ってきた。リコリスは椅子から立ちあがると2人にお茶会の再開の旨を伝え、隣の部屋にいると思しきシュガーたちに伝えるために廊下へ続く扉を開こうとした。
「そういえば2人はどこにいるのかしら?」そう言いながら扉を開いたが、薄桃色の髪の毛がチラリと隙間から見えた。
「シュガー!?」と言いながら扉を完全に開くと、ばつが悪そうにしているソルトの姿も後ろにあった。
「えへへ…… ちょっと気になって」
「……ソルトもです 昨日のシュガーの反応が気になって盗み聞きしました」
リコリスは予想外のことに面食らったが、遅かれ早かれ話すことになったことが早まっただけだとし、むしろもう一度同じことを言わなくていいことに幸運を感じていた。
「こちらこそ黙っていてごめんなさい、2人に話したら言うつもりだったから……」
シュガーたちを手招きしながら椅子に座った。ヒナゲシたちはすでに席についており待っている。
「うん、わかった! これは、リコリスちゃんのお祝いだからね」とシュガーはソルトの手を握ると快活に歩き出した。机の上にはそのままお菓子が並べられており、ポットからは湯気と共に香気が漏れ出ている。
5人は席に座るとそれぞれのカップに紅茶を淹れた。無糖、角砂糖1つ、ミルク、山盛りの砂糖とミルク、レモンと一人ずつ味が異なる。
「みなさん、当たり前ですが好みがバラバラですね」
メディアは興味深そうにそれぞれのカップを見渡した。
「そうね、これも性格がでるのかしら?」
「ソルトちゃんは無糖なの」
「甘すぎるのは好きではないですから シュガーは砂糖控えめが気に入ったんじゃなかったでした?」
「んん〜 あれはあれでよかったけど、やっぱりシュガーはこれが好き♪」
お茶会は進んでいく。
お菓子の量も少なくなり、会の終了も近づいてきた。リコリスは自らの置かれた幸運を改めてかみしめていた。決して自分一人ではできなかったこと、この4人とならきっとできる、そんな予感がときめきとなって体を震わせている。夜に遭った人物の言ったこともあながち間違いではないと考え、口に出した。「みんなで支え合うそれができて1人前、か……」
「お姉様、なにかいったの?」
「いいえ、お菓子も無くなってきたし お開きかしらって思ったのよ」
「お開きですか…… 楽しい時間はあっという間ですね」
「う〜ん これでおわりかぁ〜」そういうとシュガーは最後のお菓子を口に含んだ。この瞬間にお茶会は終幕した。名残惜しそうにお菓子を味わいながらソルトにアイコンタクトを送るシュガーを無視し、「さっ、片付けましょうか いつでもできるのですから」とカップを片付け始めた。
皆が茶器を片付ける中、シュガーも渋々片付けを始めた。そして全てを片付け終わると期を見計らったようにリコリスが口を開いた。
「みんなごめんなさい…… そして、本当にありがとう」
皆は、もう言葉は必要ないばかりに頷くと、ヒナゲシは抱き着いてそれを答えとした。
今は言葉すらも野暮に感じるほどだった。
[完]
あとがき
ここまで読んでいただきありがとうございます
今回は前後編の予定でしたが、なにか書きたいことが大幅に増えて中編を追加しました。あと、ネタを考えていた当初はリコリスとロザリアが戦ってなんかいい雰囲気で終わる予定でしたが、よく考えたらリコリス側は何も解決していないなと考え、前中後編となりました。
中編の話ですが、やはり死闘は書いていて楽しいです。ただ、きららファンタジアのキャラやきららキャラを無闇に傷つける描写を入れるわけにはいかないのでいろいろ悩みどころですが、オリジナルキャラクターが傷つく分には自由があるのできららファンタジアの世界観にある程度沿ってこれからも書いていきます。(ゴア表現が苦手な方はごめんなさい)
あと、今回の話は時系列的には1月くらいの出来事で、『プレゼント騒動』から少し時間がたったものになっています。プレゼント騒動から本作の間の時期にロザリアと花和の話を考えていたのですが、さきにこっちの形ができてしまったので順番はおかしくなってしまいますが、それも投稿する予定です。(その前にカメリアや椿の話もあるのでいつになるか分かりませんが…)
と、いうわけで次回の作品でお会いしましょう!
拝読しました! 完結お疲れ様です!!
嘘をついてしまったこと、感情を抑えきれず暴れてしまったこと。できるなら隠し通したいと思うようなことを、包み隠さず打ち明けるリコリスさん。
最早当たり前のように言っていますけど、責任 (と書くと大袈裟な気もしますが) の所在を専ら自分に求めるところに無視できない心境の変化を感じるばかりです。
何より、ヒナゲシちゃん (とハイプリス様?) 以外に打ち明けられる相手ができたということが尊い。ロザリアさんの言葉を借りるようでうが、「君は一人じゃない」という事実がリコリスさんにとって大きな支えになることでしょう!
... あと、チャンスを目聡く掴んでデートの約束を取り付けるヒナゲシちゃんはかなりの強者ですね... 頑張れリコリスさん! 寝る前は枕元に気をつk
不穏な中編から、きれいに終わっていて良かったです
一度敵対した相手との絆、以前から側にいた人の大切さ、優しさに触れて優しくなれる世界っていいですね
>>85
ペンギノンさんいつもありがとうございます!
リアリストとして活動していた頃の彼女だったら、この世の悪いことはすべて聖典や神殿が悪いみたいな考えでしたからね、これもシュガソルやヒナゲシとの交流で育んだ心ですね。
あと、本作ではハイプリスとは辺境に旅立ったきり会っていないので、いつか再会できる日もあるかもしれません。
リコヒナデート編も少なからず考えているのでお楽しみに!
>>86
コメントありがとうございます!
改めて思い返しても、前中後編に変更したのは英断でした。おっしゃられたように、不穏なまま終わることになっていましたし、よかったです。
エトワリアの世界の根底には優しさがあるので、そのやさしさに触れるような作品をこれからも書いていきたいと思っています。
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