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【SS】 舞 「わたしが歩んできた道は」
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1 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2022/03/23 17:00:03 ID:yA.PU7DSb5
[Attention!]
この作品は『恋する小惑星 (アステロイド) 』を題材としたSSです。
あくまで上記原作とは一切無関係な所謂二次創作 (或は三次創作) です。
創作の関係上、大いに独自設定 ・ 捏造 ・ 原作を逸脱した点が存在します。
SSによくある会話形式ではなく、モノローグや背景描写などを多分に含みます。
その関係で文字が多く、読みづらいです。
書き溜めありです。と言うより、既に最後まで完成しています。
本作は原作4巻までの内容をがっつり含みます。アニメのみ視聴された方や原作未読 ・ 未視聴の方、原作を4巻まで読んでいない方におかれましては、何卒ネタバレにご注意ください。
最後に、私は大の恋アスファンです。地学部は永遠に不滅です。

以上の点を了承してくださる方は、どうかお付き合いください。

2 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:02:04 ID:yA.PU7DSb5
 わたしが歩んできた道は、思えば平坦なものではありませんでした。
 星咲高校に入学し、地質研究会の扉を叩いたあの日から、早2年半。
 地質研は、もうありません。天文部と合併して地学部になりました。
 でも、それをわたしは残念に思っていません。
 だって、こんなに素敵な人たちと出会い、関わることができたんだから。
 それに、わたし自身が変われたから。
 好きって気持ちに嘘をつかず、簡単に諦めてしまわない。そんな自分に。

3 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:04:07 ID:yA.PU7DSb5
 星咲高校、地学部部室。片付けを大方済ませた部屋は、とてもがらんとしています。
 つい数時間ほど前までの光景が、ちょっと信じられないほど。
 今日は1年に一度の星咲祭、その当日。
 わたしたち地学部は、みらちゃん発案のコンセプトに拠り『イノ ・ セント ・ ワールド』と称して部の活動を報告し、体感してもらう企画を遂行し、これを大成功させました。
 途中、大学に進学した元部員の桜先輩とモンロー先輩が来てくださるというサプライズもあり、わたしたちは大いに盛り上がりました。
 そんなお祭り騒ぎも、ひとたび終わってしまえば早くも思い出話。楽しい時間は、あっという間に過ぎ去っていくものです。
 ちょっぴり勿体無いけど、だからこそ。わたしは、その記憶を大切に仕舞っておくんです。
 いつでも、見返せるように。いつでも、振り返れるように。

4 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:06:04 ID:yA.PU7DSb5
 本当に、色んなことがありました。
 地学部成立当初は、単に旧天文部と旧地質研究会が同じ空間に存在するだけという感じが、どうしても否めませんでした。
 そんなわたしたちを繋ぎ止めてくれたのは、新しく部に入ってきてくれたみらちゃんとあおさん、そしてみらちゃんのお友達のすずさんでした。
 工作やイラストが得意で、ムードメーカーのみらちゃん。天文に関する知識がとても豊富なあおさん。おうちがパン屋さんで、いつもパンを焼いて持ってきてくれるすずさん。
 この3人のお陰で、わたしたちは地学部としての絆を深化させることができたのでした。
 こうして、天文好きと地質好きが単に同じ空間にいるだけだった地学部は、大きく様変わりしていきました。
 例えば、昼間は河原に赴き岩石採集、夜間は天体望遠鏡で天体観測。そんな感じの活動を、皆で一緒に行うようになりました。
 わたしは旧地質研出身なので、はっきり言って天文学に関しては、学校で習う以上の知識を持っていませんでした。それでも、一蓮托生となってお互いの興味あるテーマを学びあい、理解を深めていく日々が、刺激的でした。

5 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:08:06 ID:yA.PU7DSb5
 まるでジェットコースターみたいな、慌ただしい1年半でした。
 会報を作って、思わぬ切っ掛けで注目を集めて。
 夏合宿に行って、海に遊びに行って。
 イヴちゃんと作った新聞記事が生徒会長に喜ばれて、初めての星咲祭で奮闘して、成功させて。
 その時期からわたしは部長になって、地元の天体観測会に参加して、地学オリンピックの予選に出場して。
 部室で忘年会をして、新年を迎えて、あおさんが転校しそうになって、みらちゃんの家に住むことになって。
 春が来て、先輩たちが部室を去って、新しくナナさんとチカちゃんが入ってくれて。
 また夏が来て、みらちゃんが小惑星発見を目指す企画に参加して、あおさんがそれについていって。
 久しぶりにケイちゃんと再会して、季節が移ろって、そして今。
 地質研時代の1年間を蔑ろにする意図は決してありませんが、地学部になってからの日々は本当に楽しくて、幸せで。
 ほっと一息。自分でも驚くくらいに、アクティヴな毎日。
 でも。この静まり返った部室と同じように、若しくは今日の星咲祭と同じように、何事にも必ず終わりがあるから。
 地学部員としての、高校生としての、わたしの日々も、もうすぐ...。

6 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:10:09 ID:yA.PU7DSb5
 「イノ先輩、どうしたんですか?」
 ふと、声のした方を振り返ります。みらちゃんが、わたしの様子をうかがっていました。
 「い、いえ。ちょっと、寂しいなって」
 みらちゃんは、不思議そうな顔を浮かべて、でも何か答えを出そうとしている様子です。
 「わたし、部長を引退して、あと半年もすれば地学部どころか高校そのものからいなくなるじゃないですか。今更になってそれが身に沁みてきまして。流石に遅すぎますかね」
 みらちゃんは少しの間上に視線をずらし、再び視線を合わせました。
 「そんなことないと思います。わたしだって、実感湧きませんもん」
 「やっぱり、そういうものなんでしょうか」
 「はい。きっと、そういうものなんです」
 しん。わたしたちの会話が途切れて、部室はいっそう静寂に包まれます。
 もうそろそろ、御暇した方がいいのでしょうか。そんなことを考えていたとき、みらちゃんが言いました。
 「少し、お話しましょう」

7 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:12:04 ID:yA.PU7DSb5
 「さて。どんなお話しますか?」
 いつもの机と椅子を出してきて、着席。にわかに、夕陽が窓際を橙色に照らします。
 「うーん、どうしましょう」
 「えっ!? みらちゃん、何かお話したかったことがあったのでは!?」
 思わぬ言葉に、つい拍子抜け。不意を突かれてしまいました。
 「えへへ。実のところ、イノ先輩の寂しさを紛らわそうと思って言ってみただけで、具体的に話題があったわけでは...」
 そう言いながら、みらちゃんは後頭部を掻きます。やはり、気を遣わせてしまったのでしょうか。
 「何かないかなぁ。話題にできそうな何か... えぇと」
 バッグを開いて荷物を漁るみらちゃん。わたしのために、そこまでしてくださるなんて...。
 「あ、あの、別に大丈夫ですから...」
 「うーん、これはちょっと違うし、これは教科書だし...あ、そうだ」
  みらちゃんが何かを思いついた様子。そのまま、沈黙してしまいました。

8 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:14:05 ID:yA.PU7DSb5
 「どうしましたか、みらちゃん?」
 思わせぶりな仕草を取られると、気になってしまうのが人間の常というもの。わたしは、みらちゃんに問いかけました。
 「ふふっ。これなーんだ」
 「えっ? みらちゃん、何を持って... あっ」
 みらちゃんがわたしに見せてきたのは、わたしがみらちゃんたちのために書いた地図でした。それは、今から一年以上も前の、懐かしい記憶。
 尤も、つい最近姿を見た気もしますが。
 「イノ先輩。わたしと、宝探しに行きませんか」
 みらちゃんは、わたしを真っ直ぐ見つめて言いました。
 悩むことなんてありません。わたしは即座に返しました。
 「はい。喜んで」

9 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:16:04 ID:yA.PU7DSb5
 「えーと、先ずは渡り廊下を進んで、特別教室棟に...」
 文化部棟を抜け出したわたしたちは、地図を見ながら歩き始めました。
 わたしが書いた地図ですから、行き着く先は当然知っています。みらちゃんも、一度この地図で宝探しをやってもらったので、立場は同じです。
 それでも。理由はうまく説明できないけれど。
 知らない場所を探検するときのような、新鮮で、わくわくする、この気持ち。
 「わたし、時々考えることがあるんです」
 みらちゃんの呟きに、耳を傾けます。
 「何だかんだわたしも、1年半くらい学校に通い続けましたけど、未だに行ったことのない場所も結構多いんですよね。例えば運動部の部室とか、習ってない科目のための部屋とか、あとはえーと...」
 「... 校長室とか?」
 「あははっ!! それ、わたしもです。校長先生の部屋って、ある意味わたしたち一般生徒には一番縁遠い部屋かもしれませんよね」
 「学校の顔で、式典とかでは必ず見かけるのに、ちょっと不思議です」

10 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:18:03 ID:yA.PU7DSb5
 考えてみれば、3年生のわたしにもそういう場所はいくつかあります。
 部屋がある以上、開かずの部屋にでもなっていない限りは誰かが使っている。でも、全員一律というわけでは決してありません。
 学校が、学習の場だということを踏まえれば。
 偏に、それは進路の自由さを、針路の自由さを、まさしく体現しているのではないでしょうか。
 「とても、的を射ていると思います。わたし、そういう考え方好きです」
 みらちゃんに自分の考えていたことを伝えると、そんな返答が返ってきました。
 「地学部員だけに限定しても、天文と地質と気象とでバリエーション豊かですし。それに、同じ天文でもわたしやあおとモンロー先輩は目指しているものが違うし、桜先輩とイノ先輩だって同じではないですから」
 「そうですね。うちの場合は、それら全部を内包してしまう地学の、懐の広さの賜物ともいえるのでしょう」
 「地球どころか、宇宙まで全部ですもんね。もしかしたら、地学がカバーできないものはないのかも。なーんて」
 冗談っぽい口調で、みらちゃんが笑います。ですが、大袈裟だとは微塵も思いません。
 自信を持って言えます。わたしは、そんな地学が大好きなのだと。

11 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:20:05 ID:yA.PU7DSb5
 場所は変わって、生物準備室。夕暮れ時の人体模型は、分かっていても恐怖心を掻き立てられます。
 たとえ夕陽でも、陽射しが入ってくるのがせめてもの救いに思えます。
 「こ、怖いから急いでダッシュです!!」
 「はい、そうしましょう!」
 既に勇み足になっているみらちゃんの提案に乗るように、わたしも足を速めます。視界の端に、僅かに模型の姿が入りました。
 どこか寂しそうな、わたしたちを見送ってくれるような。きっと気の所為ではあるのでしょうが、何となくそう感じられました。
 「はぁ、はぁ...。人体模型は何度見ても慣れないです...」
 「はぁ、はぁ...。何もあんな暗がりに置かなくてもいいのにと思っちゃいます」
 それでも、息切れ気味のみらちゃんの言葉に、結局わたしも同意せざるを得ないのが少々悔やまれます。
 せめて内臓が半分くらい見えてしまっていなければ、恐怖心も和らぐのですが...。

12 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:22:02 ID:yA.PU7DSb5
 「同じ模型でも、隕石の模型とかなら全然怖くないのに」
 「所謂レプリカというものですね。そういうものなら、むしろずっと見ていたいまであります」
 「まぁ、ほんとは本物がいいに決まってますけど」
 「高いし、貴重ですもんね...」
 隕石のような地球外からの飛来物は、どうしても値段が高くなってしまうものです。去年の夏にみらちゃんと桜先輩が行ったというミネラルショーで、みらちゃんが隕石の薄片を買おうとしたけど、高価すぎてやめたというお話を前に聞きました。
 学術的価値の高い代物ではありますから、それくらいが普通なのかもしれません。

13 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:24:03 ID:yA.PU7DSb5
 「それにしても、さっきの人体模型。偽物であれですから、本物を見ている人たちは本当に度胸ありますよね」
 「え、本物を見ているってどういう」
 みらちゃんが青ざめています。あれ、わたし変なこと言ってしまったでしょうか?
 「例えば、外科のお医者さんとかですかね」
 「あぁ、そっちかぁ。よかった、猟奇的な話かとてっきり」
 「怖いです!! むしろそっちの方が!!」

14 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:26:04 ID:yA.PU7DSb5
 中庭が見える窓際に差し掛かりました。今日も池の鯉は、元気に泳いでいます。
 「あっ、この鯉は」
 みらちゃんが目を輝かせています。
 「確か、あそこにいる子がフェルミで、あの子がファインマン。そっちの子がコッククロフトで、こっちの子がディラックですね」
 優雅に泳ぐ4匹の鯉を順番に指差しながら、みらちゃんは言います。それを聞いて、わたしは納得しました。
 「成程、そういえばここの鯉に名前を付けたのはみらちゃんのお姉さんでしたっけ」
 みらちゃんのお姉さんこと、木ノ幡みささん。彼女は、わたしが2年生だった頃の生徒会長でもありました。
 みささんはある時、この池の鯉にこっそり名前を付けました。それに気付いたわたしがイヴちゃんに話して、この出来事は新聞記事となりました。
 尤も、わたしは名付け親がみささんだとは知らなかったのですが。
 その後、みささんが記事の内容を知った結果、改めてみささんのインタビュー記事が作成される運びとなったのは、わたしたちの間でも語り草となっています。

15 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:28:04 ID:yA.PU7DSb5
 「しかし、お姉ちゃんもすごいよ。学校の鯉に名前を付けるのだけでも割と不思議行動なのに、名前の由来が核物理学者の名前だなんて」
 「ふふっ。確かにそうかもしれないです」
 「核物理学者の皆様も、まさかこんな形で名前を引用されるなんて思いもしなかったでしょうね...。ほんと、お姉ちゃんったら」
 そう言いながらも、その表情はとてもにこやかです。
 「好きなんですね。お姉さんのこと」
 「そ、そんなことないですよっ! 別に普通ですってば、普通の姉妹です」
 わたしの投げかけた言葉に、顔を真っ赤にして慌てるみらちゃん。噂によると、みささんはみらちゃんのことを溺愛しているらしいのですが、ひょっとしたら、こういう姿を普段から見ているからなのでしょうか。
 「みらちゃん、かわいいです」
 ぼそっと一言。小声のつもりでしたが、しっかり聞かれてしまい。
 「か、かわっ!?」
 みらちゃんは、ますます動揺してしまいます。今なら、みささんのお気持ちもよくわかります。そんな、気がしました。

16 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:30:03 ID:yA.PU7DSb5
 「漸く、辿り着きましたね」
 「はい。ここが、わたしたちの目的地です」
 地学室前、地質図の裏。ここに、わたしは宝物を隠しました。今は、もうないですけど。
 「確か、旧地質研の活動拠点だったんですよね、ここ」
 「その通りです。わたしが入学した頃、わたしと桜先輩はここに通っていたんです」
 部活動目的でこの場所に通わなくなって、早1年半。それでも、地学室はいつでも、地学部地質班としてのわたしのルーツです。
 「もし、もしもですよ」
 地質図を凝視していたみらちゃんが、口を開きました。わたしは耳を済ませます。

17 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:32:05 ID:yA.PU7DSb5
 「もしも、天文部と地質研が合併していなかったら、今頃わたしたちはどんな日常を送っていたのでしょうね」
 それは、地学部の一員になってから何度も考えたこと。地質研と天文部の合併はやむを得ず行われたことでしたから、お互いの部員数によっては合併されなかった未来も、あり得ない話ではありません。
 「そうですね...。少なくとも、こんなに賑やかにはならなかったかもですね」
 数時間前にあおさんにも言ったことですが、これはわたしの本心です。
 仮に地質研が合併の心配をしなくて良いくらいの人数を確保できていたとしたら、地質関係の話で盛り上がることは可能だったでしょう。
 でも、今の地学部ほどの自由さと仲良しさを実現できていたかと問われると、正直わかりません。
 それだけ、わたしにとって今の地学部がかけがえのないものになったということの、裏返しともいえるのでしょうか。

18 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:34:04 ID:yA.PU7DSb5
 「わたし、入学した頃から天文部希望だったんですけど、遠藤先生から天文部が廃部になったと聞かされて、とてもショックで」
 みらちゃんの語りは続きます。
 「でも直後に、地質研と合併して地学部になったことを知って、直ぐに入部を決めました。結果として、それが最高の選択肢だったわけですが」
 みらちゃんは、幼い頃にあおさんと約束を交わして以降、ずっとそれを叶えることを夢見ていました。
 天文部に入部しようと考えたのも、その一端。あの曰く付きのプラネタリウム企画をご存知だったことを考えると、星咲高校を志願した切っ掛けが天文部だった可能性すら大いにありえます。
 「勿論天文の話は昔から好きでしたから、楽しくないわけがない。そこに、今まではあまり詳しくなかった地質学とか気象学の話にも触れる機会ができて、全部がとても面白いって思えたんです」
 みらちゃんの瞳の奥が、心なしか煌いて見えます。
 「わたし、地学部の一員になれて、本当によかった」
 みらちゃんは、はっきりとそう言いました。満面の笑みを、浮かべながら。

19 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:36:04 ID:yA.PU7DSb5
 そんなみらちゃんが、あまりにも眩しくて。輪郭がぼやけてきます...。
 「い、イノ先輩!? 泣いてるんですか!? わ、わたし何かやっちゃいましたか!?」
 「えっ...? あれ、ほんとだ。わたし、泣いてる」
 特に悲しいことなんてないのに。いいえ、特に悲しいことなんてないから。
 この涙は、嬉し泣き。わたしも、嬉しかったんです。
 こんなに素敵な人たちと、一緒に居られたことが。
 こんなに素敵な人たちと、地学部を作っていけたことが。

20 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:38:02 ID:yA.PU7DSb5
 「いやー、楽しかったですね、ほんと」
 「はい。今日はありがとうございました」
 地学室前を移動したわたしたちは、そのまま校舎を出て帰路についています。
 「えーと、多分あの辺に...」
 「みらちゃん?」
 みらちゃんは、何かを探している様子です。
 「おーい! わたしだよー!!」
 みらちゃんが誰かを呼びました。突然の出来事に少しだけびっくりしてしまいました。
 「あっ、みら! やっと来た」
 ふと声のした方を見ると、あおさんが大きく手を振っていました。わたしたちは、そちらに駆けていきます。

21 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:40:03 ID:yA.PU7DSb5
 「ごめーん、ちょっと寄り道とかしてた」
 「寄り道って何ですか...。もう少しで置いてっちゃうところでしたよ」
 「ふふっ。そう言って、一番心配してたのはナナちゃんのくせに」
 「う、うるさいよチカ。チカだって心配してたでしょ?」
 「当然です。ナナちゃんももっと素直になればいいんです」
 「ぐぬぬ...」
 更に、ナナさんとチカちゃんの声も。もしかして、みらちゃんはわたしを迎えに来てくれたのでしょうか?
 「いーのっ。なに鳩が豆鉄砲食らったような顔してんの。わたしたちが居て驚いた?」
 「さ、桜先輩!?」
 「あら、わたしのことも忘れちゃ駄目よ」
 「モンロー先輩もっ!?」
 なんと、既にお帰りになったと思っていた先輩方までいらっしゃいました。

22 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:42:02 ID:yA.PU7DSb5
 「ぐふふ... ねぇねぇイノ先輩、みらと何してたんですかぁ? もしかして、デート...とか!?」
 「お姉、ステイステイ。あはは、すみませんっス。ご存知の通り、いつもの発作なので」
 すずさんとメグさんの声も。本日は、美味しいスイーツをどうもありがとうございました。
 「そ ・ れ ・ で、みら、実際のところどうなのさ? もしかして本当に...」
 「ひゃい!? え、えーとね、その... あはは...」
 「えっ、マジですか」
 「ふぇぇ、いのせんぱぁい」
 「あわわわわ、と、特にそういうことはなかったですよ」
 この状況でみらちゃんに泣きつかれてしまい、取り繕うのがやっと。確かに、見方によればデートとも捉えられかねない状況ではあっただけに、やましい気持ちが否めません。
 それに、先程から、あおさんの視線がどこか冷たい...。

23 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:44:03 ID:yA.PU7DSb5
 「おっ!? もしやこれは特ダネか!? 特ダネなんですね!?」
 「はいはい、イヴちゃん先輩もステイステイ。すみませんね、いつもの発作です」
 「お、お気になさらず...」
 新聞部のイヴちゃんと宇佐美さんまでいたとは。ここまで来ると、冒険にでも行くかのような大所帯です。
 わたしたち風に言い換えるなら、フィールドワークに出掛ける調査チーム、といったところなのでしょうか。
 「イノ先輩。改めて、星咲祭お疲れ様でした。そして、部長としても」
 皆さんのいる方に、しっかり顔を向けます。とても和やかで、安らぎを感じる表情です。
 わたしも、皆さんと同じ表情を浮かべて言いました。
 「はい、こちらこそ」

24 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:46:02 ID:yA.PU7DSb5
 わたしが歩んできた道は、思えば平坦なものではありませんでした。
 でも、それがむしろ良かったんだと確信しています。
 その穏やかでない道のりには、ひとつひとつドラマがあります。
 実際の道や地形と同じです。自然の力や人々の営みが、それらを形成していったんです。
 ドラマを経た道は、その痕跡をどこかに残しています。周囲の土地利用の傾向だったり、土の性質だったり、植生分布だったり。それらを辿ることで、わたしたちは間接的にその道の歴史を追体験できます。
 わたしたちの人生で言うと、アルバム写真のようなものです。人生のほんの一瞬を切り取ったスナップショット。それが集まって、わたしという道が作られているんです。
 それが山あり谷ありな凸凹道だったのだとしたら。
 そこに刻まれたドラマも、語り尽くせない程のボリュームになっているのでしょう。

25 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:48:03 ID:yA.PU7DSb5
 だからこそ。わたしは、大切に仕舞っておくのです。
 わたしという物語を綴ったノートを。あるいは、わたしという人生を纏めた地図を。
 ふと思い立ったときに見返して、懐かしむように振り返って。
 その道筋を辿れば、いつでも帰って来られるから。
 思い出の場所に。幸せの場所に。

26 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:50:02 ID:yA.PU7DSb5
 一度振り返って、校舎に小さく一礼。
 これまで2年半、ありがとうございました。
 それから。あと半年間、どうか何卒。
 踵を返して、皆さんの方に歩みを進めます。
 この踏み出した一歩が、いつか夢に近づく、大きな一歩になりますように。
 そんな、小さな願いを込めて。
 夕陽も沈んで、すっかり暗くなった町並み。星咲の夜は、今日も満天の星空です。

--fin--

27 名前:きららBBSの名無しさん[sage] 投稿日:2022/03/23 17:52:03 ID:yA.PU7DSb5
[あとがき]
はい、ということで終わりです。イノ先輩の未来に、幸あれ。
今回のお話は、原作4巻の48話 (『ジオカフェ2』) と49話 (『お疲れ様会』) の間を縫うようなイメージで執筆しました。季節が実時間と真逆だぁ...。
ここまで時間軸を限定した作品を書いたのは恐らく初めてだったので、原作との整合性を取る作業も含めてかなり難航しました。無事脱稿に至ることができたのは、素直に喜ばしいことです。
本作の執筆にあたって原作を何度も読み返したのですが、話の構成があまりにもうますぎて鳥肌が立ちました。地学という、学術性が高く「おカタい」テーマを敢えて扱い、あまつさえあんなに親しみやすい作品へと昇華させているのは勿論のこと、以前の話で扱った内容を効果的に使った「過去との対比」から、登場人物たちの明確な成長が読み取れて感慨深いです。
以前 (というか一番最初) に書いたSSのあとがきで、私は『恋アス』を「学術的知識に富んだ青春物語」と表現しましたが、今回のSS執筆を通してますますその思いが強くなりました。
ひとりひとりが、自分の「好き」という感情に対して正直でいられる。そして、その思いを胸にどこまでも興味を深め、追いかけていける。そんな青春の軌跡は、必ずや彼女たちの宝物になることでしょう。
最後になりますが、ここまで読んでくださった方に心から感謝申し上げます。
誠にありがとうございました。

なお、この作品が2021年度に投稿する最後のSSとなります。これまで私の作品を閲覧 ・ 評価してくださった皆様のおかげで、私はここまで辿り着けました。
今後もSS投稿は気ままに続けていくつもりですので、よければ今後ともごひいきに。

28 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2022/03/23 17:54:48 ID:yA.PU7DSb5
[これまで書いたSSリスト (順次追加) ]

・ 『あお 「くじら座の変光星の女の子」』
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3596&ukey=0
https://kirarafan.com/archives/29338408.html

・ 『変な生き物 「遂に誰からも本名で呼ばれなくなった」』
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3602&ukey=0
https://kirarafan.com/archives/29371224.html

・ 『クレア 「わたしは鍵の管理人」』
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3607&ukey=0
https://kirarafan.com/archives/29421806.html

・ 『クロ 「この丘から見える星空は」』
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3619&ukey=0
https://kirarafan.com/archives/29460066.html

・ 『きらら 「ツンツーンください!!!!!!!!」 サンストーン 「いきなりでけぇ声あげんなよ うるせぇよ」』
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3637&ukey=0
https://kirarafan.com/archives/29571518.html

・ 『みさ「みらがかわいすぎて生きるのがつらい」』
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3650&ukey=0
https://kirarafan.com/archives/29631528.html

29 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2022/03/23 17:56:03 ID:yA.PU7DSb5
・ 『シャミ子 「杏里ちゃん、一緒に帰ろ?」』
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3668&ukey=0
https://kirarafan.com/archives/29760440.html

・ 『千矢 「風邪を引いた夜のお話」』
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3681&ukey=0
https://kirarafan.com/archives/29831832.html

・ 『スズラン 「飯奢ってくれ」 ロベリア 「図々しいわね、呪うわよ...」』
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3702&ukey=0
https://kirarafan.com/archives/29946896.html

・ 『シャロ 「貴方が教えてくれること」』
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3720&ukey=0
https://kirarafan.com/archives/30014131.html

・ 『みら 「あおー、ぼくの着替え知らない?」 あお 「!?」』
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=3727&ukey=0
https://kirarafan.com/archives/30053806.html

・ 『舞 「わたしが歩んできた道は」』: このSS

30 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2022/03/23 21:54:05 ID:yA.PU7DSb5
作者です。当作品が「やるデース! 速報」に掲載されました!
https://kirarafan.com/archives/30108512.html

思えば、今回が最後のおまとめ。長いようで短い私の旅路も、一旦の区切りがついたといえましょう。
尤も、ここで終わりにするつもりはありません。また、新しい旅に出掛けます。
そのときは、よければ一緒に。いつでも、歓迎いたします。

もぐ管理人様、今回も含めて、これまで本当にありがとうございました!!

31 名前:パラガスト下級戦士[age] 投稿日:2022/03/24 21:07:52 ID:KtqusfU3A.
今回もきちんと読ませていただきました。前に進む一歩は本当に大事。この世界線でも。現実でも。
そして、SSの制作でも…?私もSSを制作していてよかったと勇気づけられる、そんな気がします。

32 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2022/03/25 09:03:30 ID:/7ngHBappd
>>31
作者です。パラガスト下級戦士様、コメントありがとうございます!
前進するということは、それだけで勇気が要るものです。
それでも、臆せず自分の道を歩んでいける力強さを持って。
そして、時々、後ろを振り返る。それもまた一興。
思い出という道のりは、いつまでも私たちのことを憶えてくれています。
最終的に俯瞰して自然とわくわくするような地図を、作っていけたらいいな。

33 名前:ペンギノン (作者)[age] 投稿日:2022/03/29 18:04:43 ID:9u/f0OQtwJ
本作品をPixivに投稿しました。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17293779

また、これをもって、私がこれまできららBBSで投稿した全作品のPixivへの投稿が完了しました。

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