こんにちは、カレルと申すものです
これで節目となる20作目ですね。
こちらは「きららファンタジア」と「あんハピ♪」の二次創作になります
今回はリアルの都合により、話を小出しにして投稿します。また、投稿間隔も不定期になると思います。話の構想自体はできているので失踪はしません。ですので、気が向いたときにでもご覧ください。
更新した際は『SSを宣伝するスレ』にて宣伝させていただきます。(pixivでも同じ内容を投稿する予定)
話の区切りは「☆☆☆」のマークを付けるのでわかりやすいと思います。
注意事項
*キャラクターの独自解釈
*独自設定
*原作との乖離
*妄想
*オリジナルキャラクター
等が含まれるので苦手な方は注意してください
『SSを宣伝するスレ』
https://kirarabbs.com/index.cgi?read=1662&ukey=0
『カレル-pixiv』
https://www.pixiv.net/users/80083511
【椿は香らない】
[ジンジャーの屋敷]
どこまでも澄んだ空が続く朝方。
椿はこそこそと屋敷の廊下を一人歩いていた。
ちょうど通り過ぎた扉がゆっくりと開き「おう、椿 出かけるのか?」と、聞き覚えのある声が後ろからした。
椿はすぐに振り返り声の主の方を見た。
番長を思わせるような外套と帽子、ブロンドの髪に獅子を思わせる耳と尻尾が生えている女性が廊下の中央で仁王立ちをしている。
「じ、ジンジャー!?」椿はジンジャーを認識すると驚きで後方に飛びのいた。
「わっはっは! いきなり声をかけてすまなかったな、こんな時間に椿が外に出ているのが珍しくてな」とジンジャーは豪快に笑いながら言った。
「う、うん…」
椿はジンジャーの豪快さに戸惑いながらも、「町の図書館に行く」と伝えた。
「ああ、チモシーがいるみたいだし…、メイドを同行させなくてもいいか」とジンジャーは椿が抱いているチモシーをチラリと見ながら言った。
「うん、あの時は何も言わずに行ってごめんね」
「いいや、椿が無事ならいいのに大騒ぎしたのは私の落ち度だからな。私も椿を信じ切れなかったところがあるから、笑顔で送り出すぞ!」とジンジャーはどこから取り出したのか、ジンジャーの専用武器の“釘バット”を肩に担いで言った。
「ジンジャー、どこからバットが出てきたの?」
「わはは! まっ!そんなことはいいから玄関まで送っていくぞ」
「うん… ありがとう」
「そうだ、前におまえが会ったやつのことを、詳しく聞いていいか?」
「あ、うん… そんなこと気にするなんて…ジンジャー珍しいね…」
「まぁ、椿が世話になっているみたいだし、知っておきたくてな… 話したくないなら、別に話さなくてもいいが…」
「うん…じゃあ… 後で、でいいかな… まだ、はっきりと言える自信もないし」
「おう、椿が話してくれるのを待っているぜ!」とジンジャーは笑顔で言った。
「うん…」
「ジンジャー、行ってくるね」
「おう、暗くなる前に帰って来いよ」とジンジャーは言った後に「どこの馬の骨だ…」とバットをきつく握りしめながら小さくつぶやいた。
椿はその言葉には気づかないままジンジャーの屋敷から出て、街の図書館に向かった。
☆☆☆
<“起動”アクティベーション、チモシー>
図書館の前に来た椿は茂みに体を隠し携帯型端末「スマホ」を通しチモシーを起動した。
―起動は問題なし 不慣れな操作と動き出しに少しラグがあるが許容範囲、ただ改良要検討!― とノートに書きだしていく。その表紙にはサインペンで「チモシー」と大きく書かれており、その横にはかわいらしい手書きのチモシーのイラストが添えられている。
別のページには多くの改良案やアイデアが出され、ノートに踊るようにペンが進んでいく。
途中から鼻歌も交じり、夢中になって書き込んでいく。
改良点やアイデアを粗方書き終わり、「ふぅ… こんなものかな」と小さくため息をつき、ノートをチモシーの背中にしまった
次に端末の映像を確認しながらチモシーを動かした。操作方法は従来のキーボードタイプではなく、仮想パッドになっており操作がぎこちないが、慣れるまでと割り切って運動テストを開始した。
『うん、カメラの操作は問題なし… 伸縮性アームも動かせる… ほとんどキーボードと違いはないかな ただ複雑なコマンドでの呼び出しは流石にキーボードに劣るから、音声認識に切り替えを…』とチモシーの操作をキーボード向けからスマホ向けに調整していく。
「チモシー、“透明”インビジブル・モード」
椿はスマホに内蔵されたマイクに囁くと、瞬く間にチモシーの姿が背景に溶け込み見えなくなった。
『チモシーの新機能の透明化は問題なく作動しているね 動いてもチモシーの周囲の景色が揺らがないし、次はこの状態で高速移動をしてみようかな』
仮想パッドの移動スティックをニュートラルの状態に戻し、目一杯押し込んだ。すると、チモシーがいるらしき場所の景色が歪み、その歪みが地面から壁、屋根へと移動していく姿が確認できた。
『う〜ん… 高速移動だと微弱な魔力でも抵抗が大きくなって透明化が不完全になっちゃうのか これをどうにかして改善できれば…』と椿はチモシーを自動操縦に切り替え、高速で動く歪みとにらめっこしながら考えていた。しかし、その解決法の糸口がまだつかめないので、「チモシー、“帰還”リターン&“透明”インビジブル」と端末に命令を送ると、椿のすぐ隣に透明化を解除したチモシーが出現した。
―「透明モード」は人が歩く程度(2.9km/h)では知覚をすることができないが、準高速移動(70km/h)では魔力(別の要因も)の抵抗が大きくなり、人が知覚できるほどの状態になってしまう。そのため魔力の影響を受けにくくする機構か、バリアを使った保護装置などを組み込めば解決する可能性があるが、今の段階でノウハウもなく現段階では机上の空論としておく。
また、魔力の問題は場所によって魔力の濃度が極端にことなる地域もあるため、魔力の量を視覚的にわかりやすくする装置の開発を誰かに依頼したい(カンナが望ましい、また噂で聞いた“発明家”という人物も)。その際にはジンジャーの協力を仰ぐことにする。
ただ、今のままの状態でも速度を出さなければ不可視の状態は維持されるため、優先度は低いものとする。―とノートに書き記し、またチモシーの背中に戻した。
「よしっ!」
椿は気合いを入れスマホを持ち直すと、「チモシー、“透明”インビジブル・モード」ともう一度命令し、透明化したチモシーを図書館に向かわせた。その時の椿の表情はいたずらをする前の子供のように輝いていた。
図書館の前に着いたチモシーは慎重に周りを見渡して、人通りを確認した。いくら透明になっているとはいえ、無茶な動きをすれば違和感が生まれてしまうことは先の実験でわかっているので、念には念を入れる。
周りに人がいないことをしっかりと確認すると、満を持して図書館に足を踏み入れた。
図書館の正面玄関は解放されており、正面には受付が設置されている。今回は以前のように無人ではなく、図書館の館長である女性が何やら書類とにらめっこをしている。
チモシーその横を難なく通り抜け、目的地である大小様々な書架が立ち並ぶ吹き抜けに到着した。
椿は緊張していた。
[あのときから、…1週間、みっちりシュミレーションしてきたんだ…うまくいくはず…]と無意識に唱えながらスマホを強く握りしめた。
端末の映像からは、様々なジャンルの本が所狭しと並べられている本棚が映されているが、目的は本ではないのでチモシーのカメラを読書机に向けた。
『あれ? いないのかな… この時間は確かにいるはずなんだけどな…』
椿は誰も居ない机の群れを横目に見ながら、端末の画面から別のタブを呼び出し、そこにある“図書館”と名前の付けられた動画ファイルを選択した。その動画のサムネイルは図書館の吹き抜けから見下ろすようなアングルで机群を映しており、そこを利用する人々が映っている。
その動画から目的の時間を指定すると、可変倍速モードに設定し再生した。
図書館を利用する人々は様々であるが、言の葉の樹の下の街ということもあってか、身なりのグレードが高い人々が多い。他にも神殿関係者を表す“十字の紋章”を付けた人達もここに出入りしているようだった。また、昼過ぎには子どもたちの集団が聖典を読みにきている様子も観察できる。そんな様子が目まぐるしく変化していき、室内には明かりがつき、すぐに明かりが消され暗くなった。そんな様子が1分程度で過ぎ去り、目的の時間になったようで再生速度が等倍になった。
『うん、3日前はこの時間…』と確認を終えると、時間を一気に加速させ、『一昨日も同じ時間…』更に加速させ『昨日も同じ時間』と間違いがないことを確認し動画を閉じた。
「…ボクの読みが完全に外れた…」
「へ〜、そうなんだ ツバキちゃん、読みってなぁに?」
「うん… カメリアにスムーズに話しかけるきっかけにでもなれば、って思ったんだけ……ど……えっ!?」
椿が振り返ると、金髪碧眼の少女が満足そうな表情で立っていた。
「か、カメリア!? いつから…」
「いつから… う〜ん、えっと…ツバキちゃんがなんか悪いこと企んでいるような顔をしていたときかな ねっ!驚いた?」とキラキラと光る笑顔を椿に向けている。この笑顔を見ていると、今まで悩んでいたことがバカバカしく感じてくる。
「う…うん! 一本取られちゃったよ」
「やったー!」
「でも! カメリア、いきなり声をかけるのはやめてね ボク、びっくりして心臓が止まっちゃうかもだし…」
「えっ!? ツバキちゃんってそんなに虚弱なの…」と、今度は心配そうな表情に変わった
「…」
「……」
「冗談だよ ボクはそんなことじゃなんともならないよ」
「な〜んだ!」と今度は安心した表情へと変化していく。
『カメリアには悪いけど、ちょっと面白いかも でも、虚弱をネタに使ってしまって、久米川さんごめんなさい…』
「ねえ、ツバキちゃん 一週間待ってもらってごめんね なんかティラミスちゃんが恥ずかしがったりして、ツバキちゃんと会う準備ができないっていうもんだからねっ!」
「うん、だいじょうぶだよ ボクも色々準備する期間があってよかったし」
「そう!よかったぁ… ここで立ち話もなんだし、暗い部屋に行こうよ、ティラミスちゃんがそこでしか会えないからね さっ!」とカメリアは手を差し出した。
「…うん」
椿は照れながらもカメリアの手を取ると彼女に促されるままに図書館に入った。
☆☆☆
女同士、密室、暗い部屋。何も起きないはずがなく…
じゃなくて、いつかの話の続きですね。オリジナル設定を少しずつ出していくスタイルは、長期的計画的でないとできないのでその点もすごいと思います。
コメントありがとうございます!
たしかに暗い場所と言うのは隠微な雰囲気がありますからね。ただ何が起きるかは次回のお楽しみということにしておきます。
幸いGWに入ったので、近いうちに更新ができると思います。
暗く静まり返った書架の間に、2人の可憐な少女が手を繋いで歩いていた。彼女たちコツコツという足音は本の隙間に吸収され、不気味さも一層際立っていた。
少女はこの薄暗いなかを、花が咲き乱れる野原を歩くような調子で歩いている。また、もうひとりの少女は周りを見渡しながら警戒して歩いている。
「ねぇ、ツバキちゃん 暗いとこって苦手?」
「えっ…? なんで…」
「ツバキちゃんの手が震えてるからね、だいじょうぶもうすぐつくよ」と本棚の角を指さしながら言った
「うん、でもカメリアはこんな暗いのに見えるなんてすごいよね」
「ううん、まったく見えないよ 場所を覚えてるから記憶を頼りに進んでいるだけだよ それにツバキちゃんと一緒にいるからなんだか楽しいの」
「ふっ…はは 何それ」
「あっ、ツバキちゃんが元気になった」
「…ありがと」
椿はそう言うとカメリアの手を握り返した。もうその手は震えていない。
「とうちゃーく!」と勢いよく言い立ち止まった。
「ここ?」
周りを見渡しながら椿は疑問をあらわにした。
到着した場所は他の地点となにも変わらない場所だった。暗い中、目を凝らして眺めていると、一部分だけ本棚がなく石造りの壁がむき出しになっているところがあるのが気になった。
「ツバキちゃん、ちょっとまっててね」
カメリアはそう言うと、先ほど目を付けた壁に迷うことなく向かっていった。
『壁に衝突する!』そう考えた刹那、彼女の体は壁に吸い込まれ見えなくなってしまった。
椿はその様子に驚愕したが壁の奥から、「ツバキちゃん、こっちにきて」とカメリアの声が聞こえてきたので、これがゲームでよくある“隠し扉”であると理解し、驚きよりもワクワク感の方が大きくなった。
椿は壁に向かって歩き始めた。近づいてみても何の変哲もない石の壁、意を決してそれに手を伸ばして触ってみた。
「ん…ムニュってしてる」と偽の壁を触れながらつぶやいた。
硬くもなくやわらかすぎなくもない、絶妙な感触だった。例えるならばおもちゃの“スクイーズ”のようだと椿は思った。
椿は壁に手を突っ込んでにぎにぎと楽しんでいたが、「もう!ツバキちゃん 来てよ」としびれを切らしたカメリアに手を掴まれて引き込まれることになり、全身でそのモニュっとした感触を味わった。
偽の壁を通った先は小さな個室だった。
周りを本棚に囲まれ、中央には机が置かれている。カメリアはその机を前にして何やら準備をしている。
「カメリア、この部屋って何なの?」
「ん? ああ、ここ? ここはね、先生が図書館のひとに内緒で作っちゃった場所だよ だから、秘密だよ」とカメリアは人差し指を顔の前に出して“静かに”のハンドサインをした。
「わかったけど… なんでこの場所なの、ティラミスちゃん(?)が暗いところしか出ることが出来ないならさっきの場所でも良かったんじゃ…」
「う〜ん ティラミスちゃんはね、とーってもッ!恥ずかしがりやでね こんな感じの個室じゃないと安心できないんだ」
「そうなんだ」
「そうそう、じゃあ いくね」
カメリアはそう言うと目を閉じて謎の言語をつぶやき始めた。
「――――――――〜〜〜〜〜*****」と言葉の意味は分からないが、普段の彼女の柔らかい雰囲気とは違い張り詰めるような緊張感がり、言葉自体になにか力があるように聞こえた。
しばらくカメリアの様子を見ていると彼女の体が光りはじめていることに気づき目を逸らした。しかし、闇の中に慣れた瞳では光を必要以上に取り込んでしまい、強烈な衝撃でよろめいてしまった。
「####!!!〜〜〜〜!!!====!!!
カメリアの謎の言葉を聞きながら、椿は瞼を閉じ彼女が放出している光を背中で受け目を慣れさせた。ここまでくる道はかなり冷えていたが、拡散する光が暖かく背中を温めている。
ある程度光に慣れたので振り向くと、カメリアから出ていた光が細長い蛇のような生物の形になっていった。
「$%#」
最後に謎の言語で叫んだ後カメリアは、「よ〜し おわりっ!」と額の汗を拭きながらいつもの調子に戻っていた。
「…カメリア、さっきのは何だったの?」
「えっとね、説明すると長くなるから簡潔に言うけど、これかティラミスちゃんを顕現させる儀式みたいなものだよ まぁ、厳密にいえば違うんだけど、これでツバキちゃんもティラミスちゃんと直接お話できるよ」とカメリアは“光の蛇”の顔辺りを撫でながら言った。
「…」
「話しかけてみて、ティラミスちゃん ツバキちゃんと話すために人間語の勉強を頑張ったんだよね〜」
「そ…そのための一週間だったんだね わ…わかった…ボクも頑張ってみる…」と光の蛇を横目で見ながら言った。
椿は大きく息を吸い、“光の蛇”ことティラミスに向き直った。これは学校でクラスのみんなの前に初めて立った時と似ていると思った。あの時はうまく自分のことを伝えられなくて逃げるのみだった。そんな不甲斐ない自分はいなくなっているはず。
「あ、あの… ボ、ボクは……うっ……さ、さ…っ……さや…ま…っ……。」
椿は自分の声が震えていることに気づいた。
カメリアとの交流で、錯覚していたが自分が人見知りであること失念していた。
いままでは彼女の押しの強さに翻弄されて気づいていなかったが、今日もジンジャーに少し人見知りをしてしまっていることを思い出した。
ティラミスとは完全に初対面であること。言葉が通じるかもわからないことへの恐怖心が大きく占めていることも作用し、これ以上口が開かなくなった。
これはティラミスも同様のようで、何か声を発しようとする仕草は確認できるがカメリアの方をチラチラと見て、“助けて”と合図を送っているようにも見える。
「ありゃりゃ、ティラミスちゃん ツバキちゃんがせっかく話しかけてくれたのに、恥ずかしがってないでね」とティラミスの頭の部分を撫でてなだめている。
すると、ティラミスから「&%$%」と先ほどカメリアが発していた音と似た音が聞こえてきた。
「うんうん、もう しょうがないな〜 “私がついてるから心配ないよ ツバキちゃんもとってもいい子だし ほら、あなたの言葉で伝えて”」と母性に満ちた優しい口調で言った。
この言葉を受けて、しばらくティラミスはカメリアに絡みついたり、後ろに隠れたりなどしてモジモジしていたが決心がついたようで、彼女の体を離れ椿の前に躍り出た。
一方、椿もティラミスの様子を見て、昔のことを思い出していた。
ずっと人を避けていた時に優しく接してくれた友達、「花小泉杏」、「雲雀丘瑠璃」、「久米川牡丹」の三人のことが浮かんできた。
『ボクもそんな人たちのようになりたい』
そんな想いを抱えてティラミスをまっすぐ見すえた。
「ぼ、ボクは…んっ! さ、狭山…椿です! よろしくお願いします! え、えっと…あなたの名前は?」
椿は自己紹介を言い終わり、大きな達成感を感じていた。
いわばあの頃のリベンジと言うべき場面で、ちゃんとやり切ることができたことは大きな糧になるはずだと小さな喜びをかみしめた。
椿に自己紹介を促されたティラミスは何かを考えているのか上昇と下降を繰り返していた。その最中一際発光が大きくなり、体の動きも大きくなっていた。
そんなことを数分に渡って繰り返していたが、突如動きを停止したどたどしいながらも言葉が聞こえてきた。
「ワ…ワタシ…ハ ティ…、ティ…ラ み…、みりゅ…… “#$」とカタコトの言葉が聞こえてきたかと思ったら、また謎の言語が聞こえ、ティラミスの尻尾あたりの部位がカメリアの手にきつく巻き付いた。
「…!?」
巻き着かれたカメリアは一瞬、苦悶の表情をしたが、「うん…うん!いいよ ティラミスちゃん ゆ〜っくり落ち着いて、しっかりと言えば伝わるから」と痛みを我慢し、ティラミスの尻尾を握り返しながら声をかけている。
その声にティラミスは落ち着いたようでスルスルと拘束が解かれた。
「ワ、ワタシ…ハ ティ…ラ ミ…ルルっ……ス…デス」と時間をかけて言い終わると満足したのかティラミスは姿を消してしまった。
「う〜ん ティラミスちゃんは一歩前進かな? 疲れて眠っちゃったし、今日はもう起きないね」とカメリアは右手をさすりながら言った。
「ねぇ、右手大丈夫?」
「ん? 別に何ともないよ」
「ちょっと、見せてみて!」と強引に腕をつかみながら言った。
カメリアは少し抵抗したが、痛みに耐えられないようで観念し、右手を差し出した。
それを見た椿は、「ひどい…」と思わずつぶやいてしまった。
カメリアの右手はティラミスが巻き着いた場所の皮が破けて出血しており、皮膚が破れていないところも内出血しており赤黒く染まっている。
「…もう、こんなの余裕だよ ははっ…ティラミスちゃんは私の弟なんだからかわいいもんだよ たまにそういうことがあるからね…」
「ちょっとまってて、チモシー!回復」とポケットからスマホを取り出し、チモシーに命令をした。
「…ごめんね、心配かけちゃって」
「もう、黙ってて! 今から治すから」
椿はそう言うと、出血を濡れたハンカチで拭い、包帯を巻いた。その後にチモシーの腕を傷に重ね、魔法を詠唱した。詠唱が始まると、優しい緑の光がチモシーの腕からほとばしり、ハーブの良い匂いもした。
するとカメリアは険しい表情もほぐれ、動かせるようになるまでに回復した。
「うわー! すごいね、痛みがもう全然ないよ!」と治癒をかけられた右手を握ったり閉じたりしている。
「応急的な処置だから 激しく動かしちゃうと傷が開いちゃうよ」
「うん! ありがとうね ツバキちゃん」
「う…うん」
椿は不甲斐なさを感じていた。
『久米川さんであれば、ちゃんと治せるのかな』と思わずにはいられない。傷を完全に治すことのできず痛みが残っているはずなのに、彼女の屈託のない笑顔がまぶしすぎて、目を逸らしてしまった。
「ねえ! ツバキちゃん 街でお買い物しない?」
「ふぇ…」
椿はカメリアの突然の誘いに驚き変な声を出してしまった。
「あははっ! 行こうよ!」と左手を差し出した。
椿は顔が真っ赤になりながらも、「もう、カメリアのバカ」というと彼女の手を取った。
カメリアは、「じゃあ、いこー!」と勢いよく隠し部屋を飛び出し、このムニュっとした感触をもう一度味わい、街に向かった。
彼女の笑顔は変わらず輝いていた。
☆☆☆
「あっ、そうだ」
「えっ…どうしたの?」
「こんな格好じゃ、街中を歩けないよ… ちょっと10分くらい待っててね」
カメリアは突然そう言うと壁の付近にうずくまって「う〜ん」と急に唸り声を上げ始めた。
そのあまりに突然の様子に隠し部屋の光景を重ね、疑問を口に出すことも忘れ、ただその成り行きを見ていた。しばらくカメリアが唸っていると空中から何か小さな光るものが出現した。
『今度はなに!?』と今度はカメリアの傷を思い出し、怯えながら見ていると、それはどんどんと大きくなり、幾何学模様が描かれた円陣にまで成長し、それが魔方陣であるとわかるまでに大きくなった。
「これって…」
椿はこの光景に近いものを見たことを思い出した。
それはチモシーのテストのために神殿に行った時のこと。
***
「アルシーヴ 実験に協力してクレテありがとう」
「いいや、クリエメイトの要望にはできるだけ叶えるとのソラ様の要請だからな、感謝されるほどのことではない」
「……でも、本当にありがとう…ございます… アルシーヴさん」
「……ま、まぁ 言葉だけは貰っておこうか」
「ごほん! サーテ、帰るカナっ! 遅くなったらジンジャーも心配しチャウと思うし」テクテク
「チモシー、待ってくれ 私が送っていこうか?」
「ン? 別にだいじょうぶだよ ボクひとりでも、暗いけどゆっくり行けば問題ないから」
「ま、まぁ…なんだ、わざわざ神殿に出向いてもらったんだ、安全に送り届けるのが礼儀というものだろう」
「…それも、そうだね ジャア、お願いするヨ それにしても神殿の人じゃなくてアルシーヴ自らなんてVIP待遇だね」
「ああそうだな、チモシー では、私の傍に来てくれるか」
「ウン? ボクを持ち上げるの? でもボクって見た目に似合わず結構重いからアルシーヴの筋力じゃ無理じゃないカナ」
「そんなことはしない“転送呪文”」
「うっ!ぐっ…」
***
その後は、アルシーヴさんが一瞬で作り出した魔方陣の光に包まれて、気づいたらジンジャーの屋敷の前にいて、彼女と一言二言話して別れた。
その時に見た魔方陣にそっくりな見た目をしているので思い出してしまった。
椿は視線をカメリアの方に戻し確認したが、彼女の上に浮かんでいる魔方陣は以前見た転移陣と似ているが大きさや模様が少し異なっていた。
その転移陣が大きくなったかと思うと、こんどは頭上に移り、カメリアごと包んで消えてしまった。
「突然すぎるよ…」とひとり取り残された椿は呟くとその場所から逃げるように近くにある茂みに腰を下ろした。だんだんと人の往来が出てきた通りには、荷車などの往来も激しくなり町の活気が出てき始めていた。
椿はその光景を茂みから眺めながら不思議とワクワクしている自分がいることに気づいた。何かから逃れるためではなく、明確に待つために茂みに隠れることは椿には新鮮だった。しかし、この場から離れても良かったのかという不安が少しあった。もし、知らぬうちに戻ってきてしまったら、もう二度と会えないような予感に身震いをし、カメリアと別れた場所に行こうと重い腰を上げた。
椿が茂みから飛び出そうとする瞬間「おっ、またせー!」とはつらつとした声が後ろから聞こえた。
椿はホッとした表情を隠すことなく「もう…いきなりいなくなるなんて、ひどいよ」と言いながら振り返った
「えへへ、ごめんね でも、一緒に歩くんだからツバキちゃんに恥はかかせられないからね、どうかな? 先生にもらったんだ〜、制服なんだって♪」と跳ねるように一回転して着替えてきた服を見せた。
肩まで伸びていたロングヘアーがポニーテールになっており、尻尾もスカートの隙間からちょこんと出て、もう一つのポニーテールと言うべき様相を呈している。その二つの尻尾が太陽の光を受けて一層華やいでおり、椿は思わず「かわいい」と口に出していた。
「えへへ、ありがとう でもツバキちゃんの方がかわいいよ! 服もお忍びのお姫様みたいだし、ツインの白いカメリアの髪飾りもよく似合ってるし」
「………。 えっと… ありがと……、いくよ」
椿はカメリアに顔を見せないようにそっぽを向くと頬の赤らみに気づかれないようぶっきらぼうに言った。
カメリアはその様子にくすりと笑うと、椿の手を握り一緒に歩き出した。
「さっ! ツバキちゃん、待たせた分しっかり楽しませるから覚悟しててね」
「楽しみ…」
椿は人通りの多い道を歩くことを不安に思いつつも、隣の少女のポジティブな思考に少なからず感化されていた。次はどんなことが起こるのかという希望を思い描きながら歩くことは昔の自分では想像もつかないことだった。願わくば隣の少女のことをもっと知りたいと考える椿なのだった。
☆☆☆
カメリアに促され、街の繁華街まで来た椿は人混みに圧倒されていた。
後ろを見ても前を見ても途切れることなく人の顔があり、一種のいきもののようだとさえ思うほどだった。この空間では自分はさほど目立つ存在ではないと頭では理解していても、誰かから見られているような居心地の悪さを感じていた。
「ツバキちゃん、大丈夫?」とカメリアは椿の顔を心配そうに覗き込んだ。
「はっ…! いや…だいじょうぶ……」
「もうすぐだよ!あの路地に目的のお店があるから」と勢い良く指差した先には、陰気な路地裏が口を開けていた。その路地の横の壁には“雑貨屋“と書かれた古びた看板が壁に張り付けてあり、その看板の下にはほかにも“激安魔法道具“や“薬効きます“などいかにも路地裏の風景というような怪しさに溢れた売り文句も書いてあった。
「…ねぇ、カメリア…」
「ん? どうしたの」
「えーっと……なんでもない…」
椿は帰ろうと提案をするつもりで口を開いたが、元を正せば自分が以前行きたいと言い出したことであり、彼女の厚意を無下にすると思い言い出せなかった。
「ふーん まっ、ちょっと急ぎでいくからしっかりつかまってて」
カメリアは小さい体ながらも人混みを器用にかき分け、人に当たらないようにエスコートしついには路地裏にたどり着いた。
「ふぅ… 結構大変だったね」とカメリア少し息を弾ませながら言った。
椿はそれに、「うんうん」と首を小さく振って答え、額の汗と涙をハンカチで拭った。
「ツバキちゃん ごめんね、裏路地のことはあまり知らないから大通りから来ることになっちゃって」
「えっと…だいじょうぶ!! だよ… カメリアからカメオを貰ったのにお返しをしないっていうのもダメだと思うし、友達だし対等な関係でいたいから…」と小さく絞り出すように言った。
「そっか… 手、つなご」
それだけ言うと、また椿の手を握って歩き出した。カメリアはそっぽを向いていてその表情は窺うことはできないが、繋がった手のひらのから感じる熱は、椿にはいつもより高く感じられた。
その後路地裏をしばらく歩いていると、ここに入る前に見た看板と同じデザインの立て看板が見えてきた。
「ツバキちゃん、ここが件の雑貨屋だよ」
「ここが…?」
カメリアに紹介された雑貨屋の外観はお世辞にも綺麗とは言えず、また、湿っぽくいたるところに苔やツタの葉が繁茂している。窓もなく外と中を繋ぐ唯一の扉も木の扉で店内が完全にブラックボックスとなっていた。
「そう、先生のお知り合いが経営しているお店でね、質のいい商品がたくさんあるんだよ! それでねそれでね…!」
「ちょ、ちょっと、落ち着いて」
「ハッ…! ゴホン えぇっと…まぁ、すごいいい商品があるということで見ればわかると思うよ…」
「そ、そうなんだ…」
「そ、そうだよっ! じゃいこっ!」と恥ずかしさをごまかすように引っ張り、雑貨屋に入店した。
入店するとすぐに、「いらっしゃい」と店主らしき落ち着いた声が聞こえてきた。店内も外観からは想像もつかないほど明るく、辺りを見渡すと、アクセサリーや食器などの小物が棚にきれいに陳列されており、
目を丸くして商品をみていると、「どう?なかなかいい場所じゃない」とカメリアが嬉しそうに言った。
「うん、そうだね 外装が不安だったけど悪くないかも」
「そうでしょそうでしょ!他にもいろんな物があるんだよ!」
カメリアが盛り上がっていると奥から、「カメリア、商品を見てテンションが上がるのはいいけれど、声のボリュームは考えなさい」とさっき聞いた声が聞こえてきた。
それを聞いたカメリアはすぐに口をつぐみ「すみません、デルラさん…」と声が聞こえてきた方向へ最低限聞こえる声で謝った。
「デルラさん? カメリア、店主の人の名前?」と小声でカメリアに聞いた。
「うん、デルラさん 優しい人でね、お母さんみたいな人だよ」
「お母さん、ねぇ まぁ、今はお客さんもいないから良いけれど それでカメリア、あなたが他の子つれてくるなんて初めてだわね」とデルラと呼ばれた人物はそう言いながら椿たちの元へ歩いてきた。
椿はその様子を悟ると、とっさにカメリアの影に隠れ、初対面の人を迎える準備をした。しかし、椿とカメリアには身長差があるため、かなり小さく縮こまった。商品棚の隙間から一瞬見えた背格好からはかなりの高身長に見えたので、無意識に警戒を強めて、デルラの到着を待った。
「カメリアに友達ができたなんて喜ばしことだわ」と言いながら白衣を着た若い女性が棚の角から現れた。
その容姿は黒髪のロングヘアーに天井に手が届くほどの高身長の女性で、佇まいから落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
「こんにちは!デルラさん えっと…私の後ろにいるのが友達のツバキちゃんだよ」と後ろをチラリと見ながら言った。
「こんにちは、カメリア 後ろにいらっしゃる、かわいらしいお嬢さんがカメリアのお友達ですね 私は店の主、デルラ “デルラ・アシレフィルノーア“と申します」と膝を曲げ、微笑んだ。
一方、椿はカメリアの後ろに隠れながら、「ぼ…ボクは、さ…狭山、つ、つ……椿です…」とたどたどしいながらも言い切った。
「ふふっ “ツバキ“ いい名前ね、椿さん」
その言葉を聞いた椿は、以前カメリアに同じようなことを言われたのを思い出した。それは、まだ一週間しかたっていないのに、この言葉が非常に懐かしく光っているように感じた。
「あっ… ありかとう…ございます…」
「ねっ、ツバキちゃん デルラさんはすごーく優しい人だから安心してね…」と未だに離れない椿に苦笑している。
「ごめん…まだ心の準備ができていなくて で、デルラ…さんも……」
「だいじょうぶよ、これは人それぞれだから、無理しなくていいのよ、あと、右に休憩用のスペースがあるから自由に使っていいわよ では、ごゆっくり」と言い残すと白衣を翻し奥へ消えていった。
デルラがいなくなったことを確認すると椿は小さな声で、「はぁ…緊張したぁ」と呟いた。
「どう?椿ちゃん、休憩する」
「えっ…! うーん…そうだね、人混みに疲れちゃったし デルラさんの言うように休憩スペースを使わせてもらおうかな」
「わかった! じゃあ早速いこうよ!」と返事を聞くが早いか椿の手を掴み、瞳を輝かせて件の休憩所に向かった。その様子を見て椿はそこの場所にカメリアが惹かれる特別な物があると直感したが、今までの彼女の向こう見ずな行動を振り返り、嫌な予感を感じていた。
商品棚を数回ほど越えると、ガラスと扉に仕切られ、机と椅子が数脚ほど並んでいるスペースにたどり着いた。床も壁も木製でオシャレなカフェのような空間となっており、そこに入るのに気後れがする椿だったが、カメリアに手を繋がれているのでは意思とは関係なく、その空間に誘われることになった。
「ここって落ち着くからいいよね」とカメリアは雑貨屋とカフェをつなぐ扉を右手で引こうとしたが、右手が扉に触れる前に引っ込めた。
「カメリア、右手痛む?」
「えっ…! まぁ、ちょっとね…」
「ボクが開けるよ ちょっと下がってて」とカメリアの手を軽く引いて下がらせ、扉の前に立った。
この小さな木の扉は所々に年季を感じさせる傷などがあるがきちんとワックスがけがされているようで、照明を反射して光っている。この扉は椿にはとても大きく重く見えたが後ろにいるカメリアに心配をかけないために素早く手を扉にかけ、一呼吸おくと息を止めて一気に引いた。
しかし、扉はカランと鈴の軽い音が鳴りあっけなく開き、コーヒーの香ばしい香りが先から漂ってきた。その勢いのまま、「いこっ!」と手を引くと香ばしい空間に飛び込んだ。
二人は向かい合った席に座ると、慣れた手つきで机の横からとメニュー表を出すと、椿に渡した。
「ありがとう ねぇ、カメリアは決まってるの?」
カメリアがもう注文が決まっている、というような表情をしていたので興味本意で聞いてみると、「うん、私は季節のケーキと紅茶のセットを頼むよ これがすごい美味しくね、秘密にしたいくらいなんだ」
「へぇ〜ならボクもそれにしようかな」
「あっ、でも結構量が多いからツバキちゃんは別のものを注文して一緒に食べない?」
「いいかも… カメリア、他におすすめってあるの?」
「え〜っとね ちょっとメニュー貸して」
「うん」
メニュー表をカメリアに渡すと、パラパラとページをめくり、椿におすすめするお菓子を探し始めた。
探している最中は、おすすめを見つけたのか、瞳を輝かせたかと思うと、しかめっ面になったりと表情がどんどんと変化していった。そのカメリアの百面相を見ていた椿だがその様子が面白く、だんだんと堪えきれずついには失笑してしまった。
「ちょっと! ツバキちゃん笑わないでよもう…」
「あはは! ごめんって、ちょっと様子が面白くて」
「…まぁいいけど、なんか…心を開いてくれたみたいで嬉しいし…」と椿に聞こえないように、口の中でもごつかせながら言った。
「ねぇ、見つかった?」
「あっと…まだ、かな…」
カメリアは照れ隠しで、写真に視線を走らせていたが、突然メニューを翻しあるメニューの写真を指差した。
「どうしたの?」
「これだよ! これこれ」
「えっと、“店長気きまぐれの謎々お菓子(美味しさは保証します)“? これなんかおかしなものが出てくるとかないよね?」
「そうかな?おかしなものでもお菓子だし、面白そうじゃない? それにデルラさんが作るお菓子は天下一品だし試す価値はありありだよっ!」
「だじゃれじゃないけど… ううん…まぁいいや、ホントにおかしなものだったらカメリアが責任とって全部食べればいいわけだし、これにしようかな 飲み物はコーヒーでいいかな」
「りょうかい オーダーは私が伝えるからツバキちゃんはくつろいでていいよ」と言って手元にある呼び鈴を鳴らした。
すると、すぐに奥から「はーい」と声がしてデルラが注文表を持って出てきた。
「ご注文は決まったかしら」
「はーい!私はケーキと紅茶のセットでツバキちゃんは謎々お菓子とコーヒーをおねがいします」
「謎々お菓子を注文するのね、椿さん」と非常に嬉しそうな調子で言った。
「は…はい」
「デルラさん、そんなに注文ないんですか?この謎々は」
「そうねぇ、最近は注文してくれる人が0だったわね」
「へぇ〜 ツバキちゃん!なら俄然これ選んで正解だったんじゃない?期待が高まっちゃうよ」
「そ、そうだね…」
「じゃあ、復唱するわね、カメリアは季節のケーキと紅茶のセット、椿さんは謎々お菓子とコーヒーでいいかしら?」
「はーい、おねがいしまーす」
「おねがい…します…」
「わかったわ、ちょっと待っててね」
デルラは注文表に注文を書き上げると、奥へと消えていった。カメリアはその後ろ姿を見送るとすぐに椿に話しかけた。
「ねぇ、ツバキちゃん デルラさんってかっこいいと思わない? いろんな仕事をこなしてるなんて憧れちゃうな」
話題をふられた椿は人見知りをしていてデルラのことをほとんど見ていなかったため、「う、うん…そうだね…」と生返事をするだけに留まった。
カメリアはその様子に気づかず、「ツバキちゃんはどう思う?」と更に質問をした。
「えっと………」
椿は答えられない話を切るために別の話題をこのときに考えていたが、ここに来る前にカメリアがいっていたことを思い出した。
「…ね、ねぇ デルラさんはカメリアの先生のお知り合いって話だけどその“先生“はどんな人なの?」
「ん?」と急な話題転換にカメリアも一瞬戸惑ったがすぐに、「うーん…と、先生はね、面と向かっては言えないけど、かわいらしいの人でね、でも結構厳しい人だよ 今日は魔物退治に行くって言ったら“死にそうになっても助けないからちゃんと覚悟と準備をして行ってくれ“な〜んて言われちゃってね」と少し嬉しそうに言った。
「うわっ、小平先生より厳しいかも…」
「コダイラ先生……? ねぇ!コダイラ先生ってツバキちゃんのお師匠様? 教えてよ!」と興奮気味に“先生“というワードに反応し瞳を輝かせると手を握り詰め寄ってきた。
「ちょっと待って!」
「!?」
椿の「ちょっと待って」という言葉に反応したカメリアはしぶしぶ握っていた手を離すと、膝に手をおいて静止した。「待て」という言葉に律儀に待っているが、辛抱たまらんといった表情で見つめている。
その様子に耳と尻尾も相まって“ご飯を待つ犬“を連想したが、友達だとしてもそう考えるのは失礼だと思い、その考えを奥へと押し込むと“待て“の続きを紡ぎ出した。
「えっと…小平先生はいつも笑顔の人なんだけど…」
「だけど?」
「それがすごく胡散臭くて何考えてるかわからない人なの ……でも、ボクたち生徒思いで…たぶんカメリアと友達になれたのも小平先生のおかげかも…」
「へぇ〜!私と友達になったきっかけの人かぁ…いつかあってみたいなぁ」
「…でも、この世界では会えるかなわからないから…」
「…えっと、言いにくいこと聞いちゃたかな…」
「ううん! 大丈夫だよ、今は遠くに行ってて会えないってだけだから」
「そうなんだ、なら会えることになったら、私もコダイラ先生にお会いしたいな」
「うん、覚えておくよ」
「約束だよ ツバキちゃん」と右手の小指を差し出した。
「約束…うん?」
椿はカメリアの顔をしげしげと眺めていたが、自らも意を決して同様に小指を差し出した。しばらくは手持ちぶさたのように居場所を求めて中空をうろうろしていたが、ゆっくりとしかし確実に、見えない力によって引き合っていった。
椿は小指だけが触れあいに戸惑っていた。彼女と手をつないでいるときや路地裏で手を繋いだ時よりも、もっと熱く、痺れるような感覚が全身へと流れていた。けれど心地よさもあり、これが“約束”であり、信頼の重さなのだろうと椿には理解できた。
絡み付いた指が離れるときにはお互いの体温により平衡状態に達しており、これ以上は上がらない熱を名残惜しそうに見ていた。
「えへへ… なんか気恥ずかしいね でも!やくそくだからね」
「うん……」
しばらくはお互いに恥ずかしがって、ソワソワしていたが見計らったようなタイミングで「お待たせしました」とデルラが商品を運んできた。
「はい 紅茶とケーキのセットと謎々お菓子とコーヒーのセットよ ごゆっくり」とデルラはてきぱきと置いていくと、伝票を残してそそくさと立ち去っていった。
「ありがとうございます!デルラさん」
「ありがとう…ございます…」
「じゃ、早速食べよっか」
「ううん…でもなんか、すごい高級感があるね」と指差したお菓子たちは大きな銀色のフードカバーがかけられていて、その隙間からはドライアイスの白い煙が漏れていた。特に椿のフードカバーには意匠の凝った装飾が施されており、一段階上等に見える。
「これね、デルラさんの雑貨屋の商品にもあるよ、これがあるだけで一気に華やかになるし美味しさも倍増するかな? まぁ、これがなくてもデルラさんの作るお菓子は美味しいけどね それに、コーヒーも豆から挽いたものを出してくれるから美味しいと思うよ、私はコーヒーが苦手だから紅茶にお砂糖を入れて飲むけど…」
「さて…鬼が出るか蛇が出るか…」
「ちょっと、話聞いてる?」
椿はカメリアの長話を無視して蓋を開けた。
「あっ…うん、聞いてるよ あっ!すごい綺麗…」と白い煙と共に出てきたお菓子を見ながら言った。
白磁のプレートに載せられたそれは、プレートの白ささえ引き立て役にするような真っ白なモンブランだった。うねる白い山に新雪のように白い粉砂糖がまぶしてあり、芸術性さえ見出だすことができる出来に見えた。
「ホントだ、すんごい綺麗… 頼んでよかったねツバキちゃん」
「うん、ありがとカメリア」
「じゃあ、私もオープン!」とフードカバーを意気揚々と開けた。
その中に入っていたのは、椿の頼んだモンブランの繊細さとは真逆の険しい山のようなに三段に積み上がったケーキだった。ケーキはそれぞれ色が違っており、一番下は新緑を意識した緑色のケーキ、中間は紅葉を意識したオレンジ色のケーキ、最上段は岩山を意識したチョコケーキが鎮座していた。
「こっちもすごいね」
「ふふん、言ったとおりすごいでしょ! さっ食べよっか、飲み物も冷めちゃうし」と得意そうな顔で言った後に紅茶を飲むと、ホッとした顔になった。
椿は「カメリアといると楽しいな」と思いながらコーヒーをすすった。
「あっ…美味しい」
「うんうん、紅茶も美味しいし…さてケーキに刃をたてましょうかな ツバキちゃんはこのケーキどれくらい食べる?」と聞いた後に右手にナイフ、左手にフォークでまるでステーキを食べるように上からカットして食べ始めた。
「それぞれをちょこっとづつでいいかな、ボクはフォークで…」
椿はフォークを持つと、白い山の山頂を斜めにすくいとり口に運んだ。
「…! おいひぃ…このコーヒーとすごい合うね」
直前に飲んだコーヒーの苦味とモンブランの甘味が調和を果たしており、今まで味わったことのない、新たな味覚を感じとっていた。
「ははっ! いい表情だねツバキちゃん」
「そ、そうだね…カメリアも食べる? おいしいよ」
「おっ、いいの? じゃあ交換だね 食べさせてよツバキちゃん」とカメリアはエサを貰う鳥の雛のように口を開けた。
「えーっと……もう、しょうがないなぁ」
椿は取り皿がどこかにあるか探したが、見つからなかったため、フォークですくいとりカメリアの前に渋々ではあるが持っていった。
「はい、カメリア」
「あーむ♪」と食べた瞬間に幸福の笑みを浮かべた。口のなかでとろける甘味と、栗のスモーキーな香りに虜になっていく。しばらくはこの甘味を噛み締めていたカメリアだか、口の中からなくなる甘味を惜しみ、ねだるような視線で椿を見つめた。
「………っ」
その無言の圧力に負けた椿はモンブランにフォークを差し込み、またカメリアの前に持っていった。
『なんかお姉さんになった気分 それか鯉のエサやりかな』と考えていた椿だが、そんな考えは露知らず与えられたモンブランを、「うんうん、おいしいよ!」と満足そうな顔で食べる、そんなこと数回繰り返した。
「カメリア、残り食べる?」
「えっ! いいの!」
「だって、もう一口しかないし…」
「あっ…! おいしくてつい…」
「はい、カメリア あーん」と皿に残った最後のひと欠片をすくいとり、プレートに積もった新雪をまぶし直し、小さな白い山を差し出した。
「いいの…ツバキちゃん…」とカメリアは控えめに言ったが、碧い瞳の中にはモンブランしか映っているものがない。フォークを左右にに動かすとそれに合わせて目線がサーチライトのように捉えて離さなかった。
「うんいいよ、ほら食べちゃって」と発するやいなや、モンブランをぱくりと平らげた。
「はぁー、美味しかったぁ …でも、ツバキちゃんのお菓子を全部食べちゃったし、私のケーキを食べて、半分しか残ってないけど…」と綺麗に半分に切られているケーキの山を指さしながら言った。
「半分しかって、それでもボクには多すぎるかも…」
「遠慮しなくていいよ、それか食べにくいなら私がケーキを切るよ」
「別に遠慮はしてないけど… なら、一緒に食べてくれるならいいかな」
「そうなの? じゃあ、一緒にたべよ♪」とカメリアはまた美味しいものを食べられるという期待で瞳が輝いていた。
〜〜〜
「ふぅ… ごちそうさまでした」
「ごちそうさま〜 おいしかったね」
「それにしてもすごい食べるね、ボクは半分の半分で満足したのに…」
「ふふん! 育ち盛りだからね、それにデルラさんくらい大きくなりたいし、ツバキちゃんももっと食べないと大きくなれないよ」
「デルラさんくらい…?」
「んん! ホントだよ 胸だって大きくなるんだから!」
「えっ? 何の話」
「あっ… ええっと、大きくなりたいって先生に話したらそんなことを言われたし…」と残りを言いかけたが墓穴を掘るだけだと思ったカメリアはそこで口を閉じた。
「ゴホン! まぁ、大きくなりたいと言うことで…」と伝票を持って慌ただしく奥へ行ってしまった。
ひとり取り残された椿は端末を取り出し、小さなため息をつくと朝の実験で得られたデータを整理し始めた。理論値とは大幅に異なったデータをにらみながら、表に数値を入れていったが、後ろからカメリアが戻ってくる気配を感じたので端末を閉じてポケットにしまった。
「また食べたいね」とカメリアに話しかけたが返事がなく代わりに、「ツバキさん、どうでしたか?」と真後ろからデルラの声が聞こえてきた。
椿は驚いて後ろを向いたがデルラはどこにもおらず、その代わりにカメリアが立っており、今日初めて会ったときと同じような表情をしていた。それに気づいた椿は恐る恐る「えっ…と カメリア?」と聞くと、すぐに「あはは! ごめんごめん、私の特技のモノマネだよ」と白状をした。
「もう!本当にビックリしたんだから、またやったら怒るよ」
「んん… わかったよ… 披露する相手がいなかったからできると思ってね」
椿は口ではそう言ったが、怒りよりも面白さのほうが上回ったため、もう一度聞きたくなった。
「ねぇ、他にどんなレパートリーがあるの?」
「えっ… えっとね、先生でしょ、デルラさんにお母さんとお父さんそして、ウキさんとコハネさんとあと………えっと、今は6人だね」
「うきさんとこはねさん?」
「どうしたの? ツバキちゃんも二人とお知り合い?」
「いや…うーん、どこかで聞いたことある名前だったから反応したけど…わかんないや」と首を振った。
「ウキさんとコハネさんはね、先生やデルラさん、そしてツバキちゃんと出会うきっかけになった人だよ それでね、いつか恩返しがしたいと思っているんだよ」
「きっかけになったひと…きっと素敵な人たちだよね、うきさんとこはねさんって」
「うん!いつかツバキちゃんもあのふたりに会えたら、モノマネも披露するね」
「あっ、うん… そういえばさっきの“先生”の言っていたこともモノマネだったんだね」
「どう?うまかった?」
「カメリアの先生に会ったことないからわからないけど、別人みたいだとは思ったかな」
「ホント!? なら成功かな」と喜びの表情と同時に尻尾は控えめに乱舞している。その際に、スカートのポケットから伝票が地面に落ちた。それに気づいたカメリアは、「あっ! デルラさんに渡すの忘れてた!」と慌てて拾いあげた。
「えっ!? どこに行ってたの?」
「うん? ちょっとお手洗いに行ってて、帰るときにモノマネを思い付いてその足で…」
「そういえばお金を渡してなかったけどいくらなの?」
「ん? お金は大丈夫だよ、依頼の達成金をで払ってもらえるように頼むから」
「依頼?って魔物退治のことだよね…」
「そうそう! どうにも奇妙な魔物らしくてね、魔法の修行も兼ねて行くんだ」と自信満々に言うカメリアに椿は不安な気持ちを押さえきれなかったので、「ボクもついていっていい? なんかちょっと心配で」
カメリアは少し困ったような顔をしていたが、「…いいよ でも、ついてくるからには自分の身は自分で守らないといけないよ それにティラミスちゃんが寝てるから、たぶん自分のことでいっぱいになっちゃうだろうし、もしかしたら本当に死ぬかもしれない…」といつになく真剣な表情で言った。椿はカメリアが発するその鋭い空気に気圧されたが負けないように、「ぼ、ボクにはチモシーがいる! きっとカメリアの役にたてるよ!」と張り合うように言った。
それを聞いたカメリアは一瞬うれしそうな表情を見せたが、すぐに鋭い雰囲気に戻り、「そうだね、ツバキちゃんにはチモシーがいるから問題ないか……」と続けたが気を張り続けることに疲れたのか、「そうだ!ツバキちゃん、補助魔法は使える?」と言い終わるころにはいつもの雰囲気に戻っていた。
「えっと…使えるけど、どうして」
「私はね、自前で補助魔法が使えないから使えるならすごい助かるの」
「えっ!でも、ここにくる前に転移魔法?を使ってたよね」
「まぁ、それは後で説明するから、移動しよっか」
☆☆☆
「ええ、いいわよ」
「ありがとうございます! デルラさん」
「でも、椿さんにも装備が必要よね カメリア、椿さんにどんな装備がいいか聞いてくれるかしら?」
「はーい ねぇ、ツバキちゃん」とすぐ後ろにいる椿に「魔物と戦ったことはある?」と聞いた。
「ううん… ボクは戦ったことはないけど、チモシーなら試験のためにジンジャーと戦って互角ぐらいかな…」
「うーん、ツバキちゃん自体は戦闘したことないのか… どうしましょう、デルラさん?」とデルラに向き直り彼女の意見を仰いだ。
「そうねぇ… 椿さんは見たところ、カメリアと同じくらい魔力の量が多いし、チモシー?という遠隔武器も持っているみたいだし 後衛で丈夫さと軽さを重視した装備がいいかしら そうなると、あの装備がいいかしら…」とカウンターから古ぼけたノートを取り出すとパラパラとめくった。
「あの…デルラさん…」
「ん? 椿さん、なんでしょうか?」
「えっと… ぼ、ボクのためにいろいろ考えて…ありがとう…ございます」
「別に気にする必要はないのよ、あなたたちが依頼を成功させれば多くの人が助かるもの、そのお手伝いよ ま、まぁ…お金はいただくことになるけれど、手間賃みたいなものね…」と言いながらノートをめくっていたが、目的の記述が見つかったようでメモ帳にそれを書き記すと椿たちに見せた。
「これがツバキちゃんの装備ですね 素材は妖精の粉と雲の糸… 集めやすいかな」
「あ、あの……すみません… デルラさん… ボク、素材は持っていなくて…」
「あっと!説明していなかったわね、この素材はうちの倉庫に在るから問題ないわ これは終わったあとに集めてくれればいいわ それか、椿さんが素材を買い取ればいいけれど、どちらがいいかしら?」
「えっと………」
俯いてしばらく考えていた椿だが、初めての対面での商談に戸惑いカメリアの背中に隠れてしまった。
「ありゃりゃ」
「…そうよね、いきなり言われてもわからないと思うから、準備自体はしておくわね その間にうちの商品でもみて考えが纏まったら、またいらっしゃい」
デルラはカメリアにメモを渡すと、ノートをカウンターにしまい、微笑みを椿に向けた。
椿もカメリアの背中にいて落ち着いたようで、「わかりました」とデルラと話して今までで一番ハッキリした返事をした。
それを聞いたカメリアはジェスチャーで椿に気づかれないように「デルラさん! デルラさん! ツバキちゃん、デルラさんに慣れてきてますよ」と交信すると、デルラも「ええ、それは喜ばしいことだわ」とジェスチャーで返した。
二人のその様子に椿は首を傾げていたが、「さっ、いこっ!ツバキちゃん」とカメリアに手を引かれて思考が中断されてしまった。
「きれいなものがいっぱいあるね」と棚の宝石を指さしながら言った。
「でも、高そう…」と値札をめくったがそこには「500coin」と書かれていた。椿はその値段に驚き、他の値札もめくったが高くても1500coinの値段のものしかなかった。
「カメリア、これって安くない!?普通この大きさだと八桁ぐらいはいくよね!」
「そうかな? 錬金術でそこそこ出る副産物だからね、それに魔法的価値はないから見た目だけだね それを削って宝石にしたものだから安いんだよ」と宝石を手に持って見回した。
「そうなんだ…」と平静を装って答えたが、エトワリアの常識に衝撃を受けていた。
今までも普段からジンジャーの屋敷に引きこもって、チモシーの調整ばかりしていた椿にとっては何もかもが新しく驚きの連続だったが、手に持っている大粒の宝石の値段には特に驚いた。
これは椿がもといた世界でチモシーのセンサーの素材に使われていた宝石で、小粒ほどの大きさでもある程度の値段をしていた。なので、以前ジンジャーにこの宝石が一粒欲しいと言ったときに、不思議な顔をしていたことがあったが、その意味が理解できた。
「ツバキちゃん、これ買うの?」と持っている宝石を椿に渡した。
「うーん… これはいいかな ボクの部屋にまだあるし、それに貰ったものと釣り合う気がしないし」
「えーっ! 別にツバキちゃんがくれるものなら何でもいいのに それにツバキちゃんの綺麗な瞳の色とそっくりの碧だよ」と当然だというような表情で言った。
それを恥ずかしげもなく言うカメリアに「…それをいうなら、カメリアだって綺麗だし……」と聞こえないように口の中で呟いた。
「ん? どうしたのツバキちゃん?」
「なっ!なんでもない!」と覗き込んできたカメリアから逃げるように棚向かいに飛び出した。しかし、逃げ出した先である人物が視界に飛び込んできた。白いワンピースに長い赤髪をおさげにしている少女で椿には見覚えがあった。少女は棚の商品に集中しているようでこちらの存在に気づいていない。
その様子にしめたと思った椿だが、後ろからくる「ツバキちゃん!どこ行くの?」という声によってこちらの存在が露見してしまった。
少女は「ツバキ?」と呟き棚から視線を外すとバッチリ目が合ってしまった。
椿と少女はお互いに「あっ…!」と声を上げたが、片方は後退りをし、もう片方は瞳を輝かせ前進をした。
「椿様! いゃあ偶然ですね、こんなところでお会いできるなんて ランプ感動です!」と興奮した様子が伝わるほど早口で言った。
椿はそのまま後退を続けていたが、「痛っ! ツバキちゃん!」と後ろから追いかけてきたカメリアにぶつかり退路を塞がれてしまった。
「あっ!…ごめん、カメリア」
「もう、気をつけてよね」
「うん…」
「それより、目の前にいる人はツバキちゃんのお知り合い?」と背伸びをして椿の肩から見える人物を紹介してほしそうな、期待を込めた信号を送っている。
椿は視線を少女に戻すと、こちらも興味津々といった表情で二人を見ていた。
後ろを見ても前を見ても同じような状態に陥ったので、観念して大きくため息をつきカメリアの後ろに付くと、「えっと、カメリア こちらはえっと…女神候補生のランプさん」と記憶を辿りながら紹介をした。
それを聞くと「えっ!女神候補生のランプ様!?」と大きな声を上げ、少女は「は、はい…」と困惑した様子で答えた。
「カメリア、ランプさんのこと知ってるの?」と椿はランプのことを知らないと思っていたため聞き返すと、カメリアは「知ってるなんてものじゃないよ! きらら様、うつつ様、ランプ様、このお三方がリアリスト動乱を解決に導いた英雄だよ その一人のランプ様が目の前にいるんだよ!」と声を荒げてランプに迫り「すみません、ランプ様!不躾なお願いですが握手をしてはいただけませんか!」と左手を差し出した。
クリエメイトに対して迫ることは慣れているランプだが、自分が迫られることには慣れていないのか「は、はい… ありがとうございます…」と困惑した様子でカメリアの手を握った。
「わっ! ツバキちゃん!ツバキちゃん! ランプ様に握手してもらってるよ! ってあれ?」と隣にいる椿に話しかけたがそこにはおらず、少し離れて引き気味の視線を送っていた。また、握手されているランプはカメリアの圧に押され椿に「助けて」という視線を送っている。しかし、この状況にどうすることもできず、カメリアの興奮が収まるのを待つしかなかった。
☆☆☆
『今までも普段からジンジャーの屋敷に引きこもって、』
椿はキャラシナリオで外に出て里にいるはなこたちに会いに行く訓練をしていましたし、球詠の参戦イベントの時にはなこたちと野球のチームに入っていたのでここはすごい解釈違いです。
>>85
コメントありがとうございます!
押しの強い子が逆に押されると、おどおどしてしまうみたいな状況って良いですよね
>>86
コメント&ご指摘ありがとうございます。
私も『きららファンタジア』の二次創作ということを謳っているので椿が登場する話を全てチェックするべきでした、すみません
あと、表現として「引きこもって」はチモシーを開発に集中している期間は引きこもっているみたいな認識で書いてしまったので、pixivで修正したいとおもいます。
こういった指摘が来ることがなかったので少しうれしいです。
「カメリア、落ち着いた?」
「うん… 落ち着いたよ」と椿に言うと「ランプ様、気持ちが抑えきれなくてすみません…」と深々と頭を下げた。
「いいえ、大丈夫ですよカメリアさん、頭をあげてください 私もその気持ちがわかりますから」と言ったがカメリアはまだ深々と頭を下げている。
「はい… ありがとうございます ランプ様」
その様子に慌てたランプは「いえいえ! 私はそんな大層な人間じゃありませんから ええと……私はクリエメイトの皆様が大好きですが、あの方たちに会った際はあなたと同じ反応になってしまいます 椿様と会った時もです!」
「ツバキちゃん?」とカメリアは椿の名前を聞いて頭を上げた。
ランプは言葉を続ける「はい! なので私は全く気にしていません あと“ランプ様”ではなく“ランプ”と呼んでください」
「えっ、でも…」
「さぁ、ランプと呼んでください」
「……、わかりました ランプ…さん」
「はい! ただ…“ランプさん”も、少し恥ずかしいですがよろしくお願いします」と言ったあと思い出したように「そうだ! えっと、カメリアさんでしたよね あなたのお名前は?」
「はい!」
「カメリアさん、椿様とはどういったご関係なのですか? お二人の様子を拝見する限り、かなり仲が良いように見えます…」と不思議そうな顔で二人を見回した。
カメリアはランプの言う「椿様」という呼び名が少し気になったが、これ以上考えていると雑念が再燃すると思ったので気を落ち着ける意味も含めて、「はい! 私と、ツバキちゃんはお友達なのです! ねぇーっ、ツバキちゃん」と離れていた椿の側に寄り優しく手を握った。
椿は「ちょっと、カメリア…」と人前で手を握られることに恥ずかしさを覚えたが、その温もりが完全に伝わりきる前に「うん…ボクの友達…」と噛み締めるように言った。
その言葉を言い終わったあと、朝にジンジャーにはっきりと言えなかったことを思い出した。あのときはまだ自分の中で確信がなく、曖昧な答えになってしまっていたが今では自信を持って「友達だ!」と答えられると確信した。
「素晴らしいです 私も椿様とお友達になりたいなぁ…」
「ランプさんもツバキちゃんとすぐにお友達になれると思いますよ、私は出会ってすぐにお友達になれましたし」
「そうなのですか? ……いえ、きっと椿様はカメリアさんの魅力に惹かれたのだと思います… 少なくとも、私が椿様のことを“椿様”と呼んでいるうちは難しいと思います…」
「そうなのですか……… では私とお友達になりませんか、ランプさん!」
「えっ!? 私なんかとお友達になってくださるのですか?」
「はい! あっと! 私の自己紹介がまだでしたね 私はカメリア、大魔法使いカルラの弟子です よろしくお願いします」
「カメリアさんが……カルラ様のお弟子さんなんですね… よろしくお願いします」
「ランプさんは先生をご存知なんですね、なんだか嬉しいです」
「ええ、私の先生がカルラ様に手をや…頭をなやま… えーっと、お世話になっていますし…ははっ…」
「す、すいません 私が先生を止めることができればよかったのですが…」
「いえいえ! カメリアさんが謝る必要はございません!」
「いえ!いつか私が先生と結婚できたら、ちゃんと管理してみせます、それに先生には私がいないと生活できないくらいには依存してほしいですし!」と蔭のない満面の笑顔で言った。
だが、その様子にランプは触れてはいけない雰囲気を感じたため、「あ…あの、おふたりはここに何を買いに来たのですか? 私はきららさんに贈るものが何がいいかと見に来たのです」と話題を逸らした
「きらら様にですか!それはきっと素晴らしいものを贈るのでしょう… あっと、私たちですよね 私はというか、ツバキちゃんが私へのプレゼントを買いに来たのです 私は魔物退治のための準備というところです」
「椿様がプレゼントを… くぅーっ! 羨ましいです 私も戴けるならいただきたいです!」と自分が椿にプレゼントを貰っている妄想をして身もだえた。
カメリアはランプの悶えている様子を見て、左後ろにいる椿にこっそりと「ほらね、ランプさんも私と同じ意見でしょ?」と囁いた。椿は最初、言われた意味がわからず、彼女のしたり顔を眺めるだけだったが、意味に気付き小さく首を縦に振り、カメリアに了承のサインを送った。
「あっ! そうだ カメリアさん、魔物退治に行くのでしたか?」
「ん? はい、そうです 里近くの西の山辺りで変なモンスターが出たということで、その退治です」
「でしたら、きららさんも今日魔物退治に行くとおっしゃってましたし、お会いになるかも知れませんね」
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