こんにちは!カレルと申すものです
これで8作目ですね。
こちらは「アニマエール!」の二次創作になります
前中後編に分けて投稿する予定です。
よろしくお願いします
注意事項
*キャラクターの独自解釈
*独自設定
*原作との乖離
*妄想
等が含まれるので苦手な方は注意してください
[前編]
「はぁ〜今日もいい日だったな」
一日の終わり
いつも通学に通っていた河原の土手に座り込んで沈みゆく夕日を見ている
地平線が真っ赤に染まり、東の空は暗さを増している。
ぼーっと夕日を眺めるのが一番いい使い方だ、私はそう思っている。
何も考えることもなく、身と心が自然と融和しているように感じる時間帯。
一日の終わりを肌で感じられるこの時間が好きだ。
誰にも邪魔されることのない私だけの時間、遠くからは普段は雑音にしか聞こえない電車の音が夕方の物悲しい雰囲気を作っていて、そこだけは好きだ。
時折、川からくる優しくて涼しい風
こんな素敵な景色に感動した神がもたらした溜息なんだろうな。
そんな風が私の髪を揺らしている。
ここ数年で私の髪はかなり伸びている、高校時代に部活に明け暮れたあの時よりも。
私は大人になったのかな?それとも体だけは成長して心は高校生のまま
別れが人を成長させてくれるような気もするけど、私はあの娘のことを片時も忘れたことはない。
新生活、志望校にも無事に合格して、高校を卒業して、大学に進学した。
新しく大学生になって、不安がいっぱいだったけれど、友達はすぐにできた
毎日忙しい生活を送っていて生活は充実している、連絡を取り合う暇がないほどに
私は夢のために、あの娘と別れたことは後悔していない。
むしろお互いの道のために最善の選択だったとも思っている
ただ進むべき道がちょうど分かれただけ、それだけの事。
なのに分かちがたい感情だけが、分かれ道の標識の前で右往左往している。
『これで良かったんだ』と、自分の心に言い聞かせ続けて忙しさを盾に深く考えないようにしている
でもなんでだろう、今はそのことばかり考えている。
夕日がそうさせるのかな、燃え盛るような明るさと暗さを内包した空間にあてられた私が見た幻。
むこうも、私のことを時々こんなふうに思い出しながら、恋しがってくれているのかな。
いまの私にはそんなことを望みながら、思い出を懐かしがることしかできないから、そうだったらうれしいな。
結局あの娘には、私の思いを伝えずに別れちゃったな、そうあの日の事だ…
.............................
〜卒業式〜
「卒業おめでとう!!」
「うん、卒業おめでとう」
私の親友「鳩谷こはね」は目に涙を浮かべながらも、いつもと変わらずテンションのたかい挨拶をした。
『今日が終わると当分の間あえなくなるんだよな…』
卒業式、それは別れと出発の日。
こはねは明日、実家を離れると言っていた。
海外に夢のために行くことになっていて、今日が最後の日
離れ離れになるのはすごく寂しいけど、こはねの夢のため、そして私も先に進むために笑顔で送ってあげないとな。
「宇希、もしかして泣いてる?」
「うっ、そ、そんなことないぞ」
私はとっさに顔を逸らした、涙をこはねに見せるわけにはいかないし、別れを惜しんでいるように見られると、夢に水を差してしまうように思ったから必死にガードした。
顔を逸らした先には、チア部のメンバーがいた。
これまで長く苦楽を共にした仲間
ひづめに花和、虎徹、兎和、そして一年生たち
私たちが3年生に上がった時、兎和や私たちの頑張りで、部員も増やすことができた。
これで問題なく部を継承することができて、神ノ木高校のチアは引き継がれていくのだろう。
「こはね、行こうか」
「うん」
「お〜い みんな〜!」
呼びかけて、みんなの下へと歩き出した
「あっ! 宇希ちゃん、こはねちゃん 卒業おめでとう」
「おめでとうございます 宇希さん、こはねさん」
「おめでとう こはね、宇希」
「ご卒業おめでとうございます。」
一年生の子たちも口々にお祝いの言葉をかけている
「わーっ! みんなありがとう〜!!」
「ありがとう、みんな」
こはねは相変わらずハイテンションで、みんなを笑顔にしている
こはねのそんな明るさがあってこそ、みんなに出会うことができたんだなと、しみじみと思う
最後の大会では、無事に優勝することができて、もうこのチームで思い残すことはない。
チア部のメンバーが揃うのもこれで最後だと思うと、いろんなことを思い出してしまう
高校入学前のこはねのチアやりたい宣言、ひづめと私の勧誘、虎徹&花和加入、初めての大会、兎和加入。
体育館でのパフォーマンス、大会での予選突破、修学旅行。
大まかに思い出してもたくさんの出来事がこの高校で起きた。
そのおかげで私たちは成長することができた、それもこれもこはねが誘ってくれたから今の私がここにいる。
本当に感謝してもしきれないほどの恩を感じている、でも離れ離れになるのは今でも嫌だ。
ずっと一緒に居たいし、近くで見守っていたい。
でもそんなこと言ったら、こはねの迷惑になってしまう、だから一言だけ。
「こはね、愛してるよ…」
少し冗談めかして言ってみる
恥ずかしくて顔を逸らすと、こはねが私の手を掴んだ
驚いてこはねの方に向き直ると、いつになく神妙な面持ちで私を見つめていた。
「宇希…」
こはねのまっすぐ見すえるきれいな瞳の中に私の泣き顔が映っている
涙が流れていることに気づいて止めようとするけど、とめどなく涙が流れ、顔も判別できなくなるほど泣いた。
人前で、特にこはねの前では絶対に泣かないと決めていたのに、複雑な気持ちが溢れてしまって制御ができない。
そんな時にそっとハンカチを握らせてくれた。
いつもは私がハンカチを使って、傷口をぬぐったり、涙を拭いてあげたりしていたはずなのに、逆にやられるのはうれしいような寂しいような、変な気持ちになって落ち着いちゃった。
みんなに情けない顔を見られないように物陰に隠れるように逃げ込んだ
成長を肌で感じ取ることができて、温かい気持ちが悲しい気持ちを上書きして本当に良かったんだ。
どうしても消せない寂しさは、夢の代償として受け入れるんだ、きっと数年後にはお互いに誇れるような経験をして、今度はあの透き通るような瞳を通してまた言うんだ。
『こはね、愛してるよ!』って。
今のままでは言葉に重みがなさ過ぎて、相手を縛る枷にしかならないんだ。
だからいつか心に届くように、私も立派なひとりの大人になって会おう、そう決めたんだ。
今度会うときは笑顔で言えたらいいな。
「宇希、記念写真だよ!」
落ち着いた心に温かい声がかかり鼓動が増していく、顔を上げるとみんなの様々な表情が飛び込んできた。
彼女から貰ったハンカチで涙をぬぐい、みんなの元へと歩き出した。
私の号泣にあたふたしているひづめ、その様子に困惑している虎徹、私に感化されてか泣き出しそうな花和、涙を浮かべている兎和、そしてもらい泣きしている一年生の子たち。
改めて冷静にみんなを見ていると、別れを惜しむ反応にもその人の個性が出ていることに気づいた。
きっと私と同じように、大切な人と別れで感情が溢れてしまったなんてことがここではたくさんあるんだろうな、みんなを見ているとそんなことが生まれた。
私の感情は何ら特別なことじゃなくてありふれた、しかしとても大切なことだったんだ。
別の場所で出会い、違うところへ別れる
昔の小説家が「さよならだけが人生だ」と別れのことを言っていたけど、
出会いも別れも同じもの、別れた後にべつの道でつながることもあり得る。
だからこの卒業式を良い記憶のまま残して、また会ったときに語り合うんだ。
そんな最高の仲間に巡り合えたことに感謝して
「ハイ、チーズ」
この写真は私たちがここで会った証として残り続けて欲しいな。
そう、新たな出発のはなむけとして
「はぁ シャッター切られるときに目をつぶっちゃったよ」
「ピヨッ!私もちょっとよそ見しちゃってうまく撮れてないかも」
「もう、しっかりしなさいよ、最後なんだから」
「じつは私も」
「先輩方…」
みんな最後でも相変わらずみんならしい、そんな様子に笑いが自然と零れてくる。
「あっ!宇希も笑顔になってくれた!」
みんな顔を合わせて笑っている、私を笑顔にする作戦、こはねらしくて一生懸命ないい作戦だな。
「そうだ、犬養先生も式場で号泣していたから、挨拶とチアがしたいな」
こはねの思い付きはいつも急で人を引っ張っていく力があって優しい。
そんな彼女にここまで連れてきてもらった、支え合いサポートしてここまで来た。
私は先生を連れてくる役割を引き受けて、足早に校舎へ向かった。
卒業式後の校舎、普段は活気にあふれていて騒がしい場所なのに物音ひとつしない寂しい場所に変わっている。
空っぽの廊下に足音が異様なほど響いて、気味の悪いほどに変貌した空間を一人歩いている。
空はこんなに晴れているのに、地面に近いところでは暗さと湿り気を内包した空気が停滞している。
私はそんな場所から一刻もはやく脱出しようと、階段を駆け上がった。
二階にはまばらに人がいて、すれ違う人は一様に目に涙を浮かべている。
少し進んで職員室にたどり着いた、職員室の前には私と同じように先生に挨拶しようと集まった人たちが数人たむろしている。
そんな様子を尻目に職員室へ入った。
職員室の中は一階の様子と同じようにがらんとしていた、でも優しい雰囲気が職員室を包んでいて、残っている先生方もあらかた卒業生との挨拶を終えた後なのかくつろぎモードに入っている先生が多くいる。
その中に犬養先生もいた
「おぉ、猿渡卒業おめでとう」
犬養先生は私の存在に気が付くと、いつもの声色でお祝いの挨拶をしてくれた。
その挨拶に丁寧に返事をして本題を切り出した。
私についてきてください、というと先生の表情は少し曇ってその後にすぐに承諾してくれた。
目的地に向かっているときに犬養先生と思い出話に花を咲かせた。
入学式のこはねのチェア発言、夏の合宿、体育祭、体育館でのチア…。
色々なことがこの生活であった、先生もこの三年間のことを思い出して微笑んでいる。
一部苦虫をかみつぶしたような表情になってしまっているものもあるが。
穏やかな感情でみんなが待つ視聴覚室に向かっていった。
「あっ!せんせーい」
元気な声が私たちを出迎えてくれた、先生はおおよそ事態を予測していたのかいつも通り落ち着いた声でこはねの対応をしている。
「先生!今までありがとうのチアをするので見てください!」
「ささ、こちらに座ってください」
「あぁ、ありがとう」
私はいったん視聴覚室を離れて、ユニフォームに着がえた。
教室に戻ると、こはねの感謝の言葉が終わったようで、先生がぐったりとしていた。
私が戻ってきたのに気付くと「あっ!宇希おかえり、ちょうど先生にお別れを言い終わったところだよ」と言っていた。
こはねの話のまとまりのなさは知っているので、きちんとフォローを入れておけばと後悔したけれどそれは後の祭りだ。先生には悪いけれどあの場にいなかったのでどうしようもない。
反省をはさみながら、昨日まで練習していたチアの構成を復習した。
この教室でやるのでスタンツはできない、だからアームモーションやダンスを重点的に練習した。
練習をしているときはチアを始めたての一年生の気分に戻ることができて新鮮で楽しかったな。
- WEB PATIO -