【SS】眠れる猫は夢をみる
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1 名前:カレル[age] 投稿日:2023/11/17 20:33:01 ID:.JjfUKJQMf
こんにちは
35作目の「眠れる猫は夢をみる」です。
本作は「アニマエール!」の二次創作です。
少しシリアスになるので、気を付けてください。

2 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:33:33 ID:.JjfUKJQMf
[プロローグ]

 夏前特有のじめっとした空気が体育館を覆っている。チアリーディングの大会を一週間前に控え総仕上げの時期、あたしたちはこの空気を跳ね返すように声を出している。
 練習の出来は上々でこのまま行けば大会の優勝も夢ではないと、コーチは興奮気味に語っていた。そんなコーチの興奮に感化されるように、チームメイトも口々に意気込みなどを語った。うちらも例外ではない。

3 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:34:00 ID:.JjfUKJQMf

「わぁー!終わったー!そういやすず?ごはんどうする?」
「ん?ああ、どうしよっか? 今日ハードだったし、ガッツリ行きたいな〜?」
 隣で妹の根古屋珠子(呼び名はたま)が大きな伸びをしている。練習が終わった後は腹の虫がひどく鳴き始める頃合、家までに空腹を我慢する気力は残っていないので、外食をよくしている。所謂ご褒美というものだ。
「じゃあ!ハンバーグ食べたいな」
「ハンバーグ? いいね!じゃ早速行こ、あたしが家に連絡入れておくわ」
「サンキュ!」
 そう言うとたまはレストランの方角に向けて全力で走り出した。先程まで練習でバテていた姿は何処にもなく、ワクワクした表情を浮かべ角へ消えてしまった。あたしはたまの後ろ姿を見送ると、家に連絡を入れる。

4 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:34:19 ID:.JjfUKJQMf
「もしもし、ママ? うちらハンバーグ食べてくるね。……うんうん、わかった。たまにも言っておく。 ……ふんふん、えへへ♪じゃあね」
 通話を切り、スマホをポケットにしまうと歩き出した。あたしはのんびりとたまの後を追うことにする。そうすればウェイティングタイムをできるだけ減らすことができるから、そう思いながらレストランへ向かう。

 そこから10分程度歩いていると、レストランを示すネオンが目に飛び込んできた。そこにはでかでかと店の名前が書かれており、昔から変わらない光景だ。
 相変わらず派手だなと見つつも、興味の対象は漂ってくる肉の焼ける匂いに向きそのことは一切目に入らなくなった。横断歩道を渡り、店の駐車場に入ると入口にたまの姿があった。話しかけようとしたが、二人組と話している様子だ。

5 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:34:36 ID:.JjfUKJQMf
 桃色のロングヘアーにちょこんと飛び出たアホ毛、金髪のセミロングにサイドテール。見覚えがあったので気にせず話しかける。
「おーい、鳩谷ちゃん、猿渡ちゃん!久しぶりー!」
「わっ!? やっぱりいるよな……」
「ネコちゃん!……ううん、スズちゃん久しぶり!!」
 猿渡ちゃんは驚き、鳩谷ちゃんには大歓迎で迎えられた。
「……遅かったね、ちょうど鳩谷ちゃんたちとバッタリここで会ってね、相席することになったよ」
 たまは隣に移動しこっそりと耳打ちをした。

6 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:34:54 ID:.JjfUKJQMf
「……ナイス!」たまに返すと、2人に向き直り、「大人数で食べたほうが楽しいもんね〜ここは特に、ね!」とテンション高めで言った。すると、鳩谷ちゃんもあたしと同じテンションで「うん!楽しみ〜!」と、返してくれた。
 やっぱり鳩谷ちゃんは面白い。あたしは普段会わない人の名前を長く覚えていることは無いが、彼女の名前だけは忘れていない。あと、ついでに猿渡ちゃん。
「そういえば、あと何分待ち?この時間ならすぐだと思うけど?」
「えっと、あと10分で案内されるみたい」と、猿渡ちゃんはスマホを取り出して画面を見せてくれた。
 そこには何人待ちやお店の名前、予約人数が浮かんでおり、中央には「残り時間10分」右上には「4人」と表示されている。あたしはざっと画面を見ると、お礼を言い鳩谷ちゃんに話しかける。

7 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:35:11 ID:.JjfUKJQMf
「ねえ、来週の大会の完成度はどれくらい?うちらはほとんどパーフェクトだよ」
「そうなの?じゃあ、私たちはオールパーフェクトだよ!!」
 鳩谷ちゃんは胸を張って言った。これは相当自信があるようだ。春の大会で見たパフォーマンスでは全員のレベルが飛躍的に上がっていたので、あながちハッタリではないと思える。
「特にね!……ムッ!?」
「こはね!これは秘密だろ あはは……」と、猿渡ちゃんは喋り出そうとした鳩谷ちゃんの口を塞ぎ、誤魔化すように笑った。

8 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:35:27 ID:.JjfUKJQMf
 チアは対戦競技では無いが、情報のアドバンテージは強力だ。それを管理している猿渡ちゃんはまるでお母さんみたい。
 ただ、あたしは大会で秘密とやらを見ればいいと思っているのでここでの興味は無い、が、突っつけば面白い反応が返ってきそうなので聞いてみる。たまもそう思っているだろうし、アイコンタクトをし同時に口を開く。

「「ねぇ、鳩谷ちゃんは何を言いかけてたの〜」」
「気になるぅ!」「うちらにだけこっそりおしえてよぉ」
「ううっ……駄目だよ!!宇希との……約束だからね!」

9 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:35:49 ID:.JjfUKJQMf
 そのとき、鳩谷ちゃんの発言に少し違和感を持った。しかし、なぜそう思ったのかはわからない。猿渡ちゃんを見る目が先ほどとは異なっていたことが原因だと一瞬考えたが、明確な理由はなかった。ただ、これ以上聞いても無駄だと思ったからこの話題は置いておく。
「ん〜……まいっか〜」「じゃあ、大会楽しみにしてるよっ」
「……う、うん! ネコちゃんたちのチアを見るのもすごい楽しみだよっ! ねーっ!!宇希ぃ!」
「わっ!?……あぁ、そうだな……」
 猿渡ちゃんは鳩谷ちゃんに抱き着かれて、顔が真っ赤になっていた。その様子に仲がいいな〜と思いつつ、鳩谷ちゃんの表情を何気なく観察していると、やはり違和感があった。仲の良さをわざとうちらに見せ、「私のモノだ」とでも言うような、捕食者の色が瞳に浮かんでいたからだ。そして、猿渡ちゃんの反応を愉しんでいるように見えた。

10 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:36:27 ID:.JjfUKJQMf
 しかし、敢えて”わざと”というほどのことではなく、以前の鳩谷ちゃんからは考えられない色だから、その小さな差異すらも強烈にあたしの目に映った。
 これで確信した、鳩谷ちゃんは「面白い」のではなく、「すごく面白い」ということに。そして、One on Oneで話してみたいという願望も湧いてきた。たまには悪いとは思うけれど、後で共有すれば納得すると思うしやってみたい。
 そう考えていると、猿渡ちゃんが気付いたようにスマホを取り出し「時間だ」と、見せてくれた。画面には待ち時間が0になり、青い点線の丸に囲まれた案内開始の文言が中央で点滅している。

11 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:36:44 ID:.JjfUKJQMf
「やっぱり話しているとあっという間だねぇ」「楽しいことは一瞬だよぉ」
「そうだね〜!新鮮だし、楽しい」
「3人とも固まって、店内で広がっていると迷惑だからな」
 そう猿渡ちゃんに注意されながら店内に入った。中に入ると、肉の焼ける良い匂いがあたしの鼻を楽しませてくれている。
 店員さんに促されるまま席に座ると、メニューをざっと見て向かいの席に座った鳩谷ちゃんに渡す。鳩谷ちゃんは「早いね」と驚いていたが、注文するメニューはここまで来る途中で決めており、むしろ遅いくらいだ。隣のたまも猿渡ちゃんにメニューを渡している。

12 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:37:02 ID:.JjfUKJQMf
 2人はメニューに一通り目を通すとうーん、と悩み始めた。ここのレストランはハンバーグがメインだが、ステーキやハンバーガーもあってメニューが豊富だ、サイドメニューを含めるとそこから何十通りの選択肢があり大変だ。ただ、最も美味しいものは既に決まっており、この店に通っている人間ならば暗黙の了解になっている。
 うちらはドリンクも、もう決まっているため、たまと一緒にデザートのメニューを見て、時間を潰した。今はメロンフェアをやっているようで、メロンの果肉と果汁を使ったパフェやジュースがでかでかと載っている。とても美味しそうだ。
「決まったよ、ネコちゃん!」と、声が聞こえたのですぐさま店員さんを呼び、注文をした。

13 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:37:23 ID:.JjfUKJQMf
「鳩谷ちゃん面白いもの注文したね」
「えっ!?そうかな?」
「この店でなかなか渋いよ、いぶし銀。頼んでるの初めて見た!来たら1口貰ってもいいかな?あたしのハンバーグも1口あげるから」
「いいよ♪そうだ、宇希も食べる?」
「うーん、そうだな……じゃあ私も貰うかな。でも、私の物もちゃんとあげるぞ」
「あぁっ、ズルぅい!うちも!!」
 その後も雑談をしていたが、料理が運ばれて来たため中断した。料理が運ばれ終わると、あたしはまっさきに取り皿を鳩谷ちゃんに渡して、料理を分けてもらった。もちろん、頼んだハンバーグとトレードで渡したが気持ち多めにしたため、相手も気持ち多く盛ってくれた。

14 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:37:38 ID:.JjfUKJQMf
 同様に2人も料理を交換して、さながらピクニックのようだ。全体的に茶色寄りだが、微妙に彩りの異なる料理がプレートに乗っていて可愛い。
 ここでご飯を食べる時は基本は家族で行き、シェアをしたりしなかったので、それが新鮮でいつも以上にハンバーグが美味しいと感じた。

15 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:38:00 ID:.JjfUKJQMf
 食事が終わり雑談中、猿渡ちゃんのスマホが鳴り出した。どうやら家族からの連絡らしく、席を立ち上がり店の外へ行った。それにあたしのセンサーがピーンとなり、すぐさま、たまに耳打ちをした。
 たまは最初は難色を示していたが、メロンパフェを奢ると言ったらウキウキで席を外してくれた。余計な出費だが、楽しみの前には替えられない。ふたりが角に消えていったことを確認すると興味津々に話しかける。

16 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:38:24 ID:.JjfUKJQMf
「ねぇ!鳩谷ちゃん!」
「えっ!?何かな?」
「なんか鳩谷ちゃんすごい変わったよね〜?」
「そ、そうかな……??」
 鳩谷ちゃん考えてる……。興味丸出しで言ったので、何か変なことを言われるのを警戒している表情だ。ぞくぞくする。
 次に言う言葉が重要だ、猿渡ちゃんが戻ってくるまでそう時間はないだろうからつまらない問答を繰り返したくはない。ならば、核心に迫った一言でいいだろう。
「鳩谷ちゃんが変わったのは恋かな?」
「…………。」
 鳩谷ちゃんは黙っている。しかし、確定だろう。鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしているから、鳩谷だけに。

17 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:38:42 ID:.JjfUKJQMf
「あっ!でも猿渡ちゃんに言う気はないよ、それは安心して」
 それを聞いた鳩谷ちゃんは胸を撫で下ろしたように、息を吐いた。
「ねぇ、コイバナ聞かせてよぉ、それかきっかけ?」
「……きっかけ、というものは分からないけど、何となく好きだなって思っていたんだ、でもいつからか宇希を見てると胸が苦しくなってね……」
「へぇー!それでそれで!」
 

18 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:39:06 ID:.JjfUKJQMf
「そうだね……私が海外に行くことを決心した時だったかな〜」
「えっ……!?」
 あたしは思わず大きな声を出しそうになり、慌てて口をおおった。あまりにあっさりと出た、鳩谷ちゃんの「海外」という言葉、まさに寝耳に水という表現しか無いように思った。それと同時に正体不明の不安があたしを突き抜けた。
「どうしたの?ネコちゃん??」
 机を挟んで心配そうに覗き込んできたので、空元気で答える。
「あはは、なんでもないよぉ!でもすごいね海外なんて……」
「ううん、大したことはないよ、ただ宇希と離れなくちゃならないのは苦しいけど……」
 海外に行ったあとのことを想像しているのだろうか、苦虫を噛み潰したような表情をしている。それにはいつもの楽天的で能天気な顔はなく、真剣な考えを伺うことができる。

19 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:39:23 ID:.JjfUKJQMf
 そのあまりにも地に足が付いたような言葉に思わず、あたしは馬鹿にしたような口調で「そんなこと言うなら辞めちゃえばいいのに、猿渡ちゃんのためにもね」と言いそうになった、が、必死に堪えた。口に出していいことと悪いことはちゃんと弁えているし、海外に行く為に頑張っているであろう鳩谷ちゃんにとやかく言う権利はないはずなのに、言いたくなったのは何故だろうか。普段は考えない意地悪なことを言いたくなって、あたしはあたしが理解出来なかった。

20 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:39:38 ID:.JjfUKJQMf
「おーっす、二人ともお待たせ〜」と助け舟のように妹の声がした。その後に「遅くなってごめん」と猿渡ちゃんの声もした。そこで湿っぽい思考が中断され、たまにメロンパフェを奢らなければなならないことを思い出したので、さっそく注文する。
「いいねぇ、二人は何か頼む?すずの奢りだよっ」
「たまっ!調子に乗らない これはこの子が適当に言ってるだけだからね!!」
「あぁ。まぁ、こはねはデザート頼むか?」
 鳩谷ちゃんはデザートメニューに目を通し、選んでいる。何を注文するのだろう。
「う〜ん、じゃあ私はこのバナナミルクかな〜」

21 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:39:58 ID:.JjfUKJQMf

 しばらく待っていると、デザートが運ばれてきた。どちらもおいしそうであるが、ごちそうする立場なので恨めしそうにたまのメロンパフェを見ていると、一口だけ分けてくれた。メロンの果汁がみずみずしく、とてもおいしかった。
 二人が食べ終わると、会計のためにレジへ向かう。会計を分けてレジをしていたが、「バナナジュースおごるよ」と言ってしまった。あたしの突然の宣言に3人は困惑していたが、「奢りって言ったでしょ??」と強引に押し切って会計を済ませた。

22 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/11/17 20:40:30 ID:.JjfUKJQMf
 店の外に出た後、お金を返す返さないの押し問答があったが、それも「あたしがバイトで得たお金だしそれを使うのも自由!!」と、突っぱねて渋々ながら納得してもらった。
 帰り道、たまが「なんかすずらしくなくない?」と不思議そうな顔で聞いてきたが、笑ってごまかした。そうしないとモヤモヤを払拭することができないと思ったからだ。
 今日の一件はあたしの中で大きなしこりとして残った。

23 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2023/12/17 13:51:17 ID:ExDduVA8lF
続き楽しみです!

24 名前:ペンギノン (あおちゃんSSの人) [age] 投稿日:2023/12/24 23:14:56 ID:0TYCkygRHF
拝読しました! ビターテイストな作品いいね...。
前から思っていたのですが、食事の描写が本当にすごい。なんというか、おなかすいちゃう。
こはねさんの不安な気持ちを理解しつつ、どうしても渦巻くものが残ってしまう感じ、どことなくリアリティを感じております。うまくまとまらなくて恐縮です。
ほんのりシリアスの色を帯びつつありますが、おそらくまだまだ本格化していないはず。続きが楽しみです!

25 名前:カレル[age] 投稿日:2023/12/31 08:48:41 ID:N9cOpfHjC0
 大会が1週間前に終わり、あたしはひとりで街を歩いていた。大会の結果は上々で鳩谷ちゃんのチームもうちらのチームも無事上位入賞を果たした。優勝できなかったのは少し残念だったが、概ね満足できる結果になった。
 しかし、それとは裏腹にあのレストランでの一件以来、言いようのない不安があたしの周りをぐるぐると回っている。友達や家族と接している時にはそんな不安は一瞬たりとも顔を出さないのに、ひとりでいる時はたまらなく嫌な気分になってしまう。
 今日ひとりでいるのは気分転換のためだったがこんな気分になるのなら、たまと一緒にここへ来た方が良かったかもしれない。だが、それは後の祭りなので目的を果たしてから家に帰ることにする。

26 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:49:26 ID:N9cOpfHjC0
 今日出かけた最大の目的はここから5分程度歩いたところにあるカフェだ。そこの限定100食のぜんざいを目当てにしてきた。それは数日前に読んだ雑誌で紹介されていて、冷たいぜんざいに色とりどりのフルーツが乗せられており、とても美味しそうだった。
 あたしはそのぜんざいを食べている未来の自分の姿を全力で想像し、嫌な気分を吹き飛ばそうとした。瑞々しいフルーツの触感と、とろりと甘い餡子のコンビネーション。それはある程度の効果を発揮したが、完全には消し去ることが出来ず、心の奥底に残ったまま件のカフェの看板が見えてきた。

27 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:50:31 ID:N9cOpfHjC0
 カフェはまだ営業時間前で、数組が店の入口に並んでいる。その行列をざっと見て、そこに加わろうとしたが向かいの道からまた見覚えのある2人の影が見えたので足を止めた。まだ50メートルくらい離れていて確信はないが艶のあるロングの黒髪、そして赤い髪をツインテールに結んでいる女の子、恐らく有馬ちゃんと牛久ちゃんだ。
 あたしお互いの顔が認識できる距離に近づくと「おーい!」と彼女たちに手を振った。有馬ちゃんは少し驚いたような顔をしていて、牛久ちゃんは明らかに嫌そうな顔をした。しかし、ひとりは嫌なのでそんな顔は無視して有馬ちゃんに話しかける。

28 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:50:59 ID:N9cOpfHjC0
「いゃぁー、キグウだねぇ 1週間前だけど、入賞おめでと!」
 有馬ちゃんは「ありがとうございます」と丁寧に返してくれた。だが、あたしが珠子か鈴子かどっちか分からないのだろう、目が泳いでいる。
「えぇと、根古屋……」「鈴子だよ」
「鈴子さん、珠子さんは近くにいらっしゃるのですか?」と、キョロキョロと辺りを見渡している。
「うぅん、あたしひとりだよぉ!」
「へぇ、あんたが1人なんて相当珍しいわね」
「ふふん、あたしだってひとりでいたいときもあるのだよ牛久ちゃん!」
「ふぅん……で、なんの用?」
 牛久ちゃんは怪訝そうな様子で聞いてくる。

29 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:51:20 ID:N9cOpfHjC0
「まぁまぁ牛久ちゃん、いゃね、偶然2人を見かけたからご一緒したくてね、いいかな有馬ちゃん!」
「ええ、いいですよ」
 あたしの読み通りだ。有馬ちゃんは良くも悪くも細かいことをあまり気にしないタイプであると見ているから、あたしという異物が入っても気にしないはずだと思っていた。そして、牛久ちゃんは有馬ちゃんが了承したことなら、いやいやながらも了承してくれるはず。
「ひづめ!?」
「いいじゃないですか、美味しいものは共有した方が楽しいです」
「……ひづめが言うのなら……はぁ……元チームメイトのよしみで付き合ってあげるわ!」
「うん!ありがとう ……ひとりは寂しいもんね……」安心してつい本音が出てしまった。
「……鈴子さん?」
「ん?ああ!なんでもないよ、ぜんざい楽しみだねっ!」心配されるのが嫌なので、さっきの雰囲気を飛ばすためにテンションを上げる。

30 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:51:57 ID:N9cOpfHjC0
 あたしたちは列に並び開店の時間を待った。この待ち時間はふたりと雑談をしていたが、向けられる視線が時折、変に感じた。特に何かと形容することはできないが、負の感情でないことは確かだ。これは間違いない。別にこれがそういうたぐいのものでも気にしないが、今はメンタルが下がり気味なのでそれはよかった。だが、普段向けられ慣れていない類のものなので、気にはなったが、そこまで意識はしなかった。
 とうとう開店の時間になった。店員さんに3人であることを伝えると、窓際の席に案内してくれた。ここからは竹林の中のような中庭が良く見え、特等席のように思える。

31 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:52:30 ID:N9cOpfHjC0
「いゃあ、いい席確保出来たねぇ」
「そうですね、中庭が日本庭園風で落ち着きます」
「今日は晴れていて良かったわね、爽やかな風が吹き抜けていくわ」
「うんうん、そうだ!2人は注文きまってる? あたしはぜんざい食べたいから来たよ」
「はい、私たちも限定100食のぜんざいを目当てにして来ました。このお店のことを花和さんに教えていただいて、今から楽しみです!」
「あたしもひづめに喜んでいただいて嬉しいです!」
 全員の注文が決まったので、店員さんを呼んだ。ぜんざいは言わずもがなで、あたしはほうじ茶、有馬ちゃんは抹茶、牛久ちゃんはコーヒーを注文した。
「牛久ちゃんはコーヒーかぁ、大人ぁ!」
「ふん、これくらい普通じゃない?」
「……私は普段飲む機会がないですし、コーヒーの酸味が苦手なので、花和さんは凄いですね」
「あっ、わかるぅ そういえば、パパがよく飲んでいて、酸味がいいとか言ってたっけ、よく分からないけど」
「でも、酸味が少ない物もありますし、あたしが飲むものは苦味もそんなに無いものですし」
「そうなのですか? では、花和さん今度おすすめのコーヒーなど教えてください」
「はいっ!!喜んで! ひづめのためなら完璧なもの用意します!」

32 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:52:58 ID:N9cOpfHjC0
 などと、話しているうちに飲み物とぜんざいが運ばれてきた。お椀に運ばれてきたぜんざいには写真と同じようにフルーツが乗っておりカラフルだ。
 あたしたちは思い思いの感想を言い合い、写真を撮って、ぜんざいに口をつけた。
 小豆餡の甘みと、白玉のモチモチさが口いっぱいに広がり、自然と笑みがこぼれる。そして、すぐさまほうじ茶に手を伸ばした。
 口の中の甘さが、ほうじ茶の芳ばしい香りに流されて、リセットされた。

33 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:53:27 ID:N9cOpfHjC0
「やっぱり、甘い食べ物には熱いお茶だよねー」
「ええ、同感ね そして苦くなった口にまた甘いもの」
「ふぅ、美味しいですね フルーツも瑞々しくて食感も面白いです」
「だよねー、朝早くから来たかいがあったよぉ」
 この時間はとても楽しいものだ。1週間前の出来事もこのおかげで綺麗さっぱり消えている。あたしはそう思いながらぜんざいとほうじ茶とを交互に食べ進めていたが、やはり2人の視線が気になった。
「えっ……と あたしの顔になにかついてる?」
 その問いに2人はドキリとしていたが、有馬ちゃんが口を開いた。
「えぇと、鈴子さんはなにか悩みがあるのですか?」
「えっ!?」
 藪から棒なその答えにあたしもドキリとした。

34 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:54:08 ID:N9cOpfHjC0
「な、なんでそう思うのかな〜?有馬ちゃん」と、誤魔化すためできるだけ明るく言った。
「はい、間違っていたらすみませんが、私の友人に辛い時に無理に明るく振る舞う方がいまして、その様子に少し似ていて……」
 心臓を掴まれた気分だった。他人に興味のなさそうな有馬ちゃんが、あたしの何を知っているのだろうとムッとしたが、実際にモヤモヤを吹き飛ばすためにわざと明るく振る舞っていたので返す言葉が見つからない。そして、”辛い時にわざと明るく振る舞う友人”と聞いてまっさきに浮かんだのは鳩谷ちゃんだった。これには十中八九彼女であるとの自信がある、もしかしたら別人の可能性もあるが、それ以外に具体的な人物は浮かばない。

35 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:54:41 ID:N9cOpfHjC0
 あたしと鳩谷ちゃん、ここでも自分が変わっていない所をまざまざと見せつけられているようで、気分が悪い。今度彼女に会ったらどんな顔をすればいいのかが全く分からない。せっかく気分転換に来たのに振り出しに戻ってしまった。
「あはは! そうかもねぇ、でもあたしはあたしだからなぁ でもその友達とは違うし間違ってるよぉ!」
 癇に触ったので、適当にはぐらかす。もうこれ以上この話題に触れられると黙ってしまう気がしたから。黙るということは、有馬ちゃんの予想が図星ということにほかならないから、話題を変える。
「そういえばっ!次の大会までどうしてる? うちらは新しい技引っ提げて優勝目指してるけど?」
「えっ……そうですね…… 私たちはこはねさんのコンディション次第ですが、前の大会よりも難度をあげた技に挑戦するつもりです」
「おぉいいね! こりゃ、うかうかしてられんかもなぁー」

36 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:55:13 ID:N9cOpfHjC0
 あたしはそう言いながら、残りのぜんざいを全て食べると立ち上がり、「あっ、そうだ あたしこの後用事があることを思い出したから、払っといて!」と、ぜんざいとほうじ茶のお代を机に置き、逃げるようにお店から立ち去った。
「また会おうね、有馬ちゃん、牛久ちゃん」
 この言葉すら負け惜しみと取られてしまうことを警戒する心境だったが、有馬ちゃんの「はい!!」という気持ちのいい返答にはいくらか安心感を覚えた。しかし、去り際の牛久ちゃんの視線はこちらの気持ちをいくらか汲んでいるような、同情するような視線で、背中に冷や汗をかいた。
 
……あたしは何がしたいんだろう……

37 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:55:41 ID:N9cOpfHjC0
 そう考えながらこの街から逃げるように走っている。もちろん情けない姿を2人には見せないために、あの店の角を曲がった瞬間に走り出した。
 この全力疾走はすべてのしがらみをそこに置いてきたようで気持ちが良かった。でも、しばらく走っていると息が上がってきて、現実に戻される。そしてこう思った、「なんであたしはこうも苦しい??」と。
 考えても分からない答え。少し前からそんなモヤモヤがうちにあったこと何となくはわかっていた。でも、大丈夫とあまり考えず楽観的にここまで来てしまった。だから、あの時鳩谷ちゃんの夢や苦悩を聞いて、自分の中でそのモヤモヤが大きくなって具体的な形を創る隙を与えてしまった。
 それはあたしの中の”腐った林檎”のようなもので、それを取り除かなければ前に進めない。でも、それを取り除く手段が分からない、そんな気持ちのままとぼとぼと歩いていた。

38 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:56:19 ID:N9cOpfHjC0
「あれ?すず帰っていたの?」
 聞き覚えのある声が聞こえたので、はっ、と顔を上げると、不思議なものをみているような顔をした|妹《たま》の姿があった。
「どう?ぜんざい美味しかった?」
「……うん、美味しかったよう!!」
 本当は言いたくないが、心配されるのは嫌なので気力を振り絞って答える。
「ふーん……?良かったじゃん? そういえば、今からうちら服を買いに行くけどすずも行く?」
 たまの問いにあたしは「疲れたからいい」と言った。たまは「何を?そんなに疲れることをしてきたの?」とでも言いたそうな顔でこちらの顔をジロジロと見ていたが、対応する気力も話をする余裕もなかったので無視して玄関の扉を開けると、ちょうどママが靴を履いていた。

39 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:56:53 ID:N9cOpfHjC0
 あたしはそれにも同じように答えると、靴を脱いで階段を登った。途中ママはあたしのことを心配そうに見つめている気配があったが、特に声をかけられることはなかった。尤も話しかけられても適当にはぐらかそうと考えていたので、気にせず階段を登りきった。
「今日はハンバーグかしらね」という独り言のような声と、玄関の扉の閉まる重い音が聞こえたが、沈んだ気持ちには何も刺さらなかった。
 自室に戻ると最後の力を振り絞って遮光カーテンを引き、そのまま脱力してベッドに倒れ込んだ。

40 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:57:20 ID:N9cOpfHjC0
 真っ暗い気分、きっとこのまま眠ったら言いようのない悪夢を見るだろうことは想像に難くなかった。しかしこのまま起きていても、気分転換はおろか、太陽の光を視ることすら億劫に感じていたので、選択肢はないように思えた。ならもう悪夢を見て、気持ちを整理した方が幾分かマシなような気がしたから。もう一度目を覚ましたら、嫌な気持ちが消えることを願って眠りについた。本当はずーっと眠ってしまいたいよ。そうすれば現実を視なくていいから、そのほうが楽しい。

―To Be Continued―

41 名前:カレル[sage] 投稿日:2023/12/31 08:57:47 ID:N9cOpfHjC0
 はい!というわけで本作はここで終了です。
 モヤモヤを抱えたまま眠りについたネコちゃん(姉)はどうなってしまうのか。まだ、リクエストを頂いた時に消化していない要素もできるだけ拾っていきたいと思います。
 次作はどんな展開になるのか、こうご期待です。

42 名前:ペンギノン (あおちゃんSSの人) [age] 投稿日:2023/12/31 23:59:39 ID:gHK.PRA898
拝読しました! カレル様といえばご飯描写、というのは私の持論です。一応最古参勢なのでちょっとは掠ってるよね? (厄介ファン)
ひづめさんってほんと観察眼あるなぁ。そして、新しい自分になろうとする誰かと自分を比べちゃう鈴子さんの気持ち、よくわかるんだ。
ドラマティックな寛解なんて簡単に起こりはしない。つい上辺を綺麗に取り繕って、抱え込んでしまう。そんな、物語では意外とないけど我々にはよくある話。猫の爪のように鋭く、真夜中のブラックコーヒーのようなほろ苦い感じがしました。
今回も良作感謝です! 間もなく新年、引き続きよろしくです!

43 名前:カレル[sage] 投稿日:2024/01/01 10:43:27 ID:kk.1GqrCXE
あけましておめでとうございます!!

 そうですね、食の描写などは入れるなら詳しく描きたい病が発症しちゃいますね。私自身も食べることは好きなので、書いちゃいますよね、ただ、胃袋があまり大きくないのでそんなに食べられないのが口惜しいです。テレビで大食いの番組をよくみているのですが、毎回食べれな人でも1キロ以上は食べているので感心しながら見ています。

と、話は戻して、ネコちゃん(姉)の悩みはどこにでもありふれたものなのですが、それが当人には世界で一番悩んでいる人のようになってしまう。フラフラと日々を過ごしていそうな人物こそが深刻になってしまうみたいなことを考えて書きました。ただ、このままでは後味が悪いだけの話になってしまうので、ネコちゃんが幸せになれる道を模索していきます。

44 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2024/01/10 20:37:43 ID:SoMuxoxTFb
明るい子が悩みを誰にも言えずに一人で抱え込んで周りにはいつもと変わらない風に装うの、すごい好きです

45 名前:きららBBSの名無しさん[age] 投稿日:2024/02/02 22:55:00 ID:qEao2rfUUX
これが更新されることがここしばらくで一番の楽しみです

46 名前:カレル[age] 投稿日:2024/02/22 22:39:13 ID:CPpDhQ4HXT
こんにちは、お久しぶりです、作者です!

更新ではなくて申し訳ないですが、久しぶりにここに来たので近況報告をさせていただきます。

最近は「百合とアザミ」というオリジナル作品を作るのに忙しくてこっちにまで手が回らない状態でした。なので、一切進んでいない状態です。なので、待ってくださる方には申し訳ないですが更新がかなり遅れます。ただ、4月1日までには更新するので気長に待ってください。修学旅行も近いうちに上げると思います。

あと、リクエストも募集しているのでお気軽にどうぞ

ついでに、オリジナル作品の主人公のイメージ画像を上げときます。黒髪のジト目猫耳少女です。


https://kirarabbs.com/upl/1708609153-1.png


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