うつつちゃんメインの短編ssです。
時系列はメインシナリオ4章終了後の妄想イベントです。
・基本ギャグ
・ちょいちょいシリアスの片鱗
・地の文多め
以上、温かい目で見ていただけるとありがたいです。
「なんでどいつもこいつも布面積が狭いの?」
色々頓着あった水路の街を出て、次の目的地へ向かう途中。
さんさんと降り注ぐ陽光の中、陽の者二人は元気に歩いていく、陽の者には光合成のスキルでもあるのだろうか。
対象的に、うつつはゾンビのようにへとへとと歩きながら、唐突にそう言った。
「突然どうしたんですか? うつつさん」
前を歩くランプが振り返りながら聞く。
唐突なのはわかっていた、うつつ自身、この疲れを僅かでも忘れる為に話しかけたに過ぎない。
「いや、なんか気になって……今まで見てきたリアリストの奴らって、その、尽く……ハレンチというか、服としての体を成していないというか、そういう服ばかりでしょ?」
「ヒナゲシは普通でしたけど……」
「そういやそうだったかも……」
確かにヒナゲシだけは普通の服を着ていた気がする。
しかしリコリス、サンストーン、スイセン、ロベリア、スズランは肩、太腿、腹、胸のうち3つくらいは曝け出していた。
思い出すだけで、共感性羞恥で悶そうになる服装ばかり。
あんな頓痴気な服を着て、町中を風を切って歩ける精神性がうつつには全く理解できなかった。
「あはは……正直見慣れてたけど、普通に考えたらすごいよね、あの服装は」
「見慣れてたって……あれを?」
きららは苦笑いを浮かべて言った、きららもランプもしっかり着こなしているが、彼女らの周りにはそんな露出度の高い服装をしている人がいるのだろうか。
「カンナさんとポルカはかなり薄着だしね」
「クリエメイトの皆さんの中にも、リアリストと同じくらいの凄さの服装をされてる方がたくさんいますね」
「たくさんいるの!?」
「クリエメイトの皆さんのうち20%くらいはあれくらいか……それに準ずるくらいですね」
「……ちなみにクリエメイトの総数は?」
「200人超えるくらいですね」
「40人近くもいるの……!?」
「クリエメイトじゃないけど七賢者のセサミさんは凄いよね、この前学園に視察に行ったら、警備の人を呼ばれたって」
「そんな奴が要職で大丈夫なのエトワリア……!?」
うつつは愕然とした。
なんでみんなしてそんなに自分の体を見せつけようとするのか……。
きららたちの言う『里』がどんな場所なのか、少し恐怖を覚えるほどだった。
「よ、陽の者のファッション怖い……」
「クリエメイトの皆さんの服装はこの世界に来るにあたり勝手にセレクトされるようなので、望んで着ているわけではない人もいますが」
「神のいたずらであんなの着せられるの……?」
この世界の神というやつは一体全体どんな奴なのか……。
もしかして、神殿で少しだけ見た女神とやらが服をセレクトしているのだろうか。
「でも、あの人が本当にそんなことするのかな……?」
うつつは考えた。
女神とはほぼ話してないが、あの神秘的かつ母性的な雰囲気を持った、自分と対局にあるような女性がそんなことをするのが想像できなかった。
ーーだが。
ちら、とランプを見た。
ランプは可愛らしく首を傾げた。
彼女は女神候補生である。
「いや、ありえなくはないかな……」
「私を見て何を納得したんですか!?」
「え? あ、えっと、エトワリアの女神様について?」
「なんだか凄く失礼な勘違いをされている気がします!」
「……ランプは少し自分の身の振り方を鑑みたほうがいいんじゃない?」
「もう! マッチは小うるさい! そんなだと『変な生き物』って呼ぶよ!?」
「君までその呼び方をするのかい!? だいたいランプは……」
すかさずマッチ……変な生き物のツッコミが飛んでくる。
すぐさま二人はいつもどおりの言い合いを始めた。
飽きないものだと思う。
「でも、クリエメイトじゃなくてよかった……あんな衣装をゴミ虫の私が来たら、周りの人の目を無差別に潰す生物兵器ができるところだったわよ……」
「そんなところに感謝するんだ……」
きららは苦笑いしながら言った。
「でも、うつつも可愛いと思うんだけどなぁ」
「お世辞はいいよ……うぅ、私なんてちっちゃいし不細工だしまな板だし……あの色々曝け出してるリアリストの奴らとは正反対だし……私なんてミジンコのように誰の目にも触れられず生きていくのが正解なんだ……」
「そんなことありません! うつつさんがあの服装をするのなら、私はどんと来いです!」
「いや、着ないよ……? ランプは私を自殺に追い込むつもり……?」
マッチとの会話をぶっち切ってシュバババと素早く戻ってきたランプが言った。
後方よりマッチの呆れた声が聞こえる。
あんな服装をしようものなら、普通に死ぬか、きららにあのゴツい杖で頭をかち割ってもらって記憶を消すかの二択を迫られることになるだろう。
それぐらい着たくない。
「でも、なんでわざわざあんな服装を……クリエメイトじゃないから、自らの意思で着てるんだよね……?」
うつつは考えた、一切の理解が及ばないからこそ。
そして、その理由はすぐにわかった。
リアリストの中でヒナゲシだけは服装が普通だった。
そして、彼女からは僅かに自分と同じ陰キャの匂いがした。
そして、自分があの服を着たくない理由……見られるのが恥ずかしいから。
逆説的に言えば、彼女らは見られることを許容している、ということである、見られたところでなんの問題も無いと断じているからこそ、あのような狂った格好ができるのだ。
ーーそれはつまり、自分に対して絶対の自信を持っているということ。
それは総じて陰キャが持たざるもので、そもそもの性格を形作った原因とも言えるものだ。
ヒナゲシの服装が露出低めなのも、おそらくは同様の理由、自分に自信がないからだ。
うつつは唇を噛んだ。
それはうつつにとって、喉から手が出るほど欲しいもので、そしてきっと無理だろうと諦めているものだったからだ。
だって自分には、記憶がない。
そんな存在をどう信じろと言うのか?
更にその他にも、彼女らは自分に無いものをごまんと持ち合わせている。
容姿、戦闘能力、精神力、財力、エトセトラ。
考えていると、ふつふつと強い感情が肺を焼いた。
知らず手は握り拳を作り、目頭が熱くなっていく。
「リアリストめぇ……調子に乗ってぇ」
「うつつさん急にどうしたんですか!? 今までに見たことのない凄い形相ですよ!?」
「奴ら私にないものをいくらも持ち合わせてる癖に、『自分は不幸だ』ってオーラを撒き散らしてるのがムカつく……不幸自慢ならこちらも負けないわよ……その上で何も持ってない私を絶望させようだなんて……ぶん殴りたくなってきた」
「うつつさんが今までにないほど好戦的です!?」
それが単なる嫉妬だと言うことはわかっていた、彼女らのその自信の裏に、足元が崩れ落ちる程の絶望があるのもわかるし、壮絶な努力があるのだろうともわかる、そうでなければ、こんなことをする理由がない。
しかし……多分何かしらの理由はあるんだろうけどとりあえず一発殴ってから考えよう、と思う程度にはうつつは怒っていた。
「あぁ、でもクソ雑魚の私じゃ一瞬で三枚おろしにされて終わりか……爆弾でも巻いて特攻すれば一矢報いれるかな……リアリストの目的は私を絶望させることっぽいし、一石二鳥じゃない?」
「やっぱりうつつ、少しポジティブになったよね、自分にできることを考えるなんて」
「自爆特攻がポジティブってのがうつつって感じだよね……『エトワリアの平和は私が守る!』くらい言ってほしいものだけど」
「私がそんな陽キャの究極みたいな台詞を言うと思ってるわけぇ……? リアリストの奴ら全員粉砕できるチート能力があっても、そんなこと言う自分が想像できない……」
というか、凄まれて悲鳴をあげる姿しか想像できない。
ヒナゲシですら必死過ぎて痛々しいくらいの迫力があったし、他のメンバーは言わずもがなだ。
場数が致命的に違いすぎるのだ、自分の身体スペックから言っても、『住良木うつつ』が実はリアリストを束で相手にし殲滅できる、ということもないだろうし……。
うつつは小さくため息をついた、唐突にチート能力がこの身に宿らないかと。
そうすれば、きららたちの横に並ぶことだって……。
そうでなければ、自分がきららたちに『友達』だと言うことは、一生できない、と思った。
勿論、そんなご都合主義が現実にないことは、今までの旅程からわかりきってはいる、それでも願わずにはいられない。
「でも、そんなことにはならないよ、私がうつつを守るから」
「う……あ、ありがと、でも私に守る価値なんてあるのかな……」
「価値があるから守ってるんじゃないよ、うつつは私の友達だから」
「っ〜! また陽キャはそういうことを平然と言う……!」
きららは笑顔で言った、知っている、コイツはそういう奴だ。
でも、ずっと後ろに隠れているままで、いつも逃げるばかりで。
本当にそれでいいのか?
「うつつさんは役にたててますよ、これまでの旅だって、うつつさんがいなければ始めることすらできなかったんですから」
「でも……私守られてばかりだし、メンタルヘボいし、臆病だし、迷惑いっぱいかけてるし……」
「適材適所ってやつだよ、ほら、ランプだって謎の行動力と聖典への愛以外に取り柄ないし」
「なーっ! またマッチはそうやって私を馬鹿にして! マッチなんてその辺に浮いてるだけの変な生き物じゃない!」
「またその呼び方……! 確かに僕は直接の役には立ててないけどさ!」
「ふ、ふたりとも落ち着いて……!」
再びランプとマッチが喧嘩をしだし、きららが仲裁に入っていく。
ランプが調子に乗り、マッチが皮肉を言って、ランプが言い返す、いつもの光景だ。
「……ふふっ」
うつつは小さく笑った。
それはいつもの日常だった、願わくば、これがずっと続けばいいな、とうつつは思った。
この光景が壊されることのないように。
せめてもの抵抗とばかりに、うつつは願った。
「……というかさ」
なんでリアリストの服装の話からこうも脱線に脱線を重ねたのだったか。
思い出してみて、半分ぐらいは自分のせいだと思い立った。
しばらくすると、苦笑いを浮かべたきららと、お互いにそっぽをむいたランプとマッチがこちらへ戻ってくる。
多分数分もすれば元に戻ることだろう。
「それで、話を戻すんだけど」
大分脱線した話を修正する。
そう、そもそもは何故リアリストが尽くあんな服装をしているのか、という話題だったのだ。
「そういえば、リリス様の種族は肌の露出が多ければ多いほど強くなると聞いたことがあります、もしかしたらリアリストのあの服装も同じ理由なのかもしれませんね」
「あぁ、そういう線もあるのか……魔法的な」
「セサミさんはあれが正装らしいね、由緒正しい秘書の衣装なんだって」
「そのセサミさんて人会ったことないけど、一体どんな服装してるの……?」
うつつは言った。
さっきからちょいちょいトップクラスの露出狂として話にあがっているが、どんな服装なのか逆に興味が湧いた。
「ひょ、表現が難しいですね……」
「えっと……後ろ姿は普通だよね、ローブで覆われてるから」
「その分、振り返って来たときのインパクトが凄くて……」
「リアリストの……スズランをもうちょっと凄くした感じかな」
「あのアウトロー極まる服装の更に上を行くの……?」
「どんな人からツッコまれても『秘書の正装です』の一言で一蹴するんですよねあの人……セサミの魔法は尋常ではないので、もしかしたら魔法的な意味合いもあるのかもしれませんが」
「へー……」
なるほど、露出と魔法力の関係性か……。
確かにリアリストの奴らは総じて強い、その理由はそこにあるのだろうか。
なら自分も露出度をあげればリアリストの連中をぶちころがせるだろうか……? とうつつは一瞬思ったが、やめた。
あまりにもリスクがでかすぎる、自分の尊厳とそして命とを天秤にかけるには、馬鹿らしすぎる試みだ。
「あと、桃様は闇落ちするとオートで衣装が露出の多いやつに変わるそうです」
「闇落ち……? 絶望して敵側についちゃうような? ……のじゃなさそうね、その口ぶりだと」
「鬱憤が貯まるとなるんだとか、結構な頻度でなってるらしいですよ」
「光側と闇側って反復横跳びみたい軽々しく行き来していいもんなの……?」
「桃様は精神的に闇寄りなので、結構些細なことで闇側に行っちゃうらしいです、でもごきげんになると戻ります」
「怒ると露出増えるとか難儀な体質してるわね……まぁいいか」
まぁ、重要なのは『闇落ちすると服装の露出度が上がる』という点だ。
そうなるとリアリストは闇落ちの末にあぁなったと推測することもできる、その上あの衣装だと強くなるのだから、着ない理由もないだろう、と思う。
ーーそこでうつつは、気づいてしまった。
「あ、あぁ……」
「う、うつつさん? どうしたんですか?」
うつつは頭を抱えて座り込んだ。
あったのはただ恐怖、その事実は、首元に死神の鎌が添えられているに等しい絶望的な事実だ。
ほんのひと押しがあれば、その事実はたやすくうつつの命を刈り取るだろう、いや刈り取るのはうつつ自身だが。
「き、気づいた、気づいてしまったんだよ……」
「気づいたって、なにを?」
きららは座り込んだうつつの顔を覗き込むようにして言った。
純粋にこちらを心配する表情。
「カルダモン、いるじゃん」
「え? うん、連れてかれちゃったから、心配だね……」
「そうね、まぁでも今それはどうでもいい」
「どうでもいいんだ……」
「それでさ……リアライフ食らって闇落ちしたとき、あいつなぜか脱いでたよね?」
「え? うん、そう……だね?」
「光のまぞくもリアライフ食らったとき、露出度高めの衣装してたよね?」
「そうですね、シャミ子様は普段から結構アレですが……」
「つまり闇落ちすると露出度上がるんだよね」
「そう……なのかな」
「つまりさぁ」
「私が絶望して闇落ちしたら、私もあぁいうのを着せられるってことよね……?」
静寂。
「……絶望することよりそっちのが嫌なの?」
きららが聞く。
最もな疑問だった。
「もし私が闇落ちしたら、なんか凄い魔法で塵一つ残さず消し去ってほしい……」
「そこまで!?」
「だってそんなことになったら、私のあられもない姿がエトワリアTVで全国放送されてお茶の間を賑わすんでしょぉ……!?」
「そ、それは否定できません……で、ですがうつつさん、闇落ちと言っても一概に露出が増えるというわけではありません! アリスさんという前例がいます!」
「ランプ、そもそも絶望させないことを考えようよ……」
マッチやランプが声をかけてくるが、うつつには聞こえていなかった。
そう、終わりである。
闇落ちした時点で、社会的に抹殺されることは確定しているのだ、そして社会的に抹殺されれば、自分は間違いなく首を括ることになるだろう。
「リアリストめぇ……なんて残虐な作戦を……!」
「リアリストのやり方が酷いのはごもっともだけど、その点はあんまり関係ないと思う……」
「きらら、私絶対絶望しないよ、そうなったら黒歴史として末代まで笑われるようになるし、そうしたら私、地獄で自殺するかも……そして来世も罪の重さで不幸になるんだ……そんなの絶対ヤダ」
「うん、前向きなのはいいことだよ、私達も、うつつを絶望させたりなんて絶対させないから」
「きらら……ありがとう、私頑張るね」
言って、うつつは駆け出していく。
次の目的地はわからない、だけど、立ち止まることだけはしたくなかったから。
足の疲れは吹き飛んでいた。
終了です。
リアリストの人たちの服装がすごいのばかりだったのと、何故か闇落ちしたカルダモンがヌイダンダモンになったので、うつつちゃんが闇落ちしても同じことが起きるのか……? と思って書きました。
サドル先生割と露出多めだからありえなくもなく思える……。
月並みな感想しか出ないけどオリキャラ中心のSS良かった!うつつが露出狂になって正気に戻ったら恥ずかしくてタヒんでしまうのでは
うつつの良さが出た良い作品でした。
服の露出度と陽キャ度を関連付けている着眼点も素晴らしいです。
しかし、こう考えると脱がずとも強いかつ陽キャなクリエメイト
(カレンとか)ってすげえいいキャラしてますね。
確かに、あのハレンチ姿は敵キャラとかでもなければそうそう着ない気がする…
そして闇側についてもまだ露出を抑えたヒナゲシやアリスは
さらにパワーアップの余地が…!?
という感じでうつつちゃんも闇堕ちしてもいきなりは脱がなそう…最初のうちは
ありがとうございます!
>>15
闇落ちした状態って大体服装に頓着しなくなるんで、戻ったときに悶る姿が目に浮かびますね、絶対死ぬって言う。
>>16
普通に考えたらあんな服自分に自信ないと着れないんですよね……メタ的に言えば作者神のいたずらなんですが。
>>17
ヒナゲシパワーアップは普通にありそう、あの子多分一番精神的にやばいし……。
遅れちゃったけど・・・
むっちゃ面白かったですwうつつちゃんそういうこと言いそう、オチフル勢のイノっちやらへもちゃんやらはすでに闇おちしていた??
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