かつてあんこは男に拉致られ陵辱の限りを受けた。
看板うさぎとしての尊厳は踏みにじられた。
だが永遠に続くと思われた陵辱劇にも終わりはあった。
賢く勇敢なあんこは男の一瞬の隙をつき無事監禁部屋から脱出し、愛するティッピーと千夜の待つ甘兎庵へと帰還したのだ。
あんこは平穏な日々を取り戻したのだ。
だが最近何かがおかしい。
少女たちのあんこを見る目が以前とどこか違う。
ティッピーも以前ほどあんこに激しく拒絶をしない。
それはシャロにも見られた。
今あんこはいつものように甘兎庵に入店したシャロを見るや否飛びかかりじゃれついていた。
以前のシャロならあんこを激しく拒絶していただろう、だが今のシャロはあんこを優しく受け止めていた。
あんこはそんな事に気づく様子もなくシャロの体を蟲のように這い回っては時折髪の毛を齧っている。
「こんにちわ。あんこの様子はどうですか?」
チノとココア。
そしてあんこが愛するティッピーが甘兎庵にやってきた。
―――・・・
あんこはティッピーの姿を確認するや否や平時からは考えられないスピードで駆け出す。
いつもならこのまま「ノオオオオオオオ」というティッピーの叫び声とともに二羽による追いかけっこが始まるのだが……今回は違った。
ティッピーは特に逃げる様子も無くあんこを受け入れた。
―――♪
あんこはそんなティッピーの変化など気にせず上にのしかかり鼻息を荒くし強くその体を抱きしめている。
あんこはそのまま大人しいティッピーに対して元気がないからボクが元気にしてあげると言わんばかりに体を擦り付け始める。
だが、あんこは気付いていない。
ティッピーもチノもココアもシャロも全員があんこを哀れむ目で見ていることに……。
「あら、みんな来てたのね」
皆があんこに優しい目を送っていると、店の置くから看板娘である千夜が顔を出した。
「ねえ見て見て。今度のフェアに合わせてあんこにも衣装を作ってみたの」
千夜は嬉々として豪華に着飾ったあんこのぬいぐるみを皆に見せて回る。
「あんこもこんなに喜んでいるわ」
「そうだね。あんこってばとっても嬉しそう……ねえ?チノちゃん。シャロちゃん」
「そ、そうね。私に飛びかかってその衣装が汚れたら困るって思ってるのかって位に気に入ってるみたいね……?」
「で、ですね」
「うふふ。ありがとう」
「そういえば――」
千夜が皆の中心にいる存在に気付き視線を向ける。
そこには人間たちの存在などお構い無しにティッピーに対し求愛を続けるあんこがいた。
「そのティッピーにじゃれついてるうさぎさんはどこの子なのかしら?」
「千夜!!」
「びっくりした。どうしたのシャロちゃん。急にそんな大声を出して」
「いい加減現実を見て。今ティッピーにしがみついてるうさぎ。こいつがあんこよ!!」
「……そうです。今ティッピーに抱きついてるのがあんこです。千夜さんが持っているそれはただの――」
「二人とも何を言ってるの?あんこはココにいるじゃない?」
「ねえ?ココアちゃん。二人とも突然どうしたのかしら?」
「……千夜ちゃん」
そう……あの日以来千夜は壊れてしまった。
ラビットハウスにあったあんこそっくりの人形をあんこと呼ぶようになり、その目からは光が消えてしまった。
日に日にそれは悪化し最近は本物のあんこのことをどこからか迷い込んだ野良うさぎと思うようになり店から追い出そうとさえしていた。
「あらあら、またこの子?困った子ねえ」
いくら説明をしても千夜はその事を理解しなかった。
いや――現実を正しく認識するのを拒んでいるのだ。
このままでは千夜は完全に壊れてしまう。
だが皆の心配を他所に千夜は“あんこ”の人形に話しかけ、あんこはティッピーに対し腰を振っていた。
「これはもうコレで賭けにでるしかないわね」
「シャロちゃんそれは?」
シャロが懐から取り出した葉っぱをココアとチノへと見せる。
「最近お店で新しく扱いだしたハーブよ」
「店長が言ってたわ……ハーブはみんなを幸せにする……って」
「……シャロさん……それって……ココアさん……帰りましょう」
「そうだねシャロちゃん。これも千夜ちゃんとあんこのためだもんね」
不安そうなチノとは対照的に二人はやる気満々であった。
「ココア、千夜を押さえて。チノちゃんはあんこをお願い」
「わかったよ」
「(本当に大丈夫なんでしょうか?)」
「きゃっ!?」
ココアは素早く店内であんこの人形を片手にくるくると回っていた千夜の背後へと回り込み、勢いもそのままに抱きつき千夜の動きを封じた。
「あんこ。動かないでくださいね」
チノもまたあんこをティッピーから引っぺがし、あんこを掴む小さな手に力をしっかり込めあんこの小さな身体をしっかりと握り締めた。
これであんこがティッピーやシャロへ飛びかかろうとしても大丈夫であろう。
「二人ともこれで正気に戻ってね」
そう言いながらシャロは二人の口へハーブを強引に押し込み、続けざまに水でそれを胃へと押し流してゆく。
「……ところであんこにも使う必要はあったのでしょうか?」
その後
「うーん。なんだか最近の記憶が無いわ」
「たしかあんこがいつもみたくカラスにさらわれたのか急にいなくなったかと思ったら急に帰ってきて……」
「そのお祝いをしていたら確か……」
「ストーップ。それ以上は考えなくていいの。あんたはいつもみたく変な新メニューの名前を考えてればいいの」
せっかくハーブで記憶が飛んだのに思い出されてはかなわないとばかりにシャロが千夜の思考を中断させる。
「千夜さん。今日は今度やるフェアでのあんこの新しい衣装を見せてくれるのでしょ?」
「私もココアさんもティッピーも早くそれを見てみたいです」
「そうそう千夜ちゃんはやくはやく」
こうしてすべては元に戻った。
だが……この一ヵ月後
「かわいいです」
「でもみんなあんこそっくりだね」
「ですね。ティッピー似が一羽もいませんね」
ティッピーはママになった。
「………」
「親父、まあ野良犬にでも噛まれたと思え」
「お前の弟たちじゃぞ」
色々あるけどごちうさ世界は今日も平和です。
俺「あんこ。6年ぶりにまた遊ぼうか(ニチャア」
これにて終わりです。
昔他所で書いていたあんこSSのその後内容という完全な自己満足SSです。
あ、リゼはラビットハウスで一人まじめに留守番してました。
ちなみに前回までのあらすじ
あんこが拉致られてここでは書けないような目にあってしまうハートフルボッコストーリー。
でも紆余曲折ありあんこは困難を乗り越え無事甘兎庵へと帰還したのであった。
ご意見・ご感想・苦情お待ちしています。
- WEB PATIO -