どうも、裏きららファンタジア的なSSを書いたアイツが舌の根も乾かぬうちに帰ってきました()
またチマチマ投稿していくので、前作を気に入ってくれた方は気が向いたら読んで頂ければ幸いです。
注意って程ではありませんがほんのちょびっとだけえちぃ描写、それからこのSS特有の絶望感があるかもしれないので、それでもよろしければゆっくりしていってね!
いつもと変わらない穏やかな日常、しかしそれらは突然に━━非情に砕かれてしまう脆い存在。
きららはランプ、僕と共に旅をし、沢山の仲間達と出会い、3人で絆を紡いだ親友、魂の友だ。時には笑い、時には怒り、時には涙し、何度も転んで傷だらけになりながら幾多の困難を乗り越え、エトワリアの危機を救った。
だけど、ある日きららに暗雲が立ち込めたんだ。クリエメイトとの絆を、パスを、彼女は断ち切られた、怨嗟の魔女によって。
彼女は絶望し、無力感を、孤独を、地獄を味わった。信じていたものが全ては間違いだったと言う罪悪感に呑まれ、絆だけじゃない、自らの存在すらもはや消滅しかけていた。でも、彼女はそこからたったひとつの希望を見出だした、クリエメイトと得たものを、クリエメイトと共に失い、だけどクリエメイトによってそれを取り戻せる、切れた絆を再び繋ぎ直す道標を、きららは自らの手で掴もうとしていた。
3人の新たな旅が今、始まろうとしていた━━
「ランプ、おいランプ!もう時間だよ、早く起きてきららのところに行くんだろ?」
僕はマッチ、神殿にずっと昔から住んでいて、女神候補生の少女ランプのお目付け役、と言うよりは保護者の役割をしている。だけどこのランプときたら、いくら言っても僕の忠告は聞かないし、いつも先生であるアルシーヴの授業をサボったり、仮病を使ったり、あらゆる手を尽くして楽をしようとしているとんでもない落第生だ。果たして本当に女神になる気があるのだろうか。
「うーんあと5分……」
━━この有り様だ。こんな時、僕は決まってこの手を使う。
「やあ、君は初めて見るクリエメイトだね?わざわざこんなところに挨拶に来てくれるなんて、こんな時間なのにまだ寝ているどこかの誰かに見習ってほしいくらいの謙虚さだ!」
「━━━!!クリエメイトの方ですか!?きゃーどうしましょう!!まだ寝巻き姿のままなのに!!」
━━ほらね、僕が起こすよりもずっと効果的な目覚ましだよ。最もいつもならこれはランプを騙す常套手段だけど、今回のは嘘じゃなくて、本当にタッチの差で行ってしまったんだけど。
「君が早く起きないから、クリエメイトは行ってしまったよ」
「どうして早く起こしてくれなかったのよ!マッチのせいでクリエメイトの方にご挨拶出来なかったじゃない!!」
「さっきまで大きな口開けてよだれ垂らして寝ていたのはどこの誰だい?…全くだらしないなぁ、ほら、ハンカチ持ってきたからまずはそのみっともない口回りをちゃんと拭く!それから顔洗って!歯を磨いて!」
アルシーヴの乱、僕達は密かにそう呼んでいる。あの事件があってから以前よりも、ランプは人間的に成長しているはずだ。はずだったんだけど、これはどうなんだろう。
「ついでにタオルとシャンプーと着替え、その他諸々も取って!シャワー浴びてこなきゃ!新しいクリエメイトの方と出会う前に御祓(みそぎ)を……きゃー楽しみ!」
「ランプ、君は女の子なんだからもう少し恥じらいを持ったらどうなんだい、君の保護者とは言えタオルから着替え、しかも下着まで全部用意させるなんて年頃の女の子がする事じゃないよ」
毎回こんなやり取りをしている、もう両手の指の数を10倍にしたって足りないくらいだ。僕はランプにやましい思いなんて持ってないし、いやそもそもランプに欲情する方が無理と言うものだ、だけど一応僕だって生物学的にはオスなんだ、少しはこう羞恥心を持ってもらわないと━━
「マッチは空飛ぶ毛玉だし別に平気だもん、これがきららさんや他の人だったら恥ずかしくて頼めないけど、マッチなら何とも思わないから!」
「……僕は召使い以下かい!?羞恥心以前の問題じゃないか!」
「もうずっと小さい頃からこうしてたんだもん、今更何も恥ずかしがる事なんてないよ、マッチなら」
━━複雑な思いだ、それは信用されてるのか、それとも男子として見られていないのか、いずれにせよこのままではランプの情操教育上宜しくない、きららの問題を解決するより先に、こっちの方が優先するべきなんだろうか……。
「やれやれ、君は昔っから甘えん坊だな。分かった、用意しといてあげるから早く準備しなよ、きららが待ってるはずだから」
「言われなくても早く済ませるもんね!あと甘えん坊は余計よ!」
そう言ってランプは着ていた服を全部脱ぎ捨てバスタオル一枚を巻いてシャワールームへと入っていった。まさか洗濯まで僕にやらせようって言うのかい……。
「…あ、これはゆのが書いた絵か、ランプの顔…良く書けてるな、可愛さ余って憎さなんとやらってとこまでそっくりだ」
渋々後片付けをしていると、ランプの部屋で乱雑に置かれている日記や書物に混じって一枚の絵を見つけた。
「大切なクリエメイトから貰ったものならもっと大切にしておきなよ…全く進歩がないな」
僕はランプの日記にその絵をしおり代わりに挟んでおいた。他の片付けはまた今度にしよう、片付けてもまた散らかしてしまうのが関の山だ。
「ふう、こんなのアルシーヴに見つかったらまた怒られるぞ?ソラ様が甘すぎるってのもひとつあると思うけど」
「私が、どうかしたか?」
「…ってうわ!?アルシーヴ、いつからそこに」
振り向くとランプの怖い先生、アルシーヴが立っていた。
「ああ、つい今しがただ。……ランプは相変わらずか」
「片付けるようには言ってるんだけどね…これじゃあアルシーヴのソラ様に対しての応対と大して変わらないかな」
「フッ、言ってくれるな、私はお前がランプにするほどソラ様に甘くはないぞ?」
(いつもソラ様のお召し物を用意しているのはどこの誰かな)
「あー、うん、次からもっとランプに厳しくするよ」
「それはそれとて、きららに会いに行くのだろう?」
「ここのところ日課になっているからね。3日前、きららの見た夢は少なからず影響があったのは聞いてるよね」
「ああ、未だクリエメイトの存在はおろか、パスさえも感じられぬようだが、触れる事は出来る様になった、そう聞いている」
アルシーヴが言う様に、きららはクリエメイトから干渉を受けられる程度には回復の兆しが見受けられていた、まだ小石程度の進歩でしかないけど、手を握ったり、身体に触れる程度のアクションはきららに伝わるようになっていた。今のランプと僕の役割はそんなきららにクリエメイト達の言葉を伝える云わばケーブルだった。━━それを良いことに一部のクリエメイトがセクハラ紛いな事をしてきららを困らせている時もあるんだけど、誰なのかは言わないでおこう。
「何度も根気よく繰り返せば、いつかはパスを感じられる様になる……ランプはそう信じているよ」
「それでよい、今成すべき事がそれしかないのであれば…な」
「そっちはどう?何か手かがりは掴めそうなのかい?」
「呪いの正体はいずれ分かる、今解読班を総動員しているところだ」
「やっぱり頼りになるよ。同時に君達を敵に回したら大変だって事はあの時痛いほどに分かったしね」
「あの時は、お前達にも迷惑を掛けたな。こんな事で罪滅ぼしになるなどとは思っていない」
アルシーヴの表情が曇った。僕は自分の軽薄さを呪いたくなった。
「…ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ、でもきららが、ランプがまた笑顔を取り戻せるなら…僕は何でもするよ」
「気にするな、私も…皆も同じ考えだ。ランプにはまた来ると伝えておいてくれ」
「うん、またねアルシーヴ」
To be continued...
読ませていただきました!
マッチ視点…というのも珍しいですね!
絆、断ち切りし者の続編待ってました!
きららに回復の兆しがあってよかったです…(嫌な予感しかしない)
>>7
たびたびありがとうございます!これからはよりグローバルにもっと沢山のキャラ視点を増やしていくのもありだと思いました!
裏きらファンとは言いつつも、きらららしさだけは失くさず行きます!ルナ・ソレイユ氏も頑張って下さいまし!
>>8
あばばば恐縮です!まだ三章までしかストーリーが無かった頃、アルシーヴ様=きららの母説やら、マッチ=ソラ様説等考案が飛び交ってたのを思いだし色々組み込んでみました!
「さて、そろそろランプが出てくる頃合いかな」
アルシーヴが帰った後、僕は支度を済ませてランプが出てくるのを待っていた。今日もきららやクリエメイトに会う約束をしていたので、いつもの事ながら彼女は張り切っていた。勉強にもこれくらい真剣に取り組んでくれたらと日頃から思っているのだけど━━
「マッチ、タオルちょうだい!」
振り向くと、一糸纏わぬランプの姿がそこにあった
「ラ……!」
僕は絶句した、あれ程注意したのに、彼女は全く恥じらいと言う言葉を知らない、と言うか、部屋が水浸しだ。
「早くしてよ!身体が冷めちゃうじゃない!」
「ランプ!!」
「全くもう……君は何回言ったら分かってくれるのかな、シャワー、前に自分で着替えとかを用意しろってあれ程言ったじゃないか」
結局あの後、ランプと取っ組み合いの喧嘩になってしまった。と言うか一方的に僕が羽交い締めにされて身体を伸ばされ、尻尾で応戦するも届かなかった、そこだけは学習しているのが妙に悔しかった。
「だって…早く行かないとまた待ち合わせに遅刻しちゃうもん、そしたらシュガーに先を越されちゃう!」
「あのなぁ…それは寝坊するランプが悪いんじゃないか」
「とにかくやなの!シュガーには負けたくないもん、きららさんを元気付けるのはわたしの役目だから」
「遅刻ばかりしてる君がそれを言っても、説得力に欠けるよ」
「はうっ…」
ランプは実に分かりやすい、何かあればすぐ顔や仕草に表れるし、そう言うとこは本当に子供だ。
「ランプ、きららは君が考えてる様な友達に優劣をつける子じゃないと思うよ。きららは君にも、シュガーにも、そしてクリエメイトにも分け隔てなくしているだろう?つまりはそう言う事さ」
「…うん、そうだよね、きららさんなら大丈夫だよね」
ここ数日、ほんの少しだけどランプにも心境の変化があった。あの事件があってからランプ自身も鍛練を以前に比べたら自主的に受ける様になったし、きららの為に何かしてあげたいと言う思いが感じ取れる。でも、それはどこか空回りしている様にも見える、保護者としてそれをしっかり支えてあげないといけない。だから僕は多少のわがままは聞いてあげる事にした。
「さあ、早く支度を済ませて行こう、皆が待ってるよ!」
「全員集まったな、七星者(しちせいじゃ)よ」
同胞の前でも、フードとマントを外さずその姿を隠してるのはあたしの上官にして、恩師でもあるケール。素顔は知っているのにこんな事をする理由が未だに分からない、よほど正体を知られる事に抵抗があるのか、決して人前ではその顔を見せようとはしない。
「ねぇ…ケール、その七星者ってダサい名前なんとかならないの?」
七星者━━、聞かなくても分かる、明らかにこれはあたし達が忌み嫌う神殿の連中、七賢者から取ったものだろう。皮肉を込めているのか、あるいはオマージュなのか、もう長い付き合いだけど、ケールの思考は未だに良く分からない。
「サフラン、今はケール様がお話をされている。口を慎みなさい」
こいつはマジョラム、かなり若作りだけど実際はとっくの昔に100を超えている大魔導師だ。ケールより一回りも二回りも、あたしに換算すれば……考えたくもない、こんなに歳を重ねるなんて。
「よくこんな纏まりに欠ける7人が集まったものだね、興味深いよ」
こっちの長身で無機質なアンドロイドみたいなのがバジル、得意なのは他人の夢や精神の中に入り込める魔法らしいけど、それは同時に肉体と精神を分離させるヤバイ魔法でもある、本人が他人や命に全く無関心なのも手伝ってあまり良い気分にはさせられた事がない。
「あぅぅ……」
この小さい子どもみたいなのはクミン。見ての通り、身体も態度も小さい、ケールいわく魔力に可能性を感じたから手中に収めたらしいけど、あたしにはとてもそうは見えないただのガキんちょだ。
「いつまで震えてんだよお前は」
こっちの血の気が多そうなのはガーリック、実際脳みそまで筋肉なんじゃないかってくらい身体も態度もデカい、それから直情的でウザい。
「ケール様、エトワリア全土にゴーレムの配置、全て完了致しましたわ。制圧は時間の問題かと」
このいけ好かない女がアニス、お嬢様だか何だか知らないけど、何かにつけて指図するムカつく奴で、あたしも心良く思っていない。自称、全てが完璧な女、胸以外は。
あともう一人、フェヌグリークって言うクソメガネがいる。ただでさえ纏まりがないあたし達の中でも、そいつは普段から召集には応じず自由気ままにやっている。ケールに次ぐ実力はあるらしいが、命令も聞かないあいつを残しておくケールもケールだ。
「大義であった、だがまだその時ではない…」
「はぁー、めんどくさ…エトワリアなんてさっさと潰しちゃえば良いじゃん?そのあとできららも七賢者も倒せば何の問題も無いでしょ?」
正直、この戦い自体に興味はなかった。ただあたしはあの時仕留め損なったクリエメイトを今度こそねじ伏せたいだけだ。
「サフラン、貴女はこの戦いのルールを分かってるのかしら?私達が一人ずつそのきららって子と戦い、勝ったものがその願いを叶える事が出来る。その盤面が揃っているのに、わざわざ壊してしまっては意味がなくなるわ」
「はいはい、分かってますよ御婆様」
「これがきららから抜き取った記憶か…、10や20って数じゃない、ものすごい量だ」
バジルの先には銀河に煌めく星々の如く、クリエメイトとの思い出が全て集まっていた。パスを感じる事はおろか、コールも出来ない上、記憶が無い今、あの召喚士にまともな力は発揮できないはずだ。
「で、こいつを餌に誘き出して勝負するって訳かよ」
ガーリックは指をポキポキと鳴らして今にも暴れだしそうな勢いだ。こいつのこう言うところが嫌いで仕方なかった。
「それだけではない、こちらで面白いものを用意した。戦を盛り上げる為のな……」
「じゃ、ついにアレも実現したんだー?ケールってば相変わらず悪趣味よねー!」
「召喚師は己の記憶、そしてクリエメイト、エトワリアの存続をかけて戦う事になるなど予想もしていないでしょう」
アニスは高飛車を絵に書いたようなその顔でほくそ笑んでいる、はっきり言って、あたしとは水と油でしかない。
「で、でもこんなひどいことするなんて……」
「じゃあ今から抜ける?そうなったら、アンタまたひとりぼっちよ、ケールに拾われた恩、忘れた訳じゃ無いわよね」
「ひっ…ごめんなさいごめんなさい!」
誰に対しても低姿勢で決して逆らわない、そんなクミンに悪態をついてみても、心に残ったわだかまりは晴れる事はなかった。
「やめなさいケール、仲間同士で争って何になると言うの?」
すぐにマジョラムが庇いに入る、それがあたしの反抗心に火を付けた。
「御婆様は罪の意識とか無いの?最年長のお婆様がこんな悪どい事に手を染めるなんて知ったら、天国の御爺様がきっと哀しむんじゃないかなー?」
「サフラン、そこまでにするのです。軽口を叩くのは実力を示してからでも良いのではなくて?」
アニスも横槍を入れて来たので、余計に腹が立ってきた。必死にそれを堪えてみせる。
「ふん、だったらさっさと始めさせて。こんな下らない戦い早く終わらせたいんだから」
「良かろう、一番手はサフラン、お前だ。3日後、召喚師の他に七賢者のシュガーと言う娘を同行させ、戦いに勝利せよ」
ケールが直々に命令を下す。
「ランプってガキはどうすんだ?あれも敵の数に数えんのかよ」
「もし、サフランが失敗したら?」
「その次は━━」
「失敗なんてある訳ないじゃんバジル、あたし一人で充分だから」
━━舐めるな、あたしはお前らより強いんだ
「それならそれで良い、我らの目的は勝利のみ……それ以外は不要だ!誰でも良い、今度こそ召喚師から力を奪い、憎き神殿の者共に復讐を果たし…我らが悲願を果たさん!」
ケールの言葉に七星者は奮い起った。あたしも同様だ
「あの人にもう一度会えるなら……老骨に鞭打って望む覚悟です」
「興味深いね、この戦いの先、ボクらに何が待っているのか」
「オレは強い奴と戦えりゃそれで良い」
「願い事……ホントに叶うのかな」
「全てはあの方の導き次第……、新たに築かれる世界はきっと素晴らしいものになるでしょう、まずはサフラン、貴女の勝利を祈ってますわ」
「白々しい応援ありがとー、アンタ達の出る幕は無いから安心して待ってなさい」
「ふふ、勝てれば…ですけどね、貴女達があらゆる手を尽くそうと、最後に笑うのはこのアニスでしてよ、ケール…貴女もいずれ、あたくしの前に膝かせて差し上げます」
またちょびっとずつ再開します、今回は敵キャラのお披露目や、断ち切られた絆についてちょっとだけ触れてみました!
オリキャラ多すぎ案件は目を瞑っていただければと思います(小声)
>>18
ありがとうございます!(土下座)本編には遠く及びませんが頑張ります!
>>19
名も無き神様ありがとうございます(土下座)
七賢者も調味料やらスパイスやらなので、色んな人に意見募って精一杯考えました!
準備に手間取っているランプを置いて、僕は先に街へ出る事にした。神殿の上空から遊覧飛行をする様に、ゆらゆらと街へ向かって降りていく。こうして一人で出掛けるのは別に初めてじゃないし、うるさいランプがいないから気楽なものだと最初は思っていた。だけど、やはり見慣れた顔が側にいないと一抹の不安を感じるのも確かだった。
「やれやれ、あとできららに謝っておかなきゃ」
今日きららと待ち合わせをしているのはライネのお店、ここはクリエメイトも働いているしきららと触れ合うにはもってこいの場所だ。まだ彼女は完全に呪いが解けた訳じゃない、それでも小さな一歩をと決めたのはきらら自身だ、一見無意味な行動でも、きっと結果が実るかもしれない、そう期待している、それは僕もランプも同じだ。
「あらマッチ、いらっしゃーい」
気さくに出迎えてくれたのはこの店のオーナー、ライネ。エトワリアにおいて、料理の腕は彼女の右に出るものはいないとされている程の実力を持っている。実際ライネの作る食事に心を掴まれ、クリエメイトのみならず、神殿の人間達も足しげく通う程だ、きららとランプ、僕も例外ではない。
「おはようライネ、って…もうお昼時か」
「今日もランプちゃんは寝坊したの?」
「いつもの事ながら、ランプには困ったものだよ。きららと遊ぶのは構わないけど、自己管理くらいはしっかりしてもらわないとね」
「保護者としては見過ごせないわね。でも、子供ってそう言うものよ?私にも覚えがあるもの」
こんな他愛ない会話を、今の今まで当たり前の様にしていた。きららがあんな状態になった今でもそれは変わらない。でも、やっぱりランプの事は考え直した方が良さそうだ、ここ数日きららに付きっきりなのは良いとして、以前にも増して自己管理、いや危機管理が出来ていない、女神候補生としては良くない、ここは━━
「ライネー、おかわりー!コウとりんにもー!」
「ち、ちょっと…カンナさん、飲み過ぎですよ!まだ昼間じゃないですか!」
「こんな姿、青葉達には見せられないなー…けど、美味い」
八神コウ、遠山りんと同席で昼間から酒を浴びるように飲んでいるのはカンナ、エトワリアでも指折りの建築家だ。里の建物は大半が彼女が設計、建築した程だ、腕は確かだけど見ての通り、良く言えば豪胆だが、悪く言えば建築以外の事は全てがずぼらでいい加減な人間だ、いつも身の回りの世話をしてくれているライネの誕生日まで「知らん」と一蹴してしまう程に。当のライネ本人はそれほど気にしてはいないが、この薄情さと言うか無神経なところはランプにも通ずるところがある。それにしても、カンナ、ライネ、コウ、りんの組み合わせってまるで……
「お待たせしました!ご注文の品を持ってきたわよ!」
慣れた手付きでメリー・ナイトメアが3人におかわりの品を持ってきた、これは……樽ジョッキに溢れんばかりの黄金色の酒が満たされている、上部には雲のように白く柔らかい泡、つまる所、ビールだ。僕も一度飲んだ事がある、苦さの中にどことなく麦の爽やかな香りがしてとても良いものなんだ、その後しばらく空を飛べなくなってしまったけど。
「おや、今日はキミが手伝いをしているんだね?」
「魔物退治も終わって暇になっちゃったから、最後の仕上げってね!」
「終わったら、ライネ殿がどーなつとやらを振る舞ってくれると聞いて、夢喰いは俄然やる気になっている様でな」
「それは良いけど…また新作のケーキの味見をしなくちゃいけないなんて…誰か助けて!はっ、そうよ!マッチやランプちゃん達も一緒にどう?」
傍らで同じ世界からやってきたエンギ・スリーピース、橘勇魚が出来上がった料理を他の席に運んでいる。エンギは以前より仕事が上達していて、3人の中では最も腕力も高いようで大皿の乗ったトレーを片手でいとも容易く、それもバランスも崩さずに持ち上げている。これなら一人辺りの提供時間は大幅に短縮される。
「ドーナツにケーキか、そうだね、後でご相伴にあずかるとしよう」
僕にはそうは見えないが、雪見小梅やヒロと言った一部の女の子は体型や体重のちょっとした変化に敏感な様で、とりわけカロリー摂取には特に気を使っている。特にこのケーキは甘くて濃厚で、甘党なら誰もが虜になる程だが、実は悪魔の様な食べ物だ。たった一個食べただけで、翌朝に影響が出てしまう人間もいる。それだけじゃない、ランプの様な人間に与えた日には、寝る前に歯も磨かず、数日後に悪魔が本性を現し、虫歯と言う名の毒で文字通り身体を蝕んでいくのだ。まあ、ランプの場合磨かないのは歯だけじゃなく腕の方もだけど。
「本当に…このお肉、食べて良いんですか!?」
「もちろんやで、吉田さんさっきキャンプに使えそうな掘り出し物見つけてくれたしな~」
「それじゃ早速、お肉焼いていくよ!」
「ご飯も追加!超特盛で!」
別の席では吉田優子、しかし皆はシャミ子と呼んでいる。それから犬山あおい、百木るん、小田切双葉が七輪を囲んで香ばしい匂いを周囲に漂わせている。これは炭火焼き肉の様だ。肉は炭で焼くと遠赤外線により中までゆっくりと火が通り、肉本来の柔らかさを損ねず、更には炭がもたらすスモーク効果によって━━━
「……美味しい、なんなんですかこのお肉は!口の中に入れた瞬間に溢れる肉汁、そして噛めば噛む程に甘い脂が……!」
シャミ子がほんのりピンク色をした肉に舌鼓を打っている、あれはそう、牛タンと呼ばれる部位だ。一頭からわずか数百グラムしか取れない貴重な牛の舌を丁寧に薄切りにし、そこに塩をほんの少し振っただけのシンプルなものなのに、その味に魅了されるものは少なくない。
「シャミ子ちゃん、これはねー牛さんの」
「これな、バフォメットのベロなんやてー」
━━あおいのいつもの嘘が炸裂した。
「バフォメット?……まさか、あのバフォメットのベロがこんなに美味しかったなんて!」
シャミ子は全く驚いていなかった、どうなっているんだこの子の思考は。
「いや、これはむしろミノタウロス系のベロだよ!あれも牛の一種だし!」
どっちにしても魔物の舌には変わらないと思うんだけど。
「私、知りませんでした…バフォメットもミノタウロスもこんなに美味しい肉になるんですね!後で桃にも食べさせてあげよう…」
「……あれ、ここ、ビックリするとこちゃうん?」
逆に驚いているのはあおいの様だった。シャミ子には真実を知らせるべきか迷ったけど、口は災いのもとだ、やめておこう。
「こんにちはー」
やって来たのは待ち合わせをしている人物、きららだった。
「きららちゃん、いらっしゃーい」
「ライネさん、マッチとランプが来てるはずなんですが」
「僕なら、ここにいるよ」
店内を見回すきららの側に寄っていった。
「マッチ!あのね、聞いてほしい事があるの!」
きららは僕を見付けるや否や、僕を両手で掴んで子供の様にはしゃいだ。
「うわっとと、今日は随分とご機嫌だね?」
ハッ、としてきららがその手を離す。照れ臭そうにしているが、口元が綻んでいるのが見てとれる。
「うん、実はね……」
きららがポケットから何かを取り出した。これは……
「メモ帳……かい?」
「これ、さっきクレアがくれたんだけど…ここ、見て!」
きららが指し示す場所には、誰か女の子が書いたような小さくて可愛らしい字と絵が添えてあった。……ランプとはえらい違いだ。
「これは……どうしたんだい?」
不思議に思って僕は尋ねる。
「ゆのさんが、書いてくれたんだよ」
「ゆの……って、きらら!君はもしかして!」
「ううん、まだ……でもね、こうして、紙を使って、少しずつだけど皆と石の疎通が出来るかもしれないってクレアが」
僕は少しだけ期待していた、でもやはり……まだ何かが足りないんだ。
「すごいじゃない!こんなやり方があったなんて!ちょっと、アタシにも貸して!」
メリーがきららの手にあるメモ帳を引っ手繰る様に持っていった。
「あっ」
「ちょっとメリー…そんな乱暴にしたら!」
「夢喰いメリー、参上!っと、はい!」
きららはメモ帳に記された文字を見て少し面食らっている。
「メリー…さん、私を悪夢から助けてくれた、あのメリーさんですか?」
「そうよ!感謝しなさい!」
「夢喰い、直接口で言っても今のきらら殿には……」
「えっと……1、2、3……」
きららはおもむろに指折り数える。
「ねえマッチ、ライネさん、今このお店に……12、3人くらいかな、クリエメイトがいるのって」
「えっ?」
「驚いたな、その通りだよ」
「やっぱり……。まだ姿とか声は聞こえないけど、空気と言うか、匂いと言うか……どこか懐かしい感じがするの、これって私の記憶の残りなのかな、そこにいる人数が何となく分かる気がするんだ!」
━━どうやら、僕はきららやランプを過小に評価していた様だった。ランプが毎日きららに付きっきりなのも、それほど無駄な事では無かったんだ。
「きららー!」
いつの間にかそのまま居た千矢が、きららに抱き付いた、そのまま押し倒されるようにして床についた。
「きゃっ!?」
それはもう、懐いた犬のように、顔中をペロペロと舐め回している。ランプが見たら大変な事になっていただろう。と言うか━━見てられない、僕は目を反らした。きららの衣服が乱れ、スカートが捲れ上がっていた。
「い、イベントスチルですよー!」
「今日はピンク」
「あ、あわわわわ」
「あそこまでストレートなスキンシップ…ちょっと羨ましいかな」
百地たまて、千石冠、一之瀬花名、十倉栄依子がその様子を見ていた。止めてあげようよ、そこは。
「お、おお、お前達ー!!公衆の面前でなんと破廉恥なー!!」
こんな時いつも決まって色井佐久が憤慨、と言うより見ているこちらが恥ずかしいから止めろと言わんばかりに声をあげる。
「だってー、やっときららがこっちに気付いてくれたんだもん!」
「や…やめてくださ…!」
ダメだ、佐久は顔を両手で隠してて使い物にならない。
「おっ待たせー!ライネさん新作の料理、天むすだよー!」
そうこうしているうちに、神崎ひでりが初めて見るものを持ってきた。一見するとおにぎりの様だけど……
「あっ、それ知ってる!おにぎりの中に天ぷらが入ってる奴だよね!」
双葉はあれだけの肉を食べておいてまだ物欲しそうにその天むすを見ている。だけど、天ぷらの香ばしい香りに僕も食欲を刺激される。きららと合流出来たし、ランプが来る前に食べてしまおうか……そんな悪魔の囁きが聞こえてくるようだ。
「ふっふーん、ただの天むすではないのですよ!何と中身は、これだ!」
何故か得意気にしているひでり、そのポケットから取り出されたのは、見覚えある細長い若緑色の━━
「あっ、それ…!」
倒れていたきららが衣服の乱れを整えつつ立ち上がった。よほど好きなんだろう、それが。
「きららさんの、一番好きなものだよね」
「何だったかなー……ほら、すりおろしてお寿司とかにも合う、こう……ツーンッてピリッて来るアレ!」
「タンターンって奴ですか?」
「ちょっと違うよ、それだとタップダンスみたい…」
「じゃあ、トントーン?」
「野菜を切るのは任せて!」
「テンテーン!」
「レベルアップしたのかな……」
惜しいな、皆あと一歩なのに。やはりツンツーンは希少だからか、あまりクリエメイト達には浸透していない様だ。
「思いだしたよ!あれは、そう…ツ」
「そうそう、チンチーンだよね!」
「…」
「……」
るんが他意なく発した言葉に、クリエメイト達がショックを受けた様に皆固まってしまった。
「ひでりもチンチーン持ってる?」
冠が更に事態を悪化させかねない発言をした。
「えっ?持ってますよ、ほらこれ、立派なツンツーン!」
ポケットから更にツンツーンを取り出して見せる、それは余裕の表れなのか、あるいは苦し紛れの一手か。
「マッチもチンチーン持ってる?」
「冠ちゃんストーップ!それ以上はまずいですよ!」
たまてが止めに入る、しかし冠の爆弾発言は止まらない。
「新鮮なチンチーン、美味しい?」
皆、一斉にひでりの方を見た。
「えっ、ちょ…ボクのせいですか!?」
「だって…ねぇ?」
今度は僕に視線が集まった。
「そもそもの発端はるんだよね!?」
「あーごめんごめん、間違えちゃった!ツンツーンだったねー」
この異常な光景を、雰囲気を、きらら一人だけが気付いていなかった。いや…多分知らない方が幸せな事もあるよね、きららはツンツーンの天ぷらが入ったおにぎりを美味しそうに食べていた、僕とひでりはバツが悪くなりしばらく隅っこで縮こまっていた。
今日もエトワリアの里は……平和だ。
ドーモ……忘れた頃にやってくるゴミ以下のゴミです()
今回もこれがやりたかっただけだろ的な小ネタを仕込みまくりました、冠ちんファンの方大変ごめんなさい(土下座)
ぼちぼち次辺りからひだまりの影の本質を見せていけたらと思います!
>>31
いつもありがとうございます!
次回から日常に暗雲が立ち込めますのでお覚悟を…!
その日、結局ランプと合流したのはお昼を過ぎてからだった。本来なら叱りつけるところだけど、アルシーヴと大事な話をしていた様だったし、ちゃんときららに謝ったから今回は不問にしておこう。
「ランプも、良かったら食べる?」
きららはさっき食べていたツンツーンの天むすをおみやげにもらっていた、それをランプに差し出す。
「…え?あのー、これってもしかして」
ランプの顔がひきつっている、きららと初めて出会った時にもらったのも、ツンツーンの入ったおにぎりだった。子供のランプには刺激が強くて大変だったのは良く覚えている。
「そ、そうだ!マッチにもあげるよ!いつもお腹空いてるよね?」
「さっき皆から色々分けて貰ったばかりだしなぁ」
「普段はうどん30玉はペロって食べちゃうのに?」
「全く失礼だな、そこまで大飯喰らいじゃないよ」
まあ、確かに10玉は行けるんだけど。
「あっ、そっか…ランプツンツーン苦手だったよね、ごめん」
「い、いえいえ!きららさんのご好意ですから有り難く頂きます!」
ランプは天むすを取ると、しばらくにらみ合いをしていた。
「ランプ、騙されたと思って食べてごらんよ?」
「い、言われなくたって…はむっ!」
ランプはその小さな口いっぱいに天むすを頬張った、ゆっくりと噛み締め、そして飲み込んだ。
「……」
「どうかな、やっぱり…辛かった?」
「……美味しいかも」
ランプはそう口にした。
「良かった!これ、ライネさんの新作なんだけど、甘いタレがツンツーンの辛味を抑えてくれるから色んな人に食べてもらえる様にって作られてるんだって」
「この味なら…わたしでも食べられますね!」
「でも、私はやっぱり生のツンツーンが一番好きかな」
きららはさっきひでりから貰ったツンツーンを臆する事なく齧りついた。ツンツーンは本来、切ったり摺ったり傷をつける事でその独特なツーンとした辛さが出てくるのだけど、きららは何かコツを知っているのか、あるいは辛さに耐性があるのか、いずれにしても中々に恐ろしい子だ。かく言う僕も、以前半分までかじってリタイアしてしまったけど……。
「それでランプ、そろそろアルシーヴと話した事、僕らにも教えてくれるかい?」
きららと僕はランプの話に耳を傾けた、きららがパスを感じられなくなってしまった事、クリエメイトの存在を忘却してしまった事、神殿の調査で分かった事、それら全てを。
「じゃあ…私に掛かった呪いは、記憶を操作するものって事…かな?」
「それだけじゃない、思い出も何もかも、クリエメイトに関する事が全部きららの中から抜き取られているみたいだね、まるで本のページを破いたみたいに」
「はい…誰の仕業かまでは分からないんですが、以前神殿にそんな魔法を使う人が居たらしくて、とても良く似ている…と先生が言ってました」
記憶の操作、改竄、そんな事が本当に出来るとしたら……思い出も絆も全て無かった事に出来る、そればかりか本来無かった事をあったかの様に書き換え、捏造する事だって出来る、恐ろしい魔法があったものだ。
「ただ、この魔法は絆をより強く持つ人にしか効力が無いそうです、きららさんが狙われたのも単に召喚士だからって訳じゃ無いみたいで……」
「絆……か、だけど妙だね」
「何故きららじゃなくて、僕やランプ、クリエメイトにその呪いを使わなかったんだろう?敵の目的は分からないけど、きらら一人に呪いをかけても、他の皆には影響が無い、時間稼ぎが目的ならもっと色々やりようはあったと思うけど」
そう、きららとクリエメイトの関係を滅茶苦茶にするのが狙いなら、むしろ一人一人に呪いをかけるべきだと僕は思った。そうすればきららは完全に孤立して、その方がより精神的なダメージも大きくなる。少なくともきららを再起不能にするのが目的なら━━
「それは、クリエメイトの皆様は実体が無い写し身だからだよ。オーダーで呼び出したものはともかく、実体が無い以上精神や記憶に作用するものは一切効かないんだって。」
「クリエメイトには効かない呪いか……でもまあ、確かに皆クリエメイトに関してまだまだ知らない事が沢山ある、敵も完全には把握できていないって事かな」
クリエメイトの事は未だ謎に包まれている部分がある、それら全てを神殿でも完全に解析は出来ていない。彼女達が一体どこから来て、どの様な物質で構築されていて、そしてどこへ還るのかも━━
「あ、アイス屋さんだ」
ランプの目線の先には移動式の小さなアイス屋台があった、ピックアップボードを見るに今期間限定の製品を販売しているようだ。
「ツンツーン味……」
そこにきららが反応した、君はどれだけあのツンツーンが好きなんだ、さっきも食べたばかりじゃないか。
「あの!きららさん、遅くなっちゃったお詫びに、わたしにご馳走させて下さい!今マッチに買いに行かせますから!」
「おいおい、またそうやって僕をコマみたいに」
「じゃあ、三人で一緒に行こう?」
「いえいえ!きららさんはここで待ってて下さい!今わたしがひとっ走りして行ってきます!」
と、言い残しランプは先に行ってしまった。せっかくきららが気にかけてくれたと言うのに……。
「はぁ…また言おうとしてた事、言えなかったな
わたしはきららさん、マッチを遠目に見てため息をついてしまった。きららさんの為に何かしてあげたいとずっと考えていても、それを実行に移そうとして空回りしてばかりだ。こんな調子でいつか愛想を尽かされたらどうしよう━━そんな悪い方向にばかり考えていても仕方ない、そう思っていればいる程、蟻地獄に嵌まった獲物の様に、ずるずると底へ底へと引き込まれていく様な気分になった。
「おや、ランプ氏じゃないか。どうした、浮かない顔をしているな?」
下を向いていたわたしに声をかけてきたのは━━
「あ…ガーネットさん、こんにちは」
この人はガーネットさんと言って、神殿の近衛隊を務めるとってもすごい人です、歳はわたしと同じなのに、背も高くて顔も綺麗で赤い髪が素敵な、皆から信頼されてて……わたしなんかと大違い
「何か悩みでもありそうな顔をしているね、嫌でなければ私に話してくれても良いんだよ」
「いえ…大した事じゃないので」
せっかく気にかけてくれたのに、わたしはぶっきらぼうな態度を取ってしまった。
「そうか…、いや、済まなかった、いらぬお節介だったね」
「…ごめんなさい」
「何故謝る?」
「話したい事を…うまく伝えられなくて、それで悩んでいたんです」
「なるほどな、気持ちは分かるよ。人には何かしら言いたい時に言えない事がひとつやふたつあるものだから、私だってそうだもの」
「ガーネットさんも、そんな時があるんですか?」
「ああ……もっとこう、自分の趣味趣向理想を他人に知ってほしい、理解して貰えたら嬉しい、だが…それは同時に自分の意見を押し付けたり自分の世界に無理やり引き込もうとしてるだけではないか、って思うのさ」
「趣味…、趣向…、わたしもクリエメイトの皆様と、もっと色んな事を分かち合いたい…!」
ガーネットさんの熱気にあてられたのか、わたしはそう口にしていた。とたんに恥ずかしくもなった。
「そうだ、全てを理解してもらうのは難しい事だよ、でもこの世界は広い!きっとどこかに自分と近しい人間が必ずいるはずだ!私に聖典の良さを教えてくれた、ランプ氏の様にな」
「わ、わたしがですか!?」
「ああ、ランプ氏が私に色々教えてくれたおかげで、これ程までにクリエメイトやその世界に興味を持てるようになった、代わり映えしないつまらない人生だとばかり思っていたが、全てが変わったよ!」
「……ガーネットさん!」
少しだけ、心のもやもやが晴れたような気がしました。ただ自分の知識を長々と喋っていただけで、何の役にも立てないと思っていたわたしでも、少しは誰かの為になっていたのかな……。
「ははっ、いつものランプ氏になったみたいじゃないか。やはり君は…いや君達は笑っている姿が一番だよ、きらら氏も、マッチ氏もね」
それから、アイスを買うのもすっかり忘れて、しばらくガーネットさんとお話をしていました。
「それじゃあ…手に入れたんですか!?あの人気サークルの聖典を…!」
「ああ、だが……悲しいかな、私もランプ氏もまだその聖典を読むには年齢制限と言う壁があるのだ…!」
ガーネットさんがわたしにとても薄い聖典、の様なものを見せてくれた、でも表紙には「R-18」と言う表記がされている。
「あぅ……これは、クリエメイトの皆様の世界では、18才になるまで閲覧を固く禁止されているものだって聞きました」
「そうだ…故にまだ18才でない我々がこの扉を開けるのは禁忌……オーダーに等しい」
「…あれ、でもならどうして入手できたんですか?読めないなら買う事も…」
もっともな疑問を投げ掛ける。
「うん…全てを白状したのだ、聖典の書き手様に、そうしたら━━」
「あっち(元の世界)では法律に触れてしまいますが、こっち(エトワリア)ならそれも関係ないですし、せっかく来てもらったのですから、OKしちゃいます」
「━━と、御快諾頂けたのでね、私もあと数年の時を得て18才になった時にこの封印を解こうと心に誓ったのだ、これはそう…リザーブと言うものだ!」
ガーネットさんが得意げに胸を張った。
「リザーブ…ですか!なんかかっこいいです!」
「ひいては、ランプ氏も一緒に……どうかな。その…一人で読むのはどうにも忍びない」
でも何だか少しもじもじしている様に見えた。
「わたしの様なものがご一緒で良いんでしょうか…!?」
「もちろんだ!君は私の心の友だからな、だが18才になってからだぞ?こればかりは例えアルシーヴ様やソラ様の命でも従う事は出来ない」
ガーネットさんの意気込みをひしひしと感じる、でも読んではいけない本を買っている最大の矛盾は……この際だから何も言わない事にしました。ガーネットさんはこの様に、とても良い人です。最初に教えたのはわたしだけど、聖典の事を今ではわたし以上に熱心に勉強していて、もう追い付かれてしまいそうな勢いです。ちょっと変わったところはあるのですが……
え?わたしの方が変わっている、ですか?
「あっ!そうでした、わたしアイスを買いに来たんだった!」
ふと我に返り、わたしは財布を取り出しました。
「おっと、それは引き留めてしまってすまない」
「いえいえ!むしろお話聞いてもらってわたしの方こそすいませんでした!」
「せっかくだ、私もきらら氏に顔を見せに行くよ」
「あ、それだったらちょっと待っててください!」
「うーんと、何が良いかな……きららさんはツンツーン味で、わたしはチョコミント味に……」
メニューとにらめっこをする、31種類もあると、さすがに目移りして時間がかかってしまいます。
「ガーネットさんには……、これが良いかな?ザクロ味!マッチは……しらす味で良いや、真っ白だし」
わたしはアイスを買い込むと、大急ぎでガーネットさんのところに戻っていきました。
「お待たせしました、さあ行きましょう!」
「アイスか…むぅ、私も何か買ってくれば良かった」
「ご心配なく!ガーネットさんの分も買ってありますから!」
肩を落とすガーネットさんにすかさずわたしはアイスの袋を翳す。
「おお!それはかたじけない、ではお代を…」
「いえ、これはわたしからのお礼ですから、遠慮せず食べて下さい!」
「そうか、では御言葉に甘えるとしよう!」
誰かに何かを奢るなんて小さな事で、わたしはちょっとだけ年上になった様な、そんな優越感を覚えました。だけど━━
「…あれ、きららさん、どこに」
戻ってみると、きららさんどころかマッチの姿も見当たりませんでした
「きららさん…!マッチ…!」
To be continued...
本当は年内にもう少し進めたかったのですが無理そうなので急ピッチでここまで書き上げました、急ぎだったので誤字脱字チェックはら割愛……来年からまた頑張ります!()
>>41
いつもこんな駄作に感想ありがとうございます、なによりのクリスマスプレゼントですよ!()
せっかくだし今夜は31アイスでも行きますか…
「ランプ…遅いな、ただアイスを買いに行っただけでこんなに時間がかかるなんて」
マッチは尻尾をびしびしと動かし、機嫌の悪い猫の様に少しイライラした様子で私の横を浮遊している。
ここ数日、マッチとランプの関係が少しギクシャクしている事に私は気付いていた、全ては私がこんな事態になっているせいだと言うのも知っていた。
だけど、それを言い出す事は出来なかった、今よりももっと関係が悪化してしまう事が私は怖かった。
「じゃあ、私達もランプのところに行ってみよう?」
今はとにかく3人で居た方が良い、私はそう思い提案した。
「やれやれ、仕方ないね」
私とマッチはランプを探しに行く事にした。
ここは歩き慣れた街、どこに何があるかはすぐに分かる。
でも今日はやけに人が多く、さっきまであったはずのアイス屋はおろか、ランプも見つからなかった。
「アイス屋……見つからないな」
マッチが辺りを見回す、商店街には露店も多く並んでいるが、そこにアイス屋は見当たらない。
「もしかして、場所を間違えちゃったのかな私達……」
「いや、そんなはずないよ。さっきランプが向かったのは間違いなくこっちだから」
マッチの言う通り、歩いてせいぜい2、3分しか掛からない距離だったのに、いつの間にかランプとはぐれてしまった。
「どうしよう、一度元の場所に戻った方が良いのかな」
「……と言ってもこれじゃあね」
そう、人混みのせいで私達もどうやら迷子になってしまった。
そんな時だった。
「おかーさーん!おかーさーん!!」
小さな子供の悲しげな叫び声が聞こえた。
「あの子も迷子になったのかな…」
「うわぁぁぁぁぁん……おかーさーん!!」
不意に、私の中で昔の記憶がフラッシュバックした。
私には生まれた時から両親が居なかった、周りの子供達には皆温かい両親が居て、皆いつだって笑顔だった。
私は村の人達が両親の代わりをしてくれたし、聖典があったから、寂しさは埋められていた。
そう思っていたはずなのに━━
「私……、本当は寂しかったんだ、ランプとマッチに出会うまでは……」
「……きらら?」
私が無意識に発した言葉に、マッチは面食らっていた。
「……え、私今、何か言ってた?」
「…いや、聞かないでおくよ」
マッチはすぐに何かを察した、ランプの事だってすぐに分かるマッチには隠し事は出来ない、やっぱりかなわないと思った。
「それはさておいて、あの子を助けてあげようか、このままじゃかわいそうだ」
「大丈夫?お母さんとはぐれたのかな?」
私はその子に目線を合わせて話しかけてみた。
「ひっく……おかあさんと買い物来てたら…居なくなっちゃったの」
涙目を擦りながらその子は言葉を返してくれた。
「それじゃあ、一緒に探してあげる」
「やれやれ、ランプを探していたらこっちが迷子になってしまうし、また別の迷子と出会ってしまったね」
私が独断で決めた事にマッチは何も異議を唱えなかった、でも私はランプの事をこの時すっかり忘れてしまっていた。
「……わぁ、ぬいぐるみがしゃべった」
迷子の男の子がマッチを見て目をキラキラと輝かせている。
マッチはいつも小さい子供に人気で、良く可愛がってもらっている。本当はランプの保護者を自称するくらいだから、本人はあまり小さいもの扱いされるのは好きじゃないみたいだけど……。
「僕はぬいぐるみじゃなくて、マッチだ。君の名前は何て言うんだい?」
「…セイ、セイの名前はセイだよ」
男の子は自分の名前をセイと名乗った、それにしても自分の事を名前で呼ぶなんて子供らしくて可愛い、と私は思った。
クリエメイトにも、確かそんな人がいた様な気がするな、いつか無くした思い出を取り戻す……私はその為に覚悟を決めたんだ。
「えっと、じゃあセイ君……で良いかな?私はきららって言うの」
「くん……?皆はいつもセイの事、セイちゃんって呼ぶよ…?」
私の問い掛けにセイ君は首をかしげている。その理由が今は分からなかった。
「まあ、小さい頃は子どもをちゃんって呼ぶのは珍しい事じゃないからね、僕もマッチちゃんなんて呼ばれた事あるよ」
「じゃあ、セイもマッチョちゃんの事マッチョちゃんって呼ぶ!きらららちゃんの事はきらららちゃん!」
「ま、マッチョ!?僕はボディビルダーじゃないんだけどなぁ…」
「あはは……私もひとつ「ら」が多いけど、まあ良いかな」
セイちゃんと打ち解けたところで私達は街中を右往左往しながらお母さんを探し回った。
あちこちの商店も聞き込みに入った、だけど情報は何一つ得られなかった。
セイちゃんは…もしかしたらこの辺りの住人ではないのかもしれない。
「もう夕暮れ時か……」
夕日を見上げるマッチの後ろ姿にはどこか哀愁が漂っていた。
「おかーさん……どこにいっちゃったんだろ」
セイちゃんはすっかり落ち込んでしまい、もうさっきの様に泣きじゃくる事もしなくなってしまった。
「大丈夫!きっと見つかるよ!だって、この街ではぐれたなら遠くには行ってないよ、だから…ね?」
私は無責任にそう言った。
大丈夫━━
そんな保証はどこにもない、
「うん……」
セイちゃんは私の袖をきゅっと掴んでいる、その手は震えている様にも見えた。
「こんな時……」
そう、こんな時にあの力が使えたら━━
「人と人との繋がりを感じる事が出来れば、迷子探しなんて簡単━━とか思っちゃってる?」
「……え?」
以前どこかで聞いたような、でも何か嫌な感じのする声がした。振り替えるとそこには━━
「いつの間に…!君は一体何者なんだい?」
警戒する様にじりじりと後ずさるマッチ、私もその異質な人物を前にして身体が硬直する様な感覚がした。
声の主は上から下まで不気味な黒いローブを纏っていて顔さえも分からない。まるで、あの時の夢に出てきた魔導師の様に━━
「アタシは、まあ強いて言うなら旅の大道芸人、みたいな?」
人を食った様なこの話し方、やっぱりあの時と一緒だ。私にまた嫌な記憶が蘇ってくる。
「それより、どうして私の考えてる事が分かるんですか?私達まだ初対面だし、私はまだ何も言ってないのに……」
「エトワリア中で噂になってるわよ?伝説の召喚士、力を失う……ってね。んで、そのチビッ子がさっきピーピー泣いてたの、アタシずぅーっと見てたから。アンタ達の一部始終を見てたらそんなの一目瞭然ってワケ」
この人は私よりももっと前にセイちゃんが迷子なのを知っていたのだろうか、それより泣いてるセイちゃんを助けもしないでずっと見てるだけだったなんて、私はこの人に強い憤りを感じた。
「どうして……どうして助けてあげなかったんですか?どうして声をかけてあげなかったんですか?」
「助ける?アタシが?なんで?どうして?」
嘲笑うように、見下すように、彼女はこう言った。
「赤の他人のガキを助ける義理なんてアタシには無いよ、それが一体何の得になるって言うの?そう言う軽率な行為をなんて言うか知ってる?欺瞞、偽善、自己満足、心酔、無責任、他の誰かを救ったってね、自分が救われるワケじゃないんだよ、アンタみたいなのがこう言う甘ったれを生み出して堕落させる原因になるって、なんで皆分かんないかなぁ?」
「おい、君は一体なんだ!いきなり現れて言いたい放題、ランプ以上に礼儀を知らない人間がいるなんて初めてだよ!」
あのマッチが私より先に、それもすごい剣幕で怒っている、ランプの事をさりげなく無作法扱いしているのはともかく、少し嬉しくもあった。
「毛玉が喋った?びっくりしたなぁ、最近はこんなおもちゃまで売ってるんだ?」
「僕はマッチだ、毛玉でもおもちゃでもない!」
「じゃあさぁ……もしアンタら、この子が孤児だったりしたら、どうすんの?」
「えっ……」
彼女の発言に私達は耳を疑った。
「どうすんのかって、聞いてんだよ。親が見つからなかったら、最後まで責任持てるの?犬や猫みたいに、元居た場所に置いてくりゃ良い、他の誰かに預けてさようなら、とか言うつもりじゃないよね?」
「そ、それは……」
反論できなかった、彼女の言う通りだった。私はそこまで深く考えた事は一度も無かった。
「中途半端に希望を持たせて、後から絶望に突き落とされた時の気持ち、アンタ達みたいに平和ボケした奴らには分かんないよねぇ」
「……そうかもしれません」
悔しかった、何も言い返せない自分が。
でもそれ以上に、誰かを助ける事に責任が生じるって事を、今までずっと目を背けていた様な、そんな感覚に陥った。
私の全てを否定された、だけど彼女の言っている事は何も間違ってはいない、もし、セイちゃんが本当に私と同じように両親がいない子供だったとしたら━━
「全く、いっぱしのガキが子供を救おうだなんて分不相応な考えを持つのがいけないんだよ、背伸びしたいお年頃って奴?」
そう言い放った彼女は、不意にセイちゃんに手を伸ばした。
「おい、何をする気だ!」
マッチがそれを制止しようとする。でも彼女の方が早かった。
「男の子でしょ、そうやっていつまでもウジウジしてんじゃないの、女の子に嫌われちゃうぞ?」
私とマッチの心配をよそに、彼女はセイちゃんの頭を撫でていた。セイちゃんも、まんざら嫌がってはいなかった。
「…もん」
「うん?よく聞こえなかった、もう一回、言ってごらん?」
「セイは…男の子じゃないもん」
その場にいた全員が硬直した。
「……え?」
私は言葉に詰まり、
「…あー、そう言う事か」
マッチはすぐに理解した、
「…マジで?」
彼女もさっきまでの辛辣な態度が嘘の様に黙ってしまった。
「セイは…女の子だもん!」
このシチュエーション、前にもどこかであった様な気がした。
「……あー、うんうん、そうだよね、最初から分かってたよもちろん」
その場を取り繕うとする彼女、もしかしたら…本当はそれほど悪い人じゃないのかな。
「さて、問題です。これは一体なんでしょう?」
話を反らそうと、彼女は手のひらをかざした、そこには何もない様に見えた。
「なんでしょうって、なにも無いじゃないか」
マッチが見たままを答える。
「ちょっと黙ってろ毛玉」
それから数秒後、手のひらに何か四角い小さなものが現れた。
「…これ、お菓子?」
セイちゃんがそれをじっと見つめる。
「それだけじゃ50点かな、何のお菓子か正解を答えられた良い子には、お姉さんから賞品をあげましょう」
……すごい、さっきまで元気の無かったセイちゃんが、今は彼女のペースにはまっている。
「ヒントはね、元気が出る魔法のお菓子だよ」
「元気が出る……お菓子」
セイちゃんはヒントを頼りに知恵を絞り考えようとしている。
「あなた達も一緒に考えてあげる事ね、これは難問だから」
私もマッチも考えてみたけど、四角いお菓子と言ってもそれなりに種類がある、当てずっぽうに答えたらセイちゃんが可哀想だ。
「セイちゃんはあれ、なんだと思う?」
私はセイちゃんに問い掛ける
「……チョコ?」
「私は……飴かな?」
二人の答えはバラバラだ、この2つに正解はあるのだろうか。
「いや、あれってキャラメルじゃない?」
「はーい正解、毛玉ちゃんにしては賢いね」
マッチが正解を答えてしまった。彼女もすごく不満そうだ。
「……え、なんで、皆そんな目で僕を見るんだい?」
「はい、正解者の毛玉ちゃんに賞品、……空気読めよ」
「お菓子……」
セイちゃんは物欲しそうな顔でマッチを見ている。
「……えーっと、良かったら、食べる?」
「いいの……?」
マッチはセイちゃんにキャラメルを渡した。
「いいよ、これは君の為に用意された様なものだから、そうだろう?」
「さーて、どうかしらね?」
彼女ははぐらかした、でもマッチはそれを見透かしている様だった。
「お化けのお姉ちゃん、マッチョちゃん、あと…きらららちゃんも、ありがと!」
お化け━━、確かにこの出で立ちはまるで布お化け……そう、魔物のカブリエルの様だった。
「お化けのお姉ちゃんって、アタシか…こんなの来てお菓子なんかやったらそりゃハロウィンの仮装パーティーと間違われるか」
彼女は決まり悪そうにしていた、その直後だった。
「セイーーー!!」
少し離れた場所から聞こえた叫び声。その声の主は、セイちゃんに良く似た女性、間違いない、この人がお母さんだ。
「おかあさん!」
「本当に……娘を保護してくれて、ありがとうございます、なんとお礼をしていいやら……」
涙混じりの目で、何度も私達に頭を下げるセイちゃんのお母さんを見て嬉しい反面、私は複雑な心境だった。
もし、私にもお母さんやお父さんがいたら、こんなふうになっていたのかな。
「いえ、お役に立てたなら良かったです」
「そちらの方も……本当に」
「気にしないで良いって、子供の世話なら慣れてるから」
彼女もお母さんに深く感謝されてまんざらでも無い様子だった。
「でも、セイちゃんだっけ?今度は迷子にならないように、お母さんの言い付けは絶対守るんだよ?」
もうすっかりお姉さんを気取っていた、このシチュエーションもどこかで……
「うん、ありがとうお化けのお姉ちゃん!」
「もう、お姉さんの名前はそんなんじゃなくて、サフラ……」
一瞬私の脳裏に焼き付いていたあの夢が蘇る。そして、今彼女が名乗った名前━━
「サ…ラ?サラお姉ちゃん、ありがとう!またね!」
セイちゃんは私達が見えなくなるまでずっと手を振り続け、お母さんと一緒に町の雑踏の中に消えていった。
「ふう…色々あったけど、あの子の保護者が見つかって良かったね。サラ…って言ったっけ?すまない、僕達は君を誤解してたみたいだ」
「んー?なんのこと?アタシは別に、あのチビッ子を助けたつもりはないよ、そもそも最初に見つけたのはあなた達だし、ちょっと背中を押してあげただけ」
こんなふうに照れ隠しをする人が、以前どこかにも居たような気がする、それもクリエメイトの人達だったかな……。
「でもま、感謝したいって言うなら、いくらでも受けてあげるわよ?強い奴が弱い奴に崇拝されるのって最高に気持ちいいからね」
「やれやれ、その口の悪ささえ無ければ、もう少し打ち解けられるのが早かったんだけどね」
確かに、この人を食った態度はあまり気分の良いものじゃなかった、でも最初よりはサラさんと分かり合えた様な気がする。
「あの、ありがとうございます」
私もサラさんに頭を下げ感謝を示した、正直あのままだったらセイちゃんの笑顔を取り戻せなかったかもしれない。
「そうね、結果的にあの子のお母さんの方からやって来たんだし、アタシは何もしてないけど、その感謝は受け取ってあげるよ」
しかし、その後すぐに私とマッチはハッと我に返り顔を見合わせて同時に叫んだ。
「ランプの事……忘れてた!!」
どうも、SSではご無沙汰してます。中々戦闘パートに到達しない事で有名じゃない裏きららファンタジアを少ない頭使って更新しました、どうか皆さんの新たなイメージが爆発するきっかけになれば幸いです!
「ごめんなさい、私達行かなくちゃ…友達と待ち合わせしてるんです!」
「それじゃあ僕達は行くよ、またね」
召喚士と空飛ぶ毛玉が会釈する。本当にバカ正直と言うか、裏表が無さすぎる奴らだ。
「ちょっと待った」
あたしは歩き出した二人を制止した。
「まだ何かあるのかい?すまないけど急いでるんだ」
「これ、やるよ。友達を待たせてるんでしょ?」
毛玉に向かって麻袋を投げてやった。中身はさっきのチビッ子にやったのと同じものだ。
「……っと、これは?ああ、キャラメルだね」
「失礼の詫びついでに、持っていきなさい」
柄にもない事をする自分が、少しだけこそばゆい気分だった。
「あ、ありがとうございます」
召喚士は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた、それにしてもこいつは本当にイジリ甲斐がある。
「次はもう迷子になるんじゃないよ」
踵を返し、街の雑踏に紛れあたしは姿を眩ました。
「……全く、何やってんだかあたしは」
もうすぐ大事な決戦が近付いているから、敵の偵察に来たつもりが、下らない人助けごっこをした自分にわずかに嫌気が差した。どうせあいつの事は後で倒さなきゃいけないのに。
それも散々自分が否定した事を実践するなんて、あたしは自分自身がどんだけひねくれてるんだと。
「随分とお優しいんですのね、サフラン」
あたしが大嫌いなその声の主、世間知らずなお嬢様風情の同胞がそこに居た。
「…覗き見なんて、中々悪趣味な真似するじゃないアニス」
「もうすぐこの街も里も戦場になるって言うのに、心暖まる善行、ご苦労様ですわ」
頭を捻り、どうやってこいつを言い負かしてやろうか必死に考える。
「余計なお世話だ、それにあれは召喚士に揺さぶりをかけてやったに過ぎない。アンタこそ、こんなとこで何やってる?この街はあたしの管轄のハズだけど?」
威圧する様に睨み付ける。でも分かっている、この女はこんな程度じゃ怯まない事は。
「偵察、と言ったところかしら?情報は多いに越した事は無いでしょう?」
得意気に笑うこいつの顔を見ているだけでムカムカしてくる。それに、偵察なんて言うのはウソだ。何か妙な事をしていったのは確かだ。
「アンタまさか、クリエメイト達に接触したりしてないわよね?」
ケールは妙なルールをあたし達に押し付けてきた、戦い以外でクリエメイトとの接触は一切禁じる……と。理由は不明だけど、少なくとも奴らにこっちの存在を気付かれる訳にはいかない、とは考えている
「そんな酔狂な真似、あたくしには到底無理ですわよ」
とぼけている様だが、こいつの言う事は何一つ信用していない。最もあたしも、他の七星者達も互いに信頼関係や絆なんてものは一切持ってないだろうが。
「それよりも、ケール様から言伝ですわ。偵察が済んだら早く戻ってくる様に…と」
ケールの差し金か……、そんなにあたしが信用ならないのか、結局七賢者と召喚士をねじ伏せ、屈服させ、力を誇示する以外にあいつを…ケールを振り向かせる方法は無しか。
「分かった、もう帰る。アンタも余計な詮索してないで、さっさと持ち場に戻る事ね」
転移魔法を使いその場から離れる、とにかく一秒でもこの女と同じ空間に居たくは無かった。
「ええ、戻りますわ、あたくしもすぐに……だってもう、始まっているんですもの、戦いは」
「はぁはぁ…!ランプ、ごめんね…!すぐ行くから!」
息を切らしながら必死に走る、知らないうちにマッチを追い抜いていた。
「待ってきらら!そっちは反対方向だよ!」
ランプの事で頭がいっぱいだった私は、マッチに言われなければ気付かなかっただろう。ハッとして立ち止まり、一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「ごめん…ありがとうマッチ」
それでもまだ、自分の心臓の鼓動が乱れているのを感じる。それは全力疾走のせいだけじゃない、ランプとの約束を破り、一人にしてしまった事への焦燥でもあった。
「落ち着いた?それじゃ、こっちの道を行こう」
マッチの方がずっと冷静で、道を正しく進んでいた、私は先走るのを止め、マッチについていく事にした。
「ランプ……まだ居てくれるかな」
マッチの後ろを歩きながら私は呟いた、それがマッチにも聞こえてしまった。
「大丈夫だよ、ランプはいい加減なところあるけど、君を置いて帰ったりはしないはずだから。それに、今日をずっと楽しみにしていたんだよ」
それを聞いてますます罪悪感に苛まれる、私はランプの純心を裏切ってしまったんだ。
「悪い事……しちゃったね、ごめん」
「やれやれ…きららが謝る事は無いよ。だけど君の落ち込んだ姿、そんなのを見たらランプはどう思うかな?」
マッチの優しさが、今は嬉しい。自分が楽になりたいだけなのかもしれないけど、もう何回落ち込んだか分からないけど、私はランプの笑顔を守りたい━━
「きららさーん!!!」
親友の声が私の耳に響いた、幻聴じゃない、本物のランプが数百メートル離れた場所にいた。
「ランプ!!!」
私は逸る気持ちを抑えられそうにない。
すぐにランプのもとに駆け寄った。
「きららさん……もう、帰っちゃったと思ってました…」
今にも泣き出しそうなランプ、それを見て私は胸が締め付けられる様な痛みを感じた。同時に、ランプの事がとても愛おしくなった。
「ごめん、ランプ」
私はランプを引き寄せ、力いっぱいに抱きしめる。その小さな身体に宿った温もりが伝わってくる。もう黄昏時とは言え、周囲に人が居るのもお構い無しに━━
「ふぇっ!?き、きき、きららさん!?」
ランプから素っ頓狂な声がした。それでも私はランプをこの腕から離したくなかった。だって、ランプはクリエメイトとの繋がりを無くした私の事を、誰よりも考えてくれたから。
「おおっ……これは、少々目に毒だが……いや、でも友情と言う言葉では足りないくらい…と、貴い!」
「しばらくこのままに……してあげたいけど、さすがにここではまずいって」
初めて気付いた、街の人達が私達に拍手喝采しているのを。最初は気にならなかったけど、今になってみるとものすごく恥ずかしい。顔から火が出そうだ。
「……ランプ、ごめん」
ゆっくりとランプを抱くその腕を緩めた。私だけじゃない、ランプもリンゴの様に真っ赤になっていた。
「……つに、嫌じゃ」
「え?」
「別に、嫌じゃないです、その……あとでもう一度」
ランプは両手の人差し指を互い違いに絡ませ、もじもじとそう言った。
「…うん、いこっか」
「…はい!きららさん!」
ランプはまた私に笑顔を見せてくれる。この天真爛漫な笑顔に、私は幾度となく救われている。
「あー、君達、盛り上がってるとこ
悪いんだけど、そう言うのは子供の情操教育上、あまり感心しないな」
マッチがとても複雑な顔をしている。
「い、いや!私は一向に構わな……ゴホン、仲睦まじいのは喜ばしい事だと思うよ、マッチ氏」
そして、何故か私達以上に紅潮しているガーネットさん。
「そ、そうだよね…人前でする事じゃなかった」
「……もぉ〜マッチのバカ、空気読んでよ」
それから私達はしばしの沈黙の後、ガーネットさんは神殿に戻ると言って1人歩いていった。私もランプを神殿に送り届けようとする。
「あの、きららさん!」
ランプが渾身の力を込めて叫んだ、その声は緊張のせいか僅かに裏返っている。
「うん、どうしたの?」
私も内心緊張しながら、ランプの答えを待っている。
「今日……きららさんの家に泊まっても、良いでしょうか!」
何か重大な発表があると身構えていたけど、ランプが私に言ったのは想像していたよりもずっと普通の事だった。
「なるほど、ガーネットが先に帰ったのはこのせいか」
マッチはそれを見透かしている様だった。
「何もない、狭い家だけど……それでも良いかな?」
ランプが家に泊まりに来るのは別に初めてではない、だけど今回は何故か特別な予感がしていた。
「その…ご迷惑で無ければなんですけど…決してやましい事考えてる訳じゃないんです!もっと先生から聞いた事、きららさんとお話する時間が欲しいと言うか、なんと言うか、神殿に帰ったら今は休止中の修行に戻らされるから、一緒にいる時間が減ってしまうのが嫌だからとか、決してサボる為の口実じゃなくて、一日も早く呪いの事を解決する為にお側に置いてほしいとか、断じてよこしまな考えは持っていません!ソラ様に誓って!」
「ランプ、本音駄々漏れだよ。本当に君は嘘が下手だね、だからすぐアルシーヴにバレて▲●♯&〜!?」
ランプは無言でマッチの口を塞いだ、いつもならここで取っ組み合いの喧嘩になるところだけど、今日はなんだかしおらしい。
「それじゃあちょうど夕飯の時間だから、私の家に招待するね。ライネさんから教わった新しいレシピを試してみようと思ってたから」
久しぶりにランプが家に泊まりに来る事になって、私は気分が弾んでいた。
「それは楽しみだね、もうあれだけ歩き回ったからお腹がペコペコだよ」
歩いてるんじゃなくて飛んでる、って言うのは野暮かな。
「あ、マッチは神殿でお留守番ね」
「ちょっと待って!?」
「だって、今日はわたし全然きららさんと一緒に居られなかったし、マッチはさっきずっときららさん独り占めしてたし、それにアルシーヴ先生に今日は帰らないって伝えて来てよ」
怒ってる、のかなランプ……。
「やれやれ、分かったよ。アルシーヴには僕からちゃんと伝えておくから、あんまりきららに迷惑かけるなよ?」
マッチは少し寂しそうな顔をしていた。子供が親離れする時って、こんな感じなのかな。
「夕飯、マッチの分も用意しておくから」
「えっ?」
「アルシーヴさんに伝えたら、早く戻ってきてね」
マッチも私にとって大切な親友、ランプだけじゃない、それがひとつでも欠けてしまうのは嫌だった。
「ランプ、マッチも来るのはダメかな?」
「あぅ……きららさんがそうしたいなら、わたしは我慢します」
「我慢って…人をおジャマ虫みたいに」
「マッチは人じゃないでしょ」
膨れっ面でぷいっとそっぽを向くランプ。やっぱり二人のやり取りは見ていて楽しい、どんなに重厚な内容の聖典よりも、私はこの二人の事が、好きなんだ。
「……きらら、新作のレシピ見せてもらっていいかい?」
小さなテーブル一面に若緑色の料理がところ狭しと並ぶ。ランプが聖典をアホみたいに愛しているのは知っていたけど、きららがツンツーンを……控えめに言ってバカみたいに好きなのは、さすがにちょっと驚いた。
「あのー…きららさん、これって全部」
ランプも面食らっている。
「うん、全部ツンツーンを使った料理だよ」
真顔でそう言うきらら、いや…これはどう見てもやっぱりおかしい。
「きらら、失礼を承知で言うけど君はツンツーンに侵食され過ぎじゃないかな」
ツンツーンがまるごと乗ったピザ、チーズの溶ける匂いが食欲をそそる……はずなんだけど、やっぱりおかしい、緑色は彩りを与えてくれるはずなのに。
「マッチ!きららさんに失礼だよ!」
ランプはそう言って自分の眼前にある料理を僕のところに回してくる。
「いや…ランプ、何の真似だい?」
「お腹空いてるんでしょ?せっかくきららさんが作ってくれた料理なんだから、冷める前に…ほれ、今ならアイスもあるよ、もう半分以上溶けちゃったけど」
「まだあったのそれ!?」
ランプが僕に寄越したアイスは普通のものじゃない、でろんでろんになっているとか、そう言うレベルのものじゃなく。
「え、なにこれ……小魚の目玉?」
「しらす味だよ、マッチにぴったりでしょ?わたしが選んだんだから」
怒ってる、ランプは明らかに今朝の事をまだ根に持ってるんだ、だから僕にこんな仕打ちを。それにしても不気味だ、しらすの目がじっとこっちを見ている様だ。
「溶けちゃったんですけど、きららさんにはこれを…」
ランプが取り出した二つのアイス、片方は青緑色に黒い斑点、もう片方は若緑色の……。
「え、まさかこれ」
「チョコミントと、ツンツーン味だよ」
また増えた、チョコミントはともかく、ツンツーン味がまた増えてしまった。逃れられないカルマ……とでも言うべきか。
「ツンツーン味のアイス!?」
きららの目が輝いている、新しいものを発見してわくわくする子供の様だ。
「溶けちゃってるので、先に食べませんか?」
本当なら茶を濁したランプを誉めるべきなんだけど、しらすアイスがそれを躊躇させる。
「うん、そうしよう!」
きららとランプはアイスを美味しそうに食べている。
「きららさん、チョコミントも一口どうですか?」
「ありがとう、じゃあこっちのアイスも」
二人はお互いにアイスを交換したり、口元についたアイスをペロリと舌で拭う仕草が少し扇情的……ってそんなバカな事を考えてる場合じゃない、ツンツーン料理も去ることながら、しらす味のアイスなんて冒険過ぎる。
「マッチは食べないの?」
ランプがニヤニヤしながらこっちを見ている。わざとだ、絶対わざとだ。
「…分かったよ!食べればいいんだろ?」
文字通り腹を決めた、その道の領域に僕は足を踏み入れてしまった。
「はむっ…!」
口に含み、咀嚼したのち、嚥下する。
「どう…?」
「……」
「……、あれ?不味く、ない……むしろ、美味い……かもしれない」
そう、このアイスは僕の想像を良い意味で裏切った。一見アイスとは不釣り合いなしらすの塩分が、適度に甘味を抑え、味に深みを与えている。まるで、みたらし団子やソルトクッキー、ジンジャーシュガーの様な……、甘辛い見事な調和だ。
「……」
「……」
二人は終始無言でこちらを見ている、それは奇異の目ではなく、むしろ何かを訴えかけている様だ。
「…もしかして、ほしいの?」
僕の問い掛けに二人は静かに頷いた。
「じゃあ…はい」
まずはきららのところにアイスを持っていこうとした。
「…あーん」
驚きの余り、持っていたアイスを落としそうになる。きららが目を閉じ、餌をねだる雛鳥の様に小さく口を開けていたのだ。気でも触れたのだろうか……。
「え?あ、あーん……」
そのままにしておく訳にもいかないので、アイスを救ってきららの口内に運ぶ。
━━って、近い、近いよこれはいくらなんでも!
「マッチ」
ドキリとして後ろに振り向く、ランプの事だ、怒ってるに違いない。
「あーん…」
━━こっちもか、君達はいつからそんな甘えん坊さんになったのさ!
「あ、あーん…」
ランプにもしらすアイスを与える。やっぱり近いよ、いつもは頭とか肩に乗ってるけど、こんなに顔が近くに感じるのはランプが今よりずっと小さかった頃以来だ。
「ど、どうだい二人とも?」
薄々気付いてはいたけど、どうも二人の様子がおかしい。まさかとは思うが、このアイスに……
「美味しい……」
「うん、とっても……」
彼女達の目が恍惚としている。
「えへへ〜……」
「なんだかとってもいい気分……」
━━まずい、これって前に里でもあった事件と同じじゃないか。
「マッチ〜……」
「尻尾、触っても良いかな……」
二人の僕に対するうっとりとした視線がすごく怖い。どうしよう、前門の虎、後門の狼、虎口を逃れて、竜穴に入る、袋のネズミ、まな板の上の鯉、四面楚歌、絶体絶命、どんな言葉を口にしようと、助かる道が見つからない。
「ちょ、ちょっと待って!二人ともどうしちゃったって言うんだよ!」
尻尾を捕まれて身動きが取れなくなっていた、それに気付いた時にはもう手遅れだった。
「マッチ、とっても温かいね……」
きららに抱き寄せられる。背中に何か柔らかいものが当たってるよ!
「ずるいですよきららさん〜、わたしも……」
ランプの身体が僕の顔を覆った、対照的に何か固くてゴリゴリするものが当たってる!
「ΩΘ&∀〜!?」
声にならない叫びを上げるも、ここは里から離れたきららの自宅、外には聞こえないし、助けなんて来るはずも無いのだった。
「あらー、新しく作った薬、間違ってアイス屋さんのところに置いてきちゃいました」
「ねぇねぇあぎりさん、それってなんの薬なの?」
「それは、十中八九自白剤の様なものですよー」
「うおのたみの提灯、スケジェルンの触手、パパリザーの鱗、ぼっくる……なんだよこれは」
「秘密のレシピですー」
〜神殿にて〜
「シュガー、こんな夜更けにアイスなんか食べて……寝る前にはちゃんと歯を磨くのです」
「ソルトも食べる?さっきガーネットがくれたんだよ」
「ガーネットが?全く、あの新米騎士も余計な事をしてくれましたね」
「はわぁ〜……」
「シュガー……?」
「ソルト〜……」
「目付きがおかしいのです」
「シュガー、ソルトといっつも喧嘩してるけど、本当はソルトの事…大好きだよ」
「!??」
「シュガーいい子になるから、シュガーの頭撫でてほしいな〜…」
「何か悪いものでも食べたのですか。……いえ、読めました。このアイスが原因ですね」
「ソルト〜」
「なっ、ちょ……これは、計算外なのです!」
「ソルトもこれ食べて〜、美味しいから〜…」
「や、止めるのです!ソルトはそんなもの食べな……〒@$Я〜!!」
「あら、床が汚れていますね…誰ですかこんなところに何かを溢したのは」
「セサミ」
「ソルト?もう寝る時間ですよ、それよりもここに溢れている━━」
「ソルトは……セサミの事を尊敬しているのです」
「はい…?それは、どうも…様子がおかしいと思ったのは気のせいでしょうか」
「いえ、むしろ尊敬以上の……ソルトの君主になってほしいのです」
「何を訳の分からない事を言ってるんですか、貴女達の君主はアルシ━━」
「久しぶりに進展に帰ってきたけど、もうこんな時間じゃ皆寝てるか」
「カルダモン」
「ああ、セサミ。そう言えばキミだけはいつもこの時間でも起きてたっけ」
「私は……アルシーヴ様の秘書として、責務を全うできているでしょつか」
「らしくないよ、何か拾い食いでもしたの?」
「私は、カルダモン…貴女の事を……」
それから一晩中、きららの家と神殿で小さな混乱が巻き起こっていたのを知る人は極僅かだった、当事者の口から語られる事は永遠に来ないだろう。
「次は自白剤ではなく、透明人間になる薬を作ってみますねー」
どうも、イメージが……爆発しました暴乃霊象威です。
その導きのままに今回はちょびっとだけ濃厚接触しちゃいました
それでは……サラダバー!
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